(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエミッタは、例えば、前記貫通孔の上面側開口の形状が、以下の条件(1)を満たす。
条件(1):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、軸中心を通る一方向の長さ(L
1)が、前記軸中心を通る前記一方向に対して直交方向の長さ(L
2)よりも長い
【0014】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の上面側開口の形状が、前記条件(1)を満たさない。
【0015】
本発明のエミッタは、例えば、前記条件(1)において、前記直交方向の長さ(L
2)を1とした場合、前記一方向の長さ(L
1)の相対値は、1を超え3以下であり、好ましくは、例えば、前記一方向の長さ(L
1)と前記直交方向の長さ(L
2)との比(L
1:L
2)が、1.1〜3:1である。
【0016】
本発明のエミッタは、例えば、前記貫通孔の上面側開口の形状が、楕円である。
【0017】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の上面側開口の形状が、以下の条件(2)を満たす。
条件(2):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、軸中心を通る一方向の長さ(L
1)が、前記軸中心を通る前記一方向に対して直交方向の長さ(L
2)よりも長い
【0018】
本発明のエミッタは、例えば、前記貫通孔の上面側開口の形状が、前記条件(2)を満たさない。
【0019】
本発明のエミッタは、例えば、前記条件(2)において、前記直交方向の長さ(L
2)を1とした場合、前記一方向の長さ(L
1)の相対値は、1を超え3以下であり、好ましくは、例えば、前記一方向の長さ(L
1)と前記直交方向の長さ(L
2)との比(L
1:L
2)が、1.1〜3:1である。
【0020】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の上面側開口の形状が、楕円である。
【0021】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の上面側開口と前記貫通孔の上面側開口とが、以下の条件(3)を満たす。
条件(3):前記凹部の軸方向において、前記凹部の上面側開口の中心と、前記貫通孔の上面側開口の中心とが、ずれている
【0022】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の上面側開口と前記貫通孔の上面側開口とが、以下の条件(4)を満たす。
条件(4):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、前記凹部の上面側開口と、前記貫通孔の上面側開口とが、非平行に配置されている
【0023】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の上面側開口が、傾斜している。
【0024】
本発明のエミッタは、例えば、前記貫通孔の上面側開口が、傾斜している。
【0025】
本発明のエミッタは、例えば、前記凹部の底面において、前記貫通孔の上面開口の周囲が、上方向に突出した凸状であってもよい。以下、前記突出した凸状の領域を、前記貫通孔周囲の「筒状領域」ともいう。この場合、前記筒状領域において、例えば、突出した凸部の上面は、その一部に、前記スリットを有し、凸部の上面において、内側の縁部が、前記スリットを除き、前記フィルムに対する弁座部である。
【0026】
本発明のエミッタおよび点滴灌漑用チューブは、前述のように、前記フィルムのダイヤフラム部が、前記筒状領域における弁座部全域に、時間差をもって接触することを特徴とする。
【0027】
本発明のエミッタおよび点滴灌漑用チューブは、前記フィルムのダイヤフラム部が、前記筒状領域における弁座部全域に、時間差をもって接触することがポイントであり、その他の構成は、特に制限されない。また、本発明のエミッタおよび点滴灌漑用チューブは、前記フィルムのダイヤフラム部が、前記筒状領域における弁座部全域に、時間差をもって接触できればよく、前記時間差をもって接触するための形態も、特に制限されない。
【0028】
本発明のエミッタは、前述のように、前記時間差をもって接触する形態として、例えば、第1エミッタ、第2エミッタ、第3エミッタ、第4エミッタ、第5エミッタが例示できる。以下、本発明のエミッタについて、第1エミッタ、第2エミッタ、第3エミッタ、第4エミッタおよび第5エミッタについて、それぞれ説明する。なお、本発明の各エミッタは、例示であり、本発明のエミッタは、これらの形態に制限されない。また、本発明の各エミッタについての説明は、特に示さない限り、それぞれの形態に援用できる。
【0029】
(第1エミッタ)
本発明の第1エミッタは、前記貫通孔の上面側開口の形状が、以下の条件(1)を満たす。
条件(1):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、軸中心を通る一方向の長さ(L
1)が、前記軸中心を通る前記一方向に対して直交方向の長さ(L
2)よりも長い
【0030】
本発明の第1エミッタは、前記条件(1)を満たせばよく、その他の構成および条件等は、何ら制限されない。
【0031】
本発明の第1エミッタおよびこれを備える第1の点滴灌漑用チューブの実施形態について、図を用いて説明する。本発明の第1エミッタおよび点滴灌漑用チューブは、下記の実施形態によって何ら限定および制限されない。各図において、同一箇所には同一符号を付している。各図においては、説明の便宜上、各部の構造は、適宜、簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、図の条件には制限されない。
【0032】
各図において、特に示さない限り、便宜上、「チューブの軸方向」とは、前記チューブの両端の開口を結ぶ方向を意味し、「チューブの上下方向」とは、前記軸方向に垂直であり、且つ、チューブを台上に置いた際の鉛直方向をいう。各図において、特に示さない限り、前記エミッタは、便宜上、チューブの下方向の内壁に配置される状態で示し、前記エミッタの上下方向とは、前記凹部の開口側(前記フィルムが配置される側)が上方向、前記凹部の底面側が下方向といい、前記エミッタの上方向は、エミッタの表面側、前記エミッタの下方向は、前記エミッタの裏面側ともいう。前記エミッタの高さは、前記上下方向の長さ、前記エミッタの長さは、長手方向(前記チューブの軸方向に沿う方向)の長さ、前記エミッタの幅は、前記上下方向および前記長手方向に対する垂直方向(短手方向または幅方向ともいう)の長さをいう。以下、他の実施形態においても同様である。
【0034】
図1は、第1の点滴灌漑用チューブにおける第1エミッタの配置状態を示す概略図であり、
図1(A)は、前記チューブの軸方向であり且つ上下方向における断面図であり、
図1(B)は、前記チューブの軸方向に対する垂直方向における断面図である。また、実施形態1のエミッタは、前記凹部の底面が、前記貫通孔の上面開口の周囲に、前記筒状領域を有する形態である。なお、本発明は、これには制限されず、前記凹部の底面は、前記筒状領域を有さなくてもよい。
【0035】
以下、第1の点滴灌漑用チューブおよび第1エミッタの構成について説明し、つぎに、それらの機能および効果について説明する。
【0036】
点滴灌漑用チューブ100について、説明する。
図1に示すように、点滴灌漑用チューブ100は、チューブ110および複数のエミッタ120を有し、チューブ110の内部であって、その内壁に、エミッタ120が配置されている。
【0037】
チューブ110は、その内部に灌漑用液体を流すための中空管である。チューブ110の材料は、特に限定されず、例えば、ポリエチレンである。チューブ110の管壁は、チューブ110の軸方向において、所定の間隔(例えば、200〜500mm)で、複数の貫通孔112を有する。貫通孔112は、チューブ110内部の前記液体をチューブ110外に吐出する吐出口112である。吐出口112の孔の形状および大きさは、前記液体を吐出できればよく、特に限定されない。吐出口112の孔の形状は、例えば、円形であり、その直径は、例えば、1.5mmである。
【0038】
チューブ110の内壁において、各吐出口112に対応する位置に、複数のエミッタ120が配置される。チューブ110の軸方向に対する垂直方向における断面の形状および断面積は、特に制限されず、その内部にエミッタ120を配置できればよい。
【0039】
点滴灌漑用チューブ100の使用時において、エミッタ120は、例えば、チューブ110から脱離しないように配置されていればよい。エミッタ120は、例えば、チューブ110に接合されており、点滴灌漑用チューブ100は、例えば、エミッタ120の裏面138を、チューブ110の内壁に接合することで作製できる。チューブ110とエミッタ120との接合方法は、特に限定されず、例えば、エミッタ120またはチューブ110を構成する樹脂材料の溶着、接着剤による接着等があげられる。点滴灌漑用チューブ100において、吐出口112は、例えば、チューブ110にエミッタ120を配置した後に形成してもよいし、チューブ110にエミッタ120を配置する前に、チューブ110に形成してもよい。
【0040】
つぎに、エミッタ120について説明する。ここで、エミッタ120の表面側とは、チューブ110に配置した際、チューブ110の内部空間側の面側であり、エミッタ120の裏面側とは、チューブ110に配置した際、チューブの内壁側に対向する面側である。以下、他の実施形態においても、同様である。
【0041】
図2は、エミッタ120の概略を示す斜視図であり、
図2(A)は、エミッタ120を表面139側から見た斜視図であり、
図2(B)は、エミッタ120を裏面138側から見た斜視図である。便宜上、エミッタ120の長手方向において、フィルムが配置されていない側を上流、フィルム124が配置されている側を下流という。前記上流および下流は、エミッタ120内における液体の流れを示すものではなく、あくまでも説明における便宜上の定義である。
図2(A)と(B)において、エミッタ120の向きは、図中の矢印Aで示し、矢尻が上流、矢先が下流である(以下、同様)。
【0042】
図3は、エミッタ120の概略を示す平面図であり、
図3(A)は、エミッタ120の上面図(表面側の平面図)であり、
図3(B)および
図3(C)は、エミッタ120について、フィルム124が、ヒンジ部126を介して、フィルム124以外のエミッタ本体122に接続されており、フィルム124をエミッタ本体122上に配置する前の状態を示す概略図である。具体的に、
図3(B)は、表面側から見た平面図であり、
図3(C)は、裏面側から見た平面図である。
【0043】
図4は、エミッタ120の概略を示す断面図であり、
図4(A)は、
図3(A)におけるI−I方向の断面図であり、
図4(B)は、
図4(A)における点線で囲んだ領域の部分断面図、つまり、取込部131付近の部分断面図であり、
図4(C)は、
図3(A)におけるII−II方向の部分断面図(取込部131付近の部分断面図)である。
【0044】
図1に示すように、エミッタ120は、チューブの内部において、吐出口112を覆うように内壁に配置されている。エミッタ120の全体の形状は、例えば、チューブ110の内壁に密着して、吐出口112を覆うことができればよく、特に制限されない。本実施形態において、エミッタ120は、その平面形状が、例えば、四隅がR面取りされた略矩形である。エミッタ120は、チューブ110の軸方向に対する垂直方向における断面において、チューブ110の内壁に接合する裏面138が、凸部を有し、前記凸部は、チューブ110の内壁に沿うように、チューブ110の内壁に向かって略円弧形状である。エミッタ120の全体の大きさは、特に限定されず、例えば、長手方向の長さは25mm、短手方向の長さは8mm、上下方向の高さは2.5mmが例示できる。
【0045】
エミッタ120は、フィルム124がエミッタ本体122に配置されることで形成される。フィルム124とエミッタ本体122とは、
図3(A)および(B)に示すように、例えば、ヒンジ部126を介して接続されてもよく、エミッタ本体122とフィルム124とは、一体成型品でもよい。この場合、フィルム124を、ヒンジ部126を軸として、エミッタ本体122側に回転させ、エミッタ本体122上に配置し、固定すればよい。ヒンジ部126は、例えば、エミッタ本体122にフィルム124を固定した後で、切断して除去してもよい。フィルム124とヒンジ部126の厚みは、特に制限されず、例えば、同じ厚みである。フィルム124の厚みは、特に制限されず、例えば、0.3mmである。
【0046】
エミッタ本体122とフィルム124とは、例えば、別個に形成し、エミッタ本体122上にフィルム124を配置し、固定してもよい。エミッタ本体122とフィルム124との固定方法は、特に制限されず、例えば、エミッタ本体122またはフィルム124を構成する材料による溶着、接着剤による接着等があげられる。フィルム124において、エミッタ本体122に固定する箇所は、特に制限されず、例えば、フィルム124におけるダイヤフラム部よりも外側の領域である。
【0047】
エミッタ本体122は、例えば、可撓性を有することが好ましく、可撓性材料で形成されていることが好ましい。また、フィルム124は、後述するように、ダイヤフラム部を有することから、可撓性を有することが好ましく、可撓性材料で形成されていることが好ましい。エミッタ本体122とフィルム124とは、例えば、同一材料で形成されてもよいし、別個の材料で形成されてもよく、前述のように一体的に形成される場合、同一材料であることが好ましい。前記可撓性材料は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。前記可撓性材料は、例えば、樹脂およびゴム等があげられ、前記樹脂は、例えば、ポリエチレンおよびシリコーン等があげられる。エミッタ本体122またはフィルム124の可撓性は、例えば、弾性樹脂等の弾性を有する材料の使用によって調整できる。可撓性の調整方法は、特に制限されず、例えば、弾性樹脂の選択、硬質樹脂等の硬質材料に対する前記弾性材料の混合比の調整等があげられる。
【0048】
エミッタ120は、取込部131、調整部135、吐出部137、および、流路143を有している。エミッタ120において、例えば、上流側は、取込部131を有する領域であり、下流側は、調整部135および吐出部137を有する領域であり、前記両領域は、流路143で連通されている。
【0049】
取込部131は、チューブ110内の前記液体を内部に導入する部位であり、エミッタ120において表面139側に設けられている。エミッタ120の表面139側と裏面138側との境を、エミッタ120の土台部とした場合、
図2(A)、
図3(A)および(B)に示すように、エミッタ120の上流側において、エミッタ本体122の土台部は、その外縁に、上方向に突出した凸条の外壁部を有し、取込用凹部153を形成している。取込用凹部153の外壁部は、複数のスリット154を有する。また、エミッタ120の土台部は、取込用凹部153の内部領域に、長手方向に伸びる第1凸部157、および、短手方向の両端に伸びる複数の第2凸部156を有する。そして、エミッタ120の土台部、すなわち、取込用凹部153の底面は、短手方向の両端に伸びる複数の凸部156と直交する長手方向に、裏面138側に通じる1対の取込用貫通孔152を有する。エミッタ120において、取込用凹部153と、前記外壁部のスリット154、凸部群155(第1凸部157および第2凸部156)は、例えば、後述するように、液体を内部に流入させ且つ前記液体中の浮遊物の侵入を防止できることから、スクリーン部151ともいい、スクリーン部151と、一対の取込用貫通孔152とが、エミッタ120における取込部131となる。
【0050】
前記外壁部で囲まれる取込用凹部153の深さは、特に制限されず、例えば、エミッタ120の大きさによって適宜設定できる。
【0051】
前記外壁部におけるスリット154の形状は、特に制限されず、前述のように、浮遊物の侵入を防止できる形状であることが好ましい。
図2(A)および
図3(A)において、スリット154は、取込用凹部153の外壁部において、外側の側面から内側の側面に向かって、徐々に幅が大きくなるような形状である。スリット154は、例えば、このようなウェッジワイヤー構造が好ましい。スリット154が前記構造の場合、例えば、取込用凹部153において、内部に流入した液体の圧力損失を抑制することができる。
【0052】
凸部群155の位置および数は、特に制限されず、前述のように、前記液体を流入させ且つ前記液体中の浮遊物の侵入を防止する機能を発揮する形態であることが好ましい。第1凸部156は、例えば、エミッタ本体122の表面139から取込用凹部153の底面に向かって、徐々に幅が小さくなるような形状である。すなわち、複数の第1凸部156は、それら配列方向において、隣接する第1凸部156間の空間が、いわゆるウェッジワイヤー構造であることが好ましい。第1凸部156間の空間が前記構造の場合、例えば、取込用凹部153において、内部に流入した液体の圧力損失を抑制することができる。隣接する第1凸部156間の距離は、特に制限されず、例えば、前述の機能を発揮する条件であることが好ましい。
【0053】
第2凸部157は、例えば、第1凸部156と同様に、エミッタ本体122の表面139から取込用凹部153の底面に向かって、徐々に幅が小さくなるような形状でもよいし、エミッタ本体122の表面139から取込用凹部153の底面まで、同じ幅の形状でもよい。
【0054】
一対の取込用貫通孔152の形状および数は、特に制限されず、例えば、スクリーン部151を介して、取込用凹部153に取り込まれた液体を、エミッタ120の内部、すなわち、エミッタ120の裏面138側に取り込むことができる形態である。一対の取込用貫通孔152は、それぞれ、前述のように、エミッタ120の土台部(取込用凹部153の底面)において、第2凸部156と直交する長手方向に沿って設けられた長孔である。
図3(B)において、一対の取込用貫通孔152は、それぞれ、複数の貫通孔が長手方向に沿って存在するように見えるが、これは、長孔の貫通孔152の上側に、複数の第1凸部156が存在するためであり、
図2(B)に示すように、貫通孔152は、本実施形態において長孔である。
【0055】
流路134は、取込部131と調整部135とを連通する流路であり、エミッタ120の裏面138側に設けられている。
図2(B)、
図3(C)に示すように、エミッタ120の裏面138側において、エミッタ120の土台部は、外縁に、上方向に突出した凸条の外壁部を有し、外壁部で囲まれる凹部を有する。そして、エミッタ120の裏面138側において、前記凹部の外壁部の内側に沿って、略U字状の溝132、および、短手方向の中心を通り長手方向に沿って、ジグザグ形状の溝133を有する。略U字状の溝132は、取込部131における一対の取込用貫通孔152間を連通する溝であり、ジグザグ状の溝133は、略U字状の溝132の中央部と前記土台部における貫通孔161とを連通する溝である。エミッタ120において、溝132および溝133が、流路143となる。具体的には、エミッタ120をチューブ110に配置した際、溝132および溝133と、チューブ110の内壁との間の空間が、流路143となる。前記土台部における貫通孔161は、後述するように、調整部135への連通孔である。
【0056】
溝132は、例えば、取込部131との接続部であることから、接続溝132ともいい、接続溝132で構成される流路は、接続流路ともいう。また、溝133は、例えば、接続溝132と前記調整部とを接続し、内部に取り込んだ液体の圧力を、接続溝132から調整部135に移動させる間に、減圧することが可能であることから、減圧溝133ともいい、減圧溝133で構成される流路は、減圧流路ともいう。
【0057】
減圧溝133は、例えば、調整部135よりも上流側に配置されている。溝133の形状は、特に制限されず、例えば、平面視形状が、
図2(B)に示すようにジグザグ状でもよいし、直線状でもよいし、曲線状でもよい。溝133は、例えば、使用時において、エミッタ120の内部を通過する液体の圧力を減圧する機能を奏することから、例えば、ジグザグ状が好ましい。減圧溝133は、例えば、その内部の側面に、複数の凸部162を有しており、複数の凸部162は、液体が流れる方向に沿って、両方の側面から、中心側に向かって交互に突出している。凸部162の形状は、例えば、略三角柱形状である。凸部162は、例えば、平面視した際に、その先端が減圧溝133の中心軸を超えないように配置されている。
【0058】
調整部135は、エミッタ120の内部に取り込んだ液体の吐出量を調整する部であり、エミッタ120の表面139側であって、下流側に設けられている。
図2(B)、
図3(B)および(C)、
図4(A)に示すように、エミッタ120の土台部は、その中心付近に、流路143に連通する貫通孔161を有し、その下流側に、吐出部137に連通する貫通孔174を有する。前者の貫通孔161は、調整用凹部171内に液体を導入する孔、後者の貫通孔174は、調整用凹部171内から液体を導出する孔ともいえる。そして、エミッタ120の表面139側において、エミッタ120の土台部は、調整用凹部171を有し、調整用凹部171の内部空間を覆う状態で、フィルム124が固定されている。本実施形態では、前記土台部が調整用凹部171の底面であり、前記底面は、調整用貫通孔174と、導出用貫通孔161とを有し、さらに、調整用貫通孔174の上面側開口172bの周囲に、表面139側に突出する凸状の調整用筒状領域172を有する。さらに、エミッタ本体122の表面139側には、前述のように、フィルム124が、調整用凹部171の内部を覆うように配置されている。エミッタ120において、調整用凹部171と、調整用筒状領域172と、フィルム124(ダイヤフラム部175)と、調整用貫通孔174とが、調整部135となる。
【0059】
フィルム124は、調整用凹部171の内部空間を覆う状態で、固定されていればよく、その固定位置は、前述のように、特に制限されない。フィルム124において、調整用凹部171を覆う領域が、ダイヤフラム部175である。つまり、ダイヤフラム部175により、調整用凹部171における側壁上面の内側の縁部171aで囲まれる領域が、覆われる。エミッタ120は、フィルム124におけるダイヤフラム部175により、調整用凹部171の内部が、チューブ110の内部と仕切られている。
【0060】
調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状は、調整用筒状領域172の上面における内側の縁部により規定されている。調整用筒状領域172の上面における内側の縁部は、フィルム124に対する弁座部172aである。使用時において、チューブ110内に液体が存在しない状態では、調整用凹部171を覆うフィルム124は、調整用筒状領域172の弁座部172aに非接触である。同状態において、フィルム124は、例えば、調整用凹部171における上面側開口の縁部171aに接触した状態でもよいし、非接触の状態でもよい。そして、使用時において、チューブ110内に前記液体が存在すると、チューブ110内の前記液体の圧力に応じて、フィルム124は、調整用筒状領域172の弁座部172aに接触(密着)するように変形する。具体的には、前記液体の圧力が高くなるにつれて、フィルム124は、下方向にたわむように変形する。この際、フィルム124は、例えば、調整用凹部171における上面側開口の縁部171aに接触した後、調整用筒状領域172の弁座部172aに接触する。このため、エミッタ120の上下方向において、調整用凹部171の上面側開口を形成する縁部171aの高さは、調整用貫通孔174の上面側開口172bを形成する弁座部172aの高さよりも高い。なお、チューブ110内に液体が存在しない状態で、フィルム124は、調整用凹部171における上面側開口の縁部171aに接触していてもよい。調整用凹部171における上面側開口の縁部171aを、以下、支持部ともいう。
【0061】
調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状は、前記条件(1)を満たせばよい。調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状は、例えば、弁座部172aの形状によって規定できる。調整用筒状領域17および弁座部172aの形状は、特に制限されず、弁座部172aによって形成される上面側開口172bが、前記条件(1)を満たすものであればよい。調整用貫通孔174の上面側開口が前記条件(1)を満たすことにより、前述のように、液体の圧力により、フィルム124が下方向にたわんでいっても、フィルム124は、弁座部172aの全周に同時に接触することはなく、部分的な接触からはじまり、より大きな圧力によって、最終的に全周(スリット173を除く)に接触することなる。
【0062】
条件(1):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、軸中心を通る一方向の長さ(L
1)が、前記軸中心を通る前記一方向に対して直交方向の長さ(L
2)よりも長い
【0063】
調整用凹部171の軸方向とは、その底面に対する垂直方向であり、エミッタ120の上下方向である。また、調整用筒状領域172の軸方向は、調整用凹部171の軸方向と同じ方向であり、調整用筒状領域172の中空の軸方向である。
【0064】
前記条件(1)において、例えば、前記直交方向の長さ(L
2)を1とした場合、前記一方向の長さ(L
1)の相対値は、1を超え、また、前記一方向の長さ(L
1)と前記直交方向の長さ(L
2)との比(L
1:L
2)は、例えば、1.1〜3:1である。
【0065】
調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状は、例えば、円状でもよいし、角状でもよく、調整用筒状領域172は、例えば、円筒状でもよいし、角筒状でもよい。
【0066】
調整用貫通孔174の上面側開口172bが円状の場合、具体例としては、例えば、楕円状があげられる。この場合、例えば、調整用筒状領域172は、楕円筒状であり、弁座部172aは、楕円状である。
図3(B)に、一例として、調整用筒状領域172を楕円筒状で示し、
図4(B)に、
図3(A)におけるI−I方向の部分断面図を示し、
図4(C)に、
図3(A)におけるII−II方向の部分断面図を示す。
図4(B)において、長さL
2は、上面側開口172bの短軸の長さであり、
図4(C)に示す長さL
1は、上面側開口172bの長軸の長さである。
【0067】
本発明は、この例には制限されず、例えば、調整用貫通孔174の上面側開口172bが角状でもよく、具体例としては、例えば、長方形状があげられる。この場合、例えば、調整用筒状領域172は、長方形の筒状であり、弁座部172aは、長方形状である。
【0068】
調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状は、例えば、調整用凹部171の上面側開口の形状に応じて、前記条件(1)を満たすように設定してもよい。調整用凹部171の上面側開口の形状は、例えば、調整用凹部171の支持部(上面側開口の縁部171a)の形状によって決定され、フィルム124のダイヤグフラム部175を規定する。具体例として、調整用凹部171の上面側開口の形状、および支持部171aの形状が略正円の場合、例えば、調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状を楕円状とすることで、上面側開口172bは、前記条件(1)を満たすことができる。この場合、例えば、弁座172aの形状は、楕円状であり、調整用筒状領域172の形状は、楕円筒状である。また、調整用凹部171の上面側開口の形状、および支持部171aの形状が略正方形の場合、例えば、調整用貫通孔174の上面側開口172bの形状を長方形状とすることで、前記上面側開口172bは、前記条件(1)を満たすことができる。この場合、例えば、弁座部172aの形状は、長方形状であり、調整用筒状領域172の形状は、長方形の角筒状である。
【0069】
そして、調整用貫通孔174の上面側開口172bの条件(1)に対して、例えば、調整用凹部171の上面側開口の形状は、前記条件(1)を満たさないことが好ましい。
【0070】
調整用筒状領域172は、その凸部(側壁)の上面の一部にスリット173を有し、スリット173は、調整用筒状領域172の内部と外部を連通する。前述のように、チューブ110内の水の圧力によって、調整用筒状領域172の弁座部172aの全周にフィルム124が接触しても、調整用筒状領域172の側壁におけるスリット173は、フィルム124によって閉塞されない。このため、フィルム124が、調整用凹部171の弁座部172aの全周に接触しても、貫通孔161を介して調整用筒状領域172に導入された液体は、スリット173を介して、調整用貫通孔174を通過し、後述する吐出部137に送られる。
【0071】
スリット173の形状は、特に制限されず、例えば、
図3(B)に示すように、調整用筒状領域172における側壁の上面の一部が、前記側壁の内側から外側に向かって欠失している形状があげられる。スリット173の大きさは、特に制限されず、例えば、深さが0.1mm、前記側壁における周方向の幅が0.3mmである。調整用筒状領域172の深さは、特に制限されず、例えば、スリット173の深さより大きければよい。
【0072】
吐出部137は、エミッタ120の内部に取り込んだ液体を、チューブ110の吐出口を介して吐出する部位であり、エミッタ120において裏面138側に設けられている。
図2(B)、
図3(B)および(C)に示すように、エミッタ120の裏面138側であり且つ下流側において、エミッタ本体122の土台部は、吐出用凹部191を有する。本実施形態では、前記土台部が吐出用凹部191の底面であり、吐出用凹部191の底面であって上流側に、調整部135における調整用貫通孔174を有する。エミッタ120において、吐出用凹部191の空間が吐出部137となる。具体的には、エミッタ120を、チューブ110内において、吐出口112を有する位置に配置した際、吐出用凹部191とチューブ110の内壁との間の空間が、チューブ110の吐出口112と連通する吐出部137となる。
【0073】
吐出用凹部191の形状は、特に制限されず、例えば、平面視形状が略矩形である。吐出用凹部191は、例えば、
図2(B)および
図3(C)に示すように、その底面において、調整用貫通孔174の下流側であって、チューブ110の吐出口112に対応する箇所よりも上流側に、複数の凸部193を有してもよい。複数の凸部193は、幅方向に沿って配置されている。これらの凸部193は、例えば、後述するように、凸部193間に液体を通過させ且つ前記液体中の浮遊物等の異物が通過を防止できる。
【0074】
つぎに、エミッタ120と、エミッタ120をチューブ110に配置した点滴灌漑用チューブ100の機能について説明する。
【0075】
まず、点滴灌漑用チューブ100のチューブ110内に灌漑用液体が送液される。灌漑用液体は、特に制限されず、例えば、水、液体肥料、農薬、およびこれらの混合液等があげられる。チューブ110へ送液される前記液体の圧力は、特に制限されず、例えば、より簡易に点滴灌漑法を実施でき、また、チューブ110およびエミッタ120の破損をより防止するため、0.1MPa以下が好ましい。
【0076】
チューブ110内に導入された前記液体は、エミッタ120の取込部131からエミッタ120内に取り込まれる。具体的には、前記液体は、エミッタ120において、スリット154または第1凸部156間の隙間から、取込用凹部153に入り込み、取込用貫通孔152を通過して、表面139側から裏面138側に移動する。取込部131がスクリーン部151を有する場合、例えば、取込用凹部153のスリット154、および第1凸部条156間の隙間等によって、前記液体中の浮遊物等を除去できる。また、取込部131において、例えば、スリット154、第1凸部156間が前記ウェッジワイヤー構造をとることによって、取込部131への水の取り込み時における水の圧力損失を、より抑制できる。
【0077】
取込部131に取り込まれた前記液体は、取込用貫通孔152を通過して、接続流路132に到達する。そして、前記液体は、接続流路132から減圧流路142に流れこむ。
【0078】
減圧流路142に流れ込んだ前記液体は、貫通孔161を通過して、調整部135に移動する。具体的には、前記液体は、貫通孔161から、調整部135における調整用凹部171と調整用筒状領域172との間の領域に移動する。そして、調整部135に移動した前記液体は、調整用貫通孔174を通過して、吐出部137に移動する。この際、調整部135による、吐出部137へ流れる前記液体の流量の制御が、エミッタ120から、チューブ110の吐出口112を介して、チューブ110外に吐出される液体の流量の制御に関連する。ここで、調整部135における流量の制御、具体的には、前記条件(1)を満たす本実施形態の第1エミッタによる流量の制御について、
図5を用いて説明する。
【0079】
図5は、
図4に示す調整部135において、チューブ110内の液体の圧力によって変化するフィルム124と、調整用筒状領域172の弁座部172aとの関係を示す模式図である。調整部135において、調整用筒状領域172の弁座部172aは、楕円環状である。
図5(A)は、
図4(B)の断面図での変化、すなわち、調整用筒状領域172の弁座部172aにおける短軸側の断面図での変化であり、
図5(B)は、
図4(B)の断面図での変化、すなわち、調整用筒状領域172の弁座部172aにおける長軸側の断面図での変化である。
図5(A)および(B)において、それぞれ、1段目の図は、フィルム124に、チューブ110内の液体による圧力がかかっていない状態である。2段目から4段目の図は、徐々に、フィルム124にかかる圧力が大きくなっている状態を示す。1段目の図に示すように、フィルム124に圧力がかかっていない状態であり、フィルム124に変化は見られない。つぎに、2段目の図に示すように、チューブ110内の液体によりフィルム124に圧力がかかると、フィルム124の下方向へのたわみが生じている。そして、フィルム124に、さらに圧力がかかると、
図5(A)の3段目の図に示すように、フィルム124は、さらにたわみ、調整用筒状領域172の弁座部172aに接触するようになる。しかしながら、調整用筒状領域172の短軸側の弁座部172aにフィルム124が接触しても、この程度のフィルム124のたわみでは、
図5(B)の3段目の図に示すように、調整用筒状領域172の長軸側の弁座部172aには接触が生じない。このため、この状態においては、フィルム124による調整用筒状領域172の閉塞は開始されているもの、時間差による接触であるため、長軸側では、調整用筒状領域172とフィルム124との間に、スリット173とは別の隙間が存在し、この隙間において液体の通過が可能となる。そして、フィルム124に、さらに大きな圧力がかかると、
図5(B)の4段目の図に示すように、調整用筒状領域172の長軸側の弁座部172aにおいてもフィルム124が接触し、スリット173を除いて、調整用筒状領域172の開口が閉塞されることになる。
【0080】
本発明者らは、鋭意研究の結果、圧力の増加と時間当たりの吐出量との関係を確認したところ、圧力を徐々に増加していった場合に、ある圧力範囲において時間あたりの吐出量が低下するとの事象を見出した。そして、その理由が、前記弁座部の全周囲に、同時に前記フィルムが接触することにあるとの知見を得た。すなわち、前記チューブ内の液体の圧力が充分に低く、前記弁座部に前記フィルムが接触していない場合、前記凹部の貫通孔の上面側開口は閉塞していないため、圧力が低くても、その上面側開口から必要量の液体が吐出部に吐出される。また、反対に、前記液体の圧力によって、前記弁座部に前記フィルムが接触している場合でも、前記液体の圧力が充分に高いと、前記スリットから、必要量の液体が吐出部に吐出される。しかしながら、前者ほど圧力が低くなく、後者ほど圧力が高くない場合、前記弁座部に前記フィルムが接触して、前記凹部の貫通孔の上面側開口が閉口し、且つ、圧力が不十分なため、前記スリットから必要量の液体が吐出部に吐出されないという現象が生じると推測した。そこで、前記弁座部の全域に対する前記フィルムのダイヤフラム部の接触を、同時ではなく、時間差で生じるように設定することを見出した。これにより、圧力の変動の影響を抑制して、一定の吐出量を維持することができる。
【0081】
本発明における第1エミッタは、前記時間差の設定を、前記凹部の貫通孔の上面側開口の形状を前記条件(1)とすることで実現するものである。なお、本発明の第1エミッタを例にあげて、本発明の効果を説明したが、上記の効果は、後述する第2エミッタ、第3エミッタ、第4エミッタおよび第5エミッタでも共通する、本発明のエミッタ全体の効果である。また、この効果は、前述のように、接触が時間差で生じることにより得られる効果であるため、本発明は、前記第1エミッタ、第2エミッタ、第3エミッタ、第4エミッタおよび第5エミッタの形態には制限されない。
【0082】
そして、調整部135で調整された前記液体は、調整部135から貫通孔174を介して、吐出部137に移動する。エミッタ120は、吐出部137が、チューブ110の吐出口121と対応箇所に配置されているため、吐出部137に移動した液体は、チューブ110の吐出口121を介して、チューブ110の外に吐出される。
【0083】
(第2エミッタ)
本発明の第2エミッタは、前述のように、前記凹部の上面側開口の形状が、以下の条件(2)を満たす。
条件(2):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、軸中心を通る一方向の長さ(L
1)が、前記軸中心を通る前記一方向に対して直交方向の長さ(L
2)よりも長い
【0084】
本発明の第2エミッタは、前記条件(2)を満たせばよく、その他の構成および条件等は、何ら制限されない。
【0085】
本発明の第2エミッタおよびこれを備える第2の点滴灌漑用チューブの実施形態について、図を用いて説明する。本発明の第2エミッタおよび点滴灌漑用チューブは、下記の実施形態によって何ら限定および制限されない。各図において、同一箇所には同一符号を付している。本発明の第2エミッタは、特に示さない限り、本発明の他の実施形態の記載を援用できる。
【0086】
[実施形態2]
図6は、エミッタ220の概略を示す表面側からみた平面図であり、前記実施形態1の
図3(B)と同様に、エミッタ220について、フィルム124が、ヒンジ部126を介して、フィルム124以外のエミッタ本体122に接続されており、フィルム124をエミッタ本体122上に配置する前の状態を示す概略図である。
【0087】
本実施形態のエミッタ220は、調整用凹部271における上面側開口の形状が、前記条件(2)を満たしていればよく、調整用凹部217の形状は、特に制限されない。調整用凹部27の上面側開口が前記条件(2)を満たすことにより、前述のように、液体の圧力により、フィルム124が下方向にたわんでいっても、フィルム124は、前記弁座部の全周に同時に接触することはなく、部分的な接触からはじまり、より大きな圧力によって、最終的に前記弁座部の全周(スリット173を除く)に接触することなる。
【0088】
調整用凹部271における上面側開口の形状は、例えば、円状でもよいし、角状でもよい。前記上面側開口は、例えば、その内縁がフィルム124と接触することから、以下、支持部ともいう。
【0089】
条件(2):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、軸中心を通る一方向の長さ(L
1)が、前記軸中心を通る前記一方向に対して直交方向の長さ(L
2)よりも長い
【0090】
前記条件(2)において、例えば、前記直交方向の長さ(L
2)を1とした場合、前記一方向の長さ(L
1)の相対値は、1を超え、また、前記一方向の長さ(L
1)と前記直交方向の長さ(L
2)との比(L
1:L
2)は、例えば、1.1〜3:1である。
【0091】
調整用凹部271の上面側開口(支持部)が円状の場合、具体例として、例えば、楕円状があげられる。
図6は、一例として、調整用凹部271の上面側開口を楕円状で示した。フィルム124のダイヤフラム部275は、例えば、調整用凹部271の上面側開口の内縁で規定されることから、ダイヤフラム部275は、楕円状である。
【0092】
本発明は、この例には制限されず、例えば、調整用凹部271の上面側開口が角状の場合、例えば、長方形である。
【0093】
調整用凹部271の上面側開口の形状は、例えば、調整用貫通孔274の上面側開口の形状に応じて、前記条件(2)を満たすように設定してもよい。具体例として、調整用貫通孔274の上面側開口の形状が略正円環状の場合、例えば、調整用凹部271の上面側開口の形状は、楕円状とすることで、前記条件(2)を満たすことができる。調整用貫通孔274の上面側開口の形状が略正方環状の場合、例えば、調整用凹部271の上面側開口の形状は、長方形状とすることで、前記条件(2)を満たすことができる。この場合、調整用凹部271の上面側開口の条件(2)に対して、例えば、調整用貫通孔274の上面側開口の形状は、前記条件(2)を満たさないことが好ましい。
【0094】
エミッタ220をチューブ110内に配置した場合、調整用貫通孔274の上面側開口の形状を規定する、調整用筒状領域272の弁座部に対するフィルム124の接触は、例えば、以下のような関係になる。チューブ110内の液体によりフィルム124に圧力がかかると、フィルム124の下方向へのたわみが生じる。この際、フィルム124の支持部となるのは、調整用凹部271の上面側開口の内縁である。本実施形態において、調整用凹部271における上面側開口が前記条件(2)を満たし、具体的には、
図6において楕円形であるため、前述のように、フィルム124のダイヤフラム部275は、楕円状である。このため、フィルム124のダイヤフラム部275は、楕円状で下方向にたわんでいく。そして、フィルム124に、さらに圧力がかかると、フィルム124のダイヤフラム部275は、さらにたわみ、調整用筒状領域272の弁座部に接触するようになる。しかしながら、フィルム124のダイヤフラム部275は、楕円状でたわんでいくため、ダイヤフラム部275の短軸側の両端付近が、調整用筒状領域272の弁座部に接触しても、この程度のフィルム124のたわみでは、ダイヤフラム部275の長軸側の両端付近は、調整用筒状領域272の弁座部には接触が生じない。このため、この状態においては、フィルム124による調整用貫通孔274の上面側開口の閉塞は開始されているもの、時間差による接触であるため、ダイヤフラム部275の長軸側の両端付近では、調整用筒状領域272の弁座部とフィルム124との間に、スリット173とは別の隙間が存在し、この隙間において液体の通過が可能となる。そして、フィルム124に、さらに大きな圧力がかかると、ダイヤフラム部275の長軸側の両端付近においても、調整用筒状領域272の弁座部への接触が生じ、スリット173を除いて、調整用貫通孔の上面側開口が閉塞されることになる。
【0095】
本発明における第2エミッタは、前記時間差の設定を、前記調整用凹部の上面側開口の形状を前記条件(2)とすることで実現するものである。
【0096】
(第3エミッタ)
本発明の第3エミッタは、前述のように、前記凹部の上面側開口と、前記貫通孔の上面側開口とが、以下の条件(3)を満たす。
条件(3):前記凹部の軸方向において、前記凹部の上面側開口の中心と、前記貫通孔の上面側開口の中心とが、ずれている
【0097】
本発明の第3エミッタは、前記条件(3)を満たせばよく、その他の構成および条件等は、何ら制限されない。
【0098】
本発明の第3エミッタおよびこれを備える第3の点滴灌漑用チューブの実施形態について、図を用いて説明する。本発明の第3エミッタおよび点滴灌漑用チューブは、下記の実施形態によって何ら限定および制限されない。各図において、同一箇所には同一符号を付している。本発明の第3エミッタは、特に示さない限り、本発明の他の実施形態の記載を援用できる。
【0099】
[実施形態3]
図7は、エミッタ320の概略を示す表面側からみた平面図であり、前記実施形態1の
図3(B)と同様に、エミッタ320について、フィルム124が、ヒンジ部126を介して、フィルム124以外のエミッタ本体122に接続されており、フィルム124をエミッタ本体122上に配置する前の状態を示す概略図である。
【0100】
本実施形態のエミッタ320は、調整用凹部171における上面側開口の中心と、調整用貫通孔274の上面側開口の中心が、前記条件(3)を満たしていればよく、調整用凹部117の上面側開口、および調整用貫通孔274の上面側開口の形状は、特に制限されない。前記両中心の関係が前記条件(3)を満たすことにより、前述のように、液体の圧力により、フィルム124が下方向にたわんでいっても、フィルム124は、調整用筒状領域372の弁座部の全周に同時に接触することはなく、部分的な接触からはじまり、より大きな圧力によって、最終的に前記弁座部全周(スリット173を除く)に接触し、調整用貫通孔274の上面側開口を閉塞することなる。
【0101】
調整用凹部171における上面側開口の形状は、例えば、円状でもよいし、角状でもよい。調整用貫通孔274の上面側開口の形状は、例えば、円状でもよいし、角状でもよい。本実施形態において、調整用凹部171における上面側開口の形状と、調整用貫通孔274の上面側開口の形状は、例えば、大きさは制限されず、同様の形状であることが好ましい。
【0102】
前記条件(3)において、前記凹部の上面側開口の中心と、調整用貫通孔274の上面側開口の中心とのずれの程度は、特に制限されない。前記凹部の上面側開口の中心と、調整用貫通孔274の上面側開口の中心との距離は、例えば、0.1〜1mmである。ずれの程度は、例えば、フィルム124のダイヤフラム部175が、調整用筒状領域372の弁座部に接触するタイミングを基準にして設定でき、具体例としては、例えば、圧力0.2Bar程度で接触が始まり、圧力1.0Bar程度で弁座部の全周囲に接触し終わるように設定することができる。
【0103】
エミッタ320をチューブ110内に配置した場合、調整用筒状領域372の弁座部に対するフィルム124の接触は、例えば、以下のような関係になる。チューブ110内の液体によりフィルム124に圧力がかかると、フィルム124の下方向へのたわみが生じる。この際、フィルム124の支持部となるのは、調整用凹部171の上面側開口の内縁である。本実施形態において、フィルム124に圧力がかかると、フィルム124は、ダイヤフラム部175の中心から下方向にたわんでいく。そして、フィルム124に、さらに圧力がかかると、フィルム124のダイヤフラム部175は、さらにたわみ、調整用筒状領域372の弁座部に接触するようになる。しかしながら、フィルム124のダイヤフラム部175の中心と、調整用筒状領域372の弁座部に囲まれる調整用貫通孔274の上面側開口の中心とは、ずれている。このため、フィルム124のダイヤフラム部175が、ダイヤフラム部175の中心に近い、調整用筒状領域372の弁座部に接触しても、この程度のフィルム124のたわみでは、ダイヤフラム部175の中心よりも遠い、調整用筒状領域372の弁座部には接触が生じない。このため、この状態においては、フィルム124による、調整用貫通孔274の上面側開口の閉塞は開始されているもの、時間差による接触であるため、ダイヤフラム部175の中心よりも遠い調整用筒状領域372の弁座部と、フィルム124との間に、スリット173とは別の隙間が存在し、この隙間において液体の通過が可能となる。そして、フィルム124に、さらに大きな圧力がかかると、ダイヤフラム部175が、調整用筒状領域372の弁座部全周に接触し、スリット173を除いて、調整用貫通孔274の上面側開口が閉塞されることになる。
【0104】
本発明における第3エミッタは、前記時間差の設定を、前記凹部の上面側開口の中心と、前記貫通孔の上面側開口の中心とを、前記条件(3)とすることで実現するものである。
【0105】
(第4エミッタ)
本発明の第4エミッタは、前述のように、前記凹部の上面側開口と、前記貫通孔の上面側開口とが、以下の条件(4)を満たす。
条件(4):前記凹部の軸方向に対して垂直な平面方向において、前記凹部の上面側開口と、前記貫通孔の上面側開口とが、非平行に配置されている
【0106】
本発明の第4エミッタは、前記条件(4)を満たせばよく、その他の構成および条件等は、何ら制限されない。
【0107】
本発明の第4エミッタおよびこれを備える第4の点滴灌漑用チューブの実施形態について、図を用いて説明する。本発明の第4エミッタおよび点滴灌漑用チューブは、下記の実施形態によって何ら限定および制限されない。各図において、同一箇所には同一符号を付している。本発明の第2エミッタは、特に示さない限り、本発明の他の実施形態の記載を援用できる。
【0108】
[実施形態4−1]
図8は、エミッタにおける調整用筒状領域の概略を示す断面図であり、前記実施形態1の
図4(C)と同様の方向における断面図である。
【0109】
本実施形態におけるエミッタは、調整用凹部171の上面側開口に対して、調整用貫通孔174の上面側開口が、非平行に配置された形態である。具体的には、調整用凹部171の上面側開口は、底部に対して平行であるのに対して、調整用貫通孔174の上面側開口は、底部に対して傾斜している形態である。このように、調整用貫通孔174の上面側開口が傾斜していることによって、前述のように、液体の圧力により、フィルム124が下方向にたわんでいっても、フィルム124は、調整用筒状領域272の弁座部の全周に同時に接触することはなく、部分的な接触からはじまり、より大きな圧力によって、最終的に弁座部の全周(スリット173を除く)に接触することなる。
【0110】
調整用貫通孔174の上面側開口は、例えば、調整用筒状領域272の弁座部において、対向する領域(272a、272a’)の高さが異なることによって、底部に対して傾斜してもよい。調整用貫通孔174の上面側開口の傾斜の程度は、例えば、調整用筒状領域272の弁座部における対向する領域(272a、272a’)の高さの差によって設定できる。対向する領域(272a、272a’)の高さの差は、特に制限されず、最も高い弁座部(例えば、弁座部272a)の高さと、最も低い弁座部(例えば、弁座部272a’)の高さの比が、例えば、1.1〜2:1である。
【0111】
調整用筒状領域272を有する第4エミッタをチューブ110内に配置した場合、調整用筒状領域272の弁座部に対するフィルム124の接触は、例えば、以下のような関係になる。チューブ110内の液体によりフィルム124に圧力がかかると、フィルム124の下方向へのたわみが生じる。そして、フィルム124に、さらに圧力がかかると、フィルム124は、さらにたわみ、調整用筒状領域272の弁座部に接触するようになる。しかしながら、調整用筒状領域272の弁座部は傾斜しているため、前記弁座部の一方の領域272aに接触しても、この程度のフィルム124のたわみでは、前記弁座部の対向する領域272a’には接触が生じない。このため、この状態においては、フィルム124による調整用筒状領域272の閉塞は開始されているもの、時間差による接触であるため、前記弁座部の対向する領域272a’とフィルム124との間に、スリット173とは別の隙間が存在し、この隙間において液体の通過が可能となる。そして、フィルム124に、さらに大きな圧力がかかると、調整用筒状領域272の弁座部の全周への接触が生じ、スリット173を除いて、調整用貫通孔174の上面開口が閉塞されることになる。
【0113】
図9は、エミッタにおける調整用筒状領域の概略を示す部分断面図であり、前記実施形態1の
図4(B)と同様の方向における部分断面図である。
【0114】
本実施形態におけるエミッタは、調整用貫通孔174の上面開口に対して、調整用凹部171の上面側開口が、非平行に配置された形態である。具体的には、調整用貫通孔174の上面開口は、底部に対して平行であるのに対して、調整用凹部171の上面側開口は、対向する領域は、底部に対して傾斜している形態である。このように、調整用凹部171の上面側開口が傾斜していることによって、前述のように、液体の圧力により、フィルム124が下方向にたわんでいっても、フィルム124は、調整用筒状領域172の弁座部172aの全周に同時に接触することはなく、部分的な接触からはじまり、より大きな圧力によって、最終的に弁座部171aの全周(スリット173を除く)に接触することなる。
【0115】
調整用凹部171の上面側開口は、例えば、調整用凹部171の支持部において、対向する領域(171a、171a’)の高さが異なることによって、底部に対して傾斜してもよい。調整用凹部171の上面側開口の傾斜の程度は、例えば、調整用凹部171の支持部において、対向する領域(171a、171a’)の高さの差によって設定できる。支持部の対向する領域(171a、171a’)の高さの差は、特に制限されず、最も高い支持部(例えば、171a)の高さと、最も低い支持部(例えば、171a’)の高さの比が、例えば、1.1〜2:1である。
【0116】
調整用凹部171を有する第4エミッタをチューブ110内に配置した場合、調整用筒状領域172の弁座部171aに対するフィルム124の接触は、例えば、以下のような関係になる。チューブ110内の液体によりフィルム124に圧力がかかると、フィルム124の下方向へのたわみが生じる。そして、フィルム124に、さらに圧力がかかると、フィルム124は、さらにたわみ、調整用筒状領域172の弁座部172aに接触するようになる。しかしながら、調整用凹部171の上面側開口は、支持部171a、171a’によって傾斜しているため、フィルム124は、傾斜した状態でたわんでいく。このため、低い位置にあるフィルム124が、前記弁座部の一方の領域に接触しても、高い位置にあるフィルムが、前記弁座部の対向する領域に接触しない。このため、この状態においては、フィルム124による調整用筒状領域272の閉塞は開始されているもの、時間差による接触であるため、前記弁座部の対向する領域とフィルム124との間に、スリット173とは別の隙間が存在し、この隙間において液体の通過が可能となる。そして、フィルム124に、さらに大きな圧力がかかると、調整用筒状領域172の弁座部172aの全周への接触が生じ、スリット173を除いて、調整用貫通孔174の上面開口が閉塞されることになる。
【0117】
本発明における第4エミッタは、前記時間差の設定を、前記凹部の上面側開口と、前記筒状領域における弁座部とが前記条件(4)を満たすことで実現するものである。
【0118】
(第5エミッタ)
本発明の第5エミッタは、前記凹部の底面が、前記貫通孔の上面開口の周囲に、前記筒状領域を有していない形態であり、具体的には、前記凹部の底面がフラットであり、前記底面に前記貫通孔を有する形態である。
【0119】
本発明の第5エミッタおよびこれを備える第5の点滴灌漑用チューブの実施形態について、図を用いて説明する。本発明の第5エミッタおよび点滴灌漑用チューブは、下記の実施形態によって何ら限定および制限されない。各図において、同一箇所には同一符号を付している。本発明の第5エミッタは、前記筒状領域を有していない以外は、本発明の他の実施形態の記載を援用できる。
【0120】
[実施形態5]
図10(A)および(B)は、第5エミッタの概略を示す部分断面図であり、前記実施形態1の
図4(B)および(C)と同様の方向における部分断面図である。
【0121】
本実施形態のエミッタにおいて、調整用凹部471の底面471cは、調整用貫通孔174を有し、調整貫通孔174と連通するスリット173を有する。底面471において、調整用貫通孔174の上面開口を形成する縁部が、フィルム124に対する弁座部471bであり、調整用凹部471の側壁(凸部)の上面における内側の縁部が、フィルム124に対する支持部471aである。
【0122】
本実施形態においては、弁座部471bを、調整用凹部471の底面174とフラットな位置に有する以外は、前述の実施形態と同様であり、前述の実施形態において「貫通孔周囲の調整用筒状領域における弁座部」は、本実施形態における「調整用凹部の弁座部」に読み替え可能である。
【0123】
本発明のエミッタにおいて、調整用貫通孔の周囲に、前記筒状領域を有するか否かは、特に制限されない。前記筒状領域は、例えば、前記凹部において、フィルムのダイヤフラム部を規定する前記支持部と前記弁座部と間の高さを調整に利用できる。すなわち、前記筒状領域の有無は、例えば、フィルムのダイヤフラム部を規定する前記凹部の支持部と、前記弁座部との間における、所望のクリアランスに応じて、設けてもよいし、設けなくてもよい。具体例として、圧力補正のタイミングを相対的に遅らせたい場合は、例えば、前記筒状領域を設けることなく、前記凹部の底面をフラットに設定してもよい。
【実施例】
【0124】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【0125】
[実施例1]
本発明の第1エミッタとして、
図2に示すエミッタ120を作製した。エミッタ120において、調整用筒状領域172の弁座部は、楕円形とした。そして、前記弁座部の内縁の大きさについて、中心を通る最も長い径の長さ(L
1)を1.5mm、それに直交する最も短い径の長さ(L
20)を1.0mmとし、両者の比L
1:L
2を1.5:1としたエミッタを実施例1−1とした。また、)、中心を通る最も長い径の長さ(L
1)を1.3mm、それに直交する最も短い径の長さ(L
20)を1.0mmとし、両者の比L
1:L
2を1.3:1としたエミッタを実施例1−2とした。
【0126】
また、比較例としては、前記弁座部を正円とし、前記弁座部の内縁の直径を1.0mmとした以外は、実施例と同様のエミッタを作製した。
【0127】
なお、実施例のエミッタと比較例のエミッタは、前記弁座部の形状が異なるのみで、いずれも十分な圧力(2Bar)において、1時間あたりの吐出量が1.2L/Hrとなる構造とした。
【0128】
各エミッタを、直径1.6cmのチューブに接合して、点滴灌漑用チューブを作製した。そして、前記チューブ内に水を通液して、通液する水の圧力に応じて、各エミッタを介して吐出される時間あたりの水の量を確認した。これらの結果を
図10に示す。
【0129】
図10は、前記チューブ内の水の圧力と、前記チューブの吐出口から吐出される水の時間当たりの吐出量との関係を示すグラフである。縦軸は、時間あたりの吐出量(L/時間)であり、横軸は、前記チューブ内の水の圧力(Bar)である。
図10に示すように、比較例のエミッタは、前記チューブへの水の通液を開始すると、圧力0.4Bar付近で、吐出量1.2L/Hrに到達したが、その後、ある圧力範囲(0.4〜1.6Bar)で吐出量が低下し、圧力2Bar付近にきて、吐出量が1.2L/Hrにまで回復した。これに対して、実施例のエミッタは、比較例のエミッタにおいて吐出量の低下が見られる圧力範囲(0.4〜1.6Bar)でも、吐出量の大きな低下は抑制でき、圧力全域において、安定した吐出量を維持できた。特に、実施例1−1のエミッタによれば、吐出量の低下はみられず、圧力全域において吐出量が安定していた。このように、本発明によれば、圧力の影響を回避して、圧力全域において安定した吐出量を維持することが可能であることがわかった。