(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.制振装置1の構成)
本実施形態の制振装置1の構成について、
図1を参照して説明する。本実施形態の制振装置1の制振対象は、床構造を構成する床材や、床材以外の種々の振動物体である。床構造を構成する床材の種類は、ALC(Autoclaved lightweight aerated concrete)などのコンクリート板により形成された床材、及び、木板により形成された床材などである。
【0013】
床構造2は、
図1に示すように、複数の縦梁2aと、複数の縦梁2aを連結する複数の横梁2bと、隣り合う縦梁2aの間を架け渡すように配置される複数の床材2cとを備える。
図1においては、隣り合う2つの横梁2bの間に、6枚の床材2cが配列されている。つまり、床構造2は、12枚の床材2cを有して、1つの床ユニットを構成する。また、各床材2cは、ALCにより形成されている。
【0014】
制振対象としての各床材2cの裏面には、制振装置1を構成する第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200が取り付けられている。制振装置1は、床材2cの面外振動を低減する。本実施形態においては、各床材2cには、2個の第一制振ダンパ100及び1個の第二制振ダンパ200が取り付けられている。つまり、1つの床ユニットを構成する床構造2には、16個の第一制振ダンパ100と、8個の第二制振ダンパ200とが取り付けられている。
【0015】
第一制振ダンパ100の制振特性は、第一共振周波数を有する。つまり、第一制振ダンパ100の周波数応答関数は、第一共振周波数において最大値を有する。また、第二制振ダンパ200の制振特性は、第二共振周波数を有する。つまり、第二制振ダンパ200の周波数応答関数は、第二共振周波数において最大値を有する。第二共振周波数は、第一共振周波数より大きな周波数である。つまり、第一制振ダンパ100は、低周波側の振動低減効果を発揮し、第二制振ダンパ200は、高周波側の振動低減効果を発揮する。
【0016】
また、本実施形態においては、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、板バネ式制振ダンパを適用する。ただし、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、板バネ式制振ダンパの他に、種々の制振ダンパを適用できる。
【0017】
(2.第一制振ダンパ100の構成)
第一制振ダンパ100について、
図2−
図4を参照して説明する。第一制振ダンパ100は、上述したように、低周波側の振動低減効果を発揮する。第一制振ダンパ100は、主として、板バネ10と、マス20と、粘弾性部材30とを備える。つまり、第一制振ダンパ100は、バネ要素として、板バネ10と粘弾性部材30との複合バネを用いる動吸振器である。マス20が床材2cの面外振動方向に振動することによって、床材2cの面外振動を低減する。なお、第一制振ダンパ100は、板バネ10以外の金属バネを適用することもできる。
【0018】
板バネ10は、制振対象である床材2cに片持ち支持され、自由端側を床材2cに対して床材2cの面外振動方向(床材2cの法線方向)に振動させる。板バネ10は、長尺状に形成される。板バネ10の一端は、床材2cに取り付けられ、板バネ10の他端には、自由端であって、マス20が取り付けられる。ここで、板バネ10は、平板状の鋼板に対して打ち抜き加工及びプレス加工を施すことにより形成される。なお、本実施形態においては、鋼板を打ち抜き加工及びプレス加工を施すことにより板バネ10を形成したが、単なる平板を板バネ10とすることもできる。
【0019】
板バネ10は、基部11と、傾斜部12と、平行部13と、一対の立壁部14,14と、一対のフランジ部15,15とを備える。板バネ10は、幅方向(長手方向に直交する方向)の中心面に対して対称に形成される。
【0020】
基部11は、矩形の平板状に形成される部位であり、床材2cの裏面に接触した状態で固定される。基部11は、板バネ10の基端側(自由端とは反対側)に位置する。基部11には、複数の貫通孔11aが形成されている。当該貫通孔11aにボルト50が挿通された状態で、当該ボルト50が床材2cに螺合される。なお、当該ボルト50は、床材2cに螺合される場合に限られず、床材2cと締結されればよい。
【0021】
傾斜部12は、台形の平板状に形成され、基部11に対して板バネ10の長手方向に連続し、床材2cに対して傾斜して形成される。つまり、傾斜部12の基部11側から反対側に行くに従って、床材2cから離れる。傾斜部12における台形の平行短辺が基部11に連接した状態で、基部11に対して折れ曲げ形成されている。
【0022】
平行部13は、矩形の平板状に形成されており、傾斜部12の基部11とは反対側の部位(台形の平行長辺)に対して、板バネ10の長手方向に連続する。平行部13は、床材2cからほぼ平行に離れて位置し、傾斜部12に対して折れ曲げ形成されている。
【0023】
平行部13には、ひょうたん型貫通孔13aが形成されている。ひょうたん型貫通孔13aには、粘弾性部材30が着脱可能に取り付けられる。ひょうたん型貫通孔13aの形成位置は、抑制対象の周波数に応じて適宜変更可能である。第一制振ダンパ100においては、ひょうたん型貫通孔13aは、平行部13において傾斜部12寄りに形成されている。
【0024】
一対の立壁部14,14は、基部11、傾斜部12及び平行部13の幅方向両端のそれぞれから、床材2cから離れる方向に向かって、リブ状に立設される。一対の立壁部14,14において床材2cから遠い側の端部は、直線状であって、床材2cにほぼ平行に形成される。つまり、一対の立壁部14,14の高さは、基部11側が高く、平行部13側が短くなる。
【0025】
一対のフランジ部15,15は、一対の立壁部14,14のそれぞれの端部(床材2cから遠い側の端部)から、幅方向において外側に延びるように(広がるように)形成される。一対のフランジ部15,15は、ほぼ平面状に形成される。一対のフランジ部15,15には、板バネ10の自由端側に、マス20との締結用のボルト60(
図3に示す)が挿通される円形の貫通孔15aが形成される。
【0026】
マス20は、板バネ10の自由端側に、固定される。マス20は、板バネ10の自由端側の振動に伴って床材2cに対して面外振動方向に振動する。マス20は、所定の質量を有するようにするため、ある程度の塊に形成される。マス20は、例えば、主として金属などの高比重の材料により形成される。マス20は、例えば、角部の円弧凸状に面取りを施した矩形柱状に形成される。ただし、マス20は、円柱状など、種々の形状に形成してもよい。
【0027】
マス20には、ボルト60に螺合する雌ねじ21,21が形成される。雌ねじ21,21は、マス20とは異なる材料であって、金属などの高比重の材料により形成されており、マス20の本体部分に一体的にされるようにしてもよい。ここで、ボルト60が、マス20とは別部材として説明するが、例えば、雌ねじ21に代えて、マス20に一体成形されるようにしてもよい。この場合、板バネ10の一対のフランジ部15,15にナットを設ける。
【0028】
一対のフランジ部15,15の貫通孔15aに挿通された状態のボルト60が雌ねじ21,21に螺合されることによって、マス20は、一対のフランジ部15,15に固定される。ただし、フランジ部15とマス20との間には、環状の介在部材70が挟まれている。つまり、マス20は、一対のフランジ部15,15に対しては隙間を有して対向する。
【0029】
粘弾性部材30は、ゴム弾性体又はゴム状弾性を有するエラストマーにより形成され、平行部13に固定される。床材2cが面外振動方向に振動した場合に、板バネ10の自由端側が振動することに伴って、粘弾性部材30が床材2cの裏面と接触することによって圧縮量が変化する。粘弾性部材30は、本体部31と、係合部32とから構成される。
【0030】
本体部31は、逆円錐台形状に形成されている。本体部31の小径端面が、床材2c側に位置する。係合部32は、本体部31の大径端面に設けられ、キノコ状に形成されている。係合部32は、板バネ10の平行部13のひょうたん型貫通孔13aに挿通された状態で、係合する。
【0031】
粘弾性部材30が板バネ10に固定された初期状態において、本体部31は、床材2cに対して僅かに予圧を加えた状態としてもよいし、床材2cと本体部31とがいわゆるゼロタッチ状態(圧力が付与されていない状態)としてもよいし、床材2cとの間に僅かに隙間を有するようにしてもよい。これらは、制振目的に応じて適宜変更可能である。
【0032】
ここで、
図2に示すように、板バネ10の基部11の端からマス20の中心までの長さは、La1である。基部11の端からマス20の中心までの長さLa1は、基部11の端を原点とした場合にマス20の中心の座標に相当するため、以下において、マス位置座標La1と称する。また、基部11の端から粘弾性部材30の中心までの長さは、La2である。基部11の端から粘弾性部材30の中心までの長さLa2は、基部11の端を原点とした場合に粘弾性部材30の中心の座標に相当するため、以下において、粘弾性部材位置座標La2と称する。そして、第一制振ダンパ100において、マス位置座標La1と粘弾性部材位置座標La2とは異なり、マス位置座標La1と粘弾性部材位置座標La2との差は大きい。
【0033】
(3.第二制振ダンパ200の構成)
第二制振ダンパ200の構成について、
図5を参照して説明する。第二制振ダンパ200は、上述したように、高周波側の振動低減効果を発揮する。第二制振ダンパ200は、主として、板バネ210と、マス20と、粘弾性部材30とを備える。第二制振ダンパ200において、第一制振ダンパ100と実質的に同一構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0034】
板バネ210は、第一制振ダンパ100の板バネ10とは、ひょうたん型貫通孔13a及び貫通孔15a(
図3に示す)の位置が異なる。つまり、第二制振ダンパ200は、第一制振ダンパ100に対して、マス位置座標Lb1及び粘弾性部材位置座標Lb2が異なる。つまり、板バネ210は、板バネ10と実質的に同種である。また、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200において、マス20及び粘弾性部材30は、同種である。ただし、マス20の板バネ10に対する取付位置、及び、粘弾性部材30の板バネ10に対する取付位置が異なる。
【0035】
具体的には、第二制振ダンパ200のマス20は、第一制振ダンパ100のマス20より、板バネ210の自由端側に位置する。つまり、La1<Lb1の関係を有する。また、第二制振ダンパ200において、マス位置座標Lb1と粘弾性部材位置座標Lb2は、同一である。従って、第二制振ダンパ200の粘弾性部材30は、第一制振ダンパ100の粘弾性部材30より、板ばね210の自由端側に位置する。つまり、La2<Lb2の関係を有する。
【0036】
さらに、第二制振ダンパ200におけるマス位置座標Lb1と粘弾性部材位置座標Lb2との差は、第一制振ダンパ100におけるマス位置座標La1と粘弾性部材位置座標La2との差より小さい。
【0037】
(4.共振を有する周波数応答関数の説明)
次に、共振を有する周波数応答関数について、
図6を参照して説明する。
図6には、一般的な共振を有する周波数応答関数のグラフを示す。
図6において、共振周波数は、f
0である。
【0038】
ここで、振動の状態を表す指標として、Q値、損失係数η、及び、減衰比ζが存在する。これらは、式(1)(2)(3)に示す関係を有する。ここで、振動エネルギーが共振周波数f
0における振動エネルギーの半値となる2つの周波数f
1,f
2の差を、Δfとする。Δfは、一般に、半値幅と称される。
【0042】
Q値は、式(1)に示すように、半値幅Δfに対する共振周波数f
0の比を示す。つまり、Q値は、共振の鋭さを表す指標である。半値幅Δfが小さいほど、Q値が大きくなる。つまり、Q値が大きいほど、共振の鋭さが強くなり、ピーキーな共振特性を有する。一方、半値幅Δfが大きいほど、Q値が小さくなる。つまりQ値が小さいほど、共振の鋭さが弱くなり、ブロードな共振特性を有する。
【0043】
ここで、振動エネルギーは、振幅の2乗に比例する。従って、振動エネルギーが共振周波数f
0における振動エネルギーの半値となるには、振幅(伝達関数)が1/√2となるときに相当する。そして、振幅(伝達関数)が1/√2となる場合とは、共振周波数f
0における振幅(伝達関数)に対して3dB低くなる場合に相当する。そこで、
図6には、周波数f
1,f
2の伝達関数は、共振周波数f
0における伝達関数より3dB低い位置に図示している。
【0044】
損失係数ηは、式(2)に示すように、Q値の逆数となる。また、減衰比ζは、式(3)に示すように、Q値の逆数をさらに2で除した値となる。つまり、Q値が大きいほど、損失係数η及び減衰比ζが小さくなる関係を有し、Q値が小さいほど、損失係数η及び減衰比ζが大きくなる関係を有する。つまり、損失係数η及び減衰比ζが小さいほど、ピーキーな共振特性を有し、損失係数η及び減衰比ζが大きいほど、ブロードな共振特性を有する。
【0045】
(5.第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200の制振特性)
次に、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200の制振特性としての周波数応答関数(周波数に対する伝達関数の関係)について、
図7及び
図8を参照して説明する。第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、マス位置座標La1,Lb1及び粘弾性部材位置座標La2,Lb2を調整することにより、
図7及び
図8に示す周波数応答関数を有するようにされている。
【0046】
図7及び
図8の検出は、以下のように行った。床材2cに相当する部材に第一制振ダンパ100又は第二制振ダンパ200を固定して、床材2cに相当する部材のうち基部11付近にロードセルを設置した。この状態で、床材2cに相当する部材に面外振動方向の振動を付与し、ロードセルによる検出値を取得した。振動の周波数を20Hzから徐々に大きくしていきながらロードセルにより検出した値が、
図7及び
図8に示す周波数応答関数である。
【0047】
図7に示すように、第一制振ダンパ100は、48Hz付近に第一共振周波数を有する。
図8に示すように、第二制振ダンパ200は、55Hz付近に第二共振周波数を有する。本実施形態においては、床材2cにおいて、オクターブバンド中心周波数が63Hzの帯域の重量床衝撃音レベル(L値)を低減することが目的である。ここで、オクターブバンド中心周波数が63Hzの帯域は、45Hz−90Hzである。そして、床材2cは、低周波側、すなわち45Hz側の衝撃音レベルが高い。
【0048】
そこで、本実施形態においては、63Hz帯域のうち、特に衝撃音レベルが高い帯域である45Hz−60Hzを振動低減の対象とするために、上記のような共振周波数が設定されている。つまり、第一共振周波数及び第二共振周波数は、制振対象としての床材2c自身の振動特性は、高周波になるほど振幅が小さくなる領域に設定されている。
【0049】
さらに、
図7及び
図8に示すように、第一制振ダンパ100は、ピーキーな共振特性を有するのに対して、第二制振ダンパ200は、ブロードな共振特性を有する。つまり、第一制振ダンパ100の第一のQ値は、第二制振ダンパ200の第二のQ値より大きい。また、第一制振ダンパ100の第一の損失係数η及び第一の減衰比ζは、第二制振ダンパ200の第二の損失係数η及び第二の減衰比ζより小さい。
【0050】
また、第一制振ダンパ100の第一共振周波数における伝達関数は、22dB程度である。第二制振ダンパ200の第二共振周波数における伝達関数は、15dB程度である。つまり、第一制振ダンパ100の第一共振周波数における伝達関数は、第二制振ダンパ200の第二共振周波数における伝達関数より大きく設定されている。
【0051】
(6.比較例1−4の態様の説明)
比較例1−4の態様について説明する。まず、比較例1−3に用いる第三制振ダンパ300及び第四制振ダンパ400の構成について、
図9−
図10を参照して説明する。
【0052】
比較例1は、低周波側として第三制振ダンパ300を設置し、高周波側として第四制振ダンパ400を設置する場合とする。比較例2は、低周波側として第三制振ダンパ300を設置し、高周波側として第二制振ダンパ200を設置する場合とする。比較例3は、低周波側として第一制振ダンパ100を設置し、高周波側として第四制振ダンパ400を設置する場合とする。比較例4は、制振装置を設置しない場合とする。
【0053】
第三制振ダンパ300は、比較例1,2において第一制振ダンパ100に置換されるダンパであって、低周波側の振動低減効果を発揮する。第三制振ダンパ300は、板バネ310と、マス20と、粘弾性部材30とを備える。板バネ310は、第一制振ダンパ100の板バネ10とは、ひょうたん型貫通孔13a及び貫通孔15a(
図3に示す)の位置が異なる。つまり、第三制振ダンパ300は、第一制振ダンパ100に対して、マス位置座標Lc1及び粘弾性部材位置座標Lc2が異なる。
【0054】
具体的には、第三制振ダンパ300のマス20は、第一制振ダンパ100のマス20より、板バネ310の自由端側に位置する。つまり、Lc1>La1の関係を有する。また、第三制振ダンパ300の粘弾性部材30は、第一制振ダンパ100の粘弾性部材30より板バネ310の自由端側に位置する。つまり、Lc2>La2の関係を有する。また、Lc1>Lc2の関係を有する。
【0055】
第四制振ダンパ400は、比較例1,3において第二制振ダンパ200に置換されるダンパであって、高周波側の振動低減効果を発揮する。第四制振ダンパ400は、板バネ410と、マス20と、粘弾性部材30とを備える。板バネ410は、第二制振ダンパ200の板バネ210とは、ひょうたん型貫通孔13a及び貫通孔15a(
図3に示す)の位置が異なる。つまり、第四制振ダンパ400は、第二制振ダンパ200に対して、マス位置座標Ld1及び粘弾性部材位置座標Ld2が異なる。
【0056】
具体的には、第四制振ダンパ400のマス20は、第二制振ダンパ200のマス20より、板バネ410の基端側に位置する。つまり、Ld1<Lb1の関係を有する。また、第四制振ダンパ400の粘弾性部材30は、第二制振ダンパ200の粘弾性部材30より板バネ410の基端側に位置する。つまり、Ld2<Lb2の関係を有する。また、Ld1>Ld2の関係を有する。
【0057】
第三制振ダンパ300及び第四制振ダンパ400の制振特性としての周波数応答関数について、
図11及び
図12を参照して説明する。第三制振ダンパ300は、48Hz付近に共振周波数を有する。第四制振ダンパ400は、55Hz付近に共振周波数を有する。
【0058】
さらに、第三制振ダンパ300は、第一制振ダンパ100に比べて、ブロードな共振特性を有する。つまり、第三制振ダンパ300のQ値は、第一制振ダンパ100の第一のQ値より小さい。第三制振ダンパ300の損失係数η及び減衰比ζは、第一制振ダンパ100の損失係数η及び減衰比ζより大きい。また、第三制振ダンパ300の共振周波数における伝達関数は、15dB程度である。つまり、第三制振ダンパ300の共振周波数における伝達関数は、第一制振ダンパ100の第一共振周波数における伝達関数より小さく設定されている。
【0059】
第四制振ダンパ400は、第二制振ダンパ200に比べて、ピーキーな共振特性を有する。つまり、第四制振ダンパ400のQ値は、第二制振ダンパ200の第二のQ値より大きい。第四制振ダンパ400の損失係数η及び減衰比ζは、第二制振ダンパ200の損失係数η及び減衰比ζより小さい。また、第四制振ダンパ400の共振周波数における伝達関数は、22dB程度である。つまり、第四制振ダンパ400の共振周波数における伝達関数は、第二制振ダンパ200の第一共振周波数における伝達関数より大きく設定されている。
【0060】
(7.本実施形態及び比較例1−4の音圧レベル)
次に、本実施形態の制振装置1及び比較例1−4のそれぞれを適用した場合に、重量床衝撃を床材2cに付与した時の周波数毎の音圧レベルについて計測した。本実施形態では、低周波側の第一制振ダンパ100がピーキーな特性であり、高周波側の第二制振ダンパ200がブロードな共振特性である。比較例1では、低周波側の第三制振ダンパ300がブロードな共振特性であり、高周波側の第四制振ダンパ400がピーキーな特性である。比較例2では、低周波側の第三制振ダンパ300、高周波側の第二制振ダンパ200共にブロードな共振特性である。比較例3では、低周波側の第一制振ダンパ100、高周波側の第四制振ダンパ400共にピーキーな特性である。比較例4では、制振装置無しのものである。
【0061】
計測結果は、
図13に示すとおりである。
図13において、本実施形態の制振装置1を適用した場合は、太実線にて示し、比較例1は、破線にて示し、比較例2は、一点鎖線にて示し、比較例3は、二点鎖線にて示し、比較例4は、細実線にて示す。また、オクターブバンド中心周波数が63Hzの帯域の重量床衝撃音レベル(L値)は、表1に示すとおりである。
【0063】
ここで、
図13の比較例4より分かるように、制振されていない状態の床材2cの振動は、45Hzから高周波になるほど音圧レベルが小さくなっている。音圧レベルは、床材2cの振幅に相関がある。つまり、床材2cの振幅は、45Hzから高周波になるほど小さくなっている。そして、オクターブバンド中心周波数が63Hzの帯域となる45−90Hzにおいて、45−55Hz付近の音圧レベルが最も高くなっている。従って、45−55Hzの帯域の音圧レベルを低減できれば、63HzのL値を小さくできる。
【0064】
制振装置を設置しない比較例4に比べると、本実施形態及び比較例1−3は、何れも振動低減効果を得ることができた。比較例1においては、50Hz付近及び57Hz付近において、周辺の周波数帯に比べて音圧レベルが高くなっていることが分かる。比較例2においては、45Hz−60Hzの帯域において、急峻な山を有していないが、50Hz付近が最も音圧レベルが高くなっている。比較例3においては、45Hz−53Hzの帯域においては音圧レベルが低くなっているが、57Hz付近において音圧レベルが急に高くなっていることが分かる。
【0065】
一方、本実施形態の制振装置1を適用した場合には、54Hz付近にて僅かに音圧レベルが高くなっているが、比較例1−4に比べると低い。そのため、本実施形態の制振装置1を適用した場合には、最も高い音圧レベルが非常に低くなっていることが分かる。上記のことは、表1より明らかである。
【0066】
(8.実施形態の効果)
本実施形態の制振装置1は、制振対象に取り付けられる第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200を備える。第一制振ダンパ100の第一共振周波数は、第二制振ダンパの第二共振周波数より低く設定されている。第一制振ダンパ100による第一のQ値は、第二制振ダンパ200による第二のQ値より大きく設定されている。
【0067】
Q値が大きいほど、共振の鋭さが強くなり、ピーキーな共振特性となる。Q値が大きいほど、減衰比ζ及び損失係数ηが小さくなる関係がある。一方、Q値が小さいと、共振の鋭さが弱くなり、ブロードな共振特性となる。Q値が小さいほど、減衰比ζ及び損失係数ηが大きくなる関係がある。
【0068】
本実施形態において、第一制振ダンパ100の第一のQ値は、第二制振ダンパ200の第二のQ値より大きい。つまり、第一制振ダンパ100は、相対的にピーキーな共振特性を有するのに対して、第二制振ダンパ200は、相対的にブロードな共振特性を有する。
【0069】
ここで、ピーキーな共振特性を有する場合には、ブロードな共振特性を有する場合に比べて、反共振が特定の周波数に大きく発生しやすい。そのため、第一制振ダンパ100の設置に伴って、特に、第一制振ダンパ100の第一共振周波数より高い周波数帯域に、ピーキーな反共振による振動が現れる。しかし、第二制振ダンパ200の第二共振周波数は、第一制振ダンパ100の第一共振周波数より高周波数である。そのため、第一制振ダンパ100によって現れる反共振による振動は、第二制振ダンパ200によって低減することができる。
【0070】
第二制振ダンパ200の設置に伴って、第二制振ダンパ200の第二共振周波数より高い周波数帯域に、反共振による振動が現れる。ただし、第二制振ダンパ200は、ブロードな共振特性を有するため、反共振による振動もブロードな共振特性となる。そのため、第二制振ダンパ200の設置に伴う反共振による振動によって、制振対象の振動レベルへの影響は小さい。従って、制振装置1は、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200を備えることにより、振動レベルの低減効果を確実に発揮することができる。
【0071】
また、
図13の細実線に示すように、例えば、床材2cなどの制振対象自身の振動特性は、高周波になるほど振幅が小さくなる領域を有している。そして、第一共振周波数及び第二共振周波数は、振幅が小さくなる領域に設定されている。さらに、第一制振ダンパ100の制振特性において第一共振周波数における伝達関数は、第二制振ダンパ200の制振特性において第二共振周波数における伝達関数より大きく設定される。上記のような振動特性を有する制振対象に、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200を設置することにより、広範囲の周波数帯域に対して高い制振効果を発揮できる。その結果、対象の周波数帯域における最大の振幅を小さくすることができる。
【0072】
また、上記実施形態においては、制振対象は、床材2cとした。この場合、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、床材の異なる位置に取り付けられる。この場合、制振装置1は、床材2cの振動を確実に低減できる。さらに、制振装置1は、床材2cの振動に起因した騒音の低減効果を発揮する。
【0073】
また、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、マス20と、マス20と制振対象である床材2cとの間に介在するバネ要素(10,30)とを備える。いわゆる、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、動吸振器である。そして、バネ要素(10,30)は、金属バネ10及び粘弾性部材30を備える複合バネとした。これにより、第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200は、共振周波数を異ならせることができると共に、ブロードな共振特性とピーキーな共振特性との調整を図ることも容易となる。
【0074】
そして、金属バネ10は、一端が制振対象である床材2cに取り付けられ、他端がマス20に取り付けられる板バネとした。そして、粘弾性部材30は、板バネ10に取り付けられ、板バネ10と制振対象である床材2cとの間に挟まれている。そのため、粘弾性部材30は、板バネ10の振動に伴って粘弾性部材30の圧縮量が変化する。第一制振ダンパ100及び第二制振ダンパ200が、このような構成を採用することにより、共振周波数の調整、及び、ブロード共振特性とピーキーな共振特性の調整が容易となる。
【0075】
特に、第一制振ダンパ100におけるマス20と粘弾性部材30との相対位置と、第二制振ダンパ200におけるマス20と粘弾性部材30との相対位置とが、異なることで、第一制振ダンパ100による第一のQ値が、第二制振ダンパ200による第二のQ値より大きく設定される。このように、Q値の調整は、非常に容易となる。
【0076】
また、第一制振ダンパ100における板バネ10と、第二制振ダンパ200における板バネ10とは、同種であり、第一制振ダンパ100におけるマス20と、第二制振ダンパ200におけるマス20とは、同種である。これにより、低コストで、複数種類の制振ダンパを準備することができる。
【0077】
また、第二制振ダンパ200の第二共振周波数を含む所定周波数帯は、第一制振ダンパ100による反共振の周波数を含むように設定されている。上述したように、第一制振ダンパ100の第一共振周波数は、例えば47Hz付近である。この場合、第一制振ダンパ100による反共振は、50−57Hz付近にピークを有する。そして、第二制振ダンパ200の第二共振周波数は、55Hzである。従って、第一制振ダンパ100と第二制振ダンパ200により、広範囲の周波数帯域の制振効果を確実に発揮する。