(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815214
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】高周波で用いる扁平粉末およびこれを含有する磁性シート
(51)【国際特許分類】
H01F 1/147 20060101AFI20210107BHJP
H01F 1/28 20060101ALI20210107BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20210107BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20210107BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
H01F1/147
H01F1/28
C22C38/00 303S
B22F1/00 Y
C22C33/02 L
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-18363(P2017-18363)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-125480(P2018-125480A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 滉大
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−9044(JP,A)
【文献】
特開2000−252679(JP,A)
【文献】
特開昭63−117406(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/015361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147
B22F 1/00
C22C 33/02
C22C 38/00
H01F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.1%〜3.0%、Cr:1.0%〜10%未満であり、残部Feおよび不可避的不純物からなり、飽和磁束密度が1.2T超え、平均粒径D50が10μm〜65μmを特徴とする高周波で用いる扁平磁性粉末。
【請求項2】
請求項1に加え、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:1.5%以下、Co:10%以下をいずれか1種類もしくは2種類以上を含むことを特徴とする高周波で用いる扁平磁性粉末。
【請求項3】
請求項1または2項に記載された高周波で用いる磁性粉末を含有することを特徴とする磁性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電子デバイスなどに用いられる、高周波において優れた磁気特性を有する扁平粉末およびこれを含有する磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンやスマートフォンなどの電子機器、情報機器が急速に発達するのに伴い、情報伝達の高速化が進行している。この情報伝達の高速化に伴い、使用周波数帯はMHz以上の高周波化が進行しつつある。特に小型電子機器であるスマートフォン等では、機器内部の電磁波干渉による誤作動の問題がある。
【0003】
それら電子機器に一般的に使用される磁性粉末としては、例えば、特開2014−204051号公報(特許文献1)に開示されているようなFe−Si−Al合金センダストが使用される。ここでは、アスペクト比15以上を有するFe−Si−Al合金の扁平粉待つを用いた磁性シートにおいて高い透磁率を実現すると述べている。
【0004】
また、例えば、特開2012−009797号公報(特許文献2)では、1GHz以上の高周波帯域で電磁波吸収周波数を任意に調節でき、かつ薄肉で、優れた電磁波吸収性を得ることができる軟磁性樹脂組成物および電磁波吸収体について述べられている。また、特開2010−272608号公報(特許文献3)では、Fe−Cr合金またはFe−Cr−Si合金を用いた500MHz〜3GHz域の扁平状磁性粉末について述べている。しかし、Cr含有量が高いことから、耐食性も高く、かつ安価であり、高い実透磁率(μ´)と低い虚透磁率(μ´´)を達成している。
【0005】
このような磁性シートの特性において、要求される特性は、透磁率の実数部である高い実透磁率(μ´)、かつ低い虚透磁率(μ´´)である。また、高周波域では、磁性の共鳴現象によって、実透磁率(μ´)が著しく減少するとともに、虚透磁率(μ´´)が急激に増加し始める。この共鳴現象の評価として、
tanδ(μ´´/μ´)を用いることが有効である。ここで、tanδが0.1となる周波数を、以下、FR(MHz)とする。このFRは一般的に、飽和磁束密度に比例して高くなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−204051号公報
【特許文献2】特開2012−009797号公報
【特許文献3】特開2010−272608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような特許文献のFe−Si−Al合金の扁平粉末の飽和磁束密度は一般的に1.0Tであり、FRは約20MHzである。また、一般的にFe−CrまたはFe−Cr−Si合金の扁平粉末の飽和磁束密度は1.2T程度とセンダスト合金よりも高いが、FRは50MHz以下である。したがって、このような合金系では、飽和磁束密度が低いため、FRが低く、広範囲の電磁波吸収が困難であった。
【0008】
このような問題に対し、発明者らは鋭意開発した結果、Crを高濃度で含有させる代わりに、Cを含有させることで、高い実透磁率(μ´)、かつ高い飽和磁束密度を有し、高いFRを兼備した高周波で用いる扁平粉末およびこれを含有する磁性シートの開発を達成することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.1%〜3.0%、Cr:1.0%〜10%未満であり、残部Feおよび不可避的不純物からなり、飽和磁束密度が1.2T超え、平均粒径D50が10μm〜65μmを特徴とする高周波で用いる扁平磁性粉末。
【0010】
(2)前記(1)に加え、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:1.5%以下、Co:10%以下をいずれか1種類もしくは2種類以上を含むことを特徴とする扁平磁性粉末。
【0011】
(3)前記(1)または(2)に記載された高周波で用いる磁性粉末を含有することを特徴とする磁性シートにある。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、Cを含有させることで、高い実透磁率(μ´)かつ1.2T超える飽和磁束密度を有し、高いFRを兼備した高周波で用いる扁平粉末およびこれを含有する磁性シートを提供できることにある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明の組成およびその磁気特性を上記のように限定した理由を説明する。
C:0.1%〜3.0%について
Cは、FRを増加させるための必須元素である。Cを多く含有するFe基合金粉末を粉砕、加工すると、原料粉末に含有されるオーステナイト相が加工誘起マルテンサイト変態を引き起こす。この加工誘起マルテンサイトにより、FRが増加することが知られている。0.1%以下では加工誘起マルテンサイト変態が生じず、3%越えると、飽和磁束密度が低くなる。したがって、好ましくは、0.2%〜2.8%、さらに好ましくは、0.4%〜2.6%である。
【0014】
Cr:1.0%〜10%未満について
Crは、マルテンサイト変態開始温度Ms(以下、Ms点とする)を低下させ、かつ耐食性を向上させる。Crを添加させ、Ms点を低下させることで、原料粉末の残留オーステナイト相を生成させる。この状態で扁平加工を行うことにより、平均粒径が大きく、扁平度(アスペクト比)の高い扁平粉が得られる。1.0%未満の場合、残留オーステナイトが生成せず、原料粉の硬さが増加し、平均粒径が減少する。10%を超えると、飽和磁束密度が低くなる、または、硬さが減少し、平均粒径が過度に増加する。したがって、好ましくは、2.0%〜9.0%、さらに好ましくは、3.0%〜8.0%である。
【0015】
飽和磁束密度が1.2T超について
飽和磁束密度は、FRを増加させる磁気特性である。高周波域で電磁波吸収に必要なFRを得るためには、1.2T以上要求される。したがって、好ましくは、1.3T超え、さらに好ましくは、1.4T超えることである。
【0016】
平均粒径D50が10μm〜65μmについて
平均粒径D50は磁性シートの成形性に大きく影響する特性である。10μm以下の場合、扁平粉末が凝集しやすく、磁性シートの柔軟性に欠ける。65μm超えるとシート成形時にシート表面に突起が発生しやすく、磁性シートの平面性に欠けるため好ましくない。したがって、好ましくは、15μm〜60μm、さらに好ましくは、25μm〜55μmである。なお、ここでの平均粒径D50は、レーザー回折方式測定装置を用いて測定した体積分布の積算で50%になるときの粒径のことである。
【0017】
Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:1.5%以下について
Si、Mn、Niは、Ms点調整および硬さ調整に適宜含有される。Si、Mnは1.5%以上を超えると飽和磁束密度を低下させる。また、硬さを急激に増加させ、扁平化後の平均粒径D50を減少させる。Niに関しては、1.5%を超えると、硬さの減少が著しく、扁平加工後の平均粒径D50を過度に増加させる。したがって、好ましくは、0.1%以上0.9%%以下、さらに好ましくは、0.3%〜0.7%である。
【0018】
Co:10%以下について
Coは、Ms点の調整および硬さ調整に使用されるとともに、耐食性を向上させる。CoはMs点を増加させる数少ない元素の1つであり、かつ飽和磁束密度も増加させる。しかし、高価な金属であるため、多量の添加は材料費を急激にあげることになるため、必要最低限の含まれることが望ましい。したがって、好ましくは、1.0%〜8.0%、さらに好ましくは、1.0%〜5.0%である。
【0019】
本発明における扁平粉末の製造方法は従来提案されている方法で可能である。各種のアトマイズ法により、原料となる合金粉末を作製し、これをボールミルやアトライター装置によって乾式あるいは湿式で扁平加工をおこなう。その後、200℃以上の熱処理により、扁平加工後にも存在する残留オーステナイト相を分解させ、飽和磁束密度を増加させ、FRを向上させる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明について実施例により具体的に説明する。
[扁平粉末の作製]
まず、表1、2に示す組成について、ガスアトマイズ法により金属粉末を作製し、−150μmに分級した。これらの原料粉末をアトライター装置により、扁平加工をおこなった。アトライターはSUJ2製の直径4.8mmのボールを使用し、原料粉末と工業エタノールとともに撹拌容器に投入し、羽根の回転数250rpmとして実施した。
【0021】
得られた扁平粉末の一部を、扁平加工中に導入された歪み除去および残留オーステナイト相を除去するため、Arまたは窒素中雰囲気中で熱処理をおこなった。温度は粉末の焼結温度を考慮して、200℃〜900℃で3時間保持の熱処理を行った。
【0022】
[扁平粉末の評価]
得られた扁平粉末について、平均粒径D50、飽和磁束密度の評価をおこなった。平均粒径D50はレーザー回折方式測定装置、飽和磁束密度はVSM装置を使用し測定した。
【0023】
[磁性シートの作製および評価]
トルエンに塩素化ポリエチレンを溶解し、この溶液に得られた扁平粉末を混合した。出来上がったスラリーをポリエステル樹脂に塗布し、ドクターブレード法によりシート成形をおこなった。成形後、常温常湿環境で1日乾燥させた。その後、50℃、15〜60MPaの圧力でプレス加工し、磁性シートを得た。いずれの磁性シートも扁平粉の充填率を50%に揃えて評価をおこなった。
【0024】
次に、この磁性シートを外形:7mm、内径:3mmのドーナッツ状に切り出し、インピーダンスアナライザーにより、透磁率(μ´,μ´´)をそれぞれ測定した。ここで、実透磁率μ´は1〜5MHzにおける平均値、FRは
μ´´/μ´を求め、磁性シートの評価をおこなった。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
表1のNo.1〜24は本発明例であり、表2のNo.25〜46は比較例である。
【0027】
比較例No.25〜27は、C含有量が低いために、平均粒径D50が大きい。比較例No.28〜31は、C含有量が高いために、平均粒径D50が小さく、かつ飽和磁束密度が低い。
【0028】
比較例No.32〜33は、Cr含有量が低いために、平均粒径D50が小さい。比較例No.34〜36は、Cr含有量が高いために、平均粒径D50が大きい。比較例No.37〜38は、Cr含有量が高いために、平均粒径D50が大きく、かつ飽和磁束密度が小さい。
【0029】
比較例No.39、Si含有量が高いために、平均粒径D50が小さい。比較例No.40は、CrおよびSi含有量が高いために、平均粒径が小さい。比較例No.41〜42は、Mn含有量が高いために、平均粒径D50が小さい。比較例No.43〜45は、Ni含有量が高いために、平均粒径D50が大きい。比較例No.46は、SiおよびMn含有量が高いために、平均粒径D50が小さい。なお、比較例No.25〜46は、いずれも平均粒径が目的値からはずれていることから、磁性シートとして使用不可とし、実透磁率(μ´)とFRについて評価していない。
【0030】
これに対し、本発明例No.1〜24は、いずれも本発明条件を満足していることから、平均粒径D50、飽和磁束密度は目的の特性を有していることが分かる。
【0031】
以上のように、本発明は、C含有させることで、高実透磁率(μ´)および高飽和磁束密度かつ高FRを兼備した高周波で用いる扁平粉末およびこれを含有する磁性シートを提供するものである。
特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊