【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴に記載の方法により達成される。有利な実施形態は、従属請求項の主題である。請求項において個々に述べられている特徴は、技術的に意味のある方法で組み合わせることができ、本発明の更なる実施形態の異形を示す明細書の説明材料及び図の詳細により、これらの特徴を補足することができる。
【0008】
トルクの切替可能な伝達のための、入力シャフトと出力シャフトとの間に位置している多板クラッチの制御方法が提案される。トルク要求及びそれに続く多板クラッチの係合の際(係合前又は係合中)に、少なくとも以下のステップが実行される。
(a)出力シャフトに目標トルクを伝達するための多板クラッチの軸方向において作用する目標係合力を、決定するステップ、
(b)目標係合力よりも小さい制限係合力を決定し設定するステップ、及び、
(c)目標係合力を時間遅延方式で設定するステップ。
その際、多板クラッチの係合時に伝達される最大実トルクが、伝達されるべき目標トルクを最大で5%しか超えないように、目標係合力を制限係合力に制限することにより、実トルクの伝達が達成される。
【0009】
目標トルクとは、多板クラッチにより出力シャフトに伝達されるべきトルクを表す。この要求が多板クラッチに制御ユニットを介して伝えられ、その結果、多板クラッチは少なくとも部分的に係合する。特に、目標トルクは、入力シャフトにより提供されるトルクよりも小さい。
【0010】
多板クラッチは、具体的には、回転軸を有し、入力シャフト及び出力シャフトに対して同軸に位置している。多板クラッチの板は、回転軸を中心に周方向に延び、板キャリヤに、相対回転不能に接続される。
【0011】
所定の目標トルクを伝達するために、通常は、複数の板が一緒に押圧される目標係合力が多板クラッチにて設定される。特に、トルクの急速な増大があると、伝達されるべき目標トルクを大きく超えるオーバーシュートが生じることが示されている。以下により詳しく説明するように、これらのオーバーシュートには様々な原因が特定されている。そこで、これらのオーバーシュートを回避又は制限するために、係合力が、目標係合力まで即座に増加するのでなく、むしろ、最初は制限係合力までしか増加しないことが提案される。制限係合力は、特に、目標係合力よりも少なくとも5%、特に、少なくとも10%、好ましくはなお少なくとも20%小さい。
【0012】
制限限係合力の設定は、特に約0.02〜0.2秒間、維持される。目標トルクを伝達するのに必要となる目標係合力は、その後にのみ(即ち、時間遅延を伴って)、設定される。
【0013】
上に述べた割合は、特に、多板クラッチが据え付けられているシステムによって決まる。このシステムは、特に、駆動ユニットと、駆動ユニットと多板クラッチとの間に設けられた、トルクを伝達するのに使用される部品と、を含む。制限係合力は、特に、目標係合力が直接制御された場合に生じるオーバーシュートに由来する。特に、機械的変形、システム摩擦、又は同様のものも役割を果たす。更に、持続時間は、特に、システムに依存している。例えば、システムが均一な摺動段階に入ってオーバーシュートが解消されるまでの時間は重要である。上に述べた限度を超えた場合、例えば部品は損傷することがあったり、あるいは、消費者に知覚されるような反応(例えば「急な動き」又は偏揺れ等の車両の動き)が引き起こされたりする。
【0014】
多板クラッチの係合時、伝達されるべき目標トルクを最大で5%しか超えない最大実トルクが生じる。実トルクは、伝達されるべき目標トルクよりも小さくてもよい。実トルクは、伝達されるべき目標トルクの80%〜105%の範囲内にあるように設定してもよい。
【0015】
具体的には、多板クラッチは、トルクを伝達するために自動車のサイドシャフト上に位置しており、多板クラッチを係合する結果として、自動車の1つのホイールのみが、自動車の駆動ユニットにトルク伝達方式で接続される。従って、多板クラッチは、とりわけ、自動車の駆動ユニットとシフト可能なトランスミッションとの間に位置する自動車のクラッチではない。特に、サイドシャフト上に位置するこのような多板クラッチは、伝達されるべき目標トルクの突然の変化を(しばしば)処理せねばならず、冒頭に述べた問題はこれまで以上になお一層深刻化している。
【0016】
したがって、特に、トルク要求は、目標トルクの急激な変化を表す。急激な変化があると、目標トルクはかなり高い値まで増加する。例えば、目標トルクは、少なくとも2〜10倍、好ましくは、少なくとも300ニュートンメートル(Nm)の値だけ増加する。
【0017】
具体的には、トルク要求を介して要求される目標トルクは、多板クラッチに対して規定される公称トルクを表す。特に、目標トルクは、多板クラッチの公称トルクの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%の値に変化する。公称トルクとは、多板クラッチの計画耐用年数を達成することを目的として、多板クラッチが伝達するよう設計されたトルクであり、即ち、トルクは、このトルクのレベルまで伝達することができる。
【0018】
好ましい一実施形態によれば、多板クラッチの係合中の制限係合力への制限は、板間に存在する静摩擦状態から、滑り摩擦状態への移行後に、解消される。このことは、特に、目標係合力が後になって設定されることを意味する。
【0019】
伝達されるべきトルクのオーバーシュートに関する上述の問題は、特に、自動車の特別な始動状況の間に起こる。例えば、トルクオーバーシュート(目標トルクを最大で30%、長時間にわたって超える)が、いわゆる「急発進」、μジャンプ始動、及びμスプリット始動により生じる。このトルクオーバーシュートは、多板クラッチだけでなく、例えば自動車の他の部品をも過負荷にし、システムを破壊することがある。それゆえ、これまでクラッチ伝達挙動は十分には考慮されてこなかった。
【0020】
特にμスプリット始動では、道路摩擦係数が左右で(即ち、自動車の左側のホイール及び自動車の右側のホイールに対して)異なる。一般的に、一方の側に低μ(低摩擦係数、例えば氷)が存在し、他方の側に高μ(高摩擦係数、例えばアスファルト)が存在するとする。始動中、自動車の最適な加速を達成できるように、トルクは、多板クラッチにわたって、自動車の高μが存在する側又はホイールの方へ分配される。
【0021】
特にμジャンプ始動も同様であるが、この事例では、摩擦係数の差は、左側と右側との間にあるのではなく、むしろ前車軸と後車軸との間にある。
【0022】
「急発進」とは、特に最大加速での始動を表す。この過程では、車両クラッチが押し下げられ(即ち、クラッチペダルが運転者により作動され)、ローギアが係合される。その後、運転者は、全加速を与え、突然車両クラッチを解放する(クラッチペダルを作動している運転者の足が脇に外される)。このタイプの始動では、ドライブトレインにエネルギーが突如加えられるため、具体的にはこの事例ではオーバーシュートが生じ、自動車の部品が損傷することがある。
【0023】
ドライブトレインが、様々なシステム及びドライブトレイン構成に対して大きく変動し得る装着係合状態にある際には、(板)クラッチの摩擦係数及び係合力の少なくとも一方が、回転速度差がある場合よりも大きいことが分かっている。回転速度差に応じて摩擦係数を変動させる挙動を予測する又は対応付けることができる。ここで、摩擦係数は、従来の意味においてクラッチライニングの唯一有効な摩擦係数と見做されるべきではなく、それどころか、その他の効果をも含む。
【0024】
従って、例えば、回転速度差を実質ゼロにすることで、板組立体における係合力がより高くなることも、(間接的に)考慮される。というのも、板のエントレインメントポイントでの摩擦損失がほぼ完全に消失するからである。従って、係合力やトルクの増大をもたらす部品の変形を、容易に考慮に入れることができる。単純な確認により、この手法は、同様の相互に関連する結果(トルクオーバーシュート)を有する多くの現象を考慮することを可能にする。従って、この手法は、スティックスリップ摩擦又はストライベック摩擦挙動の単純な仮説を超えるものである。というのも、この挙動は摩擦面への影響しか考慮しないからである。
【0025】
この状況において、今度は多板クラッチの係合力(例えば、ETMにおける位置、HCAにおける圧力、又はEMCDにおける磁場)を低減させると、静摩擦から滑り摩擦への移行中の過度なトルクは生じ得ない。滑り摩擦への移行後、係合力の低減は中断され、正常の場合と同様の挙動になりうる。
【0026】
別の好ましい実施形態によれば、多板クラッチは油圧式に作動され、軸方向において作用する係合力がクラッチ圧チャンバ内のクラッチ圧により発生し、クラッチ圧チャンバは、ポンプにより油圧油を充填可能なシステムラインに、弁を介して接続される。トルク要求があると、弁は、最初は、(電気的に作動する)弁を開放するための(電気的)制限弁電流(アンペア)により制御され、その後、多板クラッチの係合中に(電気的)弁電流は、(電気的)目標弁電流まで増加する。
【0027】
クラッチ圧は、クラッチ圧チャンバ内のピストンに作用し、ピストンは、クラッチ圧により軸方向に変位する。ピストンにより、板に係合力が伝達される。
【0028】
特に、多板クラッチの係合中、弁の開放が制御されることにより、クラッチ圧が目標クラッチ圧を最大で5%しか超えないことが確実になる。従って、トルク要求及びそれに続く多板クラッチの係合の際(係合前又は係合中)、少なくとも以下のステップが実行される。
(a)出力シャフトに目標トルクを伝達するための多板クラッチの軸方向において作用する目標係合力を、決定するステップ、及び、目標係合力を発生させるための目標弁電流を決定するステップ、
(b)弁を開放するための制限弁電流を設定することにより、目標係合力よりも小さい制限係合力を決定し設定するステップ、
(c)弁電流を目標弁電流まで増加させることにより、目標係合力を時間遅延方式で設定するステップ。
【0029】
油圧システムでは、トルクオーバーシュートが特に弁の慣性に起因することが示されている。ところが、多板クラッチの調整精度も慣性に起因して損なわれる。特に、多板クラッチの公称トルクの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%である目標トルクが要求されるやいなや、この状況は重大になる。具体的にはこの際に、公称トルクを大幅に超え、多板クラッチ又は自動車のその他の部品が損傷又は破壊されることがある。
【0030】
ポンプによりシステムライン内で増大したシステム圧力は特に、通常は、定常状態の間あるいは目標トルクの要求が非常に緩慢である間は、クラッチ圧チャンバ内のクラッチ圧よりも高い。この場合、弁は所望のように動作することができる。
【0031】
目標トルクの急速な変化又は突然の変化を必要とするトルク要求では、多板クラッチを圧縮するのに(例えばクラッチ圧チャンバ内の)油圧容量が必要になる。場合によっては、この容量をポンプにより十分迅速に提供することができないこともある。従って、弁によりシステム(又はシステムライン)からあまりにも多くの容量が過度に急速に引き抜かれるとすぐ、システムライン内の油圧油の圧力がクラッチ圧のレベルまで落ち込む。弁は正常に制御することができないことから、結果として例えば弁の弁摺動が停止位置に入る。ポンプがシステムライン(システム圧力)内の圧力を増加させ、クラッチ圧(目標クラッチ圧)がターゲットレベル(目標クラッチ圧)まで増加するとすぐ、弁は、弁摺動を停止位置から制御位置へと元に戻すために、(慣性、摩擦等に起因して)一定時間を要する。従って、多板クラッチ内では少なくとも一時的に、所望の目標クラッチ圧でなく、むしろ、僅かに高めにシステムラインの圧力が設定される。システムラインのこの高めの圧力は、目標クラッチ圧よりも高いため、多板クラッチの係合力は目標係合力よりも大きく、目標トルクよりも高いトルクが伝達される。
【0032】
この影響を防ぐために、充填段階の間、最終の所望圧力よりも低いクラッチ圧を弁から要求することができる。弁では、制限弁電流を介して低めのクラッチ圧が設定され、そこでは、制限弁電流は、目標弁電流よりも特に5%、好ましくは10%、特に好ましくは20%も小さい。
【0033】
制限弁電流の設定は、特に約0.02〜0.2秒間、維持される。目標トルクを伝達するのに必要となる目標係合力は、弁電流を目標弁電流まで増加させることにより、その後にのみ(即ち、時間遅延を伴って)、設定される。
【0034】
上に述べた割合は、特に、多板クラッチが設置されているシステムによって決まる。このシステムは、特に、駆動ユニットと、駆動ユニットと多板クラッチとの間に設けられた、トルクを伝達するのに使用される部品とを含む。制限弁電流は、特に、目標弁電流(又は目標クラッチ圧)が直接制御された場合に生じるオーバーシュートに由来する。特に、機械的変形、システム摩擦、又は同様のものも役割を果たす。更に、持続時間は、特に、システムに依存している。例えば、システムが均一な摺動段階に入ってオーバーシュートが解消されるまでの時間は重要である。上に述べた限度を超えた場合、例えば部品は損傷することがあったり、あるいは、消費者に知覚されるような反応(例えば「急な動き」又は偏揺れ等の車両の動き)が引き起こされたりする。
【0035】
低減したクラッチ圧に到達するとすぐ、弁摺動は制御位置に入る。このことが生じるとすぐ、ターゲットレベルまで弁を調節することにより、要求されるクラッチ圧が増加する。ターゲットレベルでは、ポンプが、依然としてシステムライン内の圧力を維持することができる。従って、クラッチ圧における又は伝達トルクにおけるオーバーシュートを防止することができる。
【0036】
システムライン内又はクラッチ圧チャンバ内の圧力用の圧力センサが存在しない場合又は適切な測定値を提供できない場合、これらの圧力を推定する必要がある。その瞬間に存在する(又は場合によっては推定される)圧力を基に、弁摺動が制御位置へと戻る時点が決定されなければならない。ただし、この工程は、充填段階全体と同じで、過度に長い時間をかけるべきでない。多板クラッチに対する一つの要件として、特に、伝達されるべき目標トルクを、好ましくは短時間の経過で増大するということがある。
【0037】
この方法の実施のための更なる要件として、特に、システムライン内の圧力の決定/推定が非常に正確でなければならないということがある。システムライン内のこの圧力は、特に、ポンプを駆動するモータ電流から導き出すことができる。ただし、測定電流が、増大したシステムライン内の圧力に直接比例しないことが考慮されねばならない。というのも、この関係に、ポンプ内及びモータ内の摩擦及び動作点に依存する効率損失、ならびに、モータ電流測定における誤差が影響するからである。これらの影響は、考慮に入れられるべきであり、特に、少なくともシステムの部分的教示により判定することができる。
【0038】
さらに、少なくとも駆動ユニット及び多板クラッチを有する自動車が提案される。自動車は、トルクを伝達するために多板クラッチを自動車のサイドシャフト上に位置させ、多板クラッチを係合する結果として、自動車の1つのホイールのみが、自動車の駆動ユニットにトルク伝達方式で接続可能であり、多板クラッチは、本明細書に記載された方法により制御される。
【0039】
以下で図を参照して、本発明及び技術分野を、より詳細に解説する。本発明が、図説の例示的実施形態により限定されるものであると解釈されるべきでないことが指摘される。特に、他に明示的に述べられていない限り、図示された情報の部分的態様を取り出し、これらの態様を、本明細書及び図の少なくとも一方からの他の部品及び知見と組み合わせることも可能である。他の図に関する解説を、場合によって補足的に使用できるように、同一の物は同じ参照番号で表す。図は、以下を概略的に示す。