(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ドウまたはベークド製品の製造における、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素を使用する方法であって、以下:
ベークド製品の比体積の改良;ドウの形成または伸展性の改良;ベークド製品のクラストのクリスピー性の改良;クラム構造の改良;ベークド製品の柔らかさの改良;ベークド製品のオーブンスプリングの改良;前記ドウまたはベークド製品中のN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンの増加;前記ドウまたはベークド製品中のリソリン脂質の増加;前記ドウまたはベークド製品中のジガラクトシルモノグリセリドおよびモノガラクトシルモノグリセリドのうちいずれか一方または両方の増加;ならびに前記ドウまたはベークド製品中のリソリン脂質、ジガラクトシルモノグリセリド、およびモノガラクトシルモノグリセリドのうち少なくとも一つの増加とともにN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンの増加
のうち少なくとも1つを達成する、方法。
スポンジアンドドウ法において、NAPEに作用することができる前記ホスホリパーゼA2酵素は、スポンジに添加され、および前記sn1位で極性脂質に作用する前記酵素は、前記ドウに添加される、請求項2〜8もしくは10〜20のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
略語
NAPE − N−アシルホスファチジルエタノールアミン
NALPE − N−アシルリソホスファチジルエタノールアミン
NAGPE − N−アシルグリセロホスホエタノールアミン
DGDG − ジガラクトシルジグリセリド
DGMG − ジガラクトシルモノグリセリド
MGDG − モノガラクトシルジグリセリド
MGMG − モノガラクトシルモノグリセリド
PC − ホスファチジルコリン
PLA − ホスホリパーゼA
【0020】
本発明の独創性に富む発見は、食料品(例えば、ドウおよび/またはベークド製品)における有利な特性が、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)に作用するホスホリパーゼA2酵素と、sn1位で極性脂質に作用する酵素との組み合わせを使用することによって達成できることである。
【0021】
本発明者らは、初めて、例えばドウまたはベークド製品などの食料品中においてsn2位でNAPEに作用することができるホスホリパーゼA2酵素と、極性脂質に作用する酵素との組み合わせによって提供される相乗作用を示した。
【0022】
これらの発見に基づき、ドウまたはドウから入手できる製品の調製において、sn2位でNAPEに作用することができるホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素の方法および使用が提供される。本発明は、sn2位でNAPEに作用することができるホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素を含む食品用酵素組成物をなおさらに提供する。
【0023】
本発明は、ドウおよびドウから入手できる食品における特別な方法での特異的極性脂質の溶解に関する。
【0024】
大多数の穀粉中に含有される極性脂質には、リン脂質およびガラクト脂質が含まれる。
【0025】
粉、特に小麦粉に含まれる有意な量のリン脂質は、N−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)であり得る。Schafferczyk et al(J.of Agricultural and Food Chemistry(2014)62:8229−8237)は、小麦粉が0.02%のホスファチジルコリン(PC)と比較して平均して0.1%のNAPEを含有することを教示している。
【0026】
粉、特に小麦粉は、ガラクト脂質を含む可能性がある。例えば、ジガラクトシルジグリセリド(DGDG)またはモノガラクトシルジグリセリド(MGDG)などのガラクト脂質は、粉、特に小麦粉に含まれる天然型(または内因性)の脂質構成成分である。
【0027】
好ましくは、本発明において使用する酵素が作用するリン脂質および/またはガラクト脂質は、粉中の天然型のリン脂質および/またはガラクト脂質である。
【0028】
本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、本明細書において「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」で教示されたPLA2活性を有する酵素である。
【0029】
ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ:
基質:0.6%の16:0〜18:1のNAPE(N−リノレオイル−(1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)(依頼してAvantiから得るか、またはJ.L.Newman et al.,Chemistry and Physics of Lipids(1986)42:240−260に従って生成された)、0.4%のTRITON(商標)−X 100(Sigma Aldrich,St.Louis,MO;X−100)および5mMのCaCl
2を0.05MのHEPESバッファー(pH7.0)中に溶解させる。膵酵素に対して0.003Mのデオキシコール酸塩も加えた。
【0030】
アッセイ手順:
2mLの基質を30℃でインキュベートし、0.05MのHEPESバッファー中の0.1mLの酵素溶液(およそ5TIPU/mLまたは反応の10分後に消費された2〜5%の基質に対応する酵素量)を添加し、30℃で10分間にわたり磁気攪拌しながらインキュベートした。反応を停止させて遊離脂肪酸をプロトン化するために、40μLの4MのHClを加える。1mLの99%のエタノールを加え、ボルテックスミキサーで混合する。0.5mgのC17:0脂肪酸(マルガリン酸)を含有する5mLのMTBE(メチルtert−ブチルエーテル)を加えた。試料をボルテックスミキサー上で再び5秒間にわたり混合し、25rpmのRotamix上で30分間にわたり抽出した。試料を10分間にわたり1520gで遠心した。
【0031】
1基の500mgアミン(NH
2)−Bond Elut SPEカラム(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)をBond Elut真空システム上に配置する。カラムは、8mLの石油エーテルを用いて状態調節する。抽出からのMTBE相をカラム上に適用し、
第1分画 8mLの溶媒A:MTBE:2−プロパノール、2:1
第2分画 8mLの溶媒B:アセトン:ギ酸、100:2
を用いて抽出する。
【0032】
溶媒は、およそ0.25mL/分で抽出した。
【0033】
収集した脂肪酸分画(第2分画)を乾燥するまで蒸発させ、脂肪酸含量をGLCによって分析する。
【0034】
内部標準物質のC17:0脂肪酸に基づき、C16:0およびC18:1脂肪酸の量を決定する。
【0035】
NAPEへの酵素活性は、アッセイ条件下で1分間当たりに生成された脂肪酸量(μmol)として計算する。
【数1】
式中、
A=C16:0脂肪酸(%)+C18:1脂肪酸(%)
2=基質量(mL)
1000000=μmolへのモル変換
D=酵素希釈係数
MV=生成されたC16:0脂肪酸およびC18:1脂肪酸の平均分子量
10=反応時間(分間)
0.1=アッセイに添加された酵素量(mL)
である。
【0036】
酵素特異性は、下記のように計算する。
【数2】
【0037】
sn2位でNAPEを優先的に溶解する、例えば加水分解するホスホリパーゼA2酵素は、本明細書において「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」で教示された、NAPEへの少なくとも50%超の相対PLA2活性を有する酵素であろう。50%超の相対PLA2活性を備える酵素は、この酵素が25%未満のsn1活性および75%超のsn2活性を有することを意味する。好ましくは、sn2位でNAPEを優先的に溶解する、例えば加水分解するホスホリパーゼA2酵素は、本明細書において「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」で教示された、相対PLA1活性と比較して少なくとも10%超の相対PLA2活性を有する酵素であろう。
【0038】
好ましくは、ホスホリパーゼA2酵素がsn2位でNAPEを優先的に溶解する、例えば加水分解することを決定するために、本明細書に教示した「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」が使用される。しかし、一部の実施形態では、これは、Invitrogen社製品番号E10217からのEnzChekホスホリパーゼA2アッセイキットを、任意選択的にこの酵素がドウ中のNALPEの形成を増加させながらNAPEを減少させるかどうかについて分析するドウ試験と一緒に使用することによって決定することができる。
【0039】
sn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素に関連する用語「特に」は、この酵素が1−NALPEを生成するためにsn2位でNAPEの唯一の特定反応、例えば溶解(または加水分解)のみを触媒することを意味する。sn2位でNAPEを特に溶解する、例えば加水分解するホスホリパーゼA2酵素は、本明細書において「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」で教示された、PLA1活性に比して少なくとも80%超の相対PLA2活性を有する酵素であろう。1つの実施形態では、本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、下記の酵素活性:ホスホリパーゼA2活性(例えば、E.C.3.1.1.4)または脂質アシルトランスフェラーゼ活性(例えば、E.C.2.3.1.43)の1つ以上を有する。
【0040】
別の実施形態によると、本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、ドウ条件下でNAPEを1−NALPEに変換させることができるものである。
【0041】
別の実施形態によると、本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、NAPEを1−NALPEに変換させるものであり、生成されたNALPEの脂肪酸部分は、14〜20個の炭素原子を含有する。
【0042】
1つの実施形態では、本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、NAPEを1−NALPEに変換させるものであり、生成されたNALPEの脂肪酸部分は、飽和しており、かつ14〜20個の炭素原子を含有する。
【0043】
さらなる実施形態では、本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、NAPEを1−NALPEに変換させるものであり、生成されたNALPEの脂肪酸部分は、飽和しており、かつ16個の炭素原子を含有する(C16:0)。生成されたNALPEの脂肪酸部分が飽和しており、かつ16個の炭素原子を含有する、NAPEを1−NALPEに変換させるホスホリパーゼA2酵素は、本明細書で教示された「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」を使用して、および/または本明細書で教示された「ドウから抽出されたリン脂質を分析するためのHPLC/MS法」を使用して決定することができる。
【0044】
1つの実施形態では、本発明による酵素の組み合わせの使用は、酵素を添加していないドウと比較して少なくとも1.5倍だけ増加したドウ中のC16:0 NALPEの量を生じさせる。例えば、ドウ中のC16:0 NALPEの量は、少なくとも2.0倍、好ましくは少なくとも3.0倍だけ増加する可能性がある。
【0045】
1つの実施形態では、本発明による酵素の組み合わせの使用は、酵素を添加していないドウと比較して少なくとも1.5〜約4.0倍だけ増加したドウ中のC16:0 NALPEの量を生じさせる。
【0046】
ドウ条件は、当業者に周知である。これらには、ドウ構成成分の捏ね上げ(mixing)中またはドウの静置中および保管中の条件が含まれる。好適なドウ条件には、ドウの捏ね上げ、ドウの静置、ドウのスケーリングおよびドウの成形、ならびにドウの発酵が含まれる。
【0047】
本発明の別の態様によると、本明細書で特許請求されるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、N−アシルリソホスファチジルエタノールアミン(NALPE)に作用することができないか、または実質的に作用することができない
【0048】
本明細書で使用する用語「N−アシルリソホスファチジルエタノールアミンに実質的に作用することができない」は、「ホスホリパーゼ活性およびNAPE上の位置特異性を決定するためのアッセイ」および「N−アシルリソホスファチジルエタノールアミン(NALPE)へのリソホスホリパーゼ活性を決定するためのアッセイ」の両方において同一用量で試験した酵素が、NAPEへの活性と比較して20%未満のNALPEへの活性を有することを意味する。より好ましくは、N−アシルリソホスファチジルエタノールアミンに実質的に作用することができない酵素は、NAPEへの活性と比較して、NALPEへの10%未満の活性、より好適にはNALPEへの5%未満の活性、一層より好ましくは1%未満のNALPE活性を有する。脂肪酸の飽和度および長さの決定は、当技術分野において公知の方法によって実施することができる。非限定的な例としての、本明細書に教示したようなガスクロマトグラフィー(GC)または液体クロマトグラフィー−質量分析法(HPLC/MS)である。
【0049】
N−アシルリソホスファチジルエタノールアミン(NALPE)へのリソホスホリパーゼ活性を決定するためのアッセイ:
基質:0.6%の18:1のNALPE(N−リノレオイル−(1−オレイル−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)(依頼してAvantiから得られるか、または「N−アシルリソホスファチジルエタノールアミン(NALPE)の合成」に従って製造された)、0.4%のTRITON(商標)−X 100(Sigma、X−100)および5mMのCaCl
2を0.05MのHEPESバッファー(pH7.0)中に溶解させた。膵酵素に対して0.003Mのデオキシコール酸塩も加えた。
【0050】
アッセイ手順:
2mLの基質を30℃でインキュベートし、0.05MのHEPESバッファー中の0.1mLの酵素溶液(およそ5TIPU/mLまたは反応の10分後に消費された2〜5%の基質に対応する酵素量)を添加し、10分間にわたり磁気攪拌しながらインキュベートした。反応を停止させて遊離脂肪酸をプロトン化するために、40μLの4MのHClを加えた。1mLの99%のエタノールを加え、ボルテックスミキサーで混合した。0.5mgのC17:0脂肪酸(マルガリン酸)を含有する5mLのMTBE(メチルtert−ブチルエーテル)を添加した。試料をボルテックスミキサー上で再び5秒間にわたり混合し、25rpmのRotamix上で30分間にわたり抽出した。試料を10分間にわたり1520gで遠心した。
【0051】
1基の500mgのアミン(NH2)−Bond Elut SPEカラム(Agilent)をBond Elut真空システム上に配置した。カラムは、8mLの石油エーテルを用いて状態調節した。抽出からのMTBE相をカラム上に適用し、
第1分画 8mLの溶媒A:MTBE:2−プロパノール、2:1
第2分画 8mLの溶媒B:アセトン:ギ酸、100:2
を用いて抽出した。
【0052】
溶媒は、およそ0.25mL/分で抽出した。
【0053】
収集した脂肪酸分画(分画2)を乾燥するまで蒸発させ、脂肪酸含量をGLCによって分析した。
【0054】
内部標準物質のC17:0脂肪酸に基づき、C18:1の量を決定する。
【0055】
NALPEへの酵素活性は、アッセイ条件下で1分間当たりに生成された脂肪酸(μmol)として計算する。
【数3】
式中、
A=C18:1脂肪酸(%)
2=基質量(mL)
1000000=μmolへのモル変換
D=酵素希釈係数
MV=C18:1脂肪酸の分子量
10=反応時間(分間)
0.1=アッセイに添加された酵素量(mL)
である。
【0056】
N−アシルリソホスファチジルエタノールアミン(NALPE)の合成
1.5gの1−オレオイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(Avanti製の18:1 Lyso PE)を50mLのクロロホルム中に溶解させ、550μLのトリエタノールアミンを加え、窒素下で被覆した。この溶液を氷浴上で冷却し、撹拌中に1.9gのリノール酸無水物を滴下した。この溶液を窒素下で被覆して20時間にわたり22℃で反応させた。粗反応生成物を、真空下でクロロホルムを蒸発させることにより濃縮し、カラムクロマトグラフィーによって精製した。反応生成物N−リノレオイル−1−オレオイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(NALPE)を単離し、構造をNMRおよびHPLC/MSによって確証した。
【0057】
1つの実施形態では、本発明によるsn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素は、Biocatalysts製のMAXAPAL(登録商標)、LYSOMAX(登録商標)Oil、膵PLA2、Lipomod 699Lであってよい。
【0058】
本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、下記のアッセイ:「sn1位で極性脂質(ホスホリパーゼ)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」および/または「sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」の一方または両方を使用して決定される、sn1位で極性脂質に作用する酵素である。
【0059】
sn1位で極性脂質(ホスホリパーゼ)に作用する酵素を決定するためのアッセイ:
ホスホリパーゼA1活性(PLA1)は、基質としてPED−A1(N−((6−(2,4−DNP)アミノ)ヘキサノイル)−1−(BODIPY(登録商標)FL C5)−2−ヘキシル−Sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(A10070、ThermoFisher Scientific製)を使用して測定した。
【0060】
この基質はPLA1に対して特異的であり、sn1位にBODIPY(登録商標)FL染料標識アシル鎖およびジニトロフェニルクエンチャー修飾頭基を備える染料標識グリセロホスホエタノールアミンである。クエンチング効率は、sn1位でBODIPY(登録商標)FLペンタン酸置換基の切断により、およびsn2位での酵素耐性エーテル結合に伴って減少する。
【0061】
結果は、515nmで検出される蛍光発光におけるPLA1依存性増加である。
【0062】
手順:
「脂質ミックス」は、エタノール中の30μLの10mMのジオレオイルホスファチジルコリン、エタノール中の30μLの10mMのジオレイルホスファチジルグリセロール、およびDMSO中の30μLの2mMのPED−A1を混合することによって調製した。
【0063】
5mLのバッファー(50mMのTris HCl)、0.14mMのNaClおよび2mMのCaCl2(pH7.4)を20mLのビーカーに加える。渦流を形成するために、マグネティックスターラーを用いて撹拌する。基質リポソームミックスを形成するために、開口部の狭いゲル装填チップを装備した100μLピペットを用いて、渦流の側面に1分間にわたって50μLの脂質ミックスを緩徐に加える。
【0064】
マイクロタイタープレートウエルに50μLの酵素試料(または標準物質もしくは対照)および50μLの基質リポソームミックスを加える。光線から保護して、30分間にわたり室温でインキュベートする。470nmでの励起および515nmでの発光を用いて、マイクロタイタープレートリーダーを使用して蛍光を測定する。
【0065】
較正曲線は、0〜10U/mLの様々な酵素濃度の多数の標準PLA1溶液に基づいて構築する。酵素標準物質は、公知の活性を備えるPLA1(Sigma製のL3295)である。標準溶液の蛍光測定に基づいて、酵素濃度U/mLの関数としての蛍光強度の較正曲線を構築した。標準曲線に基づいて、未知の試料の活性を測定した(U/mL)。
【0066】
sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ
基質:0.6%の1−リノレイル−2−オレイル−3−O−(−D−ガラクトピラノシル)−snグリセロール(C18:2、C18:1 MGDG)、0.4%のTRITON(商標)−X 100(Sigma、X−100)および5mMのCaCl
2を0.05MのHEPESバッファー(pH7)中に溶解させた。膵酵素に対して0.003Mのデオキシコール酸塩も加えた。
【0067】
アッセイ手順:
2mLの基質を30℃でインキュベートし、0.05MのHEPESバッファー中の0.1mLの酵素溶液(およそ2〜5TIPU/mLまたは10分間の反応によって消費されたおよそ5%の基質に対応する酵素)を添加し、30℃で10分間にわたり磁気攪拌しながらインキュベートした。反応を停止させて遊離脂肪酸をプロトン化するために、40μLの4MのHClを加えた。1mLの99%のエタノールを加え、ボルテックスミキサーで混合した。0.5mgのC17:0脂肪酸を含有する5mLのMTBE(メチルtert−ブチルエーテル)を加えた。試料をWortexミキサー上で再び5秒間混合し、25rpmのRotamix上で30分間にわたり抽出した。試料を10分間にわたり1520gで遠心した。
【0068】
1基の500mgのアミン(NH2)−Bond Elut SPEカラム(Agilent)をBond Elut真空システム上に配置した。カラムは、8mLの石油エーテルを用いて状態調節する。抽出からのMTBE相は、カラム上に適用し、
第1分画 8mLの溶媒A:MTBE:2−プロパノール、2:1
第2分画 8mLの溶媒B:アセトン:ギ酸、100:2
を用いて抽出した。
【0069】
溶媒は、およそ0.25mL/分で抽出した。
【0070】
収集した脂肪酸分画(分画2)を乾燥するまで蒸発させ、脂肪酸をGLCによって分析した。内部標準C17:0脂肪酸に基づき、C18:2およびC18:1脂肪酸の量を決定した。
【0071】
酵素活性は、アッセイ条件下で1分間当たりに生成された脂肪酸(μmol)として計算した。
【数4】
式中、
A=C18:2脂肪酸(%)+C18:1脂肪酸(%)
2=基質量(mL)
1000000=μmolへのモル変換
D=酵素希釈係数
MV=生成されたC18:2脂肪酸およびC18:1脂肪酸の平均分子量
10=反応時間(分間)
0.1=アッセイに添加された酵素量(mL)
である。
【0072】
酵素特異性は、下記のように計算する。
【数5】
【0073】
1−リノレイル−2−オレイル−3−O−(−D−ガラクトピラノシル)−snグリセロール(C18:2、C18:1 MGDG)の合成。
1−リノレイル−2−オレイル−3−O−(−D−ガラクトピラノシル)−snグリセロール(C18:2、C18:1 MGDG)
1−モノリノレイル−2−ヒドロキシ−3−O−(−D−2’,3’,4’,6’−テトラ−O−アセチルガラクトピラノシル)−sn−グリセロールは、Selmair and Koehler(J.Agric.Food Chem.(2008)56:6691−6700)に従って合成した。1−モノリノレイル−2−ヒドロキシ−3−O−(_−D−2’,3’,4’,6’−テトラ−O−アセチルガラクトピラノシル)−sn−グリセロールは、カラムクロマトグラフィーによって99%超の純度へ単離および精製した。
【0074】
1−モノリノレイル−2−ヒドロキシ−3−O−(−D−2’,3’,4’,6’−テトラ−O−アセチルガラクトピラノシル)−sn−グリセロールのsn2位のアシル化は、Gaffney and Reese(J.Chem.Soc.,Perkin Trans.(2001)1:192−205)の方法に従って、アシル供与体としてオレイン酸を使用して実施した。
【0075】
1−リノレオイル−2−オレイル−3−O−(−D−2’,3’,4’,6’−テトラ−O−アセチルガラクトピラノシル)−sn−グリセロールの脱アシル化は、メタノール中のヒドラジンを用いて実施して、その後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、構造を質量分光法およびNMR分析によって確証した。
【0076】
1つの実施形態では、本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、「sn1位で極性脂質(ホスホリパーゼ)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」と題するアッセイにおいて、相対sn2活性よりも少なくとも20%高い相対sn1位活性を有する酵素である。1つの実施形態では、本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、「sn1位で極性脂質(ホスホリパーゼ)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」と題するアッセイにおいて、相対sn2活性よりも少なくとも50%高い相対sn1位活性を有する酵素である。
【0077】
1つの実施形態では、本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、「sn1位で極性脂質(MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」と題するアッセイにおいて、相対sn2活性よりも少なくとも20%高い相対sn1位活性を有する酵素である。1つの実施形態では、本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、「sn1位で極性脂質(MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」と題するアッセイにおいて、相対sn2活性よりも少なくとも50%高い相対sn1位活性を有する酵素である。
【0078】
1つの実施形態では、本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、ドウ中でドウ脂質のHPTLC分析を使用して、DGDGの少なくとも10%を加水分解することができる酵素である。
【0079】
本発明の1つの実施形態では、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、ホスホリパーゼ活性、ガラクトリパーゼ活性またはそれらの組み合わせを有する酵素である。
【0080】
用語「極性脂質」は、粉(好ましくは小麦粉)中で見いだされる極性脂質を意味する。小麦粉中で見いだされる極性脂質は、Pomeranz,Y.によって規定されている(上記;
図1を参照されたい)。1つの実施形態では、用語「極性脂質」は、リン脂質、ガラクト脂質またはそれらの組み合わせからなる群の1つ以上を意味する。リン脂質は、ホスファチジルコリン、N−アシルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールの1つ以上であってよい。1つの実施形態では、好ましくは、リン脂質は、ホスファチジルコリンであってよい。ガラクト脂質は、ジガラクトシルジグリセリド、セラミドジグリセリド、6−o−アセチルステリルグルコシドまたはセラミドジグルコシドの1つ以上であってよい。1つの実施形態では、好ましくは、ガラクト脂質は、ジホスファチジルジグリセリドであってよい。1つの実施形態では、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、ホスホリパーゼA1であり、例えば、ホスホリパーゼA1活性を有し、E.C.3.1.1.32として分類することができる。
【0081】
sn1位で極性脂質に作用する酵素は、ガラクト脂質(例えば、ジガラクトシルジグリセリド(DGDG)またはモノガラクトシルジグリセリド(MGDG))に作用することができる。これは、そのホスホリパーゼA1活性に加えられてよい。
【0082】
したがって、1つの実施形態では、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、例えばガラクトリパーゼであり、E.C.3.1.1.26として分類することができる。
【0083】
さらなる実施形態では、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、sn1位でDGDGに作用する。
【0084】
本明細書で使用するsn1位で極性脂質に作用する酵素に関連する用語「〜に作用する」は、その酵素が極性脂質のsn1位から脂肪酸を(例えば、加水分解によって)除去し、したがって、例えば遊離脂肪酸を遊離させることを意味する。
【0085】
sn1位で極性脂質に作用する酵素に関連した用語「優先的に」は、この酵素が、例えばsn2位での極性脂質の溶解を触媒することと比較して、sn1位での極性脂質の加水分解を触媒することを優先することを意味する。sn1位で極性脂質に作用する酵素は、アッセイ:「sn1位で極性脂質(ホスホリパーゼ)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」、および/または「ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2の位置特異性を決定するためのアッセイ」、および/または「sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)へ作用する酵素を決定するためのアッセイ」を使用して決定することができる。
【0086】
ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2の位置特異性を決定するためのアッセイ
基質:0.6%の16:0〜18:1 PC、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(Avanti Polar Lipids Inc.,Alabaster,Alabama;製品番号850457)、0.4%のTRITON(商標)−X 100(Sigma,X−100)および5mMのCaCl
2を0.05MのHEPESバッファー(pH7)中に溶解させた。膵酵素に対して0.003Mのデオキシコール酸塩も加えた。
【0087】
アッセイ手順:
2mLの基質を30℃でインキュベートし、0.05MのHEPESバッファー中の0.1mLの酵素溶液(およそ2〜5TIPU/mLまたは反応の10分後に消費された2〜5%の基質に対応する酵素量)を添加し、10分間にわたり磁気攪拌しながらインキュベートした。反応を停止させて遊離脂肪酸をプロトン化するために、40μLの4MのHClを加える。1mLの99%のエタノールを加え、ボルテックスミキサーで混合する。0.5mgのC17:0脂肪酸(マルガリン酸)を含有する5mLのMTBE(メチルtert−ブチルエーテル)を加えた。試料をボルテックスミキサー上で再び5秒間混合し、25rpmのRotamix上で30分間にわたり抽出した。試料を10分間にわたり1520gで遠心した。
【0088】
1基の500mgのアミン(NH
2)−Bond Elut SPEカラム(Agilent)をBond Elut真空システム上に配置した。カラムは、8mLの石油エーテルを用いて状態調節する。抽出からのMTBE相は、カラム上に適用し、
第1分画 8mLの溶媒A:MTBE:2−プロパノール、2:1
第2分画 8mLの溶媒B:アセトン:ギ酸、100:2
を用いて抽出した。
【0089】
溶媒は、およそ0.25mL/分で抽出した。
【0090】
収集した脂肪酸分画(分画2)を乾燥するまで蒸発させ、脂肪酸をGLCによって分析した。内部標準物質のC17:0脂肪酸に基づき、C16:0およびC18:1脂肪酸の量を決定する。
【0091】
酵素活性は、アッセイ条件下で1分間当たりに生成された脂肪酸(μmol)として計算する。
【数6】
式中、
A=C16:0脂肪酸(%)+C18:1脂肪酸(%)
2=基質量(mL)
1000000=μmolへのモル変換
D=酵素希釈係数
MV=生成されたC16:0脂肪酸およびC18:1脂肪酸の平均分子量
10=反応時間(分間)
0.1=アッセイに添加された酵素量(mL)
である。
【0092】
酵素特異性は、下記のように計算する。
【数7】
【0093】
sn1位で極性脂質に作用する酵素に関連した用語「優先的に」は、この酵素が、例えばsn2位での極性脂質の溶解を触媒することと比較して、sn1位での極性脂質の加水分解を触媒することを優先することを意味する。sn1位で極性脂質に作用する酵素は、アッセイ:「sn1位で極性脂質(ホスホリパーゼ)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」、および/または「ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2の位置特異性を決定するためのアッセイ」、および/または「sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)へ作用する酵素を決定するためのアッセイ」を使用して決定することができる。
【0094】
sn1位で極性脂質に優先的に作用する酵素は、「ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2位置特異性を決定するためのアッセイ」、および/または「sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」を使用して決定した場合、相対PLA1/sn1活性が少なくとも60%であろうことを意味する。
【0095】
1つの実施形態では、sn1位で極性脂質に優先的に作用する酵素は、「ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2位置特異性を決定するためのアッセイ」、および/または「sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」を使用して決定した場合、相対PLA1/sn1活性が少なくとも70%であろうことを意味する。
【0096】
sn1位で極性脂質に作用する酵素に関連した用語「特異的に」は、この酵素が、sn1位での極性脂質の加水分解のみを触媒するであろうことを意味する。
【0097】
sn1位で極性脂質に特異的に作用する酵素は、「ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2位置特異性を決定するためのアッセイ」、および/または「sn1位で極性脂質(ガラクト脂質;MGDG)に作用する酵素を決定するためのアッセイ」を使用して決定した場合、少なくとも60%(好適には少なくとも70%)の相対PLA1/sn1活性を有することを意味する。
【0098】
1つの実施形態によると、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、(参照により本明細書に組み込まれる)国際公開第02/03805号パンフレットで教示された酵素を含むことができる。1つの実施形態では、sn1位で極性脂質に作用する酵素には、POWERBAKE(登録商標)4080、POWERBAKE(登録商標)4090、PANAMORE(登録商標)、LIPOPAN F(商標)およびLIPOPAN EXTRA(商標)が含まれる。
【0099】
1つの実施形態では、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)由来のホスホリパーゼA1(例えば、LIPOPAN F(商標))であってよい。1つの実施形態では、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)由来のホスホリパーゼA1は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第98/26057号パンフレットで教示された酵素であってよい。
【0100】
1つの実施形態では、本発明によるsn1位で極性脂質に作用する酵素は、配列番号1と少なくとも60%の配列同一性、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%の同一性を有する酵素である。
【0101】
好ましくは、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、NAPEへの低活性を有する。
【0102】
本発明の1つの利点は、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)に作用するホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素の組み合わせの使用である。
【0103】
sn1位およびsn2位でのリン脂質およびガラクト脂質の脂肪酸組成物は、脂肪酸の長さおよび飽和度レベルの両方において有意に異なる。
【0104】
驚くべきことに、sn1位またはsn2位のいずれかで作用する酵素を組み合わせることにより、例えば、焼成、蒸し加熱、茹で加熱、または揚げ加熱などの調理により、ドウおよびそのドウから得られる製品に対して有意な利点を提供する極性脂質(例えば、リソリン脂質およびリソガラクト脂質(例えば、MGMGまたはDGMG)の組み合わせを得ることができる。
【0105】
NAPE中でさえ、sn1位またはsn2位に存在する脂肪酸は、一般的にsn2位でより多くの不飽和脂肪酸が見られ、極めて相違する。ホスホリパーゼA1は、例えば、sn2位にある脂肪酸を用いて、sn1位でNAPEを加水分解して2−NALPEを生成することができる(Structural Analysis of Wheat Flour Glycerolipids.Lipids,Vol.6,No.10,p.768−776を参照されたい)。
【0106】
このため、本発明は、sn1位で作用する酵素を用いて極性脂質(例えば、さらなる極性脂質)を修飾することと組み合わせて、sn2位でNAPEを溶解する(例えば、加水分解する)ことの影響に関する。
【0107】
本発明者らは、初めて、NAPEおよびさらなる極性脂質を選択的に溶解する(例えば、加水分解する)ことの重要性を示す。
【0108】
本発明によると、ホスホリパーゼA2酵素、および極性脂質に作用する酵素は、ベークド製品の、本明細書で特許請求される酵素の添加を除く同一条件下で製造されたベークド製品と比較して少なくとも10%である比体積の増加を生じさせる有効量でドウ構成成分に混合される。
【0109】
本発明によると、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素は、ベークド製品の、本明細書で特許請求される酵素の添加を除く同一条件下で製造されたベークド製品と比較して少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%である増加した柔らかさを生じさせる有効量でドウ構成成分に混合される。
【0110】
本明細書で使用する用語「改良された柔らかさ」および「増加した柔らかさ」は、同義語と見なされ、ベークド製品中の比体積当たりの力の減少を意味する可能性がある。
【0111】
好適には、食品用酵素組成物は、脂質成分がドウまたはベークド製品から(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、または液体クロマトグラフィー−質量分光法(HPLC/MS)、またはHPTLC分析を受けて)抽出されると、酵素が添加されていない場合の同一のドウまたはベークド製品と比較して、(乾燥ドウ重量に基づいてモノガラクトシルモノグリセリドの)約0.005重量/重量%超の増加、好適には(乾燥ドウ重量に基づいてモノガラクトシルモノグリセリドの)0.01重量/重量%超の増加、好適には0.025重量/重量%超の増加、好適には0.05重量/重量%の増加、好適には(乾燥ドウ重量に基づいてモノガラクトシルモノグリセリドの)0.075重量/重量%超の増加を示し、ドウまたはベークド製品中のモノガラクトシルモノグリセリド含量を増加させると考えられる。
【0112】
好適には、食品用酵素組成物は、脂質成分がドウまたはベークド製品から(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、または液体クロマトグラフィー−質量分光法(HPLC/MS)、またはHPTLC分析を受けて)抽出されると、酵素が添加されていない場合の同一のドウまたはベークド製品と比較して、モノガラクトシルモノグリセリドの(乾燥ドウ重量に基づいて)約0.005〜0.1重量/重量%超の増加を示し、ドウまたはベークド製品中のモノガラクトシルモノグリセリド含量を増加させると考えられる。
【0113】
本発明によると、食品用酵素組成物は、脂質成分がドウまたはベークド製品から(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、または液体クロマトグラフィー−質量分光法(HPLC/MS)、またはHPTLC分析を受けて)抽出されると、食品用酵素組成物が混合されていない場合の同一のドウまたはベークド製品と比較して、ジガラクトシルジグリセリド含量の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、好適には少なくとも40%の減少を示し、ドウまたはベークド製品中のジガラクトシルジグリセリド含量を減少させると考えられる。
【0114】
本発明によると、食品用酵素組成物は、ドウまたはベークド製品中のジガラクトシルジグリセリドを減少させると考えられる。脂質成分が完全にプルーフしたドウまたはベークド製品から(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、または液体クロマトグラフィー−質量分光法(HPLC/MS)、またはHPTLC分析を受けて)抽出されると、食品用酵素組成物が混合されていなかった場合の同一のドウまたはベークド製品と比較して、相対ジガラクトシルジグリセリド含量(例えば、乾燥ドウに基づいて約0.01〜0.1重量/重量%)において約5%〜50%の減少を示すと分析されている。
【0115】
1つの実施形態では、本発明のホスホリパーゼA2酵素は、100〜7500ePLU/kg(粉)の濃度で存在する。1つの実施形態では、ホスホリパーゼA2酵素は、150〜2000ePLU/kg(粉)で投与される。
【0116】
1つの実施形態では、本発明のsn1位で極性脂質に作用する酵素は、50〜2000TIPU/kg(粉)の濃度で存在する。1つの実施形態では、本発明のsn1位で極性脂質に作用する酵素は、200〜800TIPU/kg(粉)の濃度で投与される。
【0117】
ePLUアッセイ:
ホスホリパーゼA2酵素(ePLU)は、基質として卵黄を使用する下記のアッセイを使用して決定することができる。
【0118】
本アッセイは、食品用公定化学品集に従って実施される(FCC,8ed.,Appendix 5 p.1328)。
【0119】
基質:
44gの卵黄(ビーカー1つに卵黄2つ)を200mLの水に加え、Ultra Turrax mixerを用いてホモジナイズした。10mLの0.3Mの塩化カルシウムを添加した。10mLの基質を滴定グラスに移し、10mLの水および5mLの0.016Mのデオキシコール酸塩を加えた。基質を40℃でインキュベートし、pHはpHスタット滴定装置を使用して、0.05MのNaOHを用いてpH8へ調整した。0.1Mの酵素を加え、滴定データを5分間にわたり収集した。滴定剤は、0.05MのNaOHであった。時間の関数として滴定剤消費についての傾斜(70秒〜170秒)を使用して、アッセイ条件下において1分間当たりで遊離された脂肪酸(μmol)として活性(ePLU)を計算した。
【0120】
TIPUアッセイ:
ホスホリパーゼ活性(TIPU)は、下記のアッセイを使用して決定することができる:
基質:0.6%のL−αホスファチジルコリン95%植物(Avanti、製品番号441601)、0.4%のTRITON(商標)−X 100(Sigma、X−100)および5mMのCaCl
2を0.05MのHEPESバッファー(pH7)中に溶解させた。
【0121】
アッセイ手順:
試料、較正用試料および対照試料は、0.1%のTRITON(商標)X−100を含有する10mMのHEPES(pH7.0)中に希釈した。分析は、Konelab Autoanalyzer(Thermo,Finland)を使用して実施した。アッセイは、30℃でランした。34μLの基質を30℃で180秒間にわたって温度調節し、その後、4μLの酵素試料を添加した。酵素化は600秒間持続した。酵素化中に遊離した遊離脂肪酸の量は、WakoChemicals GmbH、Germany)から入手したNEFAキットを使用して測定した。
【0122】
このアッセイキットは、2種の試薬から構成される。
NDFA−HR(1):
0.53U/mLのアシル−CoAシンターゼ(ACS)
0.31mMの補酵素A(CoA)
4.3mMのアデノシン5−三リン酸二ナトリウム塩(ATP)
1.5mMの4−アミノ−アンチピリン(4−AA)
2.6U/mLのアスコルビン酸オキシダーゼ(AOD)
0.062%のアジ化ナトリウム
を含有する50mMのリン酸バッファー(pH7.0)
NDFA−HR(2):
2.4mMの3−メチル−N−エチル−N−(E−ヒドロキシエチル)−アニリン(MEHA)
12U/mLのアシル−CoAオキシダーゼ(ACOD)
14U/mLのペルオキシダーゼ(POD)
【0123】
酵素化後、113μLのNEFA−HR(1)を加え、この混合物を300秒間インキュベートした。その後、56μLのNEFA−HR(2)を加え、この混合物を300秒間インキュベートした。次にOD520nmを測定した。酵素活性(μmol(FFA)/分・mL)は、オレイン酸から生成した較正曲線に基づいて計算した。酵素活性TIPU(pH7)は、アッセイ条件下で1分間当たりに生成された脂肪酸(μmol)として計算した。
【0124】
穀粉ドウは、本発明の組成物のための十分な量の脂質基質の全部を含有していない可能性がある。このため、酵素のための十分な基質を提供するためにドウに少なくとも1種のガラクト脂質、リン脂質またはそれらの組み合わせを補給することは本発明の範囲内に含まれる。表現「十分な基質」は、上述したドウ改良作用またはベークド製品改良作用を得るために、脂質基質のいずれも限定的ではないことを意味することは理解されるであろう。
【0125】
本発明の酵素にとっての補助的脂質基質は、極性脂質であってよい。これに関連して、特に有用な脂質は、例えばオート麦オイルなどの穀物由来の油または脂肪である。オート麦オイルは、典型的には、トリグリセリドに加えて、5〜25%のリン脂質および5〜12%の糖脂質を含有する。オート麦オイルは、高含量の極性脂質を有する分画を産生するために分別することができる。
【0126】
したがって、1種以上のリン脂質をドウに添加できることが企図されている。これに関連して、有用なリン脂質には、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)およびホスファチジルコリン(PC)が含まれる。
【0127】
1つの実施形態では、本発明の組成物は、レシチンをさらに含む。
【0128】
さらなる実施形態では、本発明によって使用するための組成物は、レシチンをさらに含む。
【0129】
別の実施形態では、本発明の方法は、レシチンを混合する工程をさらに含む。
【0130】
1つの実施形態では、本発明のレシチンは、大豆由来レシチンである。
【0131】
別の実施形態では、本発明のレシチンは、酵素的に修飾されている。
【0132】
好適には、本発明のレシチンは、ホスホリパーゼA2活性を備える酵素によって酵素的に修飾されている。
【0133】
好ましくは、本発明のレシチンは、N−アセチルホスファチジルエタノールアミンのsn2位で作用することができるホスホリパーゼA2によって修飾されている。
【0134】
本発明は、ドウまたはベークド製品の製造における、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素の使用であって、ベークド製品の比体積;ドウの特性(ドウの形成;ドウの伸展性など)を改良するため;ベークド製品のクラストのクリスピー性を改良するため;クラム構造を改良する(ベークド製品のクラム孔径を改良するか、またはベークド製品のクラム孔の均質性を改良するなど)ため;柔らかさを改良する(ベークド製品の柔らかさを改良するなど)ため;ベークド製品のオーブンスプリングを改良するため;ドウおよび/またはベークド製品中のN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させる(好ましくは14〜20個の炭素原子を含有する脂肪酸部分を備えるN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させる、好ましくは14〜20個の炭素原子を含有する飽和脂肪酸部分を備えるN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させる)ため;ドウおよび/またはベークド製品中のリソリン脂質を増加させるため;ドウおよび/またはベークド製品中のジガラクトシルモノグリセリドおよび/またはモノガラクトシルモノグリセリドを増加させるため;ドウおよび/またはベークド製品中のリソリン脂質、および/またはジガラクトシルモノグリセリド、および/またはモノガラクトシルモノグリセリドを増加させることと一緒にN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させるための使用をさらに提供する。
【0135】
本発明は、さらに有利には、改良された品質特徴(ベークド製品の改良された比体積、改良されたクラストのクリスピー性など;改良されたクラム構造(ベークド製品の改良されたクラム孔径またはベークド製品のクラム孔の均質性など);改良された柔らかさ(ベークド製品の改良された柔らかさなど);ベークド製品の改良されたキャッピング;ベークド製品の改良されたオーブンスプリング)を得るための方法を提供する。
【0136】
したがって、1つの実施形態では、本発明の方法は、ドウがベークド製品を得るために焼成されるさらなる工程を含む。ベークドパン製品の1つの特に望ましい特性は、実施例に規定した高い比体積である。したがって、本発明の酵素の添加は、好ましくは、ベークド製品の、酵素が添加されないことを除く同一条件下で製造されたベークド製品と比較して少なくとも10%である比体積の増加を生じさせる。より好ましくは、比体積の増加は、少なくとも20%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも40%である。
【0137】
当技術分野では、リパーゼ以外の酵素が、改良されたドウの特性およびベークド製品の品質に寄与できることは公知である。本発明の組成物に加えて、少なくとも1種のさらなる酵素を添加できることが本発明の範囲内に含まれる。そのようなさらなる酵素は、リパーゼ、デンプン分解酵素(例えば、アミラーゼまたはアミログルコシダーゼ)、ヘミセルラーゼ(例えば、キシラナーゼ)、セルラーゼ、オキシドレダクターゼ(例えば、ヘキソースオキシダーゼなどのグルコースオキシダーゼ)、脂質アシルトランスフェラーゼ、脱分枝酵素(例えば、プルラナーゼ)、ラクターゼおよびプロテアーゼを含む。
【0138】
別の実施形態によると、本明細書で特許請求される方法は、さらなる酵素がドウ構成成分に混合されるさらなる工程を含む。
【0139】
比体積
ベークド製品中の比体積は、製品の体積をその重量で割ったものであると定義することができる(g/mLまたはg/ccm)。
【0140】
本発明は、ベークド製品の比体積を改良することに関する。
【0141】
ドウの特徴
本発明は、ドウの特徴、例えばドウの形成;ドウの伸展性を改良することに関し得る。本発明は、ドウの粘着性に有害な影響を及ぼさない。
【0142】
これらは、ドウ中で下記のように測定できる。
【0144】
クラストのクリスピー性
本発明は、ベークド製品のクラストのクリスピー性を改良することに関連し得る。
【0145】
これは、下記のように、ベークド製品、例えばパンまたはロールパンにおいて測定できる。
【0147】
クラム構造
本発明は、クラム構造を改良すること(ベークド製品のクラム孔径を改良するか、またはベークド製品のクラム孔の均質性を改良するなど)に関連し得る。
【0148】
これらは、下記のように、ベークド製品、例えばパンまたはロールパンにおいて測定できる。
【0150】
柔らかさ
本発明は、柔らかさを改良する(ベークド製品の柔らかさを改良するなど)ことに関連し得る。
【0151】
柔らかさは、当技術分野において公知の任意の方法によって測定できる。
【0152】
これは、下記のように、ベークド製品、例えばパンまたはロールパンにおいて測定できる。
【0154】
1つの実施形態では、スライスパンの柔らかさ(または硬さ)は、Stable Microsystems製のテクスチャーアナライザーTAXTプラスを使用してテクスチャープロファイル分析(TPA)から決定した。一例として、第1日(D1)および第3日(D3)に柔らかさを測定するために35mmの金属プローブを使用できる。
【0155】
キャッピング
本発明は、ベークド製品のキャッピングに有害な影響を及ぼさない。「キャッピング」として公知である1つの一般的焼成特徴は一般に見られ、特に望ましくない。キャッピングは、上部が凝固(すなわち、硬化)した場合に発生し、その後、この上部は押し上げられ、ベークド製品、例えばマフィンまたはロールの内部からバッター(batter)を側面へ漏れ出させる。その結果は、望ましくないベークド製品、例えばマフィンまたはロールとなる。
【0156】
キャッピングは、ベークド製品を試験することによって主観的に評価され、観察されたキャッピングの量には、定性的数字を指定した。
【0157】
これは、ベークド製品中で下記のように測定できる。
【0159】
オーブンスプリング
本発明は、ベークド製品のオーブンスプリングを改良することに関連し得る。本明細書で使用する用語「オーブンスプリング」は、ベークド製品、例えばパンの、それらが高温のオーブン内に入れられた場合の体積の迅速な増加(上昇)を意味する。
【0160】
これは、ベークド製品中で下記のように測定できる。
【0162】
増加させるかまたは改良すること
本明細書で使用する用語「増加させるかまたは改良すること」は、前記ドウ(例えば、ベークド製品)から入手できる同一の、しかし本発明による酵素を添加していないドウまたは製品と比較して増加させるかまたは改良することを意味する。
【0163】
本発明の追加の技術的作用には、ドウおよび/またはベークド製品中でN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させる(好ましくは14〜20個の炭素原子を含有する脂肪酸部分を備えるN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させる、好ましくは14〜20個の炭素原子を含有する飽和脂肪酸部分を備えるN−アシルリソホスファチジルエタノールアミンを増加させる)こと;ドウおよび/またはベークド製品中のリソ−リン脂質を増加させること;ドウおよび/またはベークド製品中のジガラクトシルモノグリセリドおよび/またはモノガラクトシルモノグリセリドを増加させることが含まれる。
【0164】
1つの好ましい実施形態では、本発明は、ドウおよび/またはベークド製品中のリソ−リン脂質、および/またはジガラクトシルモノグリセリド、および/またはモノガラクトシルモノグリセリドを増加させることと一緒にN−アシルリソホスファチジルエタノールアミン(NALPE)(好ましくは1−NALPE)を増加させることに関する。
【0165】
共力作用/相乗作用
本発明者らは、初めて、例えばドウまたはベークド製品などの食料品中においてsn2位でNAPEに作用することができるホスホリパーゼA2酵素と、sn1位で極性脂質に作用する酵素との組み合わせによって提供される相乗作用を示した。
【0166】
用語「共力作用」または「相乗作用」は、同一用量において、個別または別個に使用した場合に各酵素から得られる増加より大きい作用(例えば、パンの体積)の増加を意味する。
【0167】
食品または食料品
本発明の方法、使用または組成物は、食料品の調製において使用できる。ここで、用語「食料品」は、広い意味に使用され、ヒト用の食料品および動物用の食料品(すなわち飼料)を包含する。1つの好ましい態様では、食料品は、ヒトが消費するためのものである。
【0168】
本発明では、用語「ドウ構成成分」は、粉(例えば、穀粉、好ましくは小麦粉)、水もしくは酵母の任意の1つ、または粉、水および/もしくは酵母の1つ以上を含む任意の組成物を意味する。
【0169】
好ましくは、本発明の酵素は、ドウ構成成分と混合される。
【0170】
好ましくは、本発明の酵素は、粉または粉を含む組成物と混合される。
【0171】
1つの実施形態では、食料品は、ドウ、または例えば焼成もしくは蒸し加熱、茹で加熱もしくは揚げ加熱などの調理により、ドウから製造される製品である。
【0172】
1つの実施形態では、ベークド製品は、ドウから入手できる(好ましくは入手される)。
【0173】
1つの実施形態では、蒸し製品は、ドウから入手できる(好ましくは入手される)。
【0174】
1つの実施形態では、茹で製品は、ドウから入手できる(好ましくは入手される)。
【0175】
1つの実施形態では、揚げ製品は、ドウから入手できる(好ましくは入手される)。
【0176】
1つの実施形態では、食料品は、ベークド製品である。
【0177】
1つの実施形態では、食料品は、蒸し製品である。
【0178】
1つの実施形態では、食料品は、茹で製品である。
【0179】
1つの実施形態では、食料品は、揚げ製品である。
【0180】
本発明の方法、使用または組成物は、ドウ、または例えば調理、例えば焼成、蒸し加熱、茹で加熱もしくは揚げ加熱などによってドウから製造された製品の調製において使用できる。
【0181】
好ましくは、ベークド製品は、本発明に従って製造されたドウを焼成することによって製造される。
【0182】
好ましくは、茹で製品は、本発明に従って製造されたドウを茹でることによって製造される。
【0183】
好ましくは、蒸し製品は、本発明に従って製造されたドウを蒸すことによって製造される。
【0184】
好ましくは、揚げ製品は、本発明に従って製造されたドウを揚げることによって製造される。
【0185】
所定の態様のために、好ましくは、食料品は、ベークド製品、例えばパン(例えば、精白パン、全粒パンもしくはライ麦パン;典型的には、一塊のパンもしくはロールパン、フランスのバゲット型のパン、ピタパン、フラットブレッド、クリスプブレッドもしくはピザパン)、トルティーヤ、パンケーキ、マフィン、パイクラスト、ペストリー、デニッシュペストリー、ケーキ、ビスケットまたはクッキーである。
【0186】
1つの態様では、食料品は、蒸し製品、例えば蒸しパン、ダンプリングである。
【0187】
1つの態様では、食料品は、茹で製品、例えば麺類またはパスタである。
【0188】
1つの態様では、食料品は、揚げ製品、例えばドーナツである。
【0189】
本明細書に定義した「食品用酵素組成物」は、ドウに添加するために好適であるか、またはドウ構成成分と混合するために好適である任意の組成物であってよい。
【0190】
1つの非限定的例として、本発明の食品製品には、ベークド製品およびドウ製品が含まれる。
【0191】
本明細書で使用する用語「ドウ」は、粉と液体(例えば、水)との粘度の高い展性の混合物を意味する。ドウは、酵母または他の膨張剤を含むことができる。ドウは、例えば、脂肪、またはフレーバー剤、または塩、または糖などの他のドウ構成成分をさらに含むことができる。
【0192】
本発明によるドウは、小麦粉、トウモロコシ粉、米粉、ライ麦粉、マメ科の粉、アーモンド粉または他の穀粉から選択される粉の1つ以上から製造することができる。
【0193】
1つの実施形態では、ドウは、小麦粉から製造される。
【0194】
本発明の方法および使用は、任意の製パンプロセスの一部であってよい。本発明の組成物は、任意の製パンプロセスにおいて使用することができる。一例として、製パンプロセスは、スポンジアンドドウ;ストレート;ノータイム(no−time)および連続式パン製造からなる群から選択される1つ以上のプロセスであってよい。
【0195】
「スポンジアンドドウ」法
理論によって制限されることなく、スポンジアンドドウ捏ね上げ法は、2つの別個の段階であるスポンジ段階およびドウ段階から構成されてよい。第1段階(スポンジ段階)では、スポンジが製造されて、ある期間にわたって発酵され、第2段階(ドウ段階)では、スポンジは、完全処方をもたらす最終ドウ成分に加えられる。「スポンジ」のための他の用語には、酵母スターターまたは酵母前発酵種が含まれる。フランス式製パンでは、スポンジアンドドウ法は、ルバン−ルーブル(levain−levure)として公知であり得る。
【0196】
第1段階では、スポンジと呼ばれる混合物は、約1/3〜3/4の粉、酵母、イーストフード(例えば、砂糖)およびモルト(麦芽)、ならびに硬いドウまたはより液状のブリューを作成するために十分な水を含有していてよい。ショートニングはこの段階で加えられてよいが、ショートニングは、通常、後に添加され、発酵を制御するために1/3〜3/4の塩が添加されてよい。
【0197】
スポンジは、好適には温度制御装置を備えた任意の好適な捏ね上げ装置内で混合されてよい。
【0198】
好適には、これは、1バッチ当たり1トンを処理する大型の水平式ドウミキサーであってよく、温度制御を可能にするために、任意選択的に熱交換ジャケットを備えて構築される。
【0199】
混合する工程の目標は、グルテンの形成によって成分のほぼ均質なブレンドおよび一塊のパンの基本構造を形成するであろう細長く絡み合ったタンパク質ネットワークへのドウの「形成」である。極度の剪断作用は回避しなければならないため、通常のドウミキサーは、ミキサーの本体に対して平行に方向付けられた、1分間当たり35〜75回転で緩徐に回転し、それらの作用によってドウを伸展および混練する数本の平行のバーを有する。典型的な捏ね上げサイクルは、約12分間であろう。
【0200】
混合されたスポンジは、ホイール上の浅い長方形の金属製タンクであるボウル内に一気に入れられ、制御された温度および湿度(例えば、27℃および75%の相対湿度)の領域内に配置され、そこで体積が減少し始めるまで発酵される。ドロップまたはブレイクと呼ばれるこのプロセスのために必要とされる時間は、約3〜5時間で落下を生じさせるために頻回に調整される、例えば温度、粉のタイプ、酵母の量、吸収および麦芽の量などの変量に左右される。
【0201】
第2段階またはドウ段階では、スポンジはミキサーに戻され、残りの成分が加えられる。ドウは、最適粘稠度に伸展され、その後、発酵室に戻されるか、または一層成熟させるために「フロアタイム」に置かれる。
【0202】
1つの実施形態では、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素およびsn1位で極性脂質に作用する酵素は、スポンジ段階またはドウ段階のいずれか、好ましくはスポンジ段階で加えられてよい。これらは、同時または連続的に加えられてよい。
【0203】
別の実施形態では、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素は、スポンジ段階に(例えば、粉および他のドウ構成成分の混合中に)添加されてよい。代替的にまたは加えて、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、ドウ段階(例えば、捏ね上げ工程中)に添加されてよい。
【0204】
1つの実施形態では、NAPEに作用することができるホスホリパーゼA2酵素は、スポンジに添加され、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、ドウに添加される。
【0205】
1つの実施形態では、レシチン、好ましくは大豆をベースとするレシチンは、スポンジ段階(例えば、粉と他のドウ構成成分とを混合する工程中)に追加して添加されてよい。好適には、レシチンは、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用する少なくとも1種のホスホリパーゼA2酵素と一緒に添加されてよい。好適には、レシチンは、酵素的に修飾されているレシチンであってよい。1つの実施形態では、レシチンは、ホスホリパーゼA2活性を備える酵素によって酵素的に修飾されてよい(好ましくは、レシチンは、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2によって酵素的に修飾されてよい)。
【0206】
1つの実施形態では、ホスホリパーゼA2またはその一部分は、スポンジ段階中に添加される。
【0207】
「ストレートドウ」法
ストレートドウ法は、製パンの単純混合プロセスであってよい。ドウを製造するための全構成成分(例えば、成分)は、全部が一緒に配置され、1回の混練または捏ね上げセッションで結合される。捏ね上げた後、バルク発酵レストが分割前に行われる。
【0208】
1つの実施形態では、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素は、ドウ構成成分と混合されてよい。これらは、同時または連続的に加えられてよい。
【0209】
1つの実施形態では、レシチン、好ましくは大豆をベースとするレシチンが追加して添加されてよい。
【0210】
好適には、レシチンは、酵素的に修飾されたレシチンであってよい。1つの実施形態では、レシチンは、ホスホリパーゼA2活性を備える酵素によって酵素的に修飾されてよい(好ましくは、レシチンは、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2によって酵素的に修飾されてよい)。
【0211】
「ノータイム」法
「ノータイム」法は、ストレートドウ法の特別なサブセットである。非限定的例として、増加した量の酵母、ならびに例えばアスコルビン酸およびアゾジカルボンアミドなどの即効性酸化剤は、ストレートドウのバルク発酵期間の大半の排除を可能にする。
【0212】
連続式製パン
従来型のドウの調製および構成における多数の工程は、十分に自動化されてきたが、プロセスのいずれも真に連続式ではない。連続システムでは、ドウは、それがパン中に沈着されるまで、成分が混合される時間から中断せずに取り扱われる。初期発酵プロセスは、依然として本質的にバッチ式手順であるが、連続式製パンラインでは、従来のスポンジがブロスまたはブリューと呼ばれる液体前発酵種と取り換えられる。ブリューは、ドウに混合される前の数時間にわたり発酵させた、水、酵母、砂糖および粉と他の成分の部分との混合物から構成される。
【0213】
ブリューが発酵を終了した後、ブリューは、乾燥成分と一緒に、全成分を均質な塊に混合する捏ね上げ装置に供給される。バッター様材料が、流量を調節し、混練作業が適用される展開装置に混合物を送達するドウポンプを通って通過する。展開槽は、連続式ラインにおける重要な装置である。
【0214】
約50kg(100ポンド)の加工処理は、各90秒間行うことができ、それは、バッターを、組織構造を全く有さず、伸展性がほとんどなく、不適正なガス残留を備える流体の塊から平滑で弾性の皮膜を形成するドウに変化させる。ドウは、次に展開槽から計量装置内に移動し、この装置は常にドウを押し出し、食パンサイズの塊に断続的に切断し、真下を通過する容器内に落下させる。
【0215】
1つの実施形態では、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素、およびsn1位で極性脂質に作用する酵素は、液状前発酵種またはドウに例えば発酵後およびドウの捏ね上げ中に添加されてよい。これらは、同時または連続的に加えられてよい。
【0216】
別の実施形態では、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素は、液状前発酵種に添加されてよい。代替的にまたは加えて、sn1位で極性脂質に作用する酵素は、ドウの発酵後および捏ね上げ中にドウに添加されてよい。
【0217】
1つの実施形態では、レシチン、好ましくは大豆をベースとするレシチンは、前発酵段階またはドウに例えばドウの発酵後および捏ね上げ中のいずれかで追加的に添加されてよい。好適には、レシチンは、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用する少なくとも1種のホスホリパーゼA2酵素と一緒に添加されてよい。好適には、レシチンは、酵素的に修飾されたレシチンであってよい。1つの実施形態では、レシチンは、ホスホリパーゼA2活性を備える酵素によって酵素的に修飾されてよい(好ましくは、レシチンは、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2によって酵素的に修飾されてよい)。
【0218】
特に定義しない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。Singleton,et al.,DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY,20 ED.,John Wiley and Sons,New York(1994)、およびHale&Marham,THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY,Harper Perennial,NY(1991)は、本開示で使用する用語の多くの一般辞書を当業者に提供する。
【0219】
本開示は、本明細書に開示の例示的な方法および材料により限定されず、本明細書に記載のものと類似のまたは均等な任意の方法および材料を本開示の実施形態の実施または試験において使用することができる。数値範囲には、範囲を定義する数字が含まれる。特に明記しない限り、核酸配列はいずれも左から右に5’から3’に向けて記載され;アミノ酸配列は、左から右にアミノ基からカルボキシ基に向けてそれぞれ記載される。
【0220】
本明細書に提供した見出しは、本明細書を全体として参照することによって得ることができる本発明の種々の態様にも実施形態にも限定されない。したがって、直下に定義した用語は、本明細書全体を参照することによってより詳細に定義される。
【0221】
アミノ酸は、本明細書において3文字略称または1文字略称のアミノ酸の名称を使用して称される。
【0222】
本明細書において使用する用語「タンパク質」には、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドが含まれる。
【0223】
本明細書において使用する用語「アミノ酸配列」は、用語「ポリペプチド」および/または用語「タンパク質」と同義語である。一部の例では、用語「アミノ酸配列」は、用語「ペプチド」と同義語である。一部の例では、用語「アミノ酸配列」は、用語「酵素」と同義語である。
【0224】
用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、本明細書において互換的に使用される。本開示および特許請求の範囲において、アミノ酸残基について従来型の1文字コードおよび3文字コードを使用することができる。アミノ酸についての3文字コードは、IUPACIUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature(JCBN)に準拠して定義されるとおりである。ポリペプチドは、遺伝子コードの縮重に起因して2つ以上のヌクレオチド配列によってコードできることも理解されている。
【0225】
用語の他の定義は、本明細書全体にわたって出現する可能性がある。例示的な実施形態をより詳細に記載する前に、本開示は、記載の特定の実施形態に限定されず、当然ながら、それ自体変動し得ることを理解すべきである。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的のためにすぎず、限定するものでないことも理解すべきである。
【0226】
数値の範囲が提供される場合、前後の状況が明確に他のことを明示しない限り、下限の単位の少数第一位まで、その範囲の上限値と下限値との間の各介在値も具体的に開示されていると理解される。表示範囲内の任意の表示値または介在値間のそれぞれのより狭い範囲、およびその表示範囲内の任意の他の表示値または介在値は、本開示に包含される。これらのより狭い範囲の上限および下限は、その範囲内に独立して包含または除外される可能性があり、そのより狭い範囲内にいずれかもしくは両方の限度が含まれるか、または両方の限度が含まれない各範囲も、表示範囲内で任意の限度が具体的に除外されることを前提として本開示に包含される。表示範囲が限度の一方または両方を含む場合、それらの含まれた限度のいずれかまたは両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0227】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、前後の状況が明白に他のことを指示していない限り、複数形の指示対象も含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「酵素」への言及には複数のそのような候補物質が含まれ、「ドウ構成成分」への言及には、当業者などに公知である1種以上のドウ構成成分およびそれらの均等物への言及が含まれる。
【0228】
本明細書で考察する刊行物は、本出願の出願日よりも先に開示されているという意味でのみ提供される。本明細書において、このような刊行物が、本明細書に添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成することの容認と解釈すべきでない。
【0229】
以下では、例としてのみであるが、下記の実施例を参照しながら本発明を説明する。
【実施例】
【0230】
材料および方法:
材料:
・DSM、NLから市販で入手できる特にsn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素 − MAXAPAL(登録商標)、#4313(10000ePLU/mL)。
・LIPOMOD(商標)699Lは、sn2位でNAPEに作用するホスホリパーゼA2酵素であり、これは、Biocatalystsから市販で入手できる膵ホスホリパーゼA2である(12000ePLU/mL)。
・sn1位で極性脂質に作用する酵素であるPOWERBAKE(登録商標)4080(DuPontから市販で入手できる) − この酵素は、ガラクトリパーゼ活性およびホスホリパーゼ活性の両方を有することが公知であり(10000TIPU/g)、配列番号1に示したアミノ酸配列を有する。
・sn1位で極性脂質に作用する酵素であるPOWERBAKE(登録商標)4090(DuPontから市販で入手できる) − この酵素は、ガラクトリパーゼ活性およびホスホリパーゼ活性の両方を有することが公知であり(15,500TIPU/g)、配列番号1に示したアミノ酸配列を有する(POWERBAKE(登録商標)4090は、POWERBAKE(登録商標)4080と同一酵素であるが、POWERBAKE(登録商標)4090では酵素がより濃縮されている)。
・LYSOMAX(登録商標)Oil、さもなければ脂質アシルトランスフェラーゼとして公知であるグリセロリン脂質コレステロールアシルトランスフェラーゼ(GCAT)(配列番号2;Dupontから市販で入手できる)。この酵素は、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用することができる。酵素活性、1000TIPU/g。
・LIPOPAN(商標)は、sn1位で極性脂質に作用する酵素であり、ホスホリパーゼA1と呼ばれる。この酵素は、Novozymes DKから市販で入手できる(18500TIPU/g)。
・PANAMORE(商標)Golden Conc.,#4240は、sn1位で極性脂質に作用する酵素であり、ホスホリパーゼA1と呼ばれる。この酵素は、DSM,NLから市販で入手できる(29000TIPU/g)。
・SUREBAKE(登録商標)800、Dupont製のヘキソースオキシダーゼ(HOX)。
【0231】
TLC分析
装置:
・アプリケーター:オートマチックTLCサンプラー4、7cmの溶出時間にプログラミングされたCAMAG ADC2自動展開槽。
・HPTLCプレート:Merck製の10×20cmのシリカプレートNo.1.05641.0001。使用前に160℃で10分間にわたりCAMAG TLCプレートヒーターIII上で活性化した。
・展開:HPTLCシリカプレートは、160℃で10分間にわたりCAMAG TLCプレートヒーターIII上で乾燥させ、冷却し、16%のH
3PO
4中の6%の酢酸銅中に浸漬させた。さらに160℃で6分間にわたり乾燥させ、直後に評価した。
【0232】
ドウ脂質の分析:
・0.5mLのヘプタン:イソプロパノール(3:2)中に溶解させた5μLのドウ脂質(200mgの乾燥ドウから)試料をHPTLCプレートに適用した。
標準物質1A:ヘプタン:イソプロパノール(3:2)中に溶解させた0.1%のDGDG(ジガラクトシルジアシルグリセロール)(Avanti、製品番号#840524)をオートマチックTLCアプリケーターによってHPTLCプレートに様々な量((0.5−1−2−3および5μL)で適用した。
・ランニングバッファー4〜1:クロロホルム:メタノール:水(192:78:12)(ドウ脂質のための標準ランニングバッファー)。
・水中のランニングバッファー6:メチルアセテート:1−プロパノール:メタノール:0.25%のKCl(25:25:25:10:9)(リン脂質をより多く分離させるために使用した)。
・プレートチャンバー中の10mLのランニングバッファーおよびフィルターペーパーチャンバー内の25mL。
・展開後、TLCクロマトグラムをスキャンし、CAMAG TLCスキャナーを使用して異なる成分の面積を計算した。
・DGDG標準物質の面積に基づいて、較正曲線を構築し、粉脂質の個別成分をこの較正曲線に基づいて計算した。
【0233】
P−NMR分析:
レシチン試料(40±5mg)を1mLの4:2:3のCDCl
3:MeOH:CsCDTA(水性)(重水素化クロロホルム:メタノール:セシウム−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、体積/体積)中に溶解させた。CDTA溶液は、Milli−Q水中で1Mの濃度を用いて調製した。次に、pHを10.5に調整するためにCsOH・H
2O(水酸化セシウム:水)を添加した。試料を10秒間ボルテックスミキサーにかけ、20℃で10分間にわたり4500rpmで遠心し、次に550μLを1000μLのハミルトンシリンジを使用して5mmのNMRチューブに移し、分析のためにNMR機器に配置した。
【0234】
トリイソブチレートホスフェートを内部標準物質(2mg)として使用した。本発明者らは、5℃で収集したNMRスペクトルが、最適なピーク幅およびシグナル分散を伴う理想的なスペクトルを生成することを見いだした。
【0235】
NMRスペクトルは、Bruker Advance III分光計(Faellanden,Switzerland)、SampleJet試料チェンジャー(Bruker,Faellanden,Switzerland)およびリンに同調させた5mmのBBO(Broadband Observe)プローブ(Bruker,Faellanden,Switzerland)を使用して、14.1Tでの自動化下で収集した。スペクトルは、定量的条件下で収集した。
【0236】
ドウから抽出したリン脂質のLC/MS分析
ドウ脂質試料は、オンラインで三連四重極質量分析計と結合された液体クロマトグラフィーにより、ポジティブモードおよびネガティブモードで加熱エレクトロスプレーを用いてフルスキャンm/z50〜1500で分析された。NALPEは、ネガティブモードで脱プロトン化イオン[M−H]
−を形成した。
【0237】
このカラムは順相カラム(DIOL)であり、移動相は、1L中に20mLの水が添加されたアセトニトリル/アセトン(80/20)であった。水は、5mMのギ酸アンモニウムを含有していた。
【0238】
試料を2mLのアセトニトリル/アセトン(80:20)中に溶解させた。微量の選択したNALPEを抽出し、面積を比較した。
【0239】
機器
Agilent1100
バイナリーポンプ(G1312B)+μ−真空脱気剤(G1379B)
高性能オートサンプラーALS(G1367E)+サーモスタット1290(G1330B)
カラム区画(G1316A)
加熱エレクトロスプレーインターフェース(HESI−II)を備えるTSQ Vantage、Thermo Finnigan製の三連四重極質量分析計(MS7)。
カラム:YMC Pack Diol120 S−5μm、12nm 4.6×50mm(#526)
【0240】
クロマトグラフィー条件
【0241】
【表7】
【0242】
試料の調製
0.2gの乾燥ドウ由来の脂質を2mLのアセトニトリル/アセトン(80:20)に加え、10分間にわたり超音波処理した。
【0243】
16,000gで3分間遠心し、上清をそのまま注入した。
【0244】
計算:HPLC/MS分析に基づき、様々な脂肪酸を備えるNALPE構成成分の量を決定し、C16:0のNALPE、C18:0のNALPE、C18:1のNALPE、C18:2のNALPE、C18:3のNALPEの相対含量を計算した。
【0245】
ドウ脂質の抽出:
完全にプルーフしたドウの試料を液体窒素中で直ちに凍結させた。ドウを次に凍結してフリーズドライした。乾燥ドウを細かく挽いてふるいにかけた。1.0gの試料を蓋付きの15mLの遠心管に測り入れた。7.5mLの水飽和ブタノール(WSB)を添加してボルテックスミキサー上で混合した。試料を10分間にわたり90℃の水浴中に配置し、次に30分間にわたりRotaMix(25rpm)上に配置した。試料を再び10分間にわたり90℃の水浴中に配置し、次に30分間にわたりRotaMix上に配置した。試料を10分間にわたり2000rcfで遠心した。1.5mLの有機相を小型タンブラーに取り出し、窒素蒸気下で乾燥するまで蒸発させ、いずれかのさらなる分析のために使用した。
【0246】
実施例1
LYSOMAX(登録商標)Oilと組み合わせたPOWERBAKE(登録商標)4080を試験する焼成実験
この実験では、POWERBAKE(登録商標)4080をハードクラストロール用のレシピにおいてLYSOMAX(登録商標)Oilと組み合わせて試験した。
【0247】
【表8】
【0248】
Diosnaスパイラルミキサー上での混練。分析に従った粉に対する水取込み:400BU−2%。
【0249】
手順
全成分を緩徐な速度で1分間、ボウル内で混合する − 水を加え緩徐に2分間、および高速で6.5分間混練する。ドウ温度は、およそ26℃でなければならない。1350gのドウを測り、手で丸く成形する。ドウは、30℃で10分間にわたり加熱キャビネット内に静置する。
【0250】
ドウは、機械上の表に従った設定で「Glimik(商標)ラウンダー」上の30個のドウボールに成形する。
【0251】
ドウを34℃、相対湿度85%で45分間にわたりプルーフし、200℃/2Lのスチームで13分間+ダンパーを開いて5分間にわたり焼成した(MIWEオーブンプログラム1)。焼成した後、ロールパンを周囲温度で25分間冷却し、その後、計量して体積を測定した。
【0252】
ドウおよびパンの特徴は、当業者によって評価される。
【0253】
【表9】
【0254】
実験の構成および焼成評価からの結果は表1に示した。
【0255】
【表10】
【0256】
完全に発酵させたドウを凍結させ、フリーズドライし、乾燥ドウ中の脂質を、水飽和ブタノールを用いて抽出し、HPTLCによって分析した。
【0257】
HPTLC分析からの構成成分は、表2に示した結果を用いて同一プレート上で分析したDGDGについての較正曲線に基づいて定量した。
【0258】
【表11】
【0259】
表1における焼成試験結果は、POWERBAKE(登録商標)4080をドウに添加することがパンの体積に強力な作用を及ぼすことを例示している。しかし、30ppmのPowerbakeと組み合わせたLYSOMAX(登録商標)Oilの添加は、さらにパンの体積を増加させ、明確な相乗作用が見られる。この相乗作用は、ドウおよびパンのスコアの改良とも見なされる。100ppmのLYSOMAX(登録商標)Oilは、最も強力な相乗作用をもたらし、HPTLC分析は、POWERBAKE(登録商標)4080がモノガラクトシルモノグリセリド(MGMG)およびジガラクトシルモノグリセリド(DGMG)の形成中、モノガラクトシルジグリセリド(MGDG)およびジガラクトシルジグリセリド(DGDG)の両方に強力な活性を有することを確証している。この酵素は、さらに、NALPEの形成中のNAPEに強力な活性を有する。LYSOMAX(登録商標)OilもNALPEの形成中のNAPEに活性を有する。LYSOMAX(登録商標)Oilのドウ中のガラクト脂質への一部の活性も見られる。
【0260】
理論によって拘束されることを望むものではないが、POWERBAKE(登録商標)4080とLYSOMAX(登録商標)Oilとの間の相乗性焼成性能は、LYSOMAX(登録商標)OilがNAPEのsn2位上に活性であるが、他方では、POWERBAKE(登録商標)は、極性脂質(MGDGおよびDGDGならびにNAPEを含むホスホリパーゼを含む)中のsn1位で活性であるという事実に起因する。
【0261】
実施例2
LYSOMAX(登録商標)Oilを25ppm〜200ppmの用量で試験する焼成実験
実施例1では、LYSOMAX(登録商標)Oilの最適用量がPOWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせて100ppmであることが示された。用量反応を詳細に試験するために、LYSOMAX(登録商標)OilをPOWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせて25ppm〜200ppmの用量で試験した。結果は表3に示した。
【0262】
【表12】
【0263】
焼成試験結果は、LYSOMAX(登録商標)Oilと組み合わせた30ppmのPOWERBAKE(登録商標)4080の相乗作用を確証している。相乗作用および100ppmでの最適用量を見るには、少なくとも75ppmのLYSOMAX(登録商標)Oilが必要とされる。
【0264】
完全に発酵させたドウを凍結させ、フリーズドライし、乾燥ドウ中の脂質を、水飽和ブタノールを用いて抽出し、HPTLCによって分析した(表4)。
【0265】
【表13】
【0266】
ドウ脂質の分析は、NAPEへのLYSOMAX(登録商標)Oilの活性を確証しているが、さらにLYSOMAX(登録商標)Oilの用量の増加とともにNALPEの用量が減少すること、およびNAGPEが形成されることも明らかである。25〜200ppmの用量のLYSOMAX(登録商標)Oilは、ガラクト脂質に極めてわずかな作用のみを有する。
【0267】
ドウ脂質は、さらにまた表5に示したNALPEの異性体組成に焦点を当ててP−NMRによって分析した。表5からの結果は、LYSOMAX(登録商標)Oilの用量が増加するにつれて、この酵素のsn2位特異性のためにより多くの1−NALPEが生成されることを示している。
【0268】
【表14】
【0269】
実施例3
MAXAPAL(登録商標)と組み合わせたPOWERBAKE(登録商標)4080を試験する焼成実験
この実験では、POWERBAKE(登録商標)4080をハードクラストロールのレシピでMAXAPAL(登録商標)またはLYSOMAX(登録商標)Oilと組合わせて試験した。
【0270】
MAXAPAL(登録商標)は、高いPLA2特異性を備えるホスホリパーゼである。
【0271】
実験の構成および焼成評価からの結果は表6に示した。
【0272】
【表15】
【0273】
ドウおよびパンの総スコアは、(10−粘着性)として加えられる、粘着性のスコアとは別の個別スコアの合計として計算する。
実験1:総スコア=7+(10−7)+4+(10−6)+5+5+4+5+5=42
【0274】
表6からの結果は、POWERBAKE(登録商標)4080とMaxapalとの組み合わせがパンの体積に関して明白な相乗作用を生成すること、およびドウおよびパンの特徴も改良されることを明白に例示している。さらに、MAXAPAL(登録商標)が様々な用量に対して極めて耐性であることも観察され、このとき、増加した作用は100〜750ppmの用量のMAXAPAL(登録商標)から見られる。
【0275】
完全に発酵させたドウを凍結させ、フリーズドライし、乾燥ドウ中の脂質を、水飽和ブタノールを用いて抽出し、HPTLCによって分析した。
【0276】
HPTLC分析からの構成成分は、表7に示した結果を用いて同一プレート上で分析したDGDGについての較正曲線に基づいて定量した。
【0277】
【表16】
【0278】
HPTLC分析は、MAXAPAL(登録商標)がNALPEの形成中にNAPEに極めて活性であることを確証している。
【0279】
この酵素はNAPEに対して極めて特異的であり、NAGPEの有為な形成は観察されない。これは、MAXAPALが様々な用量に対して耐性である理由を説明し得る。MAXAPAL(登録商標)は、DGDGには活性を有していないが、MGDG形成が観察されたようにMGDGへの小さい活性が例示された。理論によって拘束されることを望むものではないが、NAPEからNALPEへの加水分解に関するMAXAPAL(登録商標)の特異性は、この酵素がPOWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせて正の相乗作用を有する理由を説明し、さらに、これは、MAXAPAL(登録商標)を容易に過剰投与できない理由も説明する。しかし、POWERBAKE(登録商標)4080およびMAXAPAL(登録商標)の組み合わせが少量のNAGPEを生成することは明らかである。
【0280】
これは、POWERBAKE(登録商標)4080がsn1位で脂肪酸に活性であるために、sn2−NALPEよりもPOWERBAKE(登録商標)4080にとってより好ましい基質であるsn1−NALPEをMAXAPAL(登録商標)が生成するという事実によって説明することができる。
【0281】
これらの酵素の特異性およびドウ中のNALPEの脂肪酸組成に及ぼす影響をより詳細に試験するために、ドウから抽出された脂質をHPLC/MSによって分析し、C16:0、C18:0、C18:1、C18:2およびC18:3脂肪酸組成を備えるNALPEの相対組成を分析した。ドウ中のNALPEの脂肪酸組成およびドウ脂質のTLC分析から計算されたNALPEの量に基づいて、ドウ中のC16:0_NALPEの相対量を表8に示した表に示したように計算した(対照ドウ中のC16:0_NALPEの相対量は、100%であると規定した)。
【0282】
【表17】
【0283】
表7および表8の結果は、POWERBAKE(登録商標)4080がドウ中で有意な量のNALPEを生成することを確証しているが、C16:0_NALPEの量はわずかにのみ増加する(3〜8%)。これは、POWERBAKE(登録商標)4080がNAPEのsn1位で脂肪酸を加水分解するという事実によって説明される。ドウを、MAXAPAL(登録商標)を用いて処理すると、ドウ中のNALPEの量も増加し、この場合、MAXAPAL(登録商標)がドウ中のNAPEのsn2位で脂肪酸を加水分解するために、C16:0_NALPEの量は強力に(340%)増加することが観察される。
【0284】
POWERBAKE(登録商標)4080をMAXAPAL(登録商標)と結び付けると、C16:0_NALPEの量を増加させることが可能であり、表7に示したように、この酵素の組み合わせは、DGMGおよびMGMGの製造中にドウ中のDGDGおよびMGDGのようなガラクト脂質にも活性である。
【0285】
POWERBAKE(登録商標)4080およびMAXAPAL(登録商標)が焼成性能に及ぼす正の相乗作用は、DGMG、MGMGおよび16:0_NALPEの形成中のガラクト脂質およびNAPEへの組み合わせ作用によって説明された。MAXAPAL(登録商標)は、さらに、ドウ中のPCおよびPEのような他のリン脂質に対して活性であり、これらの構成成分はsn1位でより多くの飽和脂肪酸も有することは公知である。このため、ドウ中で生成されたLPCおよびLPEもより多量の飽和(c16:0)脂肪酸を有すると予測されている。
【0286】
実施例4
ハードクラストロールを用いた焼成実験
この実験の目的は、Biocatalysts製の別のPLA2であるLIPOMOD(商標)699Lを試験し、sn1特異的酵素であるPOWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせた作用を調査することであった。
【0287】
これらの酵素は、ハードクラストロールのための手順(実施例1)に従って試験し、パンの比体積ならびにドウおよびパンの特性を評価した。
【0288】
これらの酵素は、表9に略述したように試験したが、焼成試験結果も表9に示した。
【0289】
【表18】
【0290】
表9からの結果は、PLA2であるLIPOMOD(商標)699Lとsn1特異的グリコリパーゼPOWERBAKE(登録商標)4080とを組み合わせることによる相乗作用を明白に示している。LIPOMOD(商標)699Lは、独力でパンの体積をわずかに増加させ、POWERBAKE(登録商標)4080もパンの体積を明白に増加させる。しかし、これらの2種の酵素の組み合わせは、パンの体積を個別酵素と比較してより多く増加させる。さらに、ドウおよびパンの総スコアも、これらの2種の酵素を組み合わせることによって明白に改良される。
【0291】
実施例5
ハードクラストロールを用いた焼成実験。
以前の焼成試験では、PLA2酵素がsn1特異的酵素POWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせた場合に相乗作用を示すことが示された。この酵素もsn1特異的ホスホリパーゼ活性を有する。本試験では、他のsn1特異的ホスホリパーゼを表10に示したようにMAXAPAL(登録商標)、PLA2と組み合わせて試験した。
【0292】
これらの酵素は、新規のリフォーム粉(DK2015−00040)を使用した変更以外、ハードクラストロール(実施例1)についての手順に従って試験した。
【0293】
【表19】
【0294】
MAXAPAL(登録商標)とPANAMORE(登録商標)およびLIPOPAN F(商標)との組み合わせによって得られた焼成試験結果は、パンの体積への相乗作用を明白に示した。
【0295】
実施例6
ハードクラストロールを用いた焼成実験。
焼成実験は、sn1特異的酵素POWERBAKE(登録商標)4080およびsn2特異的酵素MAXAPAL(登録商標)の組み合わせが、製パンに使用された場合にパンの体積に正の相乗作用を有することを示している。しかし、粉中のリン脂質の量がむしろ制限されることは公知である。本試験の目的は、ドウに大豆レシチンを混入した場合のこれらの酵素の作用を調査することであった。
【0296】
焼成実験は、表11に示した酵素およびレシチンを用いたハードクラストロール(実施例1)の手順に従って実施した。
【0297】
【表20】
【0298】
表11に示したパンの体積に及ぼす作用は、0.2%または0.5%のレシチンを含有するドウ中のPOWERBAKE(登録商標)4080およびMAXAPAL(登録商標)の相乗作用を明白に確証している。
【0299】
実施例7
ハードクラストロールを用いた焼成実験。
この焼成実験では、Polar Bear(DK2015−00071)と呼ばれる米国製の粉を使用したハードクラストロールにおけるMAXAPAL(登録商標)PLA2およびグリコリパーゼPOWERBAKE(登録商標)4080の作用を試験した。焼成実験は、真菌αアミラーゼを添加しなかったこと以外、ハードクラストロール(実施例1)の手順に従って実施した。実験の構成および結果は表12に示した。
【0300】
【表21】
【0301】
表12からの焼成試験結果は、MAXAPAL(登録商標)PLA2およびグリコリパーゼPOWERBAKE(登録商標)の組み合わせによる、これらの酵素が米国製粉において試験した場合の相乗作用を確証している。
【0302】
実施例8
スポンジアンドドウパンを用いた焼成実験
焼成実験は、ドウ中のNAPEへの活性を備えるsn1およびsn2の正の相乗作用を得ることが可能であることを示している。この正の作用は、グリセロール部分で飽和脂肪酸(C16:0_NALPE)を用いたNALPEの生成によって説明できる可能性がある。
【0303】
しかし、これらの2種のタイプの酵素は、ドウに添加すると、NAPE基質と競合し、このため、2種の酵素の組み合わせが、sn2特異的ホスホリパーゼ(MAXAPAL(登録商標)))が単独で使用された場合よりも少ないC16:0 NALPEを生成することが観察されている。
【0304】
しかし、スポンジアンドドウ手順のような所定の製パン手順では、スポンジ側およびドウ側の両方で酵素を添加することが可能である。sn2特異的ホスホリパーゼがスポンジ側のみに添加された場合、NAPE基質との競合は生じないであろう。本明細書では、sn1特異的グリコリパーゼをドウ側で添加できることが想定されている。
【0305】
スポンジ側で酵素を添加する別の態様は、スポンジ発酵中に形成された機能的極性成分をドウ捏ね上げ中に利用できることである。
【0306】
L.Gerits et al.(Food Chemistry 172(2015)613−621)によると、DATEMのような乳化剤のドウへの添加はドウのレオロジーに影響を有したが、他方では、リパーゼの添加は、加水分解された脂質が発酵中にのみ有意なレベルに放出されたため、影響を及ぼさなかった。
【0307】
スポンジアンドドウパンの製造手順におけるスポンジへの酵素の添加は、ドウに正の機能的なレオロジー特性を有する加水分解脂質を形成する。
【0308】
下記の焼成試験では、MAXAPAL(登録商標)がスポンジに添加され、POWERBAKE(登録商標)4080がドウ側に添加された。焼成実験は、リフォーム粉(DK2015−00040)を使用して下記に教示するスポンジアンドドウ手順に従って実施した。
【0309】
【表22】
【0310】
スポンジ:
1)全成分を第1速度で1分間混合する − Hobartミキサーにおいて第2速度で3分間混合する。
2)スポンジの温度はおよそ25.5℃でなければならない。
3)スポンジを30℃、85%RHで3時間発酵させる − 蓋のないボウル。
【0311】
ドウ:
1)スポンジおよび塩を除く残りの成分全部を、Hobartミキサーにおいて低速で2分間、中速で5分間混合する(氷水を使用する)。
2)塩を加える − 中速で8分間混合する。
3)550gのドウを測る。
4)ドウを周囲温度で10分間静置する。
5)Glimekモルダー上での成形:1:4−2:3−3:15−4:12−幅:両側で8。
6)成形したドウをスズ缶内に配置する。
7)43℃、95%RHで60分間プルーフする。
8)200℃で26分間焼成する(Miweオーブン、プログラム4)。
9)スズ缶からパンを取り出し70分間冷却し、計量して体積を測定する。
【0312】
酵素の用量および焼成試験結果は表13に示した。
【0313】
【表23】
【0314】
表13の結果は、スポンジにMAXAPAL(登録商標)が添加され、ドウにPOWERBAKE(登録商標)が添加された場合、スポンジアンドドウパン手順におけるMAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4080の正の相乗作用を得ることが可能であることを確証している。
【0315】
実施例9
スポンジアンドドウパンを用いた焼成実験
スポンジアンドドウパン製造手順は、従来使用されてきており、現在もなお米国の製パン産業で広範囲に使用されている。スポンジアンドドウ手順は、2段階のドウ捏ね上げ工程を特徴とする。スポンジは、粉(粉全体の70%)、水および酵母を捏ね上げることによって作成され、これは極めて長い時間(3時間)にわたり発酵される。スポンジは、次に、残りの粉、水、砂糖、塩および他の成分と混合される。通常、酵素もドウに添加されるが、同一基質に対して競合するであろう2種の酵素を添加する場合、1種の酵素をスポンジ側、および次に他方の酵素をドウ側に添加することができる。
【0316】
以下の実験では、スポンジアンドドウパン製造手順において米国製の粉(Polar Bear #DK2015−00071)を使用してMAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4080を試験し、これらの酵素については表14に示したような試験結果が得られた。
【0317】
【表24】
【0318】
表14からの結果は、スポンジに添加されたMAXAPAL(登録商標)がドウに添加されたPOWERBAKE(登録商標)4080と組み合わされると、パンの体積への相乗作用が生じることを確証している。
【0319】
実施例10
スポンジアンドドウを用いた焼成実験
POWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせたMAXAPAL(登録商標)の添加の作用について、スポンジ側またはドウ側のいずれかに添加されたMAXAPAL(登録商標)を用いるスポンジアンドドウパン手順において詳細に調査した。実験の構成および結果は表15に示した。
【0320】
【表25】
【0321】
表15に示したパン体積の結果は、MAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4080の組み合わせを添加することによって正の相乗作用が得られたことを確証している。この相乗作用は、スポンジ側およびドウ側の両方にMAXAPAL(登録商標)を添加した場合に観察される。これらの結果は、MAXAPAL(登録商標)がスポンジ側に添加された場合により強力な相乗作用が生じることを示している。
【0322】
実施例11
sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素を、sn1位で極性脂質に作用する酵素と組み合わせて使用して、角食パン(スポンジ&ドウ)において観察される柔らかさを試験する焼成実験
sn1位で極性脂質に作用する酵素(POWERBAKE(登録商標)4090)と組み合わせた、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素(MAXAPAL(登録商標))の添加の作用を、スポンジ段階で添加されるMAXAPAL(登録商標)およびドウ段階で添加されるPOWERBAKE(登録商標)4090を用いて角食パン(スポンジアンドドウパン手順)において詳細に調査した。
【0323】
POWERBAKE(登録商標)4090は、sn1位で極性脂質に作用する酵素である。詳細には、POWERBAKE(登録商標)4090は、極性脂質へのPLA1活性を有し、本明細書に開示した配列番号1を有する真菌脂肪分解酵素である。15,500TIPUの酵素活性を備えるPOWERBAKE(登録商標)4090を使用した。
【0324】
実験計画:
【0325】
【表26】
【0326】
SUREBAKE(登録商標)800(HOX)およびアスコルビン酸の使用は、全実験についてそれぞれ50および60ppmで一定に維持した。
【0327】
各試験変量からの2つのパンの塊を試験し、スライスパンの柔らかさ(または硬さ)は、Stable Microsystems製のテクスチャーアナライザーTAXTプラスを使用してテクスチャープロファイル分析(TPA)から決定した。第1日および第3日に35mmの金属製プローブを使用した。
【0328】
柔らかさ試験の結果:
MAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4090それぞれの個別の試験は、対照(MAXAPAL(登録商標)またはPOWERBAKE(登録商標)4090が添加されていない)と比較してより強い力を必要とすることを示し、より硬いパンであることを示した。MAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4090の組み合わせは最良の柔らかさを生じさせた。同一の組み合わせは、さらに体積に関して最高相乗作用を示した(本明細書にはデータを示していない)。
【0329】
図2に示したパンの柔らかさ試験の結果は、MAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4090の組み合わせを添加することによって正の相乗作用が得られたことを確証している。この相乗作用は、角食パンの製造において観察された。
【0330】
実施例12
sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素を、sn1位で極性脂質に作用する酵素と組み合わせて使用して、100%の全粒小麦パン(スポンジ&ドウ)において観察される柔らかさを試験する焼成実験
sn1位で極性脂質に作用する酵素(POWERBAKE(登録商標)4090)と組み合わせた、sn2位でN−アシルホスファチジルエタノールアミンに作用するホスホリパーゼA2酵素(MAXAPAL(登録商標))の添加の作用を、スポンジ段階で添加されるMAXAPAL(登録商標)およびドウ段階で添加されるPOWERBAKE(登録商標)4090を用いて全粒小麦(スポンジアンドドウ)パン手順において詳細に調査した。
【0331】
実験計画:
【0332】
【表27】
【0333】
SYREBAKE(登録商標)800(HOX)およびアスコルビン酸の使用は、全実験についてそれぞれ100および100ppmで一定に維持した。
【0334】
各試験変量からの2つのパンの塊を試験し、スライスパンの柔らかさ(または硬さ)は、Stable Microsystems製のテクスチャーアナライザーTAXTプラスを使用してテクスチャープロファイル分析(TPA)から決定した。第1日および第3日に35mmの金属製プローブを使用した。
【0335】
柔らかさ試験の結果:
PLA2の単独は、第1日および第3日のいずれにおいても、対照(MAXAPAL(登録商標)またはPOWERBAKE(登録商標)4090が添加されていない)と比較して増加した柔らかさを示した。
【0336】
POWERBAKE(登録商標)4090は、対照MAXAPAL(登録商標)またはPOWERBAKE(登録商標)4090と同一以下のレベルの柔らかさを示した。
【0337】
MAXAPAL(登録商標)およびPOWERBAKE(登録商標)4090の組み合わせは、増加した柔らかさを示した。
【0338】
図3に示した100%の全粒小麦パン中におけるパンの柔らかさ試験の結果は、MAXAPAL(登録商標)単独が対照(MAXAPAL(登録商標)またはPOWERBAKE(登録商標)4090が添加されていない)と比較して柔らかさを増加させることを示している。しかし、MAXAPAL(登録商標)とPOWERBAKE(登録商標)4090との組み合わせは、MAXAPAL(登録商標)単独、またはPOWERBAKE(登録商標)4090、または対照に比して柔らかさをさらに増加させる。
【0339】
実施例13
sn2特異的、NAPE活性PLA2の特徴および焼成性能
これらの実験の目的は、sn1特異的酵素であるPOWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせた場合にsn2特異性およびNAPE活性を備える別のホスホリパーゼ(CRC08335)に対する焼成用途における相乗作用性能を検証することであった。
【0340】
方法:
ガスクロマトグラフィー(GLC)
遊離脂肪酸は、GLCによってトリメチルシリル誘導体(TMS)として分析した。
【0341】
【表28】
【0342】
試料の調製
蒸発させた試料を1.5mLのヘプタン:ピリジン(2:1)中に溶解させる。500μLの試料溶液をクリンプバイアルに移し、100μLのMSTFA(N−メチル−N−トリメチルシリル−トリフルオルアセアミド(trifluoraceamid))を加え、60℃で15分間反応させる。
【0343】
CRC08335のクローニング
真菌ホスホリパーゼA2タイプ2をコードする合成遺伝子(CRC08335)は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)中で発現させるためにコドン最適化された遺伝子としてGeneray(http://www.generay.com.cn/english/)から注文された。CRC08335(配列番号4)(
図5)のタンパク質配列は、社内ミセリオフトラ・サーモフィル(Myceliophthora thermophile)菌株から同定され、NCBIデータベース内の最も近いホモログ(NCBIアクセッション番号XP_003666499.1を備えるサーモテロミセス・サーモフィラ(Thermothelomyces thermophila)ATCC 42464由来の分泌性ホスホリパーゼA2)との95%同一性を共有する。CRC08335は、SignalP 4.0による予測によるとN末端シグナルペプチド配列を有しており(SignalP 4.0:膜貫通領域からシグナルペプチドを識別する。Thomas Nordahl Petersen,Soeren Brunak,Gunnar von Heijne&Henrik Nielsen.Nature Methods,8:785−786,2011)、これはCRC08335が細胞外酵素であることを示唆している。
【0344】
N末端天然シグナルペプチドを保持しているCRC08335の合成遺伝子(配列番号5)(
図6)をpGXT(参照により本明細書に組み込まれる国際PCT出願である国際公開第2015/017256号パンフレットに記載されたpTTTpyr2ベクターと同一)中にクローニングした。pTTTpyr2ベクター中では、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)pyrG遺伝子は、H.ジェコリナ(H.jecorina)pyr2遺伝子と置き換えられる。pTTT−pyr2発現ベクターは、関心対象の遺伝子の発現を強力に誘導することができるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)cbhI−由来プロモーター(cbhI)領域およびcbhIターミネーター領域を含有していた。A.ニデュランス(A.nidulans)amdSおよびpyr2選択的マーカーは、単独窒素源としてのアセトアミド上での形質転換体の増殖を付与し、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)テロメア領域は、真菌細胞中での非染色体プラスミド維持を可能にする。CRC08335のクローニング後、結果として生じたプラスミドをpZKY512−1と表示した。pZKY512−1のプラスミドは
図7に提供した。
【0345】
社内ミセリオフトラ・サーモフィル(Myceliophthora thermophile)菌株から同定したCRC08335のタンパク質配列は、配列番号4として規定した。予測シグナルペプチドのポリペプチド配列は、MKFLSTALCLASSVLA(配列番号6)である。
【0346】
CRC08335の形質転換
プラスミドpZKY512−1は、プロトプラスト形質転換(Te’o et al.(2002)J.Microbiol.Methods 51:393−99)を使用して好適なトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)菌株中へ形質転換させた(公表されたPCT特許出願である国際公開第05/001036号パンフレットに記載された方法)。形質転換体は、単独窒素源としてのアセトアミドを含有する固形培地上で選択した。アセトアミドプレート上での5日間の増殖後、形質転換体を収集し、グルコースおよびソホロースの混合物を含有する合成培地中で250mLの振とうフラスコ内で発酵させた。
【0347】
結果:
SN1/SN2特異性:
CRC08335に対する酵素特異性は、「ホスホリパーゼ活性ならびにPC(ホスファチジルコリン)へのsn1およびsn2位置特異性を決定するためのアッセイ」に従って決定した。このアッセイは、GLC分析によって遊離したFFAを分析する、特別仕立てのFFA(遊離脂肪酸)組成物を備えるPC基質を使用する。結果は表16に略述した。
【0348】
【表29】
【0349】
表16に記載のデータは、MAXAPAL(登録商標)およびCRC08335が「相対PLA1活性(%)」と比較して高い「相対PLA2活性(%)」によって示されるように、sn2特異的であることを明白に示している。さらに、データは、POWERBake(登録商標)4080がsn1特異的であることを明白に反映している。
【0350】
NAPE活性:
CRC08335のNAPE活性は、酵素を添加しておよび添加せずに実施した焼成試行からのドウの脂質プロファイル分析によって評価した。焼成適用は、ハードクラストロールについての手順(実施例1)に従って実施した。
【0351】
NAPE活性は、ドウ脂質のHPLC分析によって検証した。ドウ脂質は、ドウからの脂質の抽出についての手順に従って完全にプルーフし、フリーズドライしたドウから抽出した。
【0352】
単離した脂質は、HILIC DIOLカラム、1.7μm、50×2.1mm(Fortis Technologies Ltd,UK)を使用するHPLCによって分析した。使用した溶媒は、下記の勾配:0〜20分間は100%の溶媒Aから100%の溶媒B、20〜30分間は100%の溶媒B、30〜40分間は100%の溶媒の勾配を用いる溶媒A:96%のアセトン、4%のメタノール、1mMのギ酸アンモニウムおよび溶媒B:60%のアセトン、34%のメタノール、6%のMiliQ水、1mMのギ酸アンモニウムであった。NAPEおよびNALPEは、荷電エーロゾル検出器および内部標準物質としての1−パルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−リノエオイル(linoeoil)(Avanti Polar Lipids,Alabama,USA)を使用して定量した。HPLC分析からの結果は表17に示した。
【0353】
【表30】
【0354】
表17に記載の結果は、CRC08335が、NAPEの加水分解およびより多くの乳化成分NALPEの生成によって示されるように、NAPE活性を有することを明白に示している。POWERBake(登録商標)4080も、NAPEの加水分解およびより多くの乳化成分NALPEの生成によって示されるように、NAPE活性を示している。NALPEの生成に加えて、POWERBake(登録商標)4080は、NAGPEの生成もさらに示している(データは示していない)。
【0355】
適用性能:
sn2特異的NAPE活性酵素CRC08335のPOWERBake(登録商標)4080と組み合わせた場合の相乗作用適用性能は、酵素を添加しておよび添加せずに実施した焼成試行によって評価した。焼成適用は、ハードクラストロールについての手順(実施例1)に従って実施した。
【0356】
CRC08335およびPOWERBake(登録商標)4080の相乗作用適用性能は、表18に略述したように増加した相対的比体積によって示された。
【0357】
【表31】
【数8】
【0358】
表18に記載の結果は、単独成分として使用された場合、sn2特異的NAPE活性酵素であるCRC08335が比体積に限定的な作用を有することを示している。CRC08335とPOWERBake(登録商標)4080との(それぞれの用量での)組み合わせおよび両方のリン脂質およびガラクト脂質加水分解からの乳化成分の形成は、比体積への明白な相乗作用を示している。
【0359】
結論
焼成実験およびドウ脂質の分析に基づくと、驚くべきことに、POWERBAKE(登録商標)4080、またはPOWERBAKE(登録商標)4090とMAXAPAL(登録商標)PLA2ホスホリパーゼ、またはLYSOMAX(登録商標)Oilとの組み合わせが焼成において正の相乗作用をもたらすことが見いだされている。これは、パン体積の改良ならびに柔らかさを含むドウおよびパンの特徴の改良によって確証されている。
【0360】
パンの体積への正の相乗作用は、さらにMAXAPAL(登録商標)が例えばLIPOPAN F(商標)およびPANAMORE(登録商標)のような他のPLA1酵素と組み合わされた場合にも観察された。
【0361】
他のPLA2酵素であるLIPOMOD(商標)699LおよびCRC08335を用いた焼成試験も、POWERBAKE(登録商標)4080と組み合わせた場合の正の相乗作用を示した。
【0362】
この相乗作用は、様々なタイプの小麦粉を使用した様々な焼成実験において確証された。
【0363】
POWERBAKE(登録商標)4080およびPOWERBAKE(登録商標)4090は、いずれもドウ中のガラクト脂質およびリン脂質へのsn1活性を備えるグリコリパーゼである。PLA2ホスホリパーゼであるMAXAPAL(登録商標)は、NAPE(および他のリン脂質)をsn1−NALPEの生成中にsn2位で加水分解するが、NALPEを有意な程度まで加水分解しない。NAPEは、sn1およびsn2位で異なる脂肪酸組成を有しており、sn1位では、典型的にはより飽和した脂肪酸(C16:0およびC18:0)を有するであろう。HPLC/MS分析により、MAXAPALがドウ中のC16:0_NALPEの強力な増加に寄与することが示された。
【0364】
理論によって拘束することを望むものではないが、C16:0_NALPEは、C18:2 NALPよりもドウ安定性により強力な改良を示すと予測されるが、それは、水性系中のNALPEが脂肪酸組成に依存して様々な中間相を形成するためである。
【0365】
しかし、MAXAPAL(登録商標)は、独力ではパン体積に大きい作用を及ぼすことに寄与しなかったが、POWERBAKE(登録商標)4080またはPOWERBAKE(登録商標)4090のいずれかと組み合わせると、強力な相乗作用が形成される。これは、2種の酵素の組み合わせによって生成される反応生成物C16:0_NALPE、MGMGおよびDGMGによって説明できる。
【0366】
一部の系では、MAXAPAL(登録商標)、およびPOWERBAKE(登録商標)4080(またはMAXAPAL(登録商標)、およびPOWERBAKE(登録商標)4090)は、組み合わせて使用されるとNAPE基質に対して競合する可能性がある。これは、ドウが2段階で、例えばいわゆるスポンジアンドドウ手順で混合される所定の製パン手順において軽減することができる。このタイプの製パンでは、C16:0_NALPEの最適生成のためにスポンジ側にMAXAPAL(登録商標)(またはNAPEに活性を備える他のPLA2)を添加し、その後、DGMGおよびMGMG生成のためにドウ側でPOWERBAKE(登録商標)4080またはPOWERBAKE(登録商標)4090を添加することが可能である。スポンジ側でMAXAPAL(登録商標)を添加することのさらなる別の利点は、ドウ捏ね上げ中にドウの特性の改良に寄与する反応生成物(例えば、NALPE)を容易に入手できることであった。