(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
含油性を備えた多孔性焼結体で形成した軸受体を備え、該軸受体の内側に該軸受体と連結し軸体に嵌着されて回転する内輪を配し、該軸受体の外側にハウジング側と連結される外輪を配し、該外輪と内輪との間に外輪に連結させて軸受体の側面空間を覆うシールカバーを配してなる流体軸受であって、
該軸受体の軸方向断面を略四方形とすると共にその両側面を遮蔽膜で封止し、
該外輪の内側に該外輪の中央部が谷底となる傾斜面を有する斜壁溝を刻設して、軸受体と外輪との間に、軸受体の回転に伴って生じる遠心力で流入する油を回転横方向に導く油圧空間αを形成し、
該軸受体の側面に羽根が外輪側へと向いた風車を装着して、軸受体側面とシールカバーとの間に、該風車の回転で生じる風を回転縦方向へと導く風圧空間βを形成した、
ことを特徴とする流体軸受。
内輪の中央部に凹溝を刻設して、軸受体と内輪との間に、軸受体の回転の停止に伴って生じる負圧で逆流する油を貯留させる油溜空間γを形成したことを特徴とする請求項1記載の流体軸受。
【背景技術】
【0002】
今日、サーバやPCのハードディスク等の情報機器に用いられる軸受には、静音や回転精度向上への要請が強く、ボールベアリングでは限界があるため、これに替わるものとして流体軸受が提案されている。
この流体軸受には、動圧型と静圧型及び静動圧型があり、動圧型は、回転により流体に圧力を加え、軸と回転体との隙間に流体を挿入させることで、軸と軸受けとの間で円滑な回転を得ようとするものであるが、回転が低速となると油圧が不足し、摩擦やNRROが発生し易い。その為、一定の高速回転にしか適用できない欠点がある。
静圧型は、外部ポンプを導入して、そのポンプ圧で軸と軸受内に予め流体をさせておく手法をとるもので、比較的安定的な作動が得られる一方で、装置が大型化し、メンテナンスも大掛かりとなってしまう。
静動圧型は、低速時には外部ポンプを作動し、高速時に動圧を利用しようとするもので、比較的広範囲で安定な作動が得られるが、やはり装置が大型でメンテナンスの困難さは静圧型と同様である。
そして、これらはすべて一体型となることから、装置が大型化する他、軸受部を部品として扱うことができず、汎用性に欠け、交換や補修等が容易でなく、費用的にも甚大となる。
ところで、この流体軸受にあって、含油焼結軸受という技術が開発さている(例えば特許文献1)。その概要は、空孔を備えた焼結体に潤滑油を含浸させ、回転軸と軸受との摩擦面に潤滑油の油膜を保持させて、その油膜による潤滑性で摩擦を緩和し、円滑な回転を促そうとするものである。
しかし、その油膜の保持に外部からの加圧が必要であることは、上記動圧型や静圧型等と同様であり、密閉された油液層の中に空孔焼結体が浸漬した状態にあり、一体型としての大型化や部品交換の困難さに変わりはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、この含油性を備えた焼結性の軸受体を利用しつつ、これに独自の工夫を加えて、外部動力に頼ることなく内部的圧力により油膜の保持を可能とし、且つ、一体化を避けて部品としての交換性、汎用性を高めた流体軸受を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の流体軸受は、含油性を備えた多孔性焼結体で形成した軸受体を備え、該軸受体の内側に該軸受体と連結し軸体に嵌着されて回転する内輪を配し、該軸受体の外側にハウジング側と連結される外輪を配し、該外輪と内輪との間に外輪に連結させて軸受体の側面空間を覆うシールカバーを配してなる流体軸受であって、該軸受体の軸方向断面を略四方形とすると共にその両側面を遮蔽膜で封止し、該外輪の内側に該外輪の中央部が谷底となる傾斜面を有する斜壁溝を刻設して、軸受体と外輪との間に、軸受体の回転に伴って生じる遠心力で流入する油を回転横方向に導く油圧空間αを形成し、該軸受体の側面に羽根が外輪側へと向いた風車を装着して、軸受体側面とシールカバーとの間に、該風車の回転で生じる風を回転縦方向へと導く風圧空間βを形成したことを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の流体軸受は、内輪の中央部に凹溝を刻設して、軸受体と内輪との間に、軸受体の回転の停止に伴って生じる負圧で逆流する油を貯留させる油溜空間γを形成し、したことを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の流体軸受は、内輪の一部に抑え部材を設け、該内輪と抑え部材との間にシールリングを配したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
軸受が回転を始めると、その回転に伴って含油性を備えた多孔性焼結体で形成された軸受体に遠心力が働き、含浸された油に流動が起こる。その流れの方向は、一旦軸体に直交する回転縦方向となる外輪側に向かうラジアル方向となる。
同時に、流れの一部が、軸受体のシールカバー側に向いた側面に向かうが、軸受体の側面には遮蔽膜が設けられているので、流れはそこで封止され、反射されて戻されるが、そこに上記遠心力が作用しているので、上記ラジアル方向への流れに合流し、外輪へと向かう流れとなる。
【0009】
そして、多孔質内に蓄えられた油の流れが一定の量に達すると、その油の流れの先は、軸受体の表面を超えて溢出し、油圧空間α内に侵入するものとなる。
侵入した油は、油圧空間α内を流動するが、それは谷底となった斜壁溝の中央部へと向かい、各流れがそこに集中する。そして、真ん中で互いが衝突する格好となり、そこに反力が生まれ、流動する油は、斜壁溝の傾斜面に沿って回転横方向へ変換されたスラスト方向への流れとなる。
この変換されたスラスト方向への流れは、周縁部の方向へと向かい、やがて軸受体と外輪とが接触する狭隘な隙間に入り込む状態となる。
【0010】
一方、風圧油圧空間α側では、羽根が外輪側へと向いた風車が軸受体の側面に装着されているので、軸受体の回転に伴い風車が回転し、風の流れが惹起される。
その羽根は外輪へと向けて形成されているから、風の流れは回転縦方向となるラジアル方向に向かって風圧空間 内を流れ、上記軸受体と外輪との接触部となる狭隘な隙間を圧する。
【0011】
すると、この狭隘な間隙となる接触部において、上記スラスト方向の油圧とラジアル方向の風圧とが対峙し、この圧力が互いに拮抗し合い、均衡する状態を保つものとなる。
この結果、油圧空間α側の油の流れがそのまま継続されても、油の流れは風車によって封止され、隙間を超えて漏れ出すことがない。
同時に、隙間に入り込んだ油は、油圧空間αの作用で継続的に油圧が加えられ、その圧力によって、接触部と隙間には油膜が安定的に形成されることになり、軸受体と外輪との間に接触や摩擦が生じず、円滑な回転が継続的に得られるものとなる。
【0012】
この加圧下での安定した油膜形成に加えて、軸受体が低速回転の場合には、含油性の軸受体が滑り軸受けとして機能し、円滑な回転を維持することができ、高速から低速までの広範囲での回転に対応が可能となる。
【0013】
又、油圧空間αの斜壁溝は谷の中心線を軸に対称形をなすから、その対称形の谷底に流入する油はバランスされながら中央部に集中するものとなり、それは軸受体にセンタリング効果をもたらし、左右のアンバランスによる流体軸受全体の揺れがなくなり、外輪と内輪の横ズレやNRRO等の現象が回避される。
【0014】
各作用及び効果が、すべてモーターの駆動に連動した軸体の回転に伴う遠心力に動力源を依拠しているから、外部からの動力源の付加を必要とすることがなく、一切が自律的なものとなる。
【0015】
部品として交換しようとするときには、軸体に嵌着された内輪を取り外すことで、本流体軸受け全体を交換でき、故障やメンテナンスへの対応が容易となり、大きな経費の節減効果が得られる。
【0016】
請求項2記載の流体軸受によれば、軸受体の回転の停止に伴って生じる負圧で逆流する油を油溜空間γに貯留させることができ、逆流時及び回転時の油全体の流れを円滑にすることができる。
【0017】
請求項3記載の流体軸受によれば、密閉性を高めて回転停止時に軸受焼結体に発生する負圧による吸引力を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明流体軸受1は、
図1に示す如く、大略、モーターに連結するシャフトとなる軸体Aに嵌着されるもので、外側から枠付けする外輪2と、内側から枠付けする内輪3と、側面を覆うシールカバー4と、その外輪2と内輪3の間に介設される含油性を備えた多孔質焼結体で形成される軸受体5でから構成される。
軸体Aに嵌着される内輪3とこれに結合する軸受体5とが連結状態となり、一方ハウジング側に結合される外輪2とこれに結合するシールカバー4とが連結状態となる。
【0020】
軸受体5は、含油性を備えた多孔質で形成される軸受体で、例えば焼結金属、成長鋳鉄、合成樹脂等の空孔のある多孔質を素材とすることができる。
焼結金属とした場合、金属合金の粉末をプレス成型し、これを高温で焼成して成型したものを用いることができる。
多孔質とは、内部に空孔を備え、その孔が潤滑油を浸み込ませて油を保持すると共に、軸体Aの回転で生じる遠心力で油がゆっくりと流動し、内外への出入が自在となる程度の孔径を備えたものをいう。
又、その油は摩擦を減じる潤滑性のある油で、且つ、上記流動性を保持する程度の粘稠性を備えたものを使用する。
【0021】
該軸受体5の形状は、内輪3を介して軸体Aを囲む環状体をなし、その断面形状を略四方形とする。略四方形とは、
図2に示す如くで、上下の外輪2、内輪3及びシールカバー4側面に向かって、外面5a、側面5b及び内面5cが略平面状をなすものである。直方形が典型例であるが、後述する油圧空間α、油溜空間γとの関係にあって、谷底を中心とした対称形なら多少の曲面も許される。
【0022】
該軸受体5の外側にはシールカバー4に向いた側面を遮蔽膜6で被覆する。
該遮蔽膜6は、多孔質の軸受体5に含浸される油の流動を封止する機能を備えた膜体をいう。
具体的には、図示の如く、軸受体5の側面に膜体を密接させるか、或いは、製造にあたって軸受体5と風車7とを一体的に成形し、その表面に膜体を密接させる態様とすることができる。
軸受体5の遠心力の働きで移動する油の流れがシールカバー4側へ向かおうとするとき、その流れを遮断して、後述する油圧空間α側へと向かわせる役割を担うものである。
【0023】
さて、該軸受体5と外輪2との間には、油圧空間αが形成される。
油圧空間αとは、軸受体5の回転に伴って生じる遠心力で流入する回転縦方向(ラジアル方向)の油を回転横方向となるスラスト方向へ導こうとするもので、外輪2の中央部が谷底となる斜壁溝2aを刻設して形成される。
中央部とは断面長方形となる外輪2の中央にあたる部位で、そこに該中央部が谷底となり周縁部2cに向かって寸浅となる斜めに傾いた傾斜面2bを備えた断面v字形の斜壁溝2aに形成する。
その周縁部2cは、
図2に示す如く、傾斜面2bが軸受体5の側面側に漸近して、やがて接触部となる狭隘な隙間に向かう広がり部をいう。
この斜壁溝2aは、上記の通り断面v字形の谷型をなすが、谷の中心線を軸に傾斜面2bが対称形をなし、それが外輪2の周方向に渡って環状に形成される。
そして、この外輪2の斜壁溝2aと軸受体5との間には一定容積を備えた油圧空間αを形成されるものとなる。その一定容積とは、後述する軸受体の回転に伴って生じる遠心力で流入する油をスラスト方向に導くに適した容積をいう。
【0024】
一方、該軸受体5とシールカバー4との間には、風圧空間βが形成される。
風圧空間βとは、軸受体5に装着した風車7の回転によって生じる風を回転縦方向となるラジアル方向へ導こうとするもので、羽根7aが外輪2側へと向いた風車7を軸受体5のシールカバー4に向いた側面に装着して形成される。
風車7の形態は、羽根7aが外輪側に傾いて回転に伴う風の流れを外輪2側へと向かわせるものとする。
羽根7aの形態は、必要とされる風圧との関係で決定され、軸体Aの回転速度等を考慮して目的に応じた本数、長さ及び傾斜角度等を設定する。
軸受体5には着脱自在に装着するのが望ましく、その位置は上記側面に付設した遮蔽膜6の外側に固定する。
【0025】
更に、該軸受体5と内輪3との間には油溜空間γを設けることができる。
該油溜空間γは、軸受体5の回転の停止に伴って生じる負圧で逆流する油を貯留させようとするもので、内輪3の中央部が窪みとなる凹溝3aを刻んで形成される。
凹溝3aは、上記外輪2の斜壁溝2aと反対側に位置し、軸体Aの回転の停止した静止時に軸受体5に含浸される油を貯留させ、流動する油の充分な量を確保する役割を果たす。
その溝の形状は、中央部が最深となる窪み状をなし、軸受体5の回転時に油を安定的に供給できるよう凹溝3aの底部を中心に対称に形成するのが好ましい。
【0026】
該内輪3の一部には、その一部を分離させた抑え部材8を付設させる。該抑え部材8は、軸受体5の組立・交換の為の部材で、内輪3に嵌合した抑え部材8を外すことで軸受体5を内から取り外して交換可能とする。
該内輪3及び抑え部材8と軸受体5との境界部には、Oリング等のシールリング9を嵌着させる。
該シールリング9は、軸受体5内の密閉性を図るためで、該軸受体5に密閉性がないと、油圧及び風圧が阻害されてしまい本装置が機能しないためである。
同様の目的で、上記シールカバー4の外輪2との接合部にもシール材4a及びリング4bを施す。
【0027】
尚、内輪3と軸受体5とが連結し、外輪2とシールカバー4とが連結するとき、その境界となるシールカバー4の下端部と内輪3及び抑え部材8との間には、僅かの隙間を許容するものとし、風圧の変化で生じる風圧空間βの圧力の調整や回転の円滑性を図ることができるようにする。
【0028】
具体例としては、直径8.0mmの軸体への装着を想定した場合、外輪2の幅を6.0mmとし、その厚みを0.95mmとし、油圧空間αとなる溝の深さを20μm、溝幅を4.5mmとする。内輪3の幅を6.0mmとし、その厚みを0.95mmとし、油溜空間γとなる溝の深さを15μm、溝幅を3.0mmとする。風圧空間βは、羽根7aを、高さ0.5mmとし、軸受体5とシールカバー4との間隔を1.0mmとする。軸受体5は、その内径を3.5mm、高さを2.5mmとし、多孔質となる焼結体の含油率を10%〜35%程度とすることができる。
【0029】
次いで、本発明流体軸受の作用及び効果を説明する。
先ず、モーターを始動させて、軸体Aが回転を開始すると、内輪3を介してこれに固定された軸受体5が従動して回転を始める。
すると、軸受体5の回転によって、環状をなす軸受体5の内部に遠心力が働き、軸受体5に含浸された潤滑油に遠心力に沿うラジアル方向の流動が起こる。即ち、軸受体5は、多孔質でその内部に空孔が形成されているから、回転すると孔内に蓄えられた油に遠心力が働き、その孔内を通って外側へと向かう油の流れが惹起される。
その流れは、遠心力に沿うものであるから、軸体Aに沿った外輪2側へと向かい、多孔質内の油が移動すると、連れて油溜空間γに貯留された油の一部も移動する。
【0030】
このとき、軸受体5の側面、正確にはシールカバー4に向いた側面側にも、油の流れの一部が向かうものとなるが、軸受体5の側面には遮蔽膜6が設けられているので、流れはそこで封止される。
封止された流れは反射されて戻されるが、そこには上記遠心力が作用しているので、上記ラジル方向の流れに合流し、外輪2へと向かう流れとなる(
図3(a)参照)。
【0031】
そして、多孔質内に蓄えられた油の流れが一定の量に達すると、その油の流れの先は、軸受体5の表面を超えて溢出し、油圧空間α内に侵入するものとなる(
図3(b)参照)。
侵入した油は、油圧空間α内を流動するが、それは谷底となった斜壁溝2aの中央部へと向かい、各流れがそこに集中する。即ち、斜壁溝2aは谷底に向かう傾斜面2bが中央部を軸に対称に形成されているから、その傾斜面2bに沿って流動し、バランスされながら谷底に集中する形態となる。
そして、それらが集中すると、真ん中で互いが衝突する格好となり、そこに反力が生まれ、その対抗力によって、流動する油は、今度は斜壁溝2aの傾斜面2bに沿ってスラスト方向となる中心から離れた周縁部2cの方向へと向かう、変換された流れとなる。
この変換されたスラスト方向への流れは、やがて周縁部2cの先端部、即ち、軸受体5と外輪2とが接触する部位付近へと至る。
その接触部は、v字形の斜壁溝2aと比較的平坦な軸受体5との摺り合わせで、極く狭い隙間が形成されており、油はその狭隘な隙間に入り込む状態となる(
図3(c)参照)。
【0032】
一方、風圧空間β側では、同様に軸体Aの回転に伴い風車7が回転し、それに従動して羽根7aが回転を始め、風の流れが惹起される。
その羽根7aは外輪2へと向けて形成されているから、風の流れはラジアル方向に向かって風圧空間β内を流れ、やがてそれは上記軸受体5と外輪2との接触部となる狭い間隙を圧する。
【0033】
すると、この狭隘な間隙となる接触部において、上記スラスト方向に働く油圧とラジアル方向に働く風圧とが対峙するものとなる。
即ち、上記の如く、v字形の斜壁溝2aを伝って入り込んだ油は回転を継続する遠心力の作用で油に圧力が加わるものとなり、一方羽根7aの回転に伴う風の力が反対側に発生し、これが狭い間隙となる接触部で対峙し、この力が互いに拮抗し合い、均衡する状態を保つものとなる(
図4(d)参照)。
【0034】
この結果、先ず、油圧空間α側の油の流れがそのまま継続されると、これが隙間を超えて漏れ出すこととなるが、風車2に生じた風圧が対峙し、これを封止するように作用する。
その結果、懸念される油の漏出が阻止され、それは軸体Aの回転が継続される範囲において、常時維持されるものとなる。
このとき、均衡状態は油圧と風圧とが等しい値とするのを原則とするが、風圧が若干だけ上回る状態とすると、油の漏れを完全に封止できる。
【0035】
そして、上述の如く、隙間に入り込んだ油は、軸体Aの回転に伴う作用で継続的に油圧が加えられ、その圧力によって、接触部と隙間には油膜が安定的に形成される。つまり、油が狭隘空間に入り込んでも、そのままでは軸体の回転に伴う揺動等で油の層が一方側に押しやられ、軸受体5と外輪2とに接触、摩擦の危険が生じ得るが、しかし、そこに油圧が加えられると、その力で揺動等に対する抗力となり、油膜は安定した層を維持することができる。
その結果、安定した油膜の作用で軸受体5と外輪2とは接触することなく、円滑な回転が継続的に得られるものとなる。
【0036】
このとき、油圧空間αの斜壁溝2aにあっては、上述の如く、斜壁溝2aの傾斜面2bは谷底を中心として対称をなすから、その対称中心の谷底に流入する油は中央部に集中するものとなり、軸受体5が中央に移動し、所謂センタリング効果を発揮する。
この結果、左右のアンバランスによる流体軸受全体の揺れ等がなくなり、円滑な回転や静音と共にNRRO等の現象を解消することができる。
【0037】
次いで、運転操作が終了して軸体Aの回転が停止した場合には、油圧空間αに加えられていた油圧が解除され、すると、油圧空間αと軸受体5の内面との間に圧力差が生じ、逆に軸受体5に負圧が生まれる。
すると、油圧空間αに貯められた油が逆流を始め、軸受体5へと戻されつつ、余ったものは油溜空間γへと至り、貯留される(
図4(e)参照)。
この結果、軸受体5を含めた全体に十分な油量が確保されることになり、油不足から生じる緩衝や内外径の真円度のズレが軽減され、又、静粛性も向上される。
【0038】
上記軸受体5の高速回転と回転停止との中間の速度の場合には、含油性の軸受体は滑り軸受けとして機能し、よって、低速から高速までの広い範囲での回転に対応が可能となる。
【0039】
又、上記各作用及び効果は、すべてモーターの駆動に連動した軸体Aの回転に伴う遠心力に動力源を依拠しているから、外部からの動力源の付加を必要とすることがなく、一切が自律的なものとなる。
従って、動力源付加の構造上の複雑さが回避され、且つ、小型で運転経費の少ないものとなる。
【0040】
交換時には、外輪2をハウジングから取り外し、軸体Aに嵌着された内輪2を取り外すことで、本発明流体軸受は取り外し自在となり、部品としての交換が可能となる。これは一般の転がり軸受と同様の扱いが可能であることを示す。
又、軸受体5のみを交換しようとする際には、抑え部材8とカバーリング9と取り外し、内輪3を外すと、中から軸受体5を引き出すことができる。
故障やメンテナンスの際に、全体をそっくり交換するのでなく、部品として一部を交換するだけで足り、経費の大きな節減効果が得られる。
本発明流体軸受は、含油性の多孔性焼結体で形成した軸受体5を備え、外輪2と内輪3を配し、周囲をシールカバー4で覆った流体軸受1であって、該軸受体5を、側面を遮蔽膜6で封止し、該外輪2に傾斜面の斜壁溝2aを刻設して、軸受体5と外輪2との間に、遠心力で流入する油を回転横方向に導く油圧空間αを形成し、該軸受体5の側面に風車を装着して、軸受体5とシールカバー4との間に、該風車7aの風を回転縦方向へと導く風圧空間βを形成し、上記油圧空間αに生じる油圧と風圧空間βに生じる風圧とが軸受体と外輪との接触部位で対峙して互いの圧力が均衡するようにしたことを特徴とする。