(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815246
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】窒化タンタル粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 21/06 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
C01B21/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-60802(P2017-60802)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162189(P2018-162189A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年9月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】松井 克己
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−264607(JP,A)
【文献】
特表2003−525350(JP,A)
【文献】
特開2002−233769(JP,A)
【文献】
米国特許第03427132(US,A)
【文献】
Tsuyoshi Takata, et al.,Synthesis of Structurally Defined Ta3N5 Particles by Flux-Assisted Nitridation,Crystal Growth and Design,2011年,2011,Vol.11,33-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06、35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タンタルを1300〜1850℃で焼成後、800〜950℃、アンモニアガス下、アンモニアガス流量がTa2O51gあたり0.05〜0.8L/minで窒化することを特徴とする窒化タンタル粒子の製造方法。
【請求項2】
得られる窒化タンタル粒子の平均粒子径(D50)が2〜30μmで、累積90%粒子径(D90)と累積10%粒子径(D10)の比(D90/D10)が10〜100であり、酸素含有量が1質量%以下である請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化タンタル粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化タンタルは、顔料、誘電体や超電導体などとして使用される金属窒化物である。さらに、近年では炭酸ガス排出削減、再生可能エネルギーの観点から、太陽光エネルギーを利用して、光触媒により水を分解して、水素や酸素を製造する技術に注目が集まっており、窒化タンタルは光触媒として利用可能である(特許文献1)。
【0003】
顔料、光触媒などの用途や性能により、異なる粒子性状が要求されるため、それぞれに適合する窒化タンタルの粒子径や粒度分布が求められている。
【0004】
窒化タンタルの製造方法の一つとして、非特許文献1、特許文献1で酸化タンタルを原料としてアンモニアで窒化する窒化タンタルの製造方法が示されている。
非特許文献1では、酸化タンタル(Ta
2O
5)をアンモニアで800℃で窒化反応させることにより、窒化タンタルを得ている。
特許文献1では、酸化タンタルをアンモニア気流中、850℃で25時間窒化することで窒化タンタルを得て、光触媒に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−233769号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Z.anorg.allg.chem.334,155〜162(1964)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
窒化タンタルを顔料や光触媒として用いる場合、不純物や酸素などが多いと、顔料の場合は赤色の発色を低下させ、光触媒の場合は水素の発生を阻害するという問題が起きるため、高純度のものが求められる。
【0008】
非特許文献1では、酸化タンタルをアンモニアで800℃で窒化反応させることにより、窒化タンタルを得ている。特許文献1は、酸化タンタルをアンモニア気流中、850℃で25時間窒化することで窒化タンタルを得ている。
これらは、酸化タンタルの粉末を原料として、酸化タンタル粒子表面とアンモニアが接触することで、窒化反応を起こし、窒化タンタルが合成される。そのため、高純度の窒化タンタルを得るためには、高純度の酸化タンタルを原料とする必要がある。
更に、酸化タンタルから酸素含有量の少ない窒化タンタルを得るには、反応性を高めるために粒子の小さい酸化タンタルである必要がある。
【0009】
酸化タンタルの含有量が99.9%以上と高純度で粉末の酸化タンタルが市販されている。この粉末の酸化タンタルは、平均粒子径は0.5〜2μmであり、均一な粒子なため、粒度分布はシャープである。
非特許文献1、特許文献1で市販の酸化タンタルを原料として得られる窒化タンタルの平均粒子径や粒度分布は、原料の酸化タンタルと同等または少し大きくなる程度であり、平均粒子径が大きく、粒度分布の広い窒化タンタルは得られない。
【0010】
従って、本発明の課題は、平均粒子径が大きく、粒度分布の広い窒化タンタルであり、かつ酸素含有量が少なく、単一相の窒化タンタルの工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、酸化タンタルを一定の温度で焼成した後、温度及びアンモニアガス量を一定の範囲の条件でアンモニアで窒化すれば、平均粒子径(D50)が大きく、粒度分布が広く、かつ高純度の窒化タンタル粒子が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
【0013】
〔1〕JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」による平均粒子径(D50)が2〜30μmであり、粒子径の小さい方からの累積10%粒子径(D10)と累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10比)が10〜100の窒化タンタル粒子。
〔2〕酸素含有量が1質量%以下である〔1〕記載の窒化タンタル粒子。
〔3〕酸化タンタルを1300〜1850℃で焼成後、800〜950℃で、アンモニアガス下、アンモニアガス流量がTa
2O
5 1gあたり0.05〜0.8L/minで窒化することを特徴とする窒化タンタル粒子の製造方法。
〔4〕得られる窒化タンタル粒子の平均粒子径(D50)が2〜30μmで、累積90%粒子径(D90)と累積10%粒子径(D10)の比(D90/D10比)が10〜100であり、酸素含有量が1質量%以下である〔3〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の窒化タンタル粒子は、平均粒子径(D50)が2〜30μmと平均粒子径が大きく、粒子径の小さい方からの累積10%粒子径(D10)と累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10比)が10〜100と粒度分布の広い窒化タンタル粒子であり、更に酸素含有量が少なく高純度である窒化タンタル粒子であり、光触媒として有用である。
また、本発明の製造方法によれば、粒子径の大きい酸化タンタルでも粒子径の小さい酸化タンタルと同じ窒化反応条件で酸素含有量が少なく高純度である窒化タンタル粒子を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の窒化タンタル(Ta
3N
5)粒子は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」による平均粒子径(D50)が2〜30μmであり、粒子径の小さい方からの累積10%粒子径(D10)と累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10比)が10〜100の窒化タンタル粒子である。
【0016】
平均粒子径(D50)は2〜30μmであり、好ましくは3〜27μm、より好ましくは3〜25μmである。平均粒子径が2μm未満では粒子径が小さく、平均粒子径が30μmを超えると酸素含有量が多くなる。
【0017】
累積10%粒子径(D10)と累積90%粒子径(D90)との比(D90/D10比)は10〜100であり、好ましくは10〜80、より好ましくは20〜75である。D90/D10比が10未満では粒度分布が狭く、D90/D10比が100を超えると粒度分布は広いが、粒子径の異なる窒化タンタル粒子の量が少なくなり、粒子径の効果が小さくなる。
【0018】
本発明の窒化タンタル粒子は、平均粒子径が異なり、粒度分布が広いため、混合、分級することで、更に平均粒子及び粒度分布を調整することができる。また、粒度分布で複数のピークを有する窒化タンタルを得ることができる。これより、用途に合う平均粒子径及び粒度分布を有する窒化タンタル粒子を提供することができる。
【0019】
平均粒子径及び粒度分布は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」のレーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えばマイクロトラック(日機装株式会社製)などによって計算できる。平均粒子径は粒子径の小さい方からの累積50%の粒子径、D10は粒子径の小さい方からの累積10%の粒子径、D90は粒子径の小さい方からの累積90%の粒子径を指す。
【0020】
窒化タンタル粒子中の酸素含有量は1質量%以下が好ましく、0.85質量%以下であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の窒化タンタル粒子の製造方法は、酸化タンタル(Ta
2O
5)を1300〜1850℃で焼成後、800〜950℃で、アンモニアガス下、アンモニアガス流量がTa
2O
51gあたり0.05〜0.8L/minで窒化することを特徴とする。
【0022】
本発明に用いる原料は、酸化タンタルを1300〜1850℃で焼成した酸化タンタルである。酸化タンタルを1300〜1850℃で焼成することにより、原料となる酸化タンタルの平均粒子径が大きくなり、粒度分布を広くすることができる。それにより、得られる窒化タンタルの平均粒子径が大きくなり、粒度分布を広くすることができる。
【0023】
酸化タンタルの焼成温度は、1300〜1850℃であり、好ましくは1300〜1800℃、より好ましくは1400〜1600℃である。1300℃未満では得られる窒化タンタルの平均粒子径は2μm未満であり、粒度分布も広くならない。1850℃を超えると酸化タンタルが溶融し、得られる窒化タンタルの酸素含有量が1質量%を超えることがある。
【0024】
酸化タンタルの焼成後、好ましくは冷却する。酸化タンタルの焼成から連続して窒化反応を行うのであれば、冷却温度は窒化温度未満、例えば500℃程度であればよい。また、窒化反応前に酸化タンタルの計量を行う場合は、常温(約25℃)まで冷却してもよい。ただし、窒化反応前に焼成した酸化タンタルを粉砕はしない。
【0025】
窒化する際のアンモニアガス量は、Ta
2O
51gあたり0.05L/min以上0.8L/min以下が好ましい。さらに好ましくは、0.1L/min以上0.5L/min以下である。0.05L/min未満だと窒化時間が長く、工業的ではない。0.8L/min超だと、得られる窒化タンタルの酸素含有量が高くなる場合がある。また、窒化に使用されないアンモニアガス量が多くなり、製造コストが高くなる。
【0026】
窒化する温度(加熱温度)は、800℃以上950℃以下である。800℃未満の場合、窒化が十分に進行しない。950℃超の場合、窒化タンタルから窒素が放出され金属タンタルとなるため高純度の窒化タンタルが得られない。より好ましい窒化温度は、800℃以上900℃以下である。
【0027】
また、加熱時間は、加熱温度との関係で決定され、窒化を十分に進行させる点、及び窒化タンタル(Ta
3N
5)より窒素量の少ないタンタル窒化物の生成を防止する点から、加熱温度(℃)と加熱時間(hr)の積が、10000〜25000になる時間が好ましい。より好ましい前記積は12000〜20000であり、さらに好ましくは16000〜20000である。
具体的な加熱時間は13〜30時間が好ましく、15〜30時間がより好ましい。なお、ここで加熱時間は、800〜950℃の範囲に加熱されている時間である。
【0028】
反応装置は、1000℃程度の熱に耐えられる装置であればよく、例えば、管状炉、電気炉、バッチ式キルン、ロータリーキルンを用いれば良い。
上記の反応により、反応容器中には高純度の窒化タンタル粒子のみが残存するので回収が容易である。
【0029】
窒化タンタル(Ta
3N
5)粒子中の酸素含有量は1質量%以下が好ましく、0.85質量%以下であるのがより好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によれば、酸化タンタルの平均粒子径が大きく、粒度分布が広くなっても、窒化反応条件を変えることなく、酸素含有量が少ない窒化タンタルが得られる。更に、アンモニアガスとの反応温度及びアンモニアガスの流量を調整することにより、酸素含有量を低減することができる。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0032】
実施例1
酸化タンタル(三井金属鉱業(株)製、白色粉末)30gをアルミナボートに入れ、電気炉で1300℃で20時間焼成した。電気炉内の温度が室温程度(約25℃程度)になってから、アルミナボードを取り出し、焼成した酸化タンタルを回収した。
焼成した酸化タンタル5gをアルミナボートに入れ、アルミナ製の炉芯管内に置き、両端にガスフロー口とバルブの付いた栓をして、管状炉に設置した。アンモニアガス流量1L/min、850℃で20時間窒化反応を行った。窒化反応後、冷却し、室温程度(約25℃程度)になってから、アルミナボードを取り出し、窒化タンタ粒子を回収した。
得られた窒化タンタル粒子は、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置による粒子径及び粒度分布の測定、粉末X線回折(XRD)による鉱物組成の同定、窒素酸素同時分析計による酸素含有量の定量を行った。測定結果を表1に示す。
【0033】
実施例2
酸化タンタル30gの焼成温度を1400℃にした以外は、実施例1と同様に焼成、窒化反応を行った。得られた窒化タンタル粒子も同様に分析を行った。測定結果を表1に示す。
【0034】
実施例3
酸化タンタル30gの焼成温度を1490℃にした以外は、実施例1と同様に焼成、窒化反応を行った。得られた窒化タンタル粒子も同様に分析を行った。測定結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
焼成していない酸化タンタルを用いた以外、実施例1と同様に行った。得られた窒化タンタルも同様に分析を行った。測定結果を表1に示す。
【0036】
実施例1の窒化タンタル粒子は、平均粒子径は2.47μm、D90/D10比は11.6であった。実施例2の窒化タンタル粒子は、平均粒子径は3.29μm、D90/D10比は20.1であった。実施例3の窒化タンタル粒子は、平均粒子径は23.1μm、D90/D10比は70.7であった。比較例1の窒化タンタル粒子は、平均粒子径は1.56μm、D90/D10比は9.4であった。
実施例の窒化タンタル粒子は、比較例の窒化タンタル粒子より平均粒子径が大きく、粒度分布も広いことが確認できた。また、実施例1〜3を比較すると、酸化タンタルの焼成温度を高くすることにより、平均粒子径が大きくなり、粒度分布が広くなることが確認できた。
また、実施例1〜3の窒化タンタル粒子の酸素含有量は、1質量%未満であり、光触媒として有用であると考えられる。
【0037】
【表1】