(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、日常の社会生活の多くの場面において、人々は強い精神的ストレスや不安にさらされている。これら精神的ストレスや不安の蓄積により、うつ病や自律神経失調症、不安障害などを発症する者が増加している。日常業務や資格試験、入学試験など個人の成果が求められる場面において、これらのストレス負荷による精神的疲労を緩和し、良好な対人関係やコミュニケーションを維持することは現代社会が直面する大きな課題である。
【0003】
これまで、精神的疲労を緩和するために、精神安定剤、抗不安剤、睡眠薬などの化学合成薬剤が使用されているが、重篤な副作用や習慣性の面から、日常的又は長期的な使用に適さない場合があるという問題があった。
また、上記のような化学合成薬剤には、アンフェタミン関連化合物等を含む薬剤や、モルヒネ等を含む麻酔性鎮痛剤等のように、法規制により医療用途以外には使用が制限されているものや、スポーツ界においてドーピング剤として使用が制限されているものもある。
【0004】
一方、精神的ストレスの対処方法として、メンタルトレーニングやマインドコントロールなどの対処法が試みられているが、習得するには膨大な時間と資金が必要となる。
【0005】
近年、腸内環境が腸から脳へのシグナル伝達に関与することが明らかにされつつあり、プロバイオティクスによる、腸を起点とするストレス制御について、例えば以下の報告がなされている。
特許文献1には、ラクトバチルス・ガセリCP2305の殺菌体が、ストレス性腸障害を抑制する効果を有することが開示されている。また、特許文献2には、ラクトバチルス・ガセリCP2305の菌体を有効成分とする迷走神経活性化剤が開示されている。
さらに、非特許文献1には、ラクトバチルス・ジョンソニイLa1をラットに投与すると、副交感神経の活動を亢進することが開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、ラクトバチルス・ガセリOLL2809を有効成分として含むストレス軽減剤が、気分プロフィール検査(POMS)において、「緊張‐不安」を軽減し、また、α‐ラクトアルブミン(α‐LA)との併用により、「疲労‐無気力」を併せて軽減することが開示されている。
非特許文献2には、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT10347を有効成分として含む乳酸菌飲料が、気分プロフィール検査(POMS)において、「怒り‐敵意」を有意に改善し、また、「活気」を高値の傾向に維持することが開示されている。
また、非特許文献3では、ラクトバチルス・ブレビスmh4219を含む乳酸菌発酵茶飲料が、気分プロフィール検査(POMS短縮版)において、計算ストレス負荷後の「活気」の低下を抑制することが開示されている。
【0007】
このように、プロバイオティクスの菌体又は発酵産物を摂取することによる心理状態の改善作用は既に報告されているが、プロバイオティクスは菌種ごとに異なった生理作用を示すことが知られている。
【0008】
ところで、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849は、高いIL−12産生促進作用と免疫賦活作用(特許文献4)、濾胞性T細胞増加作用(特許文献5)などの有用な作用を奏することが報告されている。しかし、該細菌が、精神的ストレスにさらされている対象の気分プロフィールを改善する作用を有することは知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の気分プロフィール改善剤は、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を含む。
本発明における「気分プロフィール」は、対象が置かれた条件によって変化する気分の状態をいい、好ましくは、心理検査によって客観的に判定され得るものであることが好ましい。「対象」は、気分プロフィールの改善を必要としているヒトであり、例えば、精神的ストレスや心理的ストレス、生理的ストレスにさらされているヒトが挙げられる。気分プロフィールの改善を必要としているか否かは、対象自身の主観であってもよく、医師などにより客観的に判断されてもよい。
【0014】
ストレスの原因としては、精神的な緊張状態、精神的な苦痛、長時間労働、知的労働、反復的作業、受験や進学、環境の変化、寒冷、騒音、放射線、怪我、病気、妊娠・出産、月経前や更年期の精神的不安やイライラ感、睡眠不足、飢餓状態、加齢、人間関係のトラブル、興奮、不安、恐怖、怒り、悲しみ、喜びなどによる心理的な刺激などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、ストレスと感じるものをすべて含む。
【0015】
前記心理検査としては、例えば、POMS(Profile of Mood States)やPOMS2(Profile of Mood States 2nd Edition)、State-Trait Anxiety Inventory(STAI)、Depression and Anxiety Mood Scale(DAMS)、Positive Mood Scale(PMS)等が挙げられる。POM
Sは、マルチ−ヘルス システムズ インコーポレイテッド(Multi-Health Systems Inc.)の
登録商標であ
り、POMS2は同社の未登録商標である。尚、心理検査には、成人用や青少年用のように対象となる母集団により検査方法が異なるものや、全項目版や短縮版のように検査時の質問項目数が異なるものがあるが、対象の状況に応じて検査方法や質問項目数を適宜選択すればよい。
【0016】
具体的には、例えば、POMSでは、「怒り‐敵意(Anger-Hostility; AH)」、「混乱(Confusion; C)」、「抑うつ‐落込み(Depression-Dejection; D)」、「疲労(Fatigue; F)」、「緊張‐不安(Tension-Anxiety; TA)」、「活気(Vigor; V)」、及び「総合的気分状態(Total Mood Disturbance; TMD)」の因子が測定される。
POMS2では、「怒り‐敵意(Anger-Hostility; AH)」、「混乱‐当惑(Confusion-Bewilderment; CB)」、「抑うつ‐落込み(Depression-Dejection; DD)」、「疲労‐無気力(Fatigue-Inertia; FI)」、「緊張‐不安(Tension-Anxiety; TA)」、「活気‐活力(Vigor-Activity; VA)」、「友好(Friendliness; F)」、及び「総合的気分状態(Total Mood Disturbance; TMD)」の因子が測定される。
STAIでは、「状態不安(刻々と変化する不安状態)」、及び「特性不安(不安になりやすい性格傾向)」の因子が測定される。
DAMSでは、「肯定的気分」、「抑うつ気分」、及び「不安気分」の因子が測定される。
PMSでは、「リラックス気分」、「親和気分」、「快気分」、及び「集中気分」の因子が測定される。
【0017】
POMS2としては、「POMS2 成人用全項目版(Profile of Mood States 2nd Edition-Adult; POMS 2-A)」や「POMS2 成人用短縮版(Profile of Mood States 2nd Edition-Adult Short; POMS 2-A短縮版)」(原著:Heuchert, J. P. et al.。日本語版:横山和仁監訳、金子書房、2015年)が挙げられる。
【0018】
「POMS2 成人用全項目版」及び「POMS2 成人用短縮版」を用いた気分プロフィール検査は、質問用紙を用いて調査時点での気分状態を客観的に測定する検査の一つであり、精神障害(うつ病、不安障害など)の治療経過、病院や職場でのメンタルヘルスの集団スクリーニング、運動効果やリラクゼーション効果の測定を目的に、医療や職場、教育、スポーツ指導など様々な分野で国際的に用いられている検査である。
【0019】
「POMS2 成人用全項目版」では、被験者が、項目数65から成る質問に回答し、また、「POMS2 成人用短縮版」では、被験者が、項目数35から成る質問に回答し、前記の因子(または尺度ともいう。)の得点として表される。尚、「総合的気分状態(Total Mood Disturbance; TMD)」とは、気分障害、情動的又は心理的な苦痛、及び主観的幸福感の全般的な指標として算出されるものである。各因子の定義は、POMS2のマニュアルなどに記載されている通りである。
本発明における気分プロフィールは、「活気‐活力(Vigor-Activity; VA)」、「友好(Friendliness; F)」、又はこれらの両方であることが好ましい。
【0020】
「活気-活力」とは、いきいきとして活動的な気分、やる気に満ちた前向きな気分状態のことを表す。「友好」とは、他人に対して信頼感や思いやりのある前向きな気分状態のことを表す。
【0021】
本発明に用いられるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌としては、摂取した対象の気分プロフィールを改善する作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849(NITE BP−01633)が挙げられる。同細菌は、2013年6月6日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託され、NITE P−01633の受託番号で寄託され、2014年1月31日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、NITE BP−01633の受託番号が付与されている。
【0022】
本発明に用いられるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌は、例えば、同細菌を培養することにより容易に取得することができる。培養する方法は、前記細菌が増殖できる限り特に限定されず、乳酸菌の培養に通常用いられる方法を必要により適宜修正して用いることができる。例えば、培養温度は25〜50℃でよく、35〜42℃であることが好ましい。また培養は好気条件下、及び嫌気条件下のいずれで行ってもよいが、嫌気条件下で行うことが好ましく、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら培養することができる。また、液体静置培養等の微好気条件下で培養してもよい。
【0023】
ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を培養する培地は特に限定されず、乳酸菌の培養に通常用いられる培地を必要により適宜修正して用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて使用できる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類や硝酸塩類を使用できる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、調製済みの培地としては、例えばMRS培地を好適に用いることができる。
【0024】
ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌は、培養後、得られた培養物をそのまま用いてもよく、希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、培養後に加熱、及び凍結乾燥等の種々の追加操作を行うことができる。尚、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌は、生菌であっても死菌であってもよいが、死菌であることが好ましく、死菌としては、加熱等により殺菌された死菌が挙げられる。死菌は、破砕物であってもよい。
【0025】
上記のようなラクトバチルス・パラカゼイは、気分プロフィール改善剤の有効成分として用いることができる。気分プロフィールの「改善」とは、気分プロフィールを好ましい状態にすることをいい、例えば、「総合的気分状態」、「怒り‐敵意」、「混乱‐当惑」、「抑うつ‐落込み」、「疲労‐無気力」、及び「緊張‐不安」では、これらの因子が低下することを、「活気‐活力」及び「友好」では、これらの因子が上昇することをいう。
本発明の気分プロフィール改善剤は、医薬、又は飲食品として利用できる。例えば、気分プロフィール改善用医薬、及び、気分プロフィール改善用飲食品を提供することができる。
【0026】
本発明の気分プロフィール改善用医薬は、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を含有する限り特に制限されない。本発明の気分プロフィール改善用医薬としては、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌をそのまま使用してもよく、生理的に許容される液体又は固体の製剤担体を配合し製剤化して使用してもよい。
【0027】
本発明の気分プロフィール改善用医薬の剤形は特に制限されず、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、点眼剤、及び点鼻剤等を例示できる。また、製剤化にあたっては、製剤担体として通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、又は注射剤用溶剤等の添加剤を使用することができる。
【0028】
本発明の気分プロフィール改善用医薬におけるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌の含有量は、剤形、用法、対象の年齢、性別、疾患の種類、疾患の程度、及びその他の条件等により適宜設定されるが、通常、1×10
4〜1×10
13cfu/gまたは1×10
4〜1×10
13cfu/mlの範囲内であることが好ましく、1×10
7〜1×10
11cfu/gまたは1×10
7〜1×10
11cfu/mlの範囲内であることがより好ましい。「cfu」は、colony forming unit(コロニー形成単位)を表す。ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌が死菌の場合、cfu/gまたはcfu/mlは、個細胞/gまたは個細胞/mlと置き換えることができる。
【0029】
また、本発明の効果を損なわない限り、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を含有する気分プロフィール改善用医薬と、他の医薬、例えば、他の気分プロフィール改善用医薬、抗精神病剤、抗うつ剤、抗不安剤、気分安定剤、精神刺激剤、睡眠剤等を併用してもよい。
【0030】
本発明の気分プロフィール改善用医薬の投与時期は特に限定されず、対象となる疾患の治療方法に従って、適宜投与時期を選択することが可能である。また、予防的に投与してもよく、維持療法に用いてもよい。また、投与形態は製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定されることが好ましい。なお、本発明の気分プロフィール改善用医薬は、いずれの場合も1日1回又は複数回に分けて投与することができ、また、数日又は数週間に1回の投与としてもよい。
【0031】
本発明の気分プロフィール改善用医薬は、気分プロフィール改善作用を有しており、気分プロフィールが改善されることによって緩和、予防又は治療され得る疾患の緩和、予防又は治療に使用することができる。
【0032】
本発明の気分プロフィール改善用医薬の適用として具体的には、例えば、アルコール依存症、うつ病、解離性障害、強迫性障害、睡眠障害、摂食障害、自律神経失調症、気分障害、双極性障害(躁うつ病)、適応障害、社会不安障害(SAD)、恐怖神経症、対人恐怖症、広場恐怖症、情緒障害、チック障害、統合失調症、認知症、パーソナリティー障害、発達障害、パニック障害、不安障害、心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder; PTSD)、機能性消化管障害、過敏性腸症候群、ストレス性胃腸炎、ストレス性の下痢・腹痛、食欲不振、倦怠感、記憶障害、自閉症、薬物依存症、性同一性障害、てんかん等の緩和、予防又は治療が挙げられる。
【0033】
本発明の気分プロフィール改善用医薬は、単独で投与してもよいし、他の医薬、例えば、他の気分プロフィール改善用医薬、抗精神病剤、抗うつ剤、抗不安剤、幻覚剤、気分安定剤、精神刺激剤、睡眠剤等と併用してもよい。
【0034】
本発明の他の態様は、気分プロフィール改善剤の製造における、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌の使用である。また、本発明の他の態様は、気分プロフィール改善用に用いられるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌である。
また、本発明の他の形態は、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌、又は本発明の気分プロフィール改善剤を適用対象に投与する段階を含む、気分プロフィールを改善する方法である。また、本発明の他の態様は、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌、又は本発明の気分プロフィール改善剤を適用対象に投与する段階を含む、気分プロフィール改善によって緩和、予防又は治療され得る疾患の緩和、予防又は治療方法である。
【0035】
本発明の気分プロフィール改善用飲食品組成物は、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を含有する限り特に制限されない。飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食等のほか、例えば、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、グミ、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品);栄養補助食品等が挙げられる。
また、飲食品は、サプリメントであってもよく、例えばタブレット状のサプリメントであってもよい。サプリメントである場合には、一日当りの食事量及び摂取カロリーについて他の食品に影響されることなく、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を摂取できる。
【0036】
本発明の気分プロフィール改善用飲食品組成物は、飲食品の原料にラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を添加することにより製造することができ、ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を添加すること以外は、通常の飲食品と同様にして製造することができる。ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌の添加は、飲食品の製造工程のいずれの段階で行ってもよい。また、添加したラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌による発酵工程を経て、飲食品が製造されてもよい。そのような飲食品としては、乳酸菌飲料、及び発酵乳等が挙げられる。
飲食品の原料としては、通常の飲料や食品に用いられている原料を使用することができる。製造された飲食品は、経口的に摂取することが可能である。
【0037】
本発明の気分プロフィール改善用飲食品には、飲食品製造のための原料、及び食品添加物等、飲食品の製造工程又は製造後に飲食品に添加されるものも含まれる。例えば、本発明におけるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌は、発酵乳製造用スターターとして使用することができる。また、本発明におけるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌を、製造された発酵乳に後から添加することもできる。
【0038】
本発明の気分プロフィール改善用飲食品におけるラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌の含有量は、飲食品の態様によって適宜設定されるが、通常、飲食品中に、1×10
4〜1×10
13cfu/gまたは1×10
4〜1×10
13cfu/mlの範囲内であることが好ましく、1×10
7〜1×10
11cfu/gまたは1×10
7〜1×10
11cfu/mlの範囲内であることがより好ましい。ラクトバチルス・パラカゼイに属する細菌が死菌の場合、cfu/gまたはcfu/mlは、個細胞/gまたは個細胞/mlと置き換えることができる。
【0039】
本発明の気分プロフィール改善用飲食品は、気分プロフィール改善用との用途が表示された飲食品として販売することができる。また、本発明の飲食品には、「気分プロフィール改善用」等の表示をすることができる。また、これ以外でも、気分プロフィール改善によって二次的に生じる効果を表す文言であれば、使用できることはいうまでもない。
【0040】
前記「表示」とは、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為を意味し、上記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物及び媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。
具体的には、本発明の気分プロフィール改善用飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為、商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が例示でき、特に包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等への表示が好ましい。
【0041】
また、表示としては、行政等によって許可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましい。例えば、保健機能食品など、より具体的には保健機能食品、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができ、その他消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を例示することができる。さらに詳細には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)、及びこれに類する表示等を例示することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕試験試料の製造
ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849(NITE BP−01633)の培養液を加熱殺菌し、濃縮、乾燥させた。この菌体乾燥物をマルトデキストリンと混合し、100億個細胞/gの菌末を得た。この菌末を1包2gのスティックフィルム袋に小分けし、試験試料とした。
一方、スティックフィルム袋にマルトデキストリンのみ2gを充填したプラセボ粉末を製造した。これを対照試料とした。
試験試料と対照試料とは、外観、色、味から見分けがつかないことを確認した。
【0044】
〔実施例2〕ラクトバチルス・パラカゼイ菌体摂取による気分プロフィールの改善
<1>被験者
九州女子大学に所属する18歳以上の健常者を被験者として臨床試験に登録した。さらに、以下の除外基準に抵触しない者を解析対象とした。
1)重篤な肝障害、腎疾患、心血管障害、消化器疾患、呼吸器疾患、血液系疾患、内分泌疾患、自己免疫疾患に罹患している者、又は重篤な既往歴のある者
2)薬物、医薬品、食物の重篤なアレルギーのある者
3)試験試料以外の食品、サプリメントから多量の乳酸菌、ビフィズス菌を継続的に摂取している者
4)研究に影響する可能性のある医薬品を常用している者
5)その他、被験者背景、身体所見などから試験責任医師または試験担当者が不適合と判断した者
【0045】
本臨床試験の実施に際しては、事前に被験者全員に試験の主旨を十分に説明したうえで、本人の自由意思で書面による参加の同意を得た。また、被験者が20歳未満である場合は、本人の同意とともに保護者によるオプトアウトの機会を設けた。本試験はヘルシンキ宣言を遵守し、九州女子大学倫理委員会の承認を得たうえで、被験者の安全を第一に考慮して実施した。
【0046】
<2>試験方法
ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を行った。2週間の前観察期間の後、対照試料を摂取する群(以下「対照群」と称することがある。)と、試験試料を摂取する群(以下「試験群」と称することがある。)に割付けた。
両群の被験者らは、大学における学力試験時期の6週間〜12週間前に、それぞれ試験試料又は対照試料を1日1回、1包を水などと一緒に毎朝、12週間にわたり摂取した。すなわち、試験群の1日あたりの摂取量は、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849(NITE BP−01633)の殺菌菌末として200億個とした。
摂取前、摂取後6週目、及び摂取後12週目において、一時的な気分状態を評価するため、気分プロフィール検査である「POMS 2 成人用短縮版」による検査を実施し、これらの合計得点をその日本語マニュアルに従ってT得点スコアに変換した。同検査は、九州女子大学(家政学部栄養学科)内で行った。
【0047】
<3>統計解析
盲検結果のレビューはキーオープン前に実施し、事前に定めた解析対象基準を満たさなかった者(すなわち、試験試料の摂取率が50%未満の者、併用禁止治療を受けた者、禁止医薬品・食品を摂取した者)およびランダム化後のデータがない者を除いて解析した。
【0048】
<4>結果
解析対象者の背景因子を表1に示す。両群の年齢に有意差は認められなかった。
【0049】
【表1】
【0050】
「POMS 2 成人用短縮版」による検査の結果を表2に示す。「活気‐活力(VA)」については、6週目および12週目において対照群で数値が大きく低下したのに対し、試験群では6週目で有意に高値を維持し、12週目でも高値を維持した。
「友好(F)」については、6週目および12週目において対照群で数値が大きく低下したのに対し、試験群では6週目及び12週目で有意に高値を維持した。
これらの結果から、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1849(NITE BP−01633)が、「活気‐活力(VA)」及び「友好(F)」の気分プロフィールを改善するのに有効であることが示された。
【0051】
【表2】