(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815275
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】エレベーターロープ素線破断検出装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
B66B5/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-101800(P2017-101800)
(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公開番号】特開2018-197141(P2018-197141A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルテクノサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(74)【代理人】
【識別番号】100090011
【弁理士】
【氏名又は名称】茂泉 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100194939
【弁理士】
【氏名又は名称】別所 公博
(74)【代理人】
【識別番号】100206782
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】森 昭道
【審査官】
羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−247607(JP,A)
【文献】
特開2010−030765(JP,A)
【文献】
実開平01−123692(JP,U)
【文献】
特開2011−051751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00− 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターロープが内側を通る保持部と、
前記保持部における前記エレベーターロープに対向する面である対向面に設けられ、前記エレベーターロープの素線における断線が生じた部分である素線破断部が前記保持部を通る場合に前記対向面から外れて前記素線破断部に付着する検出糸と
を備え、
前記保持部は、前記検出糸が設けられ弾性変形可能なインナーシートと、前記インナーシートが前記エレベーターロープの周囲を覆うように前記インナーシートを保持するアウター部とを有し、
前記アウター部は、前記エレベーターロープの径方向寸法に対応して前記インナーシートの形状が変化するように前記インナーシートを保持するエレベーターロープ素線破断検出装置。
【請求項2】
前記保持部に設けられ、前記エレベーターロープに対して前記保持部を下方に移動させるためのバンド部をさらに備え、
前記バンド部は、作業者の指が引っ掛けられる貫通孔が形成された取手部を有している請求項1に記載のエレベーターロープ素線破断検出装置。
【請求項3】
前記バンド部は、長手方向に伸長可能となっている請求項2に記載のエレベーターロープ素線破断検出装置。
【請求項4】
前記バンド部は、予め設定された値を超える張力が前記バンド部に作用する場合に、前記保持部から外れるようになっている請求項2または請求項3に記載のエレベーターロープ素線破断検出装置。
【請求項5】
前記バンド部は、予め設定された値を超える張力が前記バンド部に作用する場合に、破断するようになっている請求項2または請求項3に記載のエレベーターロープ素線破断検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベーターロープを点検する際に用いられるエレベーターロープ素線破断検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベーターロープの破断を検出する破断検出器と、破断検出器によるエレベーターロープの破断の検出に連動してエレベーターロープの破断箇所にマーキングするマーキング器とを備えたエレベーターロープ素線破断検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−30765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、破断検出器とマーキング器とを備えているので、構成が複雑であるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、構成を簡単にするとともに、作業者がエレベーターロープにおける素線破断部を容易に見つけることができるエレベーターロープ素線破断検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベーターロープ素線破断検出装置は、エレベーターロープが内側を通る保持部と、保持部におけるエレベーターロープに対向する面である対向面に設けられ、エレベーターロープの素線における断線が生じた部分である素線破断部が保持部を通る場合に対向面から外れて素線破断部に付着する検出糸とを備え
、保持部は、検出糸が設けられ弾性変形可能なインナーシートと、インナーシートがエレベーターロープの周囲を覆うようにインナーシートを保持するアウター部とを有し、アウター部は、エレベーターロープの径方向寸法に対応してインナーシートの形状が変化するようにインナーシートを保持する。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るエレベーターロープ素線破断検出装置によれば、エレベーターロープが内側を通る保持部と、保持部におけるエレベーターロープに対向する面である対向面に設けられ、エレベーターロープの素線における断線が生じた部分である素線破断部が保持部を通る場合に対向面から外れて素線破断部に付着する検出糸とを備えているので、構成を簡単にするとともに、作業者がエレベーターロープにおける素線破断部を容易に見つけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明の実施の形態1に係るエレベーターロープ素線破断検出装置が用いられるエレベーターを示す構成図である。
【
図2】
図1のエレベーターロープの素線破断部を検出するエレベーターロープ素線破断検出装置を示す分解斜視図である。
【
図3】
図2のエレベーターロープ素線破断検出装置の要部を示す拡大図である。
【
図4】
図2のエレベーターロープ素線破断検出装置がエレベーターロープに取り付けられた状態を示す平面図である。
【
図5】
図2のエレベーターロープ素線破断検出装置を用いてエレベーターロープを点検する手順を説明する図である。
【
図6】
図5のエレベーターロープ素線破断検出装置を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るエレベーターロープ素線破断検出装置が用いられるエレベーターを示す構成図である。図において、エレベーターは、昇降路100を昇降するかご1と、一端部がかご1に接続されたエレベーターロープ2と、エレベーターロープ2の他端部に接続され、昇降路100を昇降するつり合いおもり3と、機械室200に設けられ、エレベーターロープ2を移動させる巻上機4と、機械室200に設けられ、エレベーターロープ2が巻き掛けられたそらせ車5とを備えている。
【0010】
巻上機4が駆動することによって、エレベーターロープ2が移動する。エレベーターロープ2が移動することによって、かご1およびつり合いおもり3は、互いに反対方向に昇降路100を昇降する。
【0011】
エレベーターロープ2を構成する素線には、エレベーターロープ2が長期間に渡って移動することによって、破断が生じる。この例では、エレベーターロープにおける素線の破断が生じた部分を素線破断部とする。
【0012】
図2は
図1のエレベーターロープ2の素線破断部を検出するエレベーターロープ素線破断検出装置を示す分解斜視図、
図3は
図2のエレベーターロープ素線破断検出装置の要部を示す拡大図、
図4は
図2のエレベーターロープ素線破断検出装置がエレベーターロープに取り付けられた状態を示す平面図である。エレベーターロープ素線破断検出装置6は、エレベーターロープ2が内側を通る保持部61と、保持部61に設けられた複数の検出糸62と、保持部61に設けられ、作業者に把持されるバンド部63とを備えている。
【0013】
保持部61は、検出糸62が一方の面に設けられ弾性変形可能なインナーシート611と、インナーシート611がエレベーターロープ2の周囲を覆うようにインナーシート611を保持するアウター部612とを有している。
【0014】
インナーシート611は、例えば、クッション材から構成されている。インナーシート611には、エレベーターロープ2に対してインナーシート611をスライドさせる方向を示すスライド方向表示が設けられている。インナーシート611におけるスライド方向表示が設けられる面は、インナーシート611におけるエレベーターロープ2に対向する面である対向面613とは反対側の面となっている。スライド方向表示は、検出糸62の配置とエレベーターロープ2に対するインナーシート611の移動方向との関係を予め設定された関係にするためのものである。
【0015】
検出糸62は、対向面613に設けられている。検出糸62は、赤色に着色されている。なお、検出糸62は、赤色に限らず、その他の色に着色されてもよい。検出糸62は、逆U字形状に配置されている。つまり、検出糸62は、U字形状に形成され、かつ、湾曲部が両端部よりも上側に配置されている。検出糸62は素線破断部が保持部61の内側を通る場合に対向面613から外れて素線破断部に付着するようになっている。
【0016】
アウター部612は、エレベーターロープ2の径方向寸法に対応してインナーシート611の形状が変化するようにインナーシート611を保持する。アウター部612は、インナーシート611を覆うアウター部本体614と、アウター部本体614に設けられ、アウター部本体614の長手方向両端部を接続するホースバンド部615とを有している。アウター部本体614は、例えば、湾曲変形可能な鉄板材から構成されている。
【0017】
ホースバンド部615は、アウター部本体614における長手方向一端部に設けられたねじ部616と、アウター部本体614における長手方向他端部に設けられ、ねじ部616に係合される係合バンド部617とを有している。
【0018】
一対のねじ部616および係合バンド部617は、高さ方向に離れて設けられている。ねじ部616が係合バンド部617に係合した状態でねじ部616が回転することによって、アウター部612の径方向寸法が変化する。これにより、インナーシート611の径方向寸法が変化する。
【0019】
なお、図示していないが、アウター部本体614には、アウター部612の径方向寸法を示す目盛りが設けられている。エレベーターロープ2の径方向寸法に対応してアウター部612の径方向寸法を調整することによって、アウター部612によるインナーシート611のエレベーターロープ2への締付力を予め設定された値に調整することができる。
【0020】
バンド部63は、エレベーターロープ2に対して保持部61を下方に移動させるためのものである。バンド部63は、保持部61に取り付けられるリング形状の取付部631と、長手方向一端部が取付部631に接続されたバンド部本体632と、バンド部本体632の長手方向他端部に接続され、作業者の指に引っ掛けられる貫通孔が形成された取手部633とを有している。取手部633に形成された貫通孔の径方向寸法は、作業者の指が通る程度の寸法となっている。
【0021】
バンド部本体632は、例えば、長手方向に伸縮可能なゴム材から構成されている。これにより、バンド部本体632は、検出糸62が対向面613から外れる場合に長手方向に伸長可能となっている。
【0022】
次に、エレベーターロープ素線破断検出装置を用いてエレベーターロープを点検する手順について説明する。
図5は
図2のエレベーターロープ素線破断検出装置6を用いてエレベーターロープを点検する手順を説明する図、
図6は
図5のエレベーターロープ素線破断検出装置6を示す拡大斜視図である。まず、かご1を最上階に停止させ、かご1の上に作業者300が立ち、エレベーターロープ2におけるそらせ車5の直下の部分にエレベーターロープ素線破断検出装置6を取り付ける。このとき、複数のエレベーターロープ2のそれぞれに対してエレベーターロープ素線破断検出装置6を1つずつ取り付ける。
【0023】
その後、作業者300は、取手部633の貫通孔に指を挿入してバンド部63を把持し、かご1を低速で下降運転する。かご1の下降運転中にエレベーターロープ素線破断検出装置6がエレベーターロープにおける素線破断部を通過する場合には、検出糸62が保持部61における対向面613から外れて、素線破断部に付着する。このとき、作業者300の指には、検出糸62が対向面613から外れるときの衝撃が伝わる。これにより、作業者300には、エレベーターロープ素線破断検出装置6が素線破断部を通ることを知らせることができる。
【0024】
かご1がつり合いおもり3と同じ高さまで下降した場合に、かご1の下降運転を停止させ、エレベーターロープ2の点検が終了する。
【0025】
以上説明したように、この発明の実施の形態1に係るエレベーターロープ素線破断検出装置6によれば、エレベーターロープ2が内側を通る保持部61と、保持部61における対向面613に設けられ、素線破断部が保持部61を通る場合に対向面613から外れて素線破断部に付着する検出糸62とを備えているので、構成を簡単にするとともに、作業者300がエレベーターロープ2における素線破断部を容易に見つけることができる。また、エレベーターロープ2に複数の素線破断部が形成されている場合に、それぞれの素線破断部に検出糸62が付着するので、作業者300は、素線破断部の形成箇所数を容易に知ることができ、素線破断部の形成箇所数に対応して、エレベーターロープ2の取替などの作業を行うことができる。
【0026】
また、保持部61は、検出糸62が設けられ弾性変形可能なインナーシート611と、インナーシート611がエレベーターロープ2の周囲を覆うようにインナーシート611を保持するアウター部612とを有し、アウター部612は、エレベーターロープ2の径方向寸法に対応してインナーシート611の形状が変化するようにインナーシート611を保持するので、異なる径方向寸法の複数種類のエレベーターロープ2に対して、同一のエレベーターロープ素線破断検出装置6を用いることができる。
【0027】
また、このエレベーターロープ素線破断検出装置6は、保持部61に設けられ、エレベーターロープ2に対して保持部61を下方に移動させるためのバンド部63をさらに備えているので、エレベーターロープ素線破断検出装置6をエレベーターロープ2に対して容易に下方に移動させることができる。
【0028】
また、バンド部63は、検出糸62が対向面613から外れる場合に長手方向に伸長可能となっているので、作業者300がバンド部63を把持し、検出糸62が対向面613から外れた場合に、作業者300に伝わる衝撃を弱めることができる。
【0029】
なお、上記実施の形態1では、保持部61に取り付けられるリング形状の取付部631と、長手方向一端部が取付部631に接続されたバンド部本体632と、バンド部本体632の長手方向他端部に接続され、作業者300の指に引っ掛けられる貫通孔が形成された取手部633とを有しているバンド部63の構成について説明したが、バンド部63は、予め設定された値を超える張力がバンド部63に作用する場合に、保持部61からバンド部63が外れるようになっている構成であってもよい。また、バンド部63は、予め設定された値を超える張力がバンド部63に作用する場合に、バンド部63、例えば、バンド部本体632が破断するようになっている構成であってもよい。また、エレベーターロープ素線破断検出装置6は、保持部61からバンド部63が外れること検出し、または、バンド部63が破断することを検出する検出装置をさらに備え、検出装置の検出結果がエレベーター制御盤に入力される構成であってもよい。これにより、予め設定された値を超える張力がバンド部63に作用する場合に、かご1の移動を停止させることができる。
【0030】
また、上記実施の形態1では、インナーシート611にスライド方向表示が設けられている構成について説明したが、これに限らず、例えば、インナーシート611の下端部に径方向外側へ突出する返し部が設けられる構成であってもよい。この返し部は、アウター部612よりも下方に配置され、アウター部612が下方に移動する場合に、アウター部612によってインナーシート611が下方に移動するためのものである。これにより、インナーシート611を取り付ける際の上下方向の間違えの発生を防止することができる。この返し部は、エレベーターロープ2に対するインナーシート611の移動方向についてインナーシート611における前方側の部分に配置される。
【0031】
また、上記実施の形態1では、エレベーターロープ素線破断検出装置6をエレベーターロープ2に対して下方に移動させる構成について説明したが、エレベーターロープ素線破断検出装置6をエレベーターロープ2に対して上方に移動させる構成であってもよい。この場合、インナーシート611に設けられたスライド方向表示は上下が逆となり、また、検出糸62は、湾曲部が両端部よりも下側に配置される。
【0032】
また、上記実施の形態1では、インナーシート611がクッション材である構成について説明したが、インナーシート611がエレベーターロープ2の表面にある油を吸収する材料から構成されてもよい。これにより、エレベーターロープ2の素線破断部を検出するとともに、エレベーターロープ2の清掃も行うことができる。
【0033】
また、上記実施の形態1では、素線破断部が保持部61を通る場合に検出糸62が対向面613から外れて素線破断部に付着する構成について説明したが、検出糸62が対向面613から外れるときに発生する音を検出する音検出装置と、音検出装置の検出結果に基づいて、作業者300に検出糸62が対向面613から外れたことを知らせる報知装置とをさらに備えた構成であってもよい。これにより、エレベーターロープ素線破断検出装置6が素線破断部を検出したことを作業者300により確実に知らせることができる。報知装置としては、検出糸62が対向面613から外れたことをアナウンスするスピーカー装置、検出糸62が対向面613から外れたことを表示する表示装置などが挙げられる。
【0034】
また、上記実施の形態1では、作業者300がバンド部63を把持する構成について説明したが、これに限らず、例えば、かご1の上部に設けられた手摺にバンド部63が接続される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 かご、2 エレベーターロープ、3 つり合いおもり、4 巻上機、5 そらせ車、6 エレベーターロープ素線破断検出装置、61 保持部、62 検出糸、63 バンド部、100 昇降路、200 機械室、300 作業者、611 インナーシート、612 アウター部、613 対向面、614 アウター部本体、615 ホースバンド部、616 ねじ部、617 係合バンド部、631 取付部、632 バンド部本体、633 取手部。