(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶湯に浸漬する接液部のうち、摺動を伴う接液部品である前記シリンダ、前記ピストン、並びに、前記吸入用チェック弁のスプールおよび前記吐出用チェック弁のスプールは、窒化珪素により形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融金属移送ポンプ。
前記溶湯に浸漬する接液部のうち、摺動を伴わない接液部品である前記中間フレーム、前記下部固定ピース、前記上部固定ピースおよび前記グースネック挟持用ロッドが、耐溶損性鋳物により形成されている請求項9に記載の溶融金属移送ポンプ。
前記連結管と前記エルボ管との接続部および前記連結管と前記張り出し部との接続部のうち少なくとも一方の接続部は、当接面の一方が凹のテーパ面を有するとともに他方が凸のテーパ面を有し、これらテーパ面相互が同軸に嵌合可能に構成されている請求項9または10に記載の溶融金属移送ポンプ。
コールドチャンバー方式の鋳造装置本体と、溶融金属が貯留されるポット内の溶湯中に吸入口が浸漬するように縦置された溶融金属移送ポンプと、前記鋳造装置本体のスリーブと前記溶融金属移送ポンプの吐出部とを相互に繋ぐ導入管とを備え、
前記溶融金属移送ポンプとして、請求項1〜11のいずれか一項に記載の溶融金属移送ポンプを有することを特徴とするダイカスト鋳造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スリーブに溶融金属を供給するに際し、ラドルを用いる注湯装置では、ラドルによる溶湯の汲み入れからスリーブ内への流し込みを行う間に、溶融金属が空気と接触することで酸化物が生成されるという問題がある。溶融金属中への酸化物の混入により鋳造品に硬質部分が内在すると、切削加工時の工具破損の原因となる。また、ラドルを用いる注湯装置では、炉(ポット)に蓋ができず、熱が逃げて作業環境が高温になるという問題や、溶融金属中への異物や気泡の混入が発生するという問題がある。
【0006】
一方、溶融金属用電磁ポンプを用いた注湯装置においては、磁性体性のヨークにコイルを巻いた誘導子により、筒状のダクト内部に移動磁界を発生させて溶融金属に推力を与える。そのため、溶融金属の供給を停止しても、溶融金属の粘性により惰性で余分に溶湯が供給されるという問題がある。つまり、溶融金属用電磁ポンプは、溶融金属の供給を瞬時に停止することが難しく、高精度な定量供給が困難である。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、溶湯供給の定量性を確保しつつ、溶融金属を閉回路で圧送し得る溶融金属移送ポンプおよびこれを備えるダイカスト鋳造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプは、溶融金属が貯留されるポット内の溶湯中に吸入口が浸漬するように縦置されて前記吸入口から溶湯を吸い込むとともに吐出口へ移送する溶融金属移送ポンプであって、軸線が縦置されて前記ポット内の溶湯に浸漬されるシリンダと、該シリンダ内に摺嵌されてアクチュエータにより上下に駆動可能なピストンと、前記シリンダ内に前記ピストンよりも下部の位置に互いに併設されるとともに該ピストンの上下動に応じて前記吸入口を開閉する吸入用チェック弁および前記吐出口を開閉する吐出用チェック弁とを備え、前記ピストンが上方に移動するときは、前記吐出用チェック弁のスプールが上方に移動して前記吐出口を閉止するとともに、前記吸入用チェック弁のスプールが上方に移動して前記ポット内から前記ピストンの移動量に応じた溶湯を前記吸入口から前記シリンダ内に導入し、前記ピストンが下方に移動するときは、前記吸入用チェック弁のスプールが下方に移動して前記吸入口を閉止するとともに、前記吐出用チェック弁のスプールが下方に移動して前記シリンダ内の溶湯を前記吐出口から吐出することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプによれば、軸線が縦置されるシリンダ構造により、吸入口がポット内の溶湯に浸漬するように縦置可能であり、ピストンの下部に併設された吸入・吐出用チェック弁がピストンの上下動に連動することによって、下部の吸入口から吸い込まれた溶融金属を吐出口に定量移送できる。そのため、吐出口からダイカスト鋳造装置のスリーブに注湯管路を接続すれば、溶湯供給の定量性を確保しつつ溶融金属を閉回路で圧送できる。
【0010】
ここで、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、当該溶融金属移送ポンプと前記アクチュエータとを相互に繋ぐとともに、当該溶融金属移送ポンプから前記ポット上方に離隔した位置に前記アクチュエータを支持する延長支持構造を更に備えることは好ましい。
また、前記延長支持構造は、自身上部に前記アクチュエータが装着される中空円筒状の連結フレームと、該連結フレームの下部に装着される中空円筒状の中間フレームと、前記連結フレーム内に挿通されて前記アクチュエータの駆動部と前記中間フレーム内に位置する前記ピストンのロッドの基端部とを相互に繋ぐ連結ロッドと、前記シリンダの下面に対向配置されるとともに前記吸入口に連通する吸入路と前記吐出口に連通する吐出路とが内部に形成された下部管路ピースと、前記中間フレームに対して前記シリンダおよび前記下部管路ピース相互を軸方向にこの順に挟圧して前記中間フレームの下部の位置で支持する挟圧支持構造とを有することは好ましい。このような構成であれば、延長支持構造により、ポット上方に離隔した位置にアクチュエータを配置し、ポット側に延長した位置で溶融金属移送ポンプを支持できるので、溶融金属移送用のポンプとしてより好適である。
【0011】
また、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、前記シリンダと前記中間フレームとの接続部は、当接面の一方が凹のテーパ面を有するとともに他方が凸のテーパ面を有し、これらテーパ面相互が同軸に嵌合可能に構成されていることは好ましい。また、前記ピストンのロッドの基端部と前記連結ロッドとの接続部は、当接面の一方が凹のテーパ面を有するとともに他方が凸のテーパ面を有し、これらテーパ面相互が同軸に嵌合可能に構成され、さらに、前記ピストンのロッドの基端部と前記連結ロッドとが固定ピンにて接続されていることは好ましい。このような構成であれば、接液部品の嵌め合い部に熱膨張差により隙間ができた場合でも、テーパ面相互が同軸に嵌合し、相互の部材の軸線の自動調心が可能となるため、溶融金属移送ポンプとしてより一層好適である。
【0012】
また、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、前記溶湯に浸漬する接液部のうち、摺動を伴う接液部品である前記シリンダ、前記ピストン、並びに、前記吸入用チェック弁のスプールおよび前記吐出用チェック弁のスプールは、窒化珪素により形成されていることは好ましい。このような構成であれば、接液部品の中でも、溶融金属に対する極めて高い耐溶損性と耐摩耗性が求められる摺動部が窒化珪素で構成されるので、例えば700℃を超える高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプとして摺動部に必要な機械的性能を維持する上で好適である。
【0013】
また、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、前記挟圧支持構造は、複数のボルトと、前記中間フレームの上部に設けられて前記複数のボルトの装着穴が形成されたフランジと、自身ロッド部の一端面に前記ボルトを締結可能な雌ねじが形成され且つ他端に頭部が形成された複数の挟持用ロッドと、前記下部管路ピースの下面に対向配置されて前記ロッド部を挿通可能な複数の挿通穴が前記複数の装着穴とそれぞれ同軸に形成された下部固定ピースとを有し、前記下部固定ピースの前記挿通穴に下方から前記挟持用ロッドの前記ロッド部が挿通され、前記フランジの前記装着穴に上方から前記ボルトが挿通されるとともに前記挟持用ロッドの雌ねじに締結されることにより、前記中間フレームに対して前記シリンダおよび前記下部管路ピース相互が軸方向に圧縮荷重が掛かるように挟圧されることは好ましい。また、前記挟圧支持構造は、前記複数のボルトの座面に介装される耐熱性スプリングまたは耐熱性スプリングワッシャーを更に有することはより好ましい。
【0014】
このような構成であれば、中間フレームに対してシリンダおよび下部管路ピース相互の接液部品の嵌め合い部に熱膨張差により隙間ができた場合でも、挟圧支持構造によって、中間フレームに対してシリンダおよび下部管路ピース相互が軸方向に圧縮荷重が掛かるように挟圧されているので、高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプに必要な機械的性能を維持する構造として好適である。
【0015】
また、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、ダイカスト鋳造装置の導入管に接続されるグースネック構造を更に備え、前記グースネック構造は、複数のグースネック挟持用ボルトと、自身ロッド部の一端面に前記グースネック挟持用ボルトを締結可能な雌ねじが形成され且つ他端に頭部が形成された複数のグースネック挟持用ロッドと、前記導入管に接続される吐出部を有するエルボ管と、前記エルボ管を上部から覆うように装着されて前記複数のグースネック挟持用ボルトの装着穴が形成された上部固定ピースと、前記下部管路ピース自体が前記吐出路を側方に導くように側方に張り出されて形成されるとともにその張り出された部分の上面に前記側方に導かれた吐出路に連通する開口部が設けられた張り出し部と、自身上端が前記エルボ管に下方から連通するとともに自身下端が前記張り出し部上面の前記開口部に連通するように前記シリンダに並設される連結管と、前記下部固定ピース自体が前記下部管路ピースの前記張り出し部を下方から覆うように側方に張り出されるとともに前記グースネック挟持用ロッドのロッド部を挿通可能な複数の挿通穴が前記上部固定ピースの複数の装着穴とそれぞれ同軸に形成された下部固定部とを有し、前記下部固定部の前記挿通穴に下方から前記グースネック挟持用ロッドの前記ロッド部が挿通され、前記上部固定ピースの前記装着穴に上方から前記グースネック挟持用ボルトが挿通されるとともに前記グースネック挟持用ロッドの雌ねじに締結されることにより、前記張り出し部に対して前記連結管および前記エルボ管相互が軸方向に圧縮荷重が掛かるように挟圧されることは好ましい。
【0016】
このような構成であれば、吐出口からダイカスト鋳造装置のスリーブに注湯管路を接続する上で好適であり、特に、グースネック構造が高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプの注湯管路に必要な機械的性能を維持する構造として好適である。
【0017】
また、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、前記溶湯に浸漬する接液部のうち、摺動を伴わない接液部品である前記中間フレーム、前記下部固定ピース、前記上部固定ピースおよび前記グースネック挟持用ロッドが、耐溶損性鋳物により形成されていることは好ましい。
このような構成であれば、接液部品の中でも、摺動を伴わない接液部は比較的安価な耐溶損性鋳物で構成されるので、例えば700℃を超える高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプに必要な機械的性能を維持しつつ、全ての接液部品を窒化珪素で構成した場合よりも安価に溶融金属移送ポンプを提供する上で好適である。
【0018】
また、本発明の一態様に係る溶融金属移送ポンプにおいて、前記連結管と前記エルボ管との接続部および前記連結管と前記張り出し部との接続部のうち少なくとも一方の接続部は、当接面の一方が凹のテーパ面を有するとともに他方が凸のテーパ面を有し、これらテーパ面相互が同軸に嵌合可能に構成されていることは好ましい。
このような構成であれば、接液部品の嵌め合い部に熱膨張差により隙間ができた場合でも、テーパ面相互が同軸に嵌合し、相互の部材の軸線の自動調心が可能となるため、溶融金属移送ポンプとしてより一層好適である。
【0019】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るダイカスト鋳造装置は、コールドチャンバー方式の鋳造装置本体と、溶融金属が貯留されるポット内の溶湯中に吸入口が浸漬するように縦置された溶融金属移送ポンプと、前記鋳造装置本体のスリーブと前記溶融金属移送ポンプの吐出口とを相互に繋ぐ導入管とを備え、前記溶融金属移送ポンプとして、本発明のいずれか一の態様に係る溶融金属移送ポンプを有することを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係るダイカスト鋳造装置によれば、溶融金属移送ポンプとして、本発明のいずれか一の態様に係る溶融金属移送ポンプを有し、溶融金属移送ポンプは、吸入口がポット内の溶湯中に浸漬するように縦置され、導入管は、コールドチャンバー方式の鋳造装置本体のスリーブと溶融金属移送ポンプの吸入口とを相互に繋ぐので、ポット内の溶湯を鋳造装置本体のスリーブに導入管を介して定量供給できる。これにより、コールドチャンバー方式のダイカスト鋳造装置を用いながらも、溶融金属が空気との接触のない閉回路を構成できる。
【0021】
よって、本発明の一態様に係るダイカスト鋳造装置によれば、ラドルによる溶融金属の供給方法で生じる、炉に蓋ができず、熱が逃げて作業環境が高温になってしまうという問題や、異物や気泡の混入が発生してしまうといった問題を回避できる。また、ラドルによる溶融金属の供給方法や溶融金属用電磁ポンプによる溶融金属の供給方法で発生していた溶融金属が空気と接触することで酸化物が生成されてしまい、酸化物の混入により鋳造品に硬質部分が内在し、切削加工時の工具破損を引き起こすといった問題も回避できる。
【発明の効果】
【0022】
上述のように、本発明によれば、溶湯供給の定量性を確保しつつ、溶融金属を閉回路で圧送できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。ここで、本実施形態のダイカスト鋳造装置は、溶湯を閉回路で給湯可能なコールドチャンバー方式のダイカストマシンであり、アルミニウム合金等の溶融金属である溶湯を、所定の鋳型に圧入して凝固させることで成型品を鋳造するものである。
【0025】
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0026】
このダイカスト鋳造装置は、
図1に示すように、溶融金属移送ポンプ(以下、単に「ポンプ」ともいう)60、鋳造装置本体70、およびこれら相互を繋ぐ導入管74を備えている。鋳造装置本体70は、金型71およびスリーブ72を有する。ポンプ60は、溶湯Mが貯溜されたポット80に対して注湯装置として装備されている。導入管74は、ポンプ60から定量圧送される溶湯Mを、鋳造装置本体70のスリーブ72に供給可能に接続されている。
【0027】
金型71は、成型品を鋳造するための金属製の鋳型であり、対向配置された固定型71aおよび可動型71bを有する。金型71は、一対の固定型71aと可動型71b相互が圧接されることで、湯道71mおよびキャビティ71cが金型71内に画成される。
【0028】
スリーブ72は、金型71の下部側面に接続されている。スリーブ72は、軸方向両端が開放された略円筒状の部材であり、内部空間が加圧室72pになっている。加圧室72pは、湯道71mを介してキャビティ71cと連通している。
【0029】
スリーブ72の後部上面には、加圧室72pに溶湯Mを供給するための給湯口72kが設けられている。導入管74の一端が給湯口72kに接続され、導入管74の他端がポンプ60の吐出部7aに接続されている。スリーブ72には、ポンプ60から定量圧送された溶湯Mが加圧室72pに一時的に貯溜される。
【0030】
スリーブ72の軸方向後方には、プランジャ73が設けられている。プランジャ73は、後部側のロッド73bを介して不図示のアクチュエータに接続されている。プランジャ73は、アクチュエータの駆動により、スリーブ72内で軸方向に摺動され、ポンプ60から加圧室72pに定量供給された溶湯Mをキャビティ71cに射出可能になっている。
【0031】
次に、上記ポンプ60について詳しく説明する。
ポンプ60は、
図1に示すように、ポット80の上方に軸線を縦に配置される中空円筒状の連結フレーム21と、連結フレーム21の上面に軸線を縦に装着されるサーボ駆動の電動アクチュエータ22と、連結フレーム21の下部に中間フレーム2を介して装着されるシリンダ3とを備える。連結フレーム21の上下両端にはフランジ21u、21fがそれぞれ設けられ、電動アクチュエータ22は、自身のフランジ部22fが、連結フレーム21の上端のフランジ21uに装着されている。なお、アクチュエータは電動に限定されず、例えば油圧駆動のアクチュエータを用いても良い。但し、より高精度な制御をする上では、電動アクチュエータを用いることが好ましい。
【0032】
連結フレーム21は、不図示の支持筐体に、ポット80内に向けてシリンダ3が垂下されるようにポット80上方に支持されている。これにより、シリンダ3は、ポット80内の溶湯Mに浸漬する高さに、連結フレーム21から垂下された状態で保持される。シリンダ3よりも上部に位置するポンプ60の他の部材は、ポット80内の溶湯Mに浸漬しないように、溶湯Mの上面よりも高い位置に支持される。
【0033】
電動アクチュエータ22には、電動アクチュエータ22のサーボ駆動に必要な電力および信号を授受可能な配線を介して制御部90が接続されている。制御部90は、マイクロコンピュータおよび電動アクチュエータ22のドライバを含んで構成される。制御部90は、注湯量制御処理を実行し、鋳造装置本体70のプランジャ73による溶融金属Mの供給量に基づいて、鋳造装置本体70側の充填量と同量となるように、ポンプ60による溶融金属Mの供給量を制御する。
【0034】
シリンダ3は、ポット80内の溶湯Mに浸漬するように、連結フレーム21の下面に装着される延長支持用の中間フレーム2の下部に装着される。シリンダ3は、窒化珪素で形成された中空円筒状部材である。中間フレーム2は、後述する耐溶損性鋳物で形成された中空円筒状部材である。
【0035】
図2に示すように、中間フレーム2は、自身の上端部に、平面視が矩形状のフランジ2fが形成されている。矩形状のフランジ2fは、周方向に45°だけ斜めに装着され、複数(この例では3本)のボルト2vにより、連結フレーム21下端のフランジ21fに軸線を縦に固定されている。
【0036】
連結フレーム21内には、長尺な連結ロッド10が軸線を縦に設けられている。連結ロッド10は、合金工具鋼鋼材(SKD61)で形成されている。連結ロッド10の基端部は、電動アクチュエータ22の駆動部(不図示)に接続されている。また、連結ロッド10の先端部は、ピストン1の基端部に接続され、電動アクチュエータ22の駆動力をピストン1に伝達可能になっている。連結ロッド10の下端部には、ピストン装着用の凹のテーパ穴10bが下方に向けて拡径するように設けられている。
【0037】
ピストン1は、先端側に設けられた円筒状のピストンヘッド1aと、直線状のロッド部1bと、基端側に設けられた凸のテーパ部1cとをこの順に有する。ピストン1は、窒化珪素により形成されている。ピストン1は、中間フレーム2およびシリンダ3内で上下に進退可能に内挿される。ピストンヘッド1aの外周面は、シリンダ3の内周面3nに摺接している。
【0038】
ピストン1上端のテーパ部1cは、下方に向けて拡径するように、連結ロッド10のテーパ穴10bと同軸に設けられている。テーパ部1cは、連結ロッド10のテーパ穴10bに挿入され、その状態で、ピストン1は、連結ロッド10の下部に、進退方向の力を伝達可能に配置されたSKD61製の固定ピン25によって相互に結合されている(以下、「第一のテーパ連結構造」ともいう)。
【0039】
中間フレーム2は、上部にフランジ2fが設けられた窒化珪素製の中空円筒状部材である。中間フレーム2の側壁面には連通穴2hが形成されている。中間フレーム2の下端部の内周面には凹のテーパ面2tが形成されている。凹のテーパ面2tは、シリンダ3上部のテーパ面3tと嵌合可能に下方に向けて拡径している。
【0040】
シリンダ3は、中間フレーム2よりも僅かに大径の略中空円筒状の窒化珪素製部材である。シリンダ3の上端部の外周面には、中間フレーム2の上部と嵌合される凸のテーパ面3tが下方に向けて拡径するように形成されている。中間フレーム2下部のテーパ面7tとシリンダ3上部のテーパ面3tとが相互に嵌め合わされている(以下、「第二のテーパ連結構造」ともいう)。
【0041】
図2に示すように、中間フレーム2とシリンダ3の周囲には、中実円筒状をなす耐溶損性鋳物で形成された長尺な複数の挟持用ロッド11が、軸線を縦に周方向に離隔して配置されている。各挟持用ロッド11は、下端側にロッド部よりも径大な頭部を有するとともにロッド部の上端面に雌ねじが形成されている。各挟持用ロッド11は、下部の頭部が、シリンダ3および下部管路ピース4を下方から支持するように、下部固定ピース5の挿通孔にロッド部が下方から挿通される。
【0042】
各挟持用ロッド11は、ロッド部上端の雌ねじが、中間フレーム2のフランジ2fにロッド固定ボルト17により締結される。ロッド固定ボルト17とフランジ2fとの間には、円環状の皿ばね座金18が耐熱性スプリングワッシャーとして介装されている。皿ばね座金18は、ニッケルベースの超耐熱合金(例えばインコネル(登録商標))製であり、この例では、複数枚が積層された状態で介装されている。なお、ロッド固定ボルト17の座面に介装される部品としては、スプリングワッシャーに限定されず、これに替えて、例えば耐熱性スプリングを介装してもよい。
【0043】
シリンダ3の下側には、下部管路ピース4と下部固定ピース5とが設けられている。下部管路ピース4は窒化珪素から形成されている。下部固定ピース5は耐溶損性鋳物から形成されている。下部管路ピース4は、その上面がシリンダ3の下面に当接するように配置されている。下部管路ピース4の下面は、下部固定ピース5に覆われており、下部固定ピース5の上面が下部管路ピース4の下面に当接するように配置されている。
【0044】
下部管路ピース4は、水平方向に張り出す張り出し部4hを有し、張り出し部4hの上面4uに、シリンダ3に並設して窒化珪素製の連結管9が軸線を縦に配置される。連結管9とエルボ管7との接続部および連結管7と張り出し部4hとの接続部は、当接面の一方が凹のテーパ面を有するとともに他方が凸のテーパ面を有し、これらテーパ面相互が同軸に嵌合可能に構成されている。連結管9の上端には、吐出部7aを有する窒化珪素製のエルボ管7が装着される。エルボ管7の上部には、耐溶損性鋳物製の上部固定ピース8が装着される。連結管9の両側には、耐溶損性鋳物で形成された中実円筒状をなす2本の挟持用ロッド12が、軸線を縦に配置される。
【0045】
各挟持用ロッド12は、下端側に径大な頭部を有するとともに上端面に雌ねじが形成されている。各挟持用ロッド12は、ロッド下部の頭部が、下部固定ピース5の張り出し部5hに位置する挿通孔に下方から挿通される。
各挟持用ロッド12は、ロッド部上端の雌ねじが、上部固定ピース8の上部からロッド固定ボルト16により締結される。ロッド固定ボルト16と上部固定ピース8との間には、円環状の皿ばね座金19が介装されている。
皿ばね座金19は、ニッケルベースの超耐熱合金(例えばインコネル(登録商標))製であり、この例では、複数枚が積層された状態で介装されている。そして、エルボ管7、連結管9および下部管路ピース4相互は、左右二本のロッド固定ボルト16と挟持用ロッド12とにより、上部固定ピース8と下部固定ピース5とが軸方向に挟圧されることによって一体に固定される。
【0046】
さらに、シリンダ3の下部には、溶湯を給排するための弁機構が形成されている。以下、この弁機構について詳しく説明する。
図3に拡大図示するように、シリンダ3の下部には、ピストン1の下部に対向する位置に併設されて吸入口40aを開閉する吸入用チェック弁40および吐出口50aを開閉する吐出用チェック弁50とが設けられている。
【0047】
吸入用チェック弁40は、円筒状の弁座41と、円筒状のスリーブ42と、スプール43とを有する。吐出用チェック弁50は、円筒状の弁座51と、円筒状のスリーブ52と、スプール53とを有する。2つの弁座41、51、2つのスプール43、53および2つのスリーブ42、52は、吸入用および吐出用ともに同一形状であり、いずれも窒化珪素により形成されている。
【0048】
詳しくは、
図3に示すように、シリンダ3内には、ピストン1が上下に摺動される有底穴からなる大径のピストン室3nと、ピストン室3nの底面に連通する小径の二つの溶湯流路40c、50cと、一方の溶湯流路40cに接続されるようにシリンダ3の下面側から形成された中径の吸入側弁室40bと、他方の溶湯流路50cに接続されるようにシリンダ3の下面側から形成された中径の吐出側弁室50bとを有する。
【0049】
シリンダ3の下面に対向配置された下部管路ピース4の吸入路4aは、吸入口40aに連通しており、吐出路4bは、吐出口50aに連通している。なお、下部固定ピース5には、下部管路ピース4の吸入路4aに対向する位置に、大径の吸い込み口5aが設けられ、ポット80内の溶湯Mに浸漬された状態で、吸い込み口5aおよび吸入路4aの内部に溶湯Mが常に満たされる。
【0050】
各チェック弁40、50のスプール43、53は、シリンダ3の下部の各弁室40b、50b内には、円筒状をなすスリーブ42、52を介してそれぞれ配置される。2つのスプール43、53は、同一形状を有するので、スプール43を例に
図4を参照して説明する(なお、スプール53の対応する符号を括弧書きにて付記する)。
【0051】
スプール43は、
図4に斜視断面図を示すように、円筒状の摺動部43sと、摺動部43sの一端に段部43dが設けられてなる円筒状の小径部43uと、小径部43uの先端に設けられて上面43jは平面とされるとともに周面が凸のテーパ状をなす尖頭部43tとを同軸に有する。尖頭部43tのテーパ面が弁座41の座面41tとの摺接面になっている。
【0052】
摺動部43sの基端側の端面43fには、端面43fから小径部43uの途中部分まで形成された円筒状の有底竪穴43hが摺動部43sと同軸に形成されている。また、小径部43uには、有底竪穴43hに連通するとともに、小径部43uの径方向に沿って貫通する貫通横穴43yが形成されている。この構成において、尖頭部43tの上面43jが弁座側受圧面になっており、摺動部43sの円環状の端面43fおよび有底竪穴43hの底面43nが弁座側とは反対側の反対側受圧面になっている。
【0053】
そして、
図3に示すように、吸入側弁室40bには、吸入用チェック弁40のスリーブ42、スプール43および弁座41が吸入側開口からこの順に装着され、これにより、スリーブ42は、吸入側弁室40bの底面に当接しており、弁座41は、下部管路ピース4の上面と対向する位置に装着されている。弁座41は、内周部が吸入口40aとされ、吸入側とは反対側を向く面に凹のテーパ状の座面41tが形成されている。そして、スプール43は、尖頭部が弁座41の座面41tに対向するように、スリーブ42内に収嵌されている。
【0054】
また、吐出側弁室50bには、吐出用チェック弁50の弁座51、スリーブ52およびスプール53が吐出側開口からこの順に装着され、これにより、スリーブ52は、下部管路ピース4の上面と対向する位置に装着され、弁座51は、吐出側弁室50bの底面に当接している。弁座51は、内周部が吐出口50aとされ、吐出側を向く面に凹のテーパ状の座面51tが形成されている。そして、スプール53は、尖頭部が弁座51の座面51tに対向するように、スリーブ52内に収嵌されている。
【0055】
次に、上記弁機構の動作および作用機序について説明する。
電動アクチュエータ22の駆動によってピストン1が上方への移動を開始すると、
図5(a)に示すように、シリンダ3内の圧力が低下するため、吐出口50aおよび吸入口40aが相対的に高圧となる。これにより、吸入口40a側のスプール43は、上下の受圧面に受ける高圧側の溶湯Mと低圧側の溶湯Mとの圧力差によって、同図に示す下方の閉じ位置から上方に押し上げられる。一方、吐出口50a側のスプール53は、ピストン1の吸引動作による溶湯Mの流れによって受圧面が受ける押圧力により、同図に示す下方の開き位置から上方に押し上げられる。
【0056】
更にピストン1が上方に移動すると、シリンダ3内の圧力は引き続き低下となるが、この過程では、
図5(b)に示すように、吸入口40a側のスプール43および吐出口50a側のスプール53ともに、ピストン1の吸引動作による溶湯Mの流れによって受圧面が溶湯Mの流れ方向に向かう押圧力を受け、この押圧力によって両スプール43,53共に上方に押し上げられていく。
【0057】
更にピストン1が上方に移動するとき、吸入口40a側のスプール43は、
図5(c)に示すように、吸入側弁室40bの上端面に当接した開き位置となり、ピストン1の吸引動作による溶湯Mの流れによって受圧面が受ける押圧力によって開き位置が保持される。一方、吐出口50a側のスプール53は、吐出側弁室50bの上端部に設けられた弁座51の座面51tに当接した閉止位置となる。このとき、吐出口50a側のスプール53は、吐出口50aを閉止するとともに、スプール53上下の受圧面に受ける高圧側の溶湯Mと低圧側の溶湯Mとの圧力差によって閉止位置が保持される。
【0058】
このように、ピストン1が上方に移動するときは、吐出用チェック弁50のスプール53が上方に移動して弁座51に当接することにより、吐出口50aが閉止される。さらに、吸入用チェック弁40のスプール43が上方に移動して弁座41から離隔することにより、吸入口40aが開口する。これにより、
図6(a)に示すように、ポット80内からピストン1の移動量に応じた溶湯Mが吸入口40aからシリンダ3内に導入される。
【0059】
これに対し、ピストン1が下方に移動するときは、上方への移動と同様の作用機序のもと、高圧側と低圧側とが逆になるため、逆方向へのスプール43、53の動作により、吸入用チェック弁40のスプール43が下方に移動して弁座41に当接することにより、吸入口40aが閉止される。さらに、吐出用チェック弁50のスプール53が下方に移動して弁座51から離隔することにより、吐出口50aが開口する。これにより、
図6(b)に示すように、シリンダ3内の溶湯Mが吐出口50aから吐出されるようになっている。
【0060】
ここで、上述した、本実施形態の各部品に採用する耐溶損性鋳物は、母材金属層と、この母材金属層表面に被覆層として形成された酸化物層とを備える。母材金属層は、表層部側に結晶構造がフェライト構造であるフェライト領域を備え、フェライト領域の下(内部側)に結晶構造がパーライト構造であるパーライト領域を備える。特に、この耐溶損性鋳物は、酸化物層が、互いに組成の異なる複数の領域を含み、最も母材金属層側の領域よりも、最も表面側の領域において、複炭化物が少ないものである。この耐溶損性鋳物は、従来の鋳物に比べて耐溶損性に極めて優れる。そのため、アルミニウムやマグネシウムの金属溶湯に接触する金属溶湯接触部材として好適に用いることができる。
【0061】
詳しくは、母材金属層は、炭素元素と2種以上の母材金属元素とを含む。本実施形態の母材金属層は、熱間金型の素材として一般的な合金工具鋼のSKD61をベースとして、タングステンとコバルトを添加した合金から構成される。具体的には、本実施形態では、母材金属層の組成(重量%)は、C 0.40〜0.70%、Si 0.35〜0.50%、Mn 0.50〜0.70%、P <0.03%、S <0.02%、Cr 4.50〜6.00%、Mo 0.50〜0.75%、Co 0.70〜0.90%、V 0.15〜0.30%、W 0.50〜0.70%、Nb <0.10%、Al <0.10%、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる。
【0062】
酸化物層は、母材金属元素の熱酸化物からなり、母材金属層側の酸化物層内には、母材金属層中の炭素元素と2種以上の母材金属元素との反応生成物である複炭化物が含まれる。そして、この耐溶損性鋳物は、酸化物層の一部が、母材金属層の結晶粒界に繊毛状に伸長して繊毛状酸化物になっている。繊毛状酸化物がフェライト結晶粒界に伸びているので、アンカー効果を発揮し、耐溶損性に優れる酸化物層は母材金属層と強固に結合しており剥離が抑制される。したがって、耐溶損性が飛躍的に向上するとともに、かかる特性の劣化が抑制される。
【0063】
本実施形態における耐溶損性鋳物は、以下のようにして製造できる。
まず、上記の組成を有する母材金属を所定の形状に鋳造して金属部材を得た後、酸化物層を形成する。酸化物層を形成する工程は、母材金属で構成された金属部材を通常雰囲気の炉内で所定の温度に昇温・保持し、降温速度を制御しながら炉内で徐冷する。
【0064】
例えば、金属部材を2時間かけて780〜980℃まで昇温し、そのままの温度で所定の時間保持する。昇温後に保持する温度範囲は、780〜980℃であるが、より好ましくは900±30℃にすると良い。保持時間は母材金属で構成された金属部材の厚みに応じて調節する。例えば、部材の厚みが25mmに対して保持時間を1時間と規定することができる。この昇温・保持工程により、母材金属層の表層部に酸化物層が生成・成長するとともに脱炭層(フェライトトリム)が形成され、遊離した炭素元素が母材金属層の構成元素と反応して複炭化物を形成すると考えられる。
【0065】
次いで、母材金属を所定の降温速度で降温するが、降温速度は毎時30±10℃の範囲を維持する。この降温工程により、母材金属層の表層側はパーライトからフェライトへと結晶構造が変化する。そして、前工程から引き続き成長を続ける酸化物がフェライト結晶粒界に繊毛状に伸長する。このような工程を経て、母材金属層の表面に耐溶損性に優れた酸化物層が形成される。
【0066】
なお、本実施形態で採用する耐溶損性鋳物について、母材金属層を加熱することにより生成する「熱酸化物」の特徴を、具体的な構造上の特性として記載することは極めて困難である。「熱酸化物」は、例えばCVD法等の膜材料を堆積する方法により得られる酸化物とは、そのモルホロジーの特徴が異なるものの、その特徴を要件として特定するのは困難である。
つまり、このような特徴を解析するのは、実際には膨大なコストや時間を要する。例えば、測定方法としては光学顕微鏡が考えられるものの、実際には、本実施形態による酸化物とCVD法による酸化物とをそれぞれ製造し、モルホロジーの特徴を測定した上で、相互を区別する有意な指標としてその特徴を見出さねばならず、この作業は実際的ではない。
【0067】
しかし、本実施形態で採用する耐溶損性鋳物は、直接酸化により得られる酸化物の特徴として、「熱酸化物」であるという構成に加え、「酸化物層の一部が、母材金属層の結晶粒界に繊毛状に伸長しており」、および「母材金属層側の酸化物層内には、母材金属層中の炭素元素と2種以上の母材金属元素との反応生成物である複炭化物が含まれる」との構成により明確に区別できる。また、当該用語が、母材金属層を反応ガスを供給することなく加熱して、母材金属層を直接酸化することにより得られる酸化物を表し、CVD法等により得られる酸化物を含まないことは明らかである。よって、本実施形態で採用する耐溶損性鋳物は、その構成が明確に特定される。
【0068】
次に、上記ポンプ60を有するダイカスト鋳造装置の動作およびその作用・効果について説明する。
このダイカスト鋳造装置は、固定型71aと可動型71bとが圧接されてキャビティ71cおよび湯道71mが形成され、給湯口72kよりもプランジャ73が後退側に位置したときに、ポンプ60が注湯装置として駆動される。次いで、プランジャ73の駆動により、加圧室72pに定量供給された溶湯Mが、湯道71mを介してキャビティ71cに充填される。キャビティ71cに充填された溶湯Mは、キャビティ71cにて凝固されて成型品を成型することができる。
【0069】
ここで、本実施形態のポンプ60は、中間フレーム2およびシリンダ3の軸線が縦置されるシリンダ構造により、吸入口40aがポット80内の溶湯Mに浸漬するように縦置可能である。そして、サーボ駆動の電動アクチュエータ22によってピストン1を軸方向に進退させると、
図5および
図6に示したように、ピストン1の動きに伴って、ピストン1の下部に併設された吸入・吐出用チェック弁40、50がピストン1の上下動に連動して、下部の吸入口40aから吸い込まれた溶湯Mを吐出口50aに定量移送できる。
そして、本実施形態のポンプ60は、注湯管路として、シリンダ3の吐出口50aが上述したグースネック構造を介してダイカスト鋳造装置の導入管74に接続されているので、溶湯供給の定量性を確保しつつ、溶湯Mをダイカスト鋳造装置に閉回路で圧送することができる。
【0070】
換言すれば、このダイカスト鋳造装置は、鋳造装置本体70のスリーブ72とポンプ60の吐出部7aとを相互に繋ぐ導入管74を備えるので、これにより、空気との接触のない閉回路を構築しつつ、導入管74を介してスリーブ72の給湯口72kから加圧室72pに溶湯Mを定量供給できる。
【0071】
このように、本実施形態のダイカスト鋳造装置によれば、鋳造装置本体70のスリーブ72に対し、溶融金属移送ポンプ60を注湯装置とする閉回路が構築されているので、ラドルによる溶湯の供給方法で生じるような、炉に蓋ができずに、熱が逃げて作業環境が高温になってしまうという問題や、異物や気泡の混入が発生してしまうといった問題を回避できる。
【0072】
さらに、本実施形態のダイカスト鋳造装置によれば、ラドルによる溶融金属の供給方法や溶融金属用電磁ポンプによる溶融金属の供給方法で発生していたような、溶融金属が空気と接触することで酸化物が生成されてしまったり、酸化物の混入により鋳造品に硬質部分が内在したり、切削加工時の工具破損を引き起こしたりするといった問題も回避できる。
【0073】
特に、本実施形態の溶融金属移送ポンプ60では、二つのチェック弁40、50が、シリンダ3と一体で、ピストンヘッド1aよりも下部の位置に、同じ高さで互いに併設されているので、溶湯を給排するための弁機構をポンプ60のポンプ本体部30(
図2参照)にコンパクトに構成できる。よって、この溶融金属移送ポンプ60によれば、生産性・メンテナンス性に優れ、セラミックスの内面研削加工が容易となり、安価に製造できるとともに動作の信頼性が向上する。
【0074】
さらに、本実施形態の溶融金属移送ポンプ60では、吐出用チェック弁50のスプール53は、ピストン1が上方に移動するときは上方に移動して吐出口50aを閉止し、ピストン1が下方に移動するときは下方に移動してシリンダ3内の溶湯Mを吐出口50aから吐出するので、作動方向がピストン1の作動方向と同じになっている。これにより、この溶融金属移送ポンプ60によれば、稼働時には、シリンダ3内の溶湯Mを吐出口50aから直接吐出できるため、湯温を所期の温度に管理する上で好適である。また、非稼働時には、吐出側がノーマルオープンとなることから、圧力管理を行う上で管路内圧を安全側にて管理できる。
【0075】
また、本実施形態の溶融金属移送ポンプ60は、ピストン1を進退駆動する電動アクチュエータ22と、電動アクチュエータ22を制御する制御部90とを備え、制御部90は、鋳造装置本体70のプランジャ73による溶融金属Mの供給量に基づいて、ポンプ60による溶湯Mの供給量を制御するので、鋳造装置本体70側でのプランジャ73の溶湯Mの供給量に対して、ポンプ60からの溶融金属Mの供給量を高精度で追従させることができる。
【0076】
特に、サーボ駆動の電動アクチュエータ22でピストン1の作動を制御することで、ダイカスト鋳造装置のスリーブ72に溶湯Mを正確に定量供給し、ラドルによる溶湯の供給方法で生じる、「炉に蓋ができず、熱が逃げて作業環境が高温になってしまう」という問題や、「異物や気泡の混入が発生してしまう」といった問題を回避する上で優れている。
【0077】
さらに、ラドルによる溶湯の供給方法や溶融金属用電磁ポンプによる溶融金属の供給方法で発生していた、「溶融金属が空気と接触することで酸化物が生成されてしまい、酸化物の混入により鋳造品に硬質部分が内在し、切削加工時の工具破損を引き起こす」といった問題を回避する上で優れている。
【0078】
また、この溶融金属移送ポンプ60は、上部に設けられた電動アクチュエータ22からポット80側に延長した位置でポンプ60を支持する延長支持構造を備えるので、ポット側に延長した位置でポンプ60を支持できる。
特に、この延長支持構造は、自身上部に電動アクチュエータ22が装着される中空円筒状の連結フレーム21と、連結フレーム21の下部に装着される中空円筒状の中間フレーム2と、連結フレーム21内に挿通されて電動アクチュエータ22の駆動部と中間フレーム2内に位置するピストン1のロッド部1bの基端部とを相互に繋ぐ連結ロッド10と、シリンダ3の下面に対向配置されるとともに、吸入口40aに連通する吸入路4aと吐出口50aに連通する吐出路4bとが内部に形成された下部管路ピース4と、中間フレーム2に対してシリンダ3および下部管路ピース4相互を軸方向にこの順に挟圧して中間フレーム2の下部の位置で支持する挟圧支持構造とを有するので、ポット80側に延長した位置でポンプ60を支持する延長支持構造として好適である。
【0079】
また、その挟圧支持構造は、複数のロッド固定ボルト17と、中間フレーム2の上部に設けられて複数のロッド固定ボルト17の装着穴が形成されたフランジ2fと、自身ロッド部の一端面にロッド固定ボルト17を締結可能な雌ねじが形成され且つ他端に頭部が形成された複数の挟持用ロッド11と、下部管路ピース4の下面に対向配置されて挟持用ロッド11のロッド部を挿通可能な複数の挿通穴が、フランジ2fの複数の装着穴とそれぞれ同軸に形成された下部固定ピース5とを有し、下部固定ピース5の挿通穴に下方から挟持用ロッド11のロッド部が挿通され、フランジ2fの装着穴に上方からロッド固定ボルト17が挿通されるとともに挟持用ロッド11の雌ねじに締結される。
【0080】
この挟圧支持構造により、中間フレーム2に対してシリンダ3および下部管路ピース4相互が軸方向に圧縮荷重が掛かるように挟圧されるので、中間フレーム2に対してシリンダ3および下部管路ピース4相互を軸方向に圧縮荷重が掛かるように挟圧できる。そのため、高温の溶融金属Mに接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプに必要な機械的性能を維持する支持構造として好適である。また、本実施形態の挟圧支持構造は、複数のロッド固定ボルト17の座面に介装される耐熱性の皿ばね座金18を有するので、溶融金属移送ポンプに必要な機械的性能を維持する支持構造としてより好適である。
【0081】
さらに、本実施形態の延長支持構造は、合金工具鋼鋼材(SKD61)製の連結フレーム21と、耐溶損性鋳物製の中間フレーム2と、合金工具鋼鋼材(SKD61)製の連結ロッド10と、耐溶損性鋳物製の複数の挟持用ロッド11とを有して構成されているので、これら合金工具鋼鋼材(SKD61)と耐溶損性鋳物とで構成される延長支持構造により、摺動を伴わない部品については、比較的に安価な合金工具鋼鋼材(SKD61)および耐溶損性鋳物を用いたので、延長支持構造を比較的に安価に構成することができる。
【0082】
また、ピストン1は、連結ロッド10を介して電動アクチュエータ22に連結され、ピストン1のテーパ部1cと連結ロッド10の先端部10sは、上記第一のテーパ連結構造によって連結されているので、例えば700℃以上の溶融金属に、ピストン1の接液部がさらされても、ピストン1と連結ロッド10双方の熱膨張差による芯ずれを、ピストン1および連結ロッド10相互のテーパ形状によって吸収できる。よって、注湯装置として用いるポンプ60の駆動軸の連結構造として優れている。
【0083】
つまり、本実施形態では、ピストン1のテーパ部1cと連結ロッド10との接続部は、ピストン1のテーパ部1cに凸のテーパ面1tを有するとともに連結ロッド10が凹のテーパ面10tを有し、これらテーパ面1t、10t相互が同軸に嵌合可能に構成され、さらに、ピストン1のテーパ部1cと連結ロッド10とが固定ピン25にて接続されているので、相互の嵌め合い部に熱膨張差により隙間ができた場合でも、テーパ面1t、10t相互が同軸に嵌合し、相互の部材の軸線の自動調心が可能となる。
【0084】
同様に、この溶融金属移送ポンプ60は、中間フレーム2とシリンダ3との接続部が、中間フレーム2が凹のテーパ面2tを有するとともに、シリンダ3が凸のテーパ面3tを有し、これらテーパ面2t、3t相互が同軸に嵌合された、上記第二のテーパ連結構造を有するので、相互の嵌め合い部に熱膨張差により隙間ができた場合でも、テーパ面2t、3t相互が同軸に嵌合し、相互の部材の軸線の自動調心が可能となる。よって、注湯装置として用いるポンプ60の延長支持構造として優れている。
【0085】
また、この溶融金属移送ポンプ60は、溶湯に浸漬する接液部のうち、摺動を伴う接液部品である、ピストン1、シリンダ3、並びに、吸入用チェック弁40のスプール43および吐出用チェック弁50のスプール53が、いずれも窒化珪素により形成されているので、接液部品の中でも、溶融金属に対する極めて高い耐溶損性と耐摩耗性が求められる摺動部が窒化珪素で構成されている。そのため、例えば700℃を超える高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプの摺動部に必要な機械的性能を維持する上で好適である。
【0086】
また、この溶融金属移送ポンプ60は、ダイカスト鋳造装置の導入管74に接続されるグースネック構造を備えているので、シリンダ3の吐出口50aからダイカスト鋳造装置のスリーブ72に注湯管路を接続する上で好適である。
特に、本実施形態のグースネック構造は、複数のロッド固定ボルト16と、自身ロッド部の一端面にロッド固定ボルト16を締結可能な雌ねじが形成され且つ他端に頭部が形成された複数の挟持用ロッド12と、導入管74に接続される吐出部7aを有するエルボ管7と、エルボ管7を上部から覆うように装着されて複数のロッド固定ボルト16の装着穴が形成された上部固定ピース8と、下部管路ピース4自体が吐出路4bを側方に導くように側方に張り出されて形成されるとともにその張り出された部分の上面4uに側方に導かれた吐出路4bに連通する開口部が設けられた張り出し部4hと、自身上端がエルボ管7に下方から連通するとともに自身下端が張り出し部4h上面4uの開口部に連通するようにシリンダ3に並設される連結管9と、下部固定ピース5自体が下部管路ピース4の張り出し部4hを下方から覆うように側方に張り出されるとともに挟持用ロッド12のロッド部を挿通可能な複数の挿通穴が上部固定ピース8の複数の装着穴とそれぞれ同軸に形成された下部固定部5hとを有し、下部固定部5hの挿通穴に下方から挟持用ロッド12のロッド部が挿通され、上部固定ピース8の装着穴に上方からロッド固定ボルト16が挿通されるとともに挟持用ロッド12の雌ねじに締結されることにより、張り出し部4hに対して連結管9およびエルボ管7相互が軸方向に圧縮荷重が掛かるように挟圧されるので、グースネック構造が高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプ60の注湯管路に必要な機械的性能を維持する構造として優れている。
【0087】
また、この溶融金属移送ポンプ60は、連結管9とエルボ管7との接続部および連結管7と張り出し部4hとの接続部が、当接面の一方が凹のテーパ面を有するとともに他方が凸のテーパ面を有し、これらテーパ面相互が同軸に嵌合可能に構成された第三のテーパ連結構造を有するので、グースネック構造の接液部品の嵌め合い部に熱膨張差により隙間ができた場合でも、テーパ面相互が同軸に嵌合し、相互の部材の軸線の自動調心が可能となるため、溶融金属移送ポンプとして好適である。
【0088】
さらに、この溶融金属移送ポンプ60は、接液部のうち、摺動部分または溶湯Mの流速が早い部分を有する、下部管路ピース4、エルボ管7および連結管9、並びに、弁座41、15およびスリーブ42、52は、窒化珪素で構成したので、溶融金属に対する耐溶損性が極めて高く、また、耐熱衝撃性および耐摩耗性に優れる。そして、接液部のうち、非摺動部分または流れのほとんどない部分や流速の遅い部分である、下部固定ピース5、上部固定ピース8および挟持用ロッド11、12は、耐溶損性鋳物で構成したので、耐久性、定量性およびメンテナンス性に優れる。そのため、例えば700℃を超える高温の溶融金属に接液部がさらされても、溶融金属移送ポンプに必要な機械的性能を維持しつつ、全ての接液部品を窒化珪素で構成した場合よりも安価に溶融金属移送ポンプを提供する上でより一層好適である。
【0089】
以上説明したように、本実施形態の溶融金属移送ポンプ60、およびこれを備えるダイカスト鋳造装置によれば、溶湯供給の定量性を確保しつつ、溶融金属を閉回路で圧送することができる。なお、本発明に係る溶融金属移送ポンプおよびこれを備えるダイカスト鋳造装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。