特許第6815610号(P6815610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6815610-高周波鉗子 図000002
  • 特許6815610-高周波鉗子 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6815610
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】高周波鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   A61B18/12
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-146416(P2019-146416)
(22)【出願日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年9月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075692
【氏名又は名称】リバーフィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】滝川 恭平
【審査官】 北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5769841(US,A)
【文献】 特開平11−155876(JP,A)
【文献】 特開2009−202001(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0042097(US,A1)
【文献】 特表2002−505139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用の高周波鉗子であって、
導電性の把持部を有する操作部と、
前記把持部を操作するためのワイヤおよび前記把持部へ電流を供給するケーブルが案内される非可撓性の筒部と、
前記操作部と前記筒部とを電気的に絶縁する絶縁部と、を備え、
前記筒部は、
絶縁材料からなる外周層と、
絶縁材料からなる内周層と、
前記外周層と前記内周層との間に配置され、前記外周層および前記内周層よりも絶縁抵抗が低く剛性の高い中間層と、
を有する高周波鉗子。
【請求項2】
前記絶縁部は、前記筒部の端面を覆うフランジ部と、前記筒部の内周層を覆うように前記フランジ部の中心から突き出す突出部と、を有していることを特徴とする請求項1に記載の高周波鉗子。
【請求項3】
前記突出部は、前記フランジ部からの突出高さが4〜10mmであることを特徴とする請求項2に記載の高周波鉗子。
【請求項4】
前記絶縁部は、筒状の部材であり、外周面の軸方向の長さが4〜12mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波鉗子。
【請求項5】
前記外周層及び前記内周層は、ガラス繊維強化プラスチックで構成され、
前記中間層は、炭素繊維強化プラスチックで構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高周波鉗子。
【請求項6】
前記筒部は、前記外周層の外径が5.2〜6mmであり、前記内周層の内径が4〜4.8mmであり、前記外周層、前記中間層及び前記内周層の総厚みが0.2〜1.0mmであることを特徴とする請求項5に記載の高周波鉗子。
【請求項7】
前記把持部へ供給する電流が入力される給電部を更に備え、
前記把持部は、モノポーラタイプの電極を構成し、
前記給電部は、2〜4kVの電圧が印加されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の高周波鉗子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の高周波鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉗子を自在に動かすワイヤと鉗子に高周波電流を印加するための給電ケーブルとが絶縁シャフトに内包された高周波鉗子が考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−99401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉗子を動かすためのワイヤだけでなく、給電用のケーブルを内包するシャフトは太くなる。仮にシャフトを細くしようとすると内部空間が狭くなり、必要な部品を内包できない。一方、内部空間を確保しつつシャフトの外径を細くしようとすると、肉厚を薄くする必要があるが、従来の絶縁材料では強度を満たせない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、所望の強度と絶縁性を満たしつつ鉗子の筒部を細くする新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の高周波鉗子は、医療用の高周波鉗子であって、導電性の把持部を有する操作部と、把持部を操作するためのワイヤおよび把持部へ電流を供給するケーブルが案内される非可撓性の筒部と、操作部と筒部とを電気的に絶縁する絶縁部と、を備える。筒部は、絶縁材料からなる外周層と、絶縁材料からなる内周層と、外周層と内周層との間に配置され、外周層および内周層よりも絶縁抵抗が低く剛性の高い中間層と、を有する。
【0007】
この態様によると、筒部の外周層および内周層を絶縁材料で構成することで、筒部の外周面や内周面を介して電流がリークすることを防止できる。また、筒部全体が外周層や内周層と同じ絶縁材料のみで構成されている場合に所望の強度を得るために必要な筒部の厚みと比較して、筒部が外周層および内周層よりも剛性の高い中間層を有することで、筒部の厚みを薄くでき、筒部の外径を細くできる。
【0008】
絶縁部は、筒部の端面を覆うフランジ部と、筒部の内周層を覆うようにフランジ部の中心から突き出す突出部と、を有していてもよい。これにより、筒部の端面に中間層が露出していても、把持部へ供給された電流がワイヤを介して中間層へリークしにくくなる。また、突出部があることで、ワイヤから筒部の端面の中間層までの沿面距離を長くでき、ワイヤから中間層への電流のリークを防止できる。
【0009】
突出部は、フランジ部からの突出高さが4〜10mmであってもよい。これにより、より確実にワイヤから中間層への電流のリークを防止できる。
【0010】
絶縁部は、筒状の部材であり、外周面の軸方向の長さが4〜12mmであってもよい。これにより、操作部から筒部の中間層までの沿面距離を長くでき、把持部へ供給された電流が中間層へリークしにくくなる。
【0011】
外周層及び内周層は、ガラス繊維強化プラスチックで構成され、中間層は、炭素繊維強化プラスチックで構成されていてもよい。これにより、絶縁性と強度とを両立しつつ筒部をより軽量で細くできる。
【0012】
筒部は、外周層の外径が5.2〜6mmであり、内周層の内径が4〜4.8mmであり、外周層、中間層及び内周層の総厚みが0.2〜1.0mmであってもよい。これにより、ワイヤやケーブルを案内するために必要な十分な内径を確保しつつ、必要な強度を確保できる程度の従来よりも細い外径の筒部が実現でき、手術の際に患者に与える負担を軽減できる。
【0013】
把持部へ供給する電流が入力される給電部を更に備えてもよい。把持部は、モノポーラタイプの電極を構成し、給電部は、2〜4kVの電圧が印加されてもよい。これにより、比較的高い電圧が印加されるモノポーラタイプの把持部を有する高周波鉗子において、十分な絶縁性を実現できる。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望の強度と絶縁性を満たしつつ鉗子の筒部を細くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る高周波鉗子の概略構成を示す断面図である。
図2図2(a)は、図1のA−A断面図、図2(b)は、図1のB−B断面図、図2(c)は、図1のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
(高周波鉗子)
高周波鉗子は、電極を有する一対の鉗子片にて把持対象物を把持し、電極に高周波電流を通電して把持部位に電流を集中させることで、手術において生体組織を切開したり凝固させたりする場合に使用される。鉗子自体に電流を通電するため、各部の絶縁が重要であることはもちろんである。加えて、高周波鉗子を繰り返し使用する場合は、洗浄性も考慮した構造にする必要がある。また、鉗子を患者の腹部に挿入して使用する場合には、患者の腹部を膨らませて術野を確保する必要がある。そのため、外部から腹部へ炭酸ガスを送り込む経路を高周波鉗子のどこかに設ける必要があり、また、手術中に炭酸ガスが漏れ出さないような密閉性も高周波鉗子に求められる。以下に本実施の形態に係る高周波鉗子の概略構成を説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る高周波鉗子の概略構成を示す断面図である。図2(a)は、図1のA−A断面図、図2(b)は、図1のB−B断面図、図2(c)は、図1のC−C断面図である。
【0020】
前述のように、図1に示す高周波鉗子10は、医療用であって、導電性の2つの把持部12を有する筒状の操作部14と、把持部12を操作するための複数のワイヤ16および把持部12へ電流を供給するケーブル18が案内される非可撓性の円筒部20と、操作部14と円筒部20とを電気的に絶縁する円筒状の絶縁部22と、を備える。
【0021】
操作部14の一部は、複数のワイヤ16のそれぞれの動きにより把持部12が開閉したり屈曲したりできる柔軟関節として機能するように構成されている。なお、操作部14内部の機構的な構成については本願発明の本質的な部分ではないため図示や説明を省略する。操作部14は、柔軟関節にケーブル18が接続されることで、把持部12の先端が電極化される。なお、ケーブル18は、銅からなる導線が絶縁層で被膜されたものである。
【0022】
操作部14に接続されている金属製のワイヤ16の後端側には、金属シャフト17が接続されており、更に金属シャフト17同士がポリアリレート系繊維19を介して結合されている。ポリアリレート系繊維は、引っ張っても切れにくく、低吸湿性、寸法安定性、耐磨耗性、耐薬品性などに優れた絶縁材料である。これにより、金属シャフト17から隣接する金属シャフト17への電流のリークが抑制される(図1の絶縁経路R1)。
【0023】
操作部14と絶縁部22との間には、金属性の円筒キャップ24が配置されている。円筒キャップ24の周面の一部には、排出口24aが形成されている。そして、円筒部20の内部に設けられているフラッシュチューブ26から放出された洗浄液が排出口24aから排出される。
【0024】
円筒キャップ24の円板状の端部24bには、ワイヤ16やケーブル18を通すための複数の貫通孔24cが形成されている。円筒キャップ24の内部には、貫通孔24cの隙間から操作部14に向かって液体が浸入しないように、シリコーンからなる密閉用の封止部材28が装着されている。
【0025】
また、円筒キャップ24の外周面には絶縁用のゴムカバー30を引っかけるための突起部24dが形成されており、操作部14の先端から円筒キャップ24の突起部24dまでを絶縁性のゴムカバー30で覆うことで、手術中に排出口24aから患者の体液等が高周波鉗子10の内部へ浸入することが防止される。また、ゴムカバー30により、操作部14の先端から円筒キャップ24の後端までの金属部が被覆されることで、金属部と外部とが絶縁される(図1の絶縁経路R2)。
【0026】
本実施の形態に係る高周波鉗子10は、ケーブル18を介して操作部14先端の把持部12に電流を供給しているため、その電流の一部がワイヤ16を介して後端に向かう可能性がある。高周波鉗子10の後端側には、高周波鉗子10を制御する制御部やアクチュエータ、各種センサが有り、高周波で大電圧の電流が後端側に伝搬すると、ノイズやリーク電流によって高周波鉗子を含む制御システムに影響を与える可能性がある。そこで、本願発明者は、電流が伝搬しそうな様々な経路を把握し、各経路において十分な絶縁性を実現するための様々な構成を考案した。
【0027】
本実施の形態に係る円筒部20は、絶縁材料からなる外周層20aと、絶縁材料からなる内周層20bと、外周層20aと内周層20bとの間に配置され、外周層20aおよび内周層20bよりも絶縁抵抗が低く剛性の高い中間層20cと、を有する。
【0028】
このように、円筒部20の外周層20aおよび内周層20bを絶縁材料で構成することで、円筒部20の外周面20dや内周面20eを介して電流がリークすることを防止できる。また、円筒部20全体が外周層20aや内周層20bと同じ絶縁材料のみで構成されている場合に所望の強度を得るために必要な円筒部20の厚みと比較して、円筒部20が外周層20aおよび内周層20bよりも剛性の高い中間層20cを有することで、円筒部20の厚みを薄くでき、また、円筒部20の外径を細くできる。
【0029】
本実施の形態に係る外周層20aおよび内周層20bは、ガラス繊維強化プラスチックで構成されている。また、中間層20cは、炭素繊維強化プラスチックで構成されている。炭素繊維強化プラスチックは、強度が非常に高く剛性の高い材料であるため、円筒部20の強度向上に寄与する。一方で、中間層20cを構成する炭素繊維強化プラスチックは、比較的電気を通しやすい物質であるが、絶縁体であるガラス繊維強化プラスチックからなる外周層20aおよび内周層20bで挟まれており、これにより、絶縁性と強度とを両立しつつ円筒部20をより軽量で細くできる。
【0030】
また、外周層20aの外径は5.2〜6mmであり、内周層20bの内径は4〜4.8mmであってもよい。また、外周層20a、中間層20c及び内周層20bの総厚みは0.2〜1.0mmであってもよい。これにより、ワイヤ16やケーブル18を案内するために必要な十分な内径を確保しつつ、必要な強度を確保できる程度の従来よりも細い外径の円筒部20が実現でき、手術の際に患者に与える負担を軽減できる。
【0031】
次に、円筒形の樹脂キャップからなる絶縁部22について説明する。絶縁部22は、円筒部20の端面20fを覆うフランジ部22aと、円筒部20の内周層20bを覆うようにフランジ部22aの中心から突き出す突出部22bと、を有している。これにより、円筒部20の端面20fに比較的絶縁抵抗が低い中間層20cが露出していても、把持部12へ供給された電流がワイヤ16を介して中間層20cへリークしにくくなる。また、突出部22bがあることで、ワイヤ16から円筒部20の端面20fの中間層20cまでの沿面距離X1を長くでき、ワイヤ16から中間層20cへの電流のリークを防止できる(図1の絶縁経路R3参照)。
【0032】
本実施の形態に係る突出部22bは、フランジ部22aからの突出高さ(沿面距離X1と同等)が4〜10mmであってもよい。これにより、より確実にワイヤ16から中間層20cへの電流のリークを防止できる。
【0033】
絶縁部22は、フランジ部22aの外縁から円筒キャップ24に向かって外周面22cが形成されている。外周面22cの軸方向の長さX2は4〜12mmであってもよい。これにより、操作部14から円筒部20の中間層20cまでの沿面距離X2を長くでき、把持部12へ供給された電流が中間層20cへリークしにくくなる(図1の絶縁経路R4参照)。
【0034】
円筒部20は、突出部22bの外側に嵌め込まれ、接着剤で封止固定されている。また、円筒キャップ24も絶縁部22の先端部の内側に嵌め込まれ、接着剤で封止固定されている。
【0035】
なお、本実施の形態に係る高周波鉗子10は、把持部12へ供給する電流が入力される給電部32を更に備えている。把持部12は、モノポーラタイプの電極を構成し、給電部32は、周波数が300kHz〜5MHz、2〜4kVの電圧が印加される。これにより、比較的高い電圧が印加されるモノポーラタイプの把持部12を有する高周波鉗子10において、十分な絶縁性を実現できる。
【0036】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0037】
10 高周波鉗子、 12 把持部、 14 操作部、 16 ワイヤ、 17 金属シャフト、 18 ケーブル、 20 円筒部、 20a 外周層、 20b 内周層、 20c 中間層、 20d 外周面、 20e 内周面、 20f 端面、 22 絶縁部、 22a フランジ部、 22b 突出部、 22c 外周面、 24 円筒キャップ、 24a 排出口、 24b 端部、 24c 貫通孔、 24d 突起部、 26 フラッシュチューブ、 28 封止部材、 30 ゴムカバー、 32 給電部。
【要約】
【課題】所望の強度と絶縁性を満たしつつ鉗子の筒部を細くする新たな技術を提供する。
【解決手段】高周波鉗子10は、医療用の高周波鉗子であって、導電性の把持部12を有する操作部14と、把持部12を操作するためのワイヤ16および把持部12へ電流を供給するケーブル18が案内される非可撓性の円筒部20と、操作部14と円筒部20とを電気的に絶縁する絶縁部22と、を備える。円筒部20は、絶縁材料からなる外周層20aと、絶縁材料からなる内周層20bと、外周層20aと内周層20bとの間に配置され、外周層20aおよび内周層20bよりも絶縁抵抗が低く剛性の高い中間層20cと、を有する。
【選択図】図1
図1
図2