特許第6814162号(P6814162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6814162結腸に治療剤を送達するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814162
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】結腸に治療剤を送達するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/58 20060101AFI20201228BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20201228BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 31/606 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 31/635 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   A61K31/58
   A61P1/04
   A61K9/06
   A61K47/34
   A61K47/24
   A61K31/606
   A61K31/635
   A61K31/573
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-558481(P2017-558481)
(86)(22)【出願日】2016年5月4日
(65)【公表番号】特表2018-515511(P2018-515511A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】US2016030682
(87)【国際公開番号】WO2016179227
(87)【国際公開日】20161110
【審査請求日】2019年4月25日
(31)【優先権主張番号】62/156,682
(32)【優先日】2015年5月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】シンハ,シダールタ ランジート
(72)【発明者】
【氏名】ラジャダス,ジャヤクマール
(72)【発明者】
【氏名】ハブテツィオン,アイーダ
(72)【発明者】
【氏名】パムナニ,ラビンダー ディー.
【審査官】 梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−543873(JP,A)
【文献】 特表2013−544795(JP,A)
【文献】 PLOS ONE, 2013, Vol.8, No.8,e71037
【文献】 Drug Dev. Ind. Pharm.,2001, Vol.27, No.4, pp.351-357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/58
A61K 9/06
A61K 31/573
A61K 31/606
A61K 31/635
A61K 47/24
A61K 47/34
A61P 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックからなるポリマー混合物又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックからなる非イオン性ブロックコポリマー;
(b)リン脂質、又はリン脂質混合物;
(c)コルチコステロイド;及び
(d)水;
を含む、浣腸組成物であって、
前記の非イオン性ブロックコポリマー又はポリマー混合物の濃度が200〜400g/Lであり;
前記のリン脂質又はリン脂質混合物の濃度が0.04〜4g/Lであり;
前記コルチコステロイドの濃度が0.05〜5g/Lであり;
体積の残りが水を含み、そして、
その結果、前記成分(a)〜(d)を含むゲルが、32〜38℃のゲル転移温度を示す、前記浣腸組成物。
【請求項2】
(a)ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックとからなるポリマー混合物又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックからなる非イオン性ブロックコポリマー;
(b)リン脂質、又はリン脂質混合物;
(c)メサラジン、スルファサラジン、オルサラジン、及びバルサラジドから選択されるサリチル酸誘導体;及び
(d)水;
を含む、浣腸組成物であって、
前記の非イオン性ブロックコポリマー又はポリマー混合物の濃度が、100〜300g/Lであり;
前記のリン脂質又はリン脂質混合物の濃度が4〜40g/Lであり;
前記サリチル酸誘導体の濃度が50〜100g/Lであり;
体積の残りが水を含み、そして、
その結果、成分(a)〜(d)を含むゲルが、ゲル転移温度32〜38℃を示す、前記浣腸組成物。
【請求項3】
前記ブロックコポリマー及びポリマー混合物の少なくとも1つが、約4,000g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約70%のポリオキシエチレン含有量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのトリブロックコポリマーである、請求項1又は2に記載の浣腸組成物。
【請求項4】
前記ブロックコポリマー及びポリマー混合物の少なくとも1つが、約1,800g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約80%のポリオキシエチレン含有量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのトリブロックコポリマーである、請求項1又は2に記載の浣腸組成物。
【請求項5】
250〜350g/Lの前記ブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の浣腸組成物。
【請求項6】
150〜250g/Lの前記ブロックコポリマーを含む、請求項2に記載の浣腸組成物。
【請求項7】
前記のリン脂質又はリン脂質混合物が、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及び1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)のいずれか一方又は両方である、請求項1又は2に記載の浣腸組成物。
【請求項8】
前記コルチコステロイドが、ブデソニド、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、及びプレドニゾンから選択される、請求項1に記載の浣腸組成物。
【請求項9】
前記コルチコステロイドがブデソニド及びヒドロコルチゾンから選択される、請求項8に記載の浣腸組成物。
【請求項10】
前記コルチコステロイドがブデソニドである、請求項9に記載の浣腸組成物。
【請求項11】
(a)約4,000g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約70%のポリオキシエチレン含有量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの250〜350g/Lのトリブロックコポリマー;
(b)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及び1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)の0.1〜1g/Lの1:1混合物;
(c)0.05〜0.2g/Lのブデソニド;及び
(d)残りの水;
からなる、請求項10に記載の浣腸組成物。
【請求項12】
前記サリチル酸誘導体がメサラジンである、請求項2に記載の浣腸組成物。
【請求項13】
(a)約4,000g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約70%のポリオキシエチレン含量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの150〜250g/Lのトリブロックコポリマー;
(b)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)と1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)との5〜20g/Lの1:1混合物;
(c)60〜80g/Lのメサラジン;及び
(d)残りの水;
からなる、請求項12に記載の浣腸組成物。
【請求項14】
総体積が60mL〜100mLである、請求項11又は13に記載の浣腸組成物。
【請求項15】
前記浣腸組成物が組成物の前記ゲル転移温度より低い温度で投与される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の浣腸組成物。
【請求項16】
前記浣腸組成物が、投与される際に30℃未満である、請求項15に記載の浣腸組成物。
【発明の詳細な説明】
【連邦政府による資金提供を受けた研究】
【0001】
本発明は、国立衛生研究所から与えられた契約(DK007056)に基づく政府の支援によりなされたものである。政府は本発明についての一定の権利を有する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、コルチコステロイド又はサリチル酸誘導体を含有する浣腸組成物に関する。この組成物は、室温では液体であるが、体温ではゲルに変わる。これらは、炎症性腸疾患の治療に有用である。
【背景技術】
【0003】
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、慢性の難治性の疾患であり、この疾患は、遺伝的に病気に罹りやすい個人における腸内細菌に対する過剰な免疫応答のせいであると考えられている。約150万人のアメリカ人が、クローン病(CD:Crohn’s Disease)又は潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)のいずれかの炎症性腸疾患(IBD)を患っており、その罹患率は世界的に増加している。どちらの疾患も生涯にわたっており、そして、誘発及びその後の維持療法を必要とする疾患を再発する。IBDの患者は、しばしば、出血性の下痢や腹痛のような多くの衰弱症状を呈し、(特に制御できない疾患を伴う)結腸直腸癌のリスクが高くなる。
【0004】
全身性及び結腸粘膜に直接適用される局所性療法が存在する。抗TNF剤、免疫調節剤、及びステロイドなどの現在の全身療法は、効果的であるが、感染及び悪性腫瘍のリスク増加を含む多くの既知及び潜在的な副作用を有する。直腸内に送達される局所療法は、全身性薬物と比較した場合に有効性及び副作用が少ないことを考慮すると、第一選択療法として推奨される。局所療法は、急性炎症の治療及び多くの患者の寛解の維持に有効である。実際、66%のUC患者及び14%のCD患者が、それぞれ、遠位結腸及び直腸のみに病気を有するので、IBD患者の約半数が局所療法単独で有益である可能性がある。
【0005】
局所療法の主流は浣腸である。その利点にもかかわらず、活動性遠位大腸炎を有する患者(最も有益であろう患者)は、しばしば、緊急性/突発性のため、並びに推奨される投与及び時間枠(1日1回又は2回、1〜3時間保持)の間に液体溶液を保持することが緊急性/突発性に関連してできなくなるせいで、浣腸を許容することができない。治療剤の担体として、液体の浣腸は、炎症が存在し得る結腸のすべての領域に到達させるのに有効である。しかし、液状浣腸剤は、液体が存在すると直ちに排便するとの緊急の刺激があるため、患者が時間の経過とともに保持させることが最も困難となる。治療薬が担体としての浣腸液から消化管の粘膜壁に拡散する時間を最大限にするためには、流体の保持が重要である。必要な時間は、一般的に数時間であるが、液体浣腸中に腸から排泄させたいという刺激は通常直ぐ(5〜10分)である。局所療法のための浣腸の代替としては、フォーム又は坐薬製剤が挙げられる。これらの選択肢は、維持を容易にする傾向にあるが、浣腸によって近づくことができる左結腸の近位領域には到達することができないという著しい欠点を有する。局所療法の有効性にもかかわらず、既存の選択肢に関連する不便さ及び不快感のせいで、付着させることは非常に低いままである。IBD患者の現在の治療法は、特に有益ではあるが、改善(特に、近位結腸に関係する大腸炎用浣腸と同様に効果的であるが、より耐容性があり、低い全身性の副作用を維持する局所療法)の重要な余地が残っている。
【発明の概要】
【0006】
第一の観点において、本発明は、
(a)ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックからなるポリマー混合物又は非イオン性ブロックコポリマー;
(b)リン脂質、又はリン脂質の混合物;
(c)コルチコステロイド;及び
(d)水;
を含む、浣腸組成物であって、
非イオン性ブロックコポリマー又はポリマー混合物の濃度が200〜400g/Lであり;
リン脂質又はリン脂質混合物の濃度が0.04〜4g/Lであり;
コルチコステロイドの濃度が0.05〜5g/Lであり(ここで、上記全濃度は、全組成物に対する濃度である);
体積の残りが水を含み、そして、
その結果、成分(a)〜(d)を含むゲルが、32〜38℃のゲル転移温度を示す、前記浣腸組成物に関する。
【0007】
第二の観点において、本発明は
(a)ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックとからなるポリマー混合物又は非イオン性ブロックコポリマー;
(b)リン脂質、又はリン脂質混合物;
(c)サリチル酸誘導体;及び
(d)水;
を含む、浣腸組成物であって、
前記非イオン性ブロックコポリマー又はポリマー混合物の濃度が、前記組成物の100〜300g/Lであり;
前記リン脂質又はリン脂質混合物の濃度が4〜40g/Lであり;
前記サリチル酸誘導体の濃度が50〜100g/Lであり;
体積の残りが水を含み、そして、
その結果、成分(a)〜(d)を含むゲルが、32〜38℃のゲル転移温度を示す、前記浣腸組成物に関する。
【0008】
別の観点では、本発明は、前記の浣腸組成物を投与することを含む、炎症性腸疾患を治療する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【0009】
液体浣腸の保持と座薬及び泡の制限に関する既知の問題を考慮して、我々は、液体浣腸の利点(より近位の送達)を有するが、液体に関連する保持の問題がない熱感受性の浣腸組成物を開発した。簡潔に言えば、これは、室温(23℃)に近い低い温度で液体であり、そして、次に、体温(37℃)に近い温度で粘性ゲルに移行する組成物によって達成される。前記組成物の1つの成分は、親水性ポリエチレングリコールと疎水性ポリプロピレングリコールとのブロックからなる非イオン性界面活性剤コポリマーである。温度が上昇すると、コポリマーはミセルを形成し、より高温では、ポリマーゲルマトリックスを形成する。
【0010】
いくつかの実施態様における上記の浣腸組成物は、約4,000g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約70%のポリオキシエチレン含有量を有するか、又は約1,800g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約80%のポリオキシエチレン含有量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのトリブロックコポリマーを含む。そのようなPEO/PPOブロックコポリマーの市販品の例は、下記のとおりである。
【0011】
【表1】
【0012】
市販の材料は、適切な酸化防止剤をさらに含有することができる。上記の表は、http://www.newdruginfo.com/pharmacopeia/usp28/v28230/usp28nf23s0_m66210.htmから入手したものである。コポリマーは複合混合物であるので、それらは、「約」xの平均分子量、又は「約」yg/molの分子量、又は「約」70%のPEG含有量を有するものとして通常記載される。当業者は、高い正確さは全く実用的ではなく、この文脈で「約」という用語の使用は明確であることを認識している。数値を割り当てる必要がある場合には、ほとんどの当業者は、平均分子量又は分子量に関して±40%、モノマー含有量のパーセンテージに関して±5%を(上記の数字に基づいて)おそらく問題なく受け入れるであろう。ポロキサマー407は、平均分子量が約12.5KDaであり、そしてPEO/PPO比が約2:1であるトリブロック(PEO−PPO−PEO)コポリマーである(Bohorquezら、J Colloid Interface Sci 1999;216:34−40)。
【0013】
最も好都合な実施態様(すなわち、冷凍を必要としない実施形態)では、転移温度の実用的な下限は約25℃であり、他の転移温度としては、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃又は36℃が可能である。最適には、組成物は37℃付近で粘性ゲルに移行する。ゲル形成の転移温度は、それを決定するために使用される測定システムにある程度依存すると考えられる。回転がゲル形成を妨害する場合には回転試験は明らかに転移温度を上昇させる可能性があるので、振動測定(例えば、HAAKE RheoStress 6000、Thermo Fisher Scientific)は、回転方法よりもわずかに低い温度及び鋭い曲線となる。本発明者らは、研究のために平行プレートレオメーターを使用したが、請求項を目的とするゲル転移で規定される温度は、振動測定によって、決定することができる。ゾル−ゲル転移温度は、1ラジアン/秒で振動測定を行い、温度を2℃/分で上昇させることによって決定する。ゾル−ゲル転移温度は、貯蔵弾性率(G’)を温度の関数としてプロットすることによって決定される。本発明の目的のために、貯蔵弾性率と温度との曲線の傾きを1Hzで測定し摂氏1度につき5kPaを超える温度として、ゲル転移温度を定義するであろう。
【0014】
いくつかの実施態様において、浣腸組成物は、100〜400g/Lのコポリマーを含む。他の実施態様において、浣腸組成物は、100〜300g/Lのコポリマーを含む。他の実施態様では、浣腸組成物は、200〜400g/L、150〜250g/L、250〜350g/L、100〜200g/L、200〜300g/L、300〜400g/L、100〜150g/L、150〜200g/L、200〜250g/L、250〜300g/L、300〜350g/L、又は350〜400g/Lである。
【0015】
いくつかの実施態様において、リン脂質又はリン脂質の混合物は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC:dipalmitoylphosphatidylcholine)及び1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC:1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphocholine)のいずれか一方又は両方である。好ましいリン脂質は、グリセロリン脂質(例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルセリン及びホスホイノシチド)である。ホスファチジルコリンが、特に好ましい。
【0016】
いくつかの実施態様において、コルチコステロイドは、ブデソニド、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、及びプレドニゾンから選択される。いくつかにおいて、コルチコステロイドはブデソニド及びヒドロコルチゾンから選択される。下記の実施例では、コルチコステロイドは、ブデソニドである。
【0017】
一実施態様では、浣腸組成物は30℃未満で投与される。別の実施態様では、浣腸組成物は25℃未満で投与される。
【0018】
極めて特定の実施態様では、浣腸組成物は、実質的に、
(a)約4,000g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約70%のポリオキシエチレン含有量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの250〜350g/Lのトリブロックコポリマー;
(b)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)と1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)との0.1〜1g/Lの1:1混合物;
(c)0.05〜0.2g/Lのブデソニド;及び
(d)残りの水;
からなる。
いくつかの実施態様において、サリチル酸誘導体は、メサラジン、スルファサラジン、オルサラジン、及びバルサラジドから選択される。メサラジンが好ましい。メサラジン(INN、BAN)は、メサラミン(USAN)又は5−アミノサリチル酸(5−ASA)としても知られている。
【0019】
極めて特定の実施態様では、浣腸組成物は、実質的に
(a)約4,000g/molのポリオキシプロピレン分子量及び約70%のポリオキシエチレン含量を有する、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの150〜250g/Lのトリブロックコポリマー;
(b)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)と1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)との5〜20g/Lの1:1混合物;
(c)60〜80g/Lのメサラジン;及び
(d)残りの水;
からなる。
【0020】
本発明の組成物はゲルであるので、その組成物は、噴射剤(例えば、炭化水素ガス)を含まず、そして、発泡体に必要であるが、ゲルには不必要な成分を含まない。本願明細書において記載されている組成物は、通常、発泡安定剤及び発泡剤(例えば、ナトリウムラウリル硫酸エステル、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヤシ油、カラギナン、ステアリン酸モノエタノールアミン、トラガカントゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、CMCナトリウム、ポリビニルグリコール、グリセロール、ソルビトール、硬化ヒマシ油、ポリソルベート20、コカミドプロピルベタイン、及びカプリル酸/カプリン酸グリセリド)を含まない。他の療法と比較して、より高い快適性及びより大きな体積を収容する性能が、投与スケジュールをより少なくするために更に提供されてもよい。
【0021】
結腸内に保持される浣腸組成物の能力を試験するために、3%メチレンブルーを本明細書に記載の製剤に加え、そして浣腸がC57BL/6マウスに投与された。メチレンブルーを含有する本発明の組成物は、従来の液体浣腸溶液中におけるメチレンブルーより明らかに良好に保持されていた。
【0022】
ブデソニド(budesonide)[ブデソニド、ポリマー(polymer)、脂質(lipid)については「BPL」と称する]を有する組成物は、本発明に従って調製した。
含有量:
10mgのブデソニド(0.1mg/mL)、30gのポロキサマー(Poloxamer)407(30%溶液)、20mgのDSPC(0.2mg/mL)及び20mgのDPPC(0.2mg/mL)。
方法:
DPPC(1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)(20mg)及びブデソニド(10mg)を、丸底フラスコ中に5mLのエタノールを溶解した。溶媒をロータリーエバポレーターで蒸発させて、フラスコの内面に薄膜を形成させた。フィルムを水(20mL)に懸濁して、30分間超音波処理してリポソーム溶液を得た。これにポロキサマー30gを添加し、4℃の水で100mLまで体積を調製した。これを30分間攪拌し、遠心分離によってトラップした気泡を除去し、均質な溶液が得られるまで撹拌を続けた。ブデソニドを十分な溶液に溶解して0.1mg/mLの濃度を得た。
【0023】
また、メサラジン(mesalazine)[メサラジン、ポリマー、脂質について「MPL」と称する]を有する組成物も調製した。
方法:
リン脂質1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)(50mg)、(CordenPharma)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)(50mg)、(Corden Pharma)及びメサラジン(667mg)(AK Scientific)を丸底フラスコ中の30mLのエタノールに溶解した。エタノールをロータリーエバポレーターで蒸発させて、フラスコの内面に薄膜を形成した。フィルムを水(3.5mL)に懸濁し、30分間超音波処理して均質なリポソーム溶液を得た。次に5mLの水中に2gのポロキサマーを含む溶液を4℃でリポソームに添加した。混合物を30分間撹拌し、トラップした気泡をHeraeus Labofuge−400遠心分離機で600×gでの遠心分離によって除去した。水(〜1mL)を4℃で添加して、最終体積を10mLとし、67mg/mLの濃度を得た。均質な溶液(メサラジン−ポロクサマー−脂質、MPL)が得られるまで、撹拌を4℃で続けた。最終溶液は、メサラジン(67mg/mL)、リン脂質(10mg/mL)、及びポロキサマー(20%w/v)を水中に含有していた。
【0024】
リン脂質1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)(50mg)、(CordenPharma)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)(50mg)、(CordenPharma)、及びメサラジン(667mg)(AK Scientific)を丸底フラスコ中のエタノール30mLに溶解した。エタノールをロータリーエバポレーターで蒸発させて、フラスコの内面に薄膜を形成した。フィルムを水(3.5mL)に懸濁し、30分間超音波処理して均質なリポソーム溶液を得た。次に、5mLの水中に2gのポロキサマーを含む溶液を4℃でリポソームに添加した。混合物を30分間撹拌し、トラップした気泡をHeraeus Labofuge−400遠心分離機で600×gでの遠心分離によって除去した。水(〜1mL)を4℃で添加して最終体積を10mLとし、67mg/mLの濃度を得た。均質な溶液(メサラジン−ポロクサマー−脂質、MPL)が得られるまで、撹拌を4℃で続けた。最終溶液はメサラジン(67mg/mL)、リン脂質(10mg/mL)及びポロキサマー(20%w/v)を水中に含有していた。
【0025】
また、総体積60mL中の6.6%メサラジンを有する別のメサラジン組成物も調製した。
方法:
10gのポロキサマー407(0.79mmol)を60℃でそのまま溶融し、0.3gのDSPC(0.77mmol)を添加し、続いて0.3gのDPPC(0.4mmol)を添加した。混合物を撹拌し、4gの5−アミノサリチル酸(26.12mmol)を添加した。混合物を機械的に約1時間撹拌し、次いで4℃に冷却した。60mLの脱イオン水を加え、混合物を4℃で一晩撹拌した。得られた液体は、32〜33℃の転移温度を示した。
【0026】
前述の製剤は、同じ総質量の製剤(メサラジンについては4g、ブデソニドについては6mg)で100mLの総体積に拡張することができる。もちろん、濃度は100mLの溶液中ではより低いが、依然として有効である。メサラジンについては、濃度は40mg/mLであり、ブデソニドについては0.06mg/mLである。
【0027】
本発明者らは、C57BL/6マウスにおいて、確立された大腸炎モデル、硫酸デキストランナトリウム(DSS)(経口投与)モデルにおいてBPLの動物研究を行った。DSSを飲料水に加え、0日目から開始して毎日与えた。マウスは、4日目及び6日目に浣腸処置を行った。体重は、大腸炎モデルにおける治療反応を決定するために最も一般的に使用される測定基準の1つである。BPLグループは、元の体重と比較して体重減少が少ないことからも分かるように、水及びポリマーコントロールに対して改善を示し、更にブデソニド液(BL)を超える改善を示した。これらの結果は、合計50匹のマウスにおける2つのさらなる実験において再現された。体重に加えて、全てのマウスにおける処置後の結腸の長さも測定した。BPLで治療したマウスは、他の治療群及びコントロール群と比較して、(良好に形成された便ペレットを伴う)より長い結腸を有していた。取り出されたマウス結腸の切片の組織病理学は、他の群と比較して、BPLマウスにおける白血球浸潤の減少及びより保存された上皮構造を示した。
【0028】
次に、標準液体処理浣腸(BL)と比較してBPLの保持動力学及び近位分布を確立するための実験を行った。BPLを有する浣腸がBLと同様の近位分布を有することを確認するために、健康なマウスとDSS誘発大腸炎マウスとの両方に対して、バリウムコントラストを有する標準化された浣腸を行った。次いで、マウスを、所定の間隔(0.5,1.5及び3時間)でコンピュータ断層撮影法で画像化して、浣腸によって到達される最大の逆行距離を評価した。BPLは、健康なマウス及び大腸炎のマウスの両方において、BLよりも実際に良好な逆行分布を有することが示された。さらに、BPL対BLの可能性のある粘膜付着性を決定するために、我々は、同じ所定の間隔で保持される浣腸体積を評価するために3−Dイメージングソフトウェアを利用した。また、測定された全ての時点で保持された浣腸体積は、健常マウス及び大腸炎のマウスの両方においてBLよりもBPLが実質的に大きかった。
【0029】
BPLによる実験と同様に、MPL製剤は、元の体重と比較して体重の減少が少ないことからも分かるように、水及びポリマーコントロールに対して改善を示し、更にメサラジン液体(ML)を超える改善を示した。これらの結果は、合計33匹のマウスを用いたさらなる実験において再現された。MPLで処置したマウスは、他の処置及びコントロール群と比較して、より長い結腸を有していた。外植されたマウス結腸の切片の組織病理は、他の群と比較して、MPLマウスにおいてより健康な粘膜を示した。
【0030】
大腸炎を治療する際の治療の頑健性(robustness)をさらに試験するために、別の一般的に使用されるIBD大腸炎モデル−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)誘発急性大腸炎モデルもBalb/cマウスにおいて、本明細書に記載の組成物を試験するために使用した。我々は、BPL対BL及び水コントロールを試験した。また、BPL群は、TNBS浣腸を受けて、次に一回の治療又は水浣腸を受けた後において、他の2つの群よりも早く体重を回復した。この実験は矛盾の無い結果で繰り返された。
【0031】
上記で特に言及した成分に加えて、本発明の製剤は、医薬ゲルの分野において従来使用されている他の薬剤を含むことができることを理解すべきである。
【0032】
本明細書において、用語「治療(treatment)」、「治療すること(treating)」、「緩和する(palliating)」、又は「改善する(ameliorating)」は、治療効果及び/又は予防効果に限定されないものを含む、有益な又は所望の結果を得るためのアプローチを指している。患者が依然として基礎障害を患っているにもかかわらず、改善が患者において観察されるような基礎疾患に関連する1以上の生理学的症状の根絶又は改善によって、治療効果が達成される。組成物は、炎症性腸疾患の診断が行われていない場合でも、炎症性腸疾患に関する1以上の生理学的システムを示す患者に投与することができる。
【0033】
材料及び方法
【0034】
C57BL/6マウスをTaconic(Hudson、NY)から購入し、実験の1週間前に飼育した。Balb/cマウスをJackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から購入し、TNBS大腸炎研究のために大学内で飼育した。動物のケア及び使用は、National Institutes of Healthガイドラインに準拠し、スタンフォード大学の機関動物保護及び使用委員会によって承認されていた。
【0035】
コポリマーサーモゲルに関するせん断弾性率及び粘度は、平行プレート形状で正確な温度制御のためのオーブンを備えたAres(登録商標)レオメータ(Rheometric Scientific(登録商標))で測定した。1%の一定の歪みを維持しながら、周波数走査測定(0.5〜200ラジアン/秒)を各温度に対して行った。
【0036】
実験の間、C57BL/6マウスに2%(w/v)デキストラン硫酸ナトリウム塩(36,000−50,000M.W.;MP Biomedicals,LLC;Solon、OH)を飲料水中で与えた。マウスの体重を毎日測定し、血便、下痢、及び一般的な健康問題の有無を評価した。治療(BPL、BL)及びコントロール(水、ポリマーのみ)の浣腸は、4日目及び6日目に行った。イソフロランで麻酔をかけたマウスに、23G針及びポリエチレンチューブ(0.048O.D.in)を取り付けた1mL Luer Lockシリンジを介して、指示された溶液150μLを直腸に投与した。この際、チューブを〜2cm挿入した。瀕死又はそれらの体重減少が20%を超えた場合、動物は9日目以前に屠殺した。
【0037】
Balb/cマウスをケタミンで麻酔し、TNBS大腸炎の誘導において先に記載したように、100μL体積中の2mgのピクリルスルホン酸(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸溶液;Sigma−Aldrich;St.Louis、MO)で直腸処置した。コントロールマウスに100μLのビヒクル(40%エタノール)を与えた。翌日(1日目)、マウスをイソフルランで麻酔し、DSS結腸炎モデルと同様に、処置又はコントロールに浣腸150μLを与えた。動物の体重を測定し、毎日評価し、体重の20%減少時又はその減少以前に屠殺した。
【0038】
組織学的評価のために、最も遠位の1cm結腸セグメントをヘマトキシリン及びエオシン染色のために、10%ホルマリン緩衝液で固定し、パラフィン包埋し、そして切片化した。病理組織学は、Ostaninらの「慢性大腸炎のT細胞移入モデル:概念、考察、及び要領」(Am.J.Physiology.Gastrointestinal and liver physiology 296,G135−146(2009))で記載されたように、ブラインド法で採点された。
【0039】
統計分析は、Prismソフトウェア(GraphPad Software;San Diego、CA)を用いて行い、使用された統計学的試験を図に示し、p値は0.05未満を有意と見なした。
【0040】
CTイメージングのために、2%(w/v)DSSを含有する水をC57BL/6マウスに与え、そして、(血便が明らかである場合の)6日目に、150μLのBPL、又は5%(v/v)バリウム硫酸塩懸濁液(EZ−EM,Inc.;Lake Success、NY)を含有するBL浣腸を行った。浣腸チューブを、0.5〜1.0cmの間の挿入で標準化された様式で挿入した。動物は、In−Vivo Imaging(Stanford、CA)におけるスタンフォード・イノベーションセンターで、大型フィールドCTスキャナー(Siemens Medical Solutions USA,Inc.、Hoffman Estates、IL)を有するInveon PET−CTで画像化された。逆行距離及び浣腸体積を計算した。
【0041】
動物研究は、局所的に適用された腫瘍壊死因子(TNF)−α阻害剤が、動物モデルにおいて大腸炎の重篤度を改善することを示唆している。適切な濃度の(TNF)−αは、ブデソニド及びメサラジンのものと同様に処方され得る。
【0042】
本発明は、多くの異なる形態で実施可能であるが、本発明の好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本開示は、本発明の原理の例示として考慮されるべきであり、本発明を図示の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解されるであろう。