(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した各特許文献に記載された非侵襲法による血糖値の測定方法では、血中糖度を必ずしも正確に測定できるとは言えない課題があった。
【0007】
具体的には、上記特許文献1および上記特許文献2に記載された非侵襲法による血糖値の測定方法では、測定に用いられる近赤外光が通過する部位(例えば、人体の耳たぶや耳)の厚さが一定であることを前提としている。よって、測定部位の位置が所定位置からずれた場合は、血糖値を正確に検出することが難しいという課題があった。
【0008】
上記の課題は人体以外の食物等の物質濃度を計測する場合にも発生し得る。
【0009】
本発明はこの様な問題点を鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、測定を行う被測定部位の光路長が変更された場合でも正確に血中糖度等の物質濃度を計測することができる光学測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学測定装置は、光線を被測定部位に透過させることで、前記被測定部位の内部に於ける物質濃度を計測する光学測定装置であり、第1光線と、前記第1光線とは波長が異なる第2光線と、を射出する発光部と、前記発光部から射出された前記第1光線および前記第2光線を、前記被測定部位に到達させる光学素子と、前記光学素子を変位可能に支持する可動支持部と、前記被測定部位を透過した前記第1光線および前記第2光線を受光する受光部と、前記受光部の出力に基づいて、前記被測定部位の内部に於ける前記物質濃度を算出すると共に、前記可動支持部を制御する演算制御手段と、を具備し、前記演算制御手段は、前記可動支持部で前記光学素子を変位させることで、前記被測定部位を透過する前記第1光線および前記第2光線の光路長を変化させつつ、前記受光部で受光する前記第1光線および前記第2光線の強度に基づいて、前記物質濃度を算出
し、前記演算制御手段は、前記光学素子が第1位置であった際に、前記発光部から射出され、前記光学素子を介して、前記被測定部位を透過して前記受光部に達する第1光路を経由する前記第1光線および前記第2光線の強度を計測し、前記可動支持部により前記光学素子が前記第1位置から第2位置に変位された際に、前記発光部から射出され、前記光学素子を介して、前記被測定部位を透過して前記受光部に達する第2光路を経由する前記第1光線および前記第2光線の強度を計測し、前記光学素子が前記第1位置であった際に前記受光部で検出される前記第1光線および前記第2光線の強度、および、前記光学素子が前記第2位置であった際に前記受光部で検出される前記第1光線および前記第2光線の強度から、前記被測定部位の内部に於ける前記物質濃度を算出し、前記可動支持部は、前記光学素子を、前記第1光線および前記第2光線の光軸に対して、一方側に変位することで、前記第1位置を実現し、前記可動支持部は、前記光学素子を、前記第1光線および前記第2光線の光軸に対して、前記一方側に対向する他方側に変位することで、前記第2位置を実現することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光学測定装置では、前記光学素子は、前記第1光線および前記第2光線を前記被測定部位に集光させるレンズであり、前記レンズを保持するレンズ保持部および前記レンズ保持部を変位可能に支持する前記可動支持部に設けられたコイルおよび磁石で、前記レンズが変位されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光学測定装置では、前記被測定部位は人体の一部であり、前記物質濃度は血中糖度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学測定装置は、光線を被測定部位に透過させることで、前記被測定部位の内部に於ける物質濃度を計測する光学測定装置であり、第1光線と、前記第1光線とは波長が異なる第2光線と、を射出する発光部と、前記発光部から射出された前記第1光線および前記第2光線を、前記被測定部位に到達させる光学素子と、前記光学素子を変位可能に支持する可動支持部と、前記被測定部位を透過した前記第1光線および前記第2光線を受光する受光部と、前記受光部の出力に基づいて、前記被測定部位の内部に於ける前記物質濃度を算出すると共に、前記可動支持部を制御する演算制御手段と、を具備し、前記演算制御手段は、前記可動支持部で前記光学素子を変位させることで、前記被測定部位を透過する前記第1光線および前記第2光線の光路長を変化させつつ、前記受光部で受光する前記第1光線および前記第2光線の強度に基づいて、前記物質濃度を算出
し、前記演算制御手段は、前記光学素子が第1位置であった際に、前記発光部から射出され、前記光学素子を介して、前記被測定部位を透過して前記受光部に達する第1光路を経由する前記第1光線および前記第2光線の強度を計測し、前記可動支持部により前記光学素子が前記第1位置から第2位置に変位された際に、前記発光部から射出され、前記光学素子を介して、前記被測定部位を透過して前記受光部に達する第2光路を経由する前記第1光線および前記第2光線の強度を計測し、前記光学素子が前記第1位置であった際に前記受光部で検出される前記第1光線および前記第2光線の強度、および、前記光学素子が前記第2位置であった際に前記受光部で検出される前記第1光線および前記第2光線の強度から、前記被測定部位の内部に於ける前記物質濃度を算出し、前記可動支持部は、前記光学素子を、前記第1光線および前記第2光線の光軸に対して、一方側に変位することで、前記第1位置を実現し、前記可動支持部は、前記光学素子を、前記第1光線および前記第2光線の光軸に対して、前記一方側に対向する他方側に変位することで、前記第2位置を実現することを特徴とする。従って、被測定部位を透過する第1光線および第2光線の光路長を変更させつつ物質濃度を計測することで、光路長の差を変数として物質濃度を測定することが出来ることから、第1光線および第2光線を入射する位置が変更した場合でも、物質濃度を正確に測定することができる。
更に、光学素子を第1位置から第2位置に変位させて第1光線および第2光線の光路を変更することにより、受光部で受光する第1光線および第2光線の強度変化に基づいて、被測定部位の内部に於ける物質濃度を測定する。よって、被測定部位の形状が変化した場合でも、被測定部位の位置が一定とされない場合でも、物質濃度を正確に計測することができる。また、第1位置および第2位置を、可動支持部で光学素子を対向する方向に移動することで、第1光路と第2光路との光路長の長さの差を大きくし、物質濃度を正確に検出することができる。
【0017】
また、本発明の光学測定装置では、前記光学素子は、前記第1光線および前記第2光線を前記被測定部位に集光させるレンズであり、前記レンズを保持するレンズ保持部および前記レンズ保持部を変位可能に支持する前記可動支持部に設けられたコイルおよび磁石で、前記レンズが変位されることを特徴とする。従って、コイルを励起させることで、光学素子であるレンズを変位させ、第1光線および第2光線の光路を容易に変更することができる。
【0019】
また、本発明の光学測定装置では、前記被測定部位は人体の一部であり、前記物質濃度は血中糖度であることを特徴とする。従って、人体の血中糖度の経時的な変化を正確に計測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、本形態の光学測定装置10を説明する。
図1は、光学測定装置10の基本構成を示す概念図である。
【0022】
図1を参照して、光学測定装置10は、測定に用いられる光線を射出する発光部11と、発光部11から射出される光線を被測定部位18に導く光学素子であるレンズ14と、被測定部位18を透過した光線を受光する受光部19と、レンズ14を変位させることで光線の光路長を変化させる可動支持部16と、可動支持部16を制御すると共に受光部19の出力に基づいて血糖値を算出する演算制御部17と、を具備している。光学測定装置10の機能は、非侵襲法による物質濃度の計測を行うことであり、例えば、光線を被測定部位である人体に透過させることで、人体の内部に於ける血中糖度を計測することである。後述するように、光学測定装置10は、レンズ14を変位させることで光路長を変化させつつ血中糖度を計測することで、計測の対象となる被測定部位18の位置が一定とされない場合でも、血中糖度を正確に計測することができる。
【0023】
発光部11は、血中糖度を計測するために所定の波長の光線を射出する。発光部11は、波長が異なる光線を射出する第1発光部12および第2発光部13を有している。第1発光部12および第2発光部13には、それぞれ発光ダイオードまたはレーザーダイオードが内蔵されており、発光ダイオードまたはレーザーダイオードから所定の周波数帯の光線が射出される。例えば、第1発光部12から射出される第1光線の波長は1310nmであり、第2発光部13から射出される第2光線の波長は1550nmである。第1発光部12から射出される第1光線はグルコースの吸光により光線の強度が変化しない波長帯域の光線であり、第2発光部13から射出される第2光線はグルコースの吸光により光線の強度が変化する波長帯域の光線である。本形態では、波長の異なる複数の光線を用い、第1光線をリファレンスとすることで、第1光線に対する第2光線の変化の度合いから、血中糖度を正確に算出することができる。
【0024】
レンズ14は、上記した第1発光部12および第2発光部13から射出された第1光線および第2光線を、その屈折作用や回折作用により、被測定部位18に導く。レンズ14はレンズ保持部15で周囲から保持されており、そのレンズ保持部15は可動支持部16で変位可能に支持されている。可動支持部16がレンズ保持部15を保持する具体的な構造は、
図3を参照して後述する。レンズ14の変位は、可動支持部16を経由して演算制御部17で制御されている。
【0025】
被測定部位18は、本形態の光学測定装置10で血中糖度が計測される部位であり、例えば人体の指などを採用することができる。ここでは、紙面上縦方向に被測定部位18を光線が透過しているが、後述するように、指の表皮付近の内部で透過および反射する光線の強度を本形態では計測している。
【0026】
受光部19は、例えばフォトダイオードから成る半導体素子であり、被測定部位18を透過した第1光線および第2光線を受光してその強度を検出するための図示しない受光部位か形成されている。受光部19は、被測定部位18を透過して受光部19に到達する第1光線および第2光線の強度を検出し、それぞれの強度に応じた信号を演算制御部17に伝送する。
【0027】
演算制御部17は、CPU、RAMおよびROMから構成され、各種演算を行うと共に光学測定装置10を構成する各部位の動作を制御している。詳しくは、演算制御部17は、可動支持部16の動作を制御することで、レンズ14の位置を制御する。更に、演算制御部17は、受光部19の出力を受けて、血中糖度を算出する。また、演算制御部17は、算出した血中糖度を表示部27に表示するようにしても良い。例えば液晶モニタである表示部27に血中糖度を表示することで、光学測定装置10を使用する使用者は、自身の血中糖度の変化をリアルタイムに知ることができる。
【0028】
図2の側面図を参照して、光学測定装置10で血中糖度を計測する原理を説明する。ここで、実際には発光部11からは、上記した第1光線および第2光線が照射されるが、ここでは図面の簡単化のために、第1光線および第2光線を一つに纏めて図示している。
【0029】
先ず、非侵襲法による血中糖度の測定に於いては、以下に示すランベルト・ベールの法則が用いられる。
A(μ)=μa(μ)・d・c
ここで、A(μ)は吸光度であり、第1発光部12および第2発光部13から射出されて被測定部位18に入光する前の第1光線および第2光線の強度、および、被測定部位18を透過して受光部19に到達した第1光線および第2光線の強度から算出される。また、μa(μ)は吸光係数であり、dは光路長であり、cは物質濃度である。従って、原理的には、吸光係数μa(μ)および光路長dが一定であれば、吸光度A(μ)(即ち、被測定部位18を透過して受光部19に到達した第1光線および第2光線の強度)を計測することで、物質濃度cを算出することができる。しかしながら、上記したように、光学測定装置10を装着する部位がずれたら、光路長dは変動することになるので、光学測定装置10を装着する度に物質の濃度cを安定的に算出することは簡単ではない。そこで本形態では、光路長dを意図的に変動させて複数回の計測を行うことで、光路長dが変動したとしても、物質濃度cである血中糖度を正確に計測している。
【0030】
具体的には、光路の途中に配設されたレンズ14の位置を変位させることで、第1光線および第2光線の光路長を変更している。
【0031】
一例を説明すると、可動支持部16でレンズ14を移動させることなく、そのままの状態で発光部11から光線を射出すると、射出された光線はレンズ14の中央部分で集光された状態で被測定部位18に照射される。照射された光線は被測定部位18の内部で透過、吸光、反射し、その光線の一部は出射光路24を経由して受光部19に到達する。
【0032】
本形態では、
図2に示した可動支持部16で、レンズ14を変位させることで、上記した光路長を変更している。ここで、レンズ14は光線が射出される光路に対して垂直な方向に移動する。
【0033】
一例を説明すると、
図2に示した可動支持部16で、レンズ14を受光部19に近づく側(光軸に対して一方側)に移動させることで、レンズ14の位置を、点線で示す第1位置としている。これにより、発光部11から射出された光線はレンズ14の紙面上に於ける左側部分に照射され、レンズ14の屈折作用により光線は紙面上右方側に向かって屈折する。このようにすることで、被測定部位18に入射する第1入射光路22の入射角θ1が小さくなり、光線が被測定部位18の内部を通過する光路の光路長D1が短くなる。
【0034】
一方、可動支持部16で、レンズ14を受光部19にから遠ざかる側(光軸に対して他方側)に移動させることで、レンズ14の位置を、一点鎖線で示す第2位置としている。これにより、発光部11から射出された光線はレンズ14の紙面上に於ける右側部分に照射され、レンズ14の屈折作用により光線は紙面上左方側に向かって屈折する。このようにすることで、被測定部位18に入射する第2入射光路23の入射角θ1が大きくなり、光線が被測定部位18を通過する光路長D2が長くなる。
【0035】
上記のように、レンズ14が点線で示す第1位置の場合に於ける光路長D1を短くし、レンズ14が一点鎖線で示す第2位置の場合に於ける光路長D2を長くすることで、光路長の長さの差が大きい2つの光路を実現することができる。よって、レンズ14を点線で示す第1位置にした状態にて受光部19に到達する光線の強度を計測し、レンズ14を一点鎖線で示す第2位置にした状態にて受光部19に到達する光線の強度を計測し、これらの強度に基づいて演算制御部17で血中糖度を演算することで、血中糖度を正確に算出することができる。
【0036】
図3を参照して、具現化された光学測定装置10の構成を説明する。この図は光学測定装置10の具体的構成を示す斜視図である。
【0037】
この図を参照して、上記した光学測定装置10を構成する、第1発光部12、第2発光部13、レンズ14、レンズ保持部15および受光部19は、箱状に形成された合成樹脂から成る筐体28に収納されている。
【0038】
上記したように、レンズ14はレンズ保持部15に保持されており、レンズ保持部15は、ワイヤ31を経由して可動支持部16で支持されている。可動支持部16は接着剤等で筐体28の内部に接合されている。
【0039】
ワイヤ31は、レンズ保持部15の両端部分と可動支持部16との間に複数本が架設されている。レンズ保持部15には、ワイヤ31と電気的に接続されたコイルが形成されている。一方、可動支持部16には、このコイルと接近する位置に、ここでは図示しないマグネットが配置されている。従って、演算制御部17の指示に基づいて、レンズ保持部15に形成されたコイルに電流を流すことで、電磁誘導の作用により、レンズ14を変位させることができ、
図2に示した第1位置および第2位置を実現することができる。
【0040】
筐体28の底部を開口した開口部29は、第1発光部12および第2発光部13から射出された第1光線および第2光線が被測定部位18に向かって進行する。同様に、被測定部位18を透過した第1光線および第2光線は、開口部29を経由して筐体28の内部に入射し、受光部19に照射され、その強度が計測される。
【0041】
図4および
図5に基づいて、更には上記した各図も参照しつつ、光学測定装置10を用いて血中糖度を計測する具体的な方法を説明する。
【0042】
図4のフローチャートを参照して、光学測定装置10で血中糖度を測定する方法は、レンズ14の位置を第1位置とするステップS10と、レンズ14の位置を第1位置とした状態で光線の強度を計測するステップS11と、レンズ14の位置を第2位置とするステップS12と、レンズ14の位置を第2位置とした状態で光線の強度を計測するステップS13と、ステップS11およびステップS13で計測された光線の強度に基づいて血中糖度を算出するステップS14と、を有している。
【0043】
具体的には、ステップS10では、
図5(A)に示すようにレンズ14を紙面上右側に移動させることで第1位置とし、第1入射光路22を形成する。これにより、第1入射光路22、被測定部位18の内部に於ける光路、および出射光路24で第1光路25が形成される。
【0044】
ステップS11では、レンズ14を第1位置とした状態で、発光部11から光線を射出させ、被測定部位18を透過した光線の強度を受光部19で検出する。ここでは、光線を一つの点線で示しているが、実際には波長が異なる第1光線および第2光線が発光部11から射出され、第1光路25を経由して、受光部19まで到達する。上記したように、可動支持部16でレンズ14を移動させることで、被測定部位18を光線が通過する光路長D1を短くしている。受光部19に照射された第1光線および第2光線の強度を示す信号は、上記した演算制御部17に伝送される。ここで、受光部19による光線の強度の検出は、時間的に連続的に行っても良いし、間欠的に行っても良い。
【0045】
ステップS12では、
図5(B)に示すようにレンズ14を紙面上左側に移動させることで第2位置とし、第2入射光路23を形成する。これにより、第2入射光路23、被測定部位18の内部に於ける光路、および、出射光路24で第2光路26が形成される。本ステップS12に於いて被測定部位18の内部に形成される光路の光路長D2は、
図5(A)に示したステップS10に於いて被測定部位18の内部に形成される光路の光路長D1よりも長い。ここで、距離の変更は、連続可変としても良いし、段階的可変としても良い。
【0046】
ステップS13では、レンズ14を第2位置とした状態で、発光部11から再び光線を射出させ、被測定部位18を透過した光線の強度を受光部19で検出する。本ステップでも、波長が異なる第1光線および第2光線が発光部11から射出され、第2光路26を経由して、受光部19まで到達する。上記したように、可動支持部16でレンズ14を移動させることで、被測定部位18を光線が通過する光路長D2を長くしている。受光部19に照射された第1光線および第2光線の強度を示す信号は、上記した演算制御部17に伝送される。
【0047】
ステップS14では、ステップS11で得られた第1光線および第2光線の受光強度、および、ステップS13で得られた第1光線および第2光線の受光強度に基づいて、血中糖度を算出する。
【0048】
ここで、
図6のグラフを参照して、第1光線および第2光線の受光強度と光路長との関係を説明する。このグラフでは、横軸が被測定部位18を光線が通過する光路長を示し、縦軸が受光部19で検出される光線の強度を示している。
【0049】
この図を参照して、上記したように、第1光線はグルコースの吸光により光線の強度が変化しない周波数帯域の光線であり、第2光線はグルコースの吸光により光線の強度が変化する周波数帯域の光線である。
【0050】
第1光線の強度は光路長が長くなると小さくなる。具体的には、光路長がD1の際の強度はI1であり、光路長がD2の際の強度はI2であり、光路長が長くなるに従い第1光線の強度は徐々に小さくなる。即ち、光路長の長さと第1光線の強度とは、負の相関があり、更に、線形の関係にある。
【0051】
第2光線も、第1光線と同様に、その強度は光路長が長くなると小さくなる。具体的には、光路長がD1の際の強度はI3であり、光路長がD2の際の強度はI4であり、光路長が長くなるに従いその強度は徐々に小さくなる。しかしながら、第2光線は、グルコースの吸光により光線の強度が変化する周波数帯域の光線であるため、光路長の増大に伴う第2光線の強度の変化は非線形になる。本形態では、非線形に変化する第2光線の強度の変化の度合いから、血中糖度やその変化の度合いを算出している。
【0052】
上記特性を踏まえた血中糖度の算出方法は、光路長D1で測定した第1光線の強度をI1、光路長D2で測定した第1光線の強度をI2、光路長D1で測定した第2光線の強度をI3、光路長D2で測定した第2光線の強度をI4とした場合、血中糖度は、I1、I2、I3およびI4を変数とする関数から算出することができる。
【0053】
本形態では、上記したように、被測定部位18の内部を光線が通過する長さである光路長を変化させながら、被測定部位18を透過する光線の強度を計測し、この光線の強度に基づいて血中糖度を算出している。よって、光学測定装置10が装着される人体の部位に若干の変動があったとしても、血中糖度を正確に検出し、光学測定装置10を使用する使用者は、血中糖度の時間変化を正確に把握することができる。
【0054】
図7を参照して、光学測定装置10により血中糖度を測定することによる効果を説明する。このグラフの横軸は食事を摂取してからの時間の経過を示し、右側の縦軸は人体から摂取した血液から計測した血糖値の実測値を示しており、左側の縦軸は本形態の光学測定装置10による計測値の変化を示している。また、光学測定装置10の計測値は菱形の点が付された実線で示しており、血糖値の実測値は四角の点が付された点線で示している。
【0055】
一般に、食事を摂取した後に血液に含まれるグルコース濃度が上昇することはよく知られている。実測値である実線では、食事摂取後の約50分後に血糖値はピークを迎えており、その後徐々に血糖値は減少している。一方、本形態の光学測定装置10による計測では、現段階では血糖値を定量的には計測できてはいないものの、実測値と同様に、食事摂取後の約50分後に血糖値はピークを迎えている傾向を掴めている。よって、本形態の光学測定装置10は、食事摂取後に血中糖度が上昇する傾向を確実に計測することができる。
【0056】
図8を参照して、他の形態に係る光学測定装置10の構成を説明する。この図に示す光学測定装置10では、上記した第1入射光路22および第2入射光路23に加えて、第3入射光路30が形成されている。第3入射光路30は、上記した可動支持部16で移動されていない状態のレンズ14を光線が通過する入射光路である。第3入射光路30、被測定部位18の内部、および、出射光路24で、第3光路が形成されている。第3入射光路30を通過する光線が被測定部位18の内部を通過する光路の光路長D3は、上記した光路長D1よりも長く、且つ、上記した光路長D2よりも短い。第3入射光路30、被測定部位18および出射光路24を経由した光線の強度を受光部19で検出し、この強度に関する情報も用いて演算制御部17で血中糖度を算出することにより、より多くの情報を用いて血中糖度を算出することから、血中糖度をより正確に算出することができる。
【0057】
図9を参照して、更なる他の形態に係る光学測定装置10の構成を説明する。この図に示す光学測定装置10では、レンズ14を被測定部位18の表面に対して平行または略平行に移動させることで、第1入射光路22、第2入射光路23、第3入射光路30を形成している。第1入射光路22、第2入射光路23、第3入射光路30は、被測定部位18の上面に対して垂直または略垂直に進行する。これにより、長さが互いに異なる、第1入射光路22の光路長D1、第2入射光路23の光路長D2および第3入射光路30の光路長D3が形成される。かかる構成であっても、光路長を異ならせながら第1光線、第2光線および第3光線の強度を計測することで、被測定部位18の血中糖度を算出することを特徴とするができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0059】
例えば、上記した形態では、
図2に示すように、レンズ14の位置を移動させることで、光線の光路長を変更したが、レンズ14の角度を変更することで、第1光線および第2光線の光路長を変更しても良い。
【0060】
更に、上記した形態では、光線の光路長を変更する光学素子として、レンズ14を例示したが、光学素子としては、レンズ14の替わりにミラーが採用されても良いし、光学素子としてレンズ14とミラーとの組み合わせを採用しても良い。
【0061】
本形態で測定する物質濃度は、人体の内部に含まれるグルコース濃度の他にも、植物に含まれる糖分濃度等であっても良い。
【0062】
更に、上記説明では、光路長を2段階または3段階で変化させたが、数十段階または数百段階で光路長を変化させることで、計測される血中糖度の精度を更に向上させることができる。
【0063】
更にまた、上記説明では、光学素子であるレンズ14の位置をコイルとマグネットを用いて変位させたが、形状記憶合金でレンズ14を支持し、この形状記憶合金を変形させることでレンズ14の位置や角度を変更するようにすることもできる。形状記憶合金を採用することで、レンズ14を変位させる手段の構成を簡素化し、装置全体の構成を簡略化することができる。