【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実用化研究事業、「同種血小板輸血製剤の上市に向けた開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願および平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実現拠点ネットワークプログラム、「再生医療用iPS 細胞ストック開発拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1又は複数の芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor; AhR)アンタゴニストと1又は複数のROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase)阻害剤とを含む、機能性の高い血小板産生促進剤。
AhRアンタゴニストが、4-(2-(2-(benzo[b]thiophen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-ylamino)ethyl)phenol(SR-1)、2-methyl-2H-pyrazole-3-carboxylic acid(2-methyl-4-o-tolylazo-phenyl)-amide(CH-223191)、N-[2-(3H-indol-3-yl)ethyl]-9-isopropyl-2-(5-methyl-3-pyridyl)purin-6-amine(GNF-351)、6,2',4'-trimethoxyflavone(TMF)、及び3',4'-dimethoxyflavone(DMF)からなる群より選択される、請求項1に記載の血小板産生促進剤。
ROCK阻害剤が、Y27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677、Staurosporine、H1152 Dihydrochlorideからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の血小板産生促進剤。
AhRアンタゴニストがSR-1、GNF-351及び/又はCH-223191であり、ROCK阻害剤がY27632、 Y39983、ファスジル塩酸塩及び/又はリパスジルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血小板産生促進剤。
前記巨核球細胞又はその前駆細胞におけるHMGA(High Mobility Group At-hook protein)タンパク質の発現又は機能を抑制する工程を更に含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制が、HMGA遺伝子の発現を直接的又は間接的に抑制するsiRNA又はmiRNAによって行われる、請求項8に記載の方法。
前記巨核球細胞が、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞である、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、巨核球細胞から効率良く機能性の高い血小板をin vitroで産生する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、巨核球細胞をAhRアンタゴニストの存在下で培養すると、産生される血小板の数が増えるとともに機能も上昇すること、そして、更にROCK阻害剤を併用した場合には相加的ではなく相乗的に作用することを見出した。そして、機能性のより高い血小板を得るための培養条件を検討して本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明者らは更に、巨核球細胞において、HMGAタンパク質の発現又は機能を抑制することにより、単位あたりの巨核球細胞から産出される血小板数が増大することを見出した。また、当該巨核球細胞を視覚的にとらえたところ、多核肥大化しており、分離膜と分泌顆粒の形成が認められ、in vitroにおいて巨核球細胞を成熟させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
〔A1〕1又は複数の芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor; AhR)アンタゴニストと1又は複数のROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase)阻害剤とを含む、機能性の高い血小板産生促進剤;
〔A2〕AhRアンタゴニストが、4-(2-(2-(benzo[b]thiophen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-ylamino)ethyl)phenol(SR-1)、2-methyl-2H-pyrazole-3-carboxylic acid(2-methyl-4-o-tolylazo-phenyl)-amide(CH-223191)、N-[2-(3H-indol-3-yl)ethyl]-9-isopropyl-2-(5-methyl-3-pyridyl)purin-6-amine(GNF-351)、6,2',4'-trimethoxyflavone(TMF)、及び3',4'-dimethoxyflavone(DMF)からなる群より選択される、〔A1〕に記載の血小板産生促進剤;
〔A3〕ROCK阻害剤が、Y27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677、Staurosporine、H1152 Dihydrochlorideからなる群より選択される、〔A1〕又は〔A2〕に記載の血小板産生促進剤;
〔A4〕AhRアンタゴニストがSR-1、GNF-351及び/又はCH-223191であり、ROCK阻害剤がY27632、Y39983、ファスジル塩酸塩及び/又はリパスジルである、〔A1〕〜〔A3〕のいずれかに記載の血小板産生促進剤;
〔A5〕〔A1〕〜〔A4〕のいずれかに記載の血小板産生促進剤と巨核球細胞又はその前駆細胞とを接触させる工程を含む、血小板の製造方法;
〔A6〕前記接触工程がフィーダー細胞を用いない条件で行われる、〔A5〕に記載の方法;
〔A7〕振とう培養条件下で実施される、〔A6〕に記載の方法。
〔A8〕前記巨核球細胞又はその前駆細胞におけるHMGA(High Mobility Group At-hook protein)タンパク質の発現又は機能を抑制する工程を更に含む、〔A5〕〜〔A7〕のいずれかに記載の方法;
〔A9〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制が、HMGA遺伝子の発現を直接的又は間接的に抑制するsiRNA又はmiRNAによって行われる、〔A8〕に記載の方法。
〔A10〕前記巨核球細胞が、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞である、〔A5〕〜〔A9〕のいずれかに記載の方法;
〔A11〕前記巨核球細胞より未分化な細胞が、多能性幹細胞より製造された造血前駆細胞である、〔A10〕に記載の方法;
〔A12〕前記巨核球細胞から血小板を回収する工程をさらに含む、〔A5〕〜〔A11〕のいずれかに記載の方法;
〔A13〕〔A5〕〜〔A12〕のいずれかに記載の方法で製造された血小板を含む、血小板製剤;
【0012】
〔B1〕HMGAタンパク質の発現又は機能を抑制した巨核球細胞を培養する工程を含む、血小板の製造方法;
〔B2〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制が、HMGA遺伝子に対するsiRNAによって行われる、〔B1〕に記載の方法;
〔B3〕前記培養する工程が、芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor; AhR)アンタゴニストの存在下で行われる、〔B1〕又は〔B2〕に記載の方法;
〔B4〕前記培養する工程が、ROCK阻害剤の存在下で行われる、〔B1〕から〔B3〕のいずれかに記載の方法;
〔B5〕前記培養する工程が、フィーダー細胞を用いない条件で行われる、〔B1〕から〔B4〕のいずれかに記載の方法;
〔B6〕前記培養する工程によって得られた培養物から血小板を回収する工程をさらに含む、〔B1〕から〔B5〕のいずれかに記載の方法;
〔B7〕〔B1〕から〔B6〕のいずれかに記載された方法で製造された血小板を含む、血小板製剤;
〔B8〕巨核球細胞において、HMGAタンパク質の発現又は機能を抑制する工程を含む、巨核球細胞の成熟化方法;
〔B9〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制工程が、HMGA遺伝子の発現を抑制するsiRNA又はmiRNAによって行われる、〔B8〕に記載の方法;
〔B10〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制工程が、HMGA遺伝子に対するsiRNA又はmiRNAによって行われる、〔B8〕に記載の方法;
〔B11〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制工程が、AhRアンタゴニストを含む培地中で培養することによって行われる、〔B8〕から〔B10〕のいずれかに記載の方法;
〔B12〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制工程が、ROCK阻害剤を含む培地中で培養することによって行われる、〔B8〕から〔B11〕のいずれかに記載の方法;
〔B13〕前記HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制工程が、フィーダー細胞を用いない条件で行われる、〔B8〕から〔B12〕のいずれかに記載の方法;
〔B14〕前記AhRアンタゴニストが、4-(2-(2-(benzo[b]thiophen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-ylamino)ethyl)phenol(SR-1)、2-methyl-2H-pyrazole-3-carboxylic acid(2-methyl-4-o-tolylazo-phenyl)-amide(CH-223191)、N-[2-(3H-indol-3-yl)ethyl]-9-isopropyl-2-(5-methyl-3-pyridyl)purin-6-amine(GNF-351)、6,2',4'-trimethoxyflavone(TMF)、及び3',4'-dimethoxyflavone(DMF)からなる群より選択される、〔B3〕から〔B6〕、及び〔B11〕から〔B13〕のいずれかに記載の方法;
〔B15〕前記ROCK阻害剤は、Y27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677、Staurosporine、H1152 Dihydrochlorideからなる群より選択される、〔B4〕から〔B6〕、及び〔B12〕から〔B14〕のいずれかに記載の方法;
〔B16〕前記巨核球細胞が、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞である、〔B1〕から〔B15〕のいずれかに記載の方法;
〔B17〕前記巨核球細胞より未分化な細胞が、多能性幹細胞より製造された造血前駆細胞である、〔B16〕に記載の方法;
〔B18〕HMGAタンパク質の発現又は機能を抑制した巨核球細胞;
〔B19〕HMGA遺伝子の発現を抑制するsiRNA、miRNA又はこれらをコードする核酸を含む、上記〔B18〕に記載の巨核球細胞;
〔B20〕癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される外来性の遺伝子の少なくとも1つを染色体に含む、〔B18〕または〔B19〕に記載の巨核球細胞;
〔B21〕芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor; AhR)を含む培地で巨核球細胞を培養する工程を含む、血小板の製造方法;
〔B22〕前記培地が、さらにROCK阻害剤を含む、〔B21〕に記載の方法;
〔B23〕前記培養工程が、フィーダー細胞を用いない条件で行われる、〔B21〕又は〔B22〕に記載の方法;
〔B24〕前記AhRアンタゴニストが、4-(2-(2-(benzo[b]thiophen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-ylamino)ethyl)phenol(SR-1)、2-methyl-2H-pyrazole-3-carboxylic acid(2-methyl-4-o-tolylazo-phenyl)-amide(CH-223191)、N-[2-(3H-indol-3-yl)ethyl]-9-isopropyl-2-(5-methyl-3-pyridyl)purin-6-amine(GNF-351)、6,2',4'-trimethoxyflavone(TMF)、及び3',4'-dimethoxyflavone(DMF)からなる群より選択される、〔B21〕から〔B23〕のいずれかに記載の方法;
〔B25〕前記ROCK阻害剤は、Y27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677、Staurosporine、H1152 Dihydrochlorideからなる群より選択される、〔B21〕から〔B24〕のいずれかに記載の方法;
〔B26〕前記巨核球細胞が、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞である、〔B21〕から〔B25〕のいずれかに記載の方法;及び
〔B27〕前記巨核球細胞より未分化な細胞が、多能性幹細胞より製造された造血前駆細胞である、〔B26〕に記載の方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィーダー細胞を用いなくても、高い機能を有する血小板を効率よく産生することができる。フィーダー細胞を使用する必要がないことから、血小板の製造に縦型大型培養装置を使用することができ、延いては臨床に使用する血小板を効率よく大量に産生することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一の態様)
第一の態様において、本発明は、1又は複数の芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor; AhR)アンタゴニストと1又は複数のROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase)阻害剤とを含む血小板産生促進剤を提供する。別の態様において、本発明は更に、巨核球細胞又はその前駆細胞と上記血小板産生促進剤とを接触させる工程を含む、血小板の製造方法を提供する。
【0016】
本明細書において「巨核球細胞」とは、生体内においては骨髄中に存在する最大の細胞であり、血小板を放出することを特徴とする。また、巨核球細胞は細胞表面マーカーCD41a、CD42a、及びCD42b陽性で特徴づけられ、他に、CD9、CD61、CD62p、CD42c、CD42d、CD49f、CD51、CD110、CD123、CD131、及びCD203cからなる群より選択されるマーカーをさらに発現していることもある。巨核球細胞は、多核化(多倍体化)すると、通常の細胞の16〜32倍のゲノムを有するが、本明細書において、単に巨核球細胞という場合、上記の特徴を備えている限り、多核化した巨核球細胞と多核化前の巨核球細胞の双方を含む。「多核化前の巨核球細胞」は、「未熟な巨核球細胞」、又は「増殖期の巨核球細胞」とも同義である。
【0017】
巨核球細胞は、公知の様々な方法で得ることができる。巨核球細胞の製造方法の非限定的な例として、国際公開第2011/034073号に記載された方法が挙げられる。同方法では、「巨核球細胞より未分化な細胞」、すなわち巨核球前駆細胞(本件明細書においては単に「前駆細胞」ともいう)において、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させることにより、無限に増殖する不死化巨核球細胞株を得ることができる。また、国際公開第2012/157586号に記載された方法に従って、「巨核球細胞より未分化な細胞」において、アポトーシス抑制遺伝子を強制発現させることによっても、不死化巨核球細胞を得ることができる。これらの不死化巨核球細胞は、遺伝子の強制発現を解除することにより、多核化が進み、血小板を放出するようになる。
【0018】
巨核球細胞を得るために、上記の文献に記載された方法を組み合わせてもよい。その場合、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子の強制発現は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。例えば、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を抑制し、次にアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を抑制して、多核化巨核球細胞を得てもよい。また、癌遺伝子とポリコーム遺伝子とアポトーシス抑制遺伝子を同時に強制発現させ、当該強制発現を同時に抑制して、多核化巨核球細胞を得ることもできる。まず、癌遺伝子とポリコーム遺伝子を強制発現させ、続いてアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、当該強制発現を同時に抑制して、多核化巨核球細胞を得ることもできる。
【0019】
本明細書において「巨核球細胞より未分化な細胞」又は「巨核球前駆細胞」とは、巨核球への分化能を有する細胞であって、造血幹細胞系から巨核球細胞に至る様々な分化段階の細胞を意味する。巨核球より未分化な細胞の非限定的な例としては、造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞、巨核球・赤芽球系前駆細胞(MEP)が挙げられる。これらの細胞は、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血から単離して得ることもできるし、さらにより未分化な細胞であるES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導して得ることもできる。
【0020】
本明細書において「癌遺伝子」とは、生体内において細胞の癌化を誘導する遺伝子のことをいい、例えば、MYCファミリー遺伝子(例えば、c-MYC、N-MYC、L-MYC)、SRCファミリー遺伝子、RASファミリー遺伝子、RAFファミリー遺伝子、c-Kit、PDGFR、Ablなどのプロテインキナーゼファミリー遺伝子が挙げられる。
【0021】
本明細書において「ポリコーム遺伝子」とは、CDKN2a(INK4a/ARF)遺伝子を負に制御
し、細胞老化を回避するために機能する遺伝子として知られている(小倉ら, 再生医療 vol.6, No.4, pp26-32;Jseus et al., Jseus et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology vol.7, pp667-677, 2006;Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.100, pp211-216, 2003)。ポリコーム遺伝子の非限定的な例として、BMI1、Mel18、Ring1a/b、Phc1/2/3、Cbx2/4/6/7/8、Ezh2、Eed、Suz12、HADC、Dnmt1/3a/3bが挙げられる。
【0022】
本明細書において「アポトーシス抑制遺伝子」とは、細胞のアポトーシスを抑制する機能を有する遺伝子をいい、例えば、BCL2遺伝子、BCL−xL遺伝子、Survivin遺伝子、MCL1遺伝子などが挙げられる。
【0023】
遺伝子の強制発現及び強制発現の解除は、国際公開第2011/034073号、国際公開第2012/157586号、国際公開第2014/123242またはNakamura S et al, Cell Stem Cell. 14, 535-548, 2014に記載された方法、その他の公知の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。
【0024】
本明細書において「芳香族炭化水素受容体(AhR)」とは、Per/ARNT/SIM(PAS)ファミリーに属する転写因子である。AhRはリガンドが結合していない状態では不活性であり、芳香族炭化水素化合物がリガンドとして結合すると核内へ移行する。核内でARNT(AhR Nuclear Translocator)と呼ばれる分子とヘテロ二量体を形成し、DNA上の異物応答配列(Xenobiotic response element; XRE)に結合することにより、転写を活性化する。
【0025】
本明細書において「AhRアンタゴニスト」とは、AhRにアゴニストが結合したときに生じる反応の少なくとも一つの全部又は一部を阻害する物質をいう。AhRアンタゴニストは、AhRに直接作用するものであってもよいし、あるいは、別の物質への作用を介してAhRに間接的に作用するものであってもよい。
【0026】
本明細書において「AhRアゴニスト」とは、AhRにその内因性のリガンドが結合した場合に引き起こされる反応の少なくとも一つを引き起こす物質をいう。AhRアゴニストは、AhRに直接作用するものであってもよいし、あるいは、別の物質への作用を介してAhRに間接的に作用するものであってもよい。
【0027】
ここで「AhRに作用する物質」には、低分子化合物、高分子化合物、抗体やそのフラグメントなどのタンパク質、ペプチド、及び核酸を含むがこれらに限定されない。
【0028】
本発明で用いられるAhRアンタゴニストの非限定的な例は以下を含む。
・4-(2-(2-(benzo[b]thiophen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-ylamino)ethyl)phenol(SR-1);
・αナフトフラボン
・1,4-ジヒドロキシアントラキノン
・1,5-ジヒドロキシアントラキノン
・1,8-ジヒドロキシアントラキノン
・galangin
・レスベラトロール
・2-methyl-2H-pyrazole-3-carboxylic acid(2-methyl-4-o-tolylazo-phenyl)-amide(CH-223191);
・N-[2-(3H-indol-3-yl)ethyl]-9-isopropyl-2-(5-methyl-3-pyridyl)purin-6-amine(GNF-351);
・2-(29-amino-39-methoxyphenyl)-oxanaphthalen-4-one(PD98059);
・(Z)-3-[(2,4-dimethylpyrrol-5-yl)methylidenyl]-2-indolinone(TSU-16);
・2-(29-amino-39-methoxyphenyl)-oxanaphthalen-4-one(PD98059);及び
・6,2',4'-trimethoxyflavone(TMF)
・3',4'-dimethoxyflavone(DMF)
【0029】
フィーダーフリー条件下で巨核球を培養し、延いては血小板の産生数を増大し、そして/あるいは機能を改善する観点から、AhRはSR-1、GNF-351、 CH-223191、TMF、DMFが好ましく、SR-1、GNF-351及びCH-223191がより好ましく、GNF-351及びSR-1がより更に好ましい。GNF-351はSR-1やCH-223191よりもより低濃度で同等以上の効果を奏するため特に好ましい。所望とする効果が損なわれない限り、AhRアンタゴニストは複数のものを併用することができる。
【0030】
上記の例に加え、国際公開第2012/015914号にAhRアンタゴニストとして記載されている化合物を本発明に用いることもできる。
【0031】
巨核球細胞との接触工程において、AhRアンタゴニストの濃度は特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。例えば、培地中のAhRアンタゴニストの濃度を、SR-1を用いる場合、200nM以上1000mM未満、CH-223191の場合、0.2μM以上4μM未満、GNF-351を用いる場合、20nM以上300nM未満、TMFを用いる場合、2.5μM以上40μM未満、DMFを用いる場合、2.5μM以上40μM未満の範囲とすると、得られる血小板の数や機能をより高くすることができるが、この範囲外の量であってもよい。
【0032】
「巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子からなる群より選択される遺伝子の少なくとも1つを強制発現した後、当該強制発現を解除した細胞」を用いる場合、強制発現の期間も特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。
【0033】
なお、強制発現後に、細胞を継代培養してもよく、最後の継代から強制発現を解除する日までの期間も特に限定されないが、例えば、1日間、2日間または3日間以上としてもよい。
【0034】
血小板の産生量及び/又は機能が亢進する限り、AhRアンタゴニストを巨核球細胞又はその前駆細胞細胞に接触させるタイミングは特に限定されないが、巨核球は少なくとも多核化している、成熟初期段階のものが好ましい。
【0035】
巨核球より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合には、強制発現の解除後、培地にAhRアンタゴニストを加えることが好ましい。
【0036】
巨核球細胞とAhRアンタゴニストとを接触する期間は特に限定されない。上記強制発現の解除後にAhRアンタゴニストを培地に加える場合、AhRアンタゴニストを培地に添加して3日目頃から徐々に機能的な血小板が放出されるようになり、数は培養日数に伴って増えていく。AhRアンタゴニストとしてSR-1を加えた場合、5日間培養すると特に機能の高い血小板を得られる傾向があったが、機能的な血小板が得られる限り培養日数はそれより短くても長くてもよい。
【0037】
巨核球細胞における上記遺伝子の強制発現解除後、AhRアンタゴニストを培地に加えるまでの期間も特に限定されないが、例えば、1日、2日、又は3日以内にAhRアンタゴニスト存在下での培養を開始してもよい。AhRアンタゴニストは、培養期間中、1回以上追加で培地に添加してもよい。
【0038】
巨核球細胞はAhRアンタゴニストに加え、ROCK阻害剤と接触されうる。AhRアンタゴニストとROCK阻害剤とを併用することで、産生される血小板の数や機能を顕著に亢進することができる。特に、血小板産生促進効果については、AhRアンタゴニストとROCK阻害剤はそれぞれを単独で使用した場合と比較して相乗効果を奏する。本明細書において「ROCK阻害剤」とは、Rho結合キナーゼ(Rho-associated coiled-coil forming kinase;ROCK)のアンタゴニストを意味する。ROCK阻害剤としては、例えばY27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677、Staurosporine、H1152 Dihydrochloride、AR-12286、INS-117548などが挙げられるが、これらに限定されない。所望とする効果が損なわれない限り、ROCK阻害剤は複数のものを併用することができる。
【0039】
フィーダーフリー条件下で巨核球を培養し、延いては血小板の産生数を増大し、そして/あるいは機能を改善する観点から、ROCK阻害剤はY27632、Y39983、ファスジル塩酸塩、リパスジルが好ましく、Y39983がより好ましい。血小板の産生量及び/又は機能が亢進する限り、ROCK阻害剤を巨核球細胞又はその前駆細胞細胞に接触させるタイミングは特に限定されないが、巨核球は少なくとも多核化しているものが好ましい。
【0040】
後述する実施例に示すとおり、巨核球細胞又はその前駆細胞をAhRアンタゴニスト及びROCK阻害剤と接触させると、フィーダーフリー条件下であっても、得られる血小板の産生数が促進され、また、その機能も向上する。特に注目すべきは、AhRアンタゴニストとROCK阻害剤は、各薬剤を単独で使用した場合と比較して、血小板産生促進効果に対して相乗的に働くという点である。AhRアンタゴニストとROCK阻害剤の組み合わせは特に限定されないが、SR-1、GNF-351及びCH-223191から成る群から選択される1又は複数のAhRアンタゴニストと、Y27632、Y39983ファスジル塩酸塩及びリパスジルから成る群から選択される1又は複数のROCK阻害剤との組み合わせは、血小板の数や機能を著しく増大させるので好ましい。中でも、SR-1及び/又はGNF-351と、Y27632及び/又はY39983との組み合わせがより好ましい。特にGNF-351とY39983の組み合わせを用いた場合、機能性のある血小板の産生量が顕著に増大した(データは示さず)。AhRアンタゴニストとROCK阻害剤は、同時に添加してもよいし、いずれかを先に添加してもよい。
【0041】
「血小板」は血液中の細胞成分の一つであり、本明細書においてはCD41a陽性及びCD42b陽性で特徴づけられる。血小板は、血栓形成と止血において重要な役割を果たすとともに、損傷後の組織再生や炎症の病態生理にも関与する。出血等により血小板が活性化されると、その膜上にIntegrin αIIBβ3(glycoprotein IIb/IIIa; CD41aとCD61の複合体)などの細胞接着因子の受容体が発現する。その結果、血小板同士が凝集し、血小板から放出される各種の血液凝固因子によってフィブリンが凝固することにより、血栓が形成され、止血が進む。
【0042】
本明細書で使用する場合、血小板の「機能」とは当業界で知られているもの、例えば生体における循環能、血栓形成能、止血能などを指す。本明細書において「機能性の高い」、「血小板の機能が高い」又は「活性化された」との表現又はこれらに類似する表現は、AhRアンタゴニストやROCK阻害剤を使用しない従来の方法で得られた血小板又は生体から単離された血小板と比較して、後述する方法の少なくとも一つで測定した血小板の機能(あるいは生理活性)が同等以上、好ましくは有意に高いか、あるいは形状血小板が同等以下、好ましくは有意に少ないものを言う。あるいは、差が有意ではなくても機能が改善している傾向があると当業者が判断できる状態を指す。
【0043】
あるいは、本明細書において「機能性の高い血小板」、「血小板の機能が高い」又は「活性化された」等の表現は、後述の方法の少なくとも一つで測定した血小板の機能が、AhRアンタゴニストやROCK阻害剤を使用しない従来の方法で得られた血小板や生体から単離された天然の血小板の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であることを意味する。
【0044】
上述した血小板の機能は、公知の方法により測定し評価することができる。例えば、活性化した血小板膜上に存在する活性化マーカーIntegrin αIIBβ3(glycoprotein IIb/IIIa; CD41aとCD61の複合体)に特異的に結合する抗体であるPAC-1抗体を用いて、活性化した血小板量を測定することができる。また、同様に血小板の活性化マーカーであるCD62b(P-selectin)を抗体で検出して活性化した血小板量を測定してもよい。血小板量の測定は、例えば、フローサイトメトリーを用い、活性化非依存性の血小板マーカーCD61又はCD41に対する抗体でゲーティングを行い、その後、血小板に対するPAC-1抗体や抗CD62P抗体の結合を検出することにより行うことができる。これらの工程は、アデノシン二リン酸(ADP)存在下で行ってもよい。
【0045】
また、血小板の機能の評価は、ADP存在下でフィブリノーゲンと結合するか否かを見て行うこともできる。血小板がフィブリノーゲンと結合することにより、血栓形成の初期に必要なインテグリンの活性化が生じる。さらに、血小板の機能の評価は、国際公開第2011/034073号の
図6に示されるように、in vivoでの血栓形成能を可視化して観察する方法で行うこともできる。
【0046】
血小板の生体内における循環能の評価は常法に従い行うことができる。より具体的には、γ線照射(2.4Gy)により誘発された血小板減少症モデルNOGマウスに血小板を2 x 10
8 platelets/匹で尾静脈内投与した後に、一定間隔で頸静脈より採血した血液中のヒト由来血小板を抗ヒトCD41抗体を用いて定量することで血小板の循環能を評価することができる。
【0047】
血小板の止血能の評価は常法に従い行うことができる。より具体的には、γ線照射(2.4Gy)により誘発された血小板減少症モデルNOGマウスに血小板を2 x 10
8 platelets/匹で尾静脈内投与した後に、麻酔下(urethane, 1.5g/kg)で28Gの注射針を用いて尾動脈(先端から2cm)に穿刺し、尾の先端を37℃に保温しておいたPBSに浸しながら止血するまでの時間を測定することで、止血能を評価することができる。
【0048】
一方、血小板のCD42bの発現率が低い場合や、アネキシンV陽性率が高い場合は、血小板が劣化又は異常であると評価される。これらの血小板は、血栓形成や止血機能を十分に有さず、臨床的に有用でない。
【0049】
本明細書において「血小板の劣化」とは、血小板表面のCD42b(GPIbα)が減少することをいう。したがって、劣化した血小板には、CD42bの発現が低下した血小板や、シェディング反応によってCD42bの細胞外領域が切断された血小板が含まれる。血小板表面のCD42bがなくなると、フォン・ウィルブランド因子(von Willebrand factor:VWF)との会合ができなくなり、結果的に、血小板の血液凝固機能が失われる。血小板の劣化は、血小板分画中のCD42b陽性率(又はCD42b陽性粒子数)に対するCD42b陰性率(又はCD42b陰性粒子数)を指標として評価することができる。CD42b陽性率に対するCD42b陰性率高いほど、又は、CD42b陽性粒子数に対するCD42b陰性粒子数が多いほど、血小板は劣化している。CD42b陽性率とは、血小板分画に含まれる血小板のうち、抗CD42b抗体が結合できる血小板の割合を意味し、CD42b陰性率とは、血小板分画に含まれる血小板のうち、抗CD42b抗体が結合しない血小板の割合を意味する。
【0050】
本明細書において「異常な血小板」とは、陰性電荷リン脂質であるホスファチジルセリンが脂質二重層の内側から外側に露出した血小板を言う。生体内においては、ホスファチジルセリンは血小板の活性化に伴って表面に露出し、そこに多くの血液凝固因子が結合することによって、血液凝固カスケード反応が増幅されることが知られている。一方、異常な血小板では、常に多くのホスファチジルセリンが表面に露出しており、かかる血小板が患者に投与されると、過剰な血液凝固反応を引き起こし、播種性血管内凝固症候群などの重篤な病態に繋がる可能性がある。ホスファチジルセリンにはアネキシンVが結合するので、血小板表面上のホスファチジルセリンは、蛍光標識したアネキシンVの結合量を指標にしてフローサイトメータを用いて検出することができる。よって、異常な血小板の量は、血小板分画中のアネキシンV陽性率、すなわちアネキシンが結合する血小板の割合又は数で評価することができる。アネキシンV陽性率が高いほど、又はアネキシンV粒子数が多いほど、異常な血小板が多い。
【0051】
また、血小板の機能の評価は、ADP存在下でフィブリノーゲンと結合するか否かを見て行うこともできる。血小板がフィブリノーゲンの結合することにより、血栓形成の初期に必要なインテグリンの活性化が生じる。
【0052】
さらに、血小板の評価は、国際公開第2011/034073号の
図6に示されるように、in vivoでの血栓形成能を可視化して観察する方法で行うこともできる。
【0053】
巨核球より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合には、強制発現の解除後、培地にROCK阻害剤を加えることが好ましい。
【0054】
(第二の態様)
第二の態様において、本発明は、巨核球細胞又はその前駆細胞におけるHMGA(High Mobility Group At-hook protein)タンパク質の発現又は機能を抑制する工程を含む血小板の製造方法を提供する。
【0055】
High Mobility Group At-hook protein(又はHigh Mobility Group A(HMGA))タンパク質は、主にATを多く含むDNAに結合する非ヒストン性のクロマチンタンパク質であり、HMGA1とHMGA2が知られている。本明細書で使用する場合、HMGA2が特に好ましい。ヒトHMGA2タンパク質はNCBI Reference Sequence: NP_001287847.1)とも呼ばれる。
【0056】
本明細書において「タンパク質の発現」との用語は、転写及び翻訳を含む概念で用いられ、「発現を抑制する」という場合、転写レベル又は翻訳レベルで発現の全部又は一部を抑制することを意味する。
【0057】
HMGAタンパク質の発現又は機能を抑制する工程は、公知の方法又はそれに準ずる方法を用いて行うことができる。
【0058】
また、HMGAタンパク質の機能を阻害する方法として、ドミナントネガティブ法を用いてもよい。ドミナントネガティブ法は、変異を導入して活性を低下または喪失させたHMGAタンパク質を細胞内で大量に発現させ、細胞内の正常HMGAタンパク質に対する不活性なHMGAタンパク質の比率を圧倒的に高くして、結果的にHMGAタンパク質の機能が得られなくなった挙動を示す細胞を得る方法である。
【0059】
HMGAタンパク質の機能を阻害する方法としては、抗HMGA抗体を用いてもよい。抗HMGA抗体としては、公知の方法で製造した、又は市販の抗体を用いることができ、HMGAタンパク質の機能を抑制することを通じて本発明の効果が得られる限り、どのような抗体であってもよい。
【0060】
HMGAタンパク質の発現を抑制する方法としては、例えば、HMGA遺伝子の発現を直接的に又は間接的に抑制するmiRNAを用いる方法が挙げられる。miRNAは、HMGA遺伝子に直接作用するものであっても、間接的に作用するものであってもよい。例えば、この方法はlet-7と呼ばれるmiRNAを用いることによって行い得る。本発明において、let-7は、例えばヒトの場合、hsa-let-7a-1、hsa-let-7a-2、hsa-let-7a-3、hsa-let-7b、hsa-let-7c、hsa-let-7d、hsa-let-7e、hsa-let-7f-1、hsa-let-7f-2、hsa-let-7gおよびhsa-let-7iから成る群から選択されるいずれか一つのmiRNAであるが、他の動物種のlet-7を用いることが可能である。let-7の配列等は、データベースの情報(例えば、http://www.mirbase.org/又はhttp://www.microrna.org/)に登録された情報から適宜得ることができる。本発明において、好ましい、let-7は、hsa-let-7bである。
【0061】
また、HMGA2タンパク質の発現を抑制する方法として、let-7の発現を負に制御するLin28bの発現を抑制するmiRNAを用いることによっても行い得る。かかるmiRNAとしては、例えば、miR181aが挙げられる。miR181aは、例えばヒトの場合、hsa-mir-213、hsa-mir-181a-1およびhsa-mir-181a-2ら成る群から選択されるいずれか一つのmiRNAであるが、他の動物種のmiR181aを用いることが可能である。miR181aの配列等は、上記と同様のデータベースの情報から適宜得ることができる。
【0062】
「miRNA」とは、mRNAからタンパク質への翻訳の阻害やmRNAの分解を通して、遺伝子の発現調節に関与する、細胞内に存在する短鎖(20-25塩基)のノンコーディングRNAである。このmiRNAは、miRNAとその相補鎖を含むヘアピンループ構造を取ることが可能な一本差のpri-miRNAとして転写され、核内にあるDroshaと呼ばれる酵素により一部が切断されpre-miRNAとなって核外に輸送された後、さらにDicerによって切断されて機能する。従って、本発明において用いられるlet-7又はmiR181aは、一本鎖のpri-miRNAであってもよく、二本鎖のpre-miRNAの形態であっても良い。
【0063】
HMGA遺伝子の発現を抑制する方法として、アンチセンス法、リボザイム法、RNAi法などを用いてもよい。
【0064】
アンチセンス法は、標的遺伝子(基本的には転写産物であるmRNA)に相補的な塩基配列を有し、一般的には10塩基長〜100塩基長、好ましくは15塩基長〜30塩基長の一本鎖核酸を用いて遺伝子の発現を抑制する方法である。アンチセンス核酸を細胞内に導入し、標的遺伝子にハイブリダイズさせることによって遺伝子の発現が阻害される。アンチセンス核酸は、標的遺伝子の発現阻害効果が得られる限り、標的遺伝子と完全に相補的でなくてもよい。アンチセンス核酸は、公知のソフトウエア等を用いて当業者が適宜設計することができる。アンチセンス核酸は、DNA、RNA、DNA−RNAキメラのいずれであっても良く、また修飾されていてもよい。
【0065】
リボザイムは、標的RNAを触媒的に加水分解する核酸分子であり、標的RNAと相補的な配列を有するアンチセンス領域と、切断反応を担う触媒中心領域から構成されている。リボザイムは当業者が公知の方法に従って適宜設計することができる。リボザイムは一般的にはRNA分子であるが、DNA−RNAキメラ型分子を用いることもできる。
【0066】
RNAi法は、二本鎖核酸によって誘導される配列特異的な遺伝子発現抑制機構である。標的特異性が非常に高く、生体内にもともと存在する遺伝子発現抑制メカニズムを利用する方法なので安全性が高い。
【0067】
RNAi効果を有する二本鎖核酸としては、例えば、siRNAが挙げられる。siRNAは、哺乳動物細胞に用いられる場合、通常19〜30塩基程度、好ましくは21塩基〜25塩基程度の二本鎖RNAである。RNAi効果を有する二本鎖核酸は、一般に、その一方が標的核酸の一部と相補的な塩基配列を有し、他方がこれに相補的な配列を有する。HMGAの発現を抑制するsiRNAは、公知のソフトウエア等を用いて当業者が適宜設計することができ、二本鎖核酸配列の一方として、後述する実施例で用いた標的配列が例示される。HMGAの発現を抑制するsiRNAは、HMGA遺伝子に直接作用するもの(HMGA遺伝子の一部に相補的な配列を含むもの)であっても、間接的に作用するもの(HMGA遺伝子以外の遺伝子の発現を抑制し、結果的にHMGA遺伝子の発現を抑制するもの)であってもよい。
【0068】
let-7、miR181a 、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムは、それぞれをコードする核酸を含むベクター(例えば、レンチウイルスベクター)を細胞内に導入することによって、細胞内で発現させることができ、この他にも、RNAの形態で細胞に導入することもできる。RNAの形態で導入する場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの公知手法によって細胞内に導入しても良く、RNAの分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNA(Warren L, (2010) Cell Stem Cell.7:618-630)、またはDNAを取り込ませたDNA−RNAキメラ型を用いても良い。修飾塩基の位置は、ウリジン、シチジンいずれの場合も、独立に、全てあるいは一部とすることができ、一部である場合には、任意の割合でランダムな位置とすることができる。let-7、miR181aまたはsiRNAをコードする核酸を含むベクターは、二本鎖のそれぞれをコードするDNAを含むベクターを用いてもよいし、二本鎖核酸がループを介して連結されてできる一本鎖核酸をコードするDNAを含むベクターを用いてもよい。siRNAの場合、細胞内で転写により得られる一本鎖RNAは、その相補的な部分が分子内でハイブリダイズし、ヘアピン型の構造を取るように設計されてもよい。このようなRNAはshRNA(short hairpin RNA)と呼ばれる。shRNAは細胞質に移行すると酵素(Dicer)によってループ部分が切断され、siRNAとなってRNAi効果を発揮する。
【0069】
本明細書において、タンパク質の発現の抑制を「siRNAによって行う」又は「miRNAによって行う」という場合、最終的にsiRNA又はmiRNAが発現を抑制することを意味し、細胞にsiRNA、shRNA又はmiRNAをRNAの形態で投与してもよく、siRNA、shRNA又はmiRNAをコードする核酸を含むベクターを投与してもよい。
【0070】
let-7、miR181a、もしくはHMGAに対するsiRNAまたはshRNAをベクター等で導入する場合、当該RNAの発現は、薬剤応答性プロモーターによって制御されても良い。このようなRNAを薬剤応答性に制御できるベクターは、例えば、タカラバイオ社から入手することができる。この場合、当該RNAを導入するとは、対応する薬剤を接触させ、細胞内でRNAを発現させることを意味する。
【0071】
実施例から理解されるとおり、巨核球細胞の多核化および肥大化という成熟化過程に有効であるという観点から、HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制は、多核化前の巨核球細胞において行われてもよく、多核化した巨核球細胞においてさらなる多核化を行うという観点から、多核化した巨核球細胞においてHMGAタンパク質の発現又は機能の抑制が行われても良い。巨核球細胞の多核化および肥大化が促進され、1細胞あたりの血小板産生数が飛躍的に増加することから、巨核球細胞から血小板を製造する工程においてもHMGAタンパク質の発現又は機能の抑制を行うことが好ましい。
【0072】
本発明によって得られる成熟巨核球は機能的な血小板を効率よく産生することができる。本明細書において、巨核球の成熟とは、巨核球が十分に多核化し、機能的な血小板を産生できることをいう。巨核球の成熟は、例えば、GATA1、p45 NF-E2、beta1-tubulinなどの巨核球成熟関連遺伝子群の発現の上昇、proplateletの形成、細胞内の多核化によっても確認することができる。
【0073】
なお、巨核球細胞より未分化な細胞において、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、及びアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させて不死化巨核球細胞を作製し、その後強制発現を解除して不死化巨核球細胞の多核化を進める場合、上記のHMGAタンパク質の発現又は機能の抑制の開始は、当該遺伝子の強制発現解除前であっても解除後であっても特に限定されないが、少なくとも強制発現解除後において、HMGAタンパク質の発現又は機能が抑制されていることが好ましい。当該遺伝子の強制発現解除前にHMGAタンパク質の発現又は機能を抑制することで、CD41a陽性細胞の数、すなわち多核化前の巨核球細胞の数が減少する傾向があることから、多核化前の巨核球細胞数を保持するという観点から、より好ましくは、HMGAタンパク質の発現又は機能の抑制の開始は、当該遺伝子の強制発現解除後である。
【0074】
(第三の態様)
第三の態様において、本発明は、AhRアンタゴニスト及び/又はROCK阻害剤の存在下でHMGAタンパク質の発現又は機能を抑制した巨核球細胞を培養する工程を含む、成熟巨核球の製造方法を提供する。また、培養工程は、上述の接触工程と同様に行うことができる。別の態様において、本発明に係る成熟巨核球の製造方法は血小板を産生する工程を含んでもよい。
【0075】
(培養条件等)
本発明のいずれの態様においても、巨核球細胞の培養条件は、通常の条件とすることができる。例えば、温度は約35℃〜約42℃、約36℃〜約40℃、又は約37℃〜約39℃とすることができ、5%CO
2及び/又は20%O
2としてもよい。静置培養であっても、振とう培養であってもよい。本発明によれば、SR-1等のAhRアンタゴニストを用いる場合にはフィーダーフリー条件下での培養が実現可能になるため、血小板を大量に製造する場合には振とう培養が好ましい。振とう培養の場合の振とう速度も特に限定されず、例えば、10rpm〜200rpm、30rpm〜150rpm等とすることができる。
【0076】
本発明にでは、上述のように巨核球細胞を培養することにより、巨核球細胞が成熟し、その細胞質から血小板が産生される。ここで、巨核球細胞が成熟するとは、巨核球細胞が多核化し、血小板を放出できるようになることをいう。
【0077】
巨核球細胞を培養する際の培地は特に限定されず、巨核球細胞から血小板が産生されるのに好適な公知の培地やそれに準ずる培地を適宜使用することができる。例えば、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地が挙げられる。
【0078】
培地には、血清又は血漿が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、モノチオグリセロール(MTG)、脂質、アミノ酸(例えばL-グルタミン)、アスコルビン酸、ヘパリン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。サイトカインとは、血球系分化を促進するタンパク質であり、例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トロンボポエチン(TPO)、各種TPO様作用物質、Stem Cell Factor(SCF)、ITS(インスリン−トランスフェリン−セレナイト)サプリメント、ADAM阻害剤、などが例示される。本発明において好ましい培地は、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、アスコルビン酸、TPOを含むIMDM培地である。さらにSCFを含んでいてもよく、さらにヘパリンを含んでいてもよい。それぞれの濃度も特に限定されないが、例えば、TPOは、約10ng/mL〜約200ng/mL、又は約50ng/mL〜約100ng/mLとすることができ、SCFは、約10ng/mL〜約200ng/mL、又は約50ng/mLとすることができ、ヘパリンは、約10U/mL〜約100U/mL、又は約25U/mLとすることができる。ホルボールエステル(例えば、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート;PMA)を加えてもよい。
【0079】
血清を用いる場合はヒト血清が望ましい。また、血清に代えて、ヒト血漿等を用いてもよい。本発明に係る方法によれば、これらの成分を用いても、血清を用いたときと同等の血小板が得られうる。
【0080】
遺伝子の強制発現及びその解除のためにTet-on(登録商標)又はTet-off(登録商標)システムのような薬剤応答性の遺伝子発現誘導システムを用いる場合、強制発現する工程においては、対応する薬剤、例えば、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンを培地に含有させ、これらを培地から除くことによって強制発現を抑制してもよい。
【0081】
本発明における巨核球細胞の培養工程は、フィーダー細胞なしで実施することができる。後述する実施例に示されるとおり、本発明に係る方法によれば、フィーダー細胞なしで培養しても、機能的な血小板を得ることができる。
【0082】
本明細書において、「フィーダー細胞」とは、増殖又は分化させようとしている細胞(目的細胞)の培養に必要な環境を整えるために、目的細胞と共培養される細胞をいう。フィーダー細胞は、目的細胞と識別できる細胞である限り、同種由来の細胞も異種由来の細胞も含む。フィーダー細胞は、抗生物質やガンマ線により増殖しないよう処理した細胞であっても、処理されていない細胞であってもよい。
【0083】
本発明は、本発明に係る方法で製造した血小板も包含する。本発明に係る方法で製造された血小板は、後述する実施例に示すとおり、従来法によりin vitroで製造された血小板に比較して開放小管系の発達が進んでおり、ミトコンドリアも確認できる点で、形態学的に天然の血小板に近いと認められる。
【0084】
本発明に係る血小板製剤の製造方法は、上述のとおり調製した成熟巨核球細胞に血小板を産生させる工程、任意に、培養物から血小板が豊富に存在する画分を回収する工程及び当該血小板画分から血小板以外の血球系細胞成分を除去する工程、を含む。血球系細胞成分を除去する工程は、白血球除去フィルター(例えば、テルモ社製、旭化成メディカル社製)などを使用して、巨核球細胞を含む血小板以外の血球系細胞成分を除去することによって行うことができる。血小板製剤のより具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2011/034073号に記載されている。
【0085】
本発明に係る血液製剤の製造方法は、上述した血小板製剤を製造する工程と、当該血小板製剤を他の成分と混合する工程と、を含む。他の成分としては、例えば赤血球細胞が挙げられる。
【0086】
血小板製剤及び血液製剤には、その他、細胞の安定化に資する他の成分を加えてもよい。
【0087】
また、本発明は、多核化した巨核球細胞と、AhRアンタゴニストと、培地とを含む組成物も包含する。本組成物は、そのまま培養することにより機能性の高い血小板を得ることができるし、凍結保存することもできる。特に凍結保存する場合、当該組成物には、凍結の際に細胞を保護するDMSO、グリセロール、市販の細胞凍結用試薬等が含まれていてもよい。凍結した組成物を解凍して培養することにより、機能性の高い血小板を得ることができる。
【0088】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例1】
【0089】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0090】
1.不死化巨核球細胞の作製
1−1.iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
ヒトiPS細胞(TKDN SeV2:センダイウイルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞)から、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法に従って、血球細胞への分化培養を実施した。即ち、ヒトES/iPS細胞コロニーを20ng/mL VEGF (R&D SYSTEMS)存在下でC3H10T1/2フィーダー細胞と14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells;HPC)を作製した。培養条件は20% O
2、5% CO
2で実施した(特に記載がない限り、以下同条件)。
【0091】
1−2.造血前駆細胞へのc-MYC及びBMI1ウイルス感染
予めC3H10T1/2フィーダー細胞を播種した6 well plate上に、上記の方法で得られたHPCを5x10
4cells/wellずつ播種し、レンチウイルス法にてc-MYCおよびBMI1を強制発現さた。このとき、細胞株1種類につき6 wellずつ使用した。即ち、それぞれMOI 20になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm, 60分間遠心)で感染させた。本操作は、12時間おきに2回実施した。このとき、基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS-G) (GIBCO)、0.45mM 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove's Modified Dulbecco's Medium) (Sigma-Aldrich))へ50ng/mL Human thrombopoietin (TPO) (R&D SYSTEMS)、50ng/mL Human Stem Cell Factor (SCF) (R&D SYSTEMS)および2μg/mL Doxycycline (Dox)を含有した培地(以下、分化培地)に、更に、Protamineを最終濃度10μg/mL加えたものを使用した。なお、レンチウイルスベクターは、Tetracycline制御性のinducible vectorであり、LV-TRE-mOKS-Ubc-tTA-I2G(Kobayashi, T., et al. Cell 142, 787-799 (2010))のmOKSカセットをc-MYC、BMI1、BCL-xLに組み替えることで作製された(それぞれ、LV-TRE- c-Myc-Ubc-tTA-I2G、LV-TRE-BMI1-Ubc-tTA-I2G、およびLV-TRE-BCL-xL-Ubc-tTA-I2G)。感染に用いたウイルス粒子は、293T細胞へ上記レンチウイルスベクターを発現させて作製された。
【0092】
1−3.巨核球自己増殖株の作製および維持培養
上記の方法でcMYC及びBMI1ウイルス感染を実施した日を感染0日目として、以下の通り、cMYC及びBMI1遺伝子導入型巨核球細胞を培養することで、巨核球自己増殖株をそれぞれ作製した。
【0093】
・感染2日目〜感染11日目
ピペッティングにて上記の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行って上清を除去した後、新しい分化培地で懸濁して新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。感染9日目に同様の操作をすることによって継代を実施した。細胞数を計測後1×10
5cells/2mL/wellでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。
【0094】
・感染12日目〜感染13日目
感染2日目と同様の操作を実施した。細胞数を計測後3×10
5cells/10mL/100mm dishでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(100mm dish)。
【0095】
・感染14日目
ウイルス感染済み血球細胞を回収し、細胞1.0×10
5個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-pacific blue(BioLegend
)抗体をそれぞれ2μL、1μL、1μLずつを用いて抗体反応した。反応後に、FACS Verse(BD)を用いて解析した。感染14日目において、CD41a陽性率が50%以上であった細胞を、巨核球自己増殖株とした。
【0096】
1−4.巨核球自己増殖株へのBCL-xLウイルス感染
前記感染14日目の巨核球自己増殖株に、レンチウイルス法にてBCL-xLを遺伝子導入した。MOI 10になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm、60分間遠心)で感染させた。
【0097】
1−5.巨核球不死化株の作成及び維持培養
・感染14目〜感染18日目
前述の方法で得られたBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行った。遠心後、沈殿した細胞を新しい分化培地で懸濁した後、新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に2×10
5cells/2mL/wellで播種した(6well plate)。
【0098】
・感染18日目:継代
細胞数を計測後、3×10
5cells/10mL/100mm dishで播種した。
【0099】
・感染24日目:継代
細胞数を計測後、1×10
5cells/10mL/100mm dishで播種した。以後、4-7日毎に継代を行い、維持培養を行った。
【0100】
感染24日目にBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、細胞1.0×10
5個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-Pacific Blue(Anti-CD235ab-PB; BioLegend)抗体をそれぞれ2μL、1μL、1μLずつを用いて免疫染色した後にFACS Verse(BD)を用いて解析して、感染24日目においても、CD41a陽性率が50%以上である株を巨核球不死化株とした。
【0101】
前記BCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を維持培養した結果、iPS細胞(692D2、1108A2)由来の細胞は、感染後24日以上増殖することができた。これらの細胞を、巨核球不死化細胞株(SeV2-MKCL)とした。
【0102】
得られたSeV2-MKCLを、10cmディッシュ(10mL/ディッシュ)で静置培養した。培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。
FBS(シグマ#172012 lot.12E261)15%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 2mM
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μM
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
Puromycin (sigma #P8833-100MG) 2μg/mL
SCF (和光純薬#193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
培養条件は、37℃、5%CO
2とした。
BMI1遺伝子、c-MYC遺伝子、及びBCL-xL遺伝子の強制発現は、培地にドキシサイクリン (clontech #631311) 1μg/mLを加えることにより行った。
【0103】
2.SR-1濃度の検討
1.の方法で得た不死化巨核球細胞株(SeV2-MKCL)を、PBS(-)で2度洗浄し、ドキシサイクリンを含まない培地中で培養することで強制発現を解除した。培養は、6ウェルプレートに播種密度1x10
5cells/mL、2mL/ウェルで播種し、次の培地中で静置培養した。
培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。
FBS 15%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 2mM
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μM
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
SCF (和光純薬#193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
ADAM阻害剤 15μM
培養条件は、37℃、5%CO
2とした。
同時にSR-1を
図1に示す濃度で加え、7日間培養した後、血小板の数及び機能を測定した。測定方法は以下のとおりである。
遺伝子発現OFF培養7日後に培養上清を1mLピペットマンを用いて緩やかに懸濁した。培養液200μLを5mL sample tubeに分注し、以下の抗体で染色を行った。
0.5μL 抗CD42a抗体 PB標識(eBioscience #48-0428-42)
0.5μL 抗CD42b抗体PE標識(Bio Legend #303906)
0.5μL 抗CD62a抗体APC標識(Bio Legend #304910)
10μL PAC-1抗体FITC標識(BD #304910)
血小板の刺激は終濃度0.2μMでPMA (Phorbol 12-myristate 13-acetate, sigma #P1585-1MG)、又は、終濃度20uMでADP(sigma #A2754)、終濃度20μMでTRAP-6(Thtombin Receptor Activator Peptide 6,TFA salt, BACHEM #H8365)、終濃度1μg/mLで collagen(collagen reagent HORM, モリヤ産業)、若しくはそれらの混合物を添加し室温にて反応させた。
反応30分後にBD社FACSverceにて測定を実施した。測定直前にTyrode buffer Ca+ 400μLを添加して、計600μLにした。その計600μLをFACS測定サンプルとした。
CD42a陽性CD42b陽性の粒子数を血小板数とし、この血小板画分における刺激前後のPAC-1およびCD62pの平均蛍光強度(Mean Fluorescence Intensity; MFI)の比を算出した。
【0104】
結果を
図1に示す。SR-1を加えると、PAC-1及び抗CD62p抗体が結合する血小板が増加し、SR-1なしの場合よりも機能が高くなることが確認された。特にPAC-1の結果から、この後の実験ではSR-1を750nMとした。
【0105】
3.BMI1遺伝子、c-MYC遺伝子、及びBCL-xL遺伝子の強制発現期間の検討
1.の不死化巨核球細胞の調製における最後の継代の日から、PBS(-)で洗浄するまでの期間を1日、2日又は3日とし、強制発現終了後、SR-1の濃度を75nM又は750nM、播種密度を1×10
5cells/mLとして、2.と同様の実験を行った。
結果を
図2に示す。強制発現1日〜3日で、血小板産生数にはほとんど差が見られなかったが、2日以上強制発現を行った方が、機能が高くなる傾向が見られた。
【0106】
4.振とう培養の検討
6ウェルプレートに代えて、E125フラスコに播種密度1x10
5cells/mL、25mL/フラスコで播種して振とう培養する以外は、2.及び3.と同様の実験を行い、SR-1の濃度と不死化巨核球細胞の播種密度を検討した。
結果を
図3及び4に示す。静置培養と同様の結果が得られた。
【0107】
5.SR-1類縁体の検討
AhRアンタゴニストとしてSR-1の類縁体を図中の濃度で用いたこと以外は、2.と同様の実験を行った。
結果を
図5に示す。いずれのAhRアンタゴニストを加えても、血小板産生数と機能が増大することが確認された。また、AhRアンタゴニストについて、さらに詳細に濃度を変更した結果を
図6A及び
図6Bに示す。
【0108】
6.AhRアンタゴニストとROCK阻害剤の共添加効果の検討
SR-1(AhRアンタゴニスト)とY27632(ROCK阻害剤)の共添加効果を調べた。1.の方法で得た不死化巨核球細胞を、PBS(-)で2度洗浄してドキシサイクリンを除去して強制発現を解除し、6ウェルプレートに播種密度1x10
5cells/mL、2mL/ウェルで播種して静置培養し、E125フラスコに播種密度1x10
5cells/mL、25mL/フラスコで播種して振とう培養した。
培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。
FBS 15%
L-Glutamin
ITS
MTG
アスコルビン酸
SCF 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
SR-1 750nM
Y27632 10μM
培養条件は、37℃、5%CO
2、20%O
2とした。上記2.と同様の方法で、血小板数とPAC-1陽性細胞を測定した。
結果を
図7及び
図8に示す。SR-1とY27632を共添加すると、それぞれを単独で添加した場合に比較して、血小板産生数と機能が相乗的に高くなることが確認された。同様に、SR-1と他のROCK阻害剤の組み合わせ(例えばY39983、ファスジル塩酸塩、リパスジル、SLX-2119、RKI-1447、azaindole1、SR-3677)についても同様に相乗効果が確認された。Y27632を上回る顕著な相乗効果を示したY-39983の結果を
図9に示す。ファスジル塩酸塩及びリパスジルもY27632に匹敵する相乗効果を濃度依存的に示した。続いて、Y27632と他のAhRアンタゴニストの組み合わせについても血小板産生数等を検討したところ、いずれも相乗効果が確認された。SR-1を上回る顕著な相乗効果を示したGNF-351及びCH-223191の結果を
図10に示す。結果は示さないが、GNF-351とY-39983の組み合わせは特に驚くべき顕著な効果を奏した。
【0109】
また、血小板産生数は培養日数に伴って増大したが、PAC1陽性の機能性血小板は、添加を5日目ごろに最も多くなる傾向が見られた。
【0110】
7.FBS代替物の検討
ヒト由来成分でFBSを代替できるかどうか調べるために、15%FBSに代えて、15%ヒト由来血清(図中human serum;正常ヒト血清プール(コージンバイオ#12181201))又は15%ヒト由来血漿(図中human plasma;正常ヒト血漿プール・ヘパリン処理(コージンバイオ#12250210))を用いたこと以外は、上記2.又は6.と同様の実験を行った。
結果を
図11に示す。FBSに代えて、15%ヒト血清又は15%ヒト血漿を用いても、機能的な血小板が得られることがわかった。ヒト血清やヒト血漿を用いれば、異種動物成分を排除できるので、より安全性の高い血小板を得ることができる。
【0111】
次に、SR-1及びY27632存在下で、振とう培養としたこと以外は、
図11と同じ条件で実験を行った。
結果を
図12に示す。静置培養ではなく振とう培養の場合も、15%ヒト血清又は15%ヒト血漿を用いて機能的な血小板が得られた。振とう培養によれば、大量培養・大量生産が可能となる。
【0112】
一般に、血清を培地に添加すると凝固反応を生じるのでロット差が出やすいことから、培地添加物としてはヒト血清よりもヒト血漿がより望ましいことが知られている。そこで、ヒト血漿について、SR-1及びY27632存在下で振とう培養を行い、血小板産生量の濃度依存性を調べた。
結果を
図13に示す。血小板産生量には、ある程度の血漿濃度依存性が見られたものの、血漿濃度1%まで低下させても、十分な量の機能的な血小板が得られることが確認された。培地中のヒト血漿濃度の低下させることができれば、血小板製剤の生産コストを低減することが可能である。
【0113】
続いて、ヒト血清の濃度も低下させて同様に実験した。ヒト血漿としては、正常ヒト血漿プール・クエン酸(コージンバイオ#12250110)を用い、ヒト血清としては、正常ヒト血清プール(コージンバイオ#12181201)を用いて、静置培養とした。
結果を
図14及び15に示す。血清濃度を1%まで低下させても、十分な量の機能的な血小板が得られることが確認された。
【0114】
8.HMGA2の阻害
上記1.で調製した不死化巨核球細胞に、ウイルスベクターによってshRunx1 with GFP, shHMGA2 with GFP, SCRAMBLE with GFPを遺伝子導入した。遺伝子導入された細胞(GFP陽性細胞)をソーティングした。用いたshRNAを以下の表1に示す。
【表1】
【0115】
実験方法の概略及び結果を
図16及び17に示す。HMGA2をノックダウンするとCD41a陽性細胞の数が低下したことから、HMGA2は増殖期にある多核化前の巨核球細胞の自己複製において必要な因子であることがわかった。一方、Runx1は、ノックダウンするとCD41a陽性細胞が増えたことから、多核化前の巨核球細胞の増殖を若干阻害すると考えられた。
【0116】
次に、上記1−5.等に記載の方法で、cMYC、BMI1、及びBCL-xL遺伝子の強制発現を解除し、血小板の産生を測定した。結果を
図18及び19に示す。
図示されるとおり、強制発現解除前(ON MGK)に比較して、強制発現解除後は、CD41a陽性CD42b陽性の巨核球細胞の含有率が増加し(OFF MGK)、CD41a陽性CD42b陽性の血小板が大量に産生されているのが確認された。
図19上段に示されるとおり、HMGA2をノックダウンすると、巨核球細胞の多核化が著しく促進され、下段に示されるとおり、巨核球細胞において1細胞あたりの血小板数が飛躍的に増加することが確認された。
【0117】
9.HMGA2阻害、AhRアンタゴニストおよびROCK阻害剤の効果
上記1.で調製した不死化巨核球細胞に、上記8.と同様にshRunx1 with GFP, shHMGA2 with GFP, shSCRAMBLE with GFPを遺伝子導入し、1 μg / mlドキシサイクリン(DOX)を含む巨核球細胞用培地(すなわち、15% FBS、L-Glutamin、ITS、MTG、アスコルビン酸、50ng/mL SCF、50ng/mL TPOを添加したIMDM)で7日間培養後、遺伝子導入された細胞(GFP陽性細胞)をソーティングにより単離した。shHMGA2を導入し単離した細胞を1×10
5個を6ウェルプレートに播種し、無添加、750nM SR-1のみ、10μM Y27632のみ、又は750nM SR-1および10μM Y27632を添加したDOXを含まない巨核球細胞用培地(すなわち、外来性の遺伝子発現を止める培地)で7日間培養した。
一方、shRunx1およびshSCRAMBLEを導入し単離した細胞を、750nM SR-1および10μM Y27632を添加したDOXを含まない巨核球細胞培養培地で7日間培養した。得られた細胞をサイトスピンによってスライドグラスへ密着させ、顕微鏡によって観察した(
図20上図)。
また、培養上清における血小板数(CD41a陽性CD42b陽性)をFACSを用いて測定した(
図20下図)。その結果、HMGA2をノックダウンした巨核球細胞をAhRアンタゴニストおよびROCK阻害剤を含む培地で培養することで、多核化および肥大化した細胞が多くみられ、単位細胞あたりの血小板産生数が著しく増加することが確認された。また、AhRアンタゴニストおよびROCK阻害剤を組み合わせて用いた場合、血小板産生効率がより高くなることが確認された。
10.HMGA2阻害と巨核球細胞の成熟化
上記9.で得られたshRunx1、shHMGA2およびshSCRAMBLEを導入して得られた細胞をSR-1およびY27632を添加したDOXを含まない巨核球細胞用培地で培養した細胞を電子顕微鏡で観察した。
結果を
図21に示す。その結果、shRunx1を導入した場合では、小型有核細胞が多く、細胞では分離膜系(demarcation membrane system:DMS)の発達が乏しく、分泌顆粒は中程度に形成されていることが確認された。同様に、shSCRAMBLEを導入した場合では、小型有核細胞が多く、細胞ではDMSの発達が乏しく、分泌顆粒はほとんど形成されていないことが確認された。一方、shHMGA2を導入した場合では、多核化および肥大化した細胞が認められ、さらに、このような細胞ではDMSと分泌顆粒の形成が認められた。
以上の結果より、巨核球細胞においてHMGA2を阻害することで血小板産生効率を高めることが可能であり、AhRアンタゴニストおよびROCK阻害剤を組み合わせることによって、得られる巨核球が生体内の巨核球と同様に多核化および肥大化し、DMSと分泌顆粒の形成が認められるほど成熟し、そのことにより、血小板産生効率がより高くなることが示唆された。