特許第6814309号(P6814309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6814309-建設機械 図000008
  • 特許6814309-建設機械 図000009
  • 特許6814309-建設機械 図000010
  • 特許6814309-建設機械 図000011
  • 特許6814309-建設機械 図000012
  • 特許6814309-建設機械 図000013
  • 特許6814309-建設機械 図000014
  • 特許6814309-建設機械 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814309
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/02 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   F15B11/02 M
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-566016(P2019-566016)
(86)(22)【出願日】2018年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2018001062
(87)【国際公開番号】WO2019142244
(87)【国際公開日】20190725
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏政
(72)【発明者】
【氏名】▲杉▼木 昭平
(72)【発明者】
【氏名】平工 賢二
(72)【発明者】
【氏名】清水 自由理
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲平
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−076781(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/115140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22;21/14
E02F 3/42− 3/43; 3/84− 3/85; 9/20− 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ室およびロッド室を有する片ロッド式の油圧シリンダと、
両傾転可変容量ポンプである第1油圧ポンプと、
前記第1油圧ポンプの一方の吐出ポートと前記キャップ室とを接続するキャップ側油路と、
前記第1油圧ポンプの他方の吐出ポートと前記ロッド室とを接続するロッド側油路と、
油タンクと、
前記キャップ側油路および前記ロッド側油路のいずれか低圧側の余剰油を前記油タンクに排出するフラッシング弁と、
片傾転可変容量ポンプである第2油圧ポンプと、
前記第2油圧ポンプの吐出ポートと前記ロッド室とを連通または遮断するロッド側切換弁と、
前記油圧シリンダの動作を指示するための操作レバーと、
前記キャップ室の圧力を検出するキャップ圧力検出装置と、
前記ロッド室の圧力を検出するロッド圧力検出装置と、
前記操作レバー、前記キャップ圧力検出装置、および前記ロッド圧力検出装置からの入力に基づき、前記第1油圧ポンプ、前記第2油圧ポンプ、および前記ロッド側切換弁を制御するコントローラとを備えた建設機械において、
前記コントローラは、前記操作レバーを介して前記油圧シリンダの縮み動作が指示された場合に、前記ロッド室の圧力から前記キャップ室の圧力を引いた差圧が、前記フラッシング弁の切換設定圧以上に設定された第1閾値以下のときは、前記ロッド側切換弁を閉じて前記第2油圧ポンプから前記ロッド室に圧油を供給するロッドアシスト動作を不能とし、前記差圧が前記第1閾値よりも大きいときは、前記ロッド側切換弁を開いて前記ロッドアシスト動作を可能とする
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記コントローラは、
前記操作レバー、前記ロッド圧力検出装置、および前記キャップ圧力検出装置からの入力に基づき、前記第1および第2油圧ポンプの吐出流量指令、ならびに前記ロッド側切換弁の開閉指令を生成するバルブ・ポンプ指令生成部と、
前記操作レバーを介して前記油圧シリンダの縮み動作が指示された場合に、前記差圧が前記第1閾値以下のときに前記ロッドアシスト動作が可能と判定し、前記差圧が前記第1閾値よりも大きいときに前記ロッドアシスト動作が不能と判定するロッドアシスト可否判定部と、
前記ロッドアシスト可否判定部が前記ロッドアシスト動作が可能と判定した場合に、前記バルブ・ポンプ指令生成部が生成した前記ロッド側切換弁の開閉指令を開指令に補正し、前記ロッドアシスト可否判定部が前記ロッドアシスト動作が不能と判定した場合に、前記ロッド側切換弁の開閉指令を閉指令に補正するバルブ・ポンプ指令補正部とを有する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械において、
前記コントローラは、更に、
前記ロッドアシスト可否判定部が前記ロッドアシスト動作が可能と判定し、かつ前記第1油圧ポンプの吐出流量指令および前記第2油圧ポンプの吐出流量指令に基づく前記フラッシング弁の通過予定流量が、前記差圧に応じた前記フラッシング弁の通過可能流量よりも大きい場合に、前記通過予定流量が前記通過可能流量以下となるような前記第2油圧ポンプの吐出流量を演算するロッドアシスト流量制限部を有し、
前記バルブ・ポンプ指令補正部は、前記ロッドアシスト流量制限部が演算した前記第2油圧ポンプの吐出流量に応じて、前記バルブ・ポンプ指令生成部が生成した前記第2油圧ポンプの吐出流量指令を補正する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項2に記載の建設機械において、
前記第2油圧ポンプの吐出ポートと前記キャップ室とを連通または遮断するキャップ側切換弁と、
前記第2油圧ポンプの吐出ポートと前記油タンクとを接続する排出油路に設けられ、開口面積を連続的に調整可能な比例弁とを更に備え、
前記バルブ・ポンプ指令補正部は、前記ロッドアシスト可否判定部が前記ロッドアシスト動作が不能と判定した場合に、前記バルブ・ポンプ指令生成部が生成した前記キャップ側切換弁の開閉指令を開指令に補正し、前記キャップ室から前記油タンクへの油の排出を可能とする
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項4に記載の建設機械において、
前記コントローラは、更に、
前記ロッドアシスト可否判定部が前記ロッドアシスト動作が可能と判定し、かつ前記キャップ室の圧力が所定の第2閾値よりも小さい場合に、前記キャップ室の圧力が前記第2閾値以上となるような前記比例弁の開口面積を演算する比例弁開口制限部を有し、
前記バルブ・ポンプ指令補正部は、前記比例弁開口制限部が演算した前記比例弁の開口面積に応じて、前記比例弁の開口指令を補正する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプで油圧アクチュエータを直接駆動する油圧閉回路を備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベルやホイールローダなどの建設機械において、省エネ化が重要な開発項目になっている。建設機械の省エネ化には、油圧システムの省エネ化が有効である。そこで、両傾転型の油圧ポンプと油圧アクチュエータとを絞り弁を介さず接続し、油圧ポンプで油圧アクチュエータを直接駆動する油圧回路(以下「油圧閉回路」という。)の適用が検討されている。油圧閉回路では、絞り弁による圧損がなく、また、油圧アクチュエータが必要とする流量のみを油圧ポンプが吐出するため、分流による流量損失がない。そのため、油圧閉回路を適用した油圧システムでは、従来の油圧システムよりも省エネ化が可能となる。
【0003】
油圧閉回路を開示するものとして、例えば特許文献1がある。特許文献1には、流体圧アクチュエータ(以下、片ロッド式油圧シリンダ)と両傾転型可変容量ポンプ(以下、開回路ポンプ)とを直接接続し、さらに、片傾転可変容量ポンプ(以下、閉回路ポンプ)の圧油を片ロッド式油圧シリンダのボトム室(以下、キャップ室)またはロッド室に供給可能とした作業機械の駆動装置が開示されている。この油圧閉回路は、閉回路ポンプと片ロッド式油圧シリンダとを接続する2つの油路(以下、キャップ側油路およびロッド側油路)の低圧側を油タンクに連通し、キャップ側油路とロッド側油路の流量差を吸収するためのフラッシングバルブ(以下、フラッシング弁)を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−76781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の作業機械の駆動装置によれば、開回路ポンプの圧油を片ロッド式油圧シリンダのロッド室に供給すること(ロッドアシスト動作)により、シリンダ縮み動作を増速することができる。
【0006】
しかしながら、ロッドアシスト動作を開始するタイミングによっては、キャップ側油路がフラッシング弁を介して油タンクに連通しておらず、キャップ側油路の余剰油をフラッシング弁を介して油タンクに戻すことができない。その結果、キャップ室の圧力(背圧)が過度に上昇し、シリンダ縮み動作を安定的に増速できないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、両傾転可変容量ポンプで片ロッド式油圧シリンダを直接駆動する油圧閉回路を備え、片ロッド式油圧シリンダの縮み動作を安定的に増速できる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、キャップ室およびロッド室を有する片ロッド式の油圧シリンダと、両傾転可変容量ポンプである第1油圧ポンプと、前記第1油圧ポンプの一方の吐出ポートと前記キャップ室とを接続するキャップ側油路と、前記第1油圧ポンプの他方の吐出ポートと前記ロッド室とを接続するロッド側油路と、油タンクと、前記キャップ側油路および前記ロッド側油路のいずれか低圧側の余剰油を前記油タンクに排出するフラッシング弁と、片傾転可変容量ポンプである第2油圧ポンプと、前記第2油圧ポンプの吐出ポートと前記ロッド室とを連通または遮断するロッド側切換弁と、前記油圧シリンダの動作を指示するための操作レバーと、前記キャップ室の圧力を検出するキャップ圧力検出装置と、前記ロッド室の圧力を検出するロッド圧力検出装置と、前記操作レバー、前記キャップ圧力検出装置、および前記ロッド圧力検出装置からの入力に基づき、前記第1油圧ポンプ、第2油圧ポンプ、および前記ロッド側切換弁を制御するコントローラとを備えた建設機械において、前記コントローラは、前記操作レバーを介して前記油圧シリンダの縮み動作が指示された場合に、前記ロッド室の圧力から前記キャップ室の圧力を引いた差圧が、前記フラッシング弁の切換設定圧以上に設定された第1閾値以下のときは、前記ロッド側切換弁を閉じて前記第2油圧ポンプから前記ロッド室に圧油を供給するロッドアシスト動作を不能とし、前記差圧が前記第1閾値よりも大きいときは、前記ロッド側切換弁を開いて前記ロッドアシスト動作を可能とするものとする。
【0009】
以上のように構成した本発明によれば、片ロッド式油圧シリンダが縮み方向に操作された場合に、片ロッド式油圧シリンダのキャップ室がフラッシング弁を介して油タンクに連通していない場合にロッドアシスト動作が不能となり、キャップ室がフラッシング弁を介して油タンクに連通している場合にロッドアシスト動作が可能となる。これにより、ロッドアシスト動作を開始した直後からキャップ室の排出流量の一部がフラッシング弁を介して油タンクに戻されるため、キャップ圧の上昇が抑制される。その結果、片ロッド式油圧シリンダの縮み動作を安定的に増速することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、両傾転可変容量ポンプで片ロッド式油圧シリンダを直接駆動する油圧閉回路を備えた建設機械において、片ロッド式油圧シリンダの縮み動作を安定的に増速することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る建設機械の一例としての油圧ショベルの側面図である。
図2図1に示す油圧ショベルに搭載された駆動装置の待機状態を示す図である。
図3図2に示すコントローラの機能ブロック図である。
図4図2に示すコントローラの一制御周期における処理の流れを示すフローチャートである。
図5図2に示す駆動装置のロッドアシスト動作を行っていないときの状態を示す図である。
図6図3に示すロッドアシスト可否判定部の演算例を示す図である。
図7図2に示す駆動装置のロッドアシスト動作を行っているときの状態を示す図である。
図8図3に示すロッドアシスト流量制限部の演算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械として油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【0014】
図1に示すように、油圧ショベル100は、下部走行体1Cと、この下部走行体1C上に旋回可能に搭載された上部旋回体1Bと、この上部旋回体1Bの前側に上下方向に回動可能に取り付けられたフロント装置1Aとを備えている。下部走行体1Cは図示しない走行モータによって走行駆動され、上部旋回体1Bは図示しない旋回モータによって旋回駆動される。
【0015】
フロント装置1Aは、基端部が上部旋回体1Bの前部に上下方向に回動可能に取り付けられたブーム1と、このブーム1の先端部に上下、前後方向に回動可能に取り付けられたアーム2と、このアーム2の先端部に上下、前後方向に回動可能に取り付けられたバケット3、ブーム1を駆動する片ロッド式油圧シリンダ(以下「ブームシリンダ」という。)4と、アーム2を駆動する片ロッド式油圧シリンダ(以下「アームシリンダ」という。)5と、バケット3を駆動する片ロッド式油圧シリンダ(以下「バケットシリンダ」という。)6とを備えている。油圧ショベル100のキャブ内には、油圧シリンダ4〜7の動作を指示するための操作レバー30(図2に示す)が設置されている。
【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例について図2図8を用いて説明する。
【0017】
図2は、図1に示す油圧ショベルに搭載された駆動装置の待機状態を示す図である。なお、図2では、図1に示すブームシリンダ4、アームシリンダ5、およびバケットシリンダ6を油圧シリンダ10で代表して示している。
【0018】
図2に示すように、駆動装置200は、閉回路ポンプ(第1油圧ポンプ)7と、開回路ポンプ(第2油圧ポンプ)8と、チャージポンプ9と、油圧シリンダ10と、油タンク11と、キャップ側切換弁12aと、ロッド側切換弁12bと、比例弁13と、フラッシング弁14と、操作レバー30と、コントローラ20とを備えている。
【0019】
両傾転可変容量ポンプである閉回路ポンプ7、片傾転可変容量ポンプである開回路ポンプ8、および片傾転固定容量ポンプであるチャージポンプ9は図示しない原動機により駆動される。
【0020】
閉回路ポンプ7の一方の吐出ポートは、キャップ側油路17aを介して油圧シリンダ10のキャップ室10aに接続され、他方の吐出ポートは、ロッド側油路17bを介して油圧シリンダ10のロッド室10bに接続されている。閉回路ポンプ7は、アームシリンダ5のキャップ室10aまたはロッド室10bの一方から油を吸い込み他方に吐出することにより、油圧シリンダ10を直接駆動する。すなわち、閉回路ポンプ7、油圧シリンダ10、キャップ側油路17a、およびロッド側油路17bは、閉回路を構成している。キャップ側油路17aにはキャップ室10aの圧力(キャップ圧)を検出するキャップ側圧力センサ(キャップ圧力検出装置)18aが設けられ、ロッド側油路17bにはロッド室10bの圧力(キャップ圧)を検出するロッド側圧力センサ(ロッド圧力検出装置)18bが設けられている。
【0021】
開回路ポンプ8の吐出ポートは、キャップ側切換弁12aを介してキャップ側油路17aに接続され、ロッド側切換弁12bを介してロッド側油路17bに接続されている。キャップ側切換弁12aがオンオフ動作することにより、開回路ポンプ8の吐出ポートとキャップ室10aとが連通または遮断され、ロッド側切換弁12bがオンオフ動作することにより、開回路ポンプ8の吐出ポートとロッド室10bとが連通または遮断される。開回路ポンプ8は、油タンク11から油を吸い込み、切換弁12a,12bを介してアームシリンダ5のキャップ室10aまたはロッド室10bに圧油を供給する。
【0022】
比例弁13は、開回路ポンプ8の吐出流路から分岐して油タンク11に連通する排出流路19に設けられている。比例弁13は開回路ポンプ8を使用しないときに開口し、開回路ポンプ8の吐出流量を油タンク11に戻す。また、比例弁13は操作レバー30の操作量に応じて開口面積を連続的に変化させ、キャップ室10aから油タンク11に排出される流量を調整することにより、シリンダ縮み動作を増速する。チャージポンプ9は油タンク11から油を吸い込み、チェック弁15a,15bを介して回路に油を補充する。フラッシング弁14は、キャップ側油路17aおよび前記ロッド側油路17bのいずれか低圧側の余剰油を油タンク11に排出する。メインリリーフ弁16a,16bは回路の最大圧力を設定し、チャージリリーフ弁16cはチャージポンプ9の最大圧力を設定する。
【0023】
コントローラ20は、操作レバー30の操作量や圧力センサ18a,18bの圧力情報などに基づき、閉回路ポンプ7の吐出方向、閉回路ポンプ7および開回路ポンプ8の吐出流量指令、切換弁12a,12bの開閉指令、および比例弁13の開口指令を演算し、出力する。
【0024】
図2に示す通り、待機状態において切換弁12aは閉位置にあり、キャップ室10aの圧力を保持する。また、比例弁13は開位置にあり、開回路ポンプ8の待機流量を油タンク11に逃がして圧力の上昇を防止する。
【0025】
次にアーム動作について説明する。
【0026】
油圧シリンダ10の伸長動作においては、閉回路ポンプ7が油をロッド側油路17bから吸い込み、キャップ側油路17aへ吐出する。また、切換弁12aを開位置とし、比例弁13を閉位置とする。そして、開回路ポンプ8には閉回路ポンプ7の吐出流量およびシリンダの受圧面積差によって生じるキャップ室10aの不足分の油を補う流量指令がなされる。これによりシリンダ伸長動作の増速ができるとともに、回路の流量収支をとることができる。
【0027】
油圧シリンダ10の縮み動作においては、閉回路ポンプ7が油をキャップ側油路17aから吸い込み、ロッド側油路17bへ吐出する。また、切換弁12aを開位置とし、比例弁13を操作レバー30の操作量に応じて開き、キャップ室10aから排出される余剰流量を比例弁13から排出する。これによりシリンダ縮み動作の増速ができるとともに、回路の流量収支をとることができる。
【0028】
図3はコントローラ20の機能ブロック図であり、図4はコントローラの一制御周期における処理の流れを示すフローチャートである。
【0029】
図3に示すように、コントローラ20は、バルブ・ポンプ指令生成部21と、ロッドアシスト可否判定部22と、比例弁開口制限部23と、ロッドアシスト流量制限部24と、バルブ・ポンプ指令補正部25とを備えている。コントローラ20は、図示しない演算装置としてのCPU、記憶装置としてのROM,RAM、その他周辺回路で構成され、ROMに格納されたプログラムをCPUで実行することにより、各部の機能を実現する。
【0030】
図4の処理F1において、バルブ・ポンプ指令生成部21は操作レバー30の操作量および圧力センサ18a,18bの圧力情報に応じたバルブ指令およびポンプ指令を生成する。次の処理F2では、シリンダ動作方向が縮み方向か否か判定する。縮み方向である場合、処理F3に進み、そうでない場合はフローを終了する。処理F3では、ロッドアシスト可否判定部22が、開回路ポンプ8がロッド室10bに接続してダンプ動作を増速するロッドアシスト動作を開始するか否かの判定を行う。判定にはシリンダの圧力情報を用いる。ロッド室10bの圧力からキャップ室10aの圧力を引いた差圧が所定の閾値(第1閾値)αよりも大きければ開回路ポンプ8をロッド室10bに接続してもよいと判定し処理F4に進み、そうでない場合は処理F7に進む。ここで、閾値αはフラッシング弁14の切換設定圧βよりも大きい値に設定されている。
【0031】
ロッドアシスト動作をする場合の処理F4では、開回路ポンプ8をロッド室10bに接続するための指令を生成する。続く処理F5では、ロッドアシスト流量制限部24が、開回路ポンプ8をロッド室10bに接続することにより増大するロッド圧の上昇を抑制するために、フラッシング弁14の通過流量を抑制するための演算を行う。具体的には、ポンプ流量指令から演算したフラッシング弁14の通過予定流量値が、予め設定された通過可能流量値よりも大きいか否か判定する。大きい場合は処理F6に進み、開回路ポンプ8の流量指令を制限する。バルブ・ポンプ指令補正部25は、ロッドアシスト流量制限部24によって制限された流量指令に応じて、バルブ・ポンプ指令生成部21生成した開回路ポンプ8の吐出流量指令を補正する。通過予定流量値が通過可能流量値以下の場合はフローを終了する。
【0032】
処理F3においてロッド室10bの圧力からキャップ室10aの圧力を引いた差圧が閾値α以下であると判定された場合、ロッドアシスト動作を行わず、処理F7へと進む。処理F7では、比例弁開口制限部23が、ロッド室10bの圧力が予め設定された閾値よりも小さいか否か判定する。閾値を下回った場合、処理F8に進み、比例弁13の開口指令を制限する。バルブ・ポンプ指令補正部25は、比例弁開口制限部23によって制限された開口指令に応じて、バルブ・ポンプ指令生成部21生成した比例弁13の開口指令を補正する。差圧が閾値αよりも大きい場合はフローを終了する。
【0033】
これら制限後の指令にもとづき、バルブ・ポンプ指令補正部25はバルブおよびポンプへの指令を補正し、出力する。
【0034】
本実施例に係る油圧ショベル100の動作を、アーム2を空中にて抱えこんだ状態からダンプする動作を例として説明する。
【0035】
処理F1ではレバー操作量およびシリンダ負荷圧に応じてポンプおよびバルブの指令を生成する。前述の通り、閉回路ポンプ7にはロッド側油路17bへの吐出流量指令を操作レバー30の操作量に応じて生成し、切換弁12aには開指令を、切換弁12bには閉指令を、比例弁13には閉回路ポンプ7への指令に応じた開口指令が生成される。
【0036】
処理F2ではシリンダ操作方向が縮み方向か否か判定を行う。アームダンプ動作はシリンダ縮み方向なので処理F3に進む。続く処理F3ではロッド室10bの圧力からキャップ室10aの圧力を引いた差圧が正の閾値αよりも大きいか否か判定を行う。アーム2を抱え込んだ姿勢ではキャップ室10aの圧力がロッド室10bの圧力よりも十分に大きいため、処理F3の判定基準を満たさず、処理F7に進む。処理F7では、キャップ室10aの圧力が所定の閾値(第2閾値)δよりも小さいか否か判定する。本実施例では当判定基準を満たさないとしフローを終了する。キャップ圧が閾値δよりも小さいと判定されて処理F8を行う場合の動作は第2の実施例において説明する。
【0037】
処理F3でロッド圧からキャップ圧を引いた差圧が閾値α以下であると判定した場合(すなわち、ロッドアシスト動作を行わないとき)の駆動装置200の状態を図5に示す。閉回路ポンプ7の吐出流量をQcp、比例弁13の排出流量をQbvとすると、キャップ室10aから流出する流量はQcp+Qbvとなるので、キャップ室10aとロッド室10bの受圧面積をそれぞれAc,Arとすると、ロッド室10bへ流入する流量は、
【0038】
【数1】
【0039】
となる。ここで、閉回路ポンプ7はキャップ室10aからQcpの流量を吸い込むと同時にロッド室10bへ同流量の油を吐出しているため、フラッシング弁14を通過する流量は、
【0040】
【数2】
【0041】
となる。ここで、説明の簡単のためにAr=1,Ac=2とすると、式(2)は、
【0042】
【数3】
【0043】
と表され、比例弁13と閉回路ポンプ7の流量が相殺されてフラッシング弁14の通過流量となることがわかる。よってフラッシング弁14の圧力損失が小さく済みロッド圧が上昇しづらい傾向にある。例えばQcp=100,Qbv=100とすると、式(2)の値は0となり、フラッシング弁14に油は流れない。
【0044】
アームダンプ動作を続け、シリンダ縮み方向に自重が作用し、ロッド圧からキャップ圧を引いた差圧が閾値αよりも大きくなると、処理F3の判定の結果、処理F4に進む。
【0045】
処理F4では開回路ポンプ8をロッド室10bに接続する指令を生成する。すなわち、切換弁12aを閉じ、12bを開き、比例弁13を閉じる指令を生成する。これにより、開回路ポンプ8の吐出流量をロッド室10bに送りこみアームダンプ動作を増速することが可能となる。
【0046】
ここで、処理F3において閾値αを設けた理由について図5および図6を用いて説明する。図6は、ロッドアシスト可否判定部22の演算例を示す図である。
【0047】
図5において、開回路ポンプ8をロッド室10bに接続した状態、すなわち比例弁13を閉じる直前における閉回路ポンプ7の吐出流量をQcpとする。このとき、もしロッド室10bの圧力とキャップ室10aの圧力とが等しい時刻t1において比例弁13を閉じると、Qbv=0となるのでキャップ室10aからの排出流量はQcpとなる。一方でロッド室10bとキャップ室10aの圧力が等しいためフラッシング弁14は中立位置にある。よってキャップ室10aからの排出流量Qcpをフラッシング弁14から油タンク11に排出することができず、キャップ圧が上昇してしまう。これによりフラッシング弁14がロッド側油路17bに開口するよう変位が戻され、シリンダ動作が不安定になる。
【0048】
そこで、図6に示すように、ロッド圧からキャップ圧を引いた差圧が閾値αと一致する時刻t2において比例弁13を閉じることとする。ここで、閾値αはフラッシング弁14の切換設定圧βよりも大きい値に設定されており、時刻t2ではフラッシング弁14がキャップ側油路17aに開口するように十分に変位しているので、キャップ室10aからの流量Qcpをフラッシング弁14により排出することができ、キャップ圧の過度な上昇を抑制することができる。
【0049】
このように開回路ポンプ8をロッド室10bに接続すると図7の回路状態に移行する。閉回路ポンプ7の吐出流量をQcp、開回路ポンプ8の吐出流量をQopとすると、ロッド室10bに流入する流量はQcp+Qopとなるので、キャップ室10aから排出される流量は、
【0050】
【数4】
【0051】
となる。閉回路ポンプ7はロッド室10bにQcpの流量を吐出すると同時に同じ流量をキャップ室10aから吸い込むため、フラッシング弁14を通過する流量は、
【0052】
【数5】
【0053】
となる。簡単のためにAr=1,Ac=2とすると、式(5)は、
【0054】
【数6】
【0055】
と表され、フラッシング弁14の通過流量は閉回路ポンプ7の流量に開回路ポンプ8の2倍の流量が加算されたものであることがわかる。ところで、フラッシング弁14の通過流量が増大するとフラッシング弁14の圧力損失が大きくなり、キャップ圧が上昇する。キャップ圧が上昇すると、フラッシング弁14をキャップ開口側に変位させるための油圧力が減少するので、フラッシング弁14のキャップ側開口面積が減少する。これにより圧力損失が増幅され、フラッシング弁14の変位が逆転し、シリンダ動作が不安定になる。
【0056】
そこでロッドアシスト流量制限部24による演算を行う。処理F5ではフラッシング弁14の通過予定流量が通過可能流量よりも大きいか否かの判定を行う。通過予定流量は式(5)で表される。通過可能流量はロッド圧からキャップ圧を引いた差圧に対しフラッシング弁14に流すことができる流量として予め設定されている。
【0057】
この関係を、図8の例を用いて説明する。図8の横軸はロッド圧からキャップ圧を引いた差圧を示し、縦軸はフラッシング弁14の通過流量を示している。実線91はフラッシング弁14の通過可能流量を示し、一点鎖線92はフラッシング弁14の通過予定流量を示している。差圧がフラッシング弁14の切換設定圧βよりも小さいときは、フラッシング弁14はキャップ側油路17aに開口していないため、通過可能流量91はゼロとなる。差圧がフラッシング弁14の切換設定圧βを超えると、フラッシング弁14がキャップ側油路17aに開口し、差圧に応じて通過可能流量91は増加する。通過予定流量92は差圧に応じて増加し、差圧がγよりも小さいときは通過可能流量91を上回り、差圧がγよりも大きいときは通過可能流量91を下回る。従って、差圧がγよりも大きいとき(図6に示す時刻t3以降)は通過予定流量92は通過可能流量91よりも小さくなるため、処理F5でフローを終了する。このとき、式(5)で表される通過予定流量がフラッシング弁14を介して油タンク11に排出される。差圧がγよりも小さいとき(図6に示す時刻t3以前)は通過予定流量92が通過可能流量91よりも大きくなるため、処理F6に進み、開回路ポンプ8の吐出流量を制限する。これにより、通過予定流量が通過可能流量以下に抑えられるため、フラッシング弁14に想定以上の過大流量を流さずに済み、フラッシング弁14の変位およびキャップ圧を安定させることができる。
【0058】
なお、通過可能流量は、フラッシング弁14の駆動圧力−変位特性、変位−開口特性、ある開口時における流量−圧損特性、キャップ圧の許容上限値などのパラメータを用い、シリンダ増速と安定した動作とのバランスをとって設計されるものである。
【0059】
以上のように構成した本実施例に係る油圧ショベル100によれば、油圧シリンダ10が縮み方向に操作された場合に、油圧シリンダ10のキャップ室10aがフラッシング弁14を介して油タンク11に連通していない場合にロッドアシスト動作が不能となり、キャップ室10aがフラッシング弁14を介して油タンク11に連通している場合にロッドアシスト動作が可能となる。これにより、ロッドアシスト動作を開始した直後からキャップ室10aの排出流量の一部がフラッシング弁14を介して油タンク11に戻され、キャップ圧の上昇が抑制されるため、油圧シリンダ10の縮み動作を安定的に増速することが可能となる。
【0060】
また、シリンダ縮み動作において開回路ポンプ8をキャップ室10aに接続した際に、キャップ側油路の余剰流量(通過予定流量)がフラッシング弁14の通過可能流量以下に抑えられるように開回路ポンプ8の吐出流量が制限されるため、キャップ圧の上昇を更に抑制することができる。
【実施例2】
【0061】
本発明の第2の実施例では、図4の処理F7において油圧シリンダ10のキャップ圧が閾値よりも小さいと判定した場合について説明する。ロッドアシスト動作を行っていない状態(図5に示す)では、シリンダ速度はキャップ室10aの排出流量(閉回路ポンプ7の吸込み流量および比例弁13の排出流量の合計流量)で制御することとなる。
【0062】
このときシリンダ増速のために比例弁13の流量Qbvを大きくし過ぎてしまうと、キャップ圧が過剰に低くなり、閉回路ポンプ7の吸込み側でキャビテーションが発生してポンプが損傷するなどの不都合が生じうる。
【0063】
これを防ぐため、比例弁開口制限部23(図4に示す)は、キャップ圧が所定の閾値δを下回った場合に比例弁13の開口を制限する。閾値としては例えばチャージリリーフ弁16cの設定圧力が挙げられる。これにより、キャップ圧が閾値を下回らないように比例弁13の開口が抑制されるので、前述したキャビテーションの発生を防ぐことができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態では、油圧ショベルを例に説明したが、本発明は、油圧ショベル以外の建設機械にも適用可能である。また、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1A…フロント装置、1B…上部旋回体、1C…下部走行体、1…ブーム、2…アーム、3…バケット、4…ブームシリンダ(油圧シリンダ)、5…アームシリンダ(油圧シリンダ)、6…バケットシリンダ(油圧シリンダ)、7…閉回路ポンプ、8…開回路ポンプ、9…チャージポンプ、10…油圧シリンダ、10a…キャップ室、10b…ロッド室、11…油タンク、12…切換弁、13…比例弁、14…フラッシング弁、15…チェック弁、16a,16b…メインリリーフ弁、16c…チャージリリーフ弁、17a…キャップ側油路、17b…ロッド側油路、18a…キャップ側圧力センサ(キャップ圧力検出装置)、18b…ロッド側圧力センサ(ロッド圧力検出装置)、19…排出油路、20…コントローラ、21…バルブ・ポンプ指令生成部、22…ロッドアシスト可否判定部、23…比例弁開口制限部、24…ロッドアシスト流量制限部、25…バルブ・ポンプ指令補正部、30…操作レバー、91…フラッシング弁通過可能流量、92…フラッシング弁通過予定流量、100…油圧ショベル、200…駆動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8