【実施例】
【0053】
実施例1−酢酸によるガラス表面の残留物の洗浄
リチウムを含有するガラス基板に、塩浴のリチウム汚染を制御するためにリン酸ナトリウム(Na
3PO
4)が添加された溶融塩浴中のイオン交換過程を施した。イオン交換過程後のガラス基板の表面上のイオン交換過程による残留物のXRDスペクトルにより、その残留物は大部分がリン酸リチウムおよびリン酸リチウムナトリウムであることが示された。ガラス基板を3分間に亘り25℃で1質量%の酢酸溶液中に浸漬した。ガラス基板の表面は、浸漬後に、脱イオン水で穏やかにかつ手短に濯いだ。次に、ガラス基板を空気中で乾燥させた。乾燥後、ガラス基板の表面には、どのような化学残留物(またはヘイズ)も観察されなかった。
図3Aは、酢酸溶液中の処理前のガラス基板を示しており、そのガラス基板にはヘイズがある。
図3Bは、酢酸溶液中の処理後のガラス基板を示しており、ガラス基板にはヘイズが実質的にない。
【0054】
実施例2−リン酸によるリン酸リチウム沈殿物の溶解
0.1モルのLiNO
3および0.034モルのNa
3PO
4を一緒に混合することによって、100mLの水溶液中にリン酸リチウム(Li
3PO
4)を調製した。不溶性のLi
3PO
4が直ちに形成し、1分以内でビーカーの底に沈殿した。この溶液(溶液のpHは約2であった)に約0.1モルのH
3PO
4を加え、Li
3PO
4沈殿物は1分以内で完全に溶けた。この実施例は、リン酸を含有する水溶液が、不溶性のLi
3PO
4を可溶性塩に転化するのに効果的であり、リン酸リチウムを含有するイオン交換過程による残留物を有する表面を洗浄するために使用できることを示す。
【0055】
実施例3−酢酸によるリン酸リチウム沈殿物の溶解
0.12モルのLiNO
3および0.04モルのNa
3PO
4を一緒に混合することによって、80mLの水溶液中にリン酸リチウム(Li
3PO
4)を調製した。不溶性のLi
3PO
4が直ちに形成し、1分以内でビーカーの底に沈殿した。この溶液に約0.04モルの酢酸を加え、Li
3PO
4沈殿物は1分以内で完全に溶けた。この実施例は、酢酸を含有する水溶液が、Li
3PO
4を可溶物に転化するのに効果的であり、リン酸リチウムを含有するイオン交換過程による残留物を有する表面を洗浄するために使用できることを示す。
【0056】
実施例4−イオン交換槽の表面上の残留物の溶解
2.1gのイオン交換槽のスラッジを30mLの脱イオン水中で混合した。スラッジは、80℃に加熱した後でさえも、水中に溶けなかった。スラッジを含有する溶液に、約0.12モルの酢酸または酒石酸を加えた。80℃で、酸の支援によって、沈殿物が水溶液中に溶けた。この実施例は、イオン交換槽の表面上のイオン交換過程による残留物が、酢酸または酒石酸を含有する水溶液を使用して、表面から効果的に除去できることを示す。
【0057】
先に記載した表面からイオン交換過程による残留物を除去する方法は、強化ガラスまたはガラスセラミックを調製する方法に組み込んでもよい。
【0058】
図4Aは、塩浴202を収容するイオン交換槽200を示す。イオン交換可能な基体204は、塩浴202と接触している。この例では、イオン交換可能な基体204が塩浴中に浸されており、基体204の表面の全てが塩浴202と接触している。他の例では、基体204の表面の1つのみまたはいくつかが塩浴202と接触していてもよい。1つ以上の実施の形態において、イオン交換可能な基体204はリチウム含有ガラス材料である。1つ以上の実施の形態において、イオン交換可能な基体204は、イオン交換過程中に塩浴202中のより大きいアルカリ金属陽イオン208と交換されるリチウム陽イオン206を含有している。
【0059】
1つ以上の実施の形態において、イオン交換可能な基体204は、リチウム陽イオン206の供給源としてLi
2Oを含む組成物から形成される。いくつかの実施の形態において、リチウム含有ガラス材料204は、2.0モル%から25モル%のLi
2Oを含むことがある。他の実施の形態において、リチウム含有ガラス材料204は、2.0モル%から10モル%のLi
2Oまたは2.5モル%から10モル%のLi
2Oを含むことがある。さらに他の実施の形態において、リチウム含有ガラス材料204は、5モル%から15モル%のLi
2Oまたは5モル%から10モル%のLi
2Oまたは5モル%から8モル%のLi
2Oを含むことがある。
【0060】
1つ以上の実施の形態において、イオン交換可能な基体204は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスまたはアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスから作られる。第1の例において、イオン交換可能な基体204は、60から75モル%のSiO
2、0から3モル%のB
2O
3、10から25モル%のAl
2O
3、2から15モル%のLi
2O、0から12モル%のNa
2O、0から5モル%のMgO、0から5モル%のZnO、0から5モル%のSnO
2、および0から10モル%のP
2O
5を含む組成物から形成されることがある。第2の例において、そのイオン交換可能な基体は、50から80モル%のSiO
2、0から5モル%のB
2O
3、5から30モル%のAl
2O
3、2から25モル%のLi
2O、0から15モル%のNa
2O、0から5モル%のMgO、0から5モル%のZnO、0から1モル%のSnO
2、および0から5モル%のP
2O
5を含む組成物から形成されることがある。ある例では、イオン交換可能な基体204は、B
2O
3、P
2O
5、MgO、ZnO、およびSnO
2の1つ以上を含まない、第1と第2の例に記載されたような組成物から形成されることがある。これらのガラス組成物は実例であり、ここに記載された方法に使用するための他のリチウム含有ガラス組成物も考えられ、可能であることを理解すべきである。
【0061】
塩浴202は、アルカリ金属陽イオン208の1つ以上の供給源を含む。1つ以上の実施の形態において、塩浴202中のアルカリ金属陽イオン208は、イオン交換可能な基体204中のリチウム陽イオンよりも大きい。いくつかの実施の形態において、塩浴202は、アルカリ金属陽イオン208の1つ以上の供給源として、KNO
3およびNaNO
3の少なくとも一方を含む。第1の例において、塩浴202は、40モル%から95モル%のKNO
3および5モル%から60モル%のNaNO
3を含むことがある。第2の例として、塩浴202は、45モル%から50モル%のKNO
3および50モル%から55モル%のNaNO
3を含むことがある。第3の例として、塩浴202は、75モル%から95モル%のKNO
3および5モル%から25モル%のNaNO
3を含むことがある。第4の例として、塩浴202は、45モル%から67モル%のKNO
3および33モル%から55モル%のNaNO
3を含むことがある。
【0062】
イオン交換可能な基体204が塩浴202と接触している間に、イオン交換可能な基体204の表面近くでイオンの交換が行われるであろう。これが、例えば、
図4Bに示されており、ここで、リチウム陽イオン206がイオン交換可能な基体204から塩浴202中に拡散し、より大きいアルカリ金属陽イオン208が塩浴202からイオン交換可能な基体204中に拡散する。リチウム陽イオン以外に、ナトリウム陽イオンなどの他のアルカリ金属陽イオンもイオン交換可能な基体204から塩浴202中に拡散することがあり、これらの他のアルカリ金属陽イオンが去った部位が、塩浴202からのより大きいアルカリ金属陽イオンにより占められることがある。一般に、ガラス材料構造内で、より大きいアルカリ金属陽イオンよりも小さいリチウム陽イオンを交換することがより容易である。
【0063】
塩浴202とイオン交換可能な基体204との間のイオン交換は、塩浴202を高温に加熱することによって促進されることがある。塩浴202は、その高温で溶融状態にあることがある。塩浴202の温度は、ガラス材料における所望の圧縮応力および層の深さを得るために制御されることがある。いくつかの実施の形態において、塩浴202は、360℃から430℃の範囲の温度に加熱されることがある。
【0064】
いくつかの実施の形態において、過剰なリチウム陽イオンを沈殿させて、固体のリン酸リチウムを形成するために、塩浴202に1種類以上のリン酸塩が加えられる。そのリン酸塩は、塩浴202中のリチウム陽イオン濃度を、塩浴202の汚染が防がれるレベルまで低下させる量で塩浴202に加えられることがある。いくつかの実施の形態において、塩浴202は、塩浴202中に溶けたリチウム陽イオンの濃度が2質量%を超えていない場合、汚染されていないと考えられることがある。そのリン酸塩は、イオン交換過程が開始する前、および/またはイオン交換過程中に、塩浴202に加えてよい。そのリン酸塩は、塩浴202中で特定のリチウム陽イオン濃度を超えたときに、またはイオン交換可能な基体204において特定の圧縮応力に到達したときに、塩浴202に加えられることがある。その塩浴に加えてよいリン酸塩の例としては、以下に限られないが、Na
3PO
4、K
3PO
4、Na
2HPO
4、K
2HPO
4、Na
5P
3O
10、Na
2H
2P
2O
7、Na
4P
2O
7、K
4P
2O
7、Na
3P
3O
9、およびK
3P
3O
9が挙げられる。いくつかの実施の形態において、Na
3PO
4および/またはK
3PO
4が塩浴に加えられる。
【0065】
イオン交換可能な基体204が塩浴から取り出されるときに、イオン交換可能な基体204の表面上に残留物があるであろう。1つ以上の実施の形態において、この残留物は固体のリン酸リチウムを含有するであろう。同様に、イオン交換過程後にイオン交換槽200から塩浴が排出されたときに、イオン交換槽200の表面上に残留物があるであろう。1つ以上の実施の形態において、この残留物は固体のリン酸リチウムを含有するであろう。1つ以上の実施の形態において、イオン交換可能な基体204の表面から、またはイオン交換槽200の表面から、リン酸リチウムを含有する残留物を除去するために、先に記載されたような特徴を有する洗浄水溶液中にそれらの表面を浸漬することができる。その浸漬工程は、残留物中の固体のリン酸リチウムが可溶性のリン酸水素リチウムに転化され、その可溶性のリン酸水素リチウムが洗浄水溶液中に溶けるのに十分な期間に亘るべきである。その浸漬工程は、先に述べたように、室温で、または20℃と100℃の間の高温で、行われることがある。それらの表面は、浸漬後に、水または脱イオン水で濯ぎ、乾燥させることができる。
【0066】
本発明を、限られた数の実施の形態に関して記載してきたが、本開示の恩恵を受けた当業者は、ここに開示されたような本発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態が想起できることを認識するであろう。したがって、本発明の範囲は、付随の特許請求の範囲にしか限定されるべきではない。