(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815064
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】鮎友釣り仕掛けに用いる水中糸、及びこの水中糸を用いた鮎友釣り仕掛けによる鮎釣り方法。
(51)【国際特許分類】
A01K 91/06 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
A01K91/06 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-7608(P2017-7608)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-113930(P2018-113930A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】517020779
【氏名又は名称】株式会社為人
(74)【代理人】
【識別番号】100137327
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 勝義
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美知則
【審査官】
坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−10606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 91/00
D02G 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天上糸、水中糸及びハナカン周りを備える鮎友釣り仕掛けに用いる水中糸であって、
前記水中糸は、複数本の金属糸からなる撚糸であり、
該撚糸は、直径が0.078〜0.094mmであり、比重が6〜9であることを特徴とする水中糸。
【請求項2】
前記友釣り仕掛けの全長が、8〜10mであり、前記水中糸の長さが、300〜400cmである請求項1に記載の水中糸。
【請求項3】
前記撚糸は、単糸6〜8本を撚り合わせて形成したものである請求項1又は2に記載の水中糸。
【請求項4】
前記金属は、しなやかなステンレス鋼である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の水中糸。
【請求項5】
天上糸、水中糸及びハナカン周りを備え、全長8〜10mの鮎友釣り仕掛けに用いる水中糸であって、
前記水中糸は、長さ300〜400cmで、6〜8本のしなやかなステンレス鋼からなる撚糸であり、
該撚糸は、直径が0.078〜0.094mm、比重が6〜9であることを特徴とする水中糸。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の水中糸を用いた鮎友釣り仕掛けにより、泳がせ釣り、引き釣り、又は引き釣り泳がせを行うことを特徴とする鮎友釣り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮎友釣り仕掛けに用いる水中糸、及びこの水中糸を用いた鮎友釣り仕掛けによる鮎釣り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、「友釣り」という鮎釣りの漁法が知られている。この漁法は、清流、渓流において鮎が自分の縄張りを守ろうとして、他の鮎を追い払うという習性を利用したものである。
友釣りの仕掛けは、例えば
図1に示すように、釣り竿の先端から天上糸10、上部付け糸20、水中糸30、下部付け糸40、ハナカン周り50を備えている。
天上糸10は竿先に接続され、釣りに際しては、原則として水中に入らず、水中糸からが水中に入る。
ハナカン周り50は、オトリ鮎の鼻に通すハナカン53と、オトリ鮎の尻ビレに打つ逆バリ54と、逆バリに固着したハリス止め55と、これらを接続する中ハリス58とを備える。なお、オトリ鮎の背に打つ背バリ51を備えることもできる。
そして、釣りに際しては、掛けバリ80を、ハリス止め55の孔55hに、イカリに接続した糸81の止めコブ81aで係止するように取り付ける。
なお、目印70は、糸の位置と動きを知るために通常3〜5個程度取り付ける。
【0003】
オトリ鮎に掛けバリ80を取り付けて泳がせ、追い払おうとして突進してきた野鮎がこの掛け針80に引っ掛かることにより、野鮎を釣るのが友釣りという漁法である。
したがって、友釣りにより野鮎を釣るためには、野鮎によってオトリ鮎が追い払われる必要があり、野鮎に追われるようにオトリ鮎を泳がせる技術が、友釣りの技術と深くかかわってくる(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
例えば、
図2に示すように、川の流れFに対して、オトリ鮎90の体が静止した状態では、野鮎95は、矢印P方向に進みつつも、オトリ鮎90を追い払おうとはしないのが通常である。
【0004】
図3に示すように、水中糸Lにオトリ鮎90の後方に引く張力Tを与えると、この張力Tに反発して、オトリ鮎90が矢印P方向に進もうとすることが経験的に知られている。そうすると、野鮎95がオトリ鮎90を追い払うように突進し、掛けバリに引っ掛るのである。
水中糸Lに張力を与えるには、水中糸Lの途中に錘を取付ける方法もあるが(例えば、特許文献1参照。)、
図3に示すように水中糸Lを弛ませることで、水切れ抵抗Rを増加させる方法が簡便である。この状態が、オトリ鮎90に水中糸Lをオンブさせているように見えることから、岐阜県郡上市周辺の方言で「オバセる。」という。
この「オバセ」の量は、オトリ鮎90の泳ぎをコントロールする上で重要な要素となる。
例えば、
図4に示すように、同じ水中糸Lであっても、L1、L2、L3とオバセの量を増すことによって、水切れ抵抗Rは、R1、R2、R3の順に大きくなりそれに伴って、鮎を引く糸の張力TもT1、T2、T3の順に大きくなる。
【0005】
一方、水切れ抵抗Rが大きいということは、オトリ鮎90にとってもそれだけ後方に引っ張られることになり、泳ぐ負担が大きくなるということでもある。
水切れ抵抗Rは水中糸Lの表面積に比例して大きくなるため、オトリ鮎90が泳ぐためには水中糸Lは細い方がよいといえる。
しかしながら、あまり細い糸は水切れ抵抗Rが少なすぎて張力Tがなくなり、オトリ鮎90は泳がなくなる。
【0006】
そこで、適度な水切れ抵抗Rを与えられる水中糸Lを使用することがベストであると考えられる。同一の太さのナイロン糸(比重1.14)とフロロカーボン糸(比重1.78)を水中糸Lとして比較して試験を行った。そうするとフロロカーボン糸の方が、重いため水切れ抵抗Rは少なく、オトリ鮎90にとっても負担が少なくよく泳ぐことが分かった。
【0007】
そうすると、比重の大きな金属糸を水中糸Lとして使用することが考えられる。
金属糸であれば、樹脂製の糸に比べ、極めて比重が大きく、重量により水切れ抵抗Rを少なくすることができる。さらに、極細の糸を使用することによって、ある程度水切れ抵抗Rを得ることができる。
とはいっても、極細の金属糸はやはり水切れ抵抗Rは少なく、オバセてもオトリ鮎90は後方に引っ張られ難いのが実情なのである。そのため、金属糸では、特に泳がせ釣りは困難であると考えられてきた。
しかし、ある程度の太さと比重の金属糸であれば、以下のような特長を発揮すると考えられる。
【0008】
水中糸としての金属糸の特長をナイロン糸と比較して、説明する。
図5(a)に示すように、ナイロン製の水中糸NLをオバセて、張力Tが加わると、オトリ鮎90は、後方にも引っ張られるが(矢印B)、軽いため、上方向にも引っ張られることになる(矢印U)。
一方、
図5(b)に示すように、金属製の水中糸MLをオバセて、張力Tが加わると、重いため、後方のみに引っ張られ(矢印B)、オトリ鮎90は野鮎の多い下層を泳ぐことになる。
【0009】
更に、
図6(a)に示すように、ナイロン製の水中糸NLは、風が吹き荒れると、軽いため、左右からの風(矢印W1、W2)により大きく吹き上がる場合があり、オトリ鮎90が上方向(矢印U)、下方向(矢印D)、後方向(矢印B)などに引っ張られることになり浮き気味の不安定な泳ぎとなってしまいやすい。
一方、
図6(b)に示すように、金属製の水中糸MLは、風が吹く荒天においても、重いため、左右からの風(矢印W1、W2)が吹いても、その重量で安定し、オバセによる張力Tにより、後方(矢印B)のみに安定して引っ張られることになる。
また、金属糸は、風の影響を受けにくいため、目印がブレにくいという利点もある。
【0010】
更に、金属糸には、その他にも以下のような特長がある。
すなわち、金属糸の安定性から、オバセの加減でスピードコントロールがし易いことがある。また、オトリが下層を泳ぐことで、オバセの量が安定し、オトリが疲れにくい。更に、オバセが安定することで、水中糸が掛けバリに引っ掛かりにくい。また、金属糸であるので、引っ張り強度に優れる。耐久性に優れるため、経済的である。更に、ナイロン糸のように伸縮しないため、感度が抜群である。
ここで、金属の撚糸からなる水中糸を用いた友釣り仕掛けが開示されている(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】伊藤稔、ベーシック鮎読本、(株)週刊釣りサンデー、1994年2月20日
【非特許文献2】伊藤稔、鮎釣りをやってみよう、(株)つり人社、2005年7月1日
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−128600号公報
【特許文献2】実開平5−63278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献2に記載の金属の撚糸は、友釣りにおいてオトリを泳がせるための太さ、比重についての知見は開示されていない。
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、鮎友釣りに適した金属からなる水中糸、及びこの水中糸を用いた鮎友釣り仕掛けによる鮎友釣り方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、発明者は、金属製の水中糸について鋭意研究を重ね、以下の解決手段を見出すに至った。
1.請求項1に記載の水中糸は、天上糸、水中糸及びハナカン周りを備える鮎友釣り仕掛けに用いる水中糸であって、前記水中糸は、複数本の金属糸からなる撚糸であり、該撚糸は、直径が0.078〜0.094mmであり、比重が6〜9であることを特徴とすることである。
2.請求項2に記載の水中糸は、請求項1に記載の水中糸において、前記友釣り仕掛けの全長
が、8〜10m
であり、前記水中糸の長さが、300〜400cmであることである。
3.請求項3に記載の水中糸は、請求項1又は2に記載の水中糸において、前記撚糸は、単糸6〜8本を撚り合わせて形成したものであることである。
4.請求項4に記載の水中糸は、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の水中糸において、前記金属は、しなやかなステンレス鋼であることである。
5.請求項5に記載の水中糸は、天上糸、水中糸及びハナカン周りを備え、全長8〜10mの鮎友釣り仕掛けに用いる水中糸であって、前記水中糸は、長さ300〜400cmで、6〜8本のしなやかなステンレス鋼糸からなる撚糸であり、該撚糸は、直径が0.078〜0.094mm、比重が6〜9であることを特徴とすることである。
6.請求項6に記載の鮎釣り方法は、請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の水中糸を用いた鮎友釣り仕掛けにより、泳がせ釣り、引き釣り、又引き釣り泳がせを行うことを特徴とすることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水中糸は、複数本の金属糸からなる撚糸であり、直径が0.078〜0.094mmであり、比重が6〜9であることにより、適切な水切れ抵抗が得られ、特に泳がせ釣りに有効である。すなわち、比重が大きいほど(重いほど)、水切れ抵抗が少なくなり、糸が太いほど水切れ抵抗が大きくなるという点から、水中糸の太さと、比重の関係の適切な範囲を見出したのである。
【0016】
友釣り仕掛けの全長
が、8〜10m
であり、水中糸の長さは、300〜400cmであることが好ましい。300cm未満では、水中糸の役割を果たし難く、400cmを超えると重量が大きく、オトリの負担が大きくなり泳ぎ難くなる。
金属撚糸は、単糸6〜8本からなることが好ましい。この範囲であれば、バランスがよく安定した強度が得られるからである。また、単糸7本からなる撚糸であることが更に好ましい。
水中糸に使用する金属は、しなやかなステンレス鋼であることが好ましい。ステンレス鋼であれば、比重を6〜9とすることができ、また、そのしなやかさで適切な水切れ抵抗を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る鮎友釣り仕掛けの全体図である。
【
図2】野鮎がオトリ鮎を追わない状況を示す模式図である。
【
図3】野鮎がオトリ鮎を追う状況を示す模式図である。
【
図4】水中糸のオバセの量により水切れ抵抗が増加し、更に釣糸の張力が増加することを示す模式図である。
【
図5】水中糸が、(a)ナイロン糸である場合と(b)金属糸である場合のオトリ鮎の泳ぎを示す模式図である。
【
図6】風が吹いているときに、水中糸が、(a)ナイロン糸である場合と(b)金属糸である場合のオトリ鮎の泳ぎを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
図1は本実施形態に係り、本発明に係る水中糸を使用した鮎友釣り仕掛け1の全体図である。
鮎友釣り仕掛け1は、全長(H)が9.2mであり、天上糸10、水中糸30、ハナカン周り50を備えており、水中糸30は、上付け糸20、下付け糸40にそれぞれ編み込み20a、40aによって接続されている。
【0019】
天上糸10は、長さ(A)が445cmの0.8号フロロカーボン糸であり、竿先に取り付けるためのチチワ11と天上糸本体15とからなる。
チチワ11は、止コブ11a、引っ張りコブ11bで、環の大きさを調節可能とした。天上糸10は、編み込み部61に挿通自在の吹流し部15aを有している。吹流し部は、30cmで、止めコブ15aと引っ張りコブ15bにより長さ調整可能とした。
天上糸編み込み糸60は、0.4号ポリエチレン糸で、編み込み部61に続くハーフヒッチ62で上付け糸20に接続している。
【0020】
上付け糸20は、0.6号フロロカーボン糸、下付け糸40は、0.4号フロロカーボン糸で、水中糸30を編み込んで接続している。上付け糸20の長さ(B)は50cm、下付け糸40の長さ(D)は35cmとした。
下付け糸40とハナカン周り50とは、0.8号ナイロン糸の長さ(E)20cmの中ハリス58でコブ結び45により接続している。
【0021】
中ハリス58には、ハナカン53が0.4号のポリエチレン糸で片編み込みにより接続している。更に、端部にハリス止め付きのサカバリ54(2号)が固着されている。ハナカン53には背バリ51(3号)(ゴクラクII半スレギザマッスル)がウレタンゴム52により接続している。
釣りに際しては、ハリス止めの孔55hにイカリ型の掛けバリ80を掛けバリ糸81の係止コブ81aを係止して取り付ける。
【0022】
[オトリ鮎の泳がせ試験]
前記友釣り仕掛け1を用いて、種々の太さの金属製の水中糸について、オトリ鮎の泳がせ試験を行った。
水中糸30は、表1に示すステンレスSUS304材(比重7.93)の単線7本撚りの撚糸を熱処理して用いた。
【0024】
鮎友釣り仕掛け1において、水中糸の長さ(C)を370cmとした。
また、使用した鮎竿の長さは9mである。
様々な河川において、種々の太さの水中糸を用いて泳がせ釣りを行い、オトリ鮎の泳ぎを観察した。実施例1〜実施例5は、0.125号〜0.25号、比較例1〜比較例5は、0.04号〜0.1号、及び比較例6は0.3号としてオトリ鮎の泳ぎを試験した。
その結果、表2に示すように、河川に関係なく、水中糸の太さ0.125号(0.078mm)〜0.2号(0.090mm)の範囲で、よく泳ぐことが分かった。また、0.25号(0.094mm)では、条件次第でよく泳ぐことが分かった。
【0026】
以上、本願発明に係る水中糸を用いた泳がせ釣りの効果を実証した。
一方、本発明に係る水中糸は、泳がせ釣りに最適ではあるが、引き釣りにも有効となる。
引き釣りは糸を張って引く釣りであるが、少し糸を弛ませて水切れ抵抗を利用した泳がせ釣りも併用して釣ることが多い。また、引き釣りにはオモリを使った引き釣りが一般的に用いられるが、この場合も、本発明の金属糸がその強度と太さ及び重量によって感度が大きく、オモリを用いた引き釣りにおいても、極細の金属糸を用いた場合よりも効果的である。
【0027】
更に、本発明の金属糸は、引き釣り泳がせにおいても有効である。引き釣り泳がせは、竿を寝かせた状態(水面に平行に近い状態)で、オバセをとって泳がせ釣りを行う。そのため、水中糸の水面に対する角度が小さくなり、水切れ抵抗が小さくなるが、本発明の金属糸であれば、その強度と太さ及び重量によって極細の金属糸と比べ適切な水切れ抵抗と安定感が得られる。
【符号の説明】
【0028】
1・・・鮎友釣り仕掛け、10・・・天上糸、20・・・上付け糸、
30・・・水中糸、40・・・下付け糸、50・・・ハナカン周り