(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814466
(24)【登録日】2020年12月23日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】旧型油圧式プレスブレーキの安全化改造方法および安全化改造プレスブレーキ
(51)【国際特許分類】
B21D 5/02 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
B21D5/02 M
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-252015(P2016-252015)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-103218(P2018-103218A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】399026328
【氏名又は名称】しのはらプレスサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 日出好
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 大己
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真大
【審査官】
大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−110200(JP,U)
【文献】
実開昭56−132000(JP,U)
【文献】
特開昭54−129573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部テーブルが固定されかつ下部テーブルが油圧によって上昇させられてワークの加工を行うプレスブレーキの安全化改造方法であって、
モータと油圧ポンプとからなる油圧源から吐出された作動油を前記下部テーブルを押し上げるシリンダに所定の油路を介して導き、前記油路の作動油を切換弁によって選択的にドレーンさせるように構成された使用済みの旧型プレスブレーキを用意し、
前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に作業者の手が差し込まれている異常状態を検知する障害検知装置を、前記旧型プレスブレーキにおける前記異常状態を検知可能な箇所に新設し、
前記障害検知装置による前記異常状態の検知信号に基づいて動作することにより前記油路の作動油をドレーンする急停止弁を前記油路に連通させて取り付け、
前記旧型プレスブレーキは、前記油路を介して作動油が供給されるメインシリンダと前記油路から分岐して前記油路に連通された複数のサブシリンダとを有し、
前記急停止弁は、前記油路のうち前記サブシリンダに作動油を供給する分岐箇所よりも前記油圧源側の所定箇所に接続し、
さらに、前記旧型プレスブレーキは、前記分岐箇所と前記サブシリンダとの間に、前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇することにより動作して前記油路と前記サブシリンダとを連通させ、かつ前記油路の油圧が予め設定してある圧力より低い圧力になると前記サブシリンダから作動油をドレーンさせるシーケンス弁を有し、
前記油圧源を可変容量型の油圧源に置換し、
前記油路の油圧を検出するセンサを新設し、
前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇したことを前記センサが検出した場合に前記油圧源からの作動油の吐出量を増大させる制御ユニットを設ける
ことを特徴とするプレスブレーキの安全化改造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレスブレーキの安全化改造方法において、
前記急停止弁として、通電が止められたオフ状態で開状態になって前記作動油をドレーンし、かつ通電されたオン状態で閉状態になって前記作動油のドレーンを止める電磁弁を使用し、
前記油圧源が作動油を吐出しかつ前記切換弁が前記作動油のドレーンを止めている状態で前記急停止弁に通電して前記急停止弁を閉状態にし、前記障害検知装置が前記異常状態の検知信号を出力したことにより前記閉状態の前記急停止弁に対する通電を止めて前記急停止弁を開状態に切り替える制御ユニットを、前記旧型プレスブレーキに新設する
ことを特徴とするプレスブレーキの安全化改造方法。
【請求項3】
上部テーブルが固定されかつ下部テーブルが油圧によって上昇させられてワークの加工を行い、モータと油圧ポンプとからなる油圧源から吐出された作動油を前記下部テーブルを押し上げるシリンダに所定の油路を介して導き、前記油路の作動油を切換弁によって選択的にドレーンさせるように構成された使用済みの旧型プレスブレーキを改造した安全化改造プレスブレーキであって、
前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に作業者の手が差し込まれている異常状態を検知する障害検知装置が、前記旧型プレスブレーキにおける前記異常状態を検知可能な箇所に設けられ、
前記障害検知装置による前記異常状態の検知信号に基づいて動作することにより前記油路の作動油をドレーンする急停止弁が前記油路に連通させて取り付けられ、
前記旧型プレスブレーキに設けられていた、前記油路を介して作動油が供給されるメインシリンダと前記油路から分岐して前記油路に連通された複数のサブシリンダとを有し、
前記急停止弁は、前記油路のうち前記サブシリンダに作動油を供給する分岐箇所よりも前記油圧源側の所定箇所に接続され、
前記分岐箇所と前記サブシリンダとの間に、前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇することにより動作して前記油路と前記サブシリンダとを連通させ、かつ前記油路の油圧が予め設定してある圧力より低い圧力になると前記サブシリンダから作動油をドレーンさせる、前記旧型プレスブレーキに設けられていたシーケンス弁を有し、
前記油圧源は、可変容量型の油圧源によって構成され、
前記油路の油圧を検出するセンサが設けられ、
前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇したことを前記センサが検出した場合に前記油圧源からの作動油の吐出量を増大させる制御ユニットが設けられている
ことを特徴とする安全化改造プレスブレーキ。
【請求項4】
請求項3に記載の安全化改造プレスブレーキにおいて、
前記急停止弁は、通電が止められたオフ状態で開状態になって前記作動油をドレーンし、かつ通電されたオン状態で閉状態になって前記作動油のドレーンを止める電磁弁によって構成され、
前記油圧源が作動油を吐出しかつ前記切換弁が前記作動油のドレーンを止めている状態で前記急停止弁に通電して前記急停止弁を閉状態にし、前記障害検知装置が前記異常状態の検知信号を出力したことにより前記閉状態の前記急停止弁に対する通電を止めて前記急停止弁を開状態に切り替える制御ユニットを備えている
ことを特徴とする安全化改造プレスブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全装置が取り付けられていない旧型油圧式プレスブレーキを安全化改造する改造に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスブレーキは鋼板や樹脂板等の板材を直線に沿って曲げ加工するプレス機の一種で、大型で横幅が広く、作業者は上下のプレス型の近くで手で板材を保持し、足でペダルを操作するのが一般の作業方法である。従来、この種のプレスブレーキにおいては、手先などが挟まれる事故の危険が大きいにもかかわらず、プレス型の近くまで手を伸ばす作業が多いため光線式などの安全装置の取り付けが困難であり、旧型のプレスブレーキにはこの種の安全装置が設けられていないのが実情である。
【0003】
旧型プレスブレーキの油圧回路の一例を
図3に示す。この例は上部テーブルが固定で、下部テーブルがスライドとして昇降する形式のもので、昇降用にメインシリンダ13と、サブシリンダ14a,14bの3本のシリンダが配置されている。モータ1で駆動される油圧ポンプ2から送り出された作動油は直接メインシリンダ13に送られ、また両側のサブシリンダ14a,14bにはシーケンス弁7を介して作動油が送られる。
【0004】
このプレスブレーキは、ペダル10を踏むことによって作動する。ペダル10を踏まない状態では切換弁11が解放状態になっているため、作動油は切換弁11からオイルタンク6にドレーンされる。すなわち、各シリンダ13,14a,14bに作動油が送られないので、スライドSは上昇しない。
【0005】
ペダル10を踏んで切換弁11が閉じると、まず、メインシリンダ13に作動油が送られてスライドSが上昇する。そして実際に曲げ加工が開始されると、負荷によって油圧が上昇する。上昇した油圧によってシーケンス弁7が切り替わり、サブシリンダ14a,14bにも圧油が送られ、合計3本のシリンダ13,14a,14bの押圧力によって加工が行われる。加工が終わりペダル10を離すと、メインシリンダ13からは切換弁11を介して圧油がドレーンされ、またシーケンス弁7に作用していた油圧が抜けてシーケンス弁7が復帰するので、サブシリンダ14a,14bからはシーケンス弁7を介してドレーンされる。こうしてスライドSに作用していた押し上げ力が解放されるので、スライドSは自重で下降する。なお、符号9は油圧回路全体を保護するリリーフ弁である。
【0006】
シーケンス弁7は、回路の圧力によって分岐回路の切り替えを行う圧力制御弁である。これは旧型プレスブレーキで既に使用されているものであるが、追って説明する本発明のプレスブレーキでも使用するので、
図4によりやや詳しく説明する。
【0007】
図4(a)、(b)はシーケンス弁7の一例を示す断面図であり、(c)は油圧回路で使用するシンボルを示す。ケーシング71のボア内にスプール72が挿入されている。スプール72は実質はピストンである。そして下端部に皿状の弁体73が形成されている。スプール72は圧縮ばね74で支持されており、ケーシング71内の
図4における上方に向けて付勢されている。Pポートから作動油が弁内に入り、ばね力に打ち勝つとピストン(スプール72)は下方に移動し、弁体73がケーシング底部のTポートを塞ぐ。なお、Tポートは作動油をオイルタンク6に戻すドレーンポートである。
【0008】
圧縮ばね74のばね力、すなわち切り換えを行う設定圧力の値は、図示しないねじ機構等によって調整できるように構成してもよい。
【0009】
図4(a)は作動油の圧力が低く、スプール72が圧縮ばね74によって上方に押し上げられている状態を示す。このとき下方のAポート、Bポートはいずれも底部のTポートに通じている。これらAポートおよびBポートは各サブシリンダ14a,14bに連通するポートであり、したがって
図3に示す2本のサブシリンダ14a,14bには、スライドSが上昇中であれば、負圧によって作動油が吸引される。あるいはスライドSが自重により下降中であれば、サブシリンダ14a,14bからの戻り油がオイルタンク6に流れる。
【0010】
スプール72の内部には、Pポートの圧油をスプール72の
図4における上端部と、弁体73側の外周面とに導く流路が形成されており、弁体73側の開口部は、スプール72がばね力によって押し上げられている状態ではスプール72が収容されているボアの内周面で閉じられ、スプール72が押し下げられた状態ではAポートおよびBポートに対して開口するようになっている。Pポートの油圧が高くなると、スプール72の
図4での上端部側の油圧が高くなるので、スプール72がばね力に抗して押し下げられ、
図4(b)に示す状態になる。この状態では、スプール72内に設けられた流路を通してPポートからの作動油がAポート、Bポートを経て2本のサブシリンダ14a,14bに送り込まれる。
【0011】
近年、レーザを使用する光線式の安全装置がプレスブレーキ用として法的に認められ、新規に製造されるプレスブレーキはこれを採用する設計となっている。特許文献1の
図1にその一例が示されているので、これを
図5として示し、簡単に説明する。
【0012】
図5において符号91はダイ金型を取り付けた下部テーブル、符号92はパンチ金型を取り付けた上部テーブル、符号93は上部テーブル92を昇降させる油圧シリンダである。すなわち、
図5に示すプレスブレーキは下部テーブル91が固定で、上部テーブル92が昇降するタイプのプレスブレーキである。そして上部テーブル92の左右両側部でかつ上下金型の水平方向手前に投光器94と受光器95とが対向して設置されており、作業者の身体の一部などがこの光線を遮断するなどの障害が検知されると電気信号が出力され、安全装置が作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2016−140882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在認められている光線式の安全装置においては、取り付けようとするプレス機に対して、次の性能が必要とされる。
(1)安全装置が作動したとき、瞬時にスライドを停止できること(制動距離14mm以下)。
(2)スライドの閉じ工程中に光線が遮断されたとき、あるいはスライドが設定位置に達したのち、引き続きスライドを作動させる場合に、その速度を毎秒10mm以下(これを「低閉じ速度」という)とすることができる構造であること。
【0015】
すなわち、光線式の安全装置は、非常停止機構を有するとともに、スライドの移動速度が少なくとも高低2段に瞬時に切り換えられる構造であることを要件として備えている必要がある。しかしながら、前記したように、過去に製造された旧型のプレスブレーキは、電気信号によって作動する部分がなく、これらを満足する構造となっていないばかりか、新たにこのような機能を付与することが困難な構成であった。そこで、安全を追求するならば旧型のプレスブレーキを廃却し、新品に置き換えることが必要となる。しかし、これは巨大な鉄の塊をスクラップにしてしまうという点において経済上の大きな損失であり、回避するための工夫が求められていた。
【0016】
本発明は、既存の旧型プレスブレーキの上下テーブル等の基本部分はそのまま残し、少ない費用で安全性および生産性を向上させるプレスブレーキの改造方法およびその方法で得られたプレスブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の方法は、上部テーブルが固定されかつ下部テーブルが油圧によって上昇させられてワークの加工を行うプレスブレーキの安全化改造方法であって、モータと油圧ポンプとからなる油圧源から吐出された作動油を前記下部テーブルを押し上げるシリンダに所定の油路を介して導き、前記油路の作動油を切換弁によって選択的にドレーンさせるように構成された使用済みの旧型プレスブレーキを用意し、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に作業者の手が差し込まれている異常状態を検知する障害検知装置を、前記旧型プレスブレーキにおける前記異常状態を検知可能な箇所に新設し、前記障害検知装置による前記異常状態の検知信号に基づいて動作することにより前記油路の作動油をドレーンする急停止弁を前記油路に連通させて取り付
け、前記旧型プレスブレーキは、前記油路を介して作動油が供給されるメインシリンダと前記油路から分岐して前記油路に連通された複数のサブシリンダとを有し、前記急停止弁は、前記油路のうち前記サブシリンダに作動油を供給する分岐箇所よりも前記油圧源側の所定箇所に接続し、さらに、前記旧型プレスブレーキは、前記分岐箇所と前記サブシリンダとの間に、前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇することにより動作して前記油路と前記サブシリンダとを連通させ、かつ前記油路の油圧が予め設定してある圧力より低い圧力になると前記サブシリンダから作動油をドレーンさせるシーケンス弁を有し、前記油圧源を可変容量型の油圧源に置換し、前記油路の油圧を検出するセンサを新設し、前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇したことを前記センサが検出した場合に前記油圧源からの作動油の吐出量を増大させる制御ユニットを設けることを特徴とする方法である。
【0018】
本発明の方法では、前記急停止弁として、通電が止められたオフ状態で開状態になって前記作動油をドレーンし、かつ通電されたオン状態で閉状態になって前記作動油のドレーンを止める電磁弁を使用し、前記油圧源が作動油を吐出しかつ前記切換弁が前記作動油のドレーンを止めている状態で前記急停止弁に通電して前記急停止弁を閉状態にし、前記障害検知装置が前記異常状態の検知信号を出力したことにより前記閉状態の前記急停止弁に対する通電を止めて前記急停止弁を開状態に切り替える制御ユニットを、前記旧型プレスブレーキに新設することができる。
【0021】
そして、本発明の安全化改造プレスブレーキは、上部テーブルが固定されかつ下部テーブルが油圧によって上昇させられてワークの加工を行い、モータと油圧ポンプとからなる油圧源から吐出された作動油を前記下部テーブルを押し上げるシリンダに所定の油路を介して導き、前記油路の作動油を切換弁によって選択的にドレーンさせるように構成された使用済みの旧型プレスブレーキを改造した安全化改造プレスブレーキであって、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に作業者の手あるいは異物が差し込まれている異常状態を検知する障害検知装置が、前記旧型プレスブレーキにおける前記異常状態を検知可能な箇所に設けられ、前記障害検知装置による前記異常状態の検知信号に基づいて動作することにより前記油路の作動油をドレーンする急停止弁が前記油路に連通させて取り付けら
れ、前記旧型プレスブレーキに設けられていた、前記油路を介して作動油が供給されるメインシリンダと前記油路から分岐して前記油路に連通された複数のサブシリンダとを有し、前記急停止弁は、前記油路のうち前記サブシリンダに作動油を供給する分岐箇所よりも前記油圧源側の所定箇所に接続され、前記分岐箇所と前記サブシリンダとの間に、前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇することにより動作して前記油路と前記サブシリンダとを連通させ、かつ前記油路の油圧が予め設定してある圧力より低い圧力になると前記サブシリンダから作動油をドレーンさせる、前記旧型プレスブレーキに設けられていたシーケンス弁を有し、前記油圧源は、可変容量型の油圧源によって構成され、前記油路の油圧を検出するセンサが設けられ、前記油路の油圧が予め設定してある圧力に上昇したことを前記センサが検出した場合に前記油圧源からの作動油の吐出量を増大させる制御ユニットが設けられていることを特徴としている。
また、本発明の安全化改造プレスブレーキにおいては、前記急停止弁は、通電が止められたオフ状態で開状態になって前記作動油をドレーンし、かつ通電されたオン状態で閉状態になって前記作動油のドレーンを止める電磁弁によって構成され、前記油圧源が作動油を吐出しかつ前記切換弁が前記作動油のドレーンを止めている状態で前記急停止弁に通電して前記急停止弁を閉状態にし、前記障害検知装置が前記異常状態の検知信号を出力したことにより前記閉状態の前記急停止弁に対する通電を止めて前記急停止弁を開状態に切り替える制御ユニットを備えていてよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、旧型プレスブレーキの本体部分をそのまま利用し、少ない改良工事のみで新品同様の安全なプレスブレーキを実現することができるという、すぐれた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の方法で改造したプレスブレーキの油圧回路図である。
【
図2】
図1のプレスブレーキの動作を示すタイミングチャートである。
【
図3】改造前の旧型プレスブレーキの油圧回路図である。
【
図4】
図3に示すシーケンス弁の断面図およびこの弁を示す記号である。
【
図5】公知の安全装置を備えるプレスブレーキの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は上部テーブル(ラム)が固定され、下部テーブル
(スライド)が昇降する構成の油圧式プレスブレーキを対象とする。この種のプレスブレーキでは、加圧シリンダは押し上げのみを行う「片効き」であり、型閉じはその加圧シリンダで行うが、型開きは加圧シリンダの圧力を解放して、下部テーブルもしくはラムであるスライドの自重による落下を利用する。したがって、油圧回路の作動油を解放して圧力を抜くことによりスライドは開くから、緊急停止を行う機械的なブレーキ機構は不要である。
【0025】
本発明の方法は、一例として前述した
図3に示す旧型プレスブレーキの油圧回路を対象として実施することができ、改造後の構成を
図1に示す。なお、
図1で
図3と同一の構成の部分には、
図3に付した符号と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0026】
本発明の方法では、まず、
図3に示す油圧回路を備えている使用済みの旧型プレスブレーキを用意し、その油圧回路に本発明における急停止弁に相当する急停止電磁弁8を追加設置(新設)する。急停止電磁弁8は、
図1に示す例では、常閉タイプの電磁弁であり、通電されることにより開状態となって入力側と出力側とのポートが連通し、電流が遮断されることにより閉状態に切り替わって入力側と出力側とのポートの連通が遮断されるように構成されている。
【0027】
旧型プレスブレーキの油圧回路(以下、旧油圧回路と記すことがある。)では、油圧ポンプ2から吐出された作動油(圧油)をメインシリンダ13に送る主油路15を備えている。この主油路15の所定箇所から分岐して前述したシーケンス弁7が接続されている。本発明の方法では、旧油圧回路における主油路15のうちシーケンス弁7を分岐させている箇所(分岐部16)より油圧ポンプ2側(上流側)の所定箇所に、上記の急停止電磁弁8を分岐して接続する。すなわち、急停止電磁弁8を油圧回路に新設する。その場合、主油路15の全体を新たな回路に交換してもよく、または主油路15を前記所定箇所で切断し、その切断箇所に分岐継手(図示せず)を取り付け、その分岐継手に急停止電磁弁8の入力ポートを接続してもよい。その急停止電磁弁8の出力ポートはオイルタンク6に連通させる。
【0028】
本発明の方法では、更に、急停止電磁弁8を動作させる障害の発生を検知する障害検知装置を追加設置する。この障害検知装置は光学式のものが便利であり、前述した投光器94と受光器95とからなる装置を採用することができる。これら投光器94および受光器95の設置位置は、作業者の手あるいは異物が金型内に入っていると光線が作業者の手で遮られる位置に設ける。
【0029】
また、急停止電磁弁8を動作させるための制御ユニット3を設ける。この制御ユニット3は、その全体を新設したものであってもよく、あるいは急停止電磁弁8を制御する電気回路の部分を新設したものであってもよい。この制御ユニット3は、
図2に図表で示すシーケンス制御を実行するように構成してあり、複数のリレースイッチ(リレー接点)を設けたリレー回路やマイクロコンピュータを主体とした電子回路によって構成することができる。
【0030】
制御ユニット3には制御のための入力信号として油圧信号およびプレス作動信号を入力する。上記の主油路15の油圧を検出する圧力スイッチ4を設け、その出力信号を油圧信号として制御ユニット3に入力する。また、前述したペダル10が踏み込まれることによりオン動作するペダルリミットスイッチ12を設け、その出力信号を制御ユニット3にプレス作動信号として入力する。
【0031】
図1に示す例では、更に、油圧ポンプを可変容量形ポンプに置き換え、かつ駆動モータ1をステッピングモータやサーボモータなどの回転速度可変式のモータに置き換える。なお、油圧ポンプ2およびモータ1は本発明における油圧源を構成しており、本発明ではモータ1と油圧ポンプ2との少なくともいずれか一方を可変型として、油圧源を作動油の吐出量を適宜に変更できる可変容量型に改造する。このような構成の変更は、プレスの動作状態に応じて油圧を適宜に制御するためであり、その動作状態を上記の圧力スイッチ4やペダルリミットスイッチ12の出力信号によって判断もしくは判定する。
【0032】
本発明の改造方法で得られるプレスブレーキは、一例として、
図1に示す油圧回路もしくは制御システムを有するものとなる。その動作を
図2のタイムチャートおよび動作図表を参照して説明する。
【0033】
図示しない起動ボタン(起動スイッチ)をオンにすると、圧力指令信号がオンとなって駆動モータ1および油圧ポンプ2が動作する。この状態では切換弁11が解放状態になっていて油圧ポンプ2が吐出した作動油は、オイルタンク6に戻され、主油路15に特には油圧が発生していない。すなわち、圧力スイッチ4はオフ状態であって検出信号を出力していない。また、プレス加工を開始していないので、スライドSの動作速度を指示する第1流量指令(流量指令1)および第2流量指令(流量指令2)はオフの状態である。さらに、スライドSの上昇位置を検出する低閉じ位置センサは信号を出力していない(オフ状態)。また同様に、急停止電磁弁8はオフ状態であって電流が遮断され、開状態になっている。そして、ペダル10が踏まれていないことによりペダルリミットスイッチ12はオフ状態であり、信号を出力していない。このいわゆる初期の状態を
図2には「停止」として表示してある。
【0034】
鋼板などのワークを作業者がセットし、プレス加工を行うべくペダル10を踏み込むと、ペダルリミットスイッチ12がオンとなって信号を出力する。それに伴って急停止電磁弁8に通電されてオン状態になり、急停止電磁弁8が閉状態に切り替わる。すなわち主油路15がオイルタンク6に対して閉じられる。また、ペダル10が踏み込まれることにより切換弁11が閉じるので、主油路15がオイルタンク6に対して遮断され、その結果、主油路15に油圧が発生する。このようにしてペダル10を踏み込んだ加工開始当初では、スライドSを高速で上昇させるために、第1流量指令が出力される。この第1流量指令が出力されることにより駆動モータ1の回転数が予め定めた高回転数に制御され、あるいは油圧ポンプ2の吐出容量が予め定められた大容量に制御される。この状態を
図2には「接近」と表示してあり、スライドSが所定の高速で上昇する。
【0035】
なお、この過程で、前記受光器95に入る光線が遮られるなど、光学式障害検知装置が異常を検知して信号を出力すると、急停止電磁弁8に対する電流が遮断され、急停止電磁弁8が開状態に切り替わる。したがって、この場合には主油路15から圧油がオイルタンク6にドレーンされ、メインシリンダ13から油圧が抜けるので、スライドSの上昇が止まるとともに、自重によってスライドSが下降する。すなわち、作業者の手や指先がプレスブレーキの中に入っているなどの状態では、スライドSの上昇が停止し、障害事故が未然に回避もしくは防止される。
【0036】
スライドSの周辺に設置したリミットスイッチや近接スイッチなどからなる低閉じ位置センサ(図示せず)がスライドSを検知して信号を出力すると、第1流量指令に替えて第2流量指令が制御ユニット3から出力される。この第2流量指令によって駆動モータ1の回転数が予め定めた低回転数に制御され、油圧ポンプ2から吐出される油量が低下させられる。その結果、メインシリンダ13の動作速度が遅くなり、スライドSが低閉じ速で上昇する。この状態を
図2には「低閉じ」と表示してある。なお、この過程で障害検知装置が何らかの障害もしくは異常状態を検知して検知信号を出力すると、上述した場合と同様に、急停止電磁弁8が開状態に切り替わり、主油路15からドレーンされてスライドSの上昇が急停止し、またスライドSが自重で下降する。
【0037】
スライドSがワークに成形荷重を掛け始めると、スライドSに反力が作用することにより油圧が上昇する。その結果、前述したシーケンス弁7が動作して各サブシリンダ14a,14bに作動油が供給され始める。これと同時に圧力スイッチ4がオン動作して圧力の検出信号を出力する。それに伴って第2流量指令から第1流量指令に切り替わり、駆動モータ1の回転数が増大するとともに油圧ポンプ2からの吐出量が増大する。すなわち、作動油を供給するべきシリンダが3本に増大し、それに合わせて作動油の流量が増大するので、スライドSの上昇速度が従前と同様の速度に維持される。この状態を
図2に「加圧」と表示してある。この過程においても急停止電磁弁8に通電されて閉状態になっている。したがって、障害検知装置が何らかの障害もしくは異常を検知して信号を出力すると、上述した場合と同様に、急停止電磁弁8が開状態に切り替わり、主油路15からドレーンされてスライドSの上昇が急停止し、またスライドSが自重で下降する。
【0038】
そして、ワークの加工が完了してペダル10が戻されると、切換弁11が解放状態になるので、主油路15がオイルタンク6に対して連通され、メインシリンダ13から作動油がオイルタンク6にドレーンされる。また、主油路15の油圧が低下することによりシーケンス弁7が
図4(a)に示す状態になるので、各サブシリンダ14a,14bがシーケンス弁7を介してオイルタンク6に連通させられ、これらのサブシリンダ14a,14bから作動油がドレーンされる。こうしてスライドSの押し上げ力が作用しなくなるので、スライドSは自重で下降(落下)する。なお、ペダル10が戻されることによりペダルリミットスイッチ12がオフに切り替わって検出信号が止まるので、各流量指令が停止し、また急停止電磁弁8がオフに切り替わる。さらに、主油路15の油圧が低下するので、圧力スイッチ4はオフに切り替わる。この状態を
図2に「型開き」と表示してある。その後、スライドSが元の位置にまで下降すると一連の動作が終了して「停止」の状態に戻る。
【0039】
以上説明したように、本発明の方法によれば、作業者の手が挟まれるなどの緊急事態を回避する安全装置の付いていない旧型のプレスブレーキの安全化改造を行うことができる。特に、本発明の方法によれば、油圧回路の急停止電磁弁8を追加設置する程度の小改良で安全化することができ、しかも旧型プレスブレーキのいわゆる本体部分に手を加えずに、主として背面側の制御部分の改造でよいので、低コスト化を図り、また工期の短縮化を図ることができる。また、メインシリンダ13に対して作動油を送る主油路15から分岐させてシーケンス弁7ならびにサブシリンダ14a,14bを設けてある場合、主油路15からの分岐箇所より油圧ポンプ2側に急停止電磁弁8を接続すれば、急停止電磁弁8が開状態に切り替わった場合の各シリンダ13,14a,14bからのドレーンを迅速に行わせることができ、法令に適合した安全化を図ることができる。なお、上述した具体例では、急停止電磁弁8を常閉タイプのものとしたので、断線やショートなどの異常時には主油路15から油圧を抜いておくことができ、たとえペダル10が踏まれてもスライドSが上昇しないことにより、フェールセーフを確立することができる。
【0040】
なお、改造を行うプレスブレーキ本体ならびに別途取り付ける光学式障害検知装置については従来知られているものであってよく、細かい型式を限定するものではないので、特には図示しない。
【符号の説明】
【0041】
1…モータ、 2…油圧ポンプ、 3…制御ユニット、 4…圧
力スイッチ、 6…オイルタンク、 7…シーケンス弁、 8…急停止電磁弁、 9…リリーフ弁、 10…ペダル、 11…切換弁、 12…ペダルリミットスイッチ、 13…メインシリンダ、 14a,14b…サブシリンダ、 15…主油路、 16…分岐箇所、 71…ケーシング、 72…スプール、 73…弁体、 74…圧縮ばね、 91…下部テーブル、 92…上部テーブル、 93…油圧シリンダ、 94…投光器、 95…受光器、 S…スライド。