(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記曲率面は、前記配列方向における少なくとも一部の範囲において、前記検査対象物の前記表面形状に応じて、異なる曲率半径に設定されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波検査装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる超音波検査装置および超音波検査方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1は、実施形態にかかる超音波検査装置を検査対象物に適用した一例を示す模式図であり、
図2は、
図1に示す検査対象物の一部および超音波検査装置を図中左方向からみた模式図である。実施形態において、超音波検査装置100は、検査対象物の内部欠陥を検出するための装置である。検査対象物は、例えば、
図1および
図2に示すように、蒸気タービンまたはガスタービンにおいて、タービン翼3を保持するロータディスク2である。ロータディスク2は、
図2に示すように、周方向に沿って互いに間隔を空けて複数の溝部2aが形成されており、タービン翼3の翼根部が溝部2aに嵌め込まれる。なお、検査対象物は、ロータディスク2に限られず、超音波検査装置100を表面に配置可能なものであればよい。検査対象物は、例えば、各種プラント設備で用いられる配管等であってもよい。
【0021】
実施形態にかかる超音波検査装置100は、例えば検査対象物がロータディスク2である場合、ロータディスク2の表面2bに配置される。超音波検査装置100は、表面2bの任意の位置において、超音波ビームSをロータディスク2の内部に発信し、ロータディスク2の内部から反射した超音波ビームSを受信することで、ロータディスク2の内部をスキャンして探傷検査を実行する。また、超音波検査装置100は、
図2に示すように、ロータディスク2の表面を周方向に沿って移動可能とされており、周方向に沿った任意の位置ごとにロータディスク2内のスキャンを行う。
【0022】
実施形態において、超音波検査装置100は、フェーズドアレイ法を用いた超音波検査を行う。
図3は、フェーズドアレイ法による超音波検査の一例を示す模式図である。超音波検査装置100は、複数の探触子11を備えている。複数の探触子11は、所定の配列方向に沿って並べて配列されている。以下の説明において、配列方向を「配列方向X」と称し、配列方向と直交する探触子11の幅方向を「幅方向Y」と称し、配列方向Xおよび幅方向Yと直交する方向を「方向Z」と称する。
【0023】
各探触子11は、超音波ビームSを発信すると共に、検査対象物から反射した超音波ビームSを受信する。
図3に示すように、フェーズドアレイ法では、配列方向Xに配列された探触子11ごとに、超音波ビームSを発信および受信するタイミングを遅延させる遅延時間Tを設定する。各探触子11は、遅延時間Tにしたがったタイミングで超音波ビームSを発信させる。例えば、図中右側に配置される探触子11ほど、遅延時間Tを長く設定したとすると、各探触子11から発信された超音波ビームSが互いに干渉しあうことで、超音波ビームSの合成波は、図中右下方向へと進行し、所定の位置で集束する。そして、検査対象物に内部欠陥があった場合、内部欠陥で反射した超音波ビームSを各探触子11で受信し、遅延時間Tを考慮しつつ合成することにより、内部欠陥の位置を特定することができる。このように、フェーズドアレイ法によれば、遅延時間Tを適宜設定することで、複数の探触子11が配列される配列方向Xを含むX−Z平面において、超音波ビームSの合成波の進行方向および集束位置を調整することができる。それにより、例えば
図1に示すロータディスク2のように、複雑な表面形状を有する検査対象物においても、精度良く探傷検査を行うことができる。
【0024】
次に、実施形態にかかる超音波検査装置100の構成について、より詳細に説明する。
図4および
図5は、実施形態にかかる超音波検査装置を示す説明図である。
図4は、超音波検査装置100を、探触子11の幅方向Yに沿った方向からみた図であり、
図5は、超音波検査装置100を配列方向Xに沿った方向からみた図である。以下の説明においては、説明の簡略化のため、検査対象物を円管形状の配管5とする。
【0025】
図4および
図5に示すように、超音波検査装置100は、プローブ10と、媒質保持部20と、クサビ部材30とを備える。プローブ10は、複数の探触子11を有する。実施形態において、複数の探触子11は、プローブ10の下面(配管5側の面)に設けられ、配列方向Xに沿って並んで配列される。媒質保持部20は、プローブ10の下面側に配置され、内部に超音波ビームSを伝達可能な媒質Aを保持している。媒質Aとしては、例えば、水、超音波透過性のゲル等を用いることができる。
【0026】
クサビ部材30は、プローブ10との間で媒質保持部20を挟んで設けられ、プローブ10に固定される。それにより、複数の探触子11とクサビ部材30との間は、媒質保持部20に保持された媒質Aによって満たされる。クサビ部材30は、プローブ10とは反対側の当接面30aが、検査対象物としての配管5の表面50に沿った形状に形成されており、当接面30aにおいて配管5上に配置される。また、クサビ部材30は、補正部材31を有する。補正部材31は、媒質保持部20と当接するクサビ部材30の上面30bを形成する。上面30bは、
図4に示すように、配列方向Xに沿った方向に延在する。実施形態において、上面30bは、配管5の表面50に対して傾斜して延在する。その結果、プローブ10は、配管5の表面50に対して傾斜して設けられ、各探触子11からは、
図4において破線で模式的に示すように、表面50に対して超音波ビームSが所定の角度を成した状態で発信されることになる。
【0027】
また、実施形態において、クサビ部材30は、
図5に示すように、媒質A側の上面30bが、曲率面40として形成されている。以下の説明では、適宜、上面30bを「曲率面40」と称して説明する。曲率面40は、配管5の表面50の形状に基づいて、表面50とは反対方向に凸型を描いて形成される。
図5に示す例では、配管5の表面50がプローブ10側に向けて凸型を描く形状を呈するため、曲率面40は、表面50側に向けて凸型を描く形状を呈することになる。なお、検査対象物が例えば
図1に示すロータディスク2である場合等には、表面2bが、超音波検査装置100側とは反対側に向けて凸型を描く形状を呈する。この場合、曲率面40は、
図5に示す例とは反対側に向けて凸型を描いて形成されればよい。曲率面40は、幅方向Yに沿って、配管5の表面50の形状に応じて、異なる曲率半径R
40に設定されている。曲率半径R
40の設定手法については、後述する。
【0028】
実施形態にかかる超音波検査方法および作用を、比較例と比較しながら説明する。
図6は、比較例としての超音波装置検査での幅方向における超音波ビームの伝達を模式的に示す説明図であり、
図7は、実施形態にかかる超音波検査装置での幅方向における超音波ビームの伝達を示す模式図である。
図6に示す比較例としての超音波検査装置200は、媒質保持部20を有さず、プローブ10の下面側にクサビ部材30のみが設けられるものである。そして、超音波検査装置200では、クサビ部材30の上面30bが曲率面40として形成されておらず、探触子11の超音波ビームの発信面に沿って平坦な面として形成される。
【0029】
図6に示すように、超音波検査装置200では、探触子11から発信された超音波ビームSが、クサビ部材30を透過し、表面50から配管5内に入射する。このとき、表面50において、超音波ビームSが通る部材の材質が変化することから、超音波ビームSに屈折が生じる。フェーズドアレイ法を用いれば、X−Z平面上においては超音波ビームSの合成波の進行方向および集束位置を調整することができる。しかしながら、表面50がプローブ10側に向けて凸型を描いていることから、各超音波ビームSは、
図6の実線矢印に示すように、表面50において探触子11の中心線Lに対して幅方向Yの外側に向かって屈折することになる。このように、表面50が幅方向Yにおいて変化する場合、超音波ビームSに屈折が生じ、フェーズドアレイ法では、この屈折を調整することができない。その結果、超音波ビームSが幅方向Yにおいて所望の位置で集束させることができず、超音波検査の精度が低下する可能性がある。
【0030】
一方、超音波検査装置100では、
図7に示すように、探触子11から発信された超音波ビームSが、媒質Aを透過し、クサビ部材30の上面30bすなわち曲率面40を介してクサビ部材30の内部へと進行し、さらに、表面50から配管5内に入射する。このとき、媒質Aとクサビ部材30との境界およびクサビ部材30と配管5の表面50との境界において、超音波ビームSに屈折が生じる。比較例の超音波検査装置200と同様に、X−Z平面上では、フェーズドアレイ法によって、超音波ビームSの屈折を考慮した上で、合成波の進行方向および集束位置を調整することができる。
【0031】
そして、超音波検査装置100では、曲率面40が表面50とは反対方向に凸型を描いて形成されるため、超音波ビームSは、
図7の実線矢印で示すように、曲率面40で探触子11の中心線Lに対して幅方向Yの内側に向かって屈折することになる。すなわち、超音波検査装置100では、超音波ビームSに対して、配管5の表面50に至る前に、表面50での屈折方向とは反対方向の屈折を予め付与しておくことができる。その結果、表面50において超音波ビームSが幅方向Yの外側に向かって屈折したとしても、配管5の内部を進行する超音波ビームSが中心線L側に向かうように調整することが可能となる。したがって、超音波ビームSを幅方向Yにおいて所望の位置で集束させることができ、超音波検査の精度が向上する。
【0032】
次に、曲率面40の曲率半径R
40の設計方法の一例について、
図7から
図9を参照しながら説明する。
図8は、曲率面の設計手順の一例を示すフローチャートであり、
図9は、超音波検査装置により配管を超音波検査する際、配列方向の両端に配置される探触子から発信される超音波ビームSの伝達経路の一例を示す模式図である。以下の説明においては、配列方向Xの一端に配置される探触子11を「第1探触子111」と称し、配列方向Xの他端に配置される探触子11を「第2探触子112」と称する。実施形態では、
図8に示す手順にしたがって、第1探触子111および第2探触子112から発信された超音波ビームSが入射する位置における曲率半径R
40を設定するものとする。つまり、実施形態では、
図8に示す手順にしたがって、曲率面40のうち、複数の探触子11からの超音波ビームSの入射範囲内における両端部の曲率半径R
40を設定する。
【0033】
図8に示す手順は、例えば演算処理装置により実行される。図示するように、演算処理装置は、ステップS1として、曲率面40の曲率半径R
40の初期設定値を入力する。曲率半径R
40の初期設定値は、設計者により設定され、演算処理装置に入力される。曲率半径R
40の初期設定値は、少なくとも表面50とは反対側に向けて凸型を描く形状を呈するように、配管5の表面50の曲率半径R
50に基づいて任意の値に設定することができる。
【0034】
演算処理装置は、ステップS2として、配列方向Xにおける探触子幅D11、表面50の曲率半径R
50、媒質Aでの音速V
A、クサビ部材30での音速V
30、配管5の内部での音速V
50、透過路程W
A、透過路程W
30、透過路程W
50および目標路程W
targetの各パラメータを入力する。各パラメータは、設計者により設定され、演算処理装置に入力される。探触子幅D11、曲率半径R
50、音速V
A、音速V
30および音速V
50は、超音波検査装置100および検査対象物としての配管5に関する各種データにしたがって設定することができる。
【0035】
図9を参照しながら、透過路程W
A、透過路程W
30、透過路程W
50および目標路程W
targetについて説明する。
図9において実線矢印で示す各伝達経路は、各超音波ビームSの中心、すなわち最も音圧が高い領域における伝達経路を表している。一方、
図9において破線矢印で示す各伝達経路は、各超音波ビームSの中心から離れた端部の位置、すなわち相対的に音圧が低い領域における伝達経路を表している。
【0036】
図9に示すように、配管5に形成された溶接部52の内部を超音波検査することを想定する。このとき、第1探触子111から発信された超音波ビームSは、フェーズドアレイ法により、その中心が実線矢印で例示する伝達経路を通って、第1目標位置P
1までX−Z平面上で進行するものとする。また、第2探触子112から発信された超音波ビームSは、フェーズドアレイ法により、その中心が実線矢印で例示する伝達経路を通って、第2目標位置P
2までX−Z平面上で進行するものとする。第1目標位置P
1は、溶接部52に対応した位置で配管5の表面50側に設定される。第2目標位置P
2は、溶接部52に対応した位置で配管5の裏面(内面)51側に設定される。第1目標位置P
1の表面50からの高さ、第2目標位置P
2の裏面(内面)51の高さは、任意に設定することができる。
【0037】
透過路程W
Aは、第1探触子111、第2探触子112から発信された超音波ビームSの中心が媒質Aを透過する距離である。また、透過路程W
30は、第1探触子111、第2探触子112から発信された超音波ビームSの中心がクサビ部材30を透過する距離である。また、透過路程W
50は、第1探触子111、第2探触子112から発信された超音波ビームSの中心が配管5の内部を透過する距離である。透過路程W
A、透過路程W
30および透過路程W
50は、超音波ビームSの中心が
図9に実線で例示する伝達経路を通ってX−Z平面上で進行する距離にしたがって、設定することができる。そして、目標路程W
targetは、第1探触子111、第2探触子112から発信された超音波ビームSの中心が、配管5の内部で幅方向Yにおいて集束するまでの目標進行距離である。目標路程W
targetは、透過路程W
A、W
30、W
50の合算値として設定される。
【0038】
図8の説明に戻る。演算処理装置は、ステップS3として、曲率面40に入射する超音波ビームSの配列方向Xのビーム幅D
40を算出する。実施形態では、
図7に示すように、探触子11から発信される超音波ビームSの中心線Lに対する角度θ
1が0°であり、超音波ビームSは、探触子11から媒質A内を幅方向Yにおいて直進する。そのため、ビーム幅D
40は、探触子11の探触子幅D
11と一致する。
【0039】
演算処理装置は、ステップS4として、
図7に示す曲率面40での超音波ビームSの屈折角θ
2を算出する。屈折角θ
2は、ステップS1で設定した曲率半径R
40、ステップS2で入力した媒質Aでの音速V
A、クサビ部材30での音速V
30およびステップS3で算出された曲率面40でのビーム幅D
40に基づいて算出される。より詳細には、演算処理装置は、ビーム幅D
40と曲率半径R
40とに基づいて、超音波ビームSの端部における曲率面
40の中心線Lに対する傾斜角度θ
40を算出する。次に、演算処理装置は、超音波ビームSの端部における曲率面40への入射角θ
12inを算出する。実施形態では、入射角θ
12inは、傾斜角度θ
40と一致する。さらに、演算処理装置は、入射角θ
12in、音速V
Aおよび音速V
30に基づいて、スネルの法則により、超音波ビームSの端部における曲率面40からの出射角θ
12outを算出する。そして、演算処理装置は、傾斜角度θ
40(入射角θ
12in)および出射角θ
12outに基づいて、屈折角θ
2を算出する。
【0040】
演算処理装置は、ステップS5として、配管5の表面50に入射する超音波ビームSの幅方向Yのビーム幅D
50を算出する。ビーム幅D
50は、ステップS2で入力した透過路程W
30、ステップS3で設定したビーム幅D
40、ステップS4で算出した屈折角θ
2に基づいて算出される値を、近似値として用いることができる。
【0041】
演算処理装置は、ステップS6として、
図7に示す表面50での超音波ビームSの屈折角θ
3を算出する。屈折角θ
3は、ステップS2で入力した表面50の曲率半径R
50、クサビ部材30での音速V
30、配管5での音速V
50、ステップS4で算出された屈折角θ
2およびステップS5で算出された表面50でのビーム幅D
50に基づいて算出される。より詳細には、演算処理装置は、ビーム幅D
50と曲率半径R
50とに基づいて、超音波ビームSの端部における表面50の中心線Lに対する傾斜角度θ
50を算出する。次に、演算処理装置は、屈折角θ
2と傾斜角度θ
50とに基づいて、超音波ビームSの端部における表面50への入射角θ
23inを算出する。さらに、演算処理装置は、入射角θ
23in、音速V
Aおよび音速V
50に基づいて、スネルの法則により、超音波ビームSの端部における表面50からの出射角θ
23outを算出する。そして、演算処理装置は、傾斜角度θ
50および出射角θ
23outに基づいて、屈折角θ
3を算出する。
【0042】
演算処理装置は、ステップS7として、超音波ビームSの幅方向Yのビーム幅がゼロとなるまでの路程、すなわち超音波ビームSが幅方向Yにおいて集束するまでの集束路程W
fを算出する。より詳細には、演算処理装置は、ステップS2で入力した各パラメータおよびステップS3からステップS6で算出した各値に基づいて、
図7に示す超音波ビームSの透過路程W
A´、W
30´、W
50´を算出する。透過路程W
A´は、超音波ビームSの幅方向Yの端部において、媒質Aを透過する距離であり、実施形態では、透過路程W
Aと一致する。透過路程W
30´は、超音波ビームSの幅方向Yの端部において、クサビ部材30を透過する距離である。透過路程W
50´は、配管5の内部において超音波ビームSのビーム幅がゼロとなるまでの距離である。そして、演算処理装置は、透過路程W
A´、W
30´、W
50´を合算することで、集束路程W
fを算出する。
【0043】
演算処理装置は、ステップS8として、ステップS7で算出された集束路程W
fと、ステップS2で入力した目標路程W
targetとを比較し、集束路程W
fが目標路程W
targetに近似しているか否かを判定する。集束路程W
fが目標路程W
targetに近似しているか否かは、例えば集束路程W
fと目標路程W
targetとの差が所定値未満であるか否かによって判定することができる。
【0044】
演算処理装置は、集束路程W
fが目標路程W
targetに近似していないと判定した場合(ステップS8でNo)、ステップS9として、曲率半径R
40の再設定を行う。曲率半径R
40の再設定は、少なくとも表面50とは反対側に向けて凸型を描く形状を呈するように、曲率半径R
40をステップS1での初期設定とは異なる値に設定する。曲率半径R
40の再設定は、例えば前回の曲率半径R
40に対する変化量を予め設定しておく等の手法により、演算処理装置において自動的に最適化計算が進むようにしてもよいし、1回ごとに設計者が再設定値を決定して演算処理装置に入力してもよい。
【0045】
そして、演算処理装置は、ステップS8において、集束路程W
fが目標路程W
targetに近似したと判定されるまで、ステップS2以降の処理を繰り返し実行する。演算処理装置は、集束路程W
fが目標路程W
targetに近似していると判定した場合(ステップS8でNo)、ステップS10として、現在の曲率半径R
40を最終的な設定値として決定する。これにより、第1探触子111および第2探触子112から発信された超音波ビームSが入射する曲率面40の両端部について、曲率半径R
40が決定される。このように、曲率半径R
40は、超音波ビームSが目標路程W
targetで、つまり、第1目標位置P
1または第2目標位置P
2で、幅方向Yにおいて集束するように設定される。なお、「超音波ビームSが第1目標位置P
1または第2目標位置P
2で、幅方向Yにおいて集束するように設定される」とは、集束路程W
fと目標路程W
targetとが一致する場合のみでなく、例えば集束路程W
fと目標路程W
targetとの差が所定値未満であるといったように、集束路程W
fが目標路程W
targetに近似することを含むものである。
【0046】
曲率面40の他の範囲における曲率半径R
40は、両端部の曲率半径R
40の値に基づいて、種々の手法により設定されればよい。例えば、他の範囲における曲率半径R
40を両端部の曲率半径R
40の値に基づいて周知の補完法を用いて算出してもよい。また、他の範囲における曲率半径R
40を所定範囲において両端部の曲率半径R
40と同一の値としてもよい。さらに、
図8に示す手順にしたがって、各探触子11から発信された超音波ビームSが入射する位置のすべてについて、曲率面40の曲率半径R
40を設定し、設定した複数の曲率半径R
40の間の範囲を、上述した補間法等を用いて算出または設定してもよい。
【0047】
以上説明したように、実施形態にかかる超音波検査装置100および超音波検査方法では、複数の探触子11が配列された配列方向Xと直交する幅方向Yにおいて、曲率面40を通った超音波ビームSに、検査対象物(ロータディスク2、配管5)の表面において屈折する方向と反対方向の屈折を予め付与することができる。その結果、検査対象物の表面形状が幅方向Yにおいて変化する場合にも、超音波ビームSを検査対象物に対して所望の方向に入射させ、幅方向Yにおいて所望の位置で集束させることが可能となる。したがって、フェーズドアレイ法を用いて検査対象物をスキャンする超音波検査の精度の向上を図ることができる。
【0048】
また、検査対象物の表面に配置されるクサビ部材30と、複数の探触子11とクサビ部材30との間で超音波ビームSを伝達させる媒質Aとをさらに備え、曲率面40は、クサビ部材30の媒質A側の面に形成される。
【0049】
この構成により、媒質Aと検査対象物との間に配置されるクサビ部材30の一面(上面30b)を用いて、曲率面40を容易に形成することができる。なお、探触子11の超音波ビームSを発信する発信面そのものを曲率面40としてもよい。ただし、探触子11の製造容易性が低下する可能性があり、また、比較的に高価な探触子11を検査条件に応じて複数用意することが必要となる。実施形態の構成によれば、検査対象物の種類等、検査条件に応じて、比較的に容易かつ安価に製造可能なクサビ部材30の上面30bを形成する部分(補正部材31)を予め用意しておくだけで、種々の検査条件に対応することが可能となる。
【0050】
また、曲率面40は、配列方向Xにおける少なくとも一部の範囲において、検査対象物の表面形状に応じて、異なる曲率半径R
40に設定される。
【0051】
この構成により、超音波ビームSに、検査対象物の表面形状に応じた屈折を予め付与することができるため、超音波検査の精度をさらに向上させることができる。
【0052】
また、曲率面40は、配列方向Xにおける少なくとも一部の範囲において、超音波ビームSが目標位置で幅方向Yにおいて集束するように、曲率半径R
40が設定され、目標位置は、フェーズドアレイ法によって幅方向Yと直交するX−Z平面上で超音波ビームSの中心が進行する伝達経路上に、予め設定される。
【0053】
この構成により、幅方向Yと直交するX−Z平面上において、ビーム中心が目標位置に向かう超音波ビームSを、幅方向Yにおいて目標位置で集束させることができる。すなわち、超音波ビームSを、ビーム端部(
図7の破線矢印参照)の位置ではなく、最も音圧が高い中心(
図7の実線矢印参照)領域で、幅方向Yにおいて集束させることができる。それにより、超音波検査の精度をさらに高めることができる。
【0054】
また、目標位置は、検査対象物の内部において表面側に予め設定される第1目標位置P
1と、検査対象物の内部において裏面側に設定される第2目標位置P
2とを含み、第1目標位置P
1は、配列方向Xの一端に配置された第1探触子111から発信された超音波ビームSの伝達経路上に設定され、第2目標位置P
2は、配列方向Xの他端に配置された第2探触子112から発信された超音波ビームSの伝達経路上に設定される。
【0055】
この構成により、ビーム中心が、検査対象物の表面側に設定される第1目標位置P
1と裏面側に設定される第2目標位置P
2とに向かう超音波ビームSの双方を、幅方向Yにおいて目標位置で集束させることができる。それにより、検査対象物の表面側および裏面側の双方で、超音波ビームSを最も音圧が高い中心領域で、幅方向Yにおいて集束させることができる。そのため、検査対象物の厚みが大きい場合にも、超音波検査の精度を向上させることが可能となる。
【0056】
なお、実施形態では、曲率面40の曲率半径R
40を配列方向Xの少なくとも一部の範囲で異なるものとしたが、曲率面40は、超音波ビームSに、検査対象物の表面において屈折する方向と反対方向の屈折を予め付与することさえできれば、一定の曲率半径R
40とされてもよい。
【0057】
また、実施形態では、
図8に示す手順にしたがって、曲率面40のうち超音波ビームSの入射範囲内における両端部の曲率半径R
40を設定するものとしたが、
図8に示す手順により曲率半径R
40を設定する位置は、これに限られない。つまり、目標位置を、第1目標位置P
1および第2目標位置P
2以外の位置に設定してもよく、目標位置に向かう超音波ビームSを発信する探触子11を、第1探触子111および第2探触子112以外の探触子11としてもよい。
【0058】
また、実施形態では、検査対象物としての配管5の内部において超音波ビームSの屈折が生じない例を説明したが、実施形態の構成は、配管5の内部において超音波ビームSの屈折が生じる場合にも適用することができる。つまり、
図8に示す手順において、ステップS6で屈折角θ
3を算出した後、配管5の内部で屈折が生じる位置における超音波ビームSのビーム幅を算出し、さらに同位置における超音波ビームSの屈折角を算出し、これらの値を考慮した上でステップS7の集束路程W
fを算出すればよい。
【0059】
また、実施形態では、クサビ部材30の上面30bを曲率面40としたが、曲率面40は、クサビ部材30の上面30bとは異なる位置に形成されてもよいし、クサビ部材30とは異なる部材を別に設けることで形成されてもよい。