(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の第1電気角に対して90度異なる所定の第2電気角において、前記第1軸に沿って第4電磁加振力が作用し、前記第2軸および第3軸に沿って前記第4電磁加振力よりも大きい第5電磁加振力が作用し、前記第4軸および第5軸に沿って前記第4電磁加振力よりも大きく前記第5電磁加振力よりも小さい第6電磁加振力が作用する、請求項1に記載の5相ハイブリッド型ステッピングモータ。
前記固定子の10個の前記主極にそれぞれ設けられた小歯群の小歯の配置が、前記所定の第1電気角に対して90度異なる所定の第2電気角において、前記第1軸に沿って第4電磁加振力が作用し、前記第2軸および第3軸に沿って前記第4電磁加振力よりも大きい第5電磁加振力が作用し、前記第4軸および第5軸に沿って前記第4電磁加振力よりも大きく前記第5電磁加振力よりも小さい第6電磁加振力が作用するように設計されている、請求項3に記載の5相ハイブリッド型ステッピングモータ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る5相ハイブリッド型ステッピングモータの構造を一部切り欠いて示す斜視図であり、
図2は、その回転軸線40に沿う縦断面図である。5相ハイブリッド型ステッピングモータ1(以下単に「ステッピングモータ1」という。)は、固定子10(ステータ)と、回転子20(ロータ)と、モータフランジ30と、ブラケット31と、一対の軸受32A,32Bとを含む。
【0017】
固定子10は、固定子鉄心2および巻線Wを含む。固定子鉄心2の両端にモータフランジ30およびブラケット31がそれぞれ固定され、これらがモータケース35を構成している。
モータケース35の内部に回転子20が回転軸線40まわりに回転可能に配置されている。回転子20は、回転軸線40に沿って配置された回転軸21と、回転軸21に支持されたディスク状の永久磁石22と、永久磁石22の両側に固定された一対の回転子鉄心231,232とを含む。永久磁石22は、回転軸線40に沿って磁化されている。この永久磁石22が一対の回転子鉄心231,232によって挟持されている。回転軸は、一対の軸受32A,32Bにより回転自在に支持されている。一方の軸受32Aはモータフランジ30に装着されており、他方の軸受32Bはブラケット31に装着されている。
【0018】
固定子鉄心2は、電磁鋼板の打ち抜き加工により作製された固定子鉄板2a(固定子鉄心用薄板)を複数枚積層して構成されている。積層方向は、回転軸線40と平行である。
図3は、回転子鉄心231,232を回転軸線40に沿って見た構成を示す。各回転子鉄心231,232は、電磁鋼板の打ち抜き加工により作製された回転子鉄板23a(回転子鉄心用薄板)を複数枚積層して構成されている。積層方向は回転軸線40と平行である。回転子鉄板23aは、回転軸21が挿通する貫通孔24を中央に有し、周縁部には、多数(たとえば50個)の極歯(回転子歯)25が回転軸線40周りの周方向41に沿って所定の回転子歯ピッチTpで等間隔に形成されている。複数枚の回転子鉄板23aは、貫通孔24および極歯25の位置を揃えて積層され、それにより回転子鉄心231,232を構成している。したがって、回転子鉄心231,232は、回転軸21が挿通するように回転軸線40上で延びた貫通孔24と、回転軸線40に平行に延びる突条からなる極歯25とを有している。そして、多数(たとえば50個)の極歯25が、回転軸線40周りの周方向41に沿って所定の回転子歯ピッチTpで等間隔に配置されている。
【0019】
一対の回転子鉄心231,232は、実質的に同様の構成を有している。そして、回転子歯ピッチTpの半分であるハーフピッチTp/2だけずらして、回転軸21に固定されている。したがって、回転軸線40に沿って見たときに、一方の回転子鉄心231の極歯25の間に他方の回転子鉄心232の極歯25が位置している。
図4は、固定子鉄心2を回転軸線40に沿って見た構成を示す。すなわち、
図4は、固定子鉄板2aを回転軸線40に沿って見た構成を示す。固定子鉄板2aは、電磁鋼板の打ち抜き加工によって、環状の薄板に加工されている。固定子鉄板2aは、この実施形態では、略四角形枠状に形成されている。固定子鉄板2aは、回転子20が配置される回転子収容部3を中央に有している。回転子収容部3は、回転軸線40を中心とした円形に形成されている。固定子鉄板2aは、枠状のバックヨーク4と、このバックヨーク4から回転軸線40に向かって突出した10個の主極(磁極)P1〜P10(総称するときには「主極P」という。)とを有している。複数の主極P1〜P10は、回転軸線40周りの周方向41に沿って間隔を空けて配置されている。周方向41の間隔は、等間隔が好ましいが、厳密に等間隔である必要はない。
【0020】
各主極Pは、基端部がバックヨーク4と結合された支柱部5と、支柱部5の先端側に結合された対向部6とを有している。対向部6は、回転子収容部3に臨んでおり、すなわち、回転子20に対向しており、支柱部5に対して周方向41の両側に延びている。これにより、各主極Pは、周方向41に隣接する他の主極Pとの間にスロット8を形成している。これらのスロット8に巻線Wが配置されている。巻線Wは、主極P1〜P10の支柱部5にそれぞれ巻装された巻線W1〜W10を含む。対向部6は、回転子20に対向する対向面6aを有している。この対向面6aには、回転軸線40に向かって突出した複数の小歯7が形成されている。複数の小歯7は、周方向41に沿って所定の小歯ピッチ角Spで等間隔に配置されている。
【0021】
複数枚の固定子鉄板2aは、対応する主極P1〜P10の位置を揃えて積層され、それにより固定子鉄心2を構成している。したがって、固定子鉄心2は、回転軸線40に平行な突条からなる10個の主極P1〜P10を有する。各主極P1〜P10に巻線W1〜W10が巻装され、その巻線W1〜W10は隣り合う主極Pの間のスロット8に収容されている。各主極Pは、回転子20に対向する対向部6を有する。対向部6は、回転軸線40周りの周方向41に小歯ピッチ角Spで等間隔配置された複数の小歯7を有し、各小歯7は回転軸線40に沿う突条からなる。このようにして、10極構造の固定子鉄心2が構成されている。
【0022】
10個の主極P1〜P10の対向部6の各々は、少なくともの一つ(この実施形態では複数)の小歯7を有し、合計で10個の小歯群S1〜S10(総称するときには「小歯群S」という。)を形成している。これらは、回転軸線40を挟んで対向する5対の小歯群S1,S6;S2,S7;S3,S8;S4,S9;S5,S10を含む。この実施形態では、小歯群S1〜S10は、同数の小歯7を含む。
【0023】
図5は、巻線W1〜W10の結線例を説明するための説明図である。各主極P1〜P10に巻線Wが巻装されており、したがって、固定子10は、10個の巻線W1〜W10を含む。回転軸線40を挟んで対向する任意の一対の小歯群S1,S6(S2,S7;S3,S8;S4,S9;S5,S10)にそれぞれ対応する一対の主極P1,P6(P2,P7;P3,P8;P4,P9;P5,P10)にそれぞれ巻装された一対の巻線W1,W6(W2,W7;W3,W8;W4,W9;W5,W10)は、互いに結線されており、同じ波形の電流が供給される。そして、それらの一対の巻線W1,W6(W2,W7;W3,W8;W4,W9;W5,W10)は、対応する一対の小歯群S1,S6(S2,S7;S3,S8;S4,S9;S5,S10)に同極性の磁極を誘起するように主極P1,P6(P2,P7;P3,P8;P4,P9;P5,P10)にそれぞれ巻装されている。
【0024】
5対の小歯群S1,S6;S2,S7;S3,S8;S4,S9;S5,S10に対応する5対の巻線W1,W6;W2,W7;W3,W8;W4,W9;W5,S10がそれぞれ同様に結線および巻装されている。これにより、5相10極構造の固定子10が構成されている。
5相の巻線W1〜W10は、
図6Aに示すペンタゴン形、または
図6Bに示す星形に結線されていてもよい。
【0025】
図7は、小歯7の配列を説明するための拡大図である。
図2および
図7を参照して、小歯7の配列を説明する。
各主極Pに備えられた小歯群Sは、周方向41に所定の小歯ピッチ角Sp(たとえば6.84度)で等間隔(回転軸線40周りに等角度間隔)に配置された一つ以上(この実施形態では複数。たとえば4個)の小歯7を含む。各小歯7は、実質的に同形同大に構成されている。
【0026】
回転軸線40に直交する固定子10の横断面において、各小歯群Sを構成する全ての小歯7の重心位置を小歯群中心位置C1〜C10(総称するときには「小歯群中心位置C」という。)と定義し、回転軸線40から小歯群中心位置C1〜C10に向かって引いた半直線を小歯群中心線L1〜L10(総称するときには「小歯群中心線L」という。)と定義する。
【0027】
一方、
図4に示すように、10個の主極P1〜P10のなかから任意に選択される一つの主極、たとえば主極P1の小歯群中心線L1を基準として、回転軸線40周りの360度を10等分し、各主極Pの小歯群Sに対する基準角度(=(n-1)×36。n=1,2,3,…,10)を下記表2のように定め、回転軸線40から各基準角度の方向に延びる半直線を各小歯群Sの小歯群基準線R1〜R10(総称するときには「小歯群基準線R」という。)と定義する。基準となる小歯群中心線L1と、対応する小歯群基準線R1とは一致している。この実施形態では、主極P1〜P10は、小歯群基準線R1〜R10にそれぞれ整合するように配置されており、したがって、回転軸線40周りに等角度間隔で放射状に配置されている。
【0028】
なお、
図4および
図7の平面において回転軸線40周りの時計回り方向を正符号の角度で表し、同平面において回転軸線40周りの反時計回り方向を負符号の角度で表すこととする。
【0029】
【表2】
この実施形態では、各小歯群基準線R1〜R10に対して、対応する小歯群S1〜S10の小歯群中心線L1〜L10のなす角度(ずれ角)は、次の振動低減パターンのいずれかで表される。ただし、θ(度)は、回転子20の歯数N(Nは自然数)を用いて、θ=360/5Nで表される角度である。この実施形態ではN=50であるので、θ=1.44(度)である。
【0031】
図8は、ステッピングモータ1を駆動するための電気的構成を説明するためのブロック図である。5相の巻線W1〜W10は、前述の
図6Aおよび
図6Bにそれぞれ例を示すようにペンタゴン形または星形に結線されている。ただし、ペンタゴン形の結線は、小歯群Sの配置パターンに依存する。
図6Aは、表3の振動低減パターン10(
図12の検証パターン18に対応)の場合に適用される結線を一例として示す。
【0032】
巻線W1〜W10に、5相ハーフブリッジインバータ回路51が接続される。インバータ回路51には、直流電源52からの電力が供給される。インバータ回路51は、5相分のハーフブリッジ回路511〜515を含み、各ハーフブリッジ回路511〜515は、直列に接続された一対のパワーFET(電界効果型トランジスタ)を含む。インバータ回路51の各パワーFETには、PWM(パルス幅変調)パターン発生回路53からPWM制御信号が入力される。PWMパターン発生回路53は、5相指示電圧パターン発生回路54が発生するパターン制御信号に応じて、PWM制御信号を生成する。それにより、ステッピングモータ1は、所定の位相ずれした5相の電流により駆動される。電流波形は正弦波状や矩形波状であってもよい。励磁方式は、たとえば、5相のうちの4相ずつ励磁する4相励磁方式や、5相全てを励磁する5相励磁方式であってもよい。
【0033】
図9は、巻線電流波形の例を表す。順に励磁される5つの相、すなわちA相、B相、C相、D相およびE相の巻線電流波形は、144度ずつずれている。つまり、A相巻線電流の位相を基準(0度)とし、巻線電流の位相を−180度〜180度の範囲で定義すると、B相巻線電流の位相は144度、C相巻線電流の位相は−72(=144×2−360)度、D相巻線電流の位相は72(=144×3−360)度、E相巻線電流の位相は−144(=144×4−720)度と表される。
【0034】
回転子20の歯数N=50であるので、電気角360度に対応する回転子20の回転角(機械角)は7.2(=360/50)度である。したがって、電気角144度に対応する回転子20の回転角は、2.88(=7.2×144/360)度である。
たとえば、A相巻線電流が印加される巻線Wが巻装された主極Pの小歯群中心線Lが、小歯群基準線Rと一致しているとする。この場合、B相巻線電流が印加される巻線Wが巻装された主極Pの小歯群中心線Lは、小歯群基準線Rに対して2.88度(=2θ。θ=360/5N=1.44度)だけ、時計回り方向にずれていればよい。さらに、C相巻線電流が印加される巻線Wが巻装された主極Pの小歯群中心線Lは、小歯群基準線Rに対して−1.44度(=2.88+2.88−7.2=−θ)だけ時計回り方向にずれて(すなわち、反時計回り方向に1.44度ずれて)いればよい。同様に、D相巻線電流が印加される巻線Wが巻装された主極Pの小歯群中心線Lは、小歯群基準線Rに対して1.44度(=−1.44+2.88=θ)だけ時計回り方向にずれていればよい。そして、E相巻線電流が印加される巻線Wが巻装された主極Pの小歯群中心線Lは、小歯群基準線Rに対して−2.88度(=1.44+2.88−7.2=−2θ)だけ時計回り方向にずれて(すなわち、反時計回り方向に2.88度ずれて)いればよい。
【0035】
上記の例の場合において、各相と、小歯群基準線Rに対する小歯群中心線Lのずれ角(小歯群中心位置ずれ角)との対応関係をまとめると、以下のとおりである。ただし、各相とずれ角との対応関係は、この例に固定されるわけではなく、A相〜E相の相順とずれ角(0、+2θ、−θ、+θ、−2θ)の順序とが対応していればよい。
【0036】
【表4】
回転軸線40周りの主極P1〜P10の配置順、すなわち小歯群Sの配置順に従って相電流を供給するとすれば、A相〜E相と主極P1〜P10との対応関係は、たとえば、以下のように定めることができる。
【0037】
【表5】
換言すれば、各主極P1〜P10の小歯群中心位置C1〜C10のずれ角を前記表5のように定めたときには、主極P1〜P5に対してA相〜E相の正弦波電流をそれぞれ供給し、かつ主極P6〜P10に対してA相〜E相の正弦波電流をそれぞれ供給することで、ステッピングモータ1をスムーズに回転駆動できる。
【0038】
しかし、このような小歯群Sの配置では、固定子10の固有振動周波数に起因する振動および騒音が発生する。この問題を次に説明する。
図10A、
図10Bおよび
図10Cは、前記表5に表した小歯配置の場合に固定子10に加わる電磁加振力の分布を説明するための図である。加振力とは、物体に振動を生じさせる力をいう。電磁加振力とは、電磁力に起因する加振力である。ステッピングモータ1における電磁加振力とは、端的には、固定子10と回転子20との間に働く吸引力(引っ張り力)であり、回転軸線40を中心とした径方向に働く力(径方向電磁加振力)である。この吸引力により、固定子10の外周部に周期的に変位が発生し、それによって振動が引き起こされる。変位の周期が固定子10の固有振動周波数と整合すると、大きな振動および大きな騒音が引き起こされる。
【0039】
固定子巻線Wに対して
図9のような5相の正弦波電流を供給したときに各主極Pの方向に働く径方向電磁加振力を解析した結果が
図10Aに示されている。この図から、電気角360度に対して2回周期的に振動が発生していることが分かる。
図10Bは、電気角90度(270度)および180度(0度)のときの加振力分布であり、各主極P1〜P10の方向への電磁加振力の分布を回転軸線40を中心として表している。電気角90度および270度のとき、一組の対向する主極対P1,P6の小歯群中心位置C1,C6を通る軸AX
16に沿う電磁加振力が最大であり、その両隣の二組の対向する主極対P2,P7;P5,P10の小歯群中心位置C2,C7;C5,C10を通る2つの軸AX
27,AX
510に沿う電磁加振力が次に大きく、残り二組の対向する主極対P3,P8;P4,P9の小歯群中心位置C3,C8;C4,C9を通る2つの軸AX
38,AX
49に沿う電磁加振力が最も小さい。
【0040】
一方、電気角180度および0度のとき、隣り合う二組のそれぞれ対向する主極対P3,P8;P4,P9の小歯群中心位置C3,C8;C4,C9を通る2つの軸AX
38,AX
49に沿う電磁加振力が最も大きく、それらの両隣の二組の対向する主極対P2,P7;P5,P10の小歯群中心位置C2,C7;C5,C10を通る2つの軸AX
27,AX
510に沿う電磁加振力が次に大きく、残る一組の主極対P1,P6の小歯群中心位置C1,C6を通る軸AX
16に沿う電磁加振力が最小である。
【0041】
このような加振力分布に基づいて構造解析を行った結果、
図10Cに示すように、電気角90度(270度)において、主極P1,P6の対向方向において回転軸線40に向かう変位が最大となり、それに直交する方向において回転軸線40に向かう変位が最小となって、全体として、横長の楕円形状61の変形となることが分かった。また、電気角180度(0度)においては、主極P1,P6の対向方向において回転軸線40に向かう変位が最小となり、それに直交する方向において回転軸線40に向かう変位が最大となって、全体として、縦長の楕円形状62の変形となることが分かった。なお、
図10Cには、矢印の太さで各主極Pに働く電磁加振力の大きさを表してある。
【0042】
横長の楕円形状61の変形が電気角90度および270度において生じ、縦長の楕円形状62の変形が電気角0度および180度において生じることにより、電気角360度に対して2回周期的な楕円変形が発生する。歯数N=50の回転子20を有するステッピングモータ1においては、回転子20の1回転は電気角の50周期に対応するから、回転子20が1回転する間に、100回の楕円変形が生じることになる。この周期的な楕円変形の周波数が固定子10の固有振動の周波数と整合すると、共振振動が起こり、振動および騒音が大きくなる。このことは、本件発明者が行った実験結果と整合する。
【0043】
具体的には、発明者は、ハンマリング測定によって、固定子10の固有振動の周波数を測定した。より具体的には、固定子10に打撃を加え、その直後の固定子10の表面の加速度を加速度センサによって測定した。加速度センサの出力に基づいての周波数応答を解析したところ、4キロヘルツに最大ピークが現れ、8キロヘルツに2番目に大きなピークが現れた。4キロヘルツは一次固有振動の周波数、8キロヘルツは二次固有振動の周波数であると考えられる。
【0044】
一方、表5の小歯配置を有するステッピングモータ1に対して、主極P1〜P5の配列順に従ってA相〜E相正弦波電流を与えたとき、2400rpm、すなわち、40回転/秒の周辺の回転域で大きな騒音が生じた。前述のとおり、回転子20の1回転に対して100回の楕円変形が生じるので、40回転/秒では、4000回/秒の楕円変形が生じる。この楕円変形の周波数は、ハンマリング測定による一次固有振動周波数と一致している。
【0045】
固定子の剛性を高くし、固定子の固有振動周波数を高周波側にシフトさせ、ステッピングモータ1の実用回転速度での共振騒音を抑制する対策が考えられる。しかし、この対策は根本的な対策ではなく、高回転速度でステッピングモータ1を駆動すれば、大きな騒音が生じる。すなわち、共振騒音の周波数をシフトできるとしても、共振騒音のピーク値を低減することができない。
【0046】
本件発明者は、固定子10の最大変位が電気角90度(270度)のときの電磁加振力分布に起因していることに着目し、さらに、このような電磁加振力分布が回転軸線40周りの主極P(すなわち小歯群S)の幾何学的配置に従う順序での相電流の印加に起因していることに着目した。
5相ステッピングモータでは、主極P(すなわち小歯群S)の配列順に従って相電流を印加する必要はない。たとえば、相電流と主極Pとの対応関係は、以下のようにすることもできる。
【0047】
【表6】
ただし、回転子20がスムーズに回転するためには、各小歯群基準線Rに対して対応する小歯群Sの小歯群中心線Lのなす角度は、前記表3の振動低減パターン10の関係を満たす必要がある。
【0048】
図11A、
図11Bおよび
図11Cは、各相と主極Pとの対応関係を表6のように定めた場合、すなわち、表3の振動低減パターン10の小歯配置の場合に固定子10に加わる電磁加振力分布を説明するための図である。
固定子巻線Wに対して
図9のような5相(A相〜E相)の正弦波電流を供給したときに各主極Pの方向に働く径方向電磁加振力を解析した結果が
図11Aに示されている。電気角360度に対して2回周期的に振動が発生している。
【0049】
図11Bは、電気角90度(270度)および0度(180度)のときの加振力分布であり、各主極P1〜P10の方向への電磁加振力の分布を回転軸線40を中心として表している。電気角90度および270度のとき、一組の対向する主極対P1,P6の小歯群中心位置C1,C6を通る軸AX
16に沿う電磁加振力が最大であり、その両隣の二組の対向する主極対P2,P7;P5,P10の小歯群中心位置C2,C7;C5,C10を通る2つの軸AX
27,AX
510に沿う電磁加振力が最小であり、残り二組の対向する主極対P3,P8;P4,P9の小歯群中心位置C3,C8;C4,C9を通る2つの軸AX
38,AX
49に沿う電磁加振力が中間的な値を有する。一方、電気角0度および180度のとき、一組の主極対P1,P6の小歯群中心位置C1,C6を通る軸AX
16に沿う電磁加振力が最小であり、その両隣の二組の対向する主極対P2,P7;P5,P10の小歯群中心位置C2,C7;C5,C10を通る2つの軸AX
27,AX
510に沿う電磁加振力が最大であり、残り二組の対向する主極対P3,P8;P4,P9の小歯群中心位置C3,C8;C4,C9を通る2つの軸AX
38,AX
49に沿う電磁加振力が中間的な値を有する。
【0050】
このような加振力分布に基づいて構造解析を行った結果、
図11Cに示すように、電気角90度(270度)において、主極P1,P6の対向方向において回転軸線40に向かう変位が最大となるものの、それに直交する方向において回転軸線40に向かう変位も比較的大きく、回転軸線40周りの全方向にほぼ均等な変形となることが分かった。また、電気角0度(180度)においては、主極P2,P7の対向方向および主極P5,P10の対向方向に電磁加振力が分散しており、やはり、回転軸線40周りの全方向にほぼ均等な変形となることが分かった。これにより、低次の変形モードによる固定子10の変形が小さくなり、したがって、振動の振幅が小さくなるので、固定子10の固有振動周波数付近での振動および騒音を抑制できる。
【0051】
図12は、主極P(正確には各主極Pに対応する小歯群S)と、各主極Pの小歯群中心位置Cのずれ角(小歯群基準線Rに対する小歯群中心線Lのずれ角)との関係(小歯配置パターン)を網羅的に示す。
前述のとおり、5通りのずれ角(0度、+2θ、−θ、+θ、−2θ)を5組の対向主極対P1,P6;P2,P7;P3,P8;P4,P9;P5,P10に割り当てることにより、回転子20をスムーズに回転駆動できる。そして、ずれ角0度、+2θ、−θ、+θ、−2θの順に144度ずつ順に位相のずれたA相巻線電流、B相巻線電流、C相巻線電流、D相巻線電流、E相巻線電流が対応する主極Pの巻線Wに印加される。ただし、前述のとおり、小歯群Sのずれ角に対する相順は決まっているものの、ずれ角は
図12に示した範囲内で任意に選択できる。
【0052】
いずれの主極Pを基準にとっても同等であるので、主極対P1,P6をずれ角0度の基準対向主極対として固定して考えると、4!(=24)通りの小歯群配置が可能であり、これらのうちの任意の一つの小歯群配置を選択することによって、ステッピングモータ1をスムーズに回転駆動できる。この場合、主極P1の小歯群S1の小歯群中心位置C1は角度0度の位置にある基準小歯群中心位置であり、いずれのパターンでも0度の位置にあり、ずれ角も0度である。主極P1に対向する主極P6の小歯群中心位置C6は角度180度の位置にあり、ずれ角は0度である。
【0053】
図12には、各主極P(各小歯群S)と相電流との関係を併せて示してある。さらに
図12には、振動低減効果、すなわち騒音低減効果の観点での評価の良否を「○」および「×」の記号で示してある。「○」は騒音レベルが比較的低いことを示し、「×」は騒音レベルが比較的高いことを示す。
評価が「○」の小歯配置パターンが、前述の表3に示す振動低減パターン1〜12に相当する。以下、
図12に示す小歯配置パターンを「検証パターン」といい、振動低減パターンと区別する。
【0054】
図13および
図14は、
図12に示された全ての検証パターンについて電磁加振力分布を検証した結果を示している。
図13は、騒音低減効果が不良となる検証パターンでの電磁加振力分布を示し、
図14は、騒音低減効果が良好となる検証パターンでの電磁加振力分布を示す。
まず、
図13を参照すると、検証パターン1の電磁加振力分布は、
図10Bと同じである。検証パターン24の小歯配置は、検証パターン1の小歯配置に対して、軸AX
16に関して対称の関係にある。そのため、回転子20の回転方向が逆転する以外は検証パターン1と同じであり、検証パターン1の場合に対して対向主極対P1,P6の小歯群中心線L1,L6に関して反転した電磁加振力分布となる。いずれも、軸AX
16方向の電磁加振力が最大となる電気角90度において楕円形の電磁加振力分布が現れており、共振騒音が引き起こされる。
【0055】
検証パターン3では検証パターン1の電磁加振力分布と同様の電磁加振力分布となり、検証パターン22は検証パターン23と同様の電磁加振力分布となる。検証パターン2,23では検証パターン3,22の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。すなわち、軸AX
27方向の電磁加振力が最大となる電気角90度において楕円形の電磁加振力分布が現れており、共振騒音が引き起こされる。検証パターン10,15では検証パターン2,23の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。すなわち、軸AX
38方向の電磁加振力が最大となる電気角90度において楕円形の電磁加振力分布が現れており、共振騒音が引き起こされる。検証パターン6,19では検証パターン10,15の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。すなわち、軸AX
49方向の電磁加振力が最大となる電気角90度において楕円形の電磁加振力分布が現れており、共振騒音が引き起こされる。検証パターン7,17では検証パターン6,19の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。すなわち、軸AX
510方向の電磁加振力が最大となる電気角90度において楕円形の電磁加振力分布が現れており、共振騒音が引き起こされる。検証パターン7,17の電磁加振力分布をさらに36度時計回り方向に回転させると、それぞれ検証パターン3,22の電磁加振力分布に戻る。
【0056】
次に、
図14を参照すると、検証パターン18の加振力分布は、
図11Bと同じである。検証パターン8の小歯配置は、検証パターン11の小歯配置に対して軸AX
16に関して対称の関係にある。そのため、回転子20の回転方向が逆転する以外は検証パターン18と同じであり、検証パターン18の場合に対して左右反転した電磁加振力分布となる。
検証パターン11および検証パターン14においても、検証パターン8および検証パターン18と同様の電磁加振力分布が表れる。いずれも、電気角90度(第1電気角)において、軸AX
16(第1軸)に沿う電磁加振力(第1電磁加振力)が最大であり、軸AX
27,AX
510(第2軸および第3軸)に沿う電磁加振力(第2電磁加振力)が最小であり、軸AX
38,AX
49(第4軸および第5軸)に沿う電磁加振力(第3電磁加振力)が中間的な値を有する。一方、電気角180度または0度(第2電気角)のときは、軸AX
16に沿う電磁加振力(第4電磁加振力)が最小であり、軸AX
27,AX
510に沿う電磁加振力(第5電磁加振力)が最大であり、軸AX
38,AX
49に沿う電磁加振力(第6電磁加振力)が中間的な値を有する。
【0057】
検証パターン12,13では検証パターン8,18の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。具体的には、それぞれ電気角162度および18度(第1電気角)において、軸AX
27(第1軸)に沿う電磁加振力(第1電磁加振力)が最大であり、軸AX
16,AX
38(第2軸および第3軸)に沿う電磁加振力(第2電磁加振力)が最小であり、軸AX
49,AX
510(第4軸および第5軸)に沿う電磁加振力(第3電磁加振力)が中間的な値を有する。一方、それぞれ電気角72度および108度(第2電気角)のときは、軸AX
27に沿う電磁加振力(第4電磁加振力)が最小であり、軸AX
16,AX
38に沿う電磁加振力(第5電磁加振力)が最大であり、軸AX
49,AX
510に沿う電磁加振力(第6電磁加振力)が中間的な値を有する。
【0058】
検証パターン5,20では検証パターン8,18の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。具体的には、それぞれ電気角54度および126度(第1電気角)において、軸AX
38(第1軸)に沿う電磁加振力(第1電磁加振力)が最大であり、軸AX
27,AX
49(第2軸および第3軸)に沿う電磁加振力(第2電磁加振力)が最小であり、軸AX
510,AX
16(第4軸および第5軸)に沿う電磁加振力(第3電磁加振力)が中間的な値を有する。一方、それぞれ電気角144度および36度(第2電気角)のときは、軸AX
38に沿う電磁加振力(第4電磁加振力)が最小であり、軸AX
27,AX
49に沿う電磁加振力(第5電磁加振力)が最大であり、軸AX
510,AX
16に沿う電磁加振力(第6電磁加振力)が中間的な値を有する。
【0059】
検証パターン9,16では検証パターン5,20の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。具体的には、それぞれ電気角126度および234度(第1電気角)において、軸AX
49(第1軸)に沿う電磁加振力(第1電磁加振力)が最大であり、軸AX
38,AX
510(第2軸および第3軸)に沿う電磁加振力(第2電磁加振力)が最小であり、軸AX
16,AX
27(第4軸および第5軸)に沿う電磁加振力(第3電磁加振力)が中間的な値を有する。一方、それぞれ電気角216度および144度(第2電気角)のときは、軸AX
49に沿う電磁加振力(第4電磁加振力)が最小であり、軸AX
38,AX
510に沿う電磁加振力(第5電磁加振力)が最大であり、軸AX
16,AX
27に沿う電磁加振力(第6電磁加振力)が中間的な値を有する。
【0060】
検証パターン4,21では検証パターン9,16の電磁加振力分布をそれぞれ時計回り方向に36度回転させた電磁加振力分布が現れる。具体的には、それぞれ電気角162度および198度(第1電気角)において、軸AX
510(第1軸)に沿う電磁加振力(第1電磁加振力)が最大であり、軸AX
49,AX
16(第2軸および第3軸)に沿う電磁加振力(第2電磁加振力)が最小であり、軸AX
27,AX
38(第4軸および第5軸)に沿う電磁加振力(第3電磁加振力)が中間的な値を有する。一方、それぞれ電気角252度および108度(第2電気角)のときは、軸AX
510に沿う電磁加振力(第4電磁加振力)が最小であり、軸AX
49,AX
16に沿う電磁加振力(第5電磁加振力)が最大であり、軸AX
27,AX
38に沿う電磁加振力(第6電磁加振力)が中間的な値を有する。
【0061】
検証パターン4,21の電磁加振力分布をさらに36度時計回り方向に回転させると、それぞれ検証パターン8,18の電磁加振力分布に戻る。
以上の結果から、検証パターン4,5,8,9,11,12,13,14,16,18,20,21のいずれかを適用することにより、一次共振に起因する振動を抑制できることが分かる。これらの検証パターン4,5,8,9,11,12,13,14,16,18,20,21が、前記表3の振動低減パターン1〜12にそれぞれ対応している。
【0062】
振動低減パターン1〜12では、10個の主極のうちの任意の一つを基準主極P1とし、当該基準主極P1の小歯群S1の小歯群中心位置C1である基準小歯群中心位置に対して、主極P1〜P10のそれぞれの小歯群S1〜S10の小歯群中心位置C1〜C10が、回転軸線40周りの時計回り方向に前記表1に示した角度をそれぞれ成している。
このような小歯配置によって、
図13に表れているような楕円形の加振力分布を回避でき、
図14に示すような全方位に分散した加振力分布を達成できる。それにより、振動およびそれに伴う騒音を低減することができる。
【0063】
すなわち、この実施形態では、回転軸線40周りに放射状に配置された10個の主極P1〜P10に対する電磁加振力が適切に分布するように小歯配置が設計されている。したがって、固定子10の構造によらずに振動および騒音を低減できる根本的な振動/騒音対策を提供できる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することができる。たとえば、前述の実施形態では、10個の小歯群S1〜S10が同数の小歯7を有しているが、小歯群S1〜S10の間で小歯7の数が異なっていてもよい。ただし、10個の小歯群Sが、いずれも奇数個の小歯7を有するか、またはいずれも偶数個の小歯7を有することが好ましい。また、前述の実施形態では、10個の主極P1〜P10は回転軸線40周りに等角度間隔で配置されているが、主極Pの配置は必ずしも等間隔である必要はない。また、前述の実施形態では、回転子20が一つの永久磁石22を備えているが、回転子20は2個以上の永久磁石22を備えていてもよい。また、回転子鉄心231,232に設けられる極歯25の歯数Nは50以外の数であってもよい。
【0064】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。