特許第6814726号(P6814726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814726
(24)【登録日】2020年12月23日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】転圧車両
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/26 20060101AFI20210107BHJP
   E01C 19/28 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   E01C19/26
   E01C19/28
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-246903(P2017-246903)
(22)【出願日】2017年12月22日
(65)【公開番号】特開2019-112823(P2019-112823A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】菅嶋 進弥
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 貴尚
(72)【発明者】
【氏名】池田 豊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀徳
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−094310(JP,U)
【文献】 国際公開第2017/121717(WO,A1)
【文献】 特開2008−155767(JP,A)
【文献】 特開2000−129621(JP,A)
【文献】 特開平08−134824(JP,A)
【文献】 特表2019−507255(JP,A)
【文献】 実開昭57−110109(JP,U)
【文献】 特開平07−305312(JP,A)
【文献】 米国特許第04162862(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C1/00−19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体からアームを介して走行輪を兼ねた転圧輪を支持し、該転圧輪により走行しながら路面を転圧する転圧車両において、
前記路面に向けてレーザーを照射し、車幅方向において前記転圧輪の端部と一致し且つ該転圧輪の前側または後側の少なくとも何れか一方に位置するように、前記路面上にマーカーを投影するレーザー表示器を備え
前記車体は、前部車体と後部車体とをアーティキュレート機構を介して連結してなり、
前記レーザー表示器は、前記転圧車両の前部転圧輪の後側に前記マーカーとして前記前部転圧輪の進行方向に沿って延びるライン状をなすラインマーカーを投影し、前記転圧車両の後部転圧輪の前側に前記マーカーとして前記後部転圧輪の進行方向に沿って延びるライン状をなすラインマーカーを投影する
ことを特徴とする転圧車両。
【請求項2】
前記レーザー表示器は、前記アームの上部が固定された前記車体の固定ベース上に配設され、車幅方向において前記転圧輪の端部の直上に位置して前記レーザーの光軸を鉛直方向に指向させた
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項3】
前記レーザー表示器は、前記アームの上部が固定された前記車体の固定ベースの内部に配設され、車幅方向において前記転圧輪の端部の直上に位置して前記レーザーの光軸を鉛直方向に指向させた
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項4】
前記レーザー表示器は、前記マーカーとして前記転圧輪の進行方向に沿って延びるラインマーカーを投影する
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項5】
前記レーザー表示器は、前記転圧車両の前部転圧輪の前側または前記転圧車両の後部転圧輪の後側に前記ラインマーカーを投影し、
前記前部転圧輪の前側に投影された前記ラインマーカーの前側または前記後部転圧輪の後側に投影された前記ラインマーカーの後側を切り詰めて長さを調整可能な長さ調整手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項4に記載の転圧車両。
【請求項6】
前記レーザー表示器は、前記転圧輪の端部よりも車幅方向で内側に配設され、前記レーザーの光軸を車幅方向で斜め外側に指向させている
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転圧輪の端部と転圧ぎわとの位置関係を容易且つ正確に認識可能な転圧車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転圧車両は、車体の前後に備えられた走行輪を兼ねた転圧輪により走行しながら、路面に敷きつめた砂利やアスファルト等の舗装材を転圧する締固め作業に使用されている。例えば、歩道の縁石を転圧ぎわとして路面を転圧する場合、オペレータは縁石まで転圧車両を寄せた上で、半身を乗り出した無理な姿勢で転圧輪の端部を目視しながら、転圧ぎわに沿って転圧輪が移動するように車両を軌道修正している。
【0003】
このようなオペレータの負担を軽減するために、例えば特許文献1に記載の技術では、転圧車両の前部の左右角部に複数個の突起を列設している。これらの突起は、例えば乗用車のバンパ角部に立設されたコーナーポールと同じくオペレータの車両感覚を補うための装備であり、オペレータは転圧輪の端部を目視することなく通常の運転姿勢のまま、例えば、車両前方に見える縁石の転圧ぎわと突起との位置関係に基づき車両を軌道修正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−134824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、あくまでも突起を利用して転圧ぎわと転圧輪の端部との位置関係を間接的に推測するものでしかない。従って、転圧輪の端部を直接目視した場合のように転圧ぎわとの位置関係を正確に認識できず、結果として転圧ぎわに沿った的確な転圧が困難なことから転圧後の路面品質の点で改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、転圧輪の端部を直接目視しなくても、転圧ぎわとの位置関係を容易且つ正確に認識でき、オペレータの負担を軽減した上で良好な路面品質を実現することができる転圧車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧車両は、車体からアームを介して走行輪を兼ねた転圧輪を支持し、該転圧輪により走行しながら路面を転圧する転圧車両において、前記路面に向けてレーザーを照射し、車幅方向において前記転圧輪の端部と一致し且つ該転圧輪の前側または後側の少なくとも何れか一方に位置するように、前記路面上にマーカーを投影するレーザー表示器を備え、前記車体は、前部車体と後部車体とをアーティキュレート機構を介して連結してなり、前記レーザー表示器は、前記転圧車両の前部転圧輪の後側に前記マーカーとして前記前部転圧輪の進行方向に沿って延びるライン状をなすラインマーカーを投影し、前記転圧車両の後部転圧輪の前側に前記マーカーとして前記後部転圧輪の進行方向に沿って延びるライン状をなすラインマーカーを投影することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転圧車両によれば、転圧輪の端部を直接目視しなくても、転圧ぎわとの位置関係を容易且つ正確に認識でき、オペレータの負担を軽減した上で良好な路面品質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の振動ローラを示す側面図である。
図2】直進状態の振動ローラを示す平面図である。
図3】振動ローラを示す正面図である。
図4】振動ローラを示す斜視図である。
図5】左側のアームを介した前部転圧輪の支持構造を示す分解斜視図である。
図6】レーザー表示器の原理を示す模式図である。
図7】第1実施形態の振動ローラのレーザー表示器からのレーザーの照射状態を示す模式図である。
図8】非直進状態の振動ローラを示す平面図である。
図9】第2実施形態の振動ローラのレーザー表示器からのレーザーの照射状態を示す模式図である。
図10】第3実施形態の振動ローラのレーザー表示器からのレーザーの照射状態を示す模式図である。
図11】第4実施形態の振動ローラのレーザー表示器からのレーザーの照射状態を示す模式図である。
図12】第5実施形態の振動ローラのレーザー表示器の設置状態を示す正面図である。
図13】同じくレーザー表示器の設置状態を示す図1のXIII-XIII線に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を振動ローラに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の振動ローラを示す側面図、図2は直進状態の振動ローラを示す平面図、図3は振動ローラを示す正面図、図4は振動ローラを示す斜視図である。以下の説明では、振動ローラに搭乗したオペレータを主体として前後、左右、上下方向を表現する。
【0011】
本実施形態の振動ローラ1(以下、車両と称することもある)は、前部転圧輪2及び後部転圧輪3をほぼ車幅と等しい長さの金属ドラムで構成したタンデム型である。振動ローラ1の車体は前部車体4と後部車体5とから構成され、前部車体4の左右両側に設けられたアーム4aを介して前部転圧輪2が回転可能に支持され、後部車体5の左右両側に設けられたアーム5aを介して後部転圧輪3が回転可能に支持されている。
【0012】
前部車体4と後部車体5とは、センタピンを中心として水平方向に屈曲可能なアーティキュレート機構6を介して連結され、相互に屈曲することで車両1を旋回させるようになっている。車幅方向において、前部転圧輪2と後部転圧輪3とは完全に一致している。このため車両1の直進状態では、前部転圧輪2の左端と後部転圧輪3の左端とが一致し、前部転圧輪2の右端と後部転圧輪3の右端とが一致し、それぞれ左右の転圧ぎわを正確に転圧可能となっている。
【0013】
後部車体5上の前側位置にはステアリング7を備えた操作台8が設置され、操作台8の後側にはベンチ式の運転席9が設置されている。運転席9に着座した作業者はステアリング7及び操作台両脇の前後進レバー10を操作し、その操作に応じて、前部車体4に搭載された図示しないエンジンで駆動されるHST(Hydro Static Transmission)を動力源として振動ローラ1が走行するようになっている。
【0014】
前部転圧輪2には前部散水ノズル11が配設され、後部転圧輪3には後部散水ノズル12が配設され、これらの散水ノズル11,12は後部車体5上に設置された散水タンク13と接続されている。締固め作業の際には、転圧輪2,3への舗装材の付着防止のために、散水タンク13に貯留された水が散水ノズル11,12から転圧輪2,3の外周面に散水される。
なお、図示はしないが前部及び後部転圧輪2,3には起振装置が内蔵されており、締固め作業の際には起振装置により転圧輪2,3が加振されて路面の締固めが効率的に行われるようになっている。
【0015】
ところで、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、転圧ぎわの路面を転圧する際に、オペレータが無理な運転姿勢で転圧輪の端部を目視する必要がないように、特許文献1の転圧車両では、前部の左右角部に複数の突起を列設していた。しかし、突起を利用して転圧ぎわと転圧輪の端部との位置関係を間接的に推測するものでしかないため、転圧ぎわに沿った的確な転圧が困難であるという問題があった。
【0016】
このような不具合を鑑みて本発明者は、各転圧輪2,3から前方或いは後方に外れた位置では、例えば歩道の縁石等の転圧ぎわをオペレータが通常の運転姿勢で目視可能な点に着目した。即ち、これらの前後位置では転圧輪2,3の端部が存在していないため、そのままでは転圧ぎわとの位置関係を認識することはできない。しかし、路面上の転圧輪2,3の端部に相当する車幅方向の位置に擬似的にマーカーを表示すれば、マーカーを転圧輪2,3の端部と見なして転圧ぎわとの位置関係をオペレータが直接的に目視・認識できる。
以上の知見の下に、レーザー表示器を利用して路面上にマーカーを投影する対策を講じたものが本発明であり、以下に第1〜5実施形態として説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図5は左側のアーム4aを介した前部転圧輪2の支持構造を示す分解斜視図である。右側のアーム4a及び後部転圧輪3の左右のアーム5aについても同一の支持構造であるため、この左側のアーム4aを代表として説明する。
前部車体4の左側面には下方に開放された倒立凹状をなす固定ベース15が溶接され、固定ベース15の左端には複数の雌ネジ15aを有するフランジ部15bが形成されている。フランジ部15bにはアーム4aの上部がボルト16により締結され、アーム4aの下部は前部転圧輪2の左側面に対し相対回転可能なようにボルト17により締結されている。
【0018】
固定ベース15の上面にはブラケット18を介してレーザー表示器19が支持され、詳細は後述するが、レーザー表示器19から下方に向けて照射されたレーザーにより、路面上には前部転圧輪2の左端を擬似的に示すマーカーが投影される。同じく前部車体4から右側のアーム4aを支持する固定ベース15上、及び後部車体5から左右のアーム5aを支持する左右の固定ベース15上にも、それぞれブラケット18を介してレーザー表示器19が支持され、各レーザー表示器19からのレーザーにより対応する転圧輪2,3の端部を示すマーカーが路面上に投影される。
【0019】
図6はレーザー表示器19の原理を示す模式図である。レーザー表示器19のケーシング21内には、上側より順に光源22、投光レンズ23、円筒状のロッドレンズ24が所定の間隔をおいて配置されている。光源22より下方に向けて照射されたビーム状のレーザーは投光レンズ23を経てロッドレンズ24に入力され、ロッドレンズ24の外周面の曲率方向に拡散される。
【0020】
これにより下方の投影面(路面25に相当)において、レーザーは所定方向に延びるライン状のマーカー(以下、ラインマーカーと称する)として投影される。ロッドレンズ24の設置角度に応じてレーザーの拡散状態、ひいてはラインマーカーの湾曲状態が変化するため、投影面に完全な直線をなすラインマーカーが投影されるように、事前にロッドレンズ24の角度が調整されている。
【0021】
各レーザー表示器19の位置及び姿勢は、以下に述べるように設定されている。前部左側のレーザー表示器19を例に挙げて述べると、図3に示すように車幅方向で固定ベース15の直上(前部転圧輪2の左端の直上)に位置し、そのレーザーの光軸Lは鉛直方向に指向して前部転圧輪2の左端と一致している。また図4及び図7の模式図に示すように、前部左側のレーザー表示器19は前後方向で固定ベース15の直上(前部転圧輪2の回転中心の直上)に位置すると共に、そのロッドレンズ24によるレーザーの拡散方向は、前部転圧輪2の進行方向に沿うように設定されている。
【0022】
図7に示すように、前部左側のレーザー表示器19からのレーザーは、固定ベース15により遮られて前後に分断されている。このためラインマーカーは、車幅方向において前部転圧輪2の左端と一致し、且つ前部転圧輪2の前側及び後側でそれぞれ前部転圧輪2の進行方向に延びるように路面25上に投影されている。この前部転圧輪2に対するラインマーカーの位置関係は、アーティキュレート機構6による操舵に関わらず変化しない。
【0023】
他のレーザー表示器19についても同様であり、図2に示すように、前部右側のレーザー表示器19により投影されるラインマーカーは、前部転圧輪2の右端と一致し、且つ前部転圧輪2の前側及び後側で進行方向に延び、後部左側のレーザー表示器19により投影されるラインマーカーは、後部転圧輪3の左端と一致し、且つ後部転圧輪3の前側及び後側で進行方向に延び、後部右側のレーザー表示器19により投影されるラインマーカーは、後部転圧輪3の右端と一致し、且つ後部転圧輪3の前側及び後側で進行方向に延びている。
【0024】
以下説明の便宜上、前部左右両側のレーザー表示器19により投影される前側のラインマーカーにFfを付し、後側のラインマーカーにFrを付す。同じく後部左右両側のレーザー表示器19により投影される前側のラインマーカーにRfを付し、後側のラインマーカーにRrを付して区別する。
【0025】
図2から判るように車両1の直進状態では、左側のラインマーカーFrの後端と左側のラインマーカーRfの前端とがオーバラップし、同じく右側のラインマーカーFrの後端と右側のラインマーカーRfの前端とがオーバラップしている。
【0026】
次に、以上のように振動ローラ1に設置された各レーザー表示器19による締固め作業での作用について説明する。
締固め作業では、操作台8に設けられた図示しないスイッチのON操作に応じて各レーザー表示器19からレーザーが照射され、路面25上には、通常の運転姿勢でオペレータが目視可能なようにラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrが投影される。
【0027】
詳しく述べると、左右のラインマーカーFfは前部転圧輪2の左右両端部から前方に外れた位置に投影され、オペレータは前部車体4越しに目視可能である。
また、左右のラインマーカーFrは前部転圧輪2の左右両端から後方に外れた位置に投影され、左右のラインマーカーRfは後部転圧輪3の左右両端から前方に外れた位置に投影されている。換言すると、これらのラインマーカーFr,Rfは前部及び後部車体4,5を連結するアーティキュレート機構6の左右両側に投影され、オペレータは左右の足元を見下ろすことにより視認可能である。
また、左右のラインマーカーRrは後部転圧輪3の左右両端部から後方に外れた位置に投影され、オペレータは左右に振り返って後部車体5越しに目視可能である。
【0028】
そして、車両左側に投影される各ラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrは、車幅方向において前部及び後部転圧輪2,3の左端と一致している。このため、例えば車両左側に位置する歩道の縁石を転圧ぎわとして路面25を転圧する場合、各ラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrを転圧輪2,3の左端と見なして、転圧ぎわとの位置関係をオペレータが直接的に目視・認識できる。
同様に、車両右側の各ラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrは、車幅方向において前部及び後部転圧輪2,3の右端と一致しているため、車両右側を転圧ぎわとした場合、各ラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrを転圧輪2,3の右端と見なして、転圧ぎわとの位置関係をオペレータが直接的に目視・認識できる。
【0029】
このように、転圧輪2,3の端部を表すラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrを路面25上に擬似的に投影することにより、オペレータは転圧輪2,3の端部を直接目視することなく通常の運転姿勢のまま、転圧ぎわとの位置関係を容易且つ正確に認識でき、これによりオペレータの負担を軽減した上で、転圧ぎわに正確に沿って転圧輪2,3を移動させて極めて良好な路面品質を実現することができる。
【0030】
一方、各ラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrを投影するためのレーザー表示器19は、それぞれアーム4a,5aを支持する固定ベース15上、換言すると各転圧輪2,3の端部の直上に位置している。そして、各レーザー表示器19の近接位置には、車幅方向において転圧輪2,3の端部よりも車両外側に張り出したアーム4a,5aの上部が位置している。
このため、例えばブロック塀等を転圧ぎわとして転圧する場合に、アーム4a,5aの上部に守られてレーザー表示器19とブロック塀との接触が防止され、レーザー表示器19の破損を未然に回避できるという効果も得られる。
【0031】
加えてラインマーカーFr,Rfは、車両1の直進状態を見極めるための指標としても機能する。
図2に基づき述べたように、車両1の直進状態では左右両側のラインマーカーFr,Rfがそれぞれオーバラップしている。これに対して、図8に示すように左右何れかに車両1が操舵された非直進状態では、アーティキュレート機構6のセンタピンを中心とした車両1の屈曲により、左右何れか一方のラインマーカーFr,Rfが角度をなして離間し、他方のラインマーカーFr,Rfが操舵角に応じた角度で交差する。このため、オペレータはラインマーカーFr,Rfの位置関係に基づき、車両1が直進状態にあるか否かを直感的に判別できる。
【0032】
なお、ラインマーカーFr,Rfがオーバラップしている方が直進状態か否かを判別し易いものの、オーバラップしていなくても判別可能であり、このようなラインマーカーFr,Rfの設定も本発明は含むものとする。
【0033】
締固め作業において、アスファルト舗装材等の転圧中に車両1が操舵されると路面25に歪みが生じるため、転圧すべき路面25への侵入前に予め車両1が直進状態となるように操舵角を調整している。従来は、このような直進状態か否かの判断及び直進状態への操舵角の調整をオペレータの勘に頼っていたため、直進状態への操舵が完全でないまま路面25に侵入する場合も多々あり、路面品質を低下させる要因の一つとなっていた。
【0034】
本実施形態では、ラインマーカーFr,Rfを指標として車両1が直進状態か否かを直感的に判別できる。しかも直進状態に保たれていないときには、ラインマーカーFr,Rfを指標として操舵角を容易且つ正確に調整できることから、確実に車両1を直進状態として路面25に侵入させることができる。この点も、オペレータの負担軽減及び路面品質の向上に大きく貢献する。
【0035】
ところで、本実施形態では各固定ベース15の直上にレーザー表示器19を設置したが、その設置位置はこれに限るものではなく、例えば固定ベース15の内部に設置してもよく、その構成を第2実施形態として以下に述べる。
【0036】
[第2実施形態]
図9は本実施形態の振動ローラ1のレーザー表示器19からのレーザーの照射状態を示す模式図である。第1実施形態との相違点は、レーザー表示器19の設置位置及びレーザーの照射状態にあり、その他の構成は第1実施形態と同様のため、相違点を重点的に述べる。
【0037】
以下、前部左右両側のレーザー表示器19について述べると、図9に示すように、各レーザー表示器19は固定ベース15の内部に配設され、図示しないブラケットに支持されて下方に向けてレーザーを照射するようになっている。各レーザー表示器19が前部転圧輪2の端部の直上に位置し、そのレーザーの光軸Lが鉛直方向に指向している点についても第1実施形態と同様である。レーザー表示器19の直下には第1実施形態の固定ベース15に代えて遮光板31が水平配置され、これに遮られてレーザーが前後に分断されている。
【0038】
後部左右両側のレーザー表示器19についても全く同一構成であり、各レーザー表示器19からのレーザーにより、車両1の左右両側の路面25上には第1実施形態と同様のラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrが投影される。従って重複する説明はしないが、これらのラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrにより第1実施形態と同様の種々の作用効果が達成される。
特に本実施形態では、固定ベース15内にレーザー表示器19が配設されているため、障害物との接触による破損を一層確実に防止できる。
【0039】
ところで、振動ローラ1を運転するオペレータのアイポイントは体格差(特に座高)により相違し、アイポイントが低いオペレータにとって、前部転圧輪2の前方に投影されるラインマーカーFf、及び後部転圧輪3の後方に投影されるラインマーカーRrが車体4,5に遮られて見えづらくなる。このため視認性の観点からは、ラインマーカーFfをより前方に、ラインマーカーRrをより後方に延長することが望ましい。
【0040】
一方、締固め作業では振動ローラ1による転圧作業と並行して、その前方や後方で他の作業者による作業が実施されている。これらの作業者にとって、特に夜間作業では路面25上に投影されたラインマーカーFr,Rrが眩しく感じられ、ラインマーカーFf,Rrを延長するほど作業者の視界に入り易くなるため、その弊害が顕著化する。従って、周囲の作業効率の観点からは、ラインマーカーFf,Rrの延長化は望ましくない。
この相反する要求を満足するためにラインマーカーFf,Rrの長さを調整可能としてもよく、その構成を第3,4実施形態として以下に述べる。
【0041】
[第3実施形態]
図10は本実施形態の振動ローラ1のレーザー表示器19からのレーザーの照射状態を示す模式図である。本実施形態は、図7に示す第1実施形態の各レーザー表示器19に対してそれぞれ遮光板41(長さ調整手段)を追加したものであるため、相違点を重点的に述べる。
【0042】
以下、前部左右両側のレーザー表示器19について述べると、遮光板41は固定ベース15の前方に水平配置され、図示はしないが、前部車体4に設けられたブラケットに対して任意の前後位置に調整可能なようにボルトにより締結されている。
【0043】
図中に仮想線で示す遮光板41の前方位置では、レーザー表示器19からのレーザーが遮光板41により遮られず、路面25上に最大長さのラインマーカーFfが投影される。また、図中に実線で示す後方位置では、レーザーの前側領域が遮光板41により最大限に遮られ、前側を切り詰めた最も短い長さのラインマーカーFfが投影される。以上の前方位置と後方位置との間で、ラインマーカーFfの長さを任意に調整可能になっている。
なお、遮光板41に関する構成はこれに限るものではなく、例えば電動モータにより遮光板41を位置調整できるように構成してもよい。
【0044】
以上の前部左右両側のレーザー表示器19に対し、図示はしないが、後部左右両側のレーザー表示器19はレーザーの光軸Lを挟んだ前後対称の同一構成となっている。従って、照射したレーザーの後側領域が遮光板41の位置に応じて適宜遮られることにより、ラインマーカーRrの後側を切り詰めて長さを任意に調整可能になっている。
【0045】
締固め作業において、車両1に搭乗したオペレータは自身の体格に合わせて前後の遮光板41を位置調整する。例えばアイポイントの高いオペレータは、ラインマーカーFf,Rrを短くしても車体4,5に遮られることなく視認可能なため、前側の遮光板41を後方位置に、後側の遮光板41を前方位置に調整する。これによりラインマーカーFfの前側及びラインマーカーRrの後側がそれぞれ切り詰められて最も短くされ、周囲の作業者の視界に入り難くなる。
【0046】
また、アイポイントの低いオペレータは、車体4,5に遮られてラインマーカーFf,Rrが見えづらいため、前側の遮光板41を前方位置に、後側の遮光板41を後方位置に調整する。これによりラインマーカーFfが前方に延長され、ラインマーカーRrが後方に延長されるため、それらをオペレータが視認可能となる。
【0047】
結果として本実施形態では、オペレータの体格差に関わらずラインマーカーFf,Rrを確実に視認可能とした上で、そのアイポイントに合わせてラインマーカーFf,Rrの長さを切り詰めて、周囲の作業者の眩しさを最大限に防止できる。よって、これらの相反する要求を共に満足して、全体としての締固め作業の効率化を一層向上することができる。
【0048】
[第4実施形態]
図11は本実施形態の振動ローラ1のレーザー表示器19からのレーザーの照射状態を示す模式図である。本実施形態は、図9に示す第2実施形態の各レーザー表示器19に対してそれぞれ遮光板51(長さ調整手段)を追加したものである。遮光板51に関する構成は第3実施形態の遮光板41と同様であるため重複する説明はしないが、第3実施形態と同じく、オペレータによるラインマーカーFf,Rrの視認性と周囲の作業者の眩しさ防止とを高い次元で両立することができる。
【0049】
ところで第1〜4実施形態では、車幅方向において各転圧輪2,3の端部の直上にそれぞれレーザー表示器19を配設した。しかし、各転圧輪2,3の端部と一致した位置にラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrを投影できれば、レーザー表示器19の位置については転圧輪2,3の端部の直上から外れていてもよく、その構成を第5実施形態として以下に述べる。
【0050】
[第5実施形態]
図12は本実施形態の振動ローラ1のレーザー表示器19の設置状態を示す正面図、図13は同じくレーザー表示器19の設置状態を示す図1のXIII-XIII線に相当する断面図である。
以下、前部左側のレーザー表示器19について述べると、第1実施形態では単一のレーザー表示器19によりラインマーカーFf,Frを投影したが、本実施形態では、前後一対のレーザー表示器19によりラインマーカーFf,Frを個別に投影している。
【0051】
具体的には、一方のレーザー表示器19は、図12に示すように前部車体4の前面に取り付けられ、他方のレーザー表示器19は、図13に示すように前部車体4の後面に取り付けられている。各レーザー表示器19は、前部転圧輪2の左端よりも車幅方向で内側に配設され、それぞれレーザーの光軸Lを車幅方向で斜め外側に指向させることにより、路面25上の前部転圧輪2の左端と一致する位置にラインマーカーFf,Frを投影している。この点は、他のレーザー表示器19についても同様の構成が採られている。
【0052】
以上のようにレーザー表示器19の設置状態は第1実施形態と相違するものの、路面25上に投影されるラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrについては相違ない。このため、第1実施形態と同様の種々の作用効果が達成される。
【0053】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、アーティキュレート機構6を備えた振動ローラ1に具体化したが、転圧車両の種別はこれに限るものではなく、例えばアーティキュレート機構を備えないタイヤローラ等に適用してもよい。
【0054】
また上記実施形態では、路面25上の前部転圧輪2の前後にラインマーカーFf,Frを投影し、後部転圧輪3の前後にラインマーカーRf,Rrを投影したが、これに限るものではない。転圧輪2,3の端部と転圧ぎわとの位置関係を目視・認識するには、車両1の左右に何れかのラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrが投影されていればよいため、例えば前部転圧輪2の後側のラインマーカーFrのみを投影するだけでもよい。さらに車両1の直進状態を判別したい場合には、ラインマーカーFrに加えて後部転圧輪3の前側のラインマーカーRfを投影すればよい。
【0055】
また上記実施形態では、レーザー表示器19により路面25上に転圧輪2,3の進行方向に延びるラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrを投影したが、必ずしもライン状とする必要はない。従って、例えば車幅方向において転圧輪2,3の端部と一致する位置にポイント状のマーカーを投影してもよいし、転圧輪2,3の進行方向に沿って連続する多数のポイント状のマーカーを投影してもよい。
【0056】
また上記実施形態では、締固め作業中に全てのレーザー表示器19を作動させたが、その必要は必ずしもない。例えば、転圧ぎわでない路面25を転圧する場合には全てのレーザー表示器19の作動を中止し、転圧ぎわを転圧する場合には、転圧ぎわ側のレーザー表示器19のみを作動させるようにしてもよい。またラインマーカーFf,Fr,Rf,Rrの視認性を向上させるために、昼間や夜間等の周囲の照度に応じてレーザーの輝度を調整してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 振動ローラ(転圧車両)
2 前部転圧輪
3 後部転圧輪
4 前部車体
4a,5a アーム
5 後部車体
6 アーティキュレート機構
15 固定ベース
19 レーザー表示器
41,51 遮光板(長さ調整手段)
L 光軸
Ff,Fr,Rf,Rr ラインマーカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13