(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814122
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】画素回路および固体撮像装置
(51)【国際特許分類】
H04N 5/3745 20110101AFI20201228BHJP
H03F 3/45 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
H04N5/3745
H03F3/45 210
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-197592(P2017-197592)
(22)【出願日】2017年10月11日
(65)【公開番号】特開2019-71580(P2019-71580A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2020年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】森田 翔
(72)【発明者】
【氏名】倉品 貴之
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋夫
【審査官】
工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−262785(JP,A)
【文献】
特開平11−266398(JP,A)
【文献】
特開平4−120907(JP,A)
【文献】
特開平5−215602(JP,A)
【文献】
特開平6−216666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F3/08
H03F3/45
H04N5/374−5/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力端子,第2入力端子および出力端子を有する差動増幅器と、前記差動増幅器の前記第2入力端子と前記出力端子との間に設けられ前記第2入力端子に入力される信号に応じて電荷を蓄積する積分容量部とを備え、前記積分容量部の電荷蓄積量に応じた値の信号を前記差動増幅器の前記出力端子から出力する画素回路であって、
前記差動増幅器は、
第1導電型の第1MOSトランジスタおよび第2MOSトランジスタを含み、前記第1MOSトランジスタおよび前記第2MOSトランジスタそれぞれのソースが共通ノードに接続され、前記第1MOSトランジスタのゲートが前記第1入力端子に接続され、前記第2MOSトランジスタのゲートが前記第2入力端子に接続された入力差動対と、
第2導電型の第3MOSトランジスタおよび第4MOSトランジスタを含み、前記第3MOSトランジスタおよび前記第4MOSトランジスタそれぞれのソースに第1基準電圧が入力され、前記第3MOSトランジスタのドレインが前記第1MOSトランジスタのドレインに接続され、前記第4MOSトランジスタのドレインが前記第2MOSトランジスタのドレインおよび前記出力端子に接続され、前記第3MOSトランジスタおよび前記第4MOSトランジスタそれぞれのゲートが前記第3MOSトランジスタのドレインに接続された電流ミラー対と、
第1導電型の第5MOSトランジスタを含み、前記第5MOSトランジスタのソースに第2基準電圧が入力され、前記第5MOSトランジスタのドレインが前記共通ノードに接続され、前記第5MOSトランジスタのゲートに第3基準電圧が入力される定電流源と、
を備え、
前記第1MOSトランジスタおよび前記第2MOSトランジスタそれぞれの閾値電圧が、前記画素回路に含まれる前記第5MOSトランジスタ以外の第1導電型の他のMOSトランジスタの閾値電圧より大きい、
画素回路。
【請求項2】
前記第1MOSトランジスタおよび前記第2MOSトランジスタそれぞれのゲート下のチャネル領域の不純物濃度が、前記他のMOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度より高い、
請求項1に記載の画素回路。
【請求項3】
前記第1MOSトランジスタおよび前記第2MOSトランジスタそれぞれのゲートと、前記他のMOSトランジスタのゲートとの間で、導電型または不純物濃度が互いに異なっている、
請求項1または2に記載の画素回路。
【請求項4】
前記第5MOSトランジスタの閾値電圧が前記他のMOSトランジスタの閾値電圧より大きい、
請求項1〜3の何れか1項に記載の画素回路。
【請求項5】
前記第5MOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度が前記他のMOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度より高い、
請求項4に記載の画素回路。
【請求項6】
前記第5MOSトランジスタのゲートと前記他のMOSトランジスタのゲートとの間で、導電型または不純物濃度が互いに異なっている、
請求項4または5に記載の画素回路。
【請求項7】
前記他のMOSトランジスタとして、
前記差動増幅器の出力端子から出力される信号が入力されるゲートを有しソースフォロワ回路を構成する第1導電型の第6MOSトランジスタと、
前記第6MOSトランジスタと直列的に接続された第1導電型の第7MOSトランジスタと、
を備える、
請求項1〜6の何れか1項に記載の画素回路。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の画素回路とフォトダイオードとを備え、
前記画素回路が、前記フォトダイオードから受光に応じて出力される信号を前記差動増幅器の前記第2入力端子に入力し、その受光量に応じた値の出力信号を前記差動増幅器の前記出力端子から出力する、
固体撮像装置。
【請求項9】
複数の前記フォトダイオードが第1基板上に形成され、複数の前記画素回路が第2基板上に形成されて、前記第1基板と前記第2基板とが対向配置されている、
請求項8に記載の固体撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動増幅器を備える画素回路、および、この画素回路を備える固体撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体撮像装置は、一般に、基板上に1次元状または2次元状に配列されて形成された複数のフォトダイオードと、これら複数のフォトダイオードそれぞれからの出力信号を入力して処理する画素回路とを備える。また、画素回路は、増幅器および積分容量部を含む。画素回路は、フォトダイオードから出力された信号を入力して積分容量部に電荷を蓄積し、その電荷蓄積量に応じた電圧値を増幅器の出力端子から出力する。
【0003】
画素回路において増幅器として差動増幅器(特許文献1参照)が用いられる。この場合、差動増幅器の第1入力端子に基準電圧が入力され、第2入力端子にフォトダイオードからの信号が入力される。差動増幅器では、これら2つの入力端子はイマジナリショートの関係にあることから、2つの入力端子の間の電位差は略ゼロになる。したがって、略ゼロの逆バイアス電圧でフォトダイオードを駆動することができるので、暗電流を抑制することができる。この点で、画素回路において差動増幅器を用いることが好ましい。
【0004】
固体撮像装置は、空間分解能の向上および低価格化のために、フォトダイオードの高集積化が要求されている。すなわち、基板上に形成されるフォトダイオードの個数の増加、および、画素の狭ピッチ化(各フォトダイオードの狭面積化)が要求されている。高集積化のために、固体撮像装置は、複数のフォトダイオードが形成された第1基板と、複数の画素回路が形成された第2基板と、を対向配置した構成とされる場合がある。特に、化合物半導体からなる第1基板上にフォトダイオードが形成され、一方でシリコンからなる第2基板上に画素回路が形成される場合、第1基板と第2基板とは互いに別個のものとされる。この場合、第1基板上のフォトダイオードの高集積化に併せて、第2基板上の画素回路の高集積化も要求される。すなわち、第2基板上における画素回路の狭ピッチ化(各画素回路のレイアウトの狭面積化)も要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−216666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、差動増幅器を含む画素回路の狭ピッチ化について研究を進める過程において、以下のような知見を得た。すなわち、差動増幅器の出力レンジの大きさは、差動増幅器の回路構成により制約される。出力レンジを大きくする為に、特許文献1に記載されているように差動増幅器の後段に出力バッファを設ける等、回路上の工夫をすることが考えられる。しかし、この場合には、差動増幅器を含む画素回路の回路規模が大きくなるので、画素回路の狭ピッチ化の目的に反することになる。
【0007】
また、画素回路の狭ピッチ化の為に、微細CMOSプロセスを用いて画素回路を作製することが必要になる。しかし、微細CMOSプロセスにより作製された差動増幅器は低い電源電圧により駆動されることになるので、これに応じて差動増幅器の出力レンジは小さくなってしまう。
【0008】
本発明は、このような本発明者の知見に基づいてなされたものであり、画素回路を狭ピッチ化することができるとともに差動増幅器の出力レンジの低下を抑制することができる画素回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の画素回路は、第1入力端子,第2入力端子および出力端子を有する差動増幅器と、差動増幅器の第2入力端子と出力端子との間に設けられ第2入力端子に入力される信号に応じて電荷を蓄積する積分容量部とを備え、積分容量部の電荷蓄積量に応じた値の信号を差動増幅器の出力端子から出力する画素回路である。この画素回路に含まれる差動増幅器は、(1) 第1導電型の第1MOSトランジスタおよび第2MOSトランジスタを含み、第1MOSトランジスタおよび第2MOSトランジスタそれぞれのソースが共通ノードに接続され、第1MOSトランジスタのゲートが第1入力端子に接続され、第2MOSトランジスタのゲートが第2入力端子に接続された入力差動対と、(2) 第2導電型の第3MOSトランジスタおよび第4MOSトランジスタを含み、第3MOSトランジスタおよび第4MOSトランジスタそれぞれのソースに第1基準電圧が入力され、第3MOSトランジスタのドレインが第1MOSトランジスタのドレインに接続され、第4MOSトランジスタのドレインが第2MOSトランジスタのドレインおよび出力端子に接続され、第3MOSトランジスタおよび第4MOSトランジスタそれぞれのゲートが第3MOSトランジスタのドレインに接続された電流ミラー対と、(3) 第1導電型の第5MOSトランジスタを含み、第5MOSトランジスタのソースに第2基準電圧が入力され、第5MOSトランジスタのドレインが共通ノードに接続され、第5MOSトランジスタのゲートに第3基準電圧が入力される定電流源と、を備える。そして、第1MOSトランジスタおよび第2MOSトランジスタそれぞれの閾値電圧は、画素回路に含まれる第5MOSトランジスタ以外の第1導電型の他のMOSトランジスタの閾値電圧より大きい。
【0010】
なお、第1導電型および第2導電型のうち一方はN型であり、他方はP型である。第1基準電位および第2基準電位のうち一方は電源電位Vddであり、他方は接地電位である。第3基準電位は、第5MOSトランジスタを定電流源として用いるために第5MOSトランジスタのゲートに印加される電位である。
【0011】
本発明では、第1MOSトランジスタおよび第2MOSトランジスタそれぞれのゲート下のチャネル領域の不純物濃度が、他のMOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度より高いのが好適である。また、第1MOSトランジスタおよび第2MOSトランジスタそれぞれのゲートと、他のMOSトランジスタのゲートとの間で、導電型または不純物濃度が互いに異なっているのも好適である。
【0012】
本発明では、第5MOSトランジスタの閾値電圧が他のMOSトランジスタの閾値電圧より大きくてもよい。この場合、第5MOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度が他のMOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度より高いのが好適である。また、第5MOSトランジスタのゲートと他のMOSトランジスタのゲートとの間で、導電型または不純物濃度が互いに異なっているのも好適である。
【0013】
本発明の画素回路は、他のMOSトランジスタとして、差動増幅器の出力端子から出力される信号が入力されるゲートを有しソースフォロワ回路を構成する第1導電型の第6MOSトランジスタと、第6MOSトランジスタと直列的に接続された第1導電型の第7MOSトランジスタと、を備える構成であってもよい。
【0014】
本発明の固体撮像装置は、上記の本発明の画素回路とフォトダイオードとを備え、画素回路が、フォトダイオードから受光に応じて出力される信号を差動増幅器の第2入力端子に入力し、その受光量に応じた値の出力信号を差動増幅器の出力端子から出力する。複数のフォトダイオードが第1基板上に形成され、複数の画素回路が第2基板上に形成されて、第1基板と第2基板とが対向配置されているのが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、画素回路を狭ピッチ化することができるとともに、差動増幅器の出力レンジの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、固体撮像装置1の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、固体撮像装置1の構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、フォトダイオード11およびCTIA50の基本構成を示す回路図である。
【
図4】
図4は、画素回路21の詳細構成を示す回路図である。
【
図6】
図6は、シミュレーションにおいて用いた回路の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、シミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図1は、固体撮像装置1の構成を示す斜視図である。
図2は、固体撮像装置1の構成を示す断面図である。固体撮像装置1は、パッケージ30の上に第2基板20が配置され、その第2基板20の上に第1基板10が配置された構成を有する。第1基板10には複数のフォトダイオード11が2次元状に配列されて形成されている。フォトダイオード11は、化合物半導体から構成されるものであってよく、例えばInGaAsから構成されるものであってもよい。第2基板20には複数の画素回路21が2次元状に配列されて形成されている。画素回路21はシリコンから構成されるものであってよい。
【0019】
フォトダイオード11と画素回路21のCTIA50(後述)とは一対一に対応している。すなわち、CTIA50は画素毎に設けられている。第1基板10と第2基板20とは対向配置されており、対応するフォトダイオード11と画素回路21とはバンプ41により互いに電気的に接続されている。このバンプ41を介して、各フォトダイオード11は、基準電圧を与えられるとともに、入射光量に応じて発生した電荷を画素回路21へ出力する。第2基板20上に形成された電極22とパッケージ30上に形成された電極32とは、ボンディングワイヤ42により互いに電気的に接続されている。このボンディングワイヤ42を介して、各画素回路21は、基準電圧および制御信号を与えられるとともに、フォトダイオード11からの電荷を入力して画素毎に処理した結果を出力する。
【0020】
図3は、フォトダイオード11およびCTIA50の基本構成を示す回路図である。CTIA50は、差動増幅器51、積分容量部52およびリセット用のスイッチ53を備える。差動増幅器51は、非反転入力端子(第1入力端子)、反転入力端子(第2入力端子)および出力端子を有する。積分容量部52およびスイッチ53は、互いに並列的に接続されて、差動増幅器51の反転入力端子と出力端子との間に設けられている。フォトダイオード11のアノードは、差動増幅器51の反転入力端子に電気的に接続されている。フォトダイオード11のカソードおよび差動増幅器51の非反転入力端子にはinp電圧が入力される。差動増幅器51の反転入力端子と非反転入力端子とはイマジナリショートの関係にあることから、これら2つの入力端子の間の電位差は略ゼロになる。したがって、フォトダイオード11は略ゼロの逆バイアス電圧で駆動されるので、暗電流を抑制することができる。
【0021】
差動増幅器51、積分容量部52およびスイッチ53は、容量性帰還トランスインピーダンス増幅器(CTIA: Capacitive Trans-Impedance Amplifier)を構成している。スイッチ53がオン状態であるとき、積分容量部52は放電され、差動増幅器51の出力端子から出力される電圧値は初期値となる。スイッチ53がオフ状態であるとき、フォトダイオード11から出力された信号に応じて積分容量部52に電荷が蓄積されていき、その蓄積されている電荷の量に応じた電圧値が差動増幅器51の出力端子から出力される。なお、スイッチ53はMOSトランジスタにより構成することができる。
【0022】
図4は、画素回路21の詳細構成を示す回路図である。この図に示される画素回路21は、差動増幅器51、積分容量部52およびスイッチ53を含むCTIA50の他に、サンプリング用のスイッチとしてのPMOSトランジスタ54、サンプルホールド用の容量部55、ソースフォロワ回路を構成するNMOSトランジスタ56、および、出力選択用のスイッチとしてのNMOSトランジスタ57を備える。なお、この図には差動増幅器51の回路構成が示されているが、それについては後に
図5を用いて説明する。
【0023】
PMOSトランジスタ54のソースは差動増幅器51の出力端子に接続されている。PMOSトランジスタ54のドレインは容量部55の一端に接続されている。容量部55の他端は基準電位(接地電位)とされている。PMOSトランジスタ54は、ゲートに入力されるsample信号により、ソースとドレインとの間のオン/オフ動作が制御される。PMOSトランジスタ54がオン状態からオフ状態に転じると、その直前に差動増幅器51の出力端子から出力されていた電圧値が容量部55により保持される。
【0024】
NMOSトランジスタ56とNMOSトランジスタ57とは、基準電位入力端とvideo線との間で直列的に接続されている。NMOSトランジスタ56のドレインは基準電位(電源電位Vdd)とされている。NMOSトランジスタ56のソースはNMOSトランジスタ57のドレインと接続されている。NMOSトランジスタ57のソースはvideo線に接続されている。NMOSトランジスタ56は、容量部55により保持されている電圧値をゲートに入力して、その電圧値に応じた抵抗値をドレインとソースとの間に有する。NMOSトランジスタ57は、ゲートに入力されるshift信号により、ソースとドレインとの間のオン/オフ動作が制御される。NMOSトランジスタ57がオン状態となると、容量部55により保持されている電圧値に応じた信号がvideo線へ出力される。
【0025】
画素回路21は画素毎に設けられている。複数の画素回路21が共通のvideo線により信号処理回路と接続されている。共通のvideo線に接続された複数の画素回路21それぞれのNMOSトランジスタ57は順次にオン状態となる。信号処理回路は、共通のvideo線に接続された複数の画素回路21のうちNMOSトランジスタ57がオン状態である何れかの画素回路21から出力される信号を選択的に入力し、その入力した信号を処理する。
【0026】
図5は、差動増幅器51の回路図である。差動増幅器51は、非反転入力端子(第1入力端子)61、反転入力端子(第2入力端子)62および出力端子63を有する。差動増幅器51は、NMOSトランジスタ(第1MOSトランジスタ)71およびNMOSトランジスタ(第2MOSトランジスタ)72を含む入力差動対66、PMOSトランジスタ(第3MOSトランジスタ)73およびPMOSトランジスタ(第4MOSトランジスタ)74を含む電流ミラー対67、ならびに、NMOSトランジスタ(第5MOSトランジスタ)75を含む定電流源68、を備える。
【0027】
NMOSトランジスタ71およびNMOSトランジスタ72は互いに同じ構成を有する。NMOSトランジスタ71,72それぞれのソースは、共通ノード64に接続されている。NMOSトランジスタ71のゲートは、非反転入力端子61に接続されている。NMOSトランジスタ72のゲートは、反転入力端子62に接続されている。
【0028】
PMOSトランジスタ73およびPMOSトランジスタ74は互いに同じ構成を有する。PMOSトランジスタ73,74それぞれのソースに、第1基準電圧(電源電位Vdd)が入力される。PMOSトランジスタ73のドレインは、NMOSトランジスタ71のドレインに接続されている。PMOSトランジスタ74のドレインは、NMOSトランジスタ72のドレインおよび出力端子63に接続されている。PMOSトランジスタ73,74それぞれのゲートは、PMOSトランジスタ73のドレインに接続されている。
【0029】
NMOSトランジスタ75のソースに第2基準電圧(接地電位)が入力される。NMOSトランジスタ75のドレインは共通ノード64に接続されている。NMOSトランジスタ75のゲートに第3基準電圧(バイアス電圧vb1)が入力される。
【0030】
このような回路構成を有する画素回路21において、NMOSトランジスタ71,72それぞれの閾値電圧は、画素回路21に含まれるNMOSトランジスタ75以外の他のNMOSトランジスタ(具体的には、NMOSトランジスタ(第6MOSトランジスタ)56およびNMOSトランジスタ(第7MOSトランジスタ)57)の閾値電圧より大きい。このようにすることにより、微細CMOSプロセスの採用により電源電圧が低くなったとしても、差動増幅器51の出力レンジの低下を抑制することができる。また、差動増幅器51の回路規模(トランジスタ数)は変わらないので、この差動増幅器51を含む画素回路21を狭ピッチ化する上でも好適である。
【0031】
次に、NMOSトランジスタ71,72それぞれの閾値電圧を他のNMOSトランジスタの閾値電圧より大きくすることにより、差動増幅器51の出力レンジの低下を抑制することができる理由について、以下に説明する。
【0032】
NMOSトランジスタの各種パラメータ等を次のとおりとする。共通ノード64の電圧値をp1とする。非反転入力端子61の入力電圧値をinpとする。閾値電圧をV
thとする。ゲート幅をWとする。ゲート長をLとする。ドレイン電流をI
dとする。キャリア移動度をμとする。ゲート下の絶縁層の単位面積当たりの容量値をC
oxとする。ゲートの仕事関数をΦ
Gとする。半導体の仕事関数をΦ
Sとする。半導体の誘電率をε
sとする。電荷素量をqとする。ゲート下のチャネル領域の不純物濃度をN
Aとする。また、フェルミポテンシャルをφ
Pとする。これらのパラメータの間には下記(1)式および(2)式の関係がある。
【0035】
差動増幅器51の出力端子63から出力される電圧値は、非反転入力端子61の入力電圧値inpから共通ノード64の電圧値p1までの範囲に制約される。したがって、NMOSトランジスタ71,72それぞれの閾値電圧V
thを大きくすれば、共通ノード64の電圧値p1を小さくすることができるので、差動増幅器51の出力レンジを大きくすることができる。
【0036】
閾値電圧V
thを大きくするには、チャネル領域の不純物濃度N
Aを高くすればよい。すなわち、閾値電圧V
thを大きくしたいNMOSトランジスタのゲート下のチャネル領域の不純物濃度N
Aを、他のNMOSトランジスタより高くすればよい。
【0037】
或いは、閾値電圧V
thを大きくしたいNMOSトランジスタのゲートと、他のNMOSトランジスタのゲートとの間で、導電型または不純物濃度を互いに異ならせてもよい。すなわち、上記(2)式中のゲートの仕事関数Φ
Gと半導体の仕事関数Φ
Sとの差(Φ
G−Φ
S)は、ゲートの導電型および不純物濃度に依存する。この差(Φ
G−Φ
S)を大きくすることで、閾値電圧V
thを大きくすることができる。なお、一般にゲートの材料としてポリシリコンが用いられる。
【0038】
NMOSトランジスタの場合、ポリシリコンからなるゲートをN型よりP型とすることで、閾値電圧V
thを大きくすることができる。NMOSトランジスタのゲートがN型である場合、不純物濃度を小さくすることで閾値電圧V
thを大きくすることができる。NMOSトランジスタのゲートがP型である場合、不純物濃度を大きくすることで閾値電圧V
thを大きくすることができる。一方、PMOSトランジスタの場合、ポリシリコンからなるゲートをP型よりN型とすることで、閾値電圧V
thを大きくすることができる。PMOSトランジスタのゲートがN型である場合、不純物濃度を大きくすることで閾値電圧V
thを大きくすることができる。PMOSトランジスタのゲートがP型である場合、不純物濃度を小さくすることで閾値電圧V
thを大きくすることができる。
【0039】
或いは、閾値電圧V
thを大きくしたいNMOSトランジスタのゲート下の絶縁層の単位面積当たりの容量値C
oxを小さくしてもよい。具体的には、閾値電圧V
thを大きくするには、ゲート下の絶縁層として比誘電率の小さい材料を用いてもよいし、絶縁層を厚くしてもよい。
【0040】
また、NMOSトランジスタ75の閾値電圧がNMOSトランジスタ56,57の閾値電圧より大きくてもよい。NMOSトランジスタ71,72,75それぞれの閾値電圧は同程度であってもよい。NMOSトランジスタ75を流れる電流Iは、NMOSトランジスタ75のゲートとソースとの間の電圧V
gsすなわちバイアス電圧vb1等を用いて、下記(3)式で表される。この式から分かるように、他のパラメータの値が同じであれば、NMOSトランジスタ75の閾値電圧V
thが大きいと電流Iは減少する。しかし、バイアス電圧vb1をも大きくして差(V
gs−V
th)が変わらないようにすれば、電流Iも変わらないようにすることができる。すなわち、NMOSトランジスタ75の閾値電圧V
thを大きくする場合には、バイアス電圧vb1をも大きくすれば、差動増幅器51の出力レンジの低下を抑制することができる。なお、バイアス電圧vb1の大きさは回路設計により任意に設定することができる。NMOSトランジスタ75の閾値電圧を大きくするための具体的方法は前述したとおりである。
【0042】
次に、シミュレーション結果について説明する。
図6は、シミュレーションにおいて用いた回路の構成を示す図である。この図に示されるシミュレーション回路は、
図3に示された回路においてフォトダイオード11に替えて定電流源11Aを用いたものである。すなわち、この定電流源11Aは、時間的に一定の量の電荷を発生するフォトダイオードを模したものである。
【0043】
図7は、シミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションに際しては2つのケースA,Bを想定した。ケースAでは、NMOSトランジスタ71,72,75,56,57それぞれの閾値電圧を0.65Vとした。ケースBでは、NMOSトランジスタ71,72それぞれの閾値電圧を1.00Vとし、NMOSトランジスタ75,56,57それぞれの閾値電圧を0.65Vとした。非反転入力端子の入力電圧値inpを2.7Vとした。定電流源11Aの出力電流値を3nAとした。スイッチ53のオン期間を30μsとした。積分容量部52の容量値を30pFとした。
【0044】
NMOSトランジスタ71,72の閾値電圧が他のNMOSトランジスタの閾値電圧と同じケースAでは、差動増幅器51の出力端子から出力される電圧値は2.7Vから1.75Vまでであった。NMOSトランジスタ71,72の閾値電圧が他のNMOSトランジスタの閾値電圧より大きいケースBでは、差動増幅器51の出力端子から出力される電圧値は2.7Vから1.4Vまでであった。ケースAと比べてケースBでは出力レンジが大きくなることが確認された。ケースAとケースBとの間の出力レンジの差は、閾値電圧の差と同じ0.35Vであった。
【0045】
以上の実施形態では第1導電型をN型とし第2導電型をP型として説明したが、逆に第1導電型をP型とし第2導電型をN型としてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…固体撮像装置、10…第1基板、11…フォトダイオード、20…第2基板、21…画素回路、22…電極、30…パッケージ、32…電極、41…バンプ、42…ボンディングワイヤ、50…CTIA、51…差動増幅器、52…積分容量部、53…スイッチ、54…PMOSトランジスタ、55…容量部、56…NMOSトランジスタ(第6MOSトランジスタ)、57…NMOSトランジスタ(第7MOSトランジスタ)、61…非反転入力端子(第1入力端子)、62…反転入力端子(第2入力端子)、63…出力端子、64…共通ノード、66…入力差動対、67…電流ミラー対、68…定電流源、71…NMOSトランジスタ(第1MOSトランジスタ)、72…NMOSトランジスタ(第2MOSトランジスタ)、73…PMOSトランジスタ(第3MOSトランジスタ)、74…PMOSトランジスタ(第4MOSトランジスタ)、75…NMOSトランジスタ(第5MOSトランジスタ)。