特許第6814237号(P6814237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814237
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】感光性組成物とその利用
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/027 20060101AFI20201228BHJP
   G03F 7/032 20060101ALI20201228BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20201228BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   G03F7/027 515
   G03F7/032
   G03F7/038 501
   G03F7/027
   G03F7/004 501
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-33791(P2019-33791)
(22)【出願日】2019年2月27日
(65)【公開番号】特開2019-168678(P2019-168678A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2018-55641(P2018-55641)
(32)【優先日】2018年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】垣添 浩人
(72)【発明者】
【氏名】佐合 佑一朗
【審査官】 倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/077461(WO,A1)
【文献】 特開2011−204514(JP,A)
【文献】 特開2016−071173(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0061543(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第2003−0089887(KR,A)
【文献】 特開2004−177562(JP,A)
【文献】 特開2013−080020(JP,A)
【文献】 特開2006−196455(JP,A)
【文献】 特開2010−015992(JP,A)
【文献】 特開2014−170051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F7/00;G03F7/004−7/18;7/26−7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と、
セルロース系の有機バインダと、
酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、
光重合性化合物と、
光重合開始剤と、を含み、
前記セルロース系の有機バインダと、前記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、前記光重合性化合物と、の合計を100質量%としたときに、
前記セルロース系の有機バインダの含有割合が10〜40質量%;
前記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の含有割合が5〜40質量%;
前記光重合性化合物の含有割合が30〜60質量%;
である、感光性組成物。
【請求項2】
前記セルロース系の有機バインダが、20mgKOH/g以上の酸価を有する、
請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
前記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の酸価が、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である、
請求項1または2に記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の重量平均分子量が、1万以上3万以下である、
請求項1〜3の何れか一つに記載の感光性組成物。
【請求項5】
前記セルロース系の有機バインダと、前記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、前記光重合性化合物と、の合計を100質量%としたときに、
前記セルロース系の有機バインダの含有割合が20〜35質量%;
前記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の含有割合が10〜30質量%;
前記光重合性化合物の含有割合が50〜60質量%;
である、
請求項1〜4の何れか一つに記載の感光性組成物。
【請求項6】
前記導電性粉末が、銀系粒子を含む、
請求項1〜5の何れか一つに記載の感光性組成物。
【請求項7】
グリーンシートと、
前記グリーンシート上に配置され、請求項1〜6の何れか一つに記載の感光性組成物の乾燥体からなる導電膜と、
を備える、複合体。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一つに記載の感光性組成物の焼成体からなる導電層を備える、電子部品。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか一つに記載の感光性組成物を基材上に付与して、露光、現像した後、焼成して、前記感光性組成物の焼成体からなる導電層を形成する工程を含む、電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性組成物とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光性成分と光重合開始剤とを含む感光性組成物を用いて、フォトリソグラフィ法により、基材上に導電層を形成する手法が知られている(特許文献1〜7参照)。かかる方法では、例えばまず、基材上に感光性組成物を付与し、乾燥させて、膜状体を成形する(膜状体の成形工程)。次に、上記成形した膜状体に所定の開口パターンを有するフォトマスクを被せ、フォトマスクを介して膜状体を露光する(露光工程)。これによって、膜状体の露光部分を光硬化させる。次に、フォトマスクで遮光されていた未露光部分を、アルカリ性の水系現像液で腐食して除去する(現像工程)。そして、所望のパターンとなった膜状体を焼成する(焼成工程)。以上のような工程を含むフォトリソグラフィ法によれば、従来の各種印刷法に比べて精細な導電層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−199954号公報
【特許文献2】特開2002−072472号公報
【特許文献3】特開2006−344590号公報
【特許文献4】特開2014−170051号公報
【特許文献5】国際公開2015−151892号
【特許文献6】特開2016−180908号公報
【特許文献7】特開2016−201104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、各種電子機器の小型化や高性能化が急速に進み、電子機器に実装される電子部品に対しても一層の小型化や高密度化が求められている。これに伴い、電子部品の製造にあたっては、導電層の低抵抗化と共に細線化(狭小化)が求められている。より具体的には、例えば、導電層を厚めに形成して抵抗を低減することや、パターンの解像性を向上して、配線のライン幅と隣り合うラインの間隔部分との比を表すラインアンドスペース(L/S)が20μm/20μm以下のファインラインの導電層を形成することが求められている。
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、導電層を厚めに、あるいは上記のような小さいL/Sで形成しようとすると、現像性が低下しがちで、安定的に所望のパターンを形成することが難しい。一例として、導電層の厚みが増すと、基材に近い深部の硬化が不十分となり、現像工程で導電膜に剥離や断線が発生し易くなる。また、L/Sが小さいと、現像工程でライン間のスペース部分に現像液が供給されにくくなる。その結果、現像時間、すなわち、未露光部分を完全に除去するまでに要する時間(ブレイクポイント(B.P.)までの時間)が長くなったり、除去しきれなかった残渣物がスペース部分に残存したりすることがある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、現像性と解像性とに優れた感光性組成物を提供することである。また、関連する他の目的は、かかる感光性組成物の乾燥体からなる導電膜を備える複合体を提供することである。また、関連する他の目的は、かかる感光性組成物の焼成体からなる導電層を備える電子部品と、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、導電性粉末と、セルロース系の有機バインダと、酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、光重合性化合物と、光重合開始剤と、を含む感光性組成物が提供される。この感光性組成物は、上記セルロース系の有機バインダと、上記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、上記光重合性化合物と、の合計を100質量%としたときに、上記セルロース系の有機バインダの含有割合が10〜40質量%;上記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の含有割合が5〜40質量%;上記光重合性化合物の含有割合が30〜60質量%;である。
【0008】
上記感光性組成物では、3種の有機成分、すなわち、セルロース系の有機バインダと、酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、光重合性化合物とが、適切にバランスされている。このことにより、現像工程において、未露光部分が除去され易くなり、現像時間を短縮すると共に、残渣の発生を低減することができる。また、露光部分の深部(基材に近い部分)まで硬化され易くなり、基材と露光部分との密着性を高めて、剥離や断線の発生を抑制することができる。その結果、上記感光性組成物によって、L/Sが20μm/20μm以下のファインラインの導電層を好適に形成することができる。
【0009】
ここで開示される好ましい一態様では、上記セルロース系の有機バインダが、20mgKOH/g以上の酸価を有する。このことにより、現像工程において未露光部分をより迅速かつきれいに除去することができる。
【0010】
ここで開示される好ましい一態様では、上記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の酸価が、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。このことにより、未露光部分の除去性と露光部分の耐エッチング性とをより高いレベルでバランスすることができる。すなわち、現像工程において、未露光部分をより迅速かつきれいに除去することができると共に、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。
【0011】
ここで開示される好ましい一態様では、上記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の重量平均分子量が、1万以上3万以下である。このことにより、少ない露光量であっても、露光部分を深部まで好適に硬化させることができる。
【0012】
ここで開示される好ましい一態様では、上記セルロース系の有機バインダと、上記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、上記光重合性化合物と、の合計を100質量%としたときに、上記セルロース系の有機バインダの含有割合が20〜35質量%;上記酸価を有する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の含有割合が10〜30質量%;上記光重合性化合物の含有割合が50〜60質量%;である。このことにより、現像性および/または解像性を一層向上して、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0013】
ここで開示される好ましい一態様では、上記導電性粉末が、銀系粒子を含む。このことにより、コストと低抵抗とのバランスに優れた導電層を実現することができる。
【0014】
また、本発明により、グリーンシートと、上記グリーンシート上に配置され、上記感光性組成物の乾燥体からなる導電膜と、を備える、複合体が提供される。
【0015】
また、本発明により、上記感光性組成物の焼成体からなる導電層を備える電子部品が提供される。上記感光性組成物によれば、L/Sの小さいファインラインの導電層を再現性良く形成することができる。このため、上記感光性組成物を用いることで、小型および/または高密度な導電層を備えた電子部品を好適に実現することができる。
【0016】
また、本発明により、上記感光性組成物を基材上に付与して、露光、現像した後、焼成して、上記感光性組成物の焼成体からなる導電層を形成する工程を含む、電子部品の製造方法が提供される。このような製造方法によって、小型および/または高密度な導電層を備えた電子部品を安定して製造することができ、生産性や歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る積層チップインダクタの構造を模式的に示す断面図である。
図2】例1の配線パターンの光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば感光性組成物の組成)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば感光性組成物の調製方法、導電膜や導電層の形成方法、電子部品の製造方法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
なお、以下の説明では、感光性組成物を有機成分の沸点以下の温度、具体的には、概ね200℃以下、例えば100℃以下で乾燥した膜状体(乾燥物)を「導電膜」という。導電膜は、未焼成(焼成前)の膜状体全般を包含する。導電膜は、光硬化前の未硬化物であってもよく、光硬化後の硬化物であってもよい。また、以下の説明では、感光性組成物を導電性粉末の焼結温度以上で焼成した焼結体(焼成物)を「導電層」という。導電層は、配線(線状体)と、配線パターンと、ベタパターンと、を包含する。
また、本明細書において範囲を示す「A〜B」(A,Bは任意の数字)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0020】
≪感光性組成物≫
ここに開示される感光性組成物は、例えば、L/Sが20μm/20μm以下のファインライン、特には、15μm/15μm以下の超ファインラインの配線を含む導電層の作製に好適に使用し得る。ここに開示される感光性組成物は、必須の成分として、(A)導電性粉末と、(B)有機バインダと、(C)光硬化性樹脂と、(D)光重合性化合物と、(E)光重合開始剤と、を含んでいる。以下、各構成成分について順に説明する。
【0021】
<(A)導電性粉末>
導電性粉末は、例えば、感光性組成物を焼成して得られる導電層に、電気伝導性を付与する成分である。導電性粉末としては特に限定されず、従来公知のものの中から、例えば用途等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。導電性粉末の好適例として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等の金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。合金としては、例えば、銀−パラジウム(Ag−Pd)、銀−白金(Ag−Pt)、銀−銅(Ag−Cu)等の銀合金が挙げられる。
【0022】
好適な一態様では、導電性粉末が銀系粒子を含んでいる。銀は、比較的コストが安く、かつ電気伝導度が高い。このため、導電性粉末が銀系粒子を含むことで、コストと低抵抗とのバランスに優れた導電層を実現することができる。
なお、本明細書において、「銀系粒子」とは、銀成分を含むもの全般を包含する。銀系粒子の一例として、銀の単体、上記した銀合金、銀系粒子をコアとするコアシェル粒子、例えば銀−セラミックのコアシェル粒子等が挙げられる。
【0023】
特に限定されるものではないが、導電性粉末のD50粒径(レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径。)は、概ね0.1〜5μmであるとよい。D50粒径を上記範囲とすることで、露光部分の露光性能を向上して、ファインラインを一層安定的に形成することができる。感光性組成物中での凝集を抑制して、安定性を向上する観点からは、導電性粉末のD50粒径が、例えば、0.5μm以上、1μm以上であってもよい。また、細線形成性を向上したり、導電層の緻密化や低抵抗化を進めたりする観点からは、導電性粉末のD50粒径が、例えば、4.5μm以下、4μm以下であってもよい。
【0024】
導電性粉末は、その表面に有機表面処理剤が付着していてもよい。有機表面処理剤は、例えば、感光性組成物中における導電性粉末の分散性を向上する、導電性粉末と他の含有成分との親和性を高める、導電性粉末を構成する金属の表面酸化を防止する、のうちの少なくとも1つの目的で使用され得る。有機表面処理剤としては、例えば、カルボン酸等の脂肪酸、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0025】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める導電性粉末の割合は、概ね50質量%以上、典型的には60質量%以上、例えば70質量%以上、一例では80質量%以上であって、概ね95質量%以下、例えば90質量%以下、85質量%以下であるとよい。上記範囲を満たすことで、緻密性や電気伝導性に優れた導電層を好適に形成することができる。また、感光性組成物の取扱性や、導電膜を成形する際の作業性を向上することができる。
【0026】
<(B)有機バインダ>
有機バインダは、基材と光硬化前の導電膜(未硬化物)との接着性を高める成分である。また、後述する(C)光硬化性樹脂を必須として含む感光性組成物は、現像時間が長くなる背反がある。このため、ここに開示される技術において、有機バインダは、上記背反を補って、現像時間を短縮したり現像性を向上したりするための成分である。有機バインダは、後述する(C)光硬化性樹脂や(D)光重合性化合物とは異なり、感光性(例えば光硬化性)を有しない。本実施形態において、有機バインダは、セルロース系化合物を含んで構成されている。セルロース系化合物を含むことで、(A)導電性粉末と、後述する(C)光硬化性樹脂や(D)光重合性化合物とを馴染み易くして、感光性組成物の保存安定性を向上することができる。また、セルロース系化合物は、典型的にはセルロースの繰り返し構成単位であるグルコース環に複数の水酸基を有し、良好な水溶性を示すことから、現像工程において水系現像液で容易に除去することができる。
【0027】
セルロース系化合物は、セルロース、セルロースの誘導体、およびこれらの塩を包含する。セルロース系化合物としては、従来公知のもののなかから1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。セルロース系化合物の一好適例として、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;等が挙げられる。
【0028】
現像工程でアルカリ性の水系現像液を使用する場合、セルロース系化合物は、アルカリ可溶性の高い構造部分、例えば、フェノール性水酸基、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノ基、ボロン酸基のような酸性基を有しているとよい。なかでもカルボキシル基が好ましい。酸性基は、解離性のプロトンを有し、水中で酸性を示す置換基である。酸性基は一部がエステル化されていてもよい。酸性基は、セルロース系化合物の主鎖(炭素数が最大となる炭素鎖。以下同じ。)の炭素原子に結合していてもよく、側鎖(主鎖から枝分かれしている炭素鎖。以下同じ。)の炭素原子に結合していてもよい。アルカリ可溶性の高い構造部分を含むことにより、アルカリ性の水系現像液で、未露光部分を一層迅速かつ残渣なく除去し易くなる。
【0029】
好適な一態様では、セルロース系化合物が酸価を有する。セルロース系化合物の酸価は、概ね10mgKOH/g以上、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは25mgKOH/g以上、例えば30mgKOH/g以上であって、典型的には後述する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂よりも小さく、概ね150mgKOH/g以下、好ましくは100mgKOH/g以下、例えば75mgKOH/g以下、一例では50mgKOH/g以下であるとよい。有機バインダ全体の酸価は、上記範囲にあることがより好ましい。言い換えれば、有機バインダ全体が所定の酸性度を示すことが好ましい。酸価が所定値以上であると、現像工程において未露光部分の除去性が高められ、現像性をより良く向上することができる。また、酸価が所定値以下であると、水系現像液に対する溶解性が抑えられ、現像工程において露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。このため、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
なお、本明細書において「酸価」とは、単位試料(1g)中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)の含量(mg)である。単位は、mgKOH/gである。
【0030】
好適な一態様では、セルロース系化合物が、重量平均分子量5000以上のセルロース系高分子化合物を含んでいる。セルロース系高分子化合物を含むことで、基材に対する光硬化前の導電膜の粘着性(タック性)が高まり、導電層に剥離や断線等の不具合が発生することを好適に抑制することができる。セルロース系高分子化合物は、繰り返し構成単位に酸性基を含んでいるとよい。また、セルロース系高分子化合物の重量平均分子量は、後述する(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂よりも大きいことが好ましい。例えば(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の重量平均分子量の概ね2倍以上、例えば3倍以上大きいとよい。セルロース系高分子化合物の重量平均分子量は、概ね1万以上、典型的には2万以上、例えば5万以上、一例では10万以上であって、概ね100万以下、典型的には50万以下、例えば20万以下であってもよい。
なお、本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲルクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した重量基準の平均分子量をいう。
【0031】
有機バインダは、上記したセルロース系化合物のみで構成されていてもよく、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、セルロース系化合物に加え、従来この種の用途に使用し得ることが知られている他の化合物を含んでもよい。そのような化合物としては、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。有機バインダ全体に占めるセルロース系化合物の割合は、質量基準で、概ね50質量%以上、典型的には80質量%以上、例えば90質量%以上であるとよく、実質的に100質量%(95質量%以上)であってもよい。
【0032】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める有機バインダの割合は、典型的には後述する(D)光重合性化合物よりも低く、概ね0.1〜20質量%、典型的には0.5〜10質量%、例えば1〜5質量%であるとよい。有機バインダの割合を所定値以上とすることで、現像工程において、現像性を向上して現像時間を短縮することができる。また、基材に対する感光性組成物の保持力(耐エッチング性)が高められ、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。有機バインダの割合を所定値以下とすることで、感光性成分の割合、すなわち後述する(C)光硬化性樹脂や(D)光重合性化合物の割合が相対的に向上し、露光工程において、光硬化前の導電膜をより安定的に硬化させることができる。
【0033】
<(C)光硬化性樹脂>
光硬化性樹脂は、光照射によって重合反応や架橋反応等を生じて硬化する光硬化成分である。光硬化性樹脂は、後述する(D)光重合性化合物に比べて少ない露光量で硬化が可能である。そのため、ここに開示される技術において、光硬化性樹脂は、露光部分の深部(基材に近い部分)まで着実に硬化させるための光硬化成分である。重合反応は、例えば付加重合であってもよいし開環重合であってもよい。本明細書において、光硬化性樹脂は、モノマーを除き、ポリマーとオリゴマー(プレポリマー)とを包含する。光硬化性樹脂は、典型的には、不飽和結合および/または環状構造を1つ以上有する。不飽和結合および/または環状構造は、光硬化性樹脂の主鎖の炭素原子に結合していてもよく、側鎖の炭素原子に結合していてもよい。
【0034】
本実施形態において、光硬化性樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを構成単位とした(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂(以下、(メタ)アクリル系樹脂ともいう。)を含んでいる。(メタ)アクリル系樹脂を含むことで、導電層の柔軟性や基材に対する追従性を向上することができ、剥離や断線の発生をより良く抑制することができる。また、導電層の耐久性を向上することができる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、「メタクリロイル基(−C(=O)−C(CH)=CH)」および「アクリロイル基(−C(=O)−CH=CH)」を包含し、「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」および「アクリレート」を包含する用語である。
【0035】
(メタ)アクリル系樹脂としては、従来公知のもののなかから1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(メタ)アクリル系樹脂の一好適例として、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして、当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体が挙げられる。なかでも、光硬化性を向上する観点から、側鎖に(メタ)アクリロイル基(好ましくはアクリロイル基)を有する(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0036】
単独重合体の具体例としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。共重合体の具体例としては、例えば、繰り返し構成単位として、メタクリル酸エステルの重合体と、アクリル酸エステルの重合体ブロックと、を含むブロック共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル等が挙げられる。
【0037】
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂は、酸性基を有する酸性基含有モノマーに由来するモノマー単位を含んでいる。例えば、(メタ)アクリロイル基に加えて、さらにフェノール性水酸基、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノ基、ボロン酸基のうちの少なくとも1つを含むモノマー単位を含んでいる。このことにより、現像工程において未硬化部分の除去性を効果的に高めることができ、現像性を高めると共に現像時間を短縮することができる。酸性基は、主鎖の炭素原子に結合していてもよく、側鎖の炭素原子に結合していてもよい。
【0038】
(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、例えば、カルボキシル基含有(メタ)アクリル系樹脂、ホスホノ基含有(メタ)アクリル系樹脂、酸変性エポキシ(メタ)アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ウレタン変性エポキシ(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを含有する(メタ)アクリル系樹脂を含むことが好ましい。酸性基を有する(メタ)アクリル系樹脂の市販品としては、例えば、ダイセル・オルネクス株式会社製のサイクロマーP(商標)ACA Z200M、Z230AA、Z250、Z251、Z300、Z320、Z254F等が挙げられる。
【0039】
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂は酸価を有する。(メタ)アクリル系樹脂の樹脂酸価は、概ね30mgKOH/g以上、典型的には40mgKOH/g以上、好ましくは50mgKOH/g以上、例えば60mgKOH/g以上、一例では80mgKOH/g以上であって、概ね300mgKOH/g以下、典型的には200mgKOH/g以下、好ましくは150mgKOH/g以下、例えば135mgKOH/g以下、一例では100mgKOH/g以下であるとよい。光硬化性樹脂全体の樹脂酸価は上記範囲にあることがより好ましい。言い換えれば、光硬化性樹脂全体が所定の酸性度を示すことが好ましい。樹脂酸価が所定値以上であると、現像工程において、未露光部分をより迅速かつきれいに除去することができる。また、樹脂酸価が所定値以下であると、水系現像液に対する溶解性が抑えられ、現像工程において露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。
【0040】
好適な一態様では、光硬化性樹脂が、重量平均分子量5000以上のポリマーを含んでいる。光硬化性樹脂がポリマーを含む場合、基材に対する密着性が高まり、現像工程において現像時間が長くなったり現像性が低下したりしがちである。このため、ここに開示される技術の適用が効果的である。光硬化性樹脂の重量平均分子量は、通常、後述する光重合性化合物よりも大きく、かつ、上記セルロース系の有機バインダの重量平均分子量よりも小さいとよい。具体的には、概ね7000以上、好ましくは1万以上、例えば1万4000以上、一例では1万5000以上、2万以上であって、概ね10万以下、典型的には5万以下、好ましくは3万以下であるとよい。このことにより、僅かな露光量でも露光部分を深部まで好適に硬化させることができる。
【0041】
好適な一態様では、(メタ)アクリル系樹脂の二重結合当量(重量平均分子量/C=C二重結合の数で算出される計算値。)が、概ね200以上、典型的には300以上、さらには350以上、例えば380以上であって、概ね1500以下、典型的には1200以下、例えば1100以下である。二重結合当量が上記範囲であると、現像工程において、未露光部分の除去性と露光部分の耐エッチング性とを高いレベルでバランスすることができる。すなわち、現像時間をより良く短縮することができると共に、剥離や断線の発生をより良く抑制することができる。
【0042】
好適な一態様では、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移点(示差走査熱量分析(Differential Scanning Calorimetry:DSC)に基づくTg値。)が、概ね40℃以上、典型的には50℃以上、例えば60℃以上、さらには100℃以上、一例では120℃以上、130℃以上であって、概ね200℃以下、例えば150℃以下である。このことにより、露光部分の柔軟性や粘着性をより良く高めることができ、剥離や断線の発生をより良く抑制することができる。また、Tg値が上記範囲にある場合、基材に対する光硬化前の導電膜の粘着性が高まり、現像工程において未露光部分の除去性が低下する。このため、ここに開示される技術の適用が効果的である。
【0043】
光硬化性樹脂は、上記した(メタ)アクリル系樹脂のみで構成されていてもよく、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、(メタ)アクリル系樹脂に加え、従来この種の用途に使用し得ることが知られている他の樹脂を含んでもよい。光硬化性樹脂全体に占める(メタ)アクリル系樹脂の割合は、質量基準で、概ね50質量%以上、典型的には80質量%以上、例えば90質量%以上であるとよく、実質的に100質量%(95質量%以上)であってもよい。
【0044】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める光硬化性樹脂の割合は、典型的には後述する(D)光重合性化合物よりも低く、概ね0.1〜50質量%、典型的には0.5〜30質量%、例えば1〜20質量%、さらには2〜10質量%であるとよい。光硬化性樹脂の割合を所定値以上とすることで、露光部分を深部まで精度よく硬化させることができ、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。光硬化性樹脂の割合を所定値以下とすることで、(B)有機バインダや後述する(D)光重合性化合物の割合が相対的に向上し、現像性がより良く高められて、現像時間を一層短縮することができる。
【0045】
特に限定されるものではないが、ポリマー成分の合計、すなわち(B)有機バインダと(C)光硬化性樹脂との合計((B)+(C))を100質量%としたときに、(C)光硬化性樹脂の含有割合は、概ね5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、一例では30質量%以上、35質量%以上であって、概ね90質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、一例では60質量%以下、50質量%以下であるとよい。これにより、有機バインダを用いることによる現像性向上の効果と、光硬化性樹脂を用いることによる剥離防止の効果とを、より高いレベルで安定して奏することができる。
【0046】
<(D)光重合性化合物>
光重合性化合物は、後述する(E)光重合開始剤の分解で生じた活性種によって、重合反応や架橋反応等を生じて硬化する光硬化成分である。また、ここに開示される技術において、光重合性化合物は、短い現像時間で硬化を完了させるための光硬化成分である。光重合性化合物は、重合性官能基を1つまたは2つ以上有するモノマーである。光重合性化合物は、1分子あたり1つの重合性官能基を有する単官能モノマーと、1分子あたり2つ以上の重合性官能基を有する多官能モノマーと、それらの変性物とを包含する。光重合性化合物は、典型的には不飽和結合および/または環状構造を1つ以上有する。光重合性化合物の一好適例として、(メタ)アクリロイル基やビニル基のような不飽和結合を1つ以上有するラジカル重合性のモノマーや、エポキシ基のような環状構造を有するカチオン重合性のモノマーが挙げられる。
【0047】
好適な一態様では、光重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含んでいる。これにより、(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂との親和性が高められ、感光性組成物の保存安定性を向上することができる。(メタ)アクリレートモノマーの一好適例として、トリエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラエチレングリコールモノアクリレート、テトラエチレングリコールモノメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタアクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレート、テトラペンタエリスリトールノナアクリレート、テトラペンタエリスリトールデカアクリレート等が挙げられる。なかでも、光硬化性を高める観点からは、1分子あたり3つ以上、さらには5つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましい。
【0048】
好適な他の一態様では、光重合性化合物が、ウレタン結合(−NH−C(=O)−O−)を有するウレタン結合含有化合物を含んでいる。ウレタン結合含有化合物を含むことで、露光部分の耐エッチング性をより良く向上すると共に、柔軟性や伸縮性に一層優れた導電層を実現することができる。したがって、基材と導電層との密着性を向上して、剥離や断線の発生を高いレベルで抑制することができる。ウレタン結合含有化合物の一好適例として、上記した(メタ)アクリレートモノマーがウレタン結合を含有したウレタン変性(メタ)アクリレートや、ウレタン変性エポキシ等が挙げられる。
【0049】
特に限定されるものではないが、光重合性化合物の重量平均分子量は、通常、上記セルロース系の有機バインダや(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂よりも小さく、概ね2000以下、典型的には100〜1500、例えば500〜1300であるとよい。
【0050】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める光重合性化合物の割合は、典型的には(B)有機バインダおよび(C)光硬化性樹脂よりも高く、概ね0.1〜50質量%、典型的には0.5〜30質量%、例えば1〜20質量%、さらには2〜10質量%であるとよい。光重合性化合物の割合を所定値以上とすることで、現像性を向上して、現像時間を一層短縮することができる。光重合性化合物の割合を所定値以下とすることで、ポリマー成分の割合、すなわち(B)有機バインダや(C)光硬化性樹脂の割合が相対的に向上し、基材に対する感光性組成物の保持力が高められる。その結果、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。
【0051】
特に限定されるものではないが、感光性成分の合計、すなわち(C)光硬化性樹脂と(D)光重合性化合物との合計((C)+(D))を100質量%としたときに、(D)光重合性化合物の含有割合は、(C)光硬化性樹脂よりも多いとよい。具体的には、(D)光重合性化合物の含有割合が、50質量%を超えて、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、一例では65質量%以上、70質量%以上であって、概ね95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、一例では80質量%以下であるとよい。これにより、光硬化性樹脂を用いることによる剥離防止の効果と、光重合性化合物を用いることによる現像時間短縮の効果とを、より高いレベルで安定して奏することができる。
【0052】
<(E)光重合開始剤>
光重合開始剤は、紫外線等の光エネルギーの照射によって分解し、ラジカルや陽イオン等の活性種を発生させて、光重合性化合物の重合反応を開始させる成分である。光重合開始剤としては、従来公知のものの中から、感光性樹脂の種類等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。一好適例として、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0053】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める光重合開始剤の割合は、概ね0.01〜5質量%、典型的には0.1〜3質量%、例えば0.2〜2質量%であるとよい。このことにより、感光性組成物の光硬化性が十分に発揮され、より安定して導電層を形成することができる。
【0054】
<(F)有機系分散媒>
感光性組成物は、上記した必須の成分に加えて、これら成分を分散させる有機系分散媒を含有してもよい。有機系分散媒は、感光性組成物に適度な粘性や流動性を付与して、感光性組成物の取扱性を向上したり、導電膜を成形する際の作業性を向上したりする成分である。有機系分散媒としては、従来公知のものの中から、例えば光重合性化合物の種類等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0055】
有機系分散媒の一好適例として、ターピネオール、ジヒドロターピネオール(メンタノール)、テキサノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;ジプロピレングリコールメチルエーテル、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、セロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)、イソボルニルアセテート等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン、ナフサ、石油系炭化水素等の炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット;等の有機溶剤が挙げられる。
【0056】
なかでも、感光性組成物の保存安定性や導電膜成形時の取扱性を向上する観点からは、沸点が150℃以上の有機溶剤、さらには170℃以上の有機溶剤が好ましい。また、他の一好適例として、導電膜を印刷した後の乾燥温度を低く抑える観点からは、沸点が250℃以下の有機溶剤、さらには沸点が220℃以下の有機溶剤が好ましい。このことにより、生産性を向上すると共に、生産コストを低減することができる。
【0057】
好適な市販の有機溶剤としては、例えば、ダワノールDPM(商標)(沸点:190℃、ダウ・ケミカル・カンパニー製)、ダワノールDPMA(商標)(沸点:209℃、ダウ・ケミカル・カンパニー製)、メンタノール(沸点:207℃)、メンタノールP(沸点:216℃)、アイソパーH(沸点:176℃、関東燃料株式会社製)、SW−1800(沸点:198℃、丸善石油株式会社製)等が挙げられる。
【0058】
感光性組成物に有機系分散媒を含む場合、特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める有機系分散媒の割合は、概ね1〜50質量%、典型的には3〜30質量%、例えば5〜20質量%であってもよい。
【0059】
<(G)その他の添加成分>
感光性組成物は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記した成分に加えて、さらに必要に応じて種々の添加成分を含有することができる。添加成分としては、従来公知のものの中から1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。添加成分の一例としては、例えば、無機フィラー、光増感剤、重合禁止剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、ゲル化防止剤、安定化剤、防腐剤、顔料等が挙げられる。特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める添加成分の割合は、概ね5質量%以下、典型的には3質量%以下、例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下とするとよい。
【0060】
ここに開示される感光性組成物は、3種の有機成分が適切にバランスされている。すなわち、セルロース系の有機バインダと、(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂と、光重合性化合物との合計を100質量%としたときに、セルロース系の有機バインダの含有割合が10〜40質量%(好ましくは20〜35質量%);(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂の含有割合が5〜40質量%(好ましくは10〜30質量%);光重合性化合物の含有割合が30〜60質量%(好ましくは50〜60質量%);である。このことにより、現像工程において未露光部分が除去され易くなり、現像時間を短縮すると共に残渣の発生を低減することができる。また、露光部分の深部まで硬化され易くなり、基材と露光部分との密着性を高めて、剥離や断線の発生を抑制することができる。したがって、L/Sが20μm/20μm以下のファインラインの導電層、さらにはL/Sが15μm/15μm以下の超ファインラインの導電層をも好適に形成することができる。また、厚みが5μm以上、さらには10μm以上のような厚膜状の導電層をも好適に形成することができる。その結果、生産性や歩留まりを向上することができる。
【0061】
≪感光性組成物の用途≫
ここに開示される感光性組成物によれば、ファインラインの導電層を安定して形成することができる。そのため、ここに開示される感光性組成物は、例えば、インダクタンス部品やコンデンサ部品、多層回路基板等の様々な電子部品における導電層の形成に好適に利用することができる。
【0062】
電子部品は、表面実装タイプやスルーホール実装タイプ等、各種の実装形態のものであってよい。電子部品は、積層型であってもよいし、巻線型であってもよいし、薄膜型であってもよい。インダクタンス部品の典型例としては、高周波フィルタ、コモンモードフィルタ、高周波回路用インダクタ(コイル)、一般回路用インダクタ(コイル)、高周波フィルタ、チョークコイル、トランス等が挙げられる。
【0063】
電子部品の一例として、セラミック電子部品が挙げられる。なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、セラミック材料を用いてなる電子部品全般をいい、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)あるいは結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材を有する電子部品全般を包含する。セラミック電子部品の典型例として、セラミック基材を有する高周波フィルタ、セラミックインダクタ(コイル)、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等が挙げられる。
【0064】
また、セラミック材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化セリウム(セリア)、酸化イットリウム(イットリア)、チタン酸バリウム等の酸化物系材料;コーディエライト、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、サイアロン、ジルコン、フェライト等の複合酸化物系材料;窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、窒化アルミニウム(アルミナイトライド)等の窒化物系材料;炭化ケイ素(シリコンカーバイド)等の炭化物系材料;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系材料;等が挙げられる。
【0065】
図1は、積層チップインダクタ1の構造を模式的に示した断面図である。なお、図1における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、図面中の符号X、Yは、それぞれ左右方向、上下方向を表す。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎない。
【0066】
積層チップインダクタ1は、本体部10と、本体部10の左右方向Xの両側面部分に設けられた外部電極20とを備えている。積層チップインダクタ1は、例えば、1608形状(1.6mm×0.8mm)、2520形状(2.5mm×2.0mm)等のサイズである。
【0067】
本体部10は、セラミック層(誘電体層)12と内部電極層14とが一体化された構造を有する。セラミック層12は、セラミック材料で構成されている。上下方向Yにおいて、セラミック層12の間には、内部電極層14が配置されている。内部電極層14は、上述の感光性組成物を用いて形成されている。セラミック層12を挟んで上下方向Yに隣り合う内部電極層14は、セラミック層12に設けられたビア16を通じて導通されている。このことにより、内部電極層14は、3次元的な渦巻き形状(螺旋状)に構成されている。内部電極層14の両端はそれぞれ外部電極20と接続されている。
【0068】
このような積層チップインダクタ1は、例えば、以下の手順で製造することができる。
すなわち、まず、原料となるセラミック材料とバインダ樹脂と有機溶剤とを含むペーストを調製し、これをキャリアシート上に供給して、セラミックグリーンシートを形成する。次いで、このセラミックグリーンシートを圧延後、所望のサイズにカットして、複数のセラミック層形成用グリーンシートを得る。次いで、複数のセラミック層形成用グリーンシートの所定の位置に、穿孔機等を用いて適宜ビアホールを形成する。
【0069】
次いで、上述の感光性組成物を用いて、複数のセラミック層形成用グリーンシートの所定の位置に、所定のコイルパターンの導電膜を形成する。一例として、以下の工程:(ステップS1:膜状体の成形工程)感光性組成物をセラミック層形成用グリーンシート上に付与して乾燥することにより、感光性組成物の乾燥体からなる導電膜を成形する工程;(ステップS2:露光工程)導電膜に所定の開口パターンのフォトマスクを被せ、フォトマスクを介して露光して、導電膜を部分的に光硬化させる工程;(ステップS3:現像工程)光硬化後の導電膜をエッチングして、未露光部分を除去する工程;を包含する製造方法によって、未焼成の状態の導電膜を形成することができる。
【0070】
なお、上記感光性組成物を用いて導電膜を成形するにあたっては、従来公知の手法を適宜用いることができる。例えば、(ステップS1)において、感光性組成物の付与は、スクリーン印刷等の各種印刷法や、バーコータ等を用いて行うことができる。感光性組成物の乾燥は、光重合性化合物および光重合開始剤の沸点以下の温度、典型的には50〜100℃で行うとよい。(ステップS2)において、露光には、例えば10〜500nmの波長範囲の光線を発する露光機、例えば高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等の紫外線照射灯を用いることができる。(ステップS3)において、エッチングには、典型的には、アルカリ性の水系現像液を用いることができる。例えば、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等を含む水溶液を用いることができる。アルカリ性の水溶液の濃度は、例えば、0.01〜0.5質量%に調整するとよい。
【0071】
次いで、(ステップS4:焼成工程)未焼成の状態の導電膜が形成されているセラミック層形成用グリーンシートを複数枚積層し、圧着する。このことによって、未焼成のセラミックグリーンシートの積層体を作製する。次いで、セラミックグリーンシートの積層体を、例えば600〜1000℃で焼成する。これによって、セラミックグリーンシートが一体的に焼結され、セラミック層12と、感光性組成物の焼成体からなる内部電極層14とを備えた本体部10が形成される。そして、本体部10の両端部に適当な外部電極形成用ペーストを付与し、焼成することによって、外部電極20を形成する。
以上のようにして、積層チップインダクタ1を製造することができる。
【0072】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0073】
(感光性組成物の調製)
まず、導電性粉末として、銀粉末(D50粒径:2μm)を用意した。また、有機バインダとして、セルロース系高分子化合物(樹脂酸価:30mgKOH/g、重量平均分子量:9万、二重結合当量:0)を用意した。また、光重合性化合物として、ウレタンアクリレートモノマーを用意した。また、光重合開始剤として、BASFジャパン株式会社製のIRGACURE(商標)369を用意した。また、光硬化性樹脂として、下表1に示す4種類のアクリル樹脂a〜dを用意した。なお、表1の樹脂酸価の欄に「N.D.」とあるのは、検出下限以下(未検出)であることを表している。
【0074】
【表1】
【0075】
そして、上記用意した銀粉末とセルロース系高分子化合物とアクリル樹脂a〜dと光重合性化合物と光重合開始剤と、さらにその他の添加成分(ここでは、光増感剤とゲル化防止剤と重合禁止剤と紫外線吸収剤とを使用した。)と、を有機系分散媒に溶解させて、感光性組成物(例1〜8、比較例1〜4)を調製した。このとき、セルロース系高分子化合物とアクリル樹脂a〜dと光重合性化合物とが、表2に示す含有割合になるように配合した。なお、表2に示す質量比は、セルロース系高分子化合物とアクリル樹脂a〜dと光重合性化合物との合計を100質量%としたときの各成分の含有割合(質量%)である。
【0076】
(配線パターンの作製)
まず、スクリーン印刷により、上記調製した感光性組成物を市販のセラミックグリーンシート上にそれぞれ□4cm×4cmの大きさで塗布した。次に、これを60℃で15分間乾燥させて、グリーンシート上に導電膜(ベタ膜)を成形した(膜状体の成形工程)。
次に、導電膜の上からフォトマスクを被せた。このとき、フォトマスクとしては、配線のライン幅と隣り合うラインの間隔部分(スペース)との比(L/S)が、20μm/20μmであるパターンのものを使用した。上記フォトマスクを導電膜上に被せた状態で、露光機により、照度9mJ/cm、露光量1800mJ/cmの条件で光を照射し、露光部分を硬化させた(露光工程)。
露光後、セラミックグリーンシートの表面に、0.1質量%のアルカリ性のNaCO水溶液(現像液)を、ブレイクポイント(B.P.)に到達するまで吹き付けた(現像工程)。なお、B.P.としては、0.1質量%のアルカリ性の現像液で、未露光部分が現像され、目視で未露光部分が無くなったと確認できるまでの時間とした。
このようにして未露光部分を除去した後、純水で洗浄し、室温で乾燥させた。こうして、セラミックグリーンシート上に、L/S=20μm/20μmの配線パターンの導電膜(乾燥膜)を形成した。
【0077】
(現像性の評価)
上記作製した配線パターンについて、現像性を評価した。
すなわち、上記現像工程において、ブレイクポイント(B.P.)に到達するまでの時間(現像時間)を計測した。結果を、表2の「現像時間(秒)」の欄に示す。また、この結果に基づき、下記の指標で現像性を評価した。結果を、表2の「現像性の評価」の欄に示す。
「◎」:現像時間が45秒以内(現像性が特に良好)。
「○」:現像時間が60秒以内(現像性が良好)。
「×」:現像時間が60秒よりも長い(現像性が不良)。
【0078】
(解像度の評価)
上記露光工程において、フォトマスクとして、L/Sが、15μm/15μm、20μm/20μm、25μm/25μm、30μm/30μm、40μm/40μmであるパターンのものを使用した。また、上記現像工程において、現像マージンを考慮し、現像する時間を上記ブレイクポイント(B.P.)の1.4倍の時間とした。それ以外は上記配線パターンの形成と同様にして、所定のL/Sを有する配線パターンの導電膜(乾燥膜)を形成した。
【0079】
次に、上記作製した各配線パターンについて、光学顕微鏡で合計10視野観察し、得られた観察画像から剥離や残渣の有無を確認した。一例として、図2に、例1の配線パターンの光学顕微鏡画像を示す。そして、剥離や残渣が確認されなかった最も小さなL/Sを解像度とした。結果を、表2の「解像度(μm)」の欄に示す。また、この結果に基づき、下記の指標で解像性を評価した。結果を、表2の「解像性の評価」の欄に示す。
「◎」:解像度(L/S)が、15μm/15μmである。
「○」:解像度(L/S)が、20μm/20μmである。
「×」:解像度(L/S)が、25μm/25μm以上である。
【0080】
(総合評価)
上記現像性および解像性の評価に基づいて、下記の指標で総合評価を行った。結果を、表2の「総合評価」の欄に示す。
「◎」:現像性および解像性が、いずれも◎である。
「○」:現像性および解像性のうち一方が○で、一方が◎または○である。
「×」:現像性および解像性のうち少なくとも一方が、×である。
【0081】
【表2】
【0082】
比較例1は、アクリル樹脂を含まない試験例である。表2に示すように、比較例1では、現像時間が圧倒的に短かったものの、L/Sが25μm/25μm以下になると剥離が発生し、解像性が不足していた。また、比較例3は、光重合性化合物の割合を比較例1よりも高めた試験例である。表2に示すように、比較例3では、現像時間は短かったものの、L/Sが25μm/25μm以下になると剥離が発生し、依然として解像性が不足していた。
【0083】
また、比較例2は、セルロース系高分子化合物を含まない試験例である。表2に示すように、比較例2では、現像時間が長く、かつ、L/Sが20μm/20μm以下になると残渣が確認され、解像性が不足していた。また、比較例4は、アクリル樹脂として、酸価を有しない(無酸価の)アクリル樹脂dを用いた試験例である。表2に示すように、比較例4では、比較例2よりもさらに現像時間が長かった。
【0084】
これら比較例1〜4に対して、セルロース系高分子化合物と、酸価を有するアクリル樹脂a〜cと、光重合性化合物と、の合計を100質量%としたときに、セルロース系高分子化合物を10〜40質量%、酸価を有するアクリル樹脂a〜cを5〜40質量%、光重合性化合物を30〜60質量%の割合で含む例1〜8では、セルロース系高分子化合物を含まない比較例2や、無酸価のアクリレートdを用いた比較例4に比べて、相対的に現像時間が短く、60秒以内で現像を完了することができた。また、例1〜8では、剥離や残渣の発生が抑えられており、L/Sが20μm/20μm以下のファインラインを好適に形成することができた。
【0085】
なかでも、セルロース系高分子化合物と、酸価を有するアクリル樹脂a〜cと、光重合性化合物と、の合計を100質量%としたときに、セルロース系高分子化合物を20〜35質量%、酸価を有するアクリル樹脂a〜cを10〜30質量%、光重合性化合物を50〜60質量%の割合で含む例2,3,7,8は、とりわけ現像性と解像性とに優れていた。すなわち、現像時間が45秒以内に抑えられ、現像時間が大幅に短縮されていた。また、L/Sが15μm/15μmの超ファインラインをも好適に形成することができた。
これらの結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0086】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0087】
1 積層チップインダクタ
10 本体部
12 セラミック層
14 内部電極層
20 外部電極
図1
図2