(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6815058
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】鋼管杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/28 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
E02D5/28
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-178591(P2020-178591)
(22)【出願日】2020年10月26日
【審査請求日】2020年10月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520417229
【氏名又は名称】株式会社TJプラン
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山本 健一
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−36295(JP,A)
【文献】
特開2008−45338(JP,A)
【文献】
特開2006−89932(JP,A)
【文献】
特開2009−138487(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2018−0013508(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D5/22−5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の先端部に、外径が前記鋼管の外径より大きい翼部が周方向に沿って複数固定された鋼管杭であって、
前記鋼管の先端部は、周方向の一部が先端側に延出された延出部を有し、
前記延出部は、両側部にそれぞれ前記翼部の周方向端部を挿入できるスリット部を有し、
前記翼部は周方向の両端部が前記延出部のスリット部に挿入されて固定されていることを特徴とする鋼管杭。
【請求項2】
前記スリット部は、前記延出部の側面に対して傾斜するように形成され、前記スリット部に挿入される前記翼部は、前記鋼管の中心軸方向と直交する平面方向に対して傾斜配置されることを特徴とする請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記翼部は2つ設けられ、前記鋼管の中心軸方向と直交する平面方向に対し互いに逆方向に傾斜するように配置されることを特徴とする請求項2に記載の鋼管杭。
【請求項4】
前記延出部を形成するために切り欠かれた前記鋼管の切り落とし部が、前記延出部または前記翼部に接合されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項5】
前記切り落とし部は、前記延出部の周方向端部に接合されることを特徴とする請求項4に記載の鋼管杭。
【請求項6】
前記延出部は、下面と側面とが鋭角をなすことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項7】
前記延出部は、下面と側面とが鈍角をなすことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項8】
前記翼部は、周方向に隣接する前記翼部との間に、周方向に隙間を有して前記鋼管の先端部に固定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤において建家等の建造物を支持するために使用される回転貫入鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、軟弱地盤であって地盤の支持力が十分でない場所に建家等の建造物を建設する場合には、建設機械により地下に存在する硬質地盤中にコンクリート杭または鋼管杭を貫入させ、支持力を確保する。
【0003】
コンクリート杭は安価であり、かつ高い支持力を有するので、多くの建設現場で採用されてきた。しかし、コンクリート杭は、杭の長さが建設現場では容易に調整できないという難点があるため、硬質地盤の深さが一定していないような複雑な地盤では使用が難しい。一方、鋼管杭は、切断または溶接により、建設現場で容易に長さの調節が可能であるため、硬質地盤の深さが一定していないような複雑な地盤で用いられることが多い。
【0004】
鋼管杭は、先端部に平板状または螺旋状の翼部を有し、回転貫入する際の掘削力を生じさせるとともに、硬質地盤に留置されることで支持力を高くすることができる。翼部は、鋼管杭の下面に溶接などにより接合される。先端部に翼部を有した鋼管杭は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−314930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
翼部は、鋼管杭の下面に溶接などにより接合されているので、鋼管杭の貫入方向への強度は高いものの、鋼管杭の引き抜き方向への強度はあまり高くない。鋼管杭の支持力を高くするには、翼部の引き抜き方向への強度を高くすることが必要である。特許文献1の鋼管杭は、端部に翼部の周方向端部を挿入できる溝部を有している。溝部に翼部の一端部が挿入されていることで、翼部の引き抜き方向への強度をいくらか高くすることができるが、翼部の引き抜き方向への強度をより高くすることが求められている。また、鋼管杭の先端部における掘削力も高くすることが求められている。
【0007】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、先端部に設けられる翼部の引き抜き方向への強度および掘削力を高くすることのできる鋼管杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1の発明に係る鋼管杭は、鋼管の先端部に、外径が前記鋼管の外径より大きい翼部が周方向に沿って複数固定された鋼管杭であって、
前記鋼管の先端部は、周方向の一部が先端側に延出された延出部を有し、
前記延出部は、両側部にそれぞれ前記翼部の周方向端部を挿入できるスリット部を有し、
前記翼部は周方向の両端部が前記延出部のスリット部に挿入されて固定されていることを特徴として構成されている。
【0009】
請求項2の発明に係る鋼管杭は、前記スリット部は、前記延出部の側面に対して傾斜するように形成され、前記スリット部に挿入される前記翼部は、前記鋼管の中心軸方向と直交する平面方向に対して傾斜配置されることを特徴として構成されている。
【0010】
請求項3の発明に係る鋼管杭は、前記翼部は2つ設けられ、前記鋼管の中心軸方向と直交する平面方向に対し互いに逆方向に傾斜するように配置されることを特徴として構成されている。
【0011】
請求項4の発明に係る鋼管杭は、前記延出部を形成するために切り欠かれた前記鋼管の切り落とし部が、前記延出部または前記翼部に接合されることを特徴として構成されている。
【0012】
請求項5の発明に係る鋼管杭は、前記切り落とし部は、前記延出部の周方向端部に接合されることを特徴として構成されている。
【0013】
請求項6の発明に係る鋼管杭は、前記延出部は、下面と側面とが鋭角をなすことを特徴として構成されている。
【0014】
請求項7の発明に係る鋼管杭は、前記延出部は、下面と側面とが鈍角をなすことを特徴として構成されている。
【0015】
請求項8の発明に係る鋼管杭は、前記翼部は、周方向に隣接する前記翼部との間に、周方向に隙間を有して前記鋼管の先端部に固定されていることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る鋼管杭によれば、翼部は、周方向の両側がスリット部によって支持されているので、鋼管杭10の貫入方向と引き抜き方向のいずれに対しても、翼部の鋼管に対する固定強度を十分に確保できる。また、鋼管が先端側に延びる延出部を有し、これが翼部より下方に突出することから、効果的に地盤を掘削できる。これらにより、本発明の鋼管杭は、その先端部に設けられる翼部の引き抜き方向への強度および掘削力を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る鋼管杭の先端部付近の斜視図である。
【
図5】翼部を固定した鋼管杭の先端部付近の正面図である。
【
図6】角部を鋭角にした鋼管杭の先端部付近の正面図である。
【
図7】角部を鈍角にした鋼管杭の先端部付近の正面図である。
【
図9】切り落とし部を延出部の補強に用いた鋼管杭の先端部付近の斜視図である。
【
図10】楕円弧を有する2枚の翼部の平面図である。
【
図11】楕円弧を有する翼部を備える鋼管杭の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。本実施形態の鋼管杭10は、軟弱地盤に建造物を建設する際に、先端部を硬質地盤に貫入させて支持力を確保するために用いられる。
【0019】
図1に示すように、鋼管杭10は、鋼管20の先端部20aに2枚の翼部30を固定して形成されている。翼部30は、鋼管20の中心軸方向と直交する平面方向に対して傾斜して鋼管20に固定されている。また、2枚の翼部30は、鋼管20の中心軸方向と直交する平面方向に対して互いに逆方向に傾斜している。
【0020】
鋼管20の先端部20aには、周方向の一部が先端側に向かって延出する延出部21が形成されている。延出部21は、翼部30の数と同じ数である2つが設けられる。延出部21は、両側部にそれぞれ翼部30の周方向端部を挿入できるスリット部22を有している。翼部30は、隣接する延出部21間に跨がるように配置され、周方向の両端部がスリット部22に挿入されて固定されている。すなわち、翼部30は、周方向の両側がスリット部22によって支持されている。このため、翼部30は、鋼管杭10の貫入方向と引き抜き方向のいずれに対しても、鋼管20に対する固定強度を十分に確保することができる。
【0021】
延出部21には、側面21aと下面21bとによって下端部に角部21cが形成される。鋼管杭10の貫入時には、角部21cによって地盤を掘削することができる。鋼管20の下端面に翼部30が接合されている鋼管杭では、先端部が硬質な地盤に突き当たった際に、鋼管杭が回転しても翼部30が地盤に対して滑る可能性があるが、本実施形態の鋼管杭10は、鋼管20が先端側に延びる延出部21を有し、これが翼部30より下方に突出することから、角部21cによって効果的に地盤を掘削できる。
【0022】
図2に示すように、翼部30は、円形の平板を中心線で2等分することで形成される。
図3に示すように、加工前の鋼管20は、先端部20aが円筒状である。ここから、
図4に示すように、鋼管20の先端部20aの周方向一部を切り欠くことにより、延出部21が形成される。また、延出部21の両側部には、固定される翼部30の傾斜方向及び角度に合わせて、スリット部22が形成される。このため、スリット部22は、延出部21の側面21aに対して傾斜状に形成される。
【0023】
スリット部22に対して翼部30の周方向両端部を挿入することで、翼部30が鋼管20の中心軸方向と直交する平面方向に対して互いに逆方向に傾斜するように配置される。
図5に示すように、翼部30は、鋼管20に対して溶接されて、溶接部40が形成される。
【0024】
次に、鋼管杭の変形例について説明する。
図6に示すように、延出部21は、角部21cが鋭角状となるように形成されていてもよい。角部21cが鋭角状であることで、鋼管杭10の貫入時における掘削力を高くすることができる。
【0025】
図7に示すように、延出部21は、角部21cが鈍角状となるように形成されていてもよい。角部21cが鈍角状であることで、鋼管杭10の貫入時における強度を十分に確保することができる。
【0026】
図8に示すように、延出部21に補強する部材を設けることができる。鋼管20の先端部20aを加工して延出部21を形成する際には、前述のように鋼管20の先端部20aが切り欠かれる。その切り落とし部25を延出部21に接合することで、延出部21の強度を高くすることができる。
図8では、切り落とし部25を延出部21の内面両側部にそれぞれ溶接固定している。これにより、鋼管杭10の貫入時において、延出部21が破損しにくくなるように強度を向上させることができる。また、切り落とし部25は延出部21の一方の側部にのみ設けられてもよいし、延出部21の外面などそれ以外の位置に設けられてもよい。また、切り落とし部25は、翼部30に接合してもよい。また、切り落とし部25ではなく、補強用の部材を別途用意して、延出部21または翼部30にに接合するようにしてもよい。
【0027】
鋼管杭10が有する翼部は、2枚に限られず、3枚以上の任意の枚数にすることができる。例えば、
図8に示すように、翼部32を周方向に4枚設けてもよい。この場合、延出部21は翼部32の数に合わせて周方向に4つが設けられる。各延出部21には、両側部にスリット部22が形成され、それぞれの翼部32は、周方向両端部がそれぞれ延出部21のスリット部22に挿入され、固定される。
【0028】
翼部30は円形状を分割した形状を有しているが、それ以外の形状を分割した形状でもよい。
図10に示すように、2枚の翼部34は、楕円形状を長軸に沿って2つに分割した形状を有している。
図11に示すように、翼部34を延出部21に固定する際には、翼部34の長軸同士を離して配置し、周方向に隣接する翼部34同士が、周方向に隙間を有するようにしてもよい。これにより、鋼管20の端面が下方向に一部開口した状態となるため、鋼管杭10を貫入する際に、土砂が鋼管20の内部に進入することで、鋼管杭10の支持力向上を図ることができる。また、翼部34は楕円形状を長軸に沿って分割しているので、延出部21に長軸側を挿入し固定することで、翼部34の外周を方向によらず概ね一定の径方向位置とすることができ、円滑な貫入を行うことができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態に限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうる。例えば、翼部30の外径は、鋼管20の外径より大きければよく、図に示す翼部30より大径状であってもよい。また、翼部30の外周部下端位置は、延出部21の下端位置より下方に位置してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 鋼管杭
20 鋼管
20a 先端部
21 延出部
21a 側面
21b 下面
21c 角部
22 スリット部
25 切り落とし部
30 翼部
32 翼部
34 翼部
40 溶接部
【要約】
【課題】先端部に設けられる翼部の引き抜き方向への強度および掘削力を高くすることのできる鋼管杭を提供する。
【解決手段】鋼管20の先端部に、外径が鋼管20の外径より大きい翼部30が周方向に沿って複数固定された鋼管杭10であって、鋼管20の先端部は、周方向の一部が先端側に延出された延出部21を翼部30の数だけ有し、延出部21は、両側部にそれぞれ翼部30の周方向端部を挿入できるスリット部22を有し、翼部30は周方向の両端部が延出部21のスリット部22に挿入されて固定されている。
【選択図】
図1