【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みた、灌流培養によって細胞を培養する培養システムは、1つの態様として、培地及び前記細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させ、前記培養液の静置後、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させ、その後、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す。
【0009】
この構成によれば、分離槽において培養液を静置した後、まず、上方の上清液を分離槽から流出させた後に、下方の沈殿液を流出させる。例えば、先に下方の沈殿液を流出させると、上方の上清液も流動するため、培養液を静置して上清液と沈殿液とを分離したにも拘わらず、上清液と沈殿液との一部が混じり合う可能性がある。しかし、先に上方の上清液を流出させた場合には、相対的に下方の沈殿液は流動しにくい。従って、適切に上清液及び沈殿液をそれぞれ独立して分離槽から流出させることができる。また、分離槽から培養槽へ沈殿液を戻す際には、分離槽に残っている全ての培養液を戻すこともできる。従って、全ての細胞を培養槽に戻して再利用することができ、培養効率を高くすることができる。また、この構成によれば、培養液を静置して上清液と沈殿液とに分離するので、分離膜など、交換の必要な部材の利用が低減され、部材コストが削減されると共にメンテナンスの機会も減少する。このように、本構成によれば、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することのできる培養システムを提供することができる。
【0010】
ここで、前記回収路は、前記分離槽の中に配置される、水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口している開口部を有すると好適である。
【0011】
例えば、開口部が下方に向けて開口していると、分離槽内において培養液が回収路へと流入する過程で、最終的に下方から上方へ向かう培養液の流れが部分的に生じる。このため、分離槽の下方の沈殿液が当該流れに沿って上方に流れ、回収路から流出する可能性がある。これに対して、開口部が水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口していると、分離槽内において上方から下方へ向かう方向に沿って流れる培養液の一部が、そのまま回収路へと流入する。従って、沈殿液が混じることなく上清液を回収路から流出させることができる。
【0012】
前記回収路がそのような前記開口部を有する場合、前記回収路は、前記分離槽の中に配置される、本管部と、前記本管部から屈曲した屈曲部とを有し、前記開口部は前記屈曲部の先端に設けられていると好適である。
【0013】
開口部が、回収路の本管部から屈曲した屈曲部の先端に設けられていることで、回収路の先からの吸引力、又は分離槽からの押圧力が作用しなければ、上清液は回収路を流通しにくい。従って、培養液を充分に静置した上で、適切に上清液を分離槽から流出させることができる。
【0014】
また、前記回収路が、前記分離槽の中に、本管部と、前記本管部から屈曲した屈曲部と、前記屈曲部の先端に設けられた開口部とを有し、前記開口部は、水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口している場合、前記屈曲部は、鉤状に形成されていると好適である。
【0015】
ここで、鉤状とは、分離槽の内部における本管部の延伸方向と、開口部の開口方向とが、概ね180°(90°より大きく270°未満の間)となるように屈曲している形状である。また、角ばって屈曲する形状に限らず、円弧を伴って屈曲している形状も含む。このように、屈曲部が鉤状に形成されていると、上述したように、回収路の先からの吸引力、又は分離槽から押圧力が作用しなければ、上清液は回収路を流通しにくい。従って、培養液を充分に静置した上で、適切に上清液を分離槽から流出させることができる。
【0016】
また、培養システムが、前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、前記分離槽と前記第1接続路との接続状態を切り替える第1弁と、前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、前記分離槽と前記第2接続路との接続状態を切り替える第3弁と、をさらに備え、前記制御部は、前記気圧ポンプ、前記第1弁、前記第2弁、及び前記第3弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御すると好適である。
【0017】
この構成によれば、第1弁、第2弁、第3弁と協働し、気圧ポンプにより分離槽の内圧が調整されることによって、分離槽への培養液の流入、分離槽からの上清液の流出、分離槽からの沈殿液の流出が制御される。つまり、第1接続路、第2接続路、回収路のそれぞれに流体ポンプを設ける構成に比べて、培養システムの構成が小規模となる。
【0018】
ここで、前記制御部は、前記第1弁を開放すると共に前記第2弁及び前記第3弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を低下させて前記培養槽から前記分離槽に前記培養液を流入させ、前記第1弁及び前記第3弁を閉塞すると共に前記第2弁を開放した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記回収路に前記上清液を流出させ、前記第3弁を開放すると共に前記第1弁及び前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記培養槽に前記沈殿液を流出させると好適である。
【0019】
3つの弁の内、第1弁のみが開放されている状態では、培養液は第1接続路のみを流通可能である。3つの弁の内、第2弁のみが開放されている状態では、培養液(上清液)は回収路のみを流通可能である。3つの弁の内、第3弁のみが開放されている状態では、培養液(沈殿液)は第2接続路のみを流通可能である。このように分離槽に接続された流路の内、何れか1つのみを培養液が流通可能な状態で、分離槽の内圧を制御することで、適切に当該1つの流路を介して培養液を流通させることができる。つまり、簡単な制御によって適切に培養液を流通させることができる。
【0020】
ここで、前記第1弁、前記第2弁、及び前記第3弁は、何れか2つが閉塞状態となり、他の1つが開放状態となる共通の切替え弁であると好適である。
【0021】
この構成によれば、それぞれ独立した第1弁、第2弁、第3弁を設ける場合に比べて、培養システムの構成が小規模になる。
【0022】
また、別の態様として、前記第1接続路及び前記第2接続路が、共通の1つの接続路であり、培養システムが、前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、前記分離槽と前記接続路との接続状態を切り替える第1弁と、前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、をさらに備え、前記制御部が、前記気圧ポンプ、前記第1弁、及び前記第2弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御すると好適である。
【0023】
第1接続路及び第2接続路は、培養液(沈殿液を含む)の流通方向は異なるが、共に培養槽と分離槽とを接続する流路である。従って、第1接続路及び第2接続路を共通の接続路とすることによって、培養システムの構成を小規模にすることができる。また、第1弁、第2弁と協働し、気圧ポンプにより分離槽の内圧が調整されることによって、分離槽への培養液の流入、分離槽からの上清液の流出、分離槽からの沈殿液の流出が制御される。
つまり、接続路、回収路のそれぞれに流体ポンプを設ける構成に比べて、培養システムの構成が小規模となる。
【0024】
ここで、前記制御部は、前記第1弁を開放すると共に前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を低下させて前記培養槽から前記分離槽に前記培養液を流入させ、前記第1弁を閉塞すると共に前記第2弁を開放した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記回収路に前記上清液を流出させ、前記第1弁を開放すると共に前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記培養槽に前記沈殿液を流出させると好適である。
【0025】
2つの弁の内、第1弁のみが開放されている状態では、培養液(沈殿液を含む)は接続路のみを流通可能である。2つの弁の内、第2弁のみが開放されている状態では、培養液(上清液)は回収路のみを流通可能である。このように分離槽に接続された2つの流路の内、何れか一方のみを培養液が流通可能な状態で、分離槽の内圧を制御することで、適切に当該1つの流路を介して培養液を流通させることができる。特に、接続路においては、気圧ポンプによる分離槽の内圧の制御によって流通方向も切り替えることができる。このように、本構成によれば、簡単な制御によって適切に培養液を流通させることができる。
【0026】
ここで、前記第1弁及び前記第2弁は、相補的に閉塞状態及び開放状態となる共通の切替え弁であると好適である。
【0027】
この構成によれば、それぞれ独立した第1弁、第2弁を設ける場合に比べて、培養システムの構成が小規模になる。
【0028】
上述した培養システムの種々の技術的特徴は、培養方法にも適用可能である。以下にその代表的な態様を例示する。例えば、培養方法は、上述した培養システムの特徴を備えた各種の工程を有することができる。当然ながらこれらの培養方法も、上述した培養システムの作用効果を奏することができる。さらに、培養システムの好適な態様として、上述した種々の付加的特徴も、培養方法に組み込むことが可能であり、当該培養方法はそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。
【0029】
1つの好適な態様として、培養方法は、培地及び細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、を備えた培養装置を用いて、灌流培養によって前記細胞を培養する培養方法であって、前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させる第1工程と、前記第1工程に続き、前記培養液を静置する第2工程と、前記第2工程に続き、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させる第3工程と、前記第3工程に続き、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す第4工程と、を有する。
【0030】
この方法によれば、分離槽において培養液を静置した後、まず、上方の上清液を分離槽から流出させた後に、下方の沈殿液を流出させる。例えば、先に下方の沈殿液を流出させると、上方の上清液も流動するため、培養液を静置して上清液と沈殿液とを分離したにも拘わらず、上清液と沈殿液との一部が混じり合う可能性がある。しかし、先に上方の上清液を流出させた場合には、相対的に下方の沈殿液は流動しにくい。従って、適切に上清液及び沈殿液をそれぞれ独立して分離槽から流出させることができる。また、分離槽から培養槽へ沈殿液を戻す際には、分離槽に残っている全ての培養液を戻すこともできる。従って、全ての細胞を培養槽に戻して再利用することができ、培養効率を高くすることができる。また、この方法によれば、培養液を静置して上清液と沈殿液とに分離するので、分離膜など、交換の必要な部材の利用が低減され、部材コストが削減されると共にメンテナンスの機会も減少する。このように、本方法によれば、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することのできる培養方法を実現することができる。
【0031】
培養システム及び培養方法のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。