(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814105
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】インダクタンス素子及びLCフィルタ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20201228BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F17/06 K
H01F27/00 S
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-128372(P2017-128372)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-12760(P2019-12760A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】板谷 道隆
(72)【発明者】
【氏名】岡 利昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 公樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 亨康
(72)【発明者】
【氏名】照井 沢実
(72)【発明者】
【氏名】原沢 毅
(72)【発明者】
【氏名】内藤 篤志
(72)【発明者】
【氏名】八代 圭司
(72)【発明者】
【氏名】白石 和洋
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−234752(JP,A)
【文献】
実開昭51−059815(JP,U)
【文献】
特開2008−098307(JP,A)
【文献】
特開2017−112213(JP,A)
【文献】
特開2017−022961(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0129438(US,A1)
【文献】
中国実用新案第201498305(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H01F 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のコアと、
前記コアを覆う第1のカバー及び第2のカバーと、
前記コア、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの一領域に巻き回された第1の巻線及び第2の巻線と、を備え、
前記環状のコアにより周回される軸の延びる方向を軸方向とした場合、
前記コアは、内周面と、外周面と、前記軸方向の一端側端面と、前記軸方向の他端側端面と、を備え、
前記第1のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記一端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第2のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記他端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士は離間しており、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士は離間している、
インダクタンス素子。
【請求項2】
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士は、全面に亘って、所定の間隔を空けて離間しており、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士は、全面に亘って、所定の間隔を空けて離間している、
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス素子。
【請求項3】
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士の間隔は、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士の間隔と比較して大きい、
ことを特徴とする請求項2に記載のインダクタンス素子。
【請求項4】
前記第1の巻線と、前記第2の巻線との間には、所定の間隔がある、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインダクタンス素子。
【請求項5】
ケースをさらに備え、
前記ケースは、前記コア、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの一部を露出する開口部を有する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインダクタンス素子。
【請求項6】
ヒートシンクをさらに備え、
前記ヒートシンクは、前記第1の巻線と前記第2の巻線との間に設けられた、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインダクタンス素子。
【請求項7】
インダクタンス素子を備えるLCフィルタであって、
前記インダクタンス素子は、
環状のコアと、
前記コアを覆う第1のカバー及び第2のカバーと、
前記コア、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの一領域に巻き回された第1の巻線及び第2の巻線と、を備え、
前記環状のコアにより周回される軸の延びる方向を軸方向とした場合、
前記コアは、内周面と、外周面と、前記軸方向の一端側端面と、前記軸方向の他端側端面と、を備え、
前記第1のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記一端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第2のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記他端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士は離間しており、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士は離間している、
LCフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンス素子及びLCフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
コアと、コアの表面を覆う導体と、導体を覆う誘電体と、誘電体に被覆導線を直接巻回してなるコイルとを備えるインダクタンス素子がある。特許文献1には、このようなインダクタンス素子の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−098307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、Q値を意図して低い値に調整することが要求されている。Q値が低い場合、例えば、共振点に近い周波数のノーマルモードノイズが減じ易くなり、好ましい。
【0005】
本発明に係るインダクタンス素子は、Q値を抑えるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインダクタンス素子は、
環状のコアと、
前記コアを覆う第1のカバー及び第2のカバー(例えば、カバー2、3)と、
前記コア、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの一領域に巻き回された第1の巻線及び第2の巻線(例えば、巻線4、5)と、を備え、
前記環状のコアにより周回される軸の延びる方向を軸方向とした場合、
前記コアは、内周面と、外周面と、前記軸方向の一端側端面(例えば、1c、1dの一方)と、前記軸方向の他端側端面(例えば、1c、1dの他方)と、を備え、
前記第1のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記一端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第2のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記他端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士は離間しており、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士は離間している。
このような構成によれば、このようなインダクタンス素子を有するLCフィルタは、ノーマルモードに対する抵抗成分Rsが増加する。そのため、Q値を抑えることができる。
【0007】
また、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士は、全面に亘って、所定の間隔(例えば、間隔S1)を空けて離間しており、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士は、全面に亘って、所定の間隔(例えば、間隔S2)を空けて離間していることを特徴としてもよい。また、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士の間隔は、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士の間隔と比較して大きいことを特徴としてもよい。また、前記第1の巻線と、前記第2の巻線との間には、所定の間隔があることを特徴としてもよい。ケースをさらに備え、前記ケースは、前記コア、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの一部を露出する開口部を有することを特徴としてもよい。
また、ヒートシンクをさらに備え、前記ヒートシンクは、前記第1の巻線と前記第2の巻線との間に設けられたことを特徴としてもよい。巻線同士の間の部位は、他の部位よりも、多くの熱を発しているため、ヒートシンクは、この放熱した熱をすばやく放熱することができる。
【0008】
また、本発明に係るLCフィルタは、
インダクタンス素子を備えるLCフィルタであって、
前記インダクタンス素子は、
環状のコアと、
前記コアを覆う第1のカバー及び第2のカバーと、
前記コア、前記第1のカバー及び前記第2のカバーの一領域に巻き回された第1の巻線及び第2の巻線と、を備え、
前記環状のコアにより周回される軸の延びる方向を軸方向とした場合、
前記コアは、内周面と、外周面と、前記軸方向の一端側端面と、前記軸方向の他端側端面と、を備え、
前記第1のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記一端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第2のカバーは、前記コアの前記内周面の一部位と、前記外周面の一部位と、前記他端側端面とを覆うとともに、前記コアの前記内周面において延びる内側端面と、前記コアの前記外周面において延びる外側端面とを含み、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記内側端面同士は離間しており、
前記第1のカバー及び前記第2のカバーの前記外側端面同士は離間している。
このような構成によれば、ノーマルモードに対する抵抗成分Rsが増加する。そのため、Q値を抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るインダクタンス素子は、Q値を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係るインダクタンス素子の斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係るインダクタンス素子の断面図である。
【
図3】実施の形態1に係るインダクタンス素子の要部の分解斜視図である。
【
図4】実施の形態1に係るインダクタンス素子の要部の斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係るインダクタンス素子の要部の断面図である。
【
図6】実施の形態1に係るインダクタンス素子の一変形例の斜視図である。
【
図7】実施の形態1に係るインダクタンス素子の他の一変形例の斜視図である。
【
図8】周波数に対するインピーダンス及びインダクタンスを示すグラフである。
【
図9】周波数に対するインピーダンスを示すグラフである。
【
図10】カバーの厚さT1、T2に対する抵抗成分Rsを示すグラフである。
【
図11】厚さに対する抵抗成分Rsを示すグラフである。
【
図12】インダクタンス素子の巻線領域における損失分布を示す図である。
【
図13】インダクタンス素子の巻線間領域における損失分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、
図1〜
図2を参照して実施の形態1に係るインダクタンス素子について説明する。
図1は、実施の形態1に係るインダクタンス素子の斜視図である。
図2は、実施の形態1に係るインダクタンス素子の断面図である。
【0012】
図1及び
図2に示すように、インダクタンス素子10は、コア1と、カバー2、3と、巻線4、5とを備える。
【0013】
図3に示すように、コア1は、環状体であればよく、具体的には、略正円状、略楕円状、丸みを帯びた角部を有する長方形状、又は陸上競技のトラック状に延びる環状体であってもよい。陸上競技のトラック状は、並行してほぼ直線上に延びる2つの長辺部と、この長辺部同士を結んで半円状に曲がって延びる2つの短辺部とを備える。コア1は、内周面1aと、外周面1bと、軸方向(ここでは、Z軸方向)における端面1c、1dとを備える。当該軸方向は、軸(ここでは、Z軸)が延びる方向であり、当該軸は、コア1により周回される。コア1は、公知の多種多様なコア用材料を用いて構成することができ、例えば、フェライト材料を用いて構成することができる。
【0014】
図3及び
図4に示すように、カバー2、3は、例えば、金属材料、又、金属材料と樹脂とを複合した金属樹脂複合材料からなる。これらの金属材料は、非磁性であるとよい。また、これらの金属材料として、例えば、純Al、純Cu、純Ag、純Au又はこれらの合金が挙げられる。
【0015】
カバー2は、コア1の内周面1aの一部と、外周面1bの一部と、端面1cの全てを覆う。カバー3は、コア1の内周面1aの一部と、外周面1bの一部と、端面1dの全てを覆う。カバー2の内側端面2dは、コア1の内周面1a上において延び、カバー2の外側端面2eは、コア1の外周面1b上において延びる。カバー3の内側端面3dは、コア1の内周面1a上に延び、カバー3の外側端面3eは、コア1の外周面1b上に延びる。カバー2の内側端面2dとカバー3の内側端面3dとは、離間していればよく、例えば、全面に亘って所定の間隔S1があるとよい。カバー2の外側端面2eとカバー3の外側端面3eとは、離間していればよく、例えば、全面に亘って所定の間隔S2があるとよい。間隔S1、S2の位置はコア1の内周面1a、外周面1bの中央でなくても良く、オフセットしていてもよい。カバー2、3は、所定の厚さT2、T3をそれぞれ有するとよい。厚さT2、T3は、コア1の径と比較して小さく、インダクタンス素子10がインダクタンス素子として必要な性質を損なわないような厚さを有するとよい。厚さT2、T3は、例えば、コア1の径の0.2%以上4%以下の範囲の値である。
【0016】
巻線4、5は、電気を伝導する導線であればよく、例えば、銅線やエナメル被覆線である。巻線4は、コア1、カバー2、3の一領域に巻かれている。巻線5は、巻線4から所定の間隔を空けて、コア1、カバー2、3の別の一領域に巻かれている。言い換えると、巻線4と、巻線と5の間には、所定の間隔がある。
【0017】
(変形例1)
次に、
図6を用いて、インダクタンス素子10の変形例について説明する。この変形例は、ケースを備えるところを除いて、インダクタンス素子10と同じ構成を有する。
【0018】
図6に示すように、インダクタンス素子20は、ケース6を備える。ケース6は、電気を絶縁する材料からなる。このような材料として、例えば、樹脂が挙げられる。ケース6は、開口部6aと、突起部6bと、壁6cとを備える。ケース6は、開口部6aを除いて、コア1、カバー2、3の全てを覆っている。また、ケース6は、巻線4、5に巻かれている。開口部6aは、巻線4と巻線5との間に設けられており、巻線4と巻線5との間におけるコア1と、カバー2と、カバー3とのそれぞれの一部をインダクタンス素子20の外方へ露出させる。具体的には、開口部6aは、コア1の外周面1bの一部位と、カバー2の外周面2bの一部位と、カバー3の外周面3bの一部位とをインダクタンス素子20の外方へ露出させる。突起部6bは、カバー2の外周面2b及びカバー3の外周面3bからコア1の径方向に複数突起しており、巻線4の一部位と巻線4の他の部位とを分ける。突起部6bは、巻線5の一部位と巻線5の他の部位とを分けてもよい。壁6cは、コア1の内周面1a側において、巻線4と巻線5との間に設けられ、巻線4と巻線5とを隔てる。
【0019】
インダクタンス素子20では、開口部6aが、巻線4と巻線5との間における、コア1の外周面1bの一部位と、カバー2の外周面2bの一部位と、カバー3の外周面3bの一部位とをインダクタンス素子20の外方へ露出させるため、これらの部位は、インダクタンス素子20の他の部位よりも素早く放熱させることができる。
【0020】
ところで、ケース6と異なりコア1及びカバー2、3の全てを覆うケースを備えるところを除いて、インダクタンス素子20と同じ構成を有するインダクタンス素子(図示略)がある。このようなインダクタンス素子では、巻線4と巻線5との間における、コア1の外周面1bの一部位と、カバー2の外周面2bの一部位と、カバー3の外周面3bの一部位とは、インダクタンス素子20の他の部位よりも発熱しやすい傾向にある。そのため、インダクタンス素子20は、このようなインダクタンス素子と比較して、巻線4と巻線5との間における、コア1の外周面1bの一部位と、カバー2の外周面2bの一部位と、カバー3の外周面3bの一部位とを素早く放熱させることができる。
【0021】
(変形例2)
次に、
図7を用いて、別の変形例について説明する。この変形例は、ケースを備えるところを除いて、インダクタンス素子10と同じ構成を有する。
【0022】
図7に示すように、インダクタンス素子30は、ケース7を備える。ケース7は、ケース6(
図6参照)と、開口部7aを除いて同じ構成を備える。ケース7は、開口部7aと、突起部7bと、壁7cとを備える。開口部7aは、巻線4と巻線5との間に設けられており、巻線4と巻線5との間におけるコア1と、カバー2と、カバー3とのそれぞれの一部をインダクタンス素子20の外方へ露出させる。具体的には、開口部7aは、コア1の外周面1b、カバー2の外周面2b、端面2c、カバー3の外周面3b、及び端面3cのそれぞれの一部位をインダクタンス素子30の外方へ露出している。突起部7b、及び壁7cは、突起部6b、及び壁6cと同じ構成を有する。
【0023】
ここで、インダクタンス素子20(
図6参照)は、コア1の外周面1bの一部位と、カバー2の外周面2bの一部位と、カバー3の外周面3bの一部位とをインダクタンス素子20の外方へ露出させる。一方、インダクタンス素子30は、インダクタンス素子20において露出される部位に加えて、カバー2の端面2c、カバー3の端面3cのそれぞれの一部位を外方へ露出している。よって、すなわち、インダクタンス素子30は、インダクタンス素子20と比較して外方へ露出している面積が大きいため、インダクタンス素子20と比較して放熱性に優れる。
【0024】
また、インダクタンス素子10、20、30の少なくとも1つを用いて、LCフィルタを形成してもよい。このようなLCフィルタの一例であるLCフィルタ100(図示略)は、インダクタンス素子10、20、30の少なくとも1つと、Xコンデンサとを接続することによって、形成することができる。
【0025】
ところで、カバー2、3を含まないところを除いて、LCフィルタ100と同じ構成を有する、関連する技術のLCフィルタがある。LCフィルタ100は、関連する技術のLCフィルタと、大きく変わらないと考えられ、カバー2、3の有無は、コモンモード特性に大きな影響を与えることがないと考えられる。
【0026】
LCフィルタ100は、金属を含むカバー2、3の少なくとも1つを用いてコア1を覆う構成を備えるため、ノーマルモードにおいて漏れ磁束がインダクタンス素子10、20、30の少なくとも1つから生じる。この漏れ磁束と、カバー2、3とが、相互作用することによって、渦電流を生じさせる。カバー2の内側端面2dとカバー3の内側端面3dとが、離間していることから、渦電流が、カバー2、3の内側において相殺しないため、良好な値を有する。渦電流が、磁気抵抗を高めることによって、ノーマルモードに対する抵抗成分Rsが増加する。よって、LCフィルタ100は、良好な抵抗成分Rsを有し、Q値を抑えることができる。すなわち、LCフィルタ100は、LCフィルタ100に含まれるインダクタンス素子10、20、30に直列に抵抗器などを接続する必要なく、Q値を抑えることができる。そのため、LCフィルタ100は、インダクタンス素子10、20、30の大型化を抑制し、インダクタンス素子10、20、30の体格を維持することができる。
【0027】
なお、インダクタンス素子20、又はインダクタンス素子30は、開口部6aの近傍におけるカバー2、又は開口部7aの近傍におけるカバー3にそれぞれ接触させたヒートシンク(図示略)を備えてもよい。インダクタンス素子20、30が、このようなヒートシンクを具備する場合、インダクタンス素子20、30は、熱をカバー2、3からヒートシンクに速やかに伝えるため、さらに高い放熱性を有することができる。
【0028】
また、上記したインダクタンス素子、及びLCフィルタを用いて、車両に搭載されるインバータ装置等の各種装置を構成してもよい。さらに、このようなインバータ装置等の各種装置を用いて、車載用の空調装置を構成してもよい。
【実施例】
【0029】
次に、
図8〜
図13を参照して、インダクタンス素子20(
図6参照)の実施例について諸特性を計測した結果、又は計算した結果について説明する。
【0030】
(製造条件)
インダクタンス素子20の実施例では、コアは、透磁率4500H/mを有するフェライト材料を用いて製造した。コアは、陸上競技のトラック状に延びる環状体である。コアの外形サイズは、30mm×20mm×10mmとし、コアの断面形状は、5mm×10mmとした。巻線は、直径1.3mmの銅線を用いた。巻線は、インダクタンス素子20の実施例がコモンモードインダクタンス素子を構成するように、コアの長辺部の両側に16ターン巻き回した。カバーを構成する材料は、原則、アルミニウム合金とし、適宜、銅合金とした。カバーの厚さT1、T2は、原則、0.15mmとし、適宜、水準を設定した。カバーの内側端面同士の間隔S1は、5mmとした。カバーの外側端面同士の間隔S2は、原則、1mmとし、適宜、水準を設定した。これら設定した水準は、後述する。
【0031】
なお、比較例は、カバー2、3に相当するカバーを備えないところを除いて、インダクタンス素子10の実施例と同じ構成を有する。
【0032】
(計測方法)
まず、インダクタンス素子10の実施例及びその比較例についてコモンモード特性を計測し、その計測結果を
図8に示した。ここで、計測したコモンモード特性は、所定範囲の周波数に対するインピーダンスZと、インダクタンスLとである。
【0033】
続いて、ノーマルモードにおける抵抗成分特性を計測し、その計測結果を
図9に示した。ここで、計測したノーマルモードにおける抵抗成分Rsは、所定範囲の周波数に対するインピーダンスZを計測する。
【0034】
続いて、インダクタンス素子20の別の実施例を複数作製して、その別の実施例について、ノーマルモードにおける抵抗成分Rsを計測し、その計測結果を
図10に示した。
図10に示す計測結果についての実施例では、カバーの外側端面同士の間隔S2が、4水準とし、カバーの厚さT1、T2が、3水準t
1、t
2、t
3とした。
【0035】
続いて、インダクタンス素子20のさらに別の実施例を複数作製して、この別の実施例についてノーマルモードにおける抵抗成分Rsを計測し、その計測結果を
図11に示した。
図11に示す計測結果についての実施例では、カバーを構成する材料は、アルミニウム合金又は銅合金の2種類であり、カバーの厚さT1、T2は、12水準とした。
【0036】
最後に、計算機を用いて、カバーにおける損失分布の計算を行った。その結果を
図12、13に示した。具体的には、カバー2、3の外周面2b、3bに相当する面における巻線4、5との間の領域の損失分布を、
図12に示した。また、カバー2、3の外周面2b、3bに相当する面における巻線4に巻き回された領域の損失分布を、
図13に示した。なお、
図12に示すカバーは、
図4に示す矢印A1と同じ方向から見たものである。
図13に示すカバーは、
図4に示す矢印A2と同じ方向から見たものである。
【0037】
(計測結果及び計算結果)
図8に示すように、周波数に対するインピーダンスZと、インダクタンスLとは、実施例及び比較例ともあまり変わらなかった。そのため、カバーの有無は、LCフィルタのコモンモード特性について大きな影響を与えないと考えられる。
【0038】
図9に示すように、所定の周波数F1において、実施例が比較例と比較して格段に高いインピーダンスを有する。つまり、実施例が比較例と比較して高い抵抗成分Rsを有する。この一因として、以下の理由が考えられる。実施例に係るLCフィルタは、金属を含む2つのカバーを用いてコアを覆う構成を備える。そのため、ノーマルモードにおいて漏れ磁束がインダクタンス素子から生じる。この漏れ磁束と、2つのカバーとが、相互作用することによって、渦電流を生じさせる。2つのカバーの内側端面同士と外側端面同士とが、離間していることから、渦電流が、2つのカバーの内側において相殺しないため、良好な値を有する。渦電流が、磁気抵抗を高めることによって、ノーマルモードに対する抵抗成分Rsが増加する。これによって、LCフィルタ100は、良好な抵抗成分Rsを有し、Q値を抑えることができる。
【0039】
図10に示すように、カバーの外側端面同士の間隔S2が変化すると、抵抗成分Rsが減じる傾向にある。また、カバーの厚さT1、T2が3水準t
1、t
2、t
3と大きくなると、抵抗成分Rsが変化する。カバーの外側端面同士の間隔S2と、カバーの厚さT1、T2とを適宜変更することによって、抵抗成分Rsを任意の値に調整することができる。
【0040】
図11に示すように、カバーを構成する材料は、アルミニウム合金又は銅合金のどちらでもあっても、カバーの厚さT1、T2が大きくなると、抵抗成分Rsが一旦増大し、ピークを迎えた後、徐々に減じた。ピークの大きさはあまり変わらないが、ピークに到達した場合のカバーの厚さT1、T2は、差が生じた。これらの差異は、カバーを構成する材料の種類に起因すると考えられる。
【0041】
図12に示すように、巻線4、5との間におけるカバー2の外側端面2eと、カバー3の外側端面3eとの近傍における損失が、他の部位における損失と比較して、大きい。よって、巻線4、5との間におけるカバー2の外側端面2eと、カバー3の外側端面3eとの近傍は、集中して発熱していると考えられる。
【0042】
図13に示すように、巻線4に巻き回されており、カバー2の外側端面2eと、カバー3の外側端面3eとの近傍における損失は、他の部位における損失と比較して、小さい。よって、巻線4に巻き回された領域における、カバー2の外側端面2eと、カバー3の外側端面3eとの近傍は、集中して発熱していると考えられる。
【0043】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10、20、30 インダクタンス素子
1 コア
1a 内周面 1b 外周面
1c、1d 端面
2 カバー
2b 外周面 2c 端面
2d 内側端面 2e 外側端面
3 カバー
3b 外周面 3c 端面
3d 内側端面 3e 外側端面
4、5 巻線