特許第6814917号(P6814917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814917
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】水系のスライム抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/02 20060101AFI20210107BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20210107BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20210107BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20210107BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20210107BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   A01N59/02 Z
   A01P3/00
   A01N59/00 D
   A01N25/02
   C02F1/76 A
   C02F1/50 510C
   C02F1/50 520J
   C02F1/50 531L
   C02F1/50 531M
   C02F1/50 531P
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-211929(P2016-211929)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-70507(P2018-70507A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛
【審査官】 薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−212248(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/158633(WO,A1)
【文献】 特開2016−120486(JP,A)
【文献】 特開2015−221766(JP,A)
【文献】 特表2002−543048(JP,A)
【文献】 特表2005−519089(JP,A)
【文献】 特開2003−048804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N A01P C02F
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロモスルファマートが存在する水系に、クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、水系のスライム抑制方法。
【請求項2】
前記水系は、紙・パルプ工程水系である、請求項1記載のスライム抑制方法
【請求項3】
前記クロラミンを生成する薬剤又はクロラミンを含有する薬剤は、次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウム及び/又は塩化アンモニウムとを混合して調製される、請求項1又は2に記載のスライム抑制方法。
【請求項4】
前記ブロモスルファマートが存在する水系は、ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤を添加した水系である、請求項1から3のいずれかに記載のスライム抑制方法。
【請求項5】
前記ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤は、水酸化ナトリウム、スルファミン酸、及び次亜臭素酸ナトリウムを配合してなる薬剤である、請求項4記載のスライム抑制方法。
【請求項6】
前記クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を、水系に対する残留塩素濃度換算で1〜30mg/Lとなるように添加することを含む、請求項1から5のいずれかに記載のスライム抑制方法。
【請求項7】
前記水系におけるブロモスルファマートの濃度は、残留塩素濃度換算で1〜20mg/Lである、請求項1から6のいずれかに記載のスライム抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系におけるスライムを抑制する方法に関する。特に、本開示は、紙・パルプ工程水系における抄紙工程水又は各種工業用の冷却水等の水系のスライムを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙・パルプ工業における抄紙工程や各種工業における冷却水系統には、細菌や真菌によるスライムが発生し、生産品の品質低下や生産効率の低下などの障害があることが知られている。
【0003】
これらの微生物による障害を防止するために、様々な殺菌剤が使用されている。例えば、特許文献1には、モノクロラミンと、ジクロログリオキシム等のその他の殺菌剤とを併用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−212248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最終製品である紙・パルプ製品をより高い品質で得るために、さらにスライムを抑制可能な新たな方法が求められている。
本開示は、水系におけるスライムを抑制可能な新たな方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、ブロモスルファマートが存在する水系に、クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、水系におけるスライムを抑制する方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、紙・パルプ工程水系におけるスライムの発生を抑制可能な新たな方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、ブロモスルファマートが存在する水系に、クロラミンを生成する薬剤及びクロラミンを含有する薬剤の少なくとも一方を添加することによって、水系におけるスライムの発生や、スライムの付着を抑制できうるという知見に基づく。また、本開示は、対象水系に、ブロモスルファマートを生成する薬剤及びブロモスルファマートを含有する薬剤の少なくとも一方を添加した後、クロラミンを生成する薬剤及びクロラミンを含有する薬剤の少なくとも一方を添加することによって、水系におけるスライムの発生を抑制でき、またスライムの付着を抑制できうるという知見に基づく。
【0009】
本開示の方法により、スライムの発生及び/又は付着を抑制できる理由は明らかではないが、以下のように推定している。
クロロスルファマートとモノクロラミンとを併用した場合は、クロロスルファマートの影響でモノクロラミンが安定化され、モノクロラミンの酸化力(殺菌力)が低下する。一方、モノクロラミンをブロモスルファマートと併用することによって、上記のようにモノクロラミンが安定化されることなく、これらを水系に共存させた場合であってもブロモスルファマート及びモノクロラミンの両方の酸化力(殺菌力)の効果を維持することができる。
さらに、ブロモスルファマートを予め水系に存在させた状態で、モノクロラミンを生成する薬剤及びモノクロラミンを含有する薬剤の少なくとも一方を添加することによって、ブロモスルファマートが水中の還元性物質や溶存有機物質によるモノクロラミンの分解を抑制し、かつ残存するブロモスルファマートがモノクロラミンと接触することによってブロモスルファマートの殺菌力が向上するものと推測される。但し、本発明はこれらのメカニズムに限定されるものではない。
【0010】
本開示において「スライムを抑制する」は、対象水系においてスライムの発生を抑制すること、及び/又は対象水系が通過する配管等へのスライムの付着を抑制することを含む。また、スライムの抑制としては、一又は複数の実施形態において、スライムの原因となる微生物の殺菌及び/又は増殖抑制を含んでいてもよい。
【0011】
本開示において「水系」としては、一又は複数の実施形態において、紙・パルプ製造工程水、各種工業用冷却水、及び海水冷却水等の工業用水系が挙げられる。紙・パルプ製造工程水は、一又は複数の実施形態として、抄紙白水及びパルプ白水を含みうる。紙・パルプ製造工程水は、一又は複数の実施形態において、循環利用又は再利用されるものを含みうる。紙・パルプ製造工程水としては、一又は複数の実施形態において、紙パルプ製造工程中の各工程を循環する工程水が挙げられる。
【0012】
本開示において「ブロモスルファマートが存在する水系」とは、ブロモスルファマートを含む水系をいう。ブロモスルファマートを含む水系としては、一又は複数の実施形態において、ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤(ブロモスルファマート薬剤)を含む水系を含みうる。ブロモスルファマートが存在する水系としては、一又は複数の実施形態において、ブロモスルファマート薬剤が添加された水系、及びブロモスルファマートが添加された紙・パルプ工程水系等が挙げられる。
【0013】
本開示において「ブロモスルファマート(BrNHSO3H)」とは、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物又はその塩との反応生成物である。臭素系酸化剤としては、一又は複数の実施形態において、次亜臭素酸又はその塩が挙げられ、中でも次亜臭素酸ナトリウムが好ましい。スルファミン酸化合物としては、一又は複数の実施形態において、スルファミン酸、及びブロモスルファミン酸等が挙げられる。ブロモスルファマートとしては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、「水酸化ナトリウム及びスルファミン酸の反応生成物」と「次亜臭素酸ナトリウム」との反応生成物が挙げられる。ブロモスルファマートは、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム、スルファミン酸、及び次亜臭素酸ナトリウムを配合して得ることができる。
【0014】
本開示において「クロラミン」とは、水中のアンモニアと塩素との反応により生成される反応生成物である。クロラミン(結合塩素)としては、モノクロラミン(NH2Cl)、ジクロラミン(NHCl2)及びトリクロラミン(NCl3)があり、これらは水中のpHによって変化する。モノクロラミンは、次亜塩素酸又はその塩とアンモニアとの反応により生成される。クロラミンを生成する薬剤及びクロラミンを含有する薬剤(クロラミン薬剤)は、一又は複数の実施形態において、殺菌剤であってもよい。本開示で使用する当該薬剤は、限定されない一又は複数の実施形態において、水溶液の形態のものを使用できる。
クロラミン薬剤としては、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン薬剤が挙げられる。モノクロラミン薬剤としては、一又は複数の実施形態において、モノクロラミンを生成する薬剤及びモノクロラミンを含有する薬剤等が挙げられる。モノクロラミンを生成する薬剤及びモノクロラミンを含有する薬剤としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩の水溶液と、水溶性アンモニウム塩の水溶液又はアンモニア水とを混合することにより調製することができる。次亜塩素酸塩の水溶液としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、又は次亜塩素酸カルシウム等の水溶液が挙げられる。水溶性アンモニウム塩の水溶液又はアンモニア水としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウム若しくは硝酸アンモニウムの水溶性アンモニウム塩の水溶液又はアンモニア水等が挙げられる。
【0015】
[スライム抑制方法]
本開示は、一態様において、ブロモスルファマートが存在する水系に、クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、水系のスライムを抑制する方法(本開示のスライム抑制方法)に関する。
【0016】
水系におけるブロモスルファマートの濃度は、一又は複数の実施形態において、残留塩素濃度換算で、0.5mg/L以上、1.0mg/L以上、2.0mg/L以上若しくは3.0mg/L以上であり、又は20mg/L以下若しくは10mg/L以下である。残留塩素濃度は、DPD法により測定できる。
【0017】
クロラミン薬剤の添加方法は特に限定されない。添加方法としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩の水溶液と、水溶性アンモニウム塩の水溶液又はアンモニア水とを混合して水系に添加してもよいし、次亜塩素酸塩の水溶液と水溶性アンモニウム塩の水溶液又はアンモニア水とをそれぞれ同じ場所又は別々の場所で水系に添加してもよい。中でも、紙・パルプ製造工程水系におけるスライムの抑制効果をさらに向上させる点からは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と、硫酸アンモニウム及び/又は塩化アンモニウムの水溶液とを混合して添加することが好ましい。
【0018】
クロラミン薬剤の添加場所は、一又は複数の実施形態において、スライムが形成しやすい箇所を抑制するための添加であれば特に限定されず、単一又は複数の箇所であってもよい。好ましい添加場所としては、抄紙工程の白水ピット、又は原料パルプスラリーが存在するミキシングチェスト若しくは種箱等が挙げられる。
【0019】
クロラミンの添加濃度(添加後の対象水系における濃度)は、水系の酸化還元電位(ORP)等に応じて適宜決定でき、一又は複数の実施形態において、水系に対する残留塩素濃度換算で、0.1mg/L以上、0.5mg/L以上、1.0mg/L以上、1.2mg/L以上、2.0mg/L以上若しくは2.5mg/L以上であり、又は30mg/L以下、20mg/L以下若しくは10mg/L以下である。残留塩素濃度は、DPD法により測定できる。
【0020】
ブロモスルファマートに対するモノクロラミンの比率(ブロモスルファマート濃度:モノクロラミン濃度)は、一又は複数の実施形態において、1:30〜20:1である。
【0021】
クロラミン薬剤は、一又は複数の実施形態において、連続添加でもよいし、間欠添加でもよい。
【0022】
本開示のスライム抑制方法は、一又は複数の実施形態において、対象水系に、上記のブロモスルファマート薬剤を添加することを含んでいてもよい。本開示のスライム抑制方法は、一又は複数の実施形態において、ブロモスルファマート薬剤を添加した水系に、クロラミン薬剤を添加することを含む。
【0023】
ブロモスルファマート薬剤の添加方法は特に限定されない。添加方法としては、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム水溶液とスルファミン酸化合物を混合して得られた反応生成物と、臭素系酸化剤とを混合して水系に添加してもよいし、水酸化ナトリウム水溶液とスルファミン酸化合物を混合して得られた反応生成物と、臭素系酸化剤とをそれぞれ同じ場所又は別々の場所で水系に添加してもよい。中でも、紙・パルプ製造工程水系におけるスライムの抑制効果をさらに向上させる点からは、水酸化ナトリウム水溶液とスルファミン酸を混合して得られた反応生成物と、次亜塩臭素酸ナトリウムとを混合して得られる薬剤を使用することが好ましい。
【0024】
ブロモスルファマート薬剤の添加場所は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、クロラミン薬剤の添加箇所よりも前の箇所(上流側)である。また、循環させて利用する白水に添加する場合は、添加箇所はクロラミン薬剤添加箇所の上流側でなくてもよく、循環系のいずれの箇所であってもよい。特に限定され特に限定されない一又は複数の実施形態において、ブロモスルファマート薬剤の添加は、スライムが形成しやすい箇所を抑制するための添加であれば、単一の個所の添加であってもよいし、又は複数の箇所の添加であってもよい。好ましい添加場所としては、抄紙工程の白水ピット、又は原料パルプスラリーが存在するミキシングチェスト若しくは種箱等が挙げられる。
【0025】
[キット]
本開示は、一態様において、ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤と、クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤とを含有する、製紙工程水系においてスライムを抑制するためのキットに関する。本開示のキットによれば、本開示のスライム抑制方法による対象水系のスライムの抑制を効率よく行うことができる。
【0026】
[紙の製造方法]
本開示は、その他の態様として、ブロモスルファマートが存在する製紙工程水系に、クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を添加することにより、該工程水系におけるスライムの抑制を行うことを含む紙の製造方法に関する。本開示の製紙方法は、一又は複数の実施形態において、本開示のスライム抑制方法を行うことを含む。本開示の紙の製造方法によれば、上記のスライム抑制工程を含むことから、紙の製造工程におけるスライムの発生及び/又は付着を抑制でき、品質の高い紙を製造できる。
【0027】
本開示の製紙方法において使用する薬剤及びその濃度等は本開示のスライム抑制方法と同様である。
【0028】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる;
〔1〕 ブロモスルファマートが存在する水系に、クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、水系のスライム抑制方法。
〔2〕 ブロモスルファマートが存在する水系に、モノクロラミンを生成する薬剤及び/又はモノクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、水系のスライム抑制方法。
〔3〕 前記水系は、紙・パルプ工程水系である、〔1〕又は〔2〕に記載のスライム抑制方法
〔4〕 前記モノクロラミンを生成する薬剤又はモノクロラミンを含有する薬剤は、次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウム及び/又は塩化アンモニウムとを混合して調製される、〔2〕又は〔3〕に記載のスライム抑制方法。
〔5〕 前記水系に、ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤を添加すること、及び前記薬剤を添加した水系に前記クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のスライム抑制方法。
〔6〕 前記水系に、ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤を添加すること、及び前記薬剤を添加した水系に前記モノクロラミンを生成する薬剤及び/又はモノクロラミンを含有する薬剤を添加することを含む、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のスライム抑制方法。
〔7〕 前記ブロモスルファマートを生成する薬剤及び/又はブロモスルファマートを含有する薬剤は、水酸化ナトリウム、スルファミン酸、及び次亜臭素酸ナトリウムを配合してなる薬剤である、〔5〕又は〔6〕に記載のスライム抑制方法。
〔8〕 前記クロラミンを生成する薬剤及び/又はクロラミンを含有する薬剤を、水系に対する残留塩素濃度換算で1〜30mg/Lとなるように添加することを含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のスライム抑制方法。
〔9〕 前記モノクロラミンを生成する薬剤及び/又はモノクロラミンを含有する薬剤を、水系に対する残留塩素濃度換算で1〜30mg/Lとなるように添加することを含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のスライム抑制方法。
〔10〕 前記水系におけるブロモスルファマートの濃度は、残留塩素濃度換算で1〜20mg/Lである、〔1〕から〔9〕のいずれかに記載のスライム抑制方法。
【0029】
以下の実施例および比較例に基いて本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
[薬剤の調製]
下記の3種類の薬剤を調製した。
【0031】
[モノクロラミンを含有する薬剤の調製]
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素が2g/Lになるよう希釈した後、30%硫酸アンモニウム水溶液(硫酸アンモニウム30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)を混合することによって、残留塩素と窒素とのモル比が1:1.2となるよう調製した。
【0032】
[臭素系酸化剤とスルファミン酸又はその塩との反応物(ブロモスルファマート)を含有する薬剤の調製]
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)50gと40%臭化ナトリウム(臭化ナトリウム40gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)26gとを混合して準備した次亜臭素酸ナトリウムに、水酸化ナトリウム9.6gとスルファミン酸10gとを加え、ついで全量が100gになるよう脱イオン水で調製した。
【0033】
[塩素系酸化剤とスルファミン酸又はその塩との反応物(クロロスルファマート)を含有する薬剤の調製]
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)50gに水酸化ナトリウム9.6gとスルファミン酸10gを加えて全量が100gになるよう脱イオン水で調製した。
【0034】
[実施例1]
某製紙工場の製紙工程(抄き物:カップ原紙)のスライム付着物から単離した菌(Bacillus属)を準備した。同じ工場で採取した工程水を滅菌し、上記の単離した菌を懸濁して試験液を調製した。
この試験液を10mlずつL字管に分注し、ついでブロモスルファマート(Brスルファマート)及びモノクロラミンをこの順で添加し、30℃で1時間振とうし、振とう後の生菌数を下記の方法により測定した。その結果を下記表1に示す。なお薬剤は、DPD(ジエチルーp−ファニレンジアミン)法によって得られた残留塩素量(遊離残留塩素と結合残留塩素との合計値)が、下記表1の量になるように添加した。
<試験液の性状>
pH7.5
ORP 190mV(25℃)
生菌数:バクテリア 2.1×105CFU/ml、カビ 10CFU/ml未満
【0035】
<生菌数の測定方法>
生菌数は、振とう後の試験液を必要に応じて段階的に希釈して寒天培地にて48時間培養し、形成されたコロニー数をカウントした。
【0036】
[実施例2〜6]
ブロモスルファマート及びモノクロラミンの添加量を下記表1の量になるようにした以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表1に示す。
【0037】
[比較例1〜3]
ブロモスルファマートを添加せず、かつモノクロラミンの添加量を下記表1の量になるようにした以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表1に示す。
【0038】
[比較例4及び5]
モノクロラミンを添加せず、かつブロムスフルファマートの添加量を下記表1の量になるようにした以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表1に示す。
【0039】
[比較例6及び7]
ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマート(Clスルファマート)を使用した以外は、比較例4又は5と同様に行った。その結果を下記表1に示す。
【0040】
[比較例8〜13]
ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマートを使用し、各薬剤の添加量を下記表1の量になるようにした以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表1に示す。
【0041】
[比較例14〜16]
モノクロラミンを添加した後、ブロモスルファマートを添加した(ブロモスルファマートとモノクロラミンとの添加順序を変更した)以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、ブロモスルファマート及びモノクロラミンを併用し、かつその添加順序をブロモスルファマート及びモノクロラミンの順番とした実施例1〜6によれば、比較例1〜16と比べて、生菌の増加を抑制できるとともに、処理前の試験液よりも含まれる生菌数を減少できた。
一方、ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマートを使用した比較例8〜13、及びモノクロラミンを添加後にブロモスルファマートを添加した比較例14〜16では、実施例1〜6と比較して、十分なスライム発生抑制効果と殺菌性効果が得られなかった。
したがって、対象水系にブロモスルファマートが存在する状態で、モノクロラミンを添加した実施例1〜6の方法は、スライム発生の抑制と殺菌性との2つの効果を兼ね備えているといえる。
【0044】
[実施例7]
某製紙工場(抄き物:段ボール原紙)にて採取した白水10mlをL字管に分注した。そこにブロモスルファマート及びモノクロラミンをこの順で添加し、30℃で30分間振とうし、振とう後の生菌数を実施例1と同様の方法により測定した。その結果を下記表2に示す。なお薬剤は、DPD(ジエチルーp−ファニレンジアミン)法によって得られた残留塩素量(遊離残留塩素と結合残留塩素との合計値)が、下記表2の量になるように添加した。
<白水の性状>
pH7.1
ORP:183mV(25℃)
生菌数:バクテリア 2.4×106CFU/ml、カビ 10CFU/ml未満
【0045】
[実施例8〜14]
ブロモスルファマート及びモノクロラミンの添加量を下記表2の量になるようにした以外は、実施例7と同様に行った。その結果を下記表2に示す。
【0046】
[比較例17〜20]
ブロモスルファマートを添加せず、かつモノクロラミンの添加量を下記表2の量になるようにした以外は、実施例7と同様に行った。その結果を下記表2に示す。
【0047】
[比較例21]
モノクロラミンを添加せず、かつブロムスフルファマートの添加量を下記表2の量になるようにした以外は、実施例7と同様に行った。その結果を下記表2に示す。
【0048】
[比較例22]
ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマートを使用した以外は、比較例21と同様に行った。その結果を下記表2に示す。
【0049】
[比較例23〜26]
ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマートを使用し、各薬剤の添加量を下記表2の量になるようにした以外は、実施例7と同様に行った。その結果を下記表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、ブロモスルファマート及びモノクロラミンを併用し、かつその添加順序をブロモスルファマート及びモノクロラミンの順番とした実施例7〜14によれば、比較例17〜26と比べて、菌の増加を抑制できるとともに、処理前の試験液よりも含まれる生菌数を減少できた。
したがって、対象水系にブロモスルファマートが存在する状態で、モノクロラミンを添加した実施例7〜14の方法は、スライム発生の抑制と殺菌性との2つの効果を兼ね備えているといえる。
【0052】
[実施例15]
某製紙工場(抄き物:段ボール原紙)にて採取した白水をNo.2ろ紙でろ過した。ろ過した白水10mlをL字管に分注し、そこにブロモスルファマート及びモノクロラミンをこの順で添加し、30℃で30分間振とうした。振とう後の液を細胞培養用ウェルプレートに4mlずつ分注しブイヨン培地を添加し、30℃で24時間培養した。ウェルプレートを水道水ですすいだ後、乾燥し、クリスタルバイオレット液を用いて染色し、スライム汚れを目視で評価した。その結果を下記表4に示す。なお、評価は、下記表3に示す基準で行った。
<白水の性状>
pH7.8
ORP 185mV(25℃)
生菌数:バクテリア 1.2×106CFU/ml、カビ 10CFU/ml未満
【0053】
【表3】
【0054】
[実施例16〜22]
ブロモスルファマート及びモノクロラミンの添加量を下記表4の量になるようにした以外は、実施例15と同様に行った。その結果を下記表4に示す。
【0055】
[比較例27〜30]
ブロモスルファマートを添加せず、かつモノクロラミンの添加量を下記表4の量になるようにした以外は、実施例15と同様に行った。その結果を下記表4に示す。
【0056】
[比較例31及び32]
モノクロラミンを添加せず、かつブロムスフルファマートの添加量を下記表4の量になるようにした以外は、実施例15と同様に行った。その結果を下記表4に示す。
【0057】
[比較例33及び34]
ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマートを使用した以外は、比較例31又は32と同様に行った。その結果を下記表4に示す。
【0058】
[比較例35〜38]
ブロモスルファマートに替えてクロロスルファマートを使用し、各薬剤の添加量を下記表4の量になるようにした以外は、実施例15と同様に行った。その結果を下記表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示すように、ブロモスルファマート及びモノクロラミンを併用し、かつその添加順序をブロモスルファマート及びモノクロラミンの順番とした実施例15〜22では、培養液を乾燥後のウェルプレートから汚れが確認できないか、確認された場合であってもその汚れは少なかった。つまり、対象水系にブロモスルファマートが存在する状態で、モノクロラミンを添加した実施例15〜22の方法によれば、対象水系へのスライムの付着を抑制できることが確認できた。