(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814866
(24)【登録日】2020年12月23日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】非対称固定子誘導子を有するDC電気モータ
(51)【国際特許分類】
H02P 6/182 20160101AFI20210107BHJP
H02K 29/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
H02P6/182
H02K29/00
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-211078(P2019-211078)
(22)【出願日】2019年11月22日
(65)【公開番号】特開2020-92589(P2020-92589A)
(43)【公開日】2020年6月11日
【審査請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】18210866.2
(32)【優先日】2018年12月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ナジ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ジェルミケ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ジャック・ボルン
【審査官】
島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−285686(JP,A)
【文献】
特開平11−064545(JP,A)
【文献】
米国特許第04874993(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
H02K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電気モータ(1)であって、前記直流電気モータ(1)は、
・永久磁石を備える回転子(3)であって、決定した回転方向で連続回転するように構成した回転子(3);
・第1の誘導子パラメータを特徴とする第1の固定子誘導子(A);
・第2の誘導子パラメータを特徴とする第2の固定子誘導子(B);
・前記第1の固定子誘導子(A)及び前記第2の固定子誘導子(B)に電圧供給をもたらし、前記回転子(3)を駆動する電圧供給ユニット(9);
・前記第1の固定子誘導子(A)内の第1の誘導電圧が前記第2の固定子誘導子(B)内の第2の誘導電圧に等しい時間の瞬間を検出する測定ユニット(11);
・前記電圧供給ユニット(9)による前記第1の固定子誘導子(A)及び前記第2の固定子誘導子(B)への駆動電圧パルスの印加を制御する制御ユニット(5)
を備え、前記回転子(3)は、前記決定した回転方向で回転する際、前記第1の固定子誘導子(A)に面する前、最初に前記第2の固定子誘導子(B)に面するように構成し、
前記第2の誘導子パラメータの少なくとも1つは、前記第1の誘導子パラメータの対応するパラメータとは異なり、前記第1の固定子誘導子(A)内の最大誘導電圧は、前記第2の固定子誘導子(B)内の最大誘導電圧よりも大きいようにし、前記制御ユニット(5)は、前記測定ユニット(11)によって前記第1の固定子誘導子(A)及び前記第2の固定子誘導子(B)のそれぞれにおける等しい誘導電圧を検出後、前記検出の度に駆動電圧パルスを生じさせるように構成する、直流電気モータ(1)。
【請求項2】
前記制御ユニット(5)は、等しい誘導電圧を検出した直後、前記検出の度に前記駆動電圧パルスを生じさせるように構成する、請求項1に記載のモータ(1)。
【請求項3】
前記第2の誘導子パラメータの前記少なくとも1つは、前記第2の誘導子(B)の少なくとも1つの構造寸法を含む、請求項1又は2に記載のモータ(1)。
【請求項4】
前記第1の誘導子及び前記第2の誘導子はそれぞれ、コイルによって形成し、前記第2の誘導子パラメータの前記少なくとも1つは、以下のパラメータ:コイル・ワイヤ直径、ワイヤ巻き数、コイル寸法、及び前記回転子の回転軸に対する径方向コイル位置の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のモータ(1)。
【請求項5】
前記回転子(3)の中心と前記第1の固定子誘導子(A)の外縁部との間の最小距離として規定する第1の距離は、前記回転子(3)の中心と前記第2の固定子誘導子(B)の外縁部との間の最小距離として規定する第2の距離に実質的に等しい、請求項1から4のいずれか一項に記載のモータ(1)。
【請求項6】
前記第1の距離及び前記第2の距離は、前記第1の固定子誘導子(A)の周縁と前記第2の固定子誘導子(B)の周縁との間の距離として規定する第3の距離に実質的に等しいか又は前記第3の距離よりも大きい、請求項5に記載のモータ。
【請求項7】
前記制御ユニット(5)は、前記駆動電圧パルスが、前記第1の誘導子(A)及び前記第2の誘導子(B)内の前記誘導電圧の和の絶対最大値で実質的に中心を取るように、前記駆動電圧パルスを印加するように構成する、請求項1から6のいずれか一項に記載のモータ(1)。
【請求項8】
前記第1の誘導子(A)及び前記第2の誘導子(B)は、互いに対して少なくとも角度αにあり、前記角度αは、前記回転子(3)の回転軸及び前記第1の誘導子(A)の中心を通過する第1の想像線と、前記回転子の回転軸及び前記第2の回転誘導子(B)の中心を通過する第2の想像線との間の角度として規定し、前記角度αは、95°から115°の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載のモータ(1)。
【請求項9】
前記第1の誘導子(A)及び前記第2の誘導子(B)は、前記誘導子(A、B)のそれぞれの外径が前記誘導子のそれぞれの厚さよりも大きいような円板形状である、請求項1から8のいずれか一項に記載のモータ(1)。
【請求項10】
前記第1の誘導子(A)及び前記第2の誘導子(B)は、駆動電圧パルスの間、直列構成で接続する、請求項1から9のいずれか一項に記載のモータ(1)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のモータ(1)を備える電気機械式時計。
【請求項12】
直流電気モータ(1)を動作させる方法であって、前記直流電気モータ(1)は、
・永久双極磁石を備える回転子(3)であって、決定した回転方向で連続回転するように構成した回転子(3);
・第1の誘導子パラメータを特徴とする第1の固定子誘導子(A);
・第2の誘導子パラメータを特徴とする第2の固定子誘導子(B);
・前記第1の固定子誘導子(A)及び前記第2の固定子誘導子(B)に電圧供給をもたらし、前記回転子(3)を駆動する電圧供給ユニット(9);
・前記第1の固定子誘導子(A)内の第1の誘導電圧が前記第2の固定子誘導子(B)内の第2の誘導電圧に等しい時間の瞬間を検出する測定ユニット(11);
・前記電圧供給ユニット(9)による前記第1の固定子誘導子及び前記第2の固定子誘導子への駆動電圧パルスの印加を制御する制御ユニット(5)
を備え、前記方法は、決定した回転方向で前記回転子(3)を回転させることを含み、前記回転子(3)は、前記第1の誘導子(A)に面する前、最初に前記第2の誘導子(B)に面するようにし、
前記第2の誘導子パラメータの少なくとも1つは、前記第1の誘導子パラメータの対応するパラメータとは異なり、前記第1の固定子誘導子(A)内の最大誘導電圧は、前記第2の固定子誘導子(B)内の最大誘導電圧よりも大きく、前記制御ユニットは、前記測定ユニットによって前記第1の固定子誘導子(A)及び前記第2の固定子誘導子(B)のそれぞれにおける等しい誘導電圧を検出した後、前記検出の度に駆動電圧パルスを生じさせる、方法。
【請求項13】
等しい誘導電圧を検出した直後に前記駆動電圧パルスを生じさせる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記駆動電圧パルスは、前記駆動電圧パルスが、前記第1の誘導子(A)及び前記第2の誘導子(B)内の誘導電圧の和の絶対最大値で中心を取るように印加する、請求項12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子誘導子として比較的わずかな厚さの2つの円形コイル(即ち、円板形状コイル)を備える直流(DC)電気モータに関する。提案するモータは、測時器用途、より詳細には電気機械式時計ムーブメントに適する小型寸法を有することができる。
【背景技術】
【0002】
DC電気モータは、周知であり、極めて長い間活用されている。こうしたモータは、多くの種類の用途のために電気エネルギーを機械エネルギーに変換する。電気機械式腕時計等の電気機械式携帯デバイスは、DCモータを備えることが多く、電池等のDC源によって動力供給される。DCモータの一例は、永久磁石DCモータである。この種類のDCモータは、ブラシがなく、典型的には、回転子上に永久磁石を有する。固定子は、典型的には動かないコイルを備える。この種類の電気モータは、より小型の設計を可能にし、電力消費量の低減をもたらす。
【0003】
測時器用途において、ステッパ・モータが一般的に使用される。特定の命令により、駆動電気パルスを発生させ、これにより、回転子を段階的に前進させる。ステッパ・モータは、一完全回転をいくつかの等しい段に分割するブラシレスDCモータである。固定子は、永久磁石を有する回転子のための安定位置を規定する。典型的には、360度の一完全回転につき、2又は3つの安定位置がある。パルスを生成可能にするため、十分な電圧レベルが必要である。特に電気機械式時計内で使用する場合、こうしたモータ内で使用される電圧源は、典型的には、1.2Vから1.5Vの間の電圧レベルを生じさせる。したがって、こうした用途で利用可能な電池は、この範囲の値の電圧を供給する。連続回転DC電気モータは、ステッパ・モータと比較すると、測時器用途で使用する際に時計の針を連続的に回転し得るという利点を有する。このことにより、こうした時計の動作を機械式時計と同じようにする。このようにすると、特に夜間に妨げとなることがある回転子の段によって生じるノイズを防ぐことができる。
【0004】
DCモータは、モータ駆動ユニットによって制御される。駆動ユニットは、典型的には、固定子コイル内を通る電流、したがって、回転子の磁石(複数可)に結合する磁束線の方向を交番するように構成される。Hブリッジ回路は、モータ駆動ユニットの一例示的実装形態である。Hブリッジという用語は、供給電圧ノードと接地との間に配置した4つのスイッチを備えるこの種の回路の典型的な図形表現から得られる。所望の様式でこれらのスイッチを開閉することによって、正電圧又は負電圧をモータの誘導子回路に選択的に印加することができる。言い換えれば、回転子の位置、又はより詳細には、回転子の磁石に応じて4つのスイッチを操作することによって、固定子コイルを第1の方向及び第2の反対方向で選択的に通すように、電流を構成することができる。
【0005】
一例示的DCモータ構成を
図1に概略的に示す。
図1の簡略化したモータ1は、永久双極性磁石3bを2つの強磁性円板3a上に配置した回転子3(これらの磁石は、軸方向の分極及び交番極性を有する)、並びに第1の固定子誘導子A及び第2の固定子誘導子Bによって形成した固定子を備える。モータ駆動又は制御ユニット5は、コイルを通過する電流を調節するように構成される。次に、デジタル制御ユニット7は、回転子の検出した動作に基づき、モータ駆動ユニットの動作を制御するように構成される。例えば、制御ユニット7が回転子の回転が速すぎることを検出した場合、制御ユニット7は、モータ駆動ユニット5に回転子3を減速させるように命令することができる。モータ駆動ユニットは、電池等の電圧供給ユニット9も備える。更に、モータの動作に関係する測定を行う測定ユニット11が示される。
【0006】
オーム加熱又は抵抗加熱としても公知であるジュール加熱は、導体を通過する電流が熱を生成する過程である。ジュールの第1法則は、導電体が生成する加熱力P
jが、その抵抗Rと電流Iの2乗との積に比例すること、即ち、P
j=R×I
2を示す。しかし、有用な機械動力P
mecは、電流に比例するが、その2乗には比例しない、即ち、P
mec=k
u×w×Iであり、式中、k
uは、トルク定数であり、wは、回転子の回転速度である。したがって、抵抗加熱による損失を最小化するために供給電流を可能な限り低く維持する一方で、しかし、モータ、より詳細にはモータ回転子を駆動するため、モータのトルクを十分に高く維持すべきであることが明らかになる。
【0007】
抵抗加熱による損失は、固定子コイル内の誘導電圧の和がその最大値である際に固定子コイルのためのモータ駆動ユニットによって生成される電圧パルスを生成すると、低減することができる。「コイル内の/コイルの誘導電圧、又は誘導子回路にわたる誘導電圧」とは、コイル又は誘導子回路の2つの端子間の(回転子の回転若しくは転回によって生じる)誘導電圧であると理解されたい。直列に配置した2つの固定子コイルに供給される電圧供給が、回転子をその名目上の速度で駆動させるのに十分であり、有用電圧が、電圧供給と、2つの固定子コイル内の誘導電圧の和の最大値との間の差に対応すると仮定し、モータを駆動するのに理想的な状況を
図2に示す。このモータは、2つの同一のコイルを有する(即ち、同じパラメータを有する、より詳細には、同じ寸法を有し、当業者が選択するように、回転子の回転軸から等しい距離で配置される)。太い実線は、第1の誘導子A内の誘導電圧を示し、細い実線は、第2の誘導子B内の誘導電圧を示す。破線は、第1のコイルA及び第2のコイルB内の誘導電圧の和を示す一方で、破線の階段形状は、モータ駆動ユニットによって生成される駆動電圧パルスを示す。図示のように、理想的な状況は、各駆動電圧パルスが、2つの誘導電圧の和の絶対最大値で中心を取る際に生じる。しかし、低消費制御回路でそのような最適な駆動パルスを得るのは容易ではない。
【0008】
図1の種類のモータの好ましい制御方法は、本発明の枠の範囲内で、2つの誘導電圧の交差を検出し、この交差を検出することによって駆動電圧パルスを生じさせることにある。そのような好ましい制御方法の場合、生成した駆動電圧パルスは、
図3に示すように、誘導電圧の和の絶対最大値においてもはや中心を取らない。
図2の状況と比較すると、
図3の状況では、駆動電圧パルスの継続時間にわたる供給電圧と誘導電圧の和の平均との間の差は、もはや最小ではなく、抵抗加熱による損失がより大きいため、
図2のケースと比較してモータの電力消費量を増大させる。したがって、このことは最適な状況ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1に示した種類の、既に説明した好ましい制御方法に従って制御されるモータに関し、上記で特定した問題を克服することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、直流電気モータを提供し、直流電気モータは、
・永久磁石を備える回転子であって、決定した回転方向で連続回転するように構成した回転子;
・第1の誘導子パラメータを特徴とする第1の固定子誘導子;
・第2の誘導子パラメータを特徴とする第2の固定子誘導子;
・第1の固定子誘導子及び第2の固定子誘導子に電圧供給をもたらし、回転子を駆動する電圧供給ユニット;
・第1の固定子誘導子内の第1の誘導電圧が第2の固定子誘導子内の第2の誘導電圧に等しい時間の瞬間を検出する測定ユニット;
・電圧供給ユニットによる第1の固定子誘導子及び第2の固定子誘導子への駆動電圧パルスの印加を制御する制御ユニット
を備え、回転子は、決定した回転方向で回転させる際、第1の固定子誘導子に面する前、最初に第2の固定子誘導子に面するように構成し、
第2の誘導子パラメータの少なくとも1つは、第1の誘導子パラメータの対応するパラメータとは異なり、第1の固定子誘導子内の最大誘導電圧が第2の固定子誘導子内の最大誘導電圧よりも大きいようにし、制御ユニットは、測定ユニットによって第1の固定子誘導子及び第2の固定子誘導子のそれぞれにおける等しい誘導電圧を検出後、検出の度に駆動電圧パルスを生じさせるように構成する。
【0011】
有利な変形形態によれば、制御ユニットは、等しい誘導電圧を検出した(即ち、2つの固定子誘導子内の誘導電圧の交差を検出した)直後に駆動電圧パルスを生じさせるように構成される。
【0012】
有利な変形形態によれば、第2の誘導子パラメータの少なくとも1つは、第2の誘導子の少なくとも1つの構造寸法を含む。
【0013】
提案する解決策は、抵抗加熱による損失を最小化し得るという利点を有する。というのは、2つの誘導電圧の交差点は、これら2つの誘導電圧の和のピークの前に位置する、したがって、パルスの生成が最適に位置するためである。言い換えれば、モータの全体的な電力消費量を最小化するが、モータの性能を損なうことがない。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様によるモータを備える電気機械式時計を提供する。本発明の第3の態様によれば、請求項12に記載のDC電気モータを動作させる方法を提供する。
【0015】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら、非限定的な例示的実施形態に対する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の教示を適用することができるDC電気モータの単純化した概略図である。
【
図2】
図1の誘導子が実質的に同一のパラメータを有すると仮定する、
図1の誘導子内の誘導電圧の波形のグラフであり、更に、このシナリオにおける駆動電圧パルスの理想的な位置を示す。
【
図3】
図1の誘導子が実質的に同一のパラメータを有すると仮定する、
図1の誘導子内の誘導電圧の波形のグラフであり、更に、好ましいモータ制御方法から得られる駆動電圧パルスの最適ではない位置を示す。
【
図4】
図1の誘導子が非対称である(即ち、同一のパラメータではない)と仮定する、
図1の誘導子内の誘導電圧の波形のグラフであり、更に、本発明による、好ましいモータ制御方法による駆動電圧パルスの最適な位置を示す。
【
図5】
図2又は
図3の解決策による回転子−固定子構成の概略図である。
【
図6】本発明の一例による回転子−固定子構成の概略図である。
【
図7】
図6による回転子−固定子構成の実際的な例示的実装形態の概略図である。
【
図8】第1の誘導子の半径を関数とする、パルス継続時間にわたり平均化した誘導電圧の和の曲線グラフであり、更に、第1の誘導子の半径を関数とする、これらの誘導電圧の和の最大値の曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の一実施形態を詳細に説明する。本発明は、腕時計等の時計の連続回転DC電気モータの文脈で説明し、連続回転DC電気モータは、2つの固定子誘導子を備え、モータの回転子は、双極性永久磁石を備える。しかし、本発明の教示は、この環境又は適用例に限定されない。様々な図面に出現する同一又は対応する機能要素及び構造要素には、同じ参照番号を割り当てる。本明細書で利用する「及び/又は」は、「及び/又は」によってつながる一覧のあらゆる1つ又は複数の項目を意味する。語「備える」は、より広い意味「含む」又は「含有する」によって解釈される。
【0018】
次に、
図1のモータの文脈で本発明の教示をより詳細に説明する。回転子は、第1の方向で連続的に回転するように構成されるが、任意選択で、第2の、反対方向に回転するようにも構成される。本例では、第1の固定子誘導子及び第2の固定子誘導子、又はコイルA、Bは、円板形状(円形)の形態を有し、中心貫通孔を有する(中心貫通孔の中に磁気材料はない)。腕時計内で使用する際、各コイルの外径は、3mmから5mmの間とし得る一方で、(中心孔の)内径は、0.5mmから1.5mmの間とし得る。したがって、内径は、中心開口の直径に対応する。誘導子は、この例では比較的平坦で、円板形状であり、0.3mmから1mmの間の厚さを有する。第1の誘導子及び第2の誘導子は、互いに対して角度αにある。本明細書において、角度αは、回転子の回転軸及び第1の誘導子の中心を通過する第1の想像線と、回転子の回転軸及び第2の誘導子の中心を通過する第2の想像線との間の角度として規定される。この例では、角度αは、好ましくは、104°であるが、代わりに、有利な変形形態では、95°から115°の間、より詳細には100°から110°の間のあらゆる値とすることができる。本実施形態では、回転子は、6つの永久磁石3bを備え、永久磁石3bは、永久磁石3bの2つの強磁性板3aのそれぞれの上に軸方向分極軸及び交番極性を有し、角度αは、104°であるようにする。このことにより、誘導器内の誘導電圧の間に48°の電気位相差がもたらされる。
【0019】
上記で説明したように、本発明は、好ましいモータ制御方法を保持することによって、実質的に2つのモータ固定子誘導子における誘導電圧の和の絶対最大値のそれぞれの中心において、駆動電圧パルスが時間的に中心を取るようにすることを目的とし、好ましいモータ制御方法は、2つの誘導子内の誘導電圧交差を検出後、検出の度に駆動電圧パルスを供給することを特徴とする。実際問題として、供給電圧と、パルス継続時間にわたり平均化した2つの誘導電圧の和との間の最小値:
【0021】
が探索される。このことは、各駆動電圧パルスが誘導電圧の和の絶対最大値で中心を取ることができるように、第1の誘導子A及び第2の誘導子B内に非対称的な誘導電圧を有することによって達成される。「絶対最大値」とは、絶対値における最大値であるとを理解されたい。この理想的なシナリオを
図4に示す。このシナリオでは、第2の誘導子Bのピーク誘導電圧値(細い実線)は、第1の誘導子Aのピーク誘導電圧値(太い実線)よりも低く、誘導電圧の交差点は、(その時間領域における)誘導電圧の和の絶対最大値の前に位置するようにする。有利には、各駆動電圧パルスの開始は、交差点の実質的に直後に位置するか、又は交差点の後の非常に短い継続時間である。この継続時間は、モータ駆動ユニット5のスイッチの状態の変更に必要な遅延に対応する。この遅延は、400μsから800μsの間とすることができる。2つの固定子誘導子/コイルにおける誘導電圧の交差は、測定ユニット11内に配置した比較器によって検出し得ることに留意されたい。
【0022】
非対称誘導電圧を達成するため、本発明は、2つの誘導子A及びBがもはや対称又は同一ではないという解決策を提案する。言い換えれば、2つの誘導子A及びBは、少なくとも1つの誘導子パラメータに対して非対称的である。
図5は、回転子−固定子構成を概略的に示し、固定子は、2つの同一の固定子誘導子を備える。この構成は、2つの誘導子が同一である場合に理想的であるとみなすことができる。しかし、この状況は、
図3に示す状況を引き起こし、この状況では、生成された電圧パルスは、第1の誘導子及び第2の誘導子の誘導電圧の和の最大値において中心を取らない。以下の表記を使用する:
・D
Aは、第1の誘導子Aの中心と回転子の中心との間の距離を示す;
・D
Bは、第2の誘導子Bの中心と回転子の中心との間の距離を示す;
・D
APは、第1の誘導子Aの周縁と回転子の中心との間の最小距離を示す;
・D
BPは、第2の誘導子Bの周縁と回転子の中心との間の最小距離を示す;
・D
ABは、第1の誘導子Aの周縁と第2の誘導子Bの周縁との間の最小距離を示す;
・R
Aは、第1の誘導子Aの半径を示す;及び
・R
Bは、第2の誘導子Bの半径を示す。
【0023】
電力消費量を低減させるため、したがって、パルスが、誘導電圧の和の絶対最大値で中心を取るという理想的状況に近づけるため、本発明によれば、誘導子の少なくとも1一方の少なくとも1つの誘導子パラメータは、
図5に示す状況と比較して修正され、この少なくとも1つの誘導子パラメータは、本発明による2つのコイルの構成のための開始点を規定する。第1の誘導子Aは、第1の誘導子パラメータを特徴とする一方で、第2の誘導子Bは、第2の誘導子パラメータを特徴とする。したがって、本発明によれば、第2の誘導子パラメータの少なくとも1つは、第1の誘導子パラメータの少なくとも1つの対応するパラメータとは異なり、回転子の所与の回転方向において、回転子は、第1の誘導子に面する前、最初に第2の誘導子に面し、第1の誘導子内の最大誘導電圧は、第2の誘導子内の最大誘導電圧よりも大きいようにする。測定ユニット11は、第1の誘導子A内の誘導電圧が第2の誘導子B内の誘導電圧に等しい時間の瞬間を検出し、それに応じて駆動ユニット5に命令するように構成される。駆動ユニット5は、測定ユニットによる第1の誘導子A及び第2の誘導子Bのそれぞれにおける等しい誘導電圧の検出後、電圧パルスを生じさせるように構成される。
【0024】
第1の誘導子パラメータ及び第2の誘導子パラメータは、以下のパラメータの少なくとも1つ:コイル・ワイヤ直径、ワイヤ巻き数、コイル厚さ、コイル外径及びコイル内径(又は中心孔)並びにコイル位置(回転子の回転軸からのコイルの中心距離若しくは周縁距離)を含む。誘導子直径は、誘導子厚さ全体にわたり一定であっても、一定ではなくてもよいことに留意されたい。コイルの断面が実質的に円形ではない場合、コイル直径は、例えば最大断面寸法に代えることができる。したがって、上記に鑑みて、第1の誘導子Aと第2の誘導子Bとの間で異なる、本発明による少なくとも1つのパラメータは、誘導子の所与の構造寸法とすることができる。
【0025】
図6は、回転子−固定子構成を示し、第1の誘導子Aの外半径R
Aは、
図5の状況と比較してより大きく作製されている。更に、第2の誘導子Bの外半径R
Bは、より小さく作製してあり、第1の誘導子Aは、再配置してあり(第1の誘導子Aの中心が回転子から離されている)、第2の誘導子Bも再配置してあり(第2の誘導子Bの中心が回転子に近づいている)、パラメータD
AB、D
AP、D
BP及びαは、
図5及び
図6の構成の間で実質的に一定である。しかし、
図5の構成から本発明による最適な状況に向かって移動させる際、全てのパラメータを一定に保持する必要はない。一例示的構成では、D
ABは、D
BPに実質的に等しく、D
BPは、D
APに等しい。上記に鑑みて、誘導子の一方の1つの誘導子パラメータを変更すると、このことにより、もう一方の誘導子の少なくとも1つのパラメータの修正を生じさせることができる。一例では、
図5の構成から理想的な状況に向けて移動させる際、誘導子の一方のただ1つの誘導子パラメータ、即ち、距離D
A又はD
Bの1つを修正する。このことは、
図5の構成から理想的な状況に向かって移動させる際、角度αを一定に維持し得ることを意味する。
【0026】
しかし、第1の誘導子又は第2の誘導子(複数可)の少なくとも1つの誘導子パラメータを修正する際、特定の許容差を考慮する必要がある。これらの許容差は、
図7に示すモータ1の実際的な実装形態による。
図7に示すように、小歯車13が回転子の中心に設けられ、所与の直径を有する第1の表面領域(円形表面領域)を占める。この小歯車は、車15と嵌合するように構成され、車15は、(上から見ると)回転子の表面領域の所与の角度区分である第2の表面領域を占める。このように、第1の誘導子A及び第2の誘導子Bが、第1の表面領域及び第2の表面領域に進入することを可能にする状況はない。このことは、パラメータD
AP及びD
BPの値は、小歯車の半径よりも大きく、2つの誘導子の間の角度αは、最大許容値を有し得ることを意味する。更に、第1の誘導子Aと第2の誘導子Bとの間に特定の最小距離を規定することができる。したがって、上記に鑑みて、一方で、回転子と第1の誘導子との間に最小距離を設定し、もう一方で、回転子と第2の誘導子との間に最小距離を設定することが可能である。更に、2つの誘導子の間の角度αは、最大許容値を有することができる。
【0027】
図8の上側(細い)曲線は、第1の誘導子Aの半径を関数とする、誘導子内の誘導電圧の和
【0029】
の最大値を示す。この例では、第2の誘導子Bの半径は、一定に保持し、2.0mmである。この上側曲線の最大値は、対称誘導子構成に対応し、2つの誘導子は、同じ寸法を有し、回転子3から等しい距離で配置されることに留意することができる。
【0030】
図8の下側(太い)曲線は、第1の誘導子Aの半径を関数とする、パルス継続時間にわたり平均化した誘導電圧の和を示す。ここで、最大値は、非対称状況に対応し、第1の誘導子及び第2の誘導子が同一ではないことに留意することができる。この例では、
図6にも示すように、第1の誘導子Aの外半径は、第2の誘導子Bの外半径よりも大きい。したがって、この構成は、差
【0032】
を最小化し、式中、V
batは、供給電圧であり、
【0034】
は、駆動パルス継続時間にわたる2つの誘導子内の誘導電圧の和の平均値である。
【0035】
上記の説明では、第1の誘導子A内のピーク誘導電圧は、第2の誘導子B内のピーク誘導電圧よりも大きかったことに留意されたい(
図4を参照)。更に、回転子の所与の通常回転において、所与の半径は、最初に、第2の誘導子B(より小さい誘導電圧)に達し、この後、第1の誘導子A(より大きい誘導電圧)に達する。言い換えれば、回転子の通常回転において、回転子の所与の磁石は、最初に第2の誘導子と位置合わせされ、回転子が更に(この例では反時計回りに)回転した後初めて、所与の磁石は、第1の誘導子と位置合わせされる。回転子を反対方向に回転させる場合、誘導電圧の交差点は、時間的に、誘導電圧の和のピークの後に位置する。このことは、生成すべき駆動パルスが、誘導電圧の和のピークの中心に対してずれて位置することを意味し、本発明とは反対である。
【0036】
更に、上記の例では、パルスは、実質的に、誘導電圧の交差を検出した直後に生成された。しかし、パルスを所与の遅延の後に生じさせることが可能である。この目的で、タイマを使用することができ、電圧交差を検出すると時間が進行し始め、タイマの期限が切れると、パルスを生じさせるようにする。この場合、この遅延は、誘導子を設計する際に考慮に入れることができる。より詳細には、遅延がより大きいほど、2つの誘導子の互いに対する差はより大きい。
【0037】
本発明を図で例示し、上記の説明で詳細に説明してきたが、そのような例示及び説明は、説明的又は例示的であって、制限的ではないとみなすべきであり、本発明は、開示する実施形態に限定されない。請求する発明を実行する際、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲に対する検討に基づき、当業者によって他の実施形態及び変形形態が理解され、達成することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 モータ
3 回転子
3a 強磁性円板
3b 永久磁石
5 制御ユニット
7 デジタル制御ユニット
9 電圧供給ユニット
11 測定ユニット
13 小歯車
15 車
A 第1の固定子誘導子
B 第2の固定子誘導子