(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、推定された前記勾配の度合いと勾配電流との対応を示す勾配電流マップを使用して勾配電流を求めるとともに、勾配電流と車速により定める車速ゲインとを乗算することで、前記補正電流を求めることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御手段は、横加速度センサにより検出される横加速度と、車両に作用するヨーレート及び車速から算出される向心加速度と、を基に、前記勾配の度合いを推定することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御手段は、走行路の横断方向における勾配及び/又は車両の走行により生じる車両の横方向の高さの差を補正して前記制御を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
<電動パワーステアリング装置全体の説明>
図1は、本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、乗り物の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両に適用した構成を例示している。
【0012】
ステアリング装置100は、運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。ステアリングシャフト102と上部連結シャフト103とが自在継手103aを介して連結されており、上部連結シャフト103と下部連結シャフト108とが自在継手103bを介して連結されている。
【0013】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の車輪150のそれぞれに連結され、キングピン124を中心に回転するナックルアーム121及びステアリングナックル125と、ナックルアーム121に連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。ナックルアーム121とタイロッド104とは、接合部123を中心に回転自在に接合する。また、タイロッド104とラック軸105とは、接合部122を中心に回転自在に接合する。
また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。
【0014】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギアボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギアボックス107にてトーションバーを介して下部連結シャフト108と連結されている。ステアリングギアボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対角度に基づいてステアリングホイール101の操舵トルクTを検出するトルクセンサ109が設けられている。
【0015】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギアボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。本実施の形態に係る電動モータ110は、3相ブラシレスモータである。電動モータ110に実際に流れる実電流の大きさ及び方向は、モータ電流検出部33(
図3参照)にて検出される。
そして、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109の出力値であるトルク信号Td、車両の移動速度である車速Vxを検出する車速センサ170の出力値である車速信号v、車両の横方向の加速度である横加速度G
ySensを検出する横加速度センサ180の出力値である横加速度信号Gy、及び車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ190の出力値であるヨーレート信号γsが入力される。本実施の形態では、制御装置10は、電動モータ110の駆動の制御を行う制御手段(電動パワーステアリング装置用の制御装置)として機能する。詳しくは後述するが、制御装置10は、走行路の横断方向における勾配の度合いを推定し、推定された勾配の度合いに応じ電動モータ110の駆動の制御を行う。
【0016】
以上のように構成されたステアリング装置100は、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTをトルクセンサ109にて検出し、その検出トルクに応じて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。言い換えると電動モータ110は、ステアリングホイール101の操作に対し車輪150を転舵させる駆動力であるアシスト力を発生する。アシスト力は、アシスト力を伝達するラック軸105を介して車輪150に付与される。
【0017】
<制御装置10の説明>
次に、制御装置10について説明する。
図2は、ステアリング装置100の制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された操舵トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Tdと、車速センサ170にて車両の速度に応じて検出された車速Vxが出力信号に変換された車速信号vと、横加速度センサ180にて車両の横方向の加速度に応じて検出された横加速度G
ySensが出力信号に変換された横加速度信号Gyと、ヨーレートセンサ190にて車両の回転速度に応じて検出されたヨーレートγが出力信号に変換されたヨーレート信号γsとが入力される。ヨーレートγは、車両の重心点を通る鉛直軸周りの回転速度である。
そして、制御装置10は、トルク信号Tdに基づいて目標トルクを算出し、この目標トルクを電動モータ110が供給するのに必要となる目標電流を算出する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを有している。
【0018】
<目標電流算出部20及び制御部30の説明>
次に、目標電流算出部20及び制御部30について詳述する。
図3は、目標電流算出部20及び制御部30の概略構成図である。
目標電流算出部20は、目標電流を設定する上で基準となるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流を算出するイナーシャ補償電流算出部22と、モータの回転を制限するダンパー補償電流を算出するダンパー補償電流算出部23と、目標電流を補正する補正電流Iaを算出する補正電流算出部24を備えている。また、目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23、補正電流算出部24にて算出された値に基づいて目標電流Itを決定する目標電流決定部25とを備えている。
【0019】
なお、目標電流算出部20には、トルク信号Td、車速信号v、横加速度信号Gy、ヨーレート信号γs、電動モータ110の回転速度Nmが出力信号に変換された回転速度信号Nmsなどが入力される。
【0020】
ベース電流算出部21は、トルク信号Tdと車速センサ170からの車速信号vとに基づいてベース電流Ibを算出し、このベース電流Ibの情報を含むベース電流信号Imbを出力する。
イナーシャ補償電流算出部22は、トルク信号Tdと車速信号vとに基づいて電動モータ110及びシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流を算出し、この電流の情報を含むイナーシャ補償電流信号Isを出力する。
ダンパー補償電流算出部23は、トルク信号Td、車速信号v、及び電動モータ110の回転速度信号Nmsに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流を算出し、この電流の情報を含むダンパー補償電流信号Idを出力する。
【0021】
補正電流算出部24は、走行路の横断方向における勾配の度合いを推定し、推定された勾配の度合いに基づき、補正電流Iaを決定する。補正電流算出部24については後述する。
目標電流決定部25は、電動モータ110に供給する目標電流を決定する。目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流信号Imb、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流信号Is、ダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流信号Id、及び補正電流算出部24にて算出された補正電流Iaに基づいて目標電流を決定し、この電流の情報を含む目標電流信号ITを出力する。
【0022】
制御部30は、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流を検出し、実電流検出信号Imをモータ駆動制御部31に出力するモータ電流検出部33とを有している。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流(目標電流信号ITが示す値)と、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流(実電流検出信号Imが示す値)との偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを有している。
【0023】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流とモータ電流検出部33にて検出された実電流との偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを有している。
【0024】
[第1の実施形態]
次に、上述した補正電流Iaを決定する方法について詳述する。ここではまず、補正電流Iaを決定する方法の第1の実施形態について説明を行なう。第1の実施形態では、補正電流算出部24が、車両の状態量から、走行路の横断方向における勾配の度合いを推定し、推定された勾配の度合いに基づき、補正電流Iaを決定する。
【0025】
<補正電流算出部24の説明>
図4は、第1の実施形態の補正電流算出部24の機能構成例を示したブロック図である。
図示するように補正電流算出部24は、取得部241と、勾配推定部242と、補正電流決定部243と、補正電流出力部244とを備える。
【0026】
取得部241は、車速センサ170から車速信号vを取得する。また、取得部241は、横加速度信号Gyを、横加速度センサ180から取得し、ヨーレート信号γsを、ヨーレートセンサ190から取得する。
【0027】
勾配推定部242は、車両が走行路を走行する際に車両に作用する向心加速度(横G)を基に、走行路の横断方向における勾配の度合いを推定する。なおここで、「走行路」は、車両が走行する道であり、例えば、道路である。そして、「走行路の横断方向」は、走行路が延びる方向に対し、直角方向である。例えば、道路は、路面に降った雨水を側溝等に導く必要があることから、この横断方向に勾配を設けることがある。そのため、走行路の横断方向の断面が、中央部が高く、両端の路肩に行くにつれて、低くなる、いわゆるかまぼこ形状となっていることがある。走行路の横断方向における勾配は、横断勾配と呼ばれることもある。また、「勾配の度合い」は、勾配の緩急を表す指標である。勾配の度合いは、例えば、勾配の角度である。ただしこれに限られるものではなく、勾配の度合いを表すことができれば、特に限られるものではない。例えば、勾配の度合いに応じ、1〜5の5段階で勾配の度合いを表すことができる。この場合、例えば、勾配の度合いが、1であった場合は、最も勾配が小さく、勾配の度合いが、5であった場合は、最も勾配が大きいとすることができる。
【0028】
勾配推定部242は、以下に説明する方法で、車速Vx、横加速度G
ySens及びヨーレートγから、走行路の横断方向における勾配の度合いを推定する。
図5は、車両に作用する向心加速度Ayについて説明した図である。
ここで、車両Sは、O点を中心に回転しているものとする。このとき、車速Vx、向心加速度Ay及びヨーレートγとの関係は、以下の(1)式となる。つまり、勾配推定部242は、向心加速度Ayを、車両に作用するヨーレートγ及び車速Vxから算出する。
Ay=γ・Vx …(1)
【0029】
また、
図6は、車両Sに作用する種々の加速度について示した図である。
ここで、θ
Bankは、走行路の横断方向における勾配角度である。そして、加速度Gは、重力加速度である。さらに、G’は、走行路に勾配があることから生じる重力加速度Gの影響分である。走行路の横断方向に勾配がなければ(θ
Bank=0)、加速度G’は、0となるが、走行路に勾配があることで、見かけ上、重力加速度Gにより車両Sの横方向に働く加速度G’が生じる。
このとき、θ
Bank、加速度G’及び重力加速度Gとの関係は、以下の(2)式となる。
G’=G・sin(θ
Bank) …(2)
【0030】
また、車両の横方向に実際に働く向心加速度Ay’は、以下の(3)式となる。つまり、横加速度センサ180により検出される横加速度G
ySensは、向心加速度Ay’から重力加速度Gの影響分である加速度G’だけオフセットされる。
Ay’=G
ySens−G’ …(3)
【0031】
走行路の横断方向における勾配角度θ
Bankが十分小さい場合、向心加速度Ayと向心加速度Ay’とは、ほぼ一致する。よって以下の(4)式が成り立つ。
Ay’≒Ay=γ・Vx …(4)
【0032】
よって、θ
Bankは、以下の(5)式となる。
θ
Bank=sin
−1(G’/G)≒sin
−1((G
ySens−γ・Vx)/G) …(5)
【0033】
勾配角度θ
Bankが十分小さい場合、sinθ≒θであるので、この近似式を用いると、θ
Bankは、以下の(6)式となる。よって、(6)式により、勾配角度θ
Bankが求まる。この場合、勾配推定部242は、(6)式を使用し、横加速度センサ180により検出される横加速度G
ySensと向心加速度Ay(=γ・Vx)を基に、勾配の度合いを推定する、と言うことができる。
θ
Bank=(G
ySens−γ・Vx)/G …(6)
【0034】
またこのとき、勾配推定部242は、走行路の横断方向における勾配及び/又は車両の走行により生じる車両の横方向の高さの差を補正してもよい。つまり、走行路に、上述したような勾配が存在すると、走行路の勾配に応じて車両が左右方向に傾斜し、車両の左右方向の高さが異なるようになる。また、走行路が曲線(カーブ)だった場合、車両にローリングが生じ、同様に車体が傾斜、車両の左右方向の高さが異なるようになる。勾配推定部242は、このような車両の傾斜をさらに考慮し、車両の横方向の高低差を補正し、勾配角度θ
Bankを求めるようにする。この場合、推定される勾配角度θ
Bankの精度がさらに向上する。
【0035】
図7は、勾配推定部242で行う処理について示した制御ブロック図である。
勾配推定部242は、ヨーレートセンサ190から取得したヨーレート信号γsにより把握されるヨーレートγと、車速センサ170から取得した車速信号vから把握される車速Vxから、(1)式に従い、向心加速度Ayを求める。さらに、勾配推定部242は、横加速度センサ180から取得した横加速度信号Gyにより把握される横加速度G
ySensから、(6)式のG
ySens−γ・Vxを求める。そして、勾配推定部242は、重力加速度Gを使用し、(6)式により、勾配角度θ
Bankを求める。なおこのとき、ローパスフィルタ(LPF)であるノイズ除去フィルタ242aにより、高周波成分を取り除く。即ち、走行路の路面の凹凸等により生じ、擬似的に求められる勾配角度θ
Bankを取り除く。つまり、走行路の路面の凹凸等により求められる勾配角度θ
Bankは、頻繁に変化し、これに起因して求められる勾配角度θ
Bankは、高周波成分を有すると考えられる。一方、実際の勾配に起因する勾配角度θ
Bankは、頻繁には変化せず、低周波成分を有すると考えられる。よって、高周波成分を取り除き、低周波成分を残すことで、後者に起因して求められる勾配角度θ
Bankを残す。
【0036】
図4に戻り、補正電流決定部243は、推定された勾配の度合いに基づき、電動モータ110によるアシスト力を発生させるのに必要な目標電流を補正する補正電流Iaを決定する。つまり、走行路の横断方向に勾配があると、車両が走行路を走行する際に、車両は、重力の作用より、走行路が低くなっている方向に進もうとする。この現象は、車体流れとも呼ばれる。そして、運転者は、これを修正すべく、車両を走行路が高くなっている方向に進むようにステアリングホイール101を操作する。つまり、運転者は、車両の左右方向に対し、勾配により走行路が低くなっている方向とは逆方向に進むように、ステアリングホイール101を操作する。このとき、補正電流決定部243は、この運転者の操作を補助するアシスト力を発生するために、補正電流Iaを求める。
【0037】
図8は、補正電流決定部243で行う処理について示した制御ブロック図である。
補正電流決定部243は、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、勾配角度θ
Bankと勾配電流との対応を示す勾配電流マップに代入し、勾配電流を算出する。一方、補正電流決定部243は、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速Vxと車速ゲインとの対応を示す車速ゲインマップに代入し、車速ゲインを算出する。この場合、車速Vxが大きいほど、車速ゲインは大きくなり、予め定められた車速Vxを超えると車速ゲインは一定の値となる。そして、補正電流決定部243は、勾配電流と車速ゲインとを乗算して、補正電流Iaを求める。
【0038】
再び
図4に戻り、補正電流出力部244は、補正電流決定部243により決定された補正電流Iaを、目標電流決定部25に対して出力する。
以後、目標電流決定部25では、補正電流出力部244から出力された補正電流Iaに基づき、目標電流の補正を行ない、最終的な目標電流Itを決定する。
【0039】
図9は、補正電流決定部243で従来行っていた処理について示した制御ブロック図である。
補正電流決定部243には、右前輪速度、左前輪速度、右後輪速度、左後輪速度、車速Vx、ステアリングホイール101の舵角であるステアリング舵角、ステアリングホイール101を運転者操作することでステアリングホイール101に加わるステアリングトルクが入力される。そして、右前輪速度、左前輪速度、右後輪速度、左後輪速度から、舵角換算ゲインを求める。また、車速Vxから、車速調整レシオマップを用いて、車速調整レシオを求めるとともに、車速レシオマップを用いて、車速レシオを求める。さらに、ステアリング舵角から、舵角レシオマップを用いて、舵角レシオを求める。またさらに、ステアリングトルクから、トルクレシオマップを用いて、トルクレシオを求める。そして、舵角換算ゲインを車速調整レシオで調整し、補正電流マップを用いて、仮の補正電流を算出する。さらに、仮の補正電流を、舵角レシオ、トルクレシオ、車速レシオで調整を行い、最終的な補正電流を求める。
【0040】
つまり、車速調整レシオ、舵角レシオ、トルクレシオ、車速レシオは、調整項である。従来は、この場合、車両を急旋回させる等の車両が特殊な状態になったときには、補正電流を求めるロジックが成立しなくなるため、このように多くの調整項を用いて、補正電流を求める際の制限を課していた。しかしながら、このように多くの調整項で制限を行う場合、アシスト力が不連続になりやすく、運転者の操舵フィーリングを悪化することがあった。
【0041】
本実施の形態では、車両の状態量から勾配角度θ
Bankを算出し、勾配角度θ
Bankから補正電流Iaを求める。この場合、車両の状態量は、上述したような、車速Vx、横加速度G
ySens及びヨーレートγである。このように、車両の状態量を使用する場合、上記調整項は、必要とならず、アシスト力が不連続になりにくい。その結果、運転者の操舵フィーリングがより良好になりやすい。
【0042】
そして、本実施の形態では、勾配角度θ
Bankを求め、これから補正電流Iaを求めるため、勾配角度θ
Bankにより生じる車体流れについて、より直接的に考慮した補正電流Iaを求めることができる。よって、運転者の操舵フィーリングがさらに良好になりやすい。また、補正電流決定部243が行う、勾配角度θ
Bankから補正電流Iaを算出する処理は、複雑ではない。さらに、本実施の形態では、右前輪速度、左前輪速度、右後輪速度、左後輪速度などの路面の凹凸により影響を受けやすいパラメータを使用せず、車速Vxを使用することで、補正電流Iaを算出する際に、路面の凹凸の影響を受けにくくすることができる。つまり、車速Vxは、右前輪速度、左前輪速度、右後輪速度、左後輪速度が平均された量となり、路面の凹凸の影響を受けにくい。また、車輪150のスリップなどによるロバスト性の低下も回避できる。
そして、本実施の形態では、ステアリングトルクなど、ステアリングホイール101内部の慣性、減衰、摩擦などの影響を受けるパラメータを使用しない。そのため補正電流Iaの精度がさらに向上する。
【0043】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、制御装置10は、走行路の路面の状態により、上記制御を変更する。
【0044】
図10は、第2の実施形態の補正電流算出部24の機能構成例を示したブロック図である。
図示する補正電流算出部24は、
図4に示した第1の実施形態と比較して、路面判定部245を有する点が異なり、他は同様である。
よって、以下、路面判定部245の機能を中心に説明を行う。
【0045】
路面判定部245は、走行路の路面の状態を判定する。具体的には、路面判定部245は、走行路の路面が、舗装路であるか、未舗装路(オフロード)であるか否かを判断する。そして、路面判定部245が、路面が舗装路であると判定した場合、第1の実施形態と同様に、勾配の度合いに応じ電動モータ110の駆動を制御する。即ち、補正電流決定部243が、勾配の度合いに応じ、補正電流Iaを求める。対して、路面が未舗装路である場合、この制御を行わない。この場合、補正電流決定部243は、
図8で示した車速ゲインを0にし、これにより、補正電流Iaを0にする。即ち、目標電流決定部25にて、目標電流の補正は行われない。
【0046】
路面判定部245は、走行路の路面の状態を、例えば、次のようにして判定する。
路面判定部245は、勾配角度θ
Bankについて微分値を求める。そして、路面判定部245は、この勾配角度θ
Bankが、予め定められた第1の閾値より大きくなるときの回数をカウントする。そして、カウントした回数が、単位時間当たりに第2の閾値を超えたときに、未舗装路(オフロード)であると判定する。また、カウントした回数が、単位時間当たりに第2の閾値以下のときは、舗装路であると判定する。
【0047】
つまり、未舗装路(オフロード)の場合、車両が、左右により多く揺すられ、そのために、算出される勾配角度θ
Bankの変動が大きくなる。そのため、路面判定部245は、第1の閾値を使用して、勾配角度θ
Bankの変動が大きくなるときを検出する。そして、路面判定部245は、第2の閾値により、これが頻繁に起こる場合は、走行路が、未舗装路(オフロード)であると判定する。
【0048】
図11は、第2の実施形態で、補正電流決定部243で行う処理について示した制御ブロック図である。
図11で示した制御ブロック図は、
図8に示した制御ブロック図と比較して、路面判定部245から出力された路面状態が入力される点で異なる。そして、路面状態が舗装路の場合、補正電流決定部243は、第1の実施形態と同様に、車速Vxを、車速ゲインマップに代入し、車速ゲインを算出する。対して、路面状態が、未舗装路(オフロード)の場合、車速ゲインマップは使用せず、車速ゲインは、0になる。これにより、補正電流Iaは、0になる。
【0049】
この場合、車両は、例えば、オフロード車である。オフロード車が、草地や砂地や泥濘地や岩場などの未舗装路(オフロード)を走行する際は、路面の凸凹、障害物、水たまりなどにより、車両が左右方向に傾斜し、これによる勾配角度θ
Bankが、算出される場合がある。その際に、上述したような補正を行うと、運転者の意図とは異なるアシスト力を発生させる場合がある。つまり、未舗装路(オフロード)では、運転者は、路面の状態に応じて臨機応変に運転することが求められる。このとき上記補正を行うと、本来不要な補正をすることになり、運転者の操舵フィーリングが悪化しやすくなる。この場合、未舗装路(オフロード)では、補正電流Iaを0にし、目標電流の補正をしないことで、運転者の操舵フィーリングが良好になりやすい。さらに、運転者が感じるオフロードを走行する楽しさにも影響を及ぼさなくなる。
【0050】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、走行路の横断方向における勾配により、ラック軸105(
図1参照)が受ける軸力荷重をさらに加味して、補正電流Iaを算出する。ラック軸105の軸力荷重は、この勾配があることで、ラック軸105の軸方向にかかる荷重である。
【0051】
第3の実施形態の補正電流算出部24の機能構成例は、
図4に示した第1の実施形態の場合と同様である。
図12は、走行路の横断方向における勾配により、ラック軸105が受ける軸力荷重について説明した図である。
ここでは、勾配角度θ
Bankの走行路上で車両Sが走行している場合を模式的に示している。このとき、車両Sの重量をMとすると、車両Sには、走行路の路面Rに沿った方向に、M・G・sinθ
Bankの力が加わる。この力は、ラック軸105が受ける軸力荷重として作用する。
以下、ラック軸105が受ける軸力荷重の算出方法について説明する。
【0052】
図13及び
図14は、車輪150の周辺の構成について示した図である。また、
図15は、トレール長Lについて説明した図である。
このうち
図13は、
図1のXIII方向から車輪150の周辺を見た図であり、車輪150の周辺を水平方向から見た図である。
また、
図14は、
図13のXIV方向から車輪150の周辺を見た図であり、車輪150の周辺を鉛直方向から見た図である。即ち、
図14は、
図1と同様の方向から車輪150の周辺を見た図となる。
さらに、
図15は、
図14のXV方向から、車輪150をみた図である。
【0053】
図13及び
図14で示すように、車輪150には、ドライブシャフト158が接続され、エンジン等の動力源から、車両が走行するための動力が伝達される。即ち、ドライブシャフト158から車輪150へ回転力が伝達され、車輪150が回転することで、車両が走行する。また、車輪150は、ステアリングナックル125及びロアアーム153を介し、ボディ159と接続する。ステアリングナックル125とロアアーム153との接合部は、キングピン124となる。さらに、ステアリングナックル125は、ショックアブソーバ151を介し、ボディ159と接続する。このショックアブソーバ151は、ダンパ151aとコイルスプリング151bとを備え、上部に設けられたボールベアリング151cにてボディ159と接続する。ショックアブソーバ151により、車両は、路面の凹凸からくる衝撃を吸収することができる。
【0054】
また、ラック軸105を矢印A方向に移動させた場合、キングピン124を中心に、ナックルアーム121及びステアリングナックル125が回転し、車輪150は、矢印C方向に転舵する。また、ラック軸105を矢印B方向に移動させた場合、キングピン124を中心にナックルアーム121及びステアリングナックル125が、逆方向に回転し、車輪150は、矢印D方向に転舵する。
【0055】
このとき、ボールベアリング151cとキングピン124とを結ぶ軸を考え、これをキングピン軸Jとする。さらに、
図15に示すように、キングピン軸Jと路面Rとが交差する点を点Pcとし、車輪150が路面Rと接地する点を点Pwとする。そして、点Pcと点Pwとの距離を、トレール長Ltとする。また、キングピン軸Jと接地点Pwとの距離をLとする。距離Lは、トレール長Ltとキャスター角θcよりあらかじめ決定される。距離Lは、キングピン124の中心と車輪150が路面に接地する箇所との距離であると言うこともできる。
また、ナックルアーム121の長さをナックルアーム長L
Nとする。ナックルアーム長L
Nは、接合部123の中心とキングピン124の中心との距離であると言うこともできる。
そして、車両の重量のうち前輪が受け持つ重量をM
fとすると、走行路の横断方向における勾配により、ラック軸105が受ける軸力荷重F
Gθは、以下の(7)式で表すことができる。
F
Gθ=(L・M
f・G・sinθ
Bank)/L
N …(7)
【0056】
図16は、第3の実施形態で、補正電流決定部243で行う処理について示した制御ブロック図である。
図16で示した制御ブロック図は、
図8に示した制御ブロック図と比較して、勾配電流マップの代わりに軸力荷重マップが入る点で異なる。軸力荷重マップは、勾配角θ
Bankと軸力荷重F
Gθとの対応を示すマップである。軸力荷重マップは、予め経験則に基づいて作成され、ROMに記憶される。そして、勾配角θ
Bankを軸力荷重マップに代入すると、軸力荷重F
Gθを求めることができる。なお、軸力荷重マップは、図示するように、勾配角が小さい領域では、軸力荷重F
Gθを0となるようにし、勾配角不感帯を設けている。これにより、補正電流決定部243で算出される補正電流Iaは、0となる。勾配角が小さい領域では、軸力荷重F
Gθが小さく、これにより、算出される補正電流Iaを0としても問題がないためである。
そして、補正電流決定部243は、推力→電流変換係数により、軸力荷重F
Gθを電流に変換する。さらに、補正電流決定部243は、変換した電流と車速ゲインとを乗算して、補正電流Iaを求める。
【0057】
また、ここで使用する車速ゲインマップは、図示するように、予め定められた低速度域では、ゲインが0である。このとき、補正電流Iaは、0となる。この低速度域は、例えば、車速Vxが、0km/h以上60km/h以下の場合である。また、予め定められた中速度域では、車速とともにゲインが大きくなる。この中速度域は、例えば、車速Vxが、60km/h以上80km/h以下の場合である。さらに、予め定められた高速度域では、車速にかかわらず、ゲインは一定となる。この高速度域は、例えば、車速Vxが、80km/h以上の場合である。つまり、軸力荷重F
Gθは、予め定められた速度以上で問題になるため、低速度域では、補正電流決定部243で算出される補正電流Iaを、0としても問題がない。対して、中速度域以上では、補正電流決定部243は、軸力荷重F
Gθに応じた補正電流Iaを算出する。
【0058】
第3の実施形態では、走行路の横断方向における勾配により、ラック軸105が受ける軸力荷重F
Gθをさらに考慮して、補正電流Iaを算出する。また、ラック軸105が受ける軸力荷重F
Gθは、車輪150のアライメントを考慮して算出する。この場合、補正電流決定部243は、ナックルアーム長L
N及びトレール長Lを用いて、軸力荷重F
Gθを算出する。これにより、補正電流Iaの精度がさらに向上する。
【0059】
<プログラムの説明>
なお、本実施の形態における制御装置10が行う処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現される。即ち、制御装置10の内部に設けられた図示しないCPUが、制御装置10の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0060】
よって、制御装置10が行う処理は、コンピュータに、車両が走行する走行路の横断方向における勾配の度合いを推定する勾配推定機能と、推定された勾配の度合いに基づき、電動モータ110による駆動力を発生させるのに必要な目標電流を補正する補正電流Iaを決定する補正電流決定機能と、決定された補正電流Iaに基づき、目標電流を決定する目標電流決定機能と、を実現させるためのプログラムとして捉えることもできる。
【0061】
なお、本実施の形態を実現するプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROM等の記録媒体に格納して提供することも可能である。
【0062】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
電動パワーステアリング装置100は、ステアリングホイールの操作に対し車輪を転舵させる駆動力を付与する電動モータ110と、車両が走行する走行路の横断方向における勾配の度合いを推定し、推定された勾配の度合いに応じ、前記電動モータによる駆動力を発生させるのに必要な目標電流を補正する補正電流を決定し、前記目標電流を前記補正電流により補正して前記電動モータの駆動の制御を行う制御装置10と、を備える。