(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
なお、以下の実施形態において、上下、左右、前後の表現は、使用者がランドセルを背中に担いだ状態を基準にしたものである。また、各図において、適宜、鞄の前方(つまり使用者の背中に接触する側)を矢印FW、後方(つまりランドセル本体側)を矢印BW、左側を矢印L、右側を矢印R、上向きを矢印Uでそれぞれ示す。なお、各図では、簡単のため、一部の構成を適宜省略する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、
図1を用いて、実施形態に係る背鐶10を備えるランドセル100について概説する。
図1は第1実施形態に係る背鐶10を備えるランドセル100を背板12側からみた図である。
ランドセル100では、
図1に示されるように、皮革製又は合成樹脂製等の有蓋有底角筒状のランドセル本体13の背板12上辺に冠14の端辺が縫合される。冠14はランドセル本体13の開口部を覆って、ランドセル本体13の底部外面で施錠される。背板12の左右対称線C上の上部には、第1実施形態に係る背鐶10が配設される。背鐶10は、左右一対の背負いベルト15の各長手方向一端部(
図1では上端部)を取り付けるものである。
【0012】
背鐶10は、正面形状がほぼ横長楕円状の合成樹脂製の背鐶本体部16と、この背鐶本体部16内で配設された左右一対のアーム18と、左右のアーム18それぞれに形成されたスリーブ19aに軸支される鐶21と、アーム18相互の中間部でこれらアーム18の背後に配設される金属製の吊り鐶25と、を具備している。ランドセル100は、学習机のフック等に吊り鐶25が掛止されることで、フックに吊持される。また、スリーブ19a及び鐶21には、第1実施形態に係る鐶回転角度制限キャップ(以下、単に「制限キャップ」という)20が装着されている。
【0013】
次に、
図2(A),(B)〜
図6を用いて、第1実施形態に係る制限キャップ20を備える背鐶10について説明する。
図2(A)は第1実施形態に係る背鐶10の裏面図、
図2(B)は第1実施形態に係る背鐶10の表面上方側からみた斜視図である。
なお、背鐶10において、背板12に接触する面を裏面、使用者の背中に向かい合う面を表面と呼ぶ。
【0014】
背鐶本体部16は、
図2(A),(B)に示されるように、背板12の上部中央部に固定されるベース16aと、このベース16aに合わさってそのベース16aの正面開口部を閉じるフロントカバー16bと、で構成される。
ベース16aは、有底偏平角筒形状をしており、前方すなわち使用者の背中に向けて開口している。そして、フロントカバー16bは、内嵌合壁が形成されたベース16aの開口縁部に突合されてベース16aの開口部を覆って一体に連成される。
【0015】
フロントカバー16bの外面上部では、円弧板状の補強板24が背板12を挟み込んでリベット留めされて背鐶本体部16を補強している。
ベース16aの開口縁部とフロントカバー16bとの突合部には、背鐶本体部16の上端側において左右一対のアーム挿入孔26が設けられる。
この左右一対のアーム挿入孔26のそれぞれには、アーム18が挿入されて背鐶本体部16の内部で固定される。
【0016】
アーム18は、背鐶本体部16の内部で固定される基幹部27と、この基幹部27と同程度の幅及び厚さを有しこの基幹部27に重ねられて固定されるアーム板19と、で構成される。
基幹部27は、背鐶本体部16の内部で、軸支孔29(
図6)に装着された軸受などで左右方向に揺動可能に軸支されることが多い。
アーム板19は、スナップフィットによる接合等で基幹部27に固定され、アーム挿入孔26から上方に向けて突出する。アーム板19は、使用者の背負いやすさを考慮して、
図2(B)に示されるように、基幹部27側すなわち使用者の背中に近づく向きに数十度屈曲していることが多い。
【0017】
アーム板19は、
図2(A),(B)に示すように、その上端辺31が筒状に丸められるように折り返されて、鐶21を通すスリーブ19aを形成している。
鐶21は、一本の金属棒が数か所で屈曲又は湾曲して全体として三角形又は四角形など閉じた図形状に成形される。
【0018】
鐶21の両端部周辺区間は、両端部が互いに向かい合い、スリーブ19a内部に両側から差し込む底辺を形成する。スリーブ19aの両端に位置するこれらの屈曲部のうち左右対称線C側の内側屈曲部33は、スリーブ19a端部から例えば直角に曲げられる。
そして、内側屈曲部33からスリーブ19aに対して角度を有して延びる起立部34が再度その頭頂部36で屈曲又は湾曲され、鐶21の他端側は再び屈曲してスリーブ19aの他端から端部が挿入される。
このようにして、鐶21はスリーブ19aに揺動可能に軸支される。
【0019】
第1実施形態に係る制限キャップ20は、このアーム板19に取り付けられるとともに、鐶21の起立部34を把持することで、鐶21の揺動を制限するものである。
制限キャップ20は、主に、中空筒形状を有してこの筒でスリーブ19aを覆う胴体部37と、胴体部37の腹部から隆起する把持部39と、が一体連成されて構成される。
【0020】
ここで、
図3は、第1実施形態に係る制限キャップ20の斜視図である。
把持部39には、鐶21の起立部34を把持するための円柱状の把持孔41が、胴体部37のスリーブ収納空間42と垂直の向きに貫通して設けられる。
つまり、起立部34を把持孔41に嵌め込むことで、起立部34が把持部39に把持される。
【0021】
胴体部37には、スリーブ19aの外径より幅狭い切れ込み状の開口部43がスリーブ19aの長手方向に沿って設けられる。スリーブ19aに胴体部37を取り付ける際には、胴体部37の端部からスリーブ19aを滑らせてスリーブ収納空間42にスリーブ19aを嵌め込む。開口部43は、胴体部37がスリーブ19aに取り付けられた際にスリーブ19aの付け根部分に配置される。
なお、スリーブ19aの付け根部分とは、アーム板19の上端辺31が丸められてアーム板19自身に当接する部分のことである。
【0022】
なお、胴体部37は、アーム板19の板厚分のみを残してスリーブ19a全周を覆うのではなく、スリーブ19aの付け根部分に非被覆領域をスリーブ19aの長手方向に沿って残して覆うことが望ましい。つまり、開口部43の開口幅は、アーム板19の板厚分よりもわずかに広く回転しろを有して設計される。この回転しろにより、胴体部37は、スリーブ19a周りを摺動可能にされ、アーム板19に開口部43の端辺が当たることでその摺動角度が所定角θに制限される。つまり、アーム板19が制限キャップ20の回転を制限するストッパの機能を有する。
【0023】
また、把持部39の隆起側面28にも、この隆起側面28からこの把持孔41に鐶21の起立部34を挿入するためのスリット44が、把持孔41の貫通方向に沿って設けられる。
【0024】
第1実施形態では、このスリット44は、把持部39の隆起側面28のうち胴体部37とは反対側、すなわち制限キャップ20全体の左右対称線C側の端面に設けられる。これら開口部43と把持部39との位置関係は、開口部43がスリーブ19aの付け根部分に配置されているときに把持孔41がランドセル100上方に向かって直立するように設計される。
このような位置関係により、起立部34がスリット44から把持孔41に挿入されて把持部39に把持されると、鐶21がランドセル100上方に向かって直立することになる。なお、ここでいう「直立」には、20°程度までの僅かな前傾又は後傾も含まれる。
【0025】
また、
図4(A),(B)は、開口幅と鐶21の回転態様との関係を説明する背鐶10の側面図である。
開口部43は、鐶21が、
図4(A)のようにランドセル100上方に向かって直立する状態から、
図4(B)のように背板12側に数十度後傾することを許容するような位置に設けられる。この後傾角度は、例えば最大80°、より好ましくは最大60°である。
【0026】
また、
図5(A)は、背負いベルト15をランドセル100の冠14側に掛け回したランドセル100の背面図、
図5(B)は、ロッカー45に収納したランドセル100の斜視図である。
鐶21に所定角度の回転を許容することで、
図5(A)に示されるように、ランドセル100納品時に箱詰めされる際、背負いベルト15に折れ跡を残すことなく、背負いベルト15をランドセル本体13側に掛け回すことができる。
【0027】
また、使用者がロッカー45にランドセル100を収納する際にも、
図5(B)に示されるように、背負いベルト15が自身の剛性でスリーブ19a周りに膨らみ、背負いベルト15に折れ跡を残さない態様でランドセル100を収納することができる。なお、開口部43の回転しろ(非被覆領域)は設けられていなくてもよい。
【0028】
以上の構成を有する制限キャップ20は、背鐶10の製造時には、
図6(A)〜(C)に示されるような手順で背鐶10に装着されることになる。
まず、
図6(A)に示されるように、スリーブ19aに制限キャップ20が取り付けられる。胴体部37の端部からスリーブ19aが挿入される。
【0029】
その後、
図6(B)に示されるように、鐶21の一端部が左右対称線C側から外側に向けて差し込まれる。そして、
図6(C)に示されるように、起立部34がスリット44に押し当てられてスリット44から把持孔41に嵌まり込むとともに、起立部34の頭頂部36の曲率が高められて鐶21の他端がスリーブ19aに挿入される。
【0030】
なお、アーム板19と基幹部27とが一体不可分に形成されてもよい。
【0031】
以上のように、第1実施形態に係る制限キャップ20によれば、低いコストで製造可能な簡素な構造で、背鐶10の鐶21を直立状態に維持することができる。
【0032】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る制限キャップ20Aが装着されたアーム18の斜視図である。
図8は、第2実施形態に係る制限キャップ20Aの斜視図である。
図9第2実施形態に係る背鐶10の裏面図である。
【0033】
第1実施形態では、把持部39の隆起側面28のうち胴体部37とは反対側、つまり左右対称線C側にスリット44が設けられた。
第2実施形態に係る制限キャップ20Aでは、
図7及び
図8に示されるように、スリット44は、胴体部37側に設けられる。
【0034】
また、胴体部37の開口部43が、
図9に示されるように、スリーブ19aの背板12側全体まで拡大される。そして、胴体部37の上端部において、開口部43と、スリット44と、が互いに連結される。この結果、スリーブ収納空間42と、把持孔41と、が空間的に連続し一体的になる。
【0035】
開口部43の開口位置がスリーブ19aの背板12側範囲に限定されることで、アーム板19が開口部43の下端と当たり回転が阻止するストッパになり、鐶21が使用者側に前傾してしまうことを防止する第1実施形態と同様の効果は維持される。
【0036】
また、
図10は第2実施形態における制限キャップ20Aの取り付け手順を示す図である。
第2実施形態では、開口部43及びスリット44が連結されることで、
図10に示されるように、鐶21が既にスリーブ19aに既に装着されている場合にも後付けで制限キャップ20Aを取り付けることができるようになる。
なお、胴体部37がスリーブ19aから容易に外れないように、後付け可能な状態を損なわない範囲で、胴体部37で背板12側まで被覆させてもよい。
【0037】
以上、開口部43及びスリット44の大きさ及び配置を変更すること以外は、第2実施形態は第1実施形態と構成的にも動作的にも同様となるので、重複する説明を省略する。
【0038】
このように、第2実施形態に係る制限キャップ20Aによれば、第1実施形態と同様の効果に加え、既に鐶21が装着された既存のアーム18にも取り付けることができる。
【0039】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の制限キャップ20(20A)によれば、構造が簡素であるとともに低い製造コストで背鐶10の鐶21の直立状態を維持することが可能となる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【解決手段】鐶回転角度制限キャップ20は、ランドセル用の背鐶10の背鐶本体部16と鐶21とを接続するアーム18に取り付けられるものであって、アーム18の端部に形成されたスリーブ19aを中空筒状に覆う胴体部37と、胴体部37に一体的に設けられてスリーブ19aに軸支される鐶21を把持可能な把持部39と、を備え、把持部39は、鐶21を屈曲させてスリーブ19aの端部から起立させた起立部34を把持して、起立部34が背鐶本体部16のランドセル接触面に沿って直立した状態に維持する。