(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各々が3つの相のうちの1つに対応する、3つの相互接続されたモータコイルを有し、モータコイルの各々に複数のスイッチング回路コンポーネントの少なくとも1つを通して電流が供給されるタイプの三相モータの回転を制御する方法であって、
前記モータの回転と同期して、前記スイッチング回路コンポーネントの各々に対する可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させるステップと、
前記発生した可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を用いてスイッチング回路コンポーネントを制御して、モータコイルのペアを選択的に電流伝導状態に置き、前記相の各々に対して関連付けられた変化する電圧を展開するステップと、
前記3つの相の各々のデューティサイクルを監視して、他の2つの相の電圧間の電圧にある1つの相を識別するステップと、
前記識別された1つの相に対して前記可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させて、前記他の2つの相の前記スイッチング回路コンポーネントが同時にスイッチ・オンになったときに前記識別された1つの相の前記スイッチング回路コンポーネントがスイッチ・オンにならないようにするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
前記複数のスイッチング回路コンポーネントの各々は、トランジスタのペアを含み、前記トランジスタの一方はオンになったときにモータコイルに直流電圧を供給するように結合され、一方はオンになったときにモータコイルに接地電圧を供給するように結合されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
位置センサを用いて前記モータの瞬時位置を判定するステップと、前記瞬時位置を用いて、前記スイッチング回路コンポーネントの各々に対する前記可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を前記モータの回転と同期した状態で維持するステップと、をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜請求項2のいずれかに記載の方法。
プログラムされたプロセッサを用いて前記可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法。
前記スイッチング回路コンポーネントの各々に対する可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させる前記ステップは、時間変化する鋸波形を発生させること、及び、プロセッサを用いて、動的に変化する基準値を発生させてこれを前記鋸波形と比較することによって行われることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の方法。
前記変化する電圧を監視する前記ステップは、前記それぞれのモータコイルに結合された電圧検知回路を用いることによって行われることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の方法。
前記可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させるようにプログラムされたプロセッサを用いるステップをさらに含み、前記プロセッサは、前記パルス幅変調信号のそれぞれの論理オン−オフ状態を監視するように、及び、前記識別された1つの相の前記論理オン−オフ状態を制御して、前記他の2つの相が同時に同じ論理オン−オフ状態にあるときに前記識別された1つの相が前記他の2つの相に対して反対極性のままであるようにするように、プログラムされたことを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の方法。
各々が3つの相のうちの1つに対応する、3つの相互接続されたモータコイルを有し、モータコイルの各々に複数のスイッチング回路コンポーネントの少なくとも1つを通して電流が供給されるタイプの三相モータの回転を制御する際に使用するための、非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記非一時的コンピュータ可読媒体は、プロセッサによって動作させたときに、前記プロセッサに請求項1〜請求項7のいずれかに記載の方法を行わせる、実行可能なプログラムを格納することを特徴とする、非一時的コンピュータ可読媒体。
前記複数のスイッチング回路コンポーネントの各々は、トランジスタのペアを含み、前記トランジスタの一方はオンになったときにモータコイルに直流電圧を供給するように結合され、一方はオンになったときにモータコイルに接地電圧を供給するように結合されることを特徴とする、請求項9に記載の回路。
前記モータの瞬時位置を判定する位置センサをさらに含み、前記信号発生器は、前記瞬時位置を用いて、前記スイッチング回路コンポーネントの各々に対する前記可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を前記モータの回転と同期した状態で維持することを特徴とする、請求項9〜請求項10のいずれかに記載の回路。
前記プロセッサは、時間変化する鋸波形を受け取ること、及び、動的に変化する基準値を発生させてこれを前記鋸波形と比較することによって、前記スイッチング回路コンポーネントの各々に対する前記可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させるようにプログラムされたことを特徴とする、請求項9〜請求項12のいずれかに記載の回路。
前記プロセッサは、前記パルス幅変調信号のそれぞれの論理オン−オフ状態を監視するように、及び、前記識別された1つの相の前記論理オン−オフ状態を制御して、前記他の2つの相が同時に同じ論理オン−オフ状態にあるときに前記識別された1つの相が前記他の2つの相に対して反対極性のままであるようにするように、プログラムされたことを特徴とする、請求項9〜請求項13のいずれかに記載の回路。
【発明を実施するための形態】
【0014】
対応する符号は、図面の幾つかの図を通して対応する部分を示す。
【0015】
例示的な実施形態をここで添付の図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0016】
開示される三相モータ駆動回路は、例えば、三相工業用動力工具に駆動電流を供給するのに有用である。したがって、駆動回路をどのように使用することができるかを例証するために、
図1及び
図11は、例示的な動力工具10を示す。三相モータを含む工具(
図11に示す)は、長いケーブル12によって電子コントローラユニット14に結合される。コントローラユニットは、DC電流をHブリッジ回路18に供給するとともにコンピュータ又はプロセッサベースの制御回路20にも供給するDC給電部を含み、制御回路20は、モータのための駆動電流を生成するために使用される一連の可変デューティサイクル波形の発生を制御する。DC給電部16は、適切なGFI回路24を通して接続されたAC電源22から電力供給される。
【0017】
工具10の内部構成要素の幾つかを
図11に分解断面図として示す。三相モータ巻線26は、ロータ150を中心としてそのまわりに配置され、ロータ150は、歯車装置152を通じて出力シャフト154に機械的に結合する。工具ハンドル156内に、
図5及び
図8に関連して後述するプロセッサ及びメモリを含む、工具の電子部品をサポートする回路基板158が配置される。工具は、トルク変換器160を含み、これは、出力154を通して送達される瞬時トルクを測定し、トルクセンサ信号を工具プロセッサに供給して、プロセッサがモータ巻線26に送達される電力を制御することによってトルクをアルゴリズム的に制御又は調節することを可能にする。工具はまた、ロータ位置フィードバックセンサ162も含み、これは磁気センサ又はホール効果センサを使用してロータの瞬時角度位置を測定し、角度位置信号を工具プロセッサに供給する。プロセッサは、この角度位置信号を用いて、3つの相の各々において正弦駆動電流を確立するパルス幅変調パルスを発生させる。
【0018】
本質的に、プロセッサは、ロータの現在の角度位置を読み取るように、及び、コイルによって生成される磁場が現在のロータ位置の90度前方になるようにコイルに通電する駆動信号を発生させるようにプログラムされている。そうすることによって、磁場がロータをその回転経路内で前方に引き寄せる。
【0019】
上記のように、工具10は、三相モータである。三相モータは、正確に制御されたより高いパワー及びより高いトルクが必要とされる多くの工業用途で使用されている。三相モータは、各相に1つずつ、3つの巻線を有する。巻線に、各々の位相が120度離れた3つの別々の正弦波形として供給される正弦波交流電流が供給される。伝統的な三相モータでは、正弦波状に変化する交流電流(AC)源が三相モータ電流を供給する。しかしながら、今日、多くの三相モータは、パルス幅変調回路を使用して三相モータ電流を供給する直流(DC)給電によって駆動される。これらの直流給電は、伝統的なAC正弦波をシミュレートする可変デューティサイクル波形を生成する、Hブリッジ・スイッチング回路を使用する。
【0020】
図2は、Hブリッジ回路18を通じて三相交流電流が供給される、例示的な三相モータ26を示す。Hブリッジ回路は、電界効果トランジスタ28T及び28Bのような6つのスイッチング・トランジスタの集まりを使用し、これらは各々、コンピュータ又はプロセッサベースの制御回路20(
図1)によってそれぞれのゲート端子に印加される駆動信号によって、オン及びオフにされる。スイッチング・トランジスタの各々を、ダイオード34が横断する。
【0021】
スイッチング・トランジスタは、各々3つのトランジスタの2つのバンクに編成され、図示されるように、トランジスタ28Tが上部バンクを定め、一方、トランジスタ28Bが下部バンクを定める。上部バンクのトランジスタ28Tは、DC給電レール30に結合され、一方、下部バンクのトランジスタ28Bは、接地レール32に結合される。上部及び下部バンクは、図示されるように一緒に接続され、U、V及びWで示されるトランジスタ・ペアを定める。各ペアは、スイッチング回路を定め、これは、やはりU、V及びWで示される3つのモータ端子の異なる1端子に接続される。3ペアのスイッチング回路の各々を、そのペアに対応するモータ端子をDC給電レール30又は接地レール32のいずれかに接続するように選択的に通電させることができる。例えば、トランジスタ28T−Uがスイッチ・オンにされ、トランジスタ28B−Uがスイッチ・オフにされたとき、モータ端子Uは、DC給電レール30に電気的に接続される。逆に、トランジスタ28T−Uがスイッチ・オフにされ、トランジスタ28B−Uがスイッチ・オンにされたとき、モータ端子Uは、接地レール32に電気的に接続される。
【0022】
コンピュータ又はプロセッサ20は、トランジスタを選択的に切り替えて、電流を、それぞれのモータコイルを通して所望の流れ方向及び所望の時間に流すようにプログラムされる。例えば、トランジスタ28T−Uをスイッチ・オンにすると同時にトランジスタ28B−Vをスイッチ・オンにすることによって、電流は、コイルL1及びL3を、端子Uから端子Vの方向に流れる。反対方向にコイルL1(及びL3)を流れる電流を誘導するために、コンピュータ又はプロセッサは、トランジスタ28T−V及び28B−Uをオンにする。このようにして、コンピュータ又はプロセッサ20は、電流をいずれかの方向で3つのモータコイルの各々を通して流すことができる。上部及び下部バンクのトランジスタの任意の所与のペアの中で、コンピュータ又はプロセッサ20は、上部トランジスタと下部トランジスタとを同時にスイッチ・オンにしないようにプログラムされており、なぜなら同時にオンにするとDC給電レール30と接地レール32と間を短絡させることになるからである。
【0023】
それぞれの駆動信号は、コンピュータ20によって連係的に制御され、3つのモータコイルL1、L2及びL3の各々が適正な交流波形で通電されるようになっている。詳細には、スイッチング・トランジスタは、正確に制御された時間シーケンスでスイッチ・オン及びオフにされて、3つのモータ巻線を流れる正弦波交流電流をもたらす6つのパルス幅変調信号(トランジスタ毎に1つ)を生成する。
【0024】
図3Aは、3つの正弦波電流相u、v及びwが120度離れた位相で発生する様子を60、62及び64に示す。
図3Aはまた、可変デューティサイクル信号を従来の方式で発生させて3つの正弦波相60、62及び64の効果を生成する様子を70、72及び74に示す。60、62及び64の波形はモータコイル電流であるのに対し、70、72及び74の波形はトランジスタを駆動させるのに使用されるPWM信号であることが理解される。詳細には、波形70はu相に対応し、波形72はv相に対応し、波形74はw相に対応する。各可変デューティサイクル波形は、一定のピーク電圧Vpを有するが、デューティサイクルは、正弦関数に従って100%デューティサイクル(u相について70aにおけるように)と0%デューティサイクル(70bにおけるように)との間で変化することに留意されたい。
【0025】
可変デューティサイクル駆動スキームは、可変デューティサイクル信号が高のときモータのコイルにエネルギーが送達され、信号が低のときエネルギーが送達されないことを想像することによって理解することができる。このオン−オフ・デューティサイクルは、20kHzのオーダの速度(すなわち、典型的な家庭用ACの60Hz周波数の何倍ものオーダの周波数)で極めて速く起こる。モータコイルは、本質的にインダクタである。あらゆるインダクタと同様に、モータコイルの両端間の電圧は、v=Ldi/dtで与えられる。すなわち、電圧は、時間の増分に対する電流の変化に比例する。可変デューティサイクル信号が高のとき、電荷はインダクタに流入し(電流はコイルに流入する)、信号が低のとき、電流は流れなくなる。したがって電流の流入をサイクル的に変化させることによって、可変デューティサイクル信号は、モータコイルの両端間で所望の正弦波電圧を生成することができる。
【0026】
より詳しく説明するように、本開示の回路は、高周波数駆動波形を発生させる方式を、ケーブル12に沿ったスプリアス逆流を実質的に低減することを目標として修正する。従来の三相回路において、これらのスプリアス逆流電流は、ときとしてコントローラ回路を妨害することがあり、場合によってはGFI回路24をトリップさせることさえある。
【0027】
実験を通じて、本発明者らは、スプリアス逆流電流の可能性の高い原因が幾つかの要因の組合せであることを突き止めた。第1に、従来のPWMトポロジーを用いるHブリッジ・トランジスタ・スイッチの場合、インダクタのu、v及びw端子が(どの相も給電部からエネルギーを供給されていない間隔の間に)瞬間的に一緒に短絡する、自然に生じるインスタンスが存在する。これが起こると、インダクタ内に貯蔵されたエネルギーがケーブル12を通って逆流してコントローラに流入し、逆流電流はそこで接地レールへの流路を見いだすことができ、ときとしてGFI回路をトリップさせる。これらの逆流電流の性質を理解するためには、ケーブル12をより良く理解することが有用である。
【0028】
図4は、三相動力工具で使用されるタイプの例示的なケーブルの断面を示す。図示したように、ケーブル12は、それぞれのモータコイルにエネルギーを供給する3つの駆動電流導体50を含む。複数のデータ導体52もまた含まれており、これは、工具のトリガを強く握ることによって入力されると、ユーザコマンドをコントローラ14に戻る方向に伝搬する。これらのデータ導体は、駆動電流導体から編組シールド54によって遮蔽されている。さらに第2の編組シールド56が駆動電流導体及びデータ導体のまわりに同軸で設けられ、外側のプラスチック又はゴムのジャケット58がケーブル組立体全体に対する保護を与える。
【0029】
これらの逆流電流は、駆動電流導体50に沿って直接導電路を見いだす。さらに、スイッチングが生じたときに生成される電流インパルス内に存在する高周波数に起因して、ケーブル内のシールドに沿ったRF導電路も存在する。RF導電路は、高周波数において現れる表皮効果によって、シールドの表面に沿ってサポートされる。
【0030】
どのルートで移動したとしても、これらの逆流電流は、DC給電レール及び接地レールへの道を見いだすことができ、場合によってはそこでGFI回路24をトリップさせることがある。
【0031】
これらの逆流一過性電流をフィルタ除去しようとするのではなく、開示の回路は、一過性事象が最初から起こらないよう防止するように設計される。
図5に示す第1の実施形態において、開示の回路は、パルス幅変調信号を発生させる方式を変更することによってこれを達成する。回路は、プロセッサ20と、関連付けられた非一時的メモリ21とを含む、パルス幅変調(PWM)駆動回路80を含む。プロセッサは、ロータ位置フィードバックセンサ162(
図11)を監視するように、及び、3つの相の各々に対する可変デューティサイクル・パルス列のアルゴリズム的発生を連係させるようにプログラムされる。可変デューティサイクル信号を、結果として得られるモータコイルL1、L2及びL3の各々を通って流れる電流が正弦波になるように発生させる。
【0032】
詳細には、プロセッサは、3つの相の各々に2つずつ、6つの可変デューティサイクル・パルス幅変調信号を発生させる。これらの信号は、スイッチング信号として印加され、トランジスタ・ペア(28T−U、28B−U)、(28T−V、28B−V)及び(28T−W、28B−W)のオン及びオフを切り換える。例えば、高状態に遷移したトランジスタ28T−Uにパルス幅変調信号を印加することで、DC供給電圧は、コイルL1のU端子に経路設定される。高状態に遷移したトランジスタ28B−Wにパルス幅変調信号を同時に印加することによって、DC接地はコイルL2のW端子に接続する。このことにより電流は、3つの相が星形構成で結合されている(すなわち
図2に示すように相互に共通接続点に結合される)いるのでコイルL1及びL2を通って流れることになる。
【0033】
プロセッサは、基準経時変化鋸波形を発生させること、及び、次にこの経時変化鋸波形を動的に変化する基準値のセットと比較することによって、これらの可変デューティサイクルPWM信号を発生させるようにプログラムされる。プロセッサは、Hブリッジ回路18の中の6つのトランジスタの各々に対する基準値を維持する。プロセッサは、鋸波形の瞬時状態を基準値と比較する。鋸の振幅が上昇して基準値と交差した場合、ON状態がトランジスタに印加され、鋸の振幅が降下して基準値と交差した場合、OFF状態がトランジスタに印加される。プロセッサは、基準値に対する数値調整を行うことによって、これらの信号の各々のデューティサイクルを変化させる。これらの数値調整は、ロータ位置フィードバックセンサ162によって検出されるモータの回転と同期して、時間の関数として行われる。
【0034】
従来の可変デューティサイクル・パルス幅変調制御システムにおいては、PWM駆動信号は、ゼロベクトル条件と呼ばれる、3つのコイルL1、L2及びL3のU、V及びW端子が一緒に短絡するインスタンスを生じさせる。本明細書で開示するPWM駆動技術は、ゼロベクトル条件が回避されるという重要な点で異なる。この実施形態において、プロセッサは、このことを、基準値を発生させる方式を変更することによって達成するようにプログラムされる。詳細には、プロセッサは、結果として得られるモータコイル内を流れる正弦波電流の各々の状態を間接的に監視して(各相のデューティサイクルを、これはロータ位置が変化するにつれて変化するので、監視することによって)、3つの相のうちのどれが他の2つの相の間の電圧を有するかを検出する。電圧は、モータコイルの各々に結合された電圧検知回路を用いることによって監視することができる。この中間条件は経時的に変化するので、各相が周期的に「中間」相になる。例として、
図3Bを参照すると、(水平軸上で見て)30度と90度との間の回転角度にある間、W相は、U相より小さくかつV相より大きい電圧を有する。したがってモータ回転サイクルのこの部分の間は、W相が中間相である。
【0035】
この中間相に対する可変デューティサイクルPWM駆動信号を発生する際に、プロセッサは、180度シフトした変更されたPWM駆動信号を発生させる。このシフトは、従来の駆動信号を示す
図6と、開示の駆動信号を示す
図7とを比較することによって見てとれる。図示した経時的スナップショット(snapshot in time)においてはV相が中間相であり、
図7の102に示される可変デューティサイクル信号は、
図6の102に示されるV相のデューティサイクル信号に対して180度位相シフトしていることに留意されたい。図示したように、この比較は、
図7の102における信号が従来の
図6の102における信号と比べたときに反転して(180度位相シフトして)見えることを示す。
【0036】
この修正されたPWM駆動スキームがどのようにしてゼロベクトル条件を回避するのかを認識するために、
図6及び
図7を再び比較する。従来の駆動スキーム(
図6)では、3つのトランジスタのすべてが同時にスイッチ・オンになる時間が存在する。例えば、時間領域T3に入るPWM波形の部分において、UTOP、VTOP及びWTOPがすべて同時に高状態にあることを示す。同様に、UBOT、VBOT及びWBOTはすべて同じ時間において低状態にある。これを
図7(開示された改善)のPWM波形と比較する。見てわかるように、時間領域T3に入る波形がすべて同時に同じ高又は低状態に存在することはない。このことは、中間相が、180度シフトしたパターンに従うようにプロセッサ20によって変更されたので、達成される。
【0037】
したがって、プロセッサ20は、すべての上部トランジスタ28T−U、28T−V及び28T−Wが同時にオンになるような条件及びすべての下部トランジスタ28B−U、28B−V及び28B−Wが同時にオンになるような条件を排除する、特別な非標準的波形を発生させるようにプログラムされる。上記のように、これらの条件は、従来のパルス幅変調スキームにおいては存在するものである。本発明者らは、これらの条件においては、モータ電流が、DC給電レールから接地への方向に流れる代わりに、コイル自体の中を循環することを発見した。隣接コイル内のそれぞれの電流のベクトル和がゼロになるので、本発明者らはこの条件を「ゼロベクトル」間隔と呼ぶ。これらのゼロベクトル間隔は、「何もしない(do nothing)」期間であり、事実上、モータ相を一緒に短絡する。それぞれのコイルがこのゼロベクトル条件に入るとき及び出るように切り換わるとき、コイル内に貯蔵された循環エネルギーは、Hブリッジ回路を通って伝搬する電流インパルスを生成することがある。
【0038】
図6及び
図7を検討する際に、(a)これらの図面は特定の経時的スナップショットを示すこと、及び(b)これらの図面に示された時間領域T1、T2、T3及びT4それ自体はモータが各回転を行うにつれて幅が変動すること、を理解することが重要である。したがって、これらの時間領域は常に等しい時間増分に対応するものと仮定すべきではない。むしろ各時間領域は、120度位相が離れた3つのモータコイルを通って流れる正弦波電流を結果としてもたらすトランジスタスイッチング条件を生成するために、モータが回転するにつれて変化する時間間隔を表す。
【0039】
図6及び
図7はこのように、1つの経時的インスタンスにおける3つの相に対するそれぞれのデューティサイクルを示したものであり、相のデューティサイクルを比較することを可能にする。
図6(従来のスイッチングスキーム)において、比較的長い時間間隔100にわたって、トランジスタ28T−Uはスイッチ・オンにされ、同時にトランジスタ28B−Uはスイッチ・オフにされる。この同じ経時的スナップショットの間に、トランジスタ28T−V及び28B−Vは、より短い時間間隔102にわたってそれぞれスイッチ・オン及びオフにされる。同様に、トランジスタ28T−W及び28B−Wは、さらに短い時間間隔104にわたってスイッチ・オン・オフされる。
【0040】
図6の時間間隔100、102及び104を比較することによって、全間隔104の間、トランジスタ28Tは、3つの相U、V及びWのすべてに対してスイッチ・オンであり、トランジスタ28Bは、3つの相U、V及びWのすべてに対してスイッチ・オフであることがわかる。したがって間隔104は、ゼロベクトル間隔に対応し、ここで3つの相すべてがそのそれぞれの上部及び下部トランジスタを一緒に短絡させる。
【0041】
改善されたスイッチングスキームを
図7に示す。相U及びWに対するデューティサイクル波形は
図6(従来)と同じであるが、V相は異なる。V相は、従来のものから180度シフトしており、トランジスタ28T−Vは、間隔102の間、スイッチ・オフにされる一方、トランジスタ28B−Vはスイッチ・オンにされる。1つの相(すなわちV相)のデューティサイクルパターンの180度位相反転により、ゼロベクトル条件が全体として回避される。
【0042】
図6及び
図7は、単一の経時的スナップショットを表していることに留意されたい。全体の可変デューティサイクル制御シーケンスは3つの相の各々に対して実行され続けるので、各相に対するデューティサイクルは、サイクル的に繰り返し成長し及び崩壊して、所望の正弦波出力を生成する。それゆえ、異なる経時的スナップショットにおいては、U相が最短の時間間隔を有することになる一方でW相が最長の時間間隔を有することになるかもしれない。このサイクル的なデューティサイクル変調にかかわらず、3つの相のうちの1つは反転することになり(
図7においてV相が反転するように)、この位相反転により、ゼロベクトル条件が回避される。
【0043】
図2を参照して、モータ巻線を含む3つのコイルL1、L2及びL3は、星形構成で接続され、各々がU、V及びW端子の1つに結合された1つの端子を有することを想起する。したがってコイルのペア(L1−L3、L1−L2及びL2−L3)の通電状態は、2つのデューティサイクル変調波形の組合せによって決定される。このことが、
図6及び
図7において、合成スイッチングパラメータU−W、U−V及びV−Wによって示されている。これらそれぞれのスイッチングパターンの各々が高のとき、電流は関連付けられたコイルのペアを通って流れ、波形が低のとき、電流は流れない。再び、
図6及び
図7は単一の経時的スナップショットを表すことに留意する。原理はデューティサイクル変調が進行するのと同じであるが、それぞれの通電時間及び電流の流れの極性は、正弦波状に変化する。
【0044】
モータコイルは、Y接続しているので、(L1−L3)、(L1−L2)及び(L2−L3)のペアで通電される。3つのU、V及びWスイッチングパターンをグループで考えて、異なる通電ケース(U−V、U−W及びV−W)を表すことができる。デルタ接続モータコイル(図示せず)もまたこの様式で通電される。
【0045】
図7は、120において、それぞれのケース(U−V、U−W及びV−W)の各々に対する合成波形を示す。比較のために、従来の変調スキームについてこれらのケースの各々に対する合成波形を示す、
図6の120を参照のこと。U−Wケースは
図6及び
図7の両方で同じであるが、U−V及びV−Wケースは異なることに留意されたい。
【0046】
これら3つの変調パターンがどのように形成されるかをより良く理解するために、
図6及び
図7は、T1、T2、T3及びT4と指定された時間領域に細分されている。時間領域T1及びT2は、時間領域T3及びT4の二倍の幅であるように見えることに留意されたい。しかしながら、種々の時間領域のこれら相対幅は、
図6及び
図7で表される特定の経時的スナップショットのアーチファクトである。一般に、時間領域の各々は、モータの回転サイクルが進行するにつれて常に変化している(サイズが増大又は減少している)。
【0047】
時間領域T1及びT2は、T3領域の両側に鏡面対称に配置された2つの半部分に分割されているように見えることにも留意されたい。
図6及び
図7において変調パターンの左側及び右側をどのようにカットオフしたかによって、2つのT4領域(各々、半幅)が110及び112に示されていることにも留意されたい。これらもまた、
図6及び
図7の作図方式のアーチファクトである。このページには1つのモータ回転サイクルのみが示されている。いずれにしても、
図6及び
図7の120における合成波形を参照すると、従来のスイッチングトロポジー(
図6)の場合、ケースU−V、U−W及びV−Wの各々に対する合成波形は、時間領域T1、T2、T3及びT4に関して以下のように表すことができることがわかる。
U−W=T1+T2
U−V=T2
V−W=T1
【0048】
比較して、本開示の改善されたスイッチングトポロジーの場合、合成波形は、以下のように表すことができる。
U−W=T1+T2(従来と同じ)
U−V=T1+T3−T4(従来と異なる)
V−W=T2+T4−T3(従来と異なる)
【0049】
これらの合成波形を調べると、従来の時間領域T3に存在するゼロベクトル条件(3つの相すべてが一緒に短絡される)は、改善されたスイッチングトポロジーでは回避されることがわかる。このことを理解するために、従来のケース(
図6)では、時間領域T3において、上部トランジスタ28Tはすべて同時にオンであり、下部トランジスタ28Bはすべて同時にオフであることに留意されたい。比較して、改善されたトポロジー(
図7)では、それぞれの上部トランジスタ28T及び下部トランジスタ28Bが時間領域T3においてすべて同じスイッチ・オン−オフ状態になることはない。したがってゼロベクトル条件が回避される。
【0050】
ゼロベクトル条件が回避され、スイッチングトポロジーは異なるが、改善されたトポロジーは、それでも120度位相が離れた適正に形成された正弦波形を生成する。したがってモータ26は、従来のトポロジーと同じ通電を受ける。改善されたトポロジーのパルス幅変調は、実際、従来の設計とは異なるが、それでもなお3つのモータコイルL1、L2及びL3を通って流れる合成正弦波電流は同じである。
【0051】
これらのデューティサイクル変動が合成モータ駆動電流にどのように影響を与えるのかについての全体状況を理解するために、
図3A及び
図3Bを参照されたい。
図3Aは従来の可変デューティサイクル制御スキームを示す一方、
図3Bは改善された制御スキームを示す。これら2つの図面を比較すると、まず、それぞれのU、V及びW相モータ電流は同じであり、これらはすべて120度位相が離れた正弦波である。しかしながら、それぞれの可変デューティサイクル波形は異なる。このことを理解するために、2つの図面の領域121を比較されたい。
【0052】
図8〜
図10は、論理ゲーティングされるスイッチング回路を使用してスプリアス電流の問題を排除する、別の実施形態を示す。この実施形態は、論理ゲーティング回路によって変調した、標準ソフトウェアで発生させた駆動信号を用い、この論理ゲーティング回路は、PWM駆動回路80の出力端子84と、Hブリッジ回路18のトランジスタ28T及び28Bのそれぞれのゲート端子との間に挟まれた、論理ゲート回路86Tと86Bとのペアを含む。論理ゲート回路86T及び86Bは、各々、
図9に示すような個別の論理ゲートの相互接続を含む。
図12は、この論理ゲーティングされたスイッチング回路の実施形態についての合成波形を、比較のために
図6の合成波形に相当する経時的スナップショットに対して示す。
【0053】
図9を参照すると、論理ゲート回路86(86T及び86B)は、PWM駆動回路のU、V及びW上部及び下部端子にそれぞれ接続された3つの入力を有するNORゲート88を使用する。NORゲート88の出力は、3つのORゲート90、92及び94の各々の1つの入力に結合される。これらORゲートの各々は、図示したように、U、V及びW端子のうちの1つに接続された第2の入力を有する。ORゲートは、Hブリッジ回路18のトランジスタのゲートに印加されるそれぞれUout、Vout及びWout信号を提供する。
【0054】
図9の論理ゲート回路は、NOR及びORゲートを用いるものとして示されているが、当業者であれば、異なるゲート及び/又はプログラムされたプロセッサで同じ論理出力を生成することができることを理解するであろう。この点に関して、論理ゲート回路86についての真理表を示す
図10を参照する。この真理表を調べることによって、論理ゲート回路は、本質的に、
図10の96及び100に示す状態の論理を変更せずに通過させることがわかる。論理ゲート回路は、98に示す状態の場合の論理極性を反転させる。換言すれば、98に示すように、U、V及びW端子が(0,0,0)に設定されたとき、論理ゲート回路は(1,1,1)を出力する。
【0055】
図5の実施形態に対するいくぶん異なるアプローチにおいて、
図8〜
図10の実施形態は、論理ゲーティング回路を使用して、トランジスタがゼロベクトル条件の間にどのように通電されるかを変更することによって、ゼロベクトル条件の影響を排除する。このようにして、
図8〜
図10の実施形態もまたスプリアス過渡電流の発生を軽減するのに有効である。さらに、
図8〜
図10の実施形態は、モータをより効率的に駆動するという付加的な利点を有する。例として、Stanley Black & DeckerモデルQPM工具を使用して、以下のモータ電流を荷重下で全速にて測定した。
従来のスイッチングトポロジー使用:400mA;
非ゼロベクトル・スイッチング使用(
図5の実施形態):>400mA;
論理ゲーティングされたスイッチング使用(
図8の実施形態):100mA
【0056】
改善された効率が、ゼロベクトル条件をハンドリングする方式から得られる。従来のスイッチングトポロジーにおいては、上で説明したように、ゼロベクトル・スイッチング状態に対処する試みはなんら行われていない。したがって従来のPWM駆動シーケンスの間に3つの相すべての端子が瞬間的に一緒に短絡する。一緒に短絡すると、結果として、モータの瞬間的な制動を生じさせる方向でモータ巻線を通って流れる電流が生じることになる。ゼロベクトル・スイッチング状態は非常に短いので、感知できるほどの正味の速度変化は検出されないが、それでもエネルギーは熱として失われる。
【0057】
図5の非ゼロベクトル・スイッチングの実施形態では、ゼロベクトル・スイッチング状態が回避され、3つの相が従来の場合のように一緒に短絡されることはない。代わりに、相は、未形成の「ゼロベクトル」間隔の間、通常の流れとは反対の電流の流れを生成するように駆動される。したがって、その短い瞬間にモータは逆方向に通電される。このこともまた、瞬間的な制動を与える効果を有することになる。従来の場合と同様に、感知できる速度変化は検出されないが、ある程度のエネルギーは熱として失われる。
【0058】
図8の論理ゲーティングされたスイッチングの実施形態では、相は、未形成の「ゼロベクトル」間隔の間、モータが単純に惰性運動することを可能にする導電状態に上部及び下部のトランジスタ・ペアが置かれるように駆動される。未形成の「ゼロベクトル」間隔の間、エネルギーは順方向又は逆方向にいずれにも印加されない。この結果として、モータによるエネルギー消費が全体としてより低くなり、それゆえ上記データにおいて示された改善された効率が説明される。
【0059】
上記の実施形態の説明は、例証及び説明の目的で提示したものである。これは、網羅的であること又は開示を制限することを意図しない。特定の実施形態の個別の要素又は特徴は、一般にその特定の実施形態に限定されないが、具体的に示されるか又は説明されていなくても、適用可能な場合には、互換性があり、選択された実施形態で使用することができる。同じことは、多くの方式で変更することもできる。そのような変更は、開示からの逸脱とみなすべきではなく、そのような修正はすべて、本開示の範囲内に含まれることが意図される。