【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例について
図2〜
図8を用いて説明する。
【0017】
図2は、
図1に示す油圧ショベルに搭載された駆動装置の待機状態を示す図である。なお、
図2では、
図1に示すブームシリンダ4、アームシリンダ5、およびバケットシリンダ6を油圧シリンダ10で代表して示している。
【0018】
図2に示すように、駆動装置200は、閉回路ポンプ(第1油圧ポンプ)7と、開回路ポンプ(第2油圧ポンプ)8と、チャージポンプ9と、油圧シリンダ10と、油タンク11と、キャップ側切換弁12aと、ロッド側切換弁12bと、比例弁13と、フラッシング弁14と、操作レバー30と、コントローラ20とを備えている。
【0019】
両傾転可変容量ポンプである閉回路ポンプ7、片傾転可変容量ポンプである開回路ポンプ8、および片傾転固定容量ポンプであるチャージポンプ9は図示しない原動機により駆動される。
【0020】
閉回路ポンプ7の一方の吐出ポートは、キャップ側油路17aを介して油圧シリンダ10のキャップ室10aに接続され、他方の吐出ポートは、ロッド側油路17bを介して油圧シリンダ10のロッド室10bに接続されている。閉回路ポンプ7は、アームシリンダ5のキャップ室10aまたはロッド室10bの一方から油を吸い込み他方に吐出することにより、油圧シリンダ10を直接駆動する。すなわち、閉回路ポンプ7、油圧シリンダ10、キャップ側油路17a、およびロッド側油路17bは、閉回路を構成している。キャップ側油路17aにはキャップ室10aの圧力(キャップ圧)を検出するキャップ側圧力センサ(キャップ圧力検出装置)18aが設けられ、ロッド側油路17bにはロッド室10bの圧力(キャップ圧)を検出するロッド側圧力センサ(ロッド圧力検出装置)18bが設けられている。
【0021】
開回路ポンプ8の吐出ポートは、キャップ側切換弁12aを介してキャップ側油路17aに接続され、ロッド側切換弁12bを介してロッド側油路17bに接続されている。キャップ側切換弁12aがオンオフ動作することにより、開回路ポンプ8の吐出ポートとキャップ室10aとが連通または遮断され、ロッド側切換弁12bがオンオフ動作することにより、開回路ポンプ8の吐出ポートとロッド室10bとが連通または遮断される。開回路ポンプ8は、油タンク11から油を吸い込み、切換弁12a,12bを介してアームシリンダ5のキャップ室10aまたはロッド室10bに圧油を供給する。
【0022】
比例弁13は、開回路ポンプ8の吐出流路から分岐して油タンク11に連通する排出流路19に設けられている。比例弁13は開回路ポンプ8を使用しないときに開口し、開回路ポンプ8の吐出流量を油タンク11に戻す。また、比例弁13は操作レバー30の操作量に応じて開口面積を連続的に変化させ、キャップ室10aから油タンク11に排出される流量を調整することにより、シリンダ縮み動作を増速する。チャージポンプ9は油タンク11から油を吸い込み、チェック弁15a,15bを介して回路に油を補充する。フラッシング弁14は、キャップ側油路17aおよび前記ロッド側油路17bのいずれか低圧側の余剰油を油タンク11に排出する。メインリリーフ弁16a,16bは回路の最大圧力を設定し、チャージリリーフ弁16cはチャージポンプ9の最大圧力を設定する。
【0023】
コントローラ20は、操作レバー30の操作量や圧力センサ18a,18bの圧力情報などに基づき、閉回路ポンプ7の吐出方向、閉回路ポンプ7および開回路ポンプ8の吐出流量指令、切換弁12a,12bの開閉指令、および比例弁13の開口指令を演算し、出力する。
【0024】
図2に示す通り、待機状態において切換弁12aは閉位置にあり、キャップ室10aの圧力を保持する。また、比例弁13は開位置にあり、開回路ポンプ8の待機流量を油タンク11に逃がして圧力の上昇を防止する。
【0025】
次にアーム動作について説明する。
【0026】
油圧シリンダ10の伸長動作においては、閉回路ポンプ7が油をロッド側油路17bから吸い込み、キャップ側油路17aへ吐出する。また、切換弁12aを開位置とし、比例弁13を閉位置とする。そして、開回路ポンプ8には閉回路ポンプ7の吐出流量およびシリンダの受圧面積差によって生じるキャップ室10aの不足分の油を補う流量指令がなされる。これによりシリンダ伸長動作の増速ができるとともに、回路の流量収支をとることができる。
【0027】
油圧シリンダ10の縮み動作においては、閉回路ポンプ7が油をキャップ側油路17aから吸い込み、ロッド側油路17bへ吐出する。また、切換弁12aを開位置とし、比例弁13を操作レバー30の操作量に応じて開き、キャップ室10aから排出される余剰流量を比例弁13から排出する。これによりシリンダ縮み動作の増速ができるとともに、回路の流量収支をとることができる。
【0028】
図3はコントローラ20の機能ブロック図であり、
図4はコントローラの一制御周期における処理の流れを示すフローチャートである。
【0029】
図3に示すように、コントローラ20は、バルブ・ポンプ指令生成部21と、ロッドアシスト可否判定部22と、比例弁開口制限部23と、ロッドアシスト流量制限部24と、バルブ・ポンプ指令補正部25とを備えている。コントローラ20は、図示しない演算装置としてのCPU、記憶装置としてのROM,RAM、その他周辺回路で構成され、ROMに格納されたプログラムをCPUで実行することにより、各部の機能を実現する。
【0030】
図4の処理F1において、バルブ・ポンプ指令生成部21は操作レバー30の操作量および圧力センサ18a,18bの圧力情報に応じたバルブ指令およびポンプ指令を生成する。次の処理F2では、シリンダ動作方向が縮み方向か否か判定する。縮み方向である場合、処理F3に進み、そうでない場合はフローを終了する。処理F3では、ロッドアシスト可否判定部22が、開回路ポンプ8がロッド室10bに接続してダンプ動作を増速するロッドアシスト動作を開始するか否かの判定を行う。判定にはシリンダの圧力情報を用いる。ロッド室10bの圧力からキャップ室10aの圧力を引いた差圧が所定の閾値(第1閾値)αよりも大きければ開回路ポンプ8をロッド室10bに接続してもよいと判定し処理F4に進み、そうでない場合は処理F7に進む。ここで、閾値αはフラッシング弁14の切換設定圧βよりも大きい値に設定されている。
【0031】
ロッドアシスト動作をする場合の処理F4では、開回路ポンプ8をロッド室10bに接続するための指令を生成する。続く処理F5では、ロッドアシスト流量制限部24が、開回路ポンプ8をロッド室10bに接続することにより増大するロッド圧の上昇を抑制するために、フラッシング弁14の通過流量を抑制するための演算を行う。具体的には、ポンプ流量指令から演算したフラッシング弁14の通過予定流量値が、予め設定された通過可能流量値よりも大きいか否か判定する。大きい場合は処理F6に進み、開回路ポンプ8の流量指令を制限する。バルブ・ポンプ指令補正部25は、ロッドアシスト流量制限部24によって制限された流量指令に応じて、バルブ・ポンプ指令生成部21生成した開回路ポンプ8の吐出流量指令を補正する。通過予定流量値が通過可能流量値以下の場合はフローを終了する。
【0032】
処理F3においてロッド室10bの圧力からキャップ室10aの圧力を引いた差圧が閾値α以下であると判定された場合、ロッドアシスト動作を行わず、処理F7へと進む。処理F7では、比例弁開口制限部23が、ロッド室10bの圧力が予め設定された閾値よりも小さいか否か判定する。閾値を下回った場合、処理F8に進み、比例弁13の開口指令を制限する。バルブ・ポンプ指令補正部25は、比例弁開口制限部23によって制限された開口指令に応じて、バルブ・ポンプ指令生成部21生成した比例弁13の開口指令を補正する。差圧が閾値αよりも大きい場合はフローを終了する。
【0033】
これら制限後の指令にもとづき、バルブ・ポンプ指令補正部25はバルブおよびポンプへの指令を補正し、出力する。
【0034】
本実施例に係る油圧ショベル100の動作を、アーム2を空中にて抱えこんだ状態からダンプする動作を例として説明する。
【0035】
処理F1ではレバー操作量およびシリンダ負荷圧に応じてポンプおよびバルブの指令を生成する。前述の通り、閉回路ポンプ7にはロッド側油路17bへの吐出流量指令を操作レバー30の操作量に応じて生成し、切換弁12aには開指令を、切換弁12bには閉指令を、比例弁13には閉回路ポンプ7への指令に応じた開口指令が生成される。
【0036】
処理F2ではシリンダ操作方向が縮み方向か否か判定を行う。アームダンプ動作はシリンダ縮み方向なので処理F3に進む。続く処理F3ではロッド室10bの圧力からキャップ室10aの圧力を引いた差圧が正の閾値αよりも大きいか否か判定を行う。アーム2を抱え込んだ姿勢ではキャップ室10aの圧力がロッド室10bの圧力よりも十分に大きいため、処理F3の判定基準を満たさず、処理F7に進む。処理F7では、キャップ室10aの圧力が所定の閾値(第2閾値)δよりも小さいか否か判定する。本実施例では当判定基準を満たさないとしフローを終了する。キャップ圧が閾値δよりも小さいと判定されて処理F8を行う場合の動作は第2の実施例において説明する。
【0037】
処理F3でロッド圧からキャップ圧を引いた差圧が閾値α以下であると判定した場合(すなわち、ロッドアシスト動作を行わないとき)の駆動装置200の状態を
図5に示す。閉回路ポンプ7の吐出流量をQcp、比例弁13の排出流量をQbvとすると、キャップ室10aから流出する流量はQcp+Qbvとなるので、キャップ室10aとロッド室10bの受圧面積をそれぞれAc,Arとすると、ロッド室10bへ流入する流量は、
【0038】
【数1】
【0039】
となる。ここで、閉回路ポンプ7はキャップ室10aからQcpの流量を吸い込むと同時にロッド室10bへ同流量の油を吐出しているため、フラッシング弁14を通過する流量は、
【0040】
【数2】
【0041】
となる。ここで、説明の簡単のためにAr=1,Ac=2とすると、式(2)は、
【0042】
【数3】
【0043】
と表され、比例弁13と閉回路ポンプ7の流量が相殺されてフラッシング弁14の通過流量となることがわかる。よってフラッシング弁14の圧力損失が小さく済みロッド圧が上昇しづらい傾向にある。例えばQcp=100,Qbv=100とすると、式(2)の値は0となり、フラッシング弁14に油は流れない。
【0044】
アームダンプ動作を続け、シリンダ縮み方向に自重が作用し、ロッド圧からキャップ圧を引いた差圧が閾値αよりも大きくなると、処理F3の判定の結果、処理F4に進む。
【0045】
処理F4では開回路ポンプ8をロッド室10bに接続する指令を生成する。すなわち、切換弁12aを閉じ、12bを開き、比例弁13を閉じる指令を生成する。これにより、開回路ポンプ8の吐出流量をロッド室10bに送りこみアームダンプ動作を増速することが可能となる。
【0046】
ここで、処理F3において閾値αを設けた理由について
図5および
図6を用いて説明する。
図6は、ロッドアシスト可否判定部22の演算例を示す図である。
【0047】
図5において、開回路ポンプ8をロッド室10bに接続した状態、すなわち比例弁13を閉じる直前における閉回路ポンプ7の吐出流量をQcpとする。このとき、もしロッド室10bの圧力とキャップ室10aの圧力とが等しい時刻t1において比例弁13を閉じると、Qbv=0となるのでキャップ室10aからの排出流量はQcpとなる。一方でロッド室10bとキャップ室10aの圧力が等しいためフラッシング弁14は中立位置にある。よってキャップ室10aからの排出流量Qcpをフラッシング弁14から油タンク11に排出することができず、キャップ圧が上昇してしまう。これによりフラッシング弁14がロッド側油路17bに開口するよう変位が戻され、シリンダ動作が不安定になる。
【0048】
そこで、
図6に示すように、ロッド圧からキャップ圧を引いた差圧が閾値αと一致する時刻t2において比例弁13を閉じることとする。ここで、閾値αはフラッシング弁14の切換設定圧βよりも大きい値に設定されており、時刻t2ではフラッシング弁14がキャップ側油路17aに開口するように十分に変位しているので、キャップ室10aからの流量Qcpをフラッシング弁14により排出することができ、キャップ圧の過度な上昇を抑制することができる。
【0049】
このように開回路ポンプ8をロッド室10bに接続すると
図7の回路状態に移行する。閉回路ポンプ7の吐出流量をQcp、開回路ポンプ8の吐出流量をQopとすると、ロッド室10bに流入する流量はQcp+Qopとなるので、キャップ室10aから排出される流量は、
【0050】
【数4】
【0051】
となる。閉回路ポンプ7はロッド室10bにQcpの流量を吐出すると同時に同じ流量をキャップ室10aから吸い込むため、フラッシング弁14を通過する流量は、
【0052】
【数5】
【0053】
となる。簡単のためにAr=1,Ac=2とすると、式(5)は、
【0054】
【数6】
【0055】
と表され、フラッシング弁14の通過流量は閉回路ポンプ7の流量に開回路ポンプ8の2倍の流量が加算されたものであることがわかる。ところで、フラッシング弁14の通過流量が増大するとフラッシング弁14の圧力損失が大きくなり、キャップ圧が上昇する。キャップ圧が上昇すると、フラッシング弁14をキャップ開口側に変位させるための油圧力が減少するので、フラッシング弁14のキャップ側開口面積が減少する。これにより圧力損失が増幅され、フラッシング弁14の変位が逆転し、シリンダ動作が不安定になる。
【0056】
そこでロッドアシスト流量制限部24による演算を行う。処理F5ではフラッシング弁14の通過予定流量が通過可能流量よりも大きいか否かの判定を行う。通過予定流量は式(5)で表される。通過可能流量はロッド圧からキャップ圧を引いた差圧に対しフラッシング弁14に流すことができる流量として予め設定されている。
【0057】
この関係を、
図8の例を用いて説明する。
図8の横軸はロッド圧からキャップ圧を引いた差圧を示し、縦軸はフラッシング弁14の通過流量を示している。実線91はフラッシング弁14の通過可能流量を示し、一点鎖線92はフラッシング弁14の通過予定流量を示している。差圧がフラッシング弁14の切換設定圧βよりも小さいときは、フラッシング弁14はキャップ側油路17aに開口していないため、通過可能流量91はゼロとなる。差圧がフラッシング弁14の切換設定圧βを超えると、フラッシング弁14がキャップ側油路17aに開口し、差圧に応じて通過可能流量91は増加する。通過予定流量92は差圧に応じて増加し、差圧がγよりも小さいときは通過可能流量91を上回り、差圧がγよりも大きいときは通過可能流量91を下回る。従って、差圧がγよりも大きいとき(
図6に示す時刻t3以降)は通過予定流量92は通過可能流量91よりも小さくなるため、処理F5でフローを終了する。このとき、式(5)で表される通過予定流量がフラッシング弁14を介して油タンク11に排出される。差圧がγよりも小さいとき(
図6に示す時刻t3以前)は通過予定流量92が通過可能流量91よりも大きくなるため、処理F6に進み、開回路ポンプ8の吐出流量を制限する。これにより、通過予定流量が通過可能流量以下に抑えられるため、フラッシング弁14に想定以上の過大流量を流さずに済み、フラッシング弁14の変位およびキャップ圧を安定させることができる。
【0058】
なお、通過可能流量は、フラッシング弁14の駆動圧力−変位特性、変位−開口特性、ある開口時における流量−圧損特性、キャップ圧の許容上限値などのパラメータを用い、シリンダ増速と安定した動作とのバランスをとって設計されるものである。
【0059】
以上のように構成した本実施例に係る油圧ショベル100によれば、油圧シリンダ10が縮み方向に操作された場合に、油圧シリンダ10のキャップ室10aがフラッシング弁14を介して油タンク11に連通していない場合にロッドアシスト動作が不能となり、キャップ室10aがフラッシング弁14を介して油タンク11に連通している場合にロッドアシスト動作が可能となる。これにより、ロッドアシスト動作を開始した直後からキャップ室10aの排出流量の一部がフラッシング弁14を介して油タンク11に戻され、キャップ圧の上昇が抑制されるため、油圧シリンダ10の縮み動作を安定的に増速することが可能となる。
【0060】
また、シリンダ縮み動作において開回路ポンプ8をキャップ室10aに接続した際に、キャップ側油路の余剰流量(通過予定流量)がフラッシング弁14の通過可能流量以下に抑えられるように開回路ポンプ8の吐出流量が制限されるため、キャップ圧の上昇を更に抑制することができる。