(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パワーデバイスの代表としてMOSFETとIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)がある。ここではMOSFETを主として述べるが、IGBTはさらに1層付け加えることで完成する。
【0005】
MOSFET型パワーデバイスをSiCで作る場合とSiで作る場合との大きな違いは、SiCはドーピングした不純物が非常に拡散し難い点である。すなわち拡散係数が非常に小さく、熱拡散でp層やn層を形成し難い点である。SiCの結晶成長は、主に昇華法で作られる。結晶は6方晶の4Hと6Hと立方晶の3Cの3種が主流であるが、パワーデバイスとして主に使われる結晶は、電子の移動度が高い4Hである。
【0006】
現在、SiCでMOSFETを作るために比較的容易に入手できる基板の仕様は以下のとおりである。
N type 、4°off、比抵抗:0.015〜0.028 Ωcm
昇華法で結晶成長するため、ドープ濃度が高いn
+基板となる。
【0007】
低電力消費にするためには、低いオン抵抗にする必要がある。SiCの電子とホールの移動度は、電子の方が10倍よい。よって、電子が電流の主体となるn型、すなわちnチャンネルにする必要がある。また高耐圧にするためには低濃度でドープしたn
−層が必要である。
【0008】
これらの点から、最も基本的なMOSFETの構造は
図1に示す構造となる。n
+基板1にn
−エピタキシャル層2をエピタキシャル成長で形成し、このn
−エピタキシャル層2の中にイオン注入でpウェル層3を形成する。そのpウェル層3の中に、さらにソースとなるn
+層4を形成する。このようにpウェル層3とソースとなるn
+層4を2度イオン注入するので、Double Implantation MOSFET(以下DIMOSFETという)と呼ばれている。ここまでは、従来の技術である。なお、前記n
−エピタキシャル層2はドリフト層とも呼ばれる。
【0009】
SiCへのイオン注入は、Siに比べ高エネルギーでの注入が必要である。このような高エネルギーでpウェル層3及びソースとなるn
+層4にイオン注入すると結晶は、注入によるダメージを受ける。特に高濃度を注入するn
+層4のダメージが大きい。
【0010】
また、注入した不純物(以降、ドーパントとも言う)の活性化のために1500〜1700℃の高温の熱処理が必要である。この熱処理を施すとイオン注入によりダメージを受けた部分から、Siが昇華し、残ったCの凝集が起こる。
【0011】
このため、特にソース領域表面では、10nm近い表面荒れが発生する。また、注入表面から注入深さに渡りSiが昇華し、Siの抜けた後にCの凝縮によると思われる結晶欠陥が生じ、これらが信頼性の低下や耐圧の低下、チャンネル移動度の低下によるオン抵抗の増加等の問題の原因となっていた。
【0012】
このSi昇華を減らすための対策として、1つは熱処理前に、イオン注入後のSiC表面に酸化膜を形成しその後に熱処理をする方法。あるいは、酸化膜の代わりに、カーボンをスパッタリングでSiC表面に形成し、その後に熱処理を行う提案がなされている。
【0013】
このようにウェハ表面を酸化膜やカーボンで蓋をするので、キャップ層とも呼ばれている。
図2にキャップ層6を示す。
【0014】
しかし、これらのキャップ層6は、注入表面の改善に多少役立っているが、注入深部のSi昇華には全く役立っていない。
【0015】
本発明は、炭化珪素半導体(SiC)を材料としたパワーデバイスにおいてSiの昇華が防止されていて、なおかつ、注入したイオンの活性化が図られているSiC半導体とその製造方法を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、イオン注入後のSiC表面にSiCのエピタキシャル層を形成することにより、Siの昇華を防止し、且つ注入したイオンの活性化をも同時に行ったものである。
【0017】
図1にイオン注入後のDIMOSFETの構造の模式断面図を示す。この模式断面図はWafer(ウェハ)の中の一つの素子を示したものであり、寸法等も実態を全く無視した、あくまでも模式図である。この特許出願におけるその他の図面も同様の模式図である。
【0018】
n
+基板1にエピタキシャルでn
−層2を形成する。その後、イオン注入によりpウェル層3を形成、pウェル層内にイオン注入でn
+ソース層4を形成、そしてイオン注入でp
+層5を形成することが従来から行われている。
【0019】
この後、イオン注入したドーパントの活性化のために1500〜1700℃の熱処理を行うが、前述のごとく、Siの昇華による表面荒れやイオン注入部の内部欠陥が問題となっていた。
【0020】
SiCの結晶は、SiとCの結合力が強く、そのため融点が2730℃と非常に高い。それなのにSi昇華が生じるのは、イオン注入によりSiとCの結合にダメージが入ったためと考えられる。
【0021】
本発明は、イオン注入後のドーパントの活性化を
図4に示すSiCエピタキシャル層6#を形成することで、この問題を解決したものである。エピタキシャルを行うことは、ウェハ表面にSiC結晶を析出し、積層することであり、当然、Si昇華は生じ得なくなる。
【0022】
ドーパントの活性化は1500〜1700℃、30分程度で行われる。これと同じ条件で、エピタキシャルを行えばドーパントの活性化ができる。
【0023】
エピタキシャル条件で活性化が不十分であれば、Arガス雰囲気中で追加の熱処理を行えばよい。
【0024】
ウェハ表面にエピタキシャル層6#が形成されているので、追加の熱処理をしても、もうSiの昇華は生じない。
【0025】
また、イオン注入によって生じた内部のSiとCとの結合のダメージもエピタキシャル中に修復され、そこからのSi昇華も生じない。
【0026】
これにより、従来の表面荒れによるチャンネル抵抗の上昇やゲート酸化膜の耐圧不良、イオン注入ダメージで生じた内部Si昇華に起因する欠陥による信頼性の低下を防ぐことができる。
【0027】
このエピタキシャル層6#は、目的を果たした後、取り除いてもよいが、本発明では、そのまま残して、さらに活用した構造を推奨する。
【0028】
図5に示す如く、エピタキシャル層6#をp層で形成する。pエピタキシャル層6#を形成後、ゲート酸化膜7を形成し、ゲート8となるポリシリコンをCVDで形成したのち、絶縁用酸化膜9をCVDで形成する。その後、RIE等のドライエッチングにより、ソース電極用窓開けを行い、ソース電極10を形成する。
【0029】
このようにすれば、チャンネル層の表面が良質なエピタキシャル層で作られるので、イオン注入で形成したチャンネル層より移動度が大きい良質の低抵抗のチャンネル層ができる。
【0030】
周知のとおり、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)における最重要部分の一つがチャンネル層である。従来の構造の模式断面図を
図3に示す。
【0031】
従来の構造ではpウェル層3がイオン注入によって形成され、これがそのままチャンネル部として使われるので、表面状態やドーピング濃度の調整や安定性が本発明のエピタキシャル層6#に比べ遥かに劣る。
【0032】
このため、従来構造ではチャンネル抵抗が大きくなり、オン抵抗を大きくしていた。
【0033】
さらに、本発明は
図5のごとく、pエピタキシャル層6#が表面の大部分をカバーしていることで電界強度の分布を広げ、ガードリング効果で電界の局部集中を緩和することができ、耐圧の改善にもつながっている。
【0034】
[1]
SiCの半導体形成において、イオン注入後のドーパントの活性化処理をSiCのエピタキシャル層を形成することにより行うSiC半導体製造方法である。
【0035】
[2]
SiCのnチャンネルMOSFETにおいて、イオン注入で形成したpウェル層の上にエピタキシャル成長により形成したpエピタキシャル層を備え、前記pエピタキシャル層の上にゲート酸化膜とゲートを設けた構造のSiC半導体である。
【0036】
[3]
イオン注入で形成されたpウェル層の上に、エピタキシャル成長でpエピタキシャル層を形成し、前記pエピタキシャル層が半導体チップの端を含めた広範囲に形成されている構造を有しているSiC半導体である。
【0037】
[4]
[2]又は[3]の構造を有するチップを実装したMOSFET及びIGBTのパワー半導体である。
【0038】
[5]
[2]又は[3]の構造を有するチップを実装したMOSFET及びIGBTのパワーモジュールである。
【発明の効果】
【0039】
(1)pエピタキシャル層6#の成長過程で、イオン注入のドーパントの活性化を同時に行うことにより、活性化時に従来発生していたSiの昇華を抑えることができた。これにより、表面荒れによる耐圧の低下および移動度の低下、さらに注入深部のカーボン凝集による欠陥に基づく信頼性の低下を防ぐことができた。
【0040】
(2)nチャンネルMOSにおいて、pエピタキシャル層6#の大部分を残すことにより、
(i) 良質なエピタキシャル層による高いチャンネル移動度と正確な閾値電圧を実現できた
(ii)ガードリング効果により、耐圧の改善ができた。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(実施形態1)
パワーデバイス用SiC基板として、一般的に熱力学的に安定で移動度の大きい、六方晶系の4H−SiCを用いる。SiCは極性を持っており、Si面とC面がある。通常パワーデバイス用として、安定性が高いSi面上に作る。
【0043】
このようなSiCの基板(ウェハ)は米国のCree社が世界の60%のシェアを持っており、ここから購入できる。主な仕様は以下の通りである。
4H−SiC
Si面 4インチ n
+型 シート抵抗0.015〜0.028Ωcm 厚さ350μm 4°off 窒素(N)ドープ。
これが模式断面図中のn
+基板1となる。
【0044】
ドーピング濃度(不純物濃度とも言う)に換算すると約1×10
18/cm
3前後である。
【0045】
この上に、n
−層2をエピタキシャルで形成する。n
−のドーピング濃度は必要耐圧により適切に決めればよい。ここでは、一例としてnドープで約5×10
15〜 5×10
16/cm
3とする。ちなみにドーピング濃度が1×10
16/cm
3の場合、
図8(a)から理論上の耐圧は約3KV。
図8(b)から空乏層が約20μmであることが分かる。すなわち、耐圧3KVが必要であれば、エピタキシャル層のn
−層2は20μm以上必要ということである。
【0046】
SiCのエピタキシャル成長に、一般的に熱化学気相成長法(熱CVD法)を用いる。Si源のガス(例えばSiH
4)とC源のガス(例えばC
3H
8)を反応させ、SiC基板1の表面にエピタキシャル層2を成長させる。
【0047】
n
−層の膜厚は5〜200μm程度で、耐圧を考慮すると厚い方がよいがコストアップになる。よって、必要耐圧に応じて適正に決めればよい。
【0048】
現在、Cree社からn
+のSiC基板1にn
−のエピタキシャル層2を形成したウェハを購入できる。n
−エピタキシャル層2は、Si面でドーピング濃度が5×10
14〜 1×10
19/cm
3で層厚が0.2〜200μmの中から選択できる。5×10
14/cm
3 で空乏層が200μm以上に広がるので、高耐圧が必要であれば層厚が200μm以上という選択肢も勿論ある。
【0049】
n
−エピタキシャル層2を形成済みのウェハを市販で入手できるので、ここではそれ以降のプロセスについて主に述べる。
【0050】
図4中の符号3、4、5で示す層はイオン注入により形成する。ここまでは従来と同じである。
【0051】
符号3で示す層はpウェル層であり、p型不純物としてアルミニウム(Al)が、表面からの深さ方向の濃度が1×10
16〜 2×10
19/cm
3程度( ピーク濃度)注入されている。SiCの表面から深さ約1〜2μmまでの領域に形成し、注入目標深さから表面に向かって、ド−ピング濃度が徐々に薄くなる。
【0052】
次にソースとなるn
+層4を形成する。n型不純物として窒素(N)が、表面からの深さ方向の濃度が1×10
18〜 2×10
19/cm
3程度(ピーク濃度)まで変化し、SiCの表面から深さ約0.2〜0.5μmまでの領域に形成し、注入目標深さから表面に向かって、ド−ピング濃度が薄くなる。
【0053】
p
+層5はソース電極10とオーミックコンタクトをとるためのコンタクト層である。不純物はAlを用いる。1×10
18〜2×10
19/cm
3で、できるだけ高濃度の注入を行う。
【0054】
p
+層5の注入はn
+層4の形成の前でも、後でもよい。n
+層4の注入の深さは0.2〜0.5μm。p
+層5も同じ程度とする。
【0055】
これらのイオン注入は、必要に応じて基板温度を500〜700℃に上げた状態で行う。
【0056】
図1〜
図7でn
+層4とp
+層5の深さが異なるように記載しているが同じでもよい。
【0058】
ここから本発明の特徴であるpエピタキシャル層6#を形成する。
【0059】
p型SiCをエピタキシャルするために原料ガスとしてSiH
4とC
3H
8を使用する。Alのドーパントは、ガス源としてTMAを使用する。成長速度と濃度比(C/Si比)を縦軸横軸にとり、鏡面が得られる最適条件を見出す。エピタキシャル成長速度を遅くした方が、最適条件の範囲が広がり、イオン注入したドーパントの活性化も進むと考えられる。エピタキシャル成長速度は品質とコストパーフォーマンスを考慮して決めればよい。
【0060】
次に熱酸化でゲート酸化膜7を形成する。膜厚は20nm〜100nmで、必要に応じて窒化処理や水蒸気雰囲気熱処理を行う。
【0061】
その上に、CVDでポリシリコンゲート8を形成する。
【0062】
この上にプラズマCVDで酸化膜9を形成し、ドライエッチングで電極取り出し用の窓開けを行う。窓開けはイオン注入表面より少し深く、
図5で示す如く、トレンチ底がn
+層およびp
+層の不純物濃度の高いところに達する深さにする。
【0063】
この後、ソース電極10とドレイン電極11及びゲート電極(図示せず)を例えばAlを蒸着し、Alの融点以上の温度で合金化処理して、良好なオーミックコンタクトを取る。なお、イオン注入用マスクの形成や酸化膜の窓開け等は、従来のフォトリソグラフィ技術で行える基本的なものなので、ここでの記述を割愛する。
【0064】
本発明の効果と従来品を比較するため、具体的に次のようなデバイスを作った。
【0065】
図1のイオン注入完了までのプロセスはまでは全く同じである。
【0066】
4インチ 350μm厚の4°off、比抵抗:0.015〜0.028 Ωcmの窒素(N)ドープのSi面に不純物濃度約1×10
16/cm
3で厚さ20μmの窒素(N)をドープしたn
−エピタキシャル層2を形成したウェハを購入し、使用した。
【0067】
pウェル層3は深さ約1.5μmに濃度が5×10
17〜 2×10
19/cm
3程度になるようAlをイオン注入。続いて、n
+層4は濃度が1×10
18〜2×10
19/cm
3程度になるよう深さ0.5μmに窒素をイオン注入した。
【0068】
p
+層5は濃度が1×10
18〜2×10
19/cm
3になるようAlを深さ0.5μmにイオン注入した。チャンネル部の寸法は、左右それぞれ、チャンネル長=200μm、チャンネル幅=100μmで設計した。
【0069】
なお、pウェル層3の表面濃度は5×10
17/cm
3になるようにした。イオン注入時のダメージを緩和するため、基板温度を500℃にして注入を行った。
【0070】
このようにして作った
図1に示す状態のウェハを複数枚用意し、2枚ずつ従来方法と本発明の方法に分けて流した。
【0071】
従来方法は、表面荒れを減らす目的で、CVDで酸化膜6を付け、1600℃、30分でドーパントの活性化処理を行った。この後、酸化膜6を除去し、次のゲート酸化膜7の形成を熱酸化により行った。
【0072】
本発明では
図1に示すウェハ上に直接p型のエピタキシャル層6#の形成を行った。ドーピング濃度はイオン注入で形成したpウェル層3の表面濃度の5×10
17/cm
3と同じ濃度とした。原料ガスはSiH
4とC
3H
8を使用した。C/Si比はエピタキシャル後、SiやCのクラスターが発生しない条件で行った。エピタキシャル成長速度を遅くすればこの許容範囲が広がる。p型ドーパントをAlとした。ガスはトリエチルアルミニウム(TEA)を使用した。トリメチルアルミニウム(TMA)を使用することもできる。エピタキシャルと同時に、注入イオンの活性化も行うので、エピタキシャル成長速度を0.1〜0.5μm/時間でゆっくり行った。
【0073】
従来と比較するために基板温度1600℃、成長速度0.2μm/時間で30分エピタキシャルし、0.1μm厚のpエピタキシャル層6#を形成した。
【0074】
この後、
図4のごとく、熱酸化でゲート酸化膜7を40nm厚でエピタキシャル6#の上に形成した。
【0075】
その上に
図5のごとく、ポリシリコンのゲート層8を形成し、さらにプラズマCVDで酸化膜9を2μm程度形成後、ドライエッチングで電極取り出し用の窓開けを行った。窓開けはn
+層4とp
+層5と十分オーミックコンタクトが取れる深さまで行った。層の深さが0.5μmなので、窓開けの深さは、その半分程度以下の0.2μmとした。
【0076】
その後、Alをスパッタリングで蒸着し、ソース電極10、ゲート電極(図示せず)とドレイン電極11を形成した。
【0077】
Al蒸着後、融点以上の温度で合金化し、オーミックコンタクトを取った。
【0078】
ドレイン電極11はAl蒸着後、引き続きTi/Ni/Agを蒸着し、鉛フリー半田でダイボンドできるようにした。
【0079】
これをTO220パッケージに組み立て、電気的特性の測定を行った。
【0080】
特性を調べたところ、閾値電圧はVth=3.5V。ゲート電圧15Vの時ドレイン・ソース電圧Vds=0.2Vでオン抵抗約3.5mΩcm
2を得た。
【0081】
従来構造のものは、活性化処理後、ゲート酸化膜7を熱酸化で行い、約60nm厚のゲート酸化膜とした。
【0082】
本発明のエピタキシャル表面に比べ、活性化後のウェハ表面は少し荒れているので、ゲート酸化膜を少し厚めにした。その後の条件は本発明とほぼ同じである。
【0083】
同じ条件で測定した結果、従来構造品はオン抵抗38mΩcm
2であった。
【0084】
パッケージ後の測定で、オン抵抗に大きな差が生じている。本発明品は従来構造に比べ、オン抵抗が1/10ほどになっていた。これはイオン注入層をチャンネル層に使用した場合と、エピタキシャル層をチャンネル層として使用した場合の差と考えられる。
【0085】
イオン注入層をチャンネル層とした場合、どうしても注入時のダメージがチャンネル移動度を悪化させている。
【0086】
一方、本発明は、エピタキシャル層形成と同時に活性化を行うことにより、チャンネル移動度を大幅に改善できることが分かった。
【0087】
他にもチャンネル層にエピタキシャル層を使用する提案があるが、いずれも工程が複雑でコストがかかる。例えば、pウェル層をエピタキシャルで形成し、n型ドリフト層をpウェル層にイオン注入で作る等が提案されているが、結局、ゲート酸化膜形成前に、注入のダメージを作ってしまっている。
【0088】
本発明は、従来のDIMOSFET構造にpエピタキシャル層を追加しただけの極めてシンプルな構造であり、安価で低いオン抵抗のSiCパワーMOSを実現したものである。
【0089】
上記例は従来のものと比較するため、耐圧1KVのものを作った例であるが、耐圧はn
−エピタキシャル層2(ドリフト層)のドーピング濃度で決まるので、目的耐圧に合わせて、適切な不純物濃度のウェハを選択すれば良いだけである。
【0090】
例えば、3KVが必要であれば、
図8(a)からドーピング濃度<1×10
16/cm
3、
図8(b)からエピタキシャル膜厚>20μmのウェハを選べばよい。同様に10KVであれば、ドーピング濃度<2×10
15/cm
3、エピタキシャル膜厚>μm80となる。
【0091】
ノーマルオフの閾値電圧(Vth)はゲート酸化膜厚とチャンネル部のドーピング濃度と層厚で決まる。ゲートに電圧を印加するとゲート酸化膜に電荷が溜る。この電荷がp層中のホールを押しのけて、p層が反転し、nチャンネルができると電流が流れる。
【0092】
式で表すとQ=CVである。Qは電荷 Vがゲート電圧 Cがゲート酸化膜の容量である。
【0093】
ゲート酸化膜を厚くすれば、Cが小さくなる。ドーピング濃度が高いと反転するのに多くの電荷が必要となる。すなわち、ゲート酸化膜が厚く、pエピタキシャル濃度が高いとVthは大きくなる。ゲート酸化膜は薄いほど容量が大きくなるのでチャンネル形成の効率が良くなる。
【0094】
SiCの酸化膜の耐圧は8MV/cmなので、通常使われるゲート電圧が10〜20Vの範囲では、少なくとも耐圧の点で10Vは12.5nm 、20Vは25nmのゲート酸化膜が必要になる。
【0095】
よって、ゲート酸化膜は20nm〜100nmの範囲が一般的に使われる。
【0096】
pエピタキシャル層6#のドーピング濃度は小さければVthを小さくできる。高いとVthが高くなる。エピタキシャル層の厚さも影響してくる。ドーピング濃度×層厚が電荷量になるので、Vthに影響する。
【0097】
前記例はノーマリオフでVthが約3〜4Vを目標にするならpエピタキシャル層6#の不純物濃度が5×10
17/cm
3で厚さ0.1μ前後、ゲート酸化膜7が40nmで実現できる。
【0098】
オン抵抗はチャンネル抵抗やn
−エピタキシャル層2(ドリフト層)の抵抗、基板1の抵抗も含めたものなので、基板を研磨するのもオン抵抗を減らすことになる。基板を薄くすると熱抵抗も下がるので、一般的にドレイン11(裏面電極)を蒸着する前に基板を研磨し薄くする。例えば、350μmを200μmにするとか、後の工程で問題が生じない程度に研磨して使う。
【0099】
p層6#のエピタキシャルは基板温度1500〜1700℃、原料ガスはSiH
4とC
3H
8を使用する。C/Si比はエピタキシャル後SiやCのクラスターが発生しない条件で行う。エピタキシャル成長速度を遅くすればこの許容範囲が広がる。
【0100】
p型ドーパントをAlとする場合、ガスはトリエチルアルミニウム(TEA)またはトリメチルアルミニウム(TMA)を使用する。エピタキシャルと同時に、注入イオンの活性化も行うので、エピタキシャル成長速度を0.1〜0.5μm/時間でゆっくり行う。
【0101】
エピタキシャル条件は、各種パラメータがあるが、最適条件は、エピタキシャル後の表面状態で判断する。表面が鏡面であれば合格である。もし、エピタキシャル条件のみでドーパントの活性化が不十分の場合は、Arガス雰囲気で追加の活性化高温処理を行えばよい。
【0102】
前記例で、ソース電極10とドレイン電極11をAl蒸着によりオーミックコンタクトを形成したが、Niを蒸着し、950℃、5分の熱処理でNiシリサイト化してオーミックコンタクトを取ることも可能である。
【0103】
蒸着はEBでもスパッタリングでもよいが、スパッタリングの方がステップカバレッジがよい。
【0104】
コンタクト金属にAlを使用した場合、ドレイン11にさらにNi/Cu/AgまたはNi/Cu/Snを続けて蒸着すれば、ダイボンド時に鉛フリーでの半田付けが容易なる。なお、前記のCuは省いてもよい。また、Alと接着強度を上げる目的とAlへの拡散を防ぐ意味で、バリア金属としてTiを介在させてもよい。例えば、ドレイン電極11がAl/Ti/Ni/Cu/Ag、またはAl/Ti/Ni/Agのごとくである。Tiと同じ性質のCrをTiの代わりに使用することができる。ただしCr環境問題があるので、注意が必要である。なお、Tiの代わりにTi/Wにすれば、バリア効果もっと強固にできる。
【0105】
裏面が全面金属電極であるとスクライブラインが見えないので、表からダイシングすることになる。もし裏面からダイシングする必要がある場合は、リフトオフまたはエッチングにより、
図5に示すごとく、裏面にドレイン電極11を一部除去したスクライブラインを設けてもよい。
【0106】
このようにして完成したウェハをダイシングして、チップにする。このチップをパッケージの放熱板にダイボンドする。ダイボンドは、例えば、鉛フリーの半田付けで行う。
【0107】
ダイボンド後、電極10及びゲート電極を含む表側電極をAlの超音波ワイヤボンドでパッケージの電極と電気的に接続する。ワイヤはAlの代わりにAuワイヤやCuワイヤも使用可能であるが、それぞれ課題がある。
【0108】
パッケージは、各種パワー用パッケージ、例えばTO220やTO263に組み立てることができる。
【0109】
オン抵抗をさらに下げるためには、エピタキシャルの温度、ガス、成長速度、ドーパント、ドーピング濃度、エピタキシャル膜厚、エピタキシャル前の前処理等、最適化のための今後の課題は多々ある。
【0110】
しかし、本発明のpエピタキシャル層6#を設けることによるオン抵抗を下げる効果極めて大きいことが分かった。
【0111】
本構造は従来構造に比べ、pエピタキシャル層6#を設けただけのシンプルな構造である。
【0112】
本発明は、
図5に示すようにpエピタキシャル層6#が素子表面全体に広がっている。このことにより、ガードリング効果が出ている。p
+層5の端で生じ易い電界の集中の緩和に大いに貢献している。これにより耐圧不良による歩留まりの改善と信頼性の向上に役立っている。
【0113】
(実施形態2)
図6に示す構造は、実施形態1のpエピタキシャル層6#を一部エッチング除去したものである。エッチング除去する部分は必要に応じて行えばよい。
【0114】
なお、ガードリング効果を期待し、
図6では、チップの端の周辺にpエピタキシャル層6#を残している。
【0115】
実施形態1と異なるのはpエピタキシャル層6#を一部除去する部分であり、他は実施形態1と同じである。
【0116】
(実施形態3)
図7に示す如く、ドレイン11(裏面電極)を付ける前に、裏面ウェハ研磨を行いその後、裏面にp
+エピタキシャル層12を形成し、それからドレイン11(裏面電極)を付けたものである。
【0117】
p
+エピタキシャル層12は実施形態1で述べたpエピタキシャル層6#と同様な方法で行える。
【0118】
ドーパントはAlでドーピング濃度は、できるだけ高めにする。例えば、5×10
18〜1×10
20/cm
3。
【0119】
このようにして、SiCの非対称型IGBTが完成する。
【0120】
またn
−層2、pウェル層3、n
+層4のドーピング濃度は、必要なIGBTの特性に合わせて調整すればよい。
【0121】
完成したウェハをダイシングして、チップにし、実施形態1と同様に各種パワーパッケージに実装すればIGBTの完成品ができる。
【課題】炭化珪素半導体(SiC)を材料としたパワーデバイスにおいてSiの昇華が防止されていて、なおかつ、注入したイオンの活性化が図られているSiC半導体とその製造方法を提案する。
【解決手段】SiCのnチャンネルMOSFETにおいて、イオン注入で形成したpウェル層の上にエピタキシャル成長により形成したpエピタキシャル層を備え、前記pエピタキシャル層の上にゲート酸化膜とゲートを設けた構造のSiC半導体。イオン注入で形成されたpウェル層の上に、エピタキシャル成長でpエピタキシャル層を形成し、前記pエピタキシャル層が半導体チップの端を含めた広範囲に形成されている構造を有しているSiC半導体。SiCの半導体形成において、イオン注入後のドーパントの活性化処理をSiCのエピタキシャル層を形成することにより行うSiC半導体製造方法。