(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814925
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】HGF誘導剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20210107BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20210107BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210107BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20210107BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K31/737
A61P43/00 107
A61P43/00 121
A61K36/53
A61K35/60
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-199591(P2016-199591)
(22)【出願日】2016年10月8日
(65)【公開番号】特開2018-58807(P2018-58807A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】515021622
【氏名又は名称】株式会社ニューロゲン
(73)【特許権者】
【識別番号】300065822
【氏名又は名称】株式会社漢方医科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏一
(72)【発明者】
【氏名】岡 清正
(72)【発明者】
【氏名】大城 日出男
【審査官】
伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/092348(WO,A1)
【文献】
国際公開第00/062785(WO,A1)
【文献】
特開平08−003195(JP,A)
【文献】
MATSUNAGA, T. et al.,Exp Cell Res,1994年,Vol. 210,pp. 326-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 38/00
A61K 35/00
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞増殖因子遺伝子の転写を促進する肝細胞増殖因子転写促進剤と、
肝細胞増殖因子タンパク質の翻訳を促進する肝細胞増殖因子翻訳促進剤とを有効成分とする、
肝細胞増殖因子誘導剤であって、
前記肝細胞増殖因子転写促進剤が、フォルスコリンであり、
前記肝細胞増殖因子翻訳促進剤が、コンドロイチン硫酸、又はデルマタン硫酸である、
肝細胞増殖因子誘導剤
【請求項2】
前記フォルスコリンが、コレウス・フォルスコリ由来であり、
前記コンドロイチン硫酸及び/又はデルマタン硫酸が、サメ軟骨由来である、
請求項1に記載の肝細胞増殖因子誘導剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞増殖因子遺伝子の転写を促進する肝細胞増殖因子転写促進剤と、肝細胞増殖因子タンパク質の翻訳を促進する肝細胞増殖因子翻訳促進剤とを有効成分とする、HGF誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞増殖因子(以下、「HGF」とも呼称する。)は成熟肝実質細胞の増殖を指標にして発見されたタンパク質であるが、その後の研究により、HGFは肝実質細胞以外にも多くの上皮系細胞や一部の間葉系細胞にも増殖作用を示すことが明らかになった。また、HGFは細胞増殖活性のみならず、細胞遊走促進、形態形成促進、細胞死抑制、血管新生作用など多様な活性を示すことも知られている(非特許文献1)。HGFはその薬理作用から肝疾患治療剤、腎疾患治療剤、上皮細胞増殖促進剤、肺障害治療剤、胃・十二指腸損傷治療剤、脳神経障害治療剤、免疫抑制副作用防止剤、コラーゲン分解促進剤、軟骨障害治療剤、動脈疾患治療剤、創傷治療剤、神経障害改善薬、育毛促進剤など(特許文献1〜5参照)としての開発が期待されている。
【0003】
HGFは主に間葉系細胞によって産生されるが、その産生量は臓器の傷害に応じて上昇する。例えば、肝臓に傷害が起こると肝非実質細胞でHGFの産生が高まる。この時、無傷の肺、脾臓、腎臓などの他の臓器でもHGFの発現が上昇し、血中HGF量が上昇する。このことは、臓器の傷害に応じてHGFの発現を誘導する因子が血中に存在することを示すが、そのような因子はインジュリンと総称される(非特許文献2)。
【0004】
インジュリンは単一の物質ではなく、例えばインターロイキン−1、FGF(線維芽細胞増殖因子)などのサイトカイン類、cAMP誘導剤、プロスタグランジン等がインジュリンとして同定されている。これらの因子はHGF mRNAの転写を上昇させることによりHGFの産生を高める。また、ヘパリン及びヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸等のグリコサミノグリカンは、HGF mRNAからHGFタンパク合成を促す翻訳レベルで働くことが見出されている(特許文献6、非特許文献3)。
【0005】
HGF誘導活性を示す物質は天然物にも含まれていることが知られている。例えば、コレウス・フォルスコリ中のフォルスコリン(非特許文献4)、ガゴメコンブ由来のフコイダン(特許文献7)、蒲公英のチコリ酸(特許文献8)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−18028号公報
【特許文献2】特開平4−49246号公報
【特許文献3】特開平6−172207号公報
【特許文献4】特開平7−89869号公報
【特許文献5】特開平6−312941号公報
【特許文献6】特開2002−3384号公報
【特許文献7】特開2001−226392号公報
【特許文献8】特開2010−043013号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nakamura, T., “ The discovery of Hepatocyte Growth Factor (HGF) and its significance for cell biology, life sciences and clinical medicine.” Proc. J. Acad, Ser. B, 86, 588-610, (2010).
【非特許文献2】Matsumoto, K., “ Identification and characterization of "injurin", an inducer of expression of the gene for hepatocyte growth factor. “Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 3800-3804, (1992).
【非特許文献3】Matsumoto, K., “Heparin as an inducer of hepatocyte growth factor.” J. Biochem., 114, 820-826, (1993).
【非特許文献4】Matsunaga, T., “Expression of hepatocyte growth factor is up-regulated through activation of a cAMP-mediated pathway.” Exp. Cell Res., 210, 326-335, (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さまざまな疾患に対する治療薬・予防薬や、美容品、化粧品、機能性食品(サプリメント)等に利用するため、生体内で肝細胞増殖因子の産出を誘導する誘導剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明においては、転写の段階で肝細胞増殖因子遺伝子の発現を促進する物質と、翻訳の段階で肝細胞増殖因子タンパク質の合成を促進する物質との組合せからなり、従来技術と比べて顕著に高い活性を有する肝細胞増殖因子誘導剤を提供する。すなわち、本発明は、肝細胞増殖因子遺伝子の転写を促進する肝細胞増殖因子転写促進剤と、肝細胞増殖因子タンパク質の翻訳を促進する肝細胞増殖因子翻訳促進剤とを有効成分とする、肝細胞増殖因子誘導剤である。
【0010】
別の本発明では、肝細胞増殖因子転写促進剤が、フォルスコリンであり、肝細胞増殖因子翻訳促進剤が、コンドロイチン硫酸、又はデルマタン硫酸である。さらに別の本発明では、肝細胞増殖因子翻訳促進剤が、多糖類であり、該多糖類が、グルクロン酸2硫酸及びアセチルガラクトサミン6硫酸の繰り返し構造を有する。
【0011】
さらに、別の本発明は、前記肝細胞増殖因子転写促進剤が、コレウス・フォルスコリ由来であり、肝細胞増殖因子翻訳促進剤が、サメ軟骨由来である肝細胞増殖因子誘導剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肝細胞増殖因子(HGF)の遺伝子の転写を促進するHGF転写促進剤と、肝細胞増殖因子(HGF)のタンパク質の翻訳を促進するHGF翻訳促進剤とを組み合わせることで、投与対象の細胞におけるHGF産出を最大限に促進することができる。従来技術であるHGF転写促進剤やHGF翻訳促進剤それぞれの単独作用と比較して、本発明では、HGF転写促進剤及びHGF翻訳促進剤の相加的相乗効果が発揮され、最大最強のHGF誘導剤が創出され得ることが期待される。
【0013】
後述するように、フォルスコリンとサメ軟骨由来コンドロイチン硫酸Dを同時に添加すると、HGF産生量が陰性対照の100〜150倍にも達するなど、HGFの遺伝子の転写を促進するHGF転写促進剤と、HGFのタンパク質の翻訳を促進するHGF翻訳促進剤との共存下におけるHGF誘導効果は、これまで観測された事が無い高レベルとなることが明らかになった。
【0014】
本発明の強力なHGF誘導剤は、リコンビナントHGFタンパク質あるいはHGF遺伝子医薬を用いて、これまで明らかにされてきたさまざまな急性又は慢性の臓器疾患の発症予防や治療効果の実証から容易に想像できるように、多くの難治性疾患の予防や治療を目的とした医薬品や健康食品・サプリメントになり得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に含有される肝細胞増殖因子転写促進剤によるHGF mRNAの発現誘導を示す図である。
【
図2】本発明に含有される肝細胞増殖因子転写促進剤によるHGF誘導活性を示す図である。
【
図3】本発明に含有される肝細胞増殖因子翻訳促進剤によるHGF誘導活性を示す図である。
【
図4】本発明の実施例によるHGF誘導活性を示す図である。
【
図5】本発明の実施例によるマウス血中HGF量の増加を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の肝細胞増殖因子誘導剤について、発明を実施するための形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤は、肝細胞増殖因子遺伝子の転写を促進する肝細胞増殖因子転写促進剤と、肝細胞増殖因子タンパク質の翻訳を促進する肝細胞増殖因子翻訳促進剤とを有効成分とする。肝細胞増殖因子の産出を、肝細胞増殖因子遺伝子の転写段階、及び肝細胞増殖因子のタンパク質の翻訳段階の両段階で誘導することで、従来技術にはない顕著な肝細胞増殖因子誘導効果を得ることができる。
【0018】
肝細胞増殖因子転写促進剤は、生体内で、肝細胞増殖因子をコードするDNAの塩基配列を鋳型としたmRNAの合成を促進し、該mRNA量を増加させる作用を有する。肝細胞増殖因子転写促進剤としては、具体的にはフォルスコリンが挙げられる。フォルスコリンとは、テルペン化合物の一種で、4つのイソプレンによって構成されるジテルペンに分類され、コレウス・フォルスコリ(Plectranthus barbatus)等の植物に含有される。
【0019】
また、肝細胞増殖因子翻訳促進剤は、生体内で、肝細胞増殖因子をコードするDNAの塩基配列を鋳型として合成されたmRNAに基づいた肝細胞増殖因子タンパク質の合成を促進し、肝細胞増殖因子タンパク質量を増加させる作用を有する。肝細胞増殖因子翻訳促進剤としては、多糖類が好ましく、多糖類でもグルコサミノグリカンであることがさらに好ましい。肝細胞増殖因子翻訳促進剤の具体例としては、コンドロイチン硫酸又はデルマタン硫酸が挙げられる。
【0020】
コンドロイチン硫酸とは、アセチルガラクトサミン及びグルクロン酸の繰り返し構造を有するグルコサミノグリカンである。アセチルガラクトサミンの4位に硫酸基が付加されたものはコンドロイチン4硫酸又はコンドロイチン硫酸A、アセチルガラクトサミンの6位に硫酸基が付加されたものはコンドロイチン6硫酸又はコンドロイチン硫酸Cと呼ばれる。コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cは、軟骨の構成成分として知られている。
【0021】
また、グルクロン酸2硫酸及びアセチルガラクトサミン6硫酸の繰り返し構造を有するグルコサミノグリカンは、コンドロイチン硫酸Dと呼ばれ、サメ軟骨の構成成分として知られている。
【0022】
さらに、デルマタン硫酸とは、イズロン酸2硫酸及びアセチルガラクトサミン4硫酸の繰り返し構造を有するグルコサミノグリカンであり、コンドロイチン硫酸Bと呼ばれる場合もある。コンドロイチン硫酸Bは皮膚の構成成分として知られている。
【0023】
本発明は、肝細胞増殖因子翻訳促進剤の中でも、サメ軟骨から得られたコンドロイチン硫酸Dを有効成分とすることが好ましい。サメ軟骨から得られたコンドロイチン硫酸Dは、他のコンドロイチン硫酸やデルマタン硫酸と比較しても、肝細胞増殖因子翻訳促進活性が高いためである。
【0024】
本発明は、有効成分として含有される肝細胞増殖因子転写促進剤が、肝細胞増殖因子をコードするDNAの塩基配列を鋳型としたmRNAの合成を促進する。さらに、有効成分として含有される肝細胞増殖因子翻訳促進剤合成が、合成が促進された該mRNAに基づいた肝細胞増殖因子タンパク質の合成を促進することで、従来技術にはない顕著な肝細胞増殖因子誘導効果を得ることができる。
【0025】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤は、抽出物と所望により配合される医薬上又は食品衛生上許容される担体とを、公知の方法により混合して製剤化することにより、経口的に摂取できる医薬又は食品として容易に調製できる。食品とは、健康食品、機能性食品及びサプリメントを含む。また、経鼻的又は経皮的に摂取する医薬や、注射により投与する医薬、経皮的に使用する美容品としての調整も可能である。
【0026】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤は、医薬上又は食品衛生上許容される担体を用いて製剤化してもよい。製剤としては、例えば固形製剤又は液状製剤が挙げられる。医薬上又は食品衛生上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機又は無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤や、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤(乳化剤、増粘剤)等が挙げられる。また必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、香料等の製剤添加物を用いることもできる。本発明の肝細胞増殖因子誘導剤は、治療薬、予防薬、美容品、化粧品、又は機能性食品として調製することができる。
【0027】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤を含有する治療薬、予防薬、美容品、又は機能性食品は、経口的に摂取されることが好ましい。食後、食前又は食間に摂取することがより好ましい。本発明の摂取量及び摂取回数は、年齢、体重、投与形態などにより異なる。さらに、本発明の治療薬又は予防薬は、経鼻的、経皮的に投与されるものでもよく、注射器を用いて、静脈、腹腔、皮内、皮下、筋肉等に投与されてもよい。本発明の美容品は、経皮的に投与されるものであってもよい。
【0028】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤は、生体内での肝細胞増殖因子の産出を誘導する。したがって、肝細胞増殖因子の産出によって治療及び/又は予防されるさまざまな疾患に効果を発揮する。具体的には、肝疾患(肝炎、肝硬変、肝不全、その他の肝障害)、腎疾患(糸球体腎炎、腎不全、腎性貧血症、糖尿病性腎症、その他の腎障害)、皮膚疾患、眼疾患(角膜潰瘍等)、肺疾患(肺炎、肺気腫、肺結核、慢性閉塞性肺疾患、塵肺、肺線維症、その他の肺障害)、胃十二指腸疾患(胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、その他の胃十二指腸障害)、癌疾患や癌治療における障害、心臓又は四肢の虚血性疾患又は動脈疾患、血液疾患(貧血、血小板減少症、血流障害等)、骨疾患(骨粗鬆症、骨異形成症、変形性関節炎、その他の骨障害)、又は中枢疾患(神経分化異常症等)等が挙げられる。本発明の治療薬、予防薬、美容品、又は機能性食品は、これらの疾患の治療及び/又は予防に用いることができる。
【0029】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤を含有する治療薬、予防薬、美容品、又は機能性食品の投与又は摂取対象としては、ヒトが好ましいが、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、サル、ブタ等の哺乳類や、鳥類、爬虫類、両生類、魚類に属する愛玩動物や畜産・養殖種、実験用動物等に投与又は摂取させてもよい。
【実施例】
【0030】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0031】
肝細胞増殖因子転写促進剤としてフォルスコリン又はコンドロイチン硫酸を用いた場合のHGF mRNA量を測定した。ヒト皮膚線維芽細胞であるSF4-1細胞を1.8 x10
5 cells/well の細胞密度で6 wellプレートに播種し、10% FCSを含むDMEM培地で1日培養した。次に、該細胞の培地を吸引除去し、培地を、1%FCSを含むDMEM培地に交換して培養を継続した。この際、フォルスコリンを10 μM、サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Dを5 mg/mlの濃度で添加した。16時間後に細胞を回収しmRNAを抽出した。Oligo(dT)を用いてcDNAを合成し、RT-PCRを行った。1.5%アガロースで電気泳動を行い、Et-Br染色後のバンドの蛍光強度を測定した。
図1に示すように、フォルスコリンの添加によってHGF mRNA量は増加したが、コンドロイチン硫酸Dの添加ではHGF mRNA量に変化はみられなかった。したがって、肝細胞増殖因子転写促進剤としては、フォルスコリンを用いることが好ましいことがわかった。
【実施例2】
【0032】
肝細胞増殖因子転写促進剤となり得るフォルスコリンのHGF誘導活性を測定した。ヒト皮膚線維芽細胞であるSF4-1細胞を1.5 x10
4 cells/well の細胞密度で96 wellプレートに播種した。翌日、培地を1% FCSを含むDMEM培地に交換し、フォルスコリンを、濃度が0〜30 μMとなるように添加した。また、陽性対照としてHGF誘導活性を有することが知られているヘパリンを用いた。48時間後に培養上清を回収し、分泌されたHGF量を測定した。HGFの定量はELISA法にて行った。
図2に示すように、フォルスコリンを10μM添加することで最大のHGF誘導活性を示した。
【実施例3】
【0033】
肝細胞増殖因子翻訳促進剤として、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸とも呼ばれる。)、コンドロイチン硫酸C、及びコンドロイチン硫酸DのHGF誘導活性を測定した。ヒト皮膚線維芽細胞であるSF4-1細胞を1.5 x10
4 cells/well の細胞密度で96 wellプレートに播種した。翌日、培地を1% FCSを含むDMEM培地に交換し、コンドロイチン硫酸を0〜10 mg/mlの間で変化させて添加した。また、陽性対照としてHGF誘導活性を有することが知られているヘパリンを用いた。48時間後に培養上清を回収し、分泌されたHGF量を測定した。HGFの定量はELISA法にて行った。
図3に示すように、コンドロイチン硫酸A〜Dを添加することで濃度依存的にHGF誘導活性の増加を示した。
【実施例4】
【0034】
肝細胞増殖因子転写促進剤であるフォルスコリン、及び肝細胞増殖因子翻訳促進剤であるサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Dを有効成分とした場合のHGF誘導活性を測定した。ヒト皮膚線維芽細胞であるSF4-1細胞を1.5 x10
4 cells/well の細胞密度で96 wellプレートに播種した。翌日、培地を1% FCSを含むDMEM培地に交換し、10 μMフォルスコリンと5 mg/mlコンドロイチン硫酸を添加した。また、陽性対照としてHGF誘導活性を有することが知られているヘパリンを用いた。48時間後に培養上清を回収し、分泌されたHGF量を測定した。HGFの定量はELISA法にて行った。
図4に示すように、フォルスコリン又はサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Dを単独で添加するとHGF産生量が、陰性対照である蒸留水添加の20倍に促進された。一方で、フォルスコリンとサメ軟骨由来コンドロイチン硫酸Dを同時に添加すると、HGF産生量が陰性対照の100〜150倍にも達し、顕著な相乗効果が認められた。
【実施例5】
【0035】
肝細胞増殖因子転写促進剤であるフォルスコリン、及び肝細胞増殖因子翻訳促進剤であるサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸D(グルクロン酸2硫酸及びアセチルガラクトサミン6硫酸の繰り返し構造を有し、デルマタン硫酸にも分類される。)を有効成分とした肝細胞増殖因子誘導剤をマウスに投与して血漿中のHGF量の測定を行った。ICRマウス(8週令、雌)を用い、フォルスコリンを20 μg、コンドロイチン硫酸を20 mg経口投与した。30時間後に血漿を回収し、HGF濃度を測定した。
図5に示すように、フォルスコリンのみを有効成分とする誘導剤やコンドロイチン硫酸Dのみを有効成分とする誘導剤と比較しても、本実施例の誘導剤は、血中HGF量の顕著な増加が認められ、HGF誘導効果が著しく高いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の肝細胞増殖因子誘導剤は、医薬、食品及び美容分野において肝細胞増殖因子の産生を誘導することによる様々な疾患の治療、予防に用いることができる。