特許第6814511号(P6814511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6814511石英ガラスのサブストレート管を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814511
(24)【登録日】2020年12月23日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】石英ガラスのサブストレート管を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/047 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   C03B23/047
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-125433(P2016-125433)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-14099(P2017-14099A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2019年3月7日
(31)【優先権主張番号】15175343.1
(32)【優先日】2015年7月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599089712
【氏名又は名称】ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ガンツ
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト・ハイン
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−109136(JP,A)
【文献】 特開2006−294440(JP,A)
【文献】 特表2007−513855(JP,A)
【文献】 特表2008−540321(JP,A)
【文献】 特表2002−531366(JP,A)
【文献】 特開2007−320803(JP,A)
【文献】 特表2012−521341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
40/00−40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスのサブストレート管を製造する方法であって、加熱ゾーン(3)に、外径Ca、内径Ciおよび内部ボアを有する石英ガラスの中空円筒体を連続的に供給することと、前記加熱ゾーン(3)において前記中空円筒体をゾーン毎に軟化させることと、成形工具を使用することなく、軟化部分から、外径Taおよび内径Tiを有する管状ストランド(12)を引き取ることとを含み、前記内部ボア(13)内で、400〜1000Pa(4〜10mbar)の範囲で設定される吹込圧が生成され、中空円筒体(4)および管状ストランド(12)に対して、以下:
a>180mm、
r=Ca/CiとしてCr>3、
r=Ta/TiとしてTr<1.6
i/Ti<2.5
r/Tr>1.88、および
(Ca−Ci)/2>62.5mm
が適用される、方法。
【請求項2】
前記吹込圧が600〜800Pa(6〜8mbar)の範囲で設定され、且つ前記中空円筒体に対して、以下:
a<300mm、および
i/Ti<2
が適用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記管状ストランドに対して、以下:
28mm<Ta<50mm、および
r<1.3
が適用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
中空円筒体および管状ストランドに対して、以下:
3.5<Cr<4.5、および
r>Tr+2.4
が適用されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記中空円筒体が、粗さ値RZ>1μmによって定義される表面粗さを有する内壁を備えた内部ボアを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記中空円筒体が、粗さ値RZ>4μmによって定義される表面粗さを有する外壁を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
内壁によって境界が定められる円形加熱空間(3)を備える加熱管(1)が使用され、前記加熱空間(3)が加熱空間容積VHeizを画定し、前記加熱空間容積VHeiz内で、中空円筒体(4)、延伸球状部(11)および管状ストランド(12)が円筒体空間容積Vcを占有し、VHeiz>2.5×Vcであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱ゾーンの前記内壁と前記中空円筒体(4)との間に、平均間隙幅が15mm〜25mmの範囲である環状間隙が残ることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱管(1)が、150mm〜200mmの長さLを有することを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記管状ストランドの前記外径Taが、28mm〜35mm以下の範囲の値に設定され、且つスループット量が10〜20kg/hの範囲の値に設定されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記管状ストランドの前記外径Taが、35mm〜50mmの範囲の値に設定され、且つスループット量が20〜30kg/hの範囲の値に設定されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記管状ストランドが、150未満、好ましくは50〜130の範囲の伸長比で引き取られることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスのサブストレート管を製造する方法であって、加熱ゾーンに、外径C、内径Cおよび内部ボアを有する石英ガラスの中空円筒体を連続的に供給することと、前記加熱ゾーンにおいて前記中空円筒体をゾーン毎に軟化させることと、軟化部分から、外径Tおよび内径Tを有する管状ストランドを引き取ることとを含む方法に関する。
【0002】
所望の長さのサブストレート管は、管状ストランドをある長さに切断することによって得られる。サブストレート管は、光ファイバ用のプリフォームの製造において半完成品としての役割を果たす。ここでは、気相からサブストレート管の内壁に追加のガラス層を堆積させる。
【背景技術】
【0003】
サブストレート管を製造する一般的な垂直延伸法が特許文献1から知られている。合成石英ガラスの中空円筒体が、グラファイトの環状加熱要素を備えた炉に、円筒体の長手方向軸の垂直向きにおいて上方から供給される。中空円筒体は、外径Cが150mmであり、内径Cが70mmである。したがって、直径比C=C/Cは約2.14である。炉を約2,300℃の目標温度まで加熱した後、中空円筒体が11mm/分の低速で炉内に連続的に移動され、それにより、ゾーン毎に軟化される。同時に、引取り装置を用いて640mm/分の速度で、内径Tが22mmであり且つ外径Tが28mmである管状ストランドが引き取られる。したがって、管状ストランドの直径比T=T/Tは約1.27である。
【0004】
延伸プロセス中、引き取られた管状ストランドの外径および壁厚さは、プロセス制御によって一定に維持される。中空円筒体の内部ボア内の内圧は、制御変量としての役割を果たす。中空円筒体の内部ボア内に窒素流を導入することによって、前記圧力が生成および維持される。内壁の石英ガラスにヒドロキシル基(OH基)が取り込まれるのを防止するために、使用する窒素が最初に乾燥される。窒素流量は、約150Pa(約1.5mbar)の吹込圧が得られるように構成される(約30L/分)。窒素の流れが妨げられずに流出し、結果として、ガス流によって、引き取られた石英ガラス管の内壁が冷却されるのを回避するために、引き取られた管状ストランドの下端が部分的に栓で閉鎖される。平均表面粗さRが0.06μmであることによって特徴付けられる平滑な内壁が得られる。
【0005】
このようにして製造されたガラス管が好適なセグメントに切断し、MCVD法を用いて内壁にSiO層を堆積させるためのサブストレート管として使用される。
【0006】
サブストレート管の内壁は、別の後に追加されるガラスとの接触面を形成し、そのガラスは、光ファイバのコアに属するか、またはファイバコアに隣接する。したがって、サブストレート管の内壁には、原則的に亀裂および不純物があってはならない。
【0007】
特許文献1に示唆されているような窒素流の乾燥は、内壁の石英ガラスにヒドロキシル基が混入するのを制限するための有効な手段になるが、いずれにしてもコストがかかるサブストレート管の製造をより高価にする。
【0008】
表面層の上または中に含まれる不純物を除去するために、たとえば機械的フライス加工により、またはエッチングにより、サブストレート管の内壁を最終的に除去するべきであることも示唆されている。しかしながら、これらの手順は複雑であり且つ手間取り、不純物および表面欠陥に対する追加の原因を形成する。
【0009】
サブストレート管を製造する既知の伸長方法は、通常、いかなる工具も用いない垂直延伸法である。外壁の形成にも内壁の形成にも成形工具は使用されない。その理由は、成形工具から放出される蒸気および粒子、または機械的接触によって形成される引かれた筋が、本来、サブストレート管の円筒体外面を損なう可能性があるということである。
【0010】
しかしながら、工具を用いない初期中空円筒体の成形は、管ストランドの公称半径方向寸法および回転対称性への準拠に関する問題を伴う。特に、高頻度の直径変動は、半径方向断面輪郭が楕円形であることまたは壁が一方に偏っていることとともに、すなわち、管壁厚さの半径方向に不規則な輪郭(専門家の間では「サイディング」とも呼ばれる)が留意される。これらの問題は、中空円筒体から管への成形プロセスが強力であるほど、より顕著である。その尺度は、いわゆる「伸長比」または「延伸比」である。これは、引き取られた管状ストランドおよび出発円筒体の長さの比を示す。
【0011】
延伸比の高い伸長プロセスにおいて寸法安定性を向上させるために、多くの手段、たとえば、出発円筒体をその円筒体長手方向軸を中心に回転させること、短いかまたは長い加熱ゾーンの使用、または加熱ゾーンと中空円筒体との間の間隙幅を最適化することが提案されてきた。しかしながら、工具を使用しない伸長によるサブストレート管の製造に対する、これらの対策の再現可能な移行は困難であることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/083141号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、寸法安定性および表面品質が高いサブストレート管の費用効率の高い製造のための伸長プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述したタイプの方法から開始して、この目的は、内部ボア内で、400〜1000Pa(4〜10mbar)の範囲で設定される吹込圧が生成され、中空円筒体および管状ストランドに対して、以下:
>180mm、
=C/CとしてC>3、
=T/TとしてT<1.6、および
/T<2.5
が適用可能であるという本発明によって達成される。
【0015】
最初に、以下においていくつかの用語について説明し、その後、本発明による方法の対策の効果について詳細に説明する。
【0016】
「吹込圧」は、中空円筒体の外側の主流となっている圧力と比較して中空円筒体の内部ボアにおいて主流となっている過圧を示す。内部ボアの外側で主流となっている圧力は、最も単純な場合は大気圧である。吹込圧は、窒素等の圧力ガスを中空円筒体の内部ボア内に導入することによって生成および維持される。吹込圧レベルは、引き取られた管状ストランドの壁厚さに影響を与える。
【0017】
「延伸球状部」は、伸長プロセスにおいて、中空円筒体と、加熱ゾーンにおいて軟化した中空円筒体ガラス塊からの引き取られた管状ストランドとの間に形成される遷移領域である。延伸球状部内で、中空円筒体の内部ボアは完全につぶれず、それにより、延伸球状部は、中空円筒体と管状ストランドとの内部ボアの間の連続したチャネルをさらに備える。
【0018】
「出発円筒体」は、伸長プロセスが施される石英ガラスの中空円筒体を示す。「内面」は、延伸球状部を含む、中空円筒体および引き取られた管の内壁の自由面であり、内壁は内部ボアを画定する。
【0019】
伸長プロセスにおいて、出発円筒体の内部ボアは、本明細書では「成形プロセス」とも呼ぶ、著しい形状の変化が施される。内部ボアは、より狭く且つより長くなる。これは、内面のサイズに対して異なる影響を与える。内部ボアの狭窄により内面が低減することになり、伸長により内面が増大することになる。本発明による方法では、最終的に新たな内壁面が常に形成される。延伸比に加えて、中空円筒体および管状ストランドの名目内面の比として表される内面の新たな形成の度合が、成形プロセス強度/程度のさらなる尺度である。
【0020】
引き取られた管状ストランドの内壁の品質は、成形プロセスの強度によって決まることが分かった。強力な成形プロセスは、より優れ且つより平滑な内面をもたらす傾向がある。一方で、工具なしの伸長プロセスにおける高い成形度合いでは、引き取られた管状ストランドにおいて寸法安定性および回転対称性が低下する危険がある。特にガラス塊が高温であることと組み合わさって、管状ストランドは長手方向軸に沿って曲がる傾向があることが分かった。
【0021】
したがって、約30〜40mmの範囲のサブストレート管の典型的な外径から開始して、半径方向寸法が、可能な限り伸長プロセスにおいて両境界条件を満たす、すなわち、引き取られた管状ストランドの内面の高い寸法安定性および高品質が同時に得られるようなものである、出発円筒体を提供するように試みられてきた。吹込圧はここでは重要な役割を果たすことが分かった。吹込圧をさらに適合させることにより、請求項1において概説した技術的教示がもたらされた。
【0022】
高い成形度合いを達成するために、出発円筒体として、外径Cが少なくとも180mmである厚壁の中空円筒体を使用する。外径(C)/内径(C)の直径比Cが3を超える(C>3)という点で、中空円筒体の壁厚さが大きいことが明らかである。
【0023】
成形プロセスにおいて厚壁の出発円筒体から、比較的薄壁の管状ストランド、したがって薄壁のサブストレート管が得られる。外径(T)/内径(T)の直径比Tが1.6未満である(T<1.6)という点で、管状ストランドの壁厚さが小さいことが明らかである。
【0024】
この成形プロセスでは、大きい伸長比が必要であり、引き取られた管状ストランドにおける平滑な内面を伴う、新たな表面がもたらされる。
【0025】
内面に対する新たな形成は、主に、出発円筒体のその長手方向軸の方向における伸張による。しかしながら、中空円筒体の内部ボアのつぶれに対するあり得る限りの著しい半径方向変形(その変形により、たわみ、歪みおよび表面欠陥が容易にもたらされる可能性がある)を回避するために、中空円筒体および管状ストランドの内部ボアの直径が、2.5倍以下だけ互いに異なる(C/T<2.5)ことが意図される。この対策により、引き取られた管状ストランドの寸法安定性および回転対称性が確保される。
【0026】
吹込圧は、400〜1000Pa(4〜10mbar)に設定される。これは、比較的高圧である。これにより、延伸球状部の領域において出発円筒体の迅速な成形がもたらされ、それにより、新たに生成された内面が高い成形温度および圧力ガスにさらされているプロセス時間が短縮する。それにより、ガラスへの不純物の導入が最小限になり、それによって、吹込圧を生成するために特別に処理された高価なガスの使用を省略することができる。これは、特に厚壁の中空円筒体の成形(成形自体が長期にわたる)において、表面品質にプラスの顕著な効果を与える。
【0027】
厚壁の出発円筒体を用いる本発明の伸長プロセスにより、CおよびT、内径比C/Tおよび吹込圧に関して前記境界条件に留意することにより、寸法安定性および表面品質が高いサブストレート管の費用効率の高い製造が可能になる。
【0028】
出発円筒体が厚壁であり、中空円筒体と環状間隙との間の内径の差が大きいほど、成形プロセスが強力であり、延伸球状部における高温の石英ガラスの滞留時間が長くなり、したがって、軟化した石英ガラスに不純物が導入される危険が増大する。
【0029】
したがって、好ましい手順において、吹込圧が600〜800Pa(6〜8mbar)の範囲で設定され、且つ中空円筒体に対して、以下:
<300mm、および
/T<2
が適用可能であることが意図される。
【0030】
サブストレート管は、概して、壁厚さが比較的小さいことと少なくとも20mmである大きい内径とによって特徴付けられる。本発明による方法は、サブストレート管の製造に特に適合され、管状ストランドに対して、以下:
28<T<50、および
<1.3
が適用可能である。
【0031】
高い成形速度を達成するために、外径/内径の直径比が中空円筒体から製造されるサブストレート管と比較して大きい、厚壁の中空円筒体が用いられる。すなわち、これに関して、中空円筒体および管状ストランドに対して、以下:
3.5<C<4.5、および
>T+2.4
が適用可能である場合に有用であることが分かった。
【0032】
機械的処理(特に、ドリル加工、ホーニング加工および研削)により、石英ガラスブランクを処理して、正確に円形断面であり寸法偏差が小さい直線状円筒体にすることができる。したがって、定義され且つ再現可能な初期状態での伸長プロセスを確保するために、中空円筒体の円筒体外面に対して、通常、機械的処理によってそれらの最終的な寸法が与えられる。機械的処理によってもたらされる表面亀裂および構造物は、研削、ホーニング加工および研磨工程によって連続的に低減させることができ、通常、それに最終的なエッチング処理が続く。処理の効果は、達成可能な表面品質を明らかにし、それは、処理された円筒体外面の表面粗さによって特徴付けられることが多い。
【0033】
本発明による方法において成形度合いが高いことにより、中空円筒体の内壁を平滑化する処理効果が比較的小さい場合にも、引き取られた管状ストランドに対し、十分に平滑な内面がもたらされることが分かった。したがって、特に好ましい手順では、中空円筒体が、粗さ値R>1μmによって定義される表面粗さを有する内壁を備えた内部ボアを有することが意図される。
【0034】
DIN EN ISO4287による粗さパラメータRは、「平均粗さ深度」と呼ばれる。Rは、個々の測定区画内の最高輪郭頂部の高さと最深輪郭谷部の深さとから得られる和である。Rは、通常、5つの個々の測定区画の結果を平均することによって得られる。したがって、研削およびホーニング加工を用いる表面処理により、1μm以上の「平均粗さ深度」Rが達成可能である。ここでは、研磨工程は省略する。この機械的処理に続く任意選択的なエッチング処理により、通常、Rがさらに増大することになる。したがって、R>1という条件は、機械的処理のみによって達成されたか、機械的処理およびエッチング処理によって達成されたかに関わらず、伸長プロセス前の中空円筒体の内面の状態を指す。
【0035】
本発明による方法は、中空円筒体の内壁の比較的低い表面品質を許容し、それにより、内壁の機械的処理がそれほど複雑でないため、比較的低コストで製造することができる中空円筒体を使用し得る。
【0036】
中空円筒体の外面の品質に関する要件は、さらに幾分か低い。中空円筒体には、好ましくは、粗さ値R>4μmによって定義される表面粗さを有する外壁が設けられる。同様に、伸長プロセス前の外面の状態に対するR>4μmという規定は、外壁に対してこの状態が、機械的処理のみによって与えられたか、または機械的処理およびエッチング処理によって与えられたかという問題とは無関係である。
【0037】
本発明による方法では、管状ストランドの内壁の品質は、上で説明した吹込圧と、成形プロセスの度合いおよび成形速度を定義する形状パラメータとによって主に決まる。特に、成形速度に関して、加熱ゾーンの形状およびサイズはある一定の役割を果たす。これに関して、内壁によって境界が定められる円形内部空間を備える加熱ゾーンが使用され、円形内部空間が加熱空間容積VHeizを画定し、加熱空間容積VHeiz内で、中空円筒体、延伸球状部および管状ストランドが円筒体空間容積Vを占有し、VHeiz>2.5×Vである場合に有利であることが分かった。
【0038】
加熱空間容積VHeizは、最大温度に関連する加熱要素の内部空間によって画定される。複数の重ねられた加熱要素を有する加熱装置では、最高温度の加熱要素は、加熱空間容積VHeizを画定する要素である。円筒体空間容積Vは、内部ボアの容積を考慮せずに、加熱空間容積内に配置される中空円筒体、延伸球状部および場合によっては管状ストランドの空間容積部分の和として得られる。それにより、円筒体空間容積Vは、加熱ゾーン内の中空円筒体/延伸球状部/管状ストランドの塊の周囲の外包を画定する容積に対応する。円筒体空間容積が加熱空間容積の2.5分の1以下であるため、これにより、延伸球状部に対する加熱要素における温度分布が比較的拡散して投影される。高い成形度合いであっても、管状ストランドの高い寸法安定性の準拠が容易になることが分かった。
【0039】
これに関して、加熱ゾーンの内壁と中空円筒体との間に、平均間隙幅が15mm〜25mmの範囲である環状間隙が残る場合に有利であることも分かった。
【0040】
加熱ゾーンの内壁と中空円筒体との間の間隙が狭いほど、中空円筒体上に投影される加熱要素の温度分布が正確になる。15mm未満の間隙幅では、比較的小さい延伸球状部容積である比較的小さい延伸球状部が得られる。しかしながら、本発明による方法において容積が比較的大きく変化するため、特に加熱ゾーンの長さLが150〜200mmであるとき、15mm〜25mmの範囲である前記間隙幅の結果として得られるように、より大きい延伸球状部容積が望ましい。
【0041】
成形度合いおよび成形速度は、スループットにおいても出発円筒体および管状ストランドの形状データに関連して明らかになる。高いスループット量は、高い成形度合いによって達成される。これに関して、管状ストランドの外径Tが28mm〜35mm以下の範囲の値に設定されるとき、スループット量が15〜25kg/hの範囲の値を示す手順が好ましい。
【0042】
別法として、35〜50mmの範囲の管状ストランドの外径Tでは、スループット量は、好ましくは20〜30kg/hの範囲の値に設定される。
【0043】
本発明による方法では、成形度合いは、中空円筒体から管への内面の増大によって大幅に決まる。ここで、伸長比は重要な役割を果たす。管状ストランドは、好ましくは、150未満、特に好ましくは50〜130の範囲の伸長比で引き取られる。
【0044】
ここで、実施形態および図面を参照して本発明についてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明による方法を行う装置を概略図で示す。
図2】試験パラメータおよび結果を含む表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1による装置は、工具を使用することなく中空円筒体4の伸長を可能にする。装置は、抵抗型加熱炉を備え、それは、垂直に向けられた加熱管1から本質的に構成され、加熱管1は、横断面が円形である加熱空間3を取り囲んでいる。加熱管1は、内径が240mm、外径が260mm、長さが180mmである環状要素からなる。加熱管1は、灰分の含有量が低いグラファイトからなる。グラファイトの加熱管1は、加熱ゾーンを適切に包囲している。加熱管1は、幅が55mmでありグラファイト管からなる延長部5によって、両側が拡張されている。この延長部5は、内径が250mmであり外径が280mmである。延長部5の壁の厚さが比較的大きく且つその中空円筒体の外面からの距離が比較的大きいため、中空円筒体4に作用する温度は、延長部5の領域において、加熱ゾーンの領域における最大温度より50℃超だけ低い。したがって、加熱ゾーンの内部容積Vは約8140mmである。
【0047】
上部検出面E1の高さに(上部延長部5の上縁に)、中空円筒体1の表面温度を検出する高温計6が配置されている。下部検出面E2の高さに(下部延長部5の下縁に)、伸長した管状ストランド12の表面温度を検出するさらなる高温計7が配置されている。高温計6および7の温度測定値ならびに高温計16によって測定される加熱管1の温度は、各々、コンピュータ8に送られる。
【0048】
中空円筒体4の上端は、溶接部9を介して石英ガラス保持管10に接続されており、その石英ガラス保持管10によって、中空円筒体4は水平方向および垂直方向に移動可能である。
【0049】
中空円筒体4は、その長手方向軸が、加熱管1の中心軸2に対して可能な限り同軸に延在するように向けられている。中空円筒体4は、上方から(その下端で開始して)加熱空間3に一定の送り速度で供給され、そこで軟化する。延伸球状部11を形成するように、軟化領域から管状ストランド12が垂直に引き取られる。ここで、管状ストランド12は、同様にコンピュータ8に接続されている壁厚さ測定装置14に沿って案内される。それにより、延伸プロセスにおいて、引き取られる管状ストランド12の壁厚さを記録し、コンピュータ8によって評価することができる。中空円筒体4および管状ストランド12の連続した内部ボアには、参照数字13が記載されている。チューブ引取り速度は、引取り装置を用いて検出され、コンピュータ8によって調整される。
【0050】
ここで、石英ガラス管を製造する本発明の垂直延伸方法を行う実施形態について、図1の装置を参照してより詳細に説明する。
【0051】
中空円筒体の製造
標準OVD(外部蒸着)法を用いて、長手方向軸を中心に回転する支持体上で堆積バーナを往復運動させることにより、SiOスート粒子を層毎に堆積させる。堆積プロセスが完了し支持体を取り除いた後、SiOスートの多孔管が得られる。それに対して、製造プロセスによって導入されたヒドロキシル基を除去するための脱水処理を施す。ここで、スート管を、脱水炉内に垂直向きで導入し、最初に、塩素含有雰囲気において850℃〜約1000℃の範囲の温度で処理する。6時間の処理期間の後、スート材料で100重量ppm未満のヒドロキシル基濃度が得られる。
【0052】
このように処理されたスート管を、ガラス化炉において、内部ボアがつぶれることなく約1350℃の範囲の温度でガラス化する。このように製造された合成石英ガラスの管状石英ガラスブランクの2つの端部を切り取り、80番の丸砥石が備えられた外周研削盤によって、外壁を粗く研削する。それにより、所定の目標外径が主に得られる。その後、NC外周研削盤を用いて、管の外面を精密に研削する。それによって得られる管の内部ボアを、80番の砥石が備えられたホーニング機を用いて、平滑度を連続的に精密にして、全体的にホーニング加工し、最終処理を800番の砥石を用いて行う。その後、中空円筒体を、30%フッ化水素酸エッチング溶液で短時間エッチングする。そこで、平均表面粗さRは、内壁の領域では5.5μmであり、外壁の領域では100μmである。
【0053】
それにより、合成石英ガラスから、半径方向寸法の異なる中空円筒体を作製した。寸法を表1に列挙している。
【0054】
サブストレート管の製造
伸長プロセスを用いてサブストレート管を製造するために中空円筒体を使用し、これについて以下に例を参照して説明する。
【0055】
垂直に向けられた加熱管1において、外径が200mmであり内径が50mmである石英ガラス中空円筒体4を、その長手方向軸が加熱管1の中心軸2に対して同軸に延在するように調整する。その後、加熱管1の中心軸2に配置される石英ガラスの中空円筒体4を、加熱管1内に所与の送り速度で放出し、20kg/hの質量スループットが得られるようにする。加熱ゾーンにおいて、中空円筒体4を、2,200℃を超える温度まで加熱する。発生した延伸球状部11から液性ガラスの管状ストランド12を、制御された延伸速度で、40mmの名目外径および36mmの内径(壁厚さ:2mm)になるように引き取る。中空円筒体4、延伸球状部11および管状ストランド12は、加熱空間容積VHeiz(約8,100mm)の加熱ゾーン3内で、約2700mmの総円筒体空間容積を占有する。
【0056】
延伸プロセス中、パージガスライン(図には示さず)を介して内部ボア13内に窒素流を導入する。窒素流は、内部ボア13内で700Pa(7mbar)の吹込圧が設定されるような大きさである。吹込圧を連続的に測定し、それに従って、窒素流の流量を再調整する。管状ストランド12の下端を部分的に閉鎖する栓を用いることにより、窒素流の妨げのない流出を阻止することができ、流量を約30l/分に制限することができる。これは、ガス流によって管状ストランド12の内壁が過度に冷却されることが回避され、平均粗さ値R=0.10μmで特徴付けられる平滑な溶融面が得られるという結果をもたらす(表1:サンプル1)。
【0057】
プロセス制御を用いて、引き取られた管状ストランド12の外径および壁厚さを制御する。内部ボア13内の吹込圧は、壁厚さに対する制御変量としての役割を果たす。吹込圧は主に窒素流からもたらされ、それにより、寸法が変化したとき、制御ユニットを用いて窒素流の量が調整される。
【0058】
表1に述べるパラメータを用いるさらなる延伸試験を行った。それは、サンプル1を参照して上で説明した手順に類似する手順により、特に、伸長プロセス前に中空円筒体の機械的処理に対して、表1に示すパラメータを用いて行った。20kg/hのサンプル1の質量スループットとは対照的に、管状ストランドの名目外径が35mmを超えるサンプルにおいて、質量スループットを40kg/hに設定した。サンプル9では、質量スループットをさらに50kg/hに設定した。
【0059】
管の曲げの測定
各管状ストランド12から、所望のサブストレート管長の区画を切り離す。回転軸が画定された旋盤に、管片の端部を締め付ける。回転軸を中心に回転している管片に対して、管径を越えて拡張したレーザビームを用いて、回転軸に対して垂直な方向に照明する。レーザビームの陰影が、各円周方向の位置に対して、管の外径とそれぞれの軸方向測定点(M)における(外径の半分としての)管中心点の位置とをもたらす。回転軸と軸方向測定点の管中心点との間の最大オフセット値(Max(Bow))を記憶する。全管片を測定するまで、軸方向測定点を管片の長手方向軸に沿って75mm刻みでシフトさせる。すべての測定点の最大オフセット値(Max(Bow))から最大オフセット(Bowmax)を求める。次に、以下の式:曲げ(mm/mm)=Bowmax(mm)/L(m)に基づいて、管片長(L)を考慮する管片のたわみの1メートル標準化計算を行う。
【0060】
中空円筒体4から得られる管片はそれぞれのバッチを形成する。表1の最後の列に示す曲げ値は、対象バッチの中央値、すなわち、サイズに従って分類されたリストにおける中央の値を表す。
【0061】
粗さパラメータRの測定
DIN EN ISO4287に従って、個々の測定区画内の最高輪郭頂部と最深輪郭谷部の高さの差として、粗さパラメータRを求める。Rは、5つの測定区画の算術平均である。
【0062】
測定結果
MCVD法を用いてまたは別のプラズマ型内部堆積法に基づいて、内壁の上にSiO層を堆積させるためのサブストレート管として、管状ストランドセグメントを用いる。比較的安価な製造パラメータであるにも関わらず、サブストレート管は、特にたわみが小さいことにより、十分に平滑な内面および高い寸法安定性によって特徴付けられる。それは特に、石英ガラスの厚壁の出発円筒体の使用と、中空円筒体の内壁および外壁のそれほど複雑ではない機械的仕上げとによる。0.7mm/m以下の曲げと、R値が0.15μm以下である内面の粗さとは、許容可能であると考えられる。
【0063】
プロセスパラメータおよび結果に関する詳細は表1に記載しており、そこでは、
中空円筒体の外径
中空円筒体の内径
管状ストランドの名目外径
管状ストランドの名目内径
直径比C/C
直径比T/T
A(C)=中空円筒体の内面
A(T)=管の内面
L(C)=中空円筒体の長さ
L(T)=管状ストランドの長さ
である。
【0064】
国際公開第2004/083141A1号に示すように、形状および延伸パラメータ基づいて参照サンプルを製造した(表1、行1)。サンプル2、4、6、8および9は、さらなる比較サンプルを表している。本発明のものから逸脱しているパラメータは、表において灰色の背景を有している。表に示すように、出発円筒体の小さい直径比(C<3)は、通常、内面の比A(T)/A(C)によって表される小さい成形度合いによって達成され、すなわち、それは、延伸比(L(T)/L(C))が比較的大きい場合であっても達成される。しかしながら、参照として与えられた中空円筒体の仕上げ処理において、これにより、比較サンプル4、6および9に示すように、引き取られた管状ストランドの内面に許容できない粗さがもたらされる。対照的に、サンプル2および8は、許容可能な粗さを示すが、たわみの増大を示し、それは、中空円筒体および管状ストランドの内径の差が大きいこと、すなわち、比C/Tおよび半径方向における付随する成形度合いに帰する可能性がある。
図1
図2