特許第6815418号(P6815418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815418
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】グラフトコポリマーおよびその組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20210107BHJP
   C09D 151/06 20060101ALI20210107BHJP
   C08F 290/04 20060101ALN20210107BHJP
【FI】
   C08F265/06
   C09D151/06
   !C08F290/04
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-560060(P2018-560060)
(86)(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公表番号】特表2019-521206(P2019-521206A)
(43)【公表日】2019年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2017059856
(87)【国際公開番号】WO2017198428
(87)【国際公開日】20171123
【審査請求日】2019年10月9日
(31)【優先権主張番号】16170060.4
(32)【優先日】2016年5月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】パティル・プレラナ・マルチ
(72)【発明者】
【氏名】グラーム・スミタ・アミット
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニ・ケタン・スニル
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−143763(JP,A)
【文献】 特開2011−225657(JP,A)
【文献】 特表2005−508412(JP,A)
【文献】 特開2001−279112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/00〜265/10
C09D 1/00〜201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)メタクリル酸またはアクリル酸と1〜3個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルコールとのエステルからなる群から選択される少なくとも95質量%の第1のモノエチレン性不飽和モノマーおよび5モルパーセント以下の付加開裂連鎖移動剤を重合した形態で含むマクロモノマー;および
b)少なくとも95質量%のアクリル酸を重合した形態で含む、マクロモノマー上の少なくとも1個の側鎖
を含むグラフトコポリマー。
【請求項2】
グラフトコポリマーの数平均分子量が、移動相としてクロロホルムを使用するゲル浸透クロマトグラフィーで測定して5,000グラム/モル〜35,000グラム/モルの範囲である、請求項1に記載のグラフトコポリマー。
【請求項3】
マクロモノマーa)を構成するモノマーのモル数と側鎖b)を構成するモノマーのモル数とのモル比が70:30〜30:70の範囲である、請求項1または2に記載のグラフトコポリマー。
【請求項4】
グラフトコポリマーが10℃/分の速度で加熱する示差走査熱量測定で測定して第1のガラス転移温度(Tg)および第2のTgを有し、第1のTgが70℃〜105℃の範囲であり、第2のTgが90℃〜110℃の範囲である、請求項1〜3のいずれか一つに記載のグラフトコポリマー。
【請求項5】
第1のモノエチレン性不飽和モノマーがメタクリル酸メチルである、請求項1〜4のいずれか一つに記載のグラフトコポリマー。
【請求項6】
メタクリル酸メチルとアクリル酸とのモル比が60:40〜40:60である、請求項5に記載のグラフトコポリマー。
【請求項7】
付加開裂連鎖移動剤がアルファ−メチルスチレン、フェニル−置換アルファ−メチルスチレン、アルファ−置換アクリル酸メチル、アルファ−置換ベンジルオキシスチレン、塩化アリル、アリルエーテルおよび過酸化アリルの二量体、三量体もしくは四量体からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一つに記載のグラフトコポリマー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載のグラフトコポリマーを含む水性組成物。
【請求項9】
グラフトコポリマーが0.1〜5質量%の量で存在する、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項10】
グラフトコポリマーが0.25〜3.5質量%の量で存在する、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項11】
塗料または塗膜の塵拾い上げ抵抗性(dirt pick−up resistance)を改良するための、請求項1〜7のいずれか一つに記載のグラフトポリマーの使用。
【請求項12】
a)メタクリル酸またはアクリル酸と1〜3個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルコールとのエステルからなる群から選択される少なくとも95質量%の第1のモノエチレン性不飽和モノマーを、形成されるポリマーが5モルパーセントより多くの付加開裂連鎖移動剤を含有しないような量の付加開裂連鎖移動剤の存在下、50℃〜100℃の範囲の温度の水性混合物中で重合させて第1の水性エマルション中のマクロモノマーを形成すること;および
b)第1の水性エマルション中のマクロモノマーを、少なくとも95質量%のアクリル酸を含む少なくとも1個の側鎖をマクロモノマー上に有するグラフトコポリマーを第2の水性エマルション中に形成する量のアクリル酸と共に重合させること
を含む、グラフトコポリマーを作製する方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一つに記載のグラフトコポリマーを含む塗料または塗装製剤。
【請求項14】
水をベースとする塗料または塗装製剤である、請求項13に記載の塗料または塗装製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフトコポリマーおよびそのグラフトコポリマーを含有する組成物に関する。本発明はまた、グラフトコポリマーおよびその組成物の塗料または塗装製剤の添加剤としての応用にも関する。
【背景技術】
【0002】
外装塗膜は大気に曝露されるとごみまたはほこりの粒子を拾い上げる傾向があり、これは時間と共に軽微な変色および塗膜の劣化を引き起こす。また、高温多湿条件下では塗膜の塵拾い上げ抵抗性(dirt pick−up resistance)がさらに小さくなることも観察されている。塗膜の塵拾い上げ抵抗性は、ガラス転移温度(Tg)を上げることにより、より硬い上塗りを設けることによって高めることができる。しかし、Tgの上昇は塗膜の柔軟性を低下させる結果となり、亀裂の発生を招く。また、これは、通例高い揮発性有機化合物(VOC)含量を有する凝集溶剤(coalescing solvent)の使用を必要とし得る。これは、環境上の懸念および政府規制により求められている低またはゼロのVOCを有する塗装製剤に対する業界の必要条件と正反対であろう。
【0003】
カナダ国特許出願公開第2144381号(特許文献1)は、モノマー成分としてN−メチロール(メタ)アクリルアミド、ならびにアクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、スチレン、酢酸ビニルおよび/またはビニルエステルの1種または複数を含むポリマー組成物の使用を開示している。このポリマーは−20℃〜40℃のTgを有しており、塵拾い上げ抵抗性(dirt pickup resistance)を塗装組成物に付与する。
【0004】
Rohm and Haasに譲渡されている米国特許第6303186号(特許文献2)および米国特許第6303188号(特許文献3)は、約−35℃〜約+25℃のガラス転移温度を有する水性の乳化重合したポリマー性バインダーを含有する合体剤(coalescent)を含まない水性の塗装組成物を記載している。このバインダーは、好ましくはアセトアセテート官能性を有する少なくとも1種の共重合したエチレン性不飽和の活性メチレンモノマーを含有する。
【0005】
米国特許出願公開第20150275025号(特許文献4)は、粘度調整剤(viscosity controlling agent)として使用されるグラフトコポリマーを開示している。このグラフトコポリマーは、C〜C24アルキル含有不飽和モノマーを含有するモノマー成分を、親水性の基を含有する不飽和モノマーと共に重合させることにより得られた骨格を含む。
【0006】
米国特許出願公開第20050159555号(特許文献5)は、マクロモノマーとモノマーの共重合により形成されたグラフトコポリマーを開示しており、ここで、マクロモノマーはエステルモノマーと、酸性の基を有し、100〜300の酸価を有する付加重合可能なモノマーとのポリマーであり、モノマーは付加重合可能なモノマーである。マクロモノマーはグラフトコポリマーの骨格上にグラフト結合している。
【0007】
米国特許出願公開第20020151648号(特許文献6)は、骨格および少なくとも1個のグラフトセグメントを含むくし形コポリマーを開示しており、ここで重合した単位としてのグラフトセグメントは前記マクロモノマーの総重量に基づいて5重量パーセント未満の酸含有モノマーを含有する。くし形コポリマーは少なくとも25%のハード/ソフトバランスアドバンテージ(Hard/Soft Balance Advantage)値を有する。
【0008】
米国特許第6599973号(特許文献7)は、疎水性の骨格上に混合した陰イオン性および非イオン性の側鎖を有する新規なグラフトコポリマーを開示している。
【0009】
米国特許第6258887号(特許文献8)は、共重合したイオン性のモノマーを含有する第1のポリマーおよび異なる組成の架橋した第2のポリマーを含む多段エマルションポリマーを含む塵拾い上げ抵抗性の塗膜を開示している。
【0010】
米国特許第6107392号(特許文献9)は、グラフトコポリマーを含む自動車の外装を仕上げるための組成物を記載している。このグラフトコポリマーの側鎖はグラフトコポリマーの骨格と比較して疎水性である。
【0011】
米国特許第5231131号(特許文献10)は、コバルト錯体を用いる触媒連鎖移動重合により調製される疎水性の骨格およびこの骨格に結合した親水性の側鎖を有するグラフトコポリマーを記載している。完成した製品中のコバルトの存在は、製品に付与される傾向がある典型的な色のため、ならびにコバルトのような重金属の使用に関連する健康および環境に関する見地から、望ましくない。
【0012】
Kansai paint Co. Ltd.に譲渡されている米国特許第4329266号(特許文献11)は、アクリルグラフトポリマーを含む水に分散した塗装組成物を記載している。このアクリルグラフトポリマーは親水性の有機溶媒の存在下でアクリルポリマーとモノマー混合物との反応によって生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】カナダ国特許出願公開第2144381号
【特許文献2】米国特許第6303186号
【特許文献3】米国特許第6303188号
【特許文献4】米国特許出願公開第20150275025号
【特許文献5】米国特許出願公開第20050159555号
【特許文献6】米国特許出願公開第20020151648号
【特許文献7】米国特許第6599973号
【特許文献8】米国特許第6258887号
【特許文献9】米国特許第6107392号
【特許文献10】米国特許第5231131号
【特許文献11】米国特許第4329266号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Jaffe, E. E. 2004. Pigments, Organic. Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
高まった塵拾い上げ抵抗性を提供すると同時に適切なエラストマー特性を達成するコーティングに対するニーズが継続して存在する。さらに、かかる解決策が最小またはゼロのVOCを有する製剤に対する業界の必要条件を満たすのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
グラフトベースとしての(メタ)アクリル酸エステルのマクロモノマー、およびグラフトセグメントとしての本質的または排他的なアクリル酸ポリマー側鎖から作製されたグラフトコポリマーが上記課題を解決することが判明した。
【0017】
本発明の第1の実施形態において、
a)メタクリル酸およびアクリル酸と1〜3個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルコールとのエステルからなる群から選択される第1のモノエチレン性不飽和モノマーおよび5モル%以下の付加開裂連鎖移動剤を重合した形態で含むマクロモノマー;および
b)少なくとも95wt%(質量%)のアクリル酸を重合した形態で含む、マクロモノマー上の少なくとも1個の側鎖
を含むグラフトコポリマーが提供される。
【0018】
本発明の第2の実施形態において、第1の局面のグラフトコポリマーを含む、塗料および塗装製剤のための添加剤が提供される。
【0019】
本発明の第3の実施形態において、
a)メタクリル酸およびアクリル酸と1〜3個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルコールとのエステルからなる群から選択される第1のモノエチレン性不飽和モノマーを、形成されるポリマーが5モル%より多くの付加開裂連鎖移動剤を含有しないような量の付加開裂連鎖移動剤の存在下、50℃〜100℃の範囲の温度の水性混合物中で重合させて、第1の水性エマルション中のマクロモノマーを形成すること;および
b)第1の水性エマルション中のマクロモノマーを、少なくとも95wt%のアクリル酸を含む少なくとも1個の側鎖をマクロモノマー上に有するグラフトコポリマーを第2の水性エマルション中に形成する量のアクリル酸と共に重合させること
を含む、グラフトコポリマーを作製する方法が提供される。
【0020】
本発明の第4の実施形態において、塗料または塗膜の塵拾い上げ抵抗性を改良するための、第1の局面のグラフトコポリマーの使用を提供する。
【0021】
本発明の第5の実施形態において、第1の局面のグラフトコポリマーを塗料または塗膜に添加することを含む、塗料または塗膜の塵拾い上げ抵抗性を改良する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で使用されるとき、用語「塵拾い上げ抵抗性」は、塗膜が塵に曝露される前のその最初の外観をより良好に維持するように塗膜と接触する塵の付着に抵抗する塗膜の能力を意味する。
【0023】
本明細書で使用されるとき、用語「(メタ)アクリレート」はメタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0024】
本明細書で使用されるとき、「Tg」はガラス転移温度に対する略号であり、この温度以上ではガラス状のポリマーがポリマー鎖のセグメント運動を起こすことを意味する。本明細書で使用されるとき、「室温」とはセ氏25度(℃)〜35℃の周囲温度を意味する。あるポリマーのTgは通例、10℃/分の速度で加熱しながら熱流対温度遷移における中心点をTg値として用いる示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。
【0025】
本明細書で使用されるとき、「VOC」は揮発性有機化合物に対する略号であり、米国環境保護庁の、例えば、連邦規則40(40 Code of Federal Regulations)セクション.51.100(s)に準じてメタン、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸、金属炭化物または炭酸塩、炭酸アンモニウム、および対象外化合物を除く炭素の揮発性化合物として定義される。塗料産業では、VOCはセ氏250度未満の沸点を有するあらゆる有機化合物を表す。
【0026】
本開示の目的から、用語「コポリマー」は1種類より多くのモノマーから誘導されるポリマーを意味する。用語「グラフトコポリマー」は、本明細書で使用されるとき、ポリマー性の骨格またはマクロモノマーに側鎖としてポリマー鎖が化学結合して形成されるコポリマーを意味する。本発明の「マクロモノマー」は、重合してグラフトコポリマーを形成することができる少なくとも1個の末端エチレン性不飽和基を有する水不溶性のポリマーである。マクロモノマーは「グラフトベース」ということもできる。ポリマー性の側鎖は「グラフトセグメント」ということもできる。グラフトポリマーで、グラフトセグメントはグラフトベースにグラフト結合している。したがって、本発明のグラフトポリマーは、アクリル酸側鎖b)が(メタ)アクリル酸エステルをベースとするマクロモノマーグラフトベース、または骨格a)にグラフト結合した構造である。
【0027】
本発明の実施形態では、マクロモノマーおよびマクロモノマー上の少なくとも1個の側鎖を含むグラフトコポリマーが提供される。マクロモノマーは第1のモノエチレン性不飽和モノマーおよび5モル%以下の付加開裂連鎖移動剤を重合した形態で含む。代表的な第1のモノエチレン性不飽和モノマーとしては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルからなる群から選択されるものがある。1つの好ましい実施形態において、第1のモノエチレン性不飽和モノマーはメタクリル酸メチル(MMA)である。
【0028】
マクロモノマーは、好ましい実施形態において、少なくとも95wt%(質量%)の第1のモノエチレン性不飽和モノマーを含む。好ましくは、第1のモノエチレン性不飽和モノマーの含量は少なくとも96wt%、より好ましくは少なくとも98wt%である。1つの特に好ましい実施形態において、第1のモノエチレン性不飽和モノマーの含量は少なくとも99.5wt%である。マクロモノマーを100wt%に合わせるために残りの部分を構成するモノマーは好ましくは疎水性のモノマーであり得る。これらの中で、6〜18個の炭素原子を有するアルコールとの(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルエステルが好ましい。
【0029】
重合した形態の第1のモノエチレン性不飽和モノマーは好ましくは30モルパーセント〜70モルパーセントの量でグラフトコポリマー中に存在する。1つのより好ましい実施形態において、第1のモノエチレン性不飽和モノマーは重合した形態で40〜60モルパーセントの量で存在する。
【0030】
第1のモノエチレン性不飽和モノマーは付加開裂連鎖移動剤を用いて重合させてマクロモノマーを形成する。好ましい実施形態において、付加開裂連鎖移動剤はアルファ−メチルスチレン、フェニル−置換アルファ−メチルスチレン、α−置換アクリル酸メチル、α−ベンジルオキシスチレン、塩化アリル、アリルエーテルおよびアリル過酸化物の二量体、三量体または四量体からなる群から選択される。特定の実施形態において、アルファ−メチルスチレン二量体(AMSD)が好ましい。
【0031】
付加開裂連鎖移動(AFCT)剤を使用すると、マクロモノマーがAFCT剤に由来する単位により停止されることは十分に理解されている。AFCT剤は有利なことにマクロモノマーに末端の重合可能な二重結合または不飽和を提供し、これはさらに重合してグラフトコポリマーを形成することができる。連鎖移動剤はマクロモノマー、またはグラフトベースの5モル%以下の量で存在する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、用語「AFCT剤が存在する」はグラフトコポリマーの一部を形成するAFCT剤に由来する単位も意味する。グラフトコポリマー中のAFCT剤またはAFCT剤に由来する単位のモルパーセントは核磁気共鳴(NMR)スペクトルから計算される。1つの実施形態において、連鎖移動剤はマクロモノマーの4モル%以下存在する。もう1つ別の実施形態において、連鎖移動剤はマクロモノマーの0.1モル%〜3.5モル%の範囲で存在する。
【0033】
マクロモノマーはさらに、アクリル酸である第2のモノエチレン性不飽和モノマーと重合してグラフトコポリマーを形成する。アクリル酸は側鎖の本質的または排他的な部分を形成する。側鎖は少なくとも95wt%のアクリル酸を含む。好ましくは、アクリル酸の含量は少なくとも96wt%、より好ましくは少なくとも98wt%である。1つの特に好ましい実施形態において、アクリル酸の含量は少なくとも99.5wt%である。
【0034】
重合した形態の第2のモノエチレン性不飽和モノマーはグラフトコポリマー中に30〜70モルパーセントの量、好ましくは30〜70モルパーセントの量で存在する。
【0035】
グラフトコポリマーの数平均分子量は好ましくは5000グラム/モル〜35000グラム/モルの範囲である。もう1つ別の実施形態において、グラフトコポリマーの数平均分子量は10000グラム/モル〜25000グラム/モルの範囲である。
【0036】
本明細書で述べるポリマーの数平均分子量はポリスチレン標準を用いてGPCで測定される。ポリマーのサンプルをクロロホルムに0.1wt%(質量%)の濃度で溶かし、続いて0.45μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルターに通してろ過する。分析は、100μlの上記溶液を注入することによって行う。使用する移動相は1ml/minの流量のクロロホルムである。検出は屈折率(RI)検出器を使用して行う。系は狭いポリスチレン標準で較正した。
【0037】
本発明の実施形態では、グラフトコポリマーおよびそのグラフトコポリマーを含む水性の組成物を調製する方法が提供される。第1のモノエチレン性不飽和モノマーを付加開裂連鎖移動剤の存在下50℃〜100℃の範囲の温度の水性混合物中で重合させて第1の水性エマルション中にマクロモノマーを形成する。この第1の水性エマルション中のマクロモノマーをアクリル酸である第2のモノエチレン性不飽和モノマーと重合させて少なくとも1個の側鎖をマクロモノマー上に有するグラフトコポリマーを第2の水性エマルション中に形成する。
【0038】
マクロモノマーおよびグラフトコポリマーを形成する重合反応は、溶液、塊状、懸濁または乳化重合プロセスにより実施することができる。1つの実施形態において、重合は乳化重合プロセスによる。
【0039】
重合が乳化重合プロセスによるとき水性混合物、および第1の水性エマルションは好ましくは乳化剤を含み得る。モノマーを乳化するのに有効な任意の乳化剤、例えば陰イオン性、陽イオン性、または非イオン性の乳化剤を使用できる。使用できる非イオン性の乳化剤の例は、ラウリル、オレイルもしくはステアリルアルコールまたはココナツ脂肪アルコールのような混合物のエトキシル化生成物のようなアルキルポリグリコールエーテル;オクチルフェノールもしくはノニルフェノール、ジイソプロピルフェノール、トリイソプロピルフェノールまたはジ−もしくはトリ−tert−ブチルフェノールのエトキシル化生成物のようなアルキルフェノールポリグリコールエーテル;またはポリプロピレンオキシドのエトキシル化生成物である。
【0040】
適切なイオン性の乳化剤は主として陰イオン性の乳化剤である。これらはアルキル−、アリール−もしくはアルキルアリール−スルホン酸もしくは−ホスホン酸、アルキル、アリールもしくはアルキルアリール硫酸もしくはリン酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、または他の陰イオン性の末端基を有する化合物を含み得、炭化水素基と陰イオン性の基との間のオリゴエチレンオキシドまたはポリエチレンオキシド単位の存在も可能である。典型的な例はラウリル硫酸ナトリウム、ウンデシルグリコールエーテル硫酸ナトリウム、ラウリルジグリコール硫酸ナトリウム、テトラデシルトリグリコール硫酸ナトリウム、オクチルフェノールグリコールエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリ−tert−ブチルフェノールペンタグリコールまたはオクタグリコール硫酸アンモニウムである。1つの実施形態において、乳化剤はラウリル硫酸ナトリウムである。
【0041】
水性混合物中の乳化剤の量は好ましくはモノマーの総重量を基準にして0.05重量パーセント〜8重量パーセント、より好ましくは0.3重量パーセント〜5重量パーセントである。
【0042】
水性混合物および第1の水性エマルションは重合開始剤を含む。開始剤は好ましくは他の成分(例えば、モノマー、水)の1種または複数への溶解性;所望の重合温度における半減期(好ましくは30分〜10時間の範囲の半減期)、および安定性のようなパラメーターに基づいて選択される。開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビスアミジノプロパン二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−(ヒドロキシエチル)]−プロピオンアミド、および2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)]−プロピオンアミドのようなアゾ化合物;t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイルのような過酸化物;過硫酸ナトリウム、カリウム、もしくはアンモニウムまたはこれらの組合せがある。例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、またはこれらの組合せのような還元剤と組み合わせた過硫酸塩または過酸化物のようなレドックス開始剤系も使用できる。重合プロセス中に使用される開始剤の濃度は好ましくは所望の重合度が得られるように選択される。好ましくは、開始剤の濃度はモノマーの総重量を基準にして0.2重量パーセント〜3重量パーセント、より好ましくは0.5重量パーセント〜1.5重量パーセントである。
【0043】
マクロモノマーおよびグラフトコポリマーを形成する重合反応の温度は選択した開始剤の種類および所望の重合速度に基づいて決定される。好ましい実施形態において、水性混合物はマクロモノマーを形成するために50℃〜100℃の範囲の温度に加熱される。1つの実施形態において、温度は50℃〜75℃の範囲である。同様に、第1の水性エマルションの温度は50℃〜100℃の範囲、好ましくは50℃〜75℃の範囲である。
【0044】
第1のモノエチレン性不飽和モノマー、開始剤、および連鎖移動剤は重合を実施するために当業者に知られているいかなる方法で加えてもよい。例えば、モノマー、開始剤および連鎖移動剤が全て重合プロセスの開始時に水性混合物中に存在していてもよい(すなわち、バッチプロセス)。あるいは、成分の1種または複数を徐々に水溶液に供給してもよい(すなわち、連続または半バッチプロセス)。例えば、開始剤、モノマー、および/または連鎖移動剤の全部または一部を、水を含有する溶液に徐々に供給するのが望ましいことがある。この水を含有する溶液はさらに乳化剤を含んでいてもよい。好ましい実施形態において、モノマーおよび連鎖移動剤の少なくとも一部は重合中徐々に供給され、残りのモノマーおよび連鎖移動剤は重合の開始時に水性混合物中に存在する。この実施形態において、モノマーはそのまま供給してもよいし、または供給する前に水溶液中に懸濁もしくは乳化させてもよい。
【0045】
マクロモノマーを形成する重合反応は4〜10時間の期間続き、この間温度を維持する。1つの実施形態において、マクロモノマーを形成する重合反応は8時間までの期間続く。この期間の後、マクロモノマーの第1の水性エマルションを室温にする。
【0046】
生成したマクロモノマーは固体として(例えば、噴霧乾燥して)単離し、水中に乳化してもよい。また、例えば、マクロモノマーは、乳化または水性重合プロセスで調製した場合、そのまま使用してもよいし、または水で希釈しもしくは濃縮して所望の固形分レベルにしてもよい。好ましい実施形態において、第1の水性エマルション、またはそれの一部は、グラフトコポリマーを形成するために、そのままさらなる重合反応に使用される。
【0047】
マクロモノマーは第2のモノエチレン性不飽和モノマーと共に重合してグラフトコポリマーを形成する。第2のモノエチレン性不飽和モノマーを第1の水性エマルション中に導入し、その後モノマーを塩基で中和する。1つの実施形態において、中和した第2のモノエチレン性不飽和モノマーのpHは6.5〜10、好ましくは7.0〜9.0である。適切な塩基としては、水性のアンモニア、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物溶液がある。1つの実施形態において、塩基は水酸化ナトリウムである。モノマーを塩基で中和するとエマルションの安定性が改良されることが分かるであろう。
【0048】
第1の水性エマルションの量および/またはマクロモノマーの濃度および反応させる第2のモノエチレン性不飽和モノマーの濃度は所望のグラフトコポリマーの組成に基づいて決定される。1つの実施形態において、マクロモノマー水性エマルションおよび第2のモノエチレン性不飽和モノマー組成物は、70:30〜30:70の範囲のモル比で重合した単位として含有するグラフトコポリマーが得られる量で加えられる。
【0049】
第1の水性エマルションはさらに開始剤を含んでいてもよい。適切な開始剤および開始剤濃度は既に述べた通りである。第2のモノエチレン性不飽和モノマーおよび開始剤は乳化重合を実施するために当業者に知られているいかなる方法で加えてもよい。グラフトコポリマーの第2の水性エマルションを形成するための重合は4〜10時間の期間行われ、その間温度が維持される。1つの実施形態において、グラフトコポリマーを形成する重合反応は8時間までの期間続けられる。
【0050】
1つの実施形態において、マクロモノマーを形成する重合反応およびグラフトコポリマーを形成する重合反応は単一の容器内で行われる。この実施形態の1つの主要な利点は、マクロモノマーを単離する必要がなく、単にモノマー組成物および開始剤をマクロモノマー水性エマルションに加えるだけで第2の重合を実施することができるということである。
【0051】
グラフトコポリマーを含む第2の水性エマルションの固形分含量は40容量%未満である。第2の水性エマルションの固形分含量は、重合において公知の技術を用いて固体の凝集なしで所望のレベルに操作することができる。1つの実施形態において、第2の水性エマルションは2容量%〜40容量%の固形分含量を有する。
【0052】
グラフトコポリマーおよび/またはグラフトコポリマーを含む水性組成物は、塗料および塗装に用途がある。1つの実施形態において、第2の水性エマルションまたはグラフトコポリマーを含む水性組成物は塗料および/または塗装製剤の成分である。本発明の特定の利点は、グラフトコポリマーを含む第2の水性エマルションをそのまま使用して塗料および/または塗装製剤またはそれの成分を形成することができるということである。さらに、第2の水性エマルションは、コバルト系連鎖移動剤またはメルカプタン連鎖移動剤を用いる重合反応を利用する従来の方法と違って重金属またはイオウ系化合物を全く含有しない。したがって、本発明の水性組成物から重金属またはイオウ化合物を排除するためのさらなる処理または追加の工程が必要ない。
【0053】
本発明の別の利点は、反応が水中でいかなる有機溶媒も使用しないで実施され、したがって第2の水性エマルションまたはグラフトコポリマーを含む水性組成物がいかなる有機溶媒も含有しないということである。ゼロ−VOCの塗料または塗膜を製剤化するために、本発明の方法またはプロセスは理想的に適している。従来の方法とは異なり、望ましくない溶媒を排除するための追加の工程または処理が必要とされない。驚くべきことに、グラフトコポリマーは塗料および/または塗装製剤に配合されると低い濃度でも塵拾い上げ抵抗性の高まった性質を示す。1つの実施形態において、グラフトコポリマーは塗料および/または塗装製剤中に多くても5質量%の濃度で存在する。別の実施形態において、グラフトコポリマーは塗料および/または塗装製剤中に多くても3質量%の濃度で存在する。さらにもう1つ別の実施形態において、グラフトコポリマーは塗料および/または塗装製剤中に多くても1質量%の濃度で存在する。
【0054】
本発明のグラフトコポリマーは、例えば、外装用建築塗料、内装用建築塗料、工業用塗料、などとして有用である。グラフトコポリマーを含む典型的な建築塗料および塗装製剤は、例えば、バインダーまたは樹脂(10〜50質量%)、担体(25〜80質量%)、界面活性剤(0.5〜10質量%)、顔料(0.5〜40質量%)を含み得、また製剤および/または塗膜の性質を改良するための追加の添加剤も含み得る。
【0055】
バインダーまたは樹脂の例には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂およびポリウレタン樹脂がある。好ましい実施形態において、樹脂はアクリルである。
【0056】
水をベースとする塗料のための担体は水であるが、場合によっては、例えばイソプロピルアルコールを含むアルコール;ジエチレングリコールブチルエーテルもしくはプロピレングリコールメチルエーテルのようなグリコールエーテル;またはエチレングリコールもしくはプロピレングリコールのようなポリグリコールのような水相溶性の担体を使用するのが望ましいことがある。
【0057】
建築用塗装組成物に使用される適切な顔料は当技術分野で広く知られており、Jaffe, E. E. 2004. Pigments, Organic. Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology(非特許文献1)を参照することができる。炭酸カルシウム、タルク、粘土、および二酸化ケイ素のような体質顔料も使用することができる。
【0058】
界面活性剤はバインダーまたは樹脂を担体中に乳化させるために使用される。あらゆる陰イオン性または非イオン性の界面活性剤を使用することができる。適切な非イオン性の界面活性剤はエトキシル化アルコールである。適切な陰イオン性の界面活性剤には、スルホン酸化および硫酸化アルキル、アラルキルおよびアルカリール陰イオン性界面活性剤;アルキルスクシネート;アルキルスルホスクシネートおよびN−アルキルサルコシネートがある。代表的な界面活性剤はアルキルおよびアラルキル硫酸のナトリウム、マグネシウム、アンモニウム、ならびにモノ−、ジ−およびトリエタノールアミン塩、ならびにアルカリールスルホン酸の塩である。
【0059】
追加の添加剤としては、例えば、増粘剤;レオロジー改質剤;染料;金属イオン封鎖剤;殺生物剤;分散剤;二酸化チタン、有機顔料、カーボンブラックのような顔料;炭酸カルシウム、タルク、粘土、シリカおよびケイ酸塩のような増量剤;ガラスまたはポリマー性ミクロスフェア、石英および砂のような充填材;不凍剤;可塑剤;シランのような接着促進剤;融合助剤;湿潤剤;界面活性剤;滑剤;架橋剤;消泡剤;着色剤;粘着付与剤;ワックス;保存料;凍結/解凍保護材;腐食防止剤;および抗凝集剤がある。
【0060】
本発明の水性塗装組成物は塗装分野で周知の技術によって調製される。好ましくは水性の塗装組成物は塗装組成物の総重量に基づいて重量で5%未満のVOCを含有し;より好ましくは水性の塗装組成物は塗装組成物の総重量に基づいて重量で3%未満のVOCを含有し;さらにより好ましくは水性の塗装組成物は塗装組成物の総重量に基づいて重量で1.7%未満のVOCを含有する。
【0061】
本発明の塗料および塗装製剤は、再仕上げ、下塗り、ベースコート、アンダーコート、上塗りおよびクリアーコートのような自動車用塗装として使用することができる。グラフトコポリマーはまた、鋼、銅、真鍮およびアルミニウムまたは木材、皮革、ポリマー性材料およびコンクリートのような非金属基材のような広範な基材のメンテナンスフィッシュのための組成物に使用するのにも適している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1図1は、マクロモノマーのH NMRのデータを示す。
図2図2は、マクロモノマーのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のデータを示す。
図3図3は、グラフトコポリマーのGPCのデータを示す。
図4図4は、グラフトコポリマーの13C NMRのデータを示す。
図5図5は、ブランクおよびサンプルの塵拾い上げ抵抗性示す紙製パネルのイメージを示す。
【実施例】
【0063】

例1
ポリ(メタクリル酸メチル)マクロモノマー第1水性エマルションの調製:
IKA Eurostar 60デジタルオーバーヘッドスターラーを用いて500rpmの撹拌スピードで約1グラム(gm)のラウリル硫酸ナトリウムを64gmの水に加えた。これに、15gm(0.15モル)のメタクリル酸メチルおよび0.72gm(0.0030モル)のアルファメチルスチレン二量体(AMSD)を滴下して加えた。水性混合物の温度を60℃に上げた。0.327gm(0.002モル)の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを水性混合物に加え、重合反応を7時間続けさせてマクロモノマー第1水性エマルションを形成した。
【0064】
第1の水性エマルション中に未反応モノマーがあるかどうかFTIR分析で評価した。CDCl中のH NMRを用いてAMSD含量を調べたところ、図1に示したように3.19モル%であることが判明した。分子量分析は、図2に示したように、クロロホルム溶媒中でポリスチレンを標準として用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を実行することにより行った。数平均分子量は23,446g/モルであることが判明し、重量平均分子量は44,756g/モルで、多分散度が1.909であった。Ubbelohde粘度計で測定したクロロホルム中のマクロモノマーの固有粘度は30℃で約0.3353dl/gであった。
【0065】
例2
ポリ(メタクリル酸メチル−g−アクリル酸)グラフトコポリマーの調製:
12.36gmのポリ(メタクリル酸メチル)(0.124モル)を含有する例1の約66.81gmの第1の水性エマルションをとり、これに1gmのラウリル硫酸ナトリウムを加えた。このエマルションに、IKA Eurostar 60デジタルオーバーヘッドスターラーを用いて500rpmで連続的に撹拌しながら4.45gm(0.0618モル)の中和したアクリル酸(水酸化ナトリウムで中和)を滴下して加えた。反応混合物の温度を60℃に維持した。0.59gm(0.0036モル)の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを反応混合物に加え、反応を7時間続けてグラフトコポリマーを含有する第2の水性エマルションを形成した。
【0066】
分子量分析をクロロホルム中でポリスチレン標準のGPCを用いて行い、結果を図3に示した。グラフトコポリマーの数平均分子量は10,188グラム/モルであることが判明し、重量平均分子量は27,955g/モルであり、その結果多分散度は2.744であった。ガラス転移温度は78℃および102℃であることが判明した。グラフトコポリマーの13C NMRを図4に示す。13C NMRによるグラフトコポリマーの組成は58.2モル%のメタクリル酸メチル、40モルパーセントのアクリル酸および1.8モルパーセントのAMSDであった。Ubbelohde粘度計で測定したクロロホルム中のグラフトコポリマーの固有粘度は30℃で約0.3506dl/gであり、これは例1のマクロモノマーより0.0153dl/g大きい。
【0067】
例3
塗料サンプルの調製および性質の試験:
0.5%、1%および2%の第2の水性エマルションを工業用外装用水系塗料サンプル(Kansai Nerolac Paints LimitedのNerolac Excel Total)中で20分間200rpmで撹拌し続けながら混合することによって塗料サンプルを調製してサンプル1、サンプル2およびサンプル3を得た。
【0068】
添加剤混合後の塗料サンプルのpHは8.6であり、これは工業用の塗料として許容される8〜9.5のpHの範囲内であった。混合後塗料サンプル中に添加剤の沈殿も凝集もなく、したがって添加剤混和性試験(Additive Miscibility Test)をクリアーした。
【0069】
例4
塵拾い上げ抵抗性試験:
1インチ×1インチの工業用紙製パネルを使用した。工業用のBirdフィルムアプリケーターを用いて工業用の紙製パネルに塗料を塗った。3つの紙製パネルの隅にKansai Nerolac Paints LimitedのNerolac Excel Totalを塗布してブランクを形成した。紙製パネルの反対側の隅に例3の塗料サンプル1〜3をBirdフィルムアプリケーターで塗布してそれぞれのサンプルパネル1〜3を形成した。パネル上の塗膜の厚さは約100マイクロメートルであった。パネルを7日間25℃の室温で放置して乾燥した。
【0070】
乾燥したパネルを塵拾い上げ抵抗性試験のための容器に入れた。約25〜30グラムの活性炭粉末を容器に加えた。次いで15回振盪し、2時間容器内に入れたままにした。2時間後サンプルの塵拾い上げを目視でブランクと比較した。図5はブランクおよびサンプルを有するパネルのイメージであり、塵拾い上げ抵抗性を示す。図5はブランクと比較したサンプルの高まった塵拾い上げ抵抗性を示す。
【0071】
例5
加速安定性試験:
約2%の第2の水性エマルションを工業用の塗料サンプル(Nerolac Excel Total)と混合した。粘度を時間と共に観察することによってサンプルの安定性を試験した。第2の水性エマルションの添加した際の初期粘度は104KUであった。サンプルを55℃に30日間保ち、この期間の終了時に塗料製剤の粘度を測定したところ103KUであることが判明した。この研究によって、添加剤が塗料および塗装製剤中で極めて安定であり、経時的に粘度の目立った変化は認められないことが確かめられる。また、沈殿も凝集もなく、塗料は流動可能な形態であった。
図1
図2
図3
図4
図5