(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造設備等において使用される真空計を始めとする圧力センサにおいては、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて小型のダイアフラムを有するセンサ素子を採用することが多い。このセンサ素子は、ダイアフラムで圧力媒体を受圧し、これにより生じた変位を何らかの信号へ変換することをその主な検出原理としている。
【0003】
例えば、この種のセンサ素子を用いた圧力センサとして、被測定媒体の圧力を受けて撓むダイアフラム(隔膜)の変位を静電容量の変化として検出する静電容量型圧力センサが広く知られている。この静電容量型圧力センサは、ピラニーゲージや電離真空計などとは異なり、ガス種に依存しないこと、腐食性のあるプロセスガスに対して耐食性があること、およびセンサを加熱することにより原料ガスの吸着や後述する副生成物等の堆積を抑制することができることから、半導体設備を始め工業用途でよく使用されている。この被測定媒体の圧力を受けて撓むダイアフラムは、感圧ダイアフラムと呼ばれたり、センサダイアフラムと呼ばれたりしている。
【0004】
例えば、半導体製造装置などにおける製造プロセス中の真空状態を計測するために利用されており、この真空状態を計測するための静電容量型圧力センサを隔膜真空計と呼んでいる。この隔膜真空計が利用される具体的なアプリケーションとして、スパッタ、CVD(chemical vapor deposition(化学気相成長法)),ALD(atomic layer deposition(原子層堆積法))による成膜が挙げられ、この他にも主としてSi等のウエハをエッチングする工程でも使用されている。
【0005】
このような成膜・エッチングプロセスでは、多かれ少なかれ成膜する膜やプロセス中に生成される副生成物など(以下、これらの物質を汚染物質と呼ぶ。)がチャンバーや配管、ポンプ内部に堆積し、様々なトラブルを引き起こす。プロセスのガス圧力を計測・制御する隔膜真空計内部への汚染物質の堆積は、その零点のシフトや圧力感度の変化をもたらし、成膜やエッチングの品質に大きな影響を与えてしまうことが知られている。
【0006】
隔膜真空計内部への汚染物質の堆積を防ぐ為、センサ素子を高温に保持する他に、プロセスガスがセンサダイアフラム上に至るまでの経路を複雑にして付着しやすいガスをなるべく途中で捉えてしまう方法(例えば、特許文献1参照)、センサダイアフラムに堆積したとしてもその位置をコントロールしたり、ダイアフラムの構造そのものを工夫したりしてダイアフラムの変位を抑制する方法(例えば、特許文献2参照)が取られてきた。取り分け、表面反応を利用したALDの様な成膜手法では、気体分子を隔膜真空計の気体導入経路の壁面に衝突させる頻度を増やすバッフル構造などが有効であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、通常のCVDの場合、隔膜真空計にとってALDと同じ条件とは限らない。特に近年の半導体の微細化に伴い、単純なCVDで成膜するプロセスではなく、成膜の途中でエッチングを行い、再び成膜するというようなプロセスも行われるようになった。この新しいプロセスでは、成膜用のガスとは異なるエッチング用のガスでエッチングされるので、異なる物質同士による化学反応に伴うセンサダイアフラムへの再付着(堆積)や、反応熱による隔膜真空計の誤作動も懸念される。このようなプロセスに対しても耐性をもつ隔膜真空計が必要であり、改善が求められている。
【0009】
この課題について、
図14に示す従来の隔膜真空計の要部の構成を参照して、具体的に説明する。この隔膜真空計100(100A)は、被測定媒体の圧力に応じて変位するダイアフラム(センサダイアフラム)101と、このセンサダイアフラム101の周縁部を支持するダイアフラム支持部102とを備えるダイアフラム構成部材103と、ダイアフラム支持部102に接合され、センサダイアフラム101と共に基準真空室104を形成するセンサ台座105と、ダイアフラム支持部102のセンサ台座105とは反対側に接合され、センサダイアフラム101と共に圧力導入室106を形成する台座プレート107とを備えている。
【0010】
この隔膜真空計100Aにおいて、センサ台座105の基準真空室104側の面には固定電極108が形成され、センサダイアフラム101の基準真空室104側の面には固定電極108と対向するように可動電極109が形成されている。また、台座プレート107には、そのプレートの中央部(センサダイアフラム101の中心に位置する部分)に圧力導入孔107aが形成されている。この隔膜真空計100Aにおいて、被測定媒体は、圧力導入孔107aを介して圧力導入室106に導入され、センサダイアフラム101を撓ませる。
【0011】
この隔膜真空計100Aでは、台座プレート107の中央部に圧力導入孔107aが形成されているので、この圧力導入孔107aの真下に位置するセンサダイアフラム101の受圧面101aに汚染物質が堆積する。すなわち、気相反応(分子同士が空間中で衝突して起きる化学反応)の場合、異なる物質同士による化学反応に伴って、
図15に示すように、センサダイアフラム101の中心部に汚染物質110が堆積する。これは、後述するが、圧力導入孔107aに面するセンサダイアフラム101の受圧面101a上の空間の被測定媒体の流れが分子流となっていないことに起因する。従って、この構造を持つ隔膜真空計100Aでは、センサダイアフラム101の中心部に堆積する汚染物質110によって、大きな零点のシフトが引き起こされるものとなる。
【0012】
図16に示す隔膜真空計100(100B)では、台座プレート107の中央部(センサダイアフラム101の中心に位置する部分)を避けた位置(感圧容量と参照容量との間付近)に、例えば4つの圧力導入孔107aを円周方向に等間隔で設けている。この場合、
図17に示すように、気相反応の場合、異なる物質同士による化学反応に伴って、周方向に等間隔で設けられた圧力導入孔107aの真下に位置するセンサダイアフラム101の受圧面101aに汚染物質110が堆積することになる。これも、圧力導入孔107aに面するセンサダイアフラム101の受圧面101a上の空間の被測定媒体の流れが分子流となっていないことに起因する。この場合、汚染物質110によるセンサダイアフラム101の変位は抑制されるが、零点のシフトが引き起こされることに変わりはない。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、特にCVDプロセスに特有の汚染物質の堆積現象に起因する不具合を低減することができる静電容量型圧力センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために本発明は、被測定媒体の圧力に応じて変位するダイアフラム(31)と,このダイアフラムの周縁部を支持するダイアフラム支持部(32)とを備えるダイアフラム構成部材(33)と、ダイアフラム支持部に接合され、ダイアフラムと共に基準真空室(34)を形成するセンサ台座(35)と、ダイアフラム支持部のセンサ台座とは反対側に接合され、ダイアフラムと共に圧力導入室(36)を形成する台座プレート(22)と、センサ台座の基準真空室側の面に形成された固定電極(37)と、ダイアフラムの基準真空室側の面に固定電極と対向するように形成された可動電極(38)とを備え、台座プレート(22)は、被測定媒体を圧力導入室(36)に導入する圧力導入孔(22a)を有し、圧力導入室(36)は、ダイアフラム(31)の受圧面(31a)とこの受圧面に対向する面(36a、39a)との間の距離(L)が受圧面のほゞ全ての領域において被測定媒体の平均自由行程(λ)よりも小さくされていることを特徴とする。
【0015】
この発明において、圧力導入室は、ダイアフラムの受圧面とこの受圧面に対向する面との間の距離(L)が、ダイアフラムの受圧面のほゞ全ての領域において被測定媒体の平均自由行程(λ:衝突から衝突までの間に分子が進む距離の平均)よりも小さくされている(L<λ)。これにより、本発明では、ダイアフラムの受圧面のほゞ全ての領域において、その受圧面と直交する方向の被測定媒体の流れが分子流(分子同士の衝突よりも壁面との衝突頻度が大きくなる自由分子領域の流れ)となり、ダイアフラムの受圧面上での分子同士の衝突が抑制される。このため、気相反応の場合、異なる物質同士の衝突が抑制され、ダイアフラムへの汚染物質の堆積が生じにくくなる。
【0016】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の構成要素を、括弧を付した参照符号によって示している。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したことにより、本発明によれば、ダイアフラムの受圧面とこの受圧面に対向する面との間の距離を受圧面のほゞ全ての領域において被測定媒体の平均自由行程よりも小さくしたので、ダイアフラムの受圧面のほゞ全ての領域において、その受圧面と直交する方向の被測定媒体の流れが分子流となり、ダイアフラムの受圧面上での分子同士の衝突が抑制される。これにより、特にCVDプロセスに特有の汚染物質の堆積現象に起因する不具合を低減することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。先ず、実施の形態の説明に入る前に発明の原理について説明する。
【0020】
〔発明の原理〕
CVD法による膜形成は気相反応と表面反応に基づいている。すなわち、基板表面近傍の気相中において原料ガスが熱分解や相互に化学反応して中間生成物を形成し、基板表面に到達後に最終反応が起きて最終生成物からなる膜を形成する。この気相反応と表面反応のどちらが成膜に対して支配的な要素になるかは目的の膜種、原料ガス、ガスの活性化方法等に依存する。
【0021】
具体的な例としては、モノシラン(SiH4)の熱CVDによるポリSi膜の形成では表面近傍で
SiH4→SiH2+H2
で形成する活性な中間体SiH2が重要な役割を果たし、
SiH4+SiH2→Si2H6
Si2H6+SiH2→Si3H8
…
のようにサイクル的な反応で成膜が進む。
【0022】
また、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)とO3の反応からSiO2膜を形成するプロセスでは一旦気相中でシロキサン系のポリーマーが形成され、基板表面でO3と反応して酸化膜を形成することが知られている。すなわち、CVDでは気相中の反応が膜の形成に大きな役割を担っていることが多い。
【0023】
これに対し、ALDは理想的には原料ガスと反応ガスを交互に導入し、基板表面で化学反応させるサイクルを繰り返すものであるから完全に表面反応に基づく成膜手法である。この点が、表面反応を利用したALDにおいて有効な対策であっても、CVDでは不十分になる原因であることを、発明者らは突き止めた。そして、鋭意研究の結果、発明者らは、隔膜真空計のセンサダイアフラムのように堆積を避けたい場合には、気相中の化学反応が起きないようにすることが極めて重要であり、その為には分子同士の衝突を抑制する必要があることに着眼した。
【0024】
さらに、その具体的な手段として堆積を避けたいセンサダイアフラムに接する空間の「代表長さ」をプロセスガスの「平均自由行程(衝突から衝突までの間に分子が進む距離の平均)」よりも小さくすることによって、センサダイアフラム上の空間の流体を気体分子同士の衝突よりも壁面との衝突頻度が大きくなる「自由分子領域(気体の流れが分子流となる領域)」に近づけることが有効な手段であることに想到した。なお、「平均自由行程」、「分子流」、「代表長さ」という用語は、真空技術に関する用語として一般に用いられている。
【0025】
前述のように分子同士の衝突を避け、気相中の反応を抑制する為には、センサダイアフラムに接する空間の「代表長さ」をプロセスガスの平均自由行程以下にする必要がある。理想気体の場合、平均自由行程λは分子直径をδ、絶対温度をT、圧力をpとすると、
λ=kT/(2
1/2πpδ^2) (kはボルツマン定数)
と表される。窒素を例にとれば、その分子直径は約3.7×10
-10mであるから、各温度・圧力における平均自由行程は
図13に示す様になる。
【0026】
CVDで使用される圧力範囲及び温度範囲は凡そ10Pa〜1333.2(10Torr)Pa及び50℃〜200℃であるから、センサダイアフラムに接する空間の「代表長さ」を50um以下にとればその空間において気体分子は自由分子として振る舞い、分子同士の衝突よりも壁面への衝突が支配的となる。
【0027】
実際のプロセスに用いるガスはモノシラン、TEOSの様に構造上基本的に窒素よりも分子直径が大きく、その平均自由行程は
図13に示した値よりも小さくなると思われる。従って、少なくとも上記の50um以下に取る必要があるが、反面あまりにも小さくするとガスの抜けが悪くなるのでセンサの応答が悪くなる可能性がある。また、副生成物や異物でセンサダイアフラムの動きを阻害することも考えられる。従って、小さくても10um以上の空間が必要であると考えられる。
【0028】
〔実施の形態1〕
図1はこの発明に係る静電容量型圧力センサの一実施の形態(隔膜真空計)の要部を示す縦断面図である。
【0029】
この隔膜真空計1は、パッケージ10と、パッケージ10内に収容された台座プレート20と、同じくパッケージ10内に収容され台座プレート20に接合されたセンサチップ30と、パッケージ10に直接取付けられパッケージ10内外を導通接続する電極リード部40とを備えている。また、台座プレート20は、第1の台座プレート21と第2の台座プレート22とから構成され、パッケージ10に対して隔間しており、支持ダイアフラム50のみを介してパッケージ10に支持されている。
【0030】
パッケージ10は、アッパハウジング11、ロアハウジング12、及びカバー13から構成されている。なお、アッパハウジング11、ロアハウジング12、及びカバー13は、耐食性の金属からなり、それぞれ溶接により接合されている。
【0031】
アッパハウジング11は、径の異なる円筒体を連結した形状を備え、その大径部11aは支持ダイアフラム50との接合部を有し、その小径部11bは被測定媒体が流入する導入部10Aをなしている。
【0032】
ロアハウジング12は略円筒体形状を有し、カバー13、支持ダイアフラム50、台座プレート20、及びセンサチップ30を介してパッケージ10内に独立した真空の室10Bを形成している。なお、真空の室10Bにはいわゆるゲッター(図示せず)と呼ばれる気体吸着物質が備わり、真空度を維持している。
【0033】
また、ロアハウジング12の支持ダイアフラム50の取付け側には周方向適所にストッパ12aが突出形成されている。なお、このストッパ12aは、被測定媒体の急激な圧力上昇により台座プレート20が過度に変移するのを規制する役目を果たしている。
【0034】
また、カバー13は円形のプレートからなり、カバー13の所定位置には電極リード挿通孔13aが形成されており、ハーメチックシール60を介して電極リード部40が埋め込まれ、この部分のシール性が確保されている。
【0035】
一方、支持ダイアフラム50は、パッケージ10の形状に合わせた外形形状を有する金属製の薄板からなり、台座プレート21と台座プレート22との間に挟まれた状態で、その外周部(周囲縁部)が上述したアッパハウジング11とロアハウジング12の縁部に挟まれて溶接等により接合されている。
【0036】
なお、支持ダイアフラム50の厚さは、例えば本実施形態の場合数十ミクロンであって、各台座プレート21,22より充分薄い厚さとなっている。また、支持ダイアフラム50の中央部には、台座プレート21と台座プレート22との間にスリット状の空間(キャビティ)20Aを作る大径の孔50aが形成されている。
【0037】
台座プレート21,22は、酸化アルミニウムの単結晶体であるサファイアからなり、台座プレート21はパッケージ10の内面から離間させた状態で支持ダイアフラム50の上面に接合され、台座プレート22はパッケージ10の内面から離間させた状態で支持ダイアフラム50の下面に接合されている。
【0038】
また、台座プレート21には、スリット状の空間(キャビティ)20Aに連通する被測定媒体の導入孔21aがその中央部に形成されている。また、台座プレート22には、その中央部に、スリット状の空間(キャビティ)20Aおよびセンサチップ30の圧力導入室36に連通する被測定媒体の導出孔22aが形成されている。この導出孔22aが本発明でいう台座プレートに形成された圧力導入孔に相当する。この導出孔22aを介してセンサチップ30の圧力導入室36に被測定媒体が導入される。以下、台座プレート22に形成されている導出孔22aを圧力導入孔22aとも呼ぶ。
【0039】
なお、各台座プレート21,22は、支持ダイアフラム50の厚さに対して上述の通り十分に厚くなっており、かつ支持ダイアフラム50を両台座プレート21,22でいわゆるサンドイッチ状に挟み込む構造を有している。これによって、支持ダイアフラム50と台座プレート20の熱膨張率の違いによって発生する熱応力でこの部分が反るのを防止している。
【0040】
また、台座プレート22の下面には酸化アルミニウムの単結晶体であるサファイアでできた上面視矩形状のセンサチップ30が酸化アルミニウムベースの接合材を介して接合されている。なお、このセンサチップ30の接合方法については、特許文献3に詳しく記載されているのでここでの説明は省略する。
【0041】
センサチップ30は上面視で1cm角以下の大きさを有し、
図2に示すように、被測定媒体の圧力に応じて変位するダイアフラム(センサダイアフラム)31と,このセンサダイアフラム31の周縁部を支持するダイアフラム支持部32とを備えるダイアフラム構成部材33と、ダイアフラム支持部32に接合され、センサダイアフラム31と共に基準真空室34を形成するセンサ台座35とを備えている。センサチップ30内の基準真空室34とパッケージ10内の真空の室10Bとはセンサ台座35の適所に穿設された図示しない連通孔を介して共に同一の真空度が保たれている。
【0042】
このセンサチップ30において、センサチップ30のセンサ台座35とは反対側のダイアフラム支持部32は、台座プレート22に接合されている。これにより、ダイアフラム支持部32とセンサダイアフラム31との間に圧力導入室36が形成されている。圧力導入室36には、圧力導入孔22aから導かれる被測定媒体の進行方向に直交する方向にその一方側の板面39aを対向させて邪魔板39が設けられている。
【0043】
この圧力導入室36において、センサダイアフラム31の受圧面31aとこの受圧面31aに対向する圧力導入室36の内面36aとの間の距離L1、およびセンサダイアフラム31の受圧面31aとこの受圧面31aに対向する邪魔板39の他方側の板面39bとの間の距離L2は、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくされている(L1,L2<λ)。具体的には、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離L1を10〜50μmとし、センサダイアフラム31の受圧面31aと邪魔板39の板面39bとの間の距離L2を10〜50μm内でL2<L1としている。
【0044】
なお、ダイアフラム構成部材33とセンサ台座35はいわゆる直接接合によって互いに接合され、一体化したセンサチップ30を構成している。また、本実施の形態では、センサダイアフラム31とダイアフラム支持部32とを一体化したものをダイアフラム構成部材33としているが、センサダイアフラム31とダイアフラム支持部32とを別体としても構わない。例えば、ダイアフラム支持部32を上下に分割し、この間にセンサダイアフラム31を挟むような構成としてもよい。この場合、ダイアフラム支持部32で挟まれた部分は、ダイアフラム支持部32の構成要素とされる。
【0045】
また、このセンサチップ30において、センサ台座35の基準真空室34側の面には金又は白金等の導体でできた固定電極37が形成され、センサダイアフラム31の基準真空室34側の面には固定電極37と対向するように金又は白金等の導体でできた可動電極38が形成されている。
【0046】
一方、電極リード部40は電極リードピン41と金属製のシールド42とを備え、電極リードピン41は金属製のシールド42にガラスなどの絶縁性材料からなるハーメチックシール43によってその中央部分が埋設され、電極リードピン41の両端部間で気密状態を保っている。
【0047】
そして、電極リードピン41の一端はパッケージ10の外部に露出して図示しない配線によって隔膜真空計1の出力を外部の信号処理部に伝達するようになっている。なお、シールド42とカバー13との間にも上述の通りハーメチックシール60が介在している。また、電極リードピン41の他方の端部には導電性を有するコンタクトバネ45,46が接続されている。
【0048】
コンタクトバネ45,46は、導入部10Aから被測定媒体が急に流れ込むことで発生する急激な圧力上昇により支持ダイアフラム50が若干変移しても、コンタクトバネ45,46の付勢力がセンサチップ30の測定精度に影響を与えない程度の十分な柔らかさを有している。
【0049】
この隔膜真空計1において、センサチップ30のセンサダイアフラム31と導入部10Aとの間には、導入部10Aからの被測定媒体の流入口に、被測定媒体の通過方向Fにその板面を直交させて、金属製のバッフル70が配置されている。
図3にバッフル70の平面図を示す。バッフル70には、その外周部に所定の角度間隔でタブ70aが形成されており、このタブ70a間の隙間70bを被測定媒体が通過して、センサダイアフラム31へと送られる。
【0050】
次に、この隔膜真空計1の動作について説明する。なお、この実施の形態において、隔膜真空計1は半導体製造装置におけるCVDプロセス中の必要な場所に取付けられているものとする。
【0051】
〔被測定媒体の圧力測定〕
この隔膜真空計1では、導入部10Aからの被測定媒体(気体)がセンサダイアフラム31に到達し、この被測定媒体の圧力と基準真空室34との差圧によってセンサダイアフラム31が撓み、センサダイアフラム31の裏面とセンサ台座35の内面との間に設けられている固定電極37と可動電極38との間隔が変化し、この固定電極37と可動電極38で構成されるコンデンサの容量値(静電容量)が変化する。この静電容量の変化を隔膜真空計1の外部に取り出すことで、被測定媒体の圧力が測定される。
【0052】
〔気相反応による汚染物質の堆積防止〕
被測定媒体の圧力の測定に際し、導入部10Aからの被測定媒体(気体)は、バッフル70の板面の中央に当たって迂回し、バッフル70の周囲の隙間70bを通過して、台座プレート21の導入孔21aより台座プレート21と台座プレート22との間のスリット状の空間(キャビティ)20Aに流入する。
【0053】
このスリット状の空間(キャビティ)20Aに流入した被測定媒体は、台座プレート22の導出孔(圧力導入孔)22aより導出され、圧力導入室36に導入される。この場合、圧力導入室36には邪魔板39が設けられているので、この邪魔板39に当たって被測定媒体の進行方向が変えられ、邪魔板39の外側を回ってセンサダイアフラム31の受圧面31aに到達する。
【0054】
ここで、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離L1は10〜50μmとされ、センサダイアフラム31の受圧面31aと邪魔板39の板面39bとの間の距離L2は10〜50μm内でL2<L1とされている。すなわち、本実施の形態において、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離L1、およびセンサダイアフラム31の受圧面31aと邪魔板39の板面39bとの間の距離L2は、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくされている。
【0055】
このため、本実施の形態では、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において、その受圧面31aと直交する方向の被測定媒体の流れが分子流となり、センサダイアフラム31の受圧面31a上での分子同士の衝突が抑制される。このため、気相反応の場合、異なる物質同士の衝突が抑制され、センサダイアフラム31への汚染物質の堆積が生じにくくなる。これにより、CVDプロセスに特有の汚染物質の堆積現象に起因する不具合を低減することができるようになる。
【0056】
なお、この実施の形態1の構造において、センサダイアフラム31の受圧面31aとこの受圧面31aに対向する圧力導入室36の内面36aとの間の距離L1は、必ずしもL1<λとしなくてもよい。すなわち、 圧力導入室36内における邪魔板39の板面39bをさらに広くし、センサダイアフラム31の受圧面31aと邪魔板39の板面39bとの間の距離L2のみをL2<λとするようにしてもよい。
【0057】
〔実施の形態2〕
実施の形態1では、圧力導入室36に邪魔板39を設けるようにしたが、実施の形態2ではこの邪魔板39をなくした構成とする。
図4に
図2に対応する要部の縦断面図を示す。なお、
図4には、台座プレート21も合わせて示している。
【0058】
この実施の形態2において、台座プレート22には、スリット状の空間(キャビティ)20Aおよびセンサチップ30の圧力導入室36に連通する被測定媒体の導出孔22aが複数(この例では、4つ)形成されている。
図5に台座プレート21に形成された導入孔21aと台座プレート22に形成された導出孔22aとの位置関係を示す。
図5は
図4を矢印A方向から見た平面図である。
【0059】
図4および
図5に示されているように、台座プレート21の導入孔21aと台座プレート22の導出孔22aとは、台座プレート21,22の厚み方向において重ならない位置に設けられている。この例では、台座プレート21の中央部に被測定媒体の導入孔21aが1つ設けられ、台座プレート22の中央部から離れた位置に被測定媒体の導出孔22aが4つ形成されている。すなわち、圧力導入室36への被測定媒体の圧力導入孔22aが台座プレート22に4つ形成されている。
【0060】
この4つの圧力導入孔22aは、台座プレート22の中心から径方向に等距離、かつ周方向に等間隔隔てて、ダイアフラム支持部32に対面する位置に形成されている。ダイアフラム支持部32には、
図6に示すように、台座プレート22の圧力導入孔22aの真下に、この圧力導入孔22aと圧力導入室36とを連通させる通路32aが形成されている。
【0061】
また、圧力導入室36において、センサダイアフラム31の受圧面31aとこの受圧面31aに対向する圧力導入室36の内面36aとの間の距離Lは、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくされている(L<λ)。具体的には、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離Lは10〜50μmとされている。
【0062】
これにより、実施の形態2では、実施の形態1のような邪魔板39を設けることなく、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において、その受圧面31aと直交する方向の被測定媒体の流れが分子流となり、センサダイアフラム31の受圧面31a上での分子同士の衝突が抑制されるものとなる。
【0063】
〔実施の形態3〕
実施の形態2(
図4に示した構造)において、センサチップ30の加工の制約などで、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離Lを被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくすることができない場合がある。
【0064】
このような場合、
図7に示すように、台座プレート22に加工を加え、台座プレート22のセンサダイアフラム31の受圧面31aに対向する面のほゞ全域を凸面22bとすることによって、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36内の凸面22bとの間の距離Lを被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくするようにするとよい。
【0065】
この場合、圧力導入室36の凸面22bの外側の内面36aはセンサダイアフラム31の受圧面31aとの間の距離が平均自由行程λよりも大きくなるが、センサダイアフラム31の周面に位置する部分であるので、すなわち、センサダイアフラム31の変位が小さい箇所であり、かつ受圧面31aの全体からしたら僅かな領域であるので、この領域に汚染物質が堆積しても支障はない。
【0066】
なお、
図7に示した構造では、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離を被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくすることができない場合を想定し、台座プレート22に凸面22bを設けてセンサダイアフラム31の受圧面31aとの間の距離を狭めるようにしたが、
図8に示すように、センサダイアフラム31の受圧面31aと圧力導入室36の内面36aとの間の距離Lを被測定媒体の平均自由行程λよりも小さくすることができる場合であっても、センサダイアフラム31の受圧面31aとの間の距離をさらに狭めるために、台座プレート22に凸面22bを設けるようにしてもよい。
【0067】
〔実施の形態4〕
実施の形態2(
図4に示した構造)では、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において、その受圧面31aと直交する方向(垂直方向(縦方向))の被測定媒体の流れが分子流となる。しかし、センサダイアフラム31の受圧面31aに沿う方向(平行方向(横方向))は分子流とはならない。
【0068】
そこで、実施の形態4では、
図9に示すように、センサダイアフラム31の受圧面31aに多数の凸部31bを分散して設けるようにしている。これにより、圧力導入室36内の垂直方向だけではなく、水平方向にも被測定媒体の流れを分子流とすることが可能となる。この例では、隣接する凸部31b間の距離WをW=10〜100μmとしている。垂直方向の距離を狭く設定すれば、水平方向は多少広く100μmとしても、期待する効果は得られると考えられる。
【0069】
なお、
図9に示した構造では、センサダイアフラム31の受圧面31aに多数の凸部31bを分散して設けるようにしたが、
図10に示すように、台座プレート22のセンサダイアフラム31の受圧面31aに対向する面(圧力導入室36の内面36a)に多数の凸部22cを分散して設けるようにしてもよい。
【0070】
また、
図11に示すように、センサダイアフラム31の受圧面31aに多数の凸部31bを第1の凸部として分散して設け、台座プレート22のセンサダイアフラム31の受圧面31aに対向する面(圧力導入室36の内面36a)に多数の凸部22cを第2の凸部として分散して設けるようにしてもよい。この場合、第1の凸部31bと第2の凸部22cとは、互いにその位置が重ならないように配置するものとする。これにより、圧力導入室36内の平行方向の経路を複雑化して、壁面との分子の衝突頻度を増大させることができる。
【0071】
図9に示した構造ではセンサダイアフラム31上の凸部31bの上の空間の平行方向は分子流とはならないが、また
図10に示した構造では台座プレート22上の凸部22cの下の空間の平行方向は分子流とはならないが、
図11に示した構造では全領域にわたって分子流とすることが可能となる。
【0072】
〔実施の形態5〕
実施の形態2(
図4に示した構造)では、台座プレート22のダイアフラム支持部32に対面する位置に圧力導入孔22aを形成することによって、圧力導入室36から邪魔板39をなくした構造とした。
【0073】
これに対し、実施の形態5では、
図12に示すように、台座プレート22の中央部に形成されている圧力導入孔22aに、圧力導入室36への被測定媒体の流れを乱すセラミックフィルタや金属メッシュなどの乱流部材80を組み込んでいる。
【0074】
なお、この実施の形態5においても、センサダイアフラム31の受圧面31aとこの受圧面31aに対向する部材80の面80aとの間の距離Lは、センサダイアフラム31の受圧面31a全ての領域において被測定媒体の平均自由行程λよりも小さいものとしている(L<λ)。
【0075】
これにより、圧力導入孔22aからの被測定媒体の流れが乱され、圧力導入室36への垂直方向から直進してくる被測定媒体媒体の導入が抑制される。これにより、センサダイアフラム31の受圧面31aの全ての領域において、その受圧面31aと直交する方向の被測定媒体の流れが分子流となり、センサダイアフラム31の受圧面31a上での分子同士の衝突が抑制されるものとなる。
【0076】
なお、
図12に示した構造では、乱流部材80の径をセンサダイアフラム31の径よりも大きくしているが、センサダイアフラム31の径よりも小さくしてもよい。
【0077】
また、上述した実施の形態2〜4では、台座プレート22のダイアフラム支持部32に対面する位置に圧力導入孔22aを4つ設けるようにしたが、必ずしも4つに限られるものではなく、1つであっても構わない。
【0078】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。