特許第6815618号(P6815618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6815618
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】培養システム及び培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-542027(P2020-542027)
(86)(22)【出願日】2020年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2020010322
【審査請求日】2020年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2019-48464(P2019-48464)
(32)【優先日】2019年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】石川 周太郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
(72)【発明者】
【氏名】林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】志村 祐作
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−504946(JP,A)
【文献】 特開平06−209761(JP,A)
【文献】 特開昭63−164879(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/162467(WO,A1)
【文献】 Cytotechnology,1993年,Vol.11,p.155-166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌流培養によって細胞を培養する培養システムであって、
培地及び前記細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、
前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、
前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、
前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、
前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、
前記分離槽と前記第1接続路との接続状態を切り替える第1弁と、
前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、
前記分離槽と前記第2接続路との接続状態を切り替える第3弁と、
前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記気圧ポンプ、前記第1弁、前記第2弁、前記第3弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御して、
前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させ、
前記培養液の静置後、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させ、
その後、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す、培養システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1弁を開放すると共に前記第2弁及び前記第3弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を低下させて前記培養槽から前記分離槽に前記培養液を流入させ、
前記第1弁及び前記第3弁を閉塞すると共に前記第2弁を開放した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記回収路に前記上清液を流出させ、
前記第3弁を開放すると共に前記第1弁及び前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記培養槽に前記沈殿液を流出させる、請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記第1弁、前記第2弁、及び前記第3弁は、何れか2つが閉塞状態となり、他の1つが開放状態となる共通の切替え弁である、請求項1又は2に記載の培養システム。
【請求項4】
灌流培養によって細胞を培養する培養システムであって、
培地及び前記細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、
前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、
前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、
前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、
前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御する制御部と、を備え、
前記第1接続路及び前記第2接続路は、共通の1つの接続路であり、
前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、
前記分離槽と前記接続路との接続状態を切り替える第1弁と、
前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記気圧ポンプ、前記第1弁、前記第2弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御して、
前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させ、
前記培養液の静置後、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させ、
その後、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す、培養システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1弁を開放すると共に前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を低下させて前記培養槽から前記分離槽に前記培養液を流入させ、
前記第1弁を閉塞すると共に前記第2弁を開放した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記回収路に前記上清液を流出させ、
前記第1弁を開放すると共に前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記培養槽に前記沈殿液を流出させる、請求項に記載の培養システム。
【請求項6】
前記第1弁及び前記第2弁は、相補的に閉塞状態及び開放状態となる共通の切替え弁である、請求項またはに記載の培養システム。
【請求項7】
前記回収路は、前記分離槽の中に配置される、水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口している開口部を有する、請求項1から6の何れか一項に記載の培養システム。
【請求項8】
前記回収路は、前記分離槽の中に配置される、本管部と、前記本管部から屈曲した屈曲部とを有し、前記開口部は前記屈曲部の先端に設けられている、請求項に記載の培養システム。
【請求項9】
前記屈曲部は、鉤状に形成されている、請求項に記載の培養システム。
【請求項10】
培地及び細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、
前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、
前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、
前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、
前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、
前記分離槽と前記第1接続路との接続状態を切り替える第1弁と、
前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、
前記分離槽と前記第2接続路との接続状態を切り替える第3弁と、を備えた培養装置を用い、前記気圧ポンプ、前記第1弁、前記第2弁、前記第3弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御して、灌流培養によって前記細胞を培養する培養方法であって、
前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させる第1工程と、
前記第1工程に続き、前記培養液を静置する第2工程と、
前記第2工程に続き、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させる第3工程と、
前記第3工程に続き、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す第4工程と、を有する培養方法。
【請求項11】
培地及び細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、
前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、
前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、
前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、を備え
前記第1接続路及び前記第2接続路が、共通の1つの接続路であり、
前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、
前記分離槽と前記接続路との接続状態を切り替える第1弁と、
前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、をさらに備えた培養装置を用い、前記気圧ポンプ、前記第1弁、前記第2弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御して、灌流培養によって前記細胞を培養する培養方法であって、
前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させる第1工程と、
前記第1工程に続き、前記培養液を静置する第2工程と、
前記第2工程に続き、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させる第3工程と、
前記第3工程に続き、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す第4工程と、を有する培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌流培養によって細胞を培養する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体用の医薬品など、細胞による産生物を生成する主流の方式として、フェドバッチ培養(fed batch culture)が知られている。フェドバッチ培養は、細胞の栄養を含む培地を用いて細胞を培養中に、培地や培地中の特定の成分を添加し、増殖性の最適化や、老廃物等の希釈による生産性の維持などを行う培養方法である。近年、フェドバッチ培養よりも、ランニングコストは高くなるが、培地中の細胞密度を高くすることができ、産生物の生産性も高くすることができる灌流培養(perfusion culture)が注目されている。灌流培養は、培地を含む培養液を収容する培養槽の中で細胞を培養し、培養液を灌流させて培養液の中から細胞が産生する産生物を取り出す培養方法である。そして、灌流される培養液から産生物や細胞の老廃物などを分離する方法としては、TFF(Tangential Flow Filtration)やATF(Alternating Tangential Flow)などの膜分離、超音波を用いるAWS(Acoustic Wave Separation)、遠心分離などがある。
【0003】
例えば、膜分離の一例として、国際公開第2014/051503号には、複数の膜が保持液側と透過液側とを画定している濾過用のフィルタユニットを備えたタンジェンシャルフロー灌流システムが開示されている。この灌流システムでは、フィルタユニットによって、培養槽に戻す細胞と、培養液から取り出す物質とを分離している。
【0004】
また、AWSの一例として、国際公開第2015/102528号には、培養槽と、音響定在波細胞分離器とを備えた細胞培養用の装置が開示されている。音響定在波細胞分離器は、音響定在波を発生させる超音波圧電トーンスデューサと、音響共鳴チャンバーとを有する。細胞を含む培養液が音響共鳴チャンバーを通る際に、細胞は、音響定在波の節によって保持され、音響チャンバーからは細胞が除かれた培養液を取り出すことができる。また、例示は省略するが、遠心分離では、分離装置に回転装置を備えて、遠心力を利用して物質の密度差により細胞を分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/051503号
【特許文献2】国際公開第2015/102528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、膜分離は、適切な膜を選択することにより高い分離能力を持たせることができる。一方、細胞を長期間培養した場合には、膜が目詰まりするおそれがあり、比較的短期間でのメンテナンスを要し、膜の交換などで高コストとなる場合がある。物質の密度差を利用した遠心分離は、短時間で効率良く細胞を分離することができるが、分離装置の構造が複雑化する傾向がある。また、超音波を用いるAWSは、培養システムが高コスト化する傾向がある。
【0007】
上記に鑑みて、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することのできる培養技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みた、灌流培養によって細胞を培養する培養システムは、1つの態様として、培地及び前記細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させ、前記培養液の静置後、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させ、その後、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す。
【0009】
この構成によれば、分離槽において培養液を静置した後、まず、上方の上清液を分離槽から流出させた後に、下方の沈殿液を流出させる。例えば、先に下方の沈殿液を流出させると、上方の上清液も流動するため、培養液を静置して上清液と沈殿液とを分離したにも拘わらず、上清液と沈殿液との一部が混じり合う可能性がある。しかし、先に上方の上清液を流出させた場合には、相対的に下方の沈殿液は流動しにくい。従って、適切に上清液及び沈殿液をそれぞれ独立して分離槽から流出させることができる。また、分離槽から培養槽へ沈殿液を戻す際には、分離槽に残っている全ての培養液を戻すこともできる。従って、全ての細胞を培養槽に戻して再利用することができ、培養効率を高くすることができる。また、この構成によれば、培養液を静置して上清液と沈殿液とに分離するので、分離膜など、交換の必要な部材の利用が低減され、部材コストが削減されると共にメンテナンスの機会も減少する。このように、本構成によれば、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することのできる培養システムを提供することができる。
【0010】
ここで、前記回収路は、前記分離槽の中に配置される、水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口している開口部を有すると好適である。
【0011】
例えば、開口部が下方に向けて開口していると、分離槽内において培養液が回収路へと流入する過程で、最終的に下方から上方へ向かう培養液の流れが部分的に生じる。このため、分離槽の下方の沈殿液が当該流れに沿って上方に流れ、回収路から流出する可能性がある。これに対して、開口部が水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口していると、分離槽内において上方から下方へ向かう方向に沿って流れる培養液の一部が、そのまま回収路へと流入する。従って、沈殿液が混じることなく上清液を回収路から流出させることができる。
【0012】
前記回収路がそのような前記開口部を有する場合、前記回収路は、前記分離槽の中に配置される、本管部と、前記本管部から屈曲した屈曲部とを有し、前記開口部は前記屈曲部の先端に設けられていると好適である。
【0013】
開口部が、回収路の本管部から屈曲した屈曲部の先端に設けられていることで、回収路の先からの吸引力、又は分離槽からの押圧力が作用しなければ、上清液は回収路を流通しにくい。従って、培養液を充分に静置した上で、適切に上清液を分離槽から流出させることができる。
【0014】
また、前記回収路が、前記分離槽の中に、本管部と、前記本管部から屈曲した屈曲部と、前記屈曲部の先端に設けられた開口部とを有し、前記開口部は、水平方向よりも鉛直方向の上方に向けて開口している場合、前記屈曲部は、鉤状に形成されていると好適である。
【0015】
ここで、鉤状とは、分離槽の内部における本管部の延伸方向と、開口部の開口方向とが、概ね180°(90°より大きく270°未満の間)となるように屈曲している形状である。また、角ばって屈曲する形状に限らず、円弧を伴って屈曲している形状も含む。このように、屈曲部が鉤状に形成されていると、上述したように、回収路の先からの吸引力、又は分離槽から押圧力が作用しなければ、上清液は回収路を流通しにくい。従って、培養液を充分に静置した上で、適切に上清液を分離槽から流出させることができる。
【0016】
また、培養システムが、前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、前記分離槽と前記第1接続路との接続状態を切り替える第1弁と、前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、前記分離槽と前記第2接続路との接続状態を切り替える第3弁と、をさらに備え、前記制御部は、前記気圧ポンプ、前記第1弁、前記第2弁、及び前記第3弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御すると好適である。
【0017】
この構成によれば、第1弁、第2弁、第3弁と協働し、気圧ポンプにより分離槽の内圧が調整されることによって、分離槽への培養液の流入、分離槽からの上清液の流出、分離槽からの沈殿液の流出が制御される。つまり、第1接続路、第2接続路、回収路のそれぞれに流体ポンプを設ける構成に比べて、培養システムの構成が小規模となる。
【0018】
ここで、前記制御部は、前記第1弁を開放すると共に前記第2弁及び前記第3弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を低下させて前記培養槽から前記分離槽に前記培養液を流入させ、前記第1弁及び前記第3弁を閉塞すると共に前記第2弁を開放した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記回収路に前記上清液を流出させ、前記第3弁を開放すると共に前記第1弁及び前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記培養槽に前記沈殿液を流出させると好適である。
【0019】
3つの弁の内、第1弁のみが開放されている状態では、培養液は第1接続路のみを流通可能である。3つの弁の内、第2弁のみが開放されている状態では、培養液(上清液)は回収路のみを流通可能である。3つの弁の内、第3弁のみが開放されている状態では、培養液(沈殿液)は第2接続路のみを流通可能である。このように分離槽に接続された流路の内、何れか1つのみを培養液が流通可能な状態で、分離槽の内圧を制御することで、適切に当該1つの流路を介して培養液を流通させることができる。つまり、簡単な制御によって適切に培養液を流通させることができる。
【0020】
ここで、前記第1弁、前記第2弁、及び前記第3弁は、何れか2つが閉塞状態となり、他の1つが開放状態となる共通の切替え弁であると好適である。
【0021】
この構成によれば、それぞれ独立した第1弁、第2弁、第3弁を設ける場合に比べて、培養システムの構成が小規模になる。
【0022】
また、別の態様として、前記第1接続路及び前記第2接続路が、共通の1つの接続路であり、培養システムが、前記分離槽の内圧を調整する気圧ポンプと、前記分離槽と前記接続路との接続状態を切り替える第1弁と、前記分離槽と前記回収路との接続状態を切り替える第2弁と、をさらに備え、前記制御部が、前記気圧ポンプ、前記第1弁、及び前記第2弁を制御することで、前記培養液、前記上清液、及び前記沈殿液の流れを制御すると好適である。
【0023】
第1接続路及び第2接続路は、培養液(沈殿液を含む)の流通方向は異なるが、共に培養槽と分離槽とを接続する流路である。従って、第1接続路及び第2接続路を共通の接続路とすることによって、培養システムの構成を小規模にすることができる。また、第1弁、第2弁と協働し、気圧ポンプにより分離槽の内圧が調整されることによって、分離槽への培養液の流入、分離槽からの上清液の流出、分離槽からの沈殿液の流出が制御される。
つまり、接続路、回収路のそれぞれに流体ポンプを設ける構成に比べて、培養システムの構成が小規模となる。
【0024】
ここで、前記制御部は、前記第1弁を開放すると共に前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を低下させて前記培養槽から前記分離槽に前記培養液を流入させ、前記第1弁を閉塞すると共に前記第2弁を開放した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記回収路に前記上清液を流出させ、前記第1弁を開放すると共に前記第2弁を閉塞した状態で、前記気圧ポンプにより前記分離槽の内圧を上昇させて前記分離槽から前記培養槽に前記沈殿液を流出させると好適である。
【0025】
2つの弁の内、第1弁のみが開放されている状態では、培養液(沈殿液を含む)は接続路のみを流通可能である。2つの弁の内、第2弁のみが開放されている状態では、培養液(上清液)は回収路のみを流通可能である。このように分離槽に接続された2つの流路の内、何れか一方のみを培養液が流通可能な状態で、分離槽の内圧を制御することで、適切に当該1つの流路を介して培養液を流通させることができる。特に、接続路においては、気圧ポンプによる分離槽の内圧の制御によって流通方向も切り替えることができる。このように、本構成によれば、簡単な制御によって適切に培養液を流通させることができる。
【0026】
ここで、前記第1弁及び前記第2弁は、相補的に閉塞状態及び開放状態となる共通の切替え弁であると好適である。
【0027】
この構成によれば、それぞれ独立した第1弁、第2弁を設ける場合に比べて、培養システムの構成が小規模になる。
【0028】
上述した培養システムの種々の技術的特徴は、培養方法にも適用可能である。以下にその代表的な態様を例示する。例えば、培養方法は、上述した培養システムの特徴を備えた各種の工程を有することができる。当然ながらこれらの培養方法も、上述した培養システムの作用効果を奏することができる。さらに、培養システムの好適な態様として、上述した種々の付加的特徴も、培養方法に組み込むことが可能であり、当該培養方法はそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。
【0029】
1つの好適な態様として、培養方法は、培地及び細胞を含む培養液を収容して前記細胞を培養する培養槽と、前記培養液を静置して重力沈降によって上清液と前記細胞を含む沈殿液とに前記培養液を分離させる分離槽と、前記培養槽と前記分離槽とを接続する第1接続路及び第2接続路と、前記分離槽に接続されて前記上清液を回収する回収路と、を備えた培養装置を用いて、灌流培養によって前記細胞を培養する培養方法であって、前記培養槽から前記第1接続路を通って前記分離槽に前記培養液を流入させる第1工程と、前記第1工程に続き、前記培養液を静置する第2工程と、前記第2工程に続き、前記分離槽から前記回収路を通って前記上清液を流出させる第3工程と、前記第3工程に続き、前記沈殿液を前記分離槽から前記第2接続路を通って前記培養槽に戻す第4工程と、を有する。
【0030】
この方法によれば、分離槽において培養液を静置した後、まず、上方の上清液を分離槽から流出させた後に、下方の沈殿液を流出させる。例えば、先に下方の沈殿液を流出させると、上方の上清液も流動するため、培養液を静置して上清液と沈殿液とを分離したにも拘わらず、上清液と沈殿液との一部が混じり合う可能性がある。しかし、先に上方の上清液を流出させた場合には、相対的に下方の沈殿液は流動しにくい。従って、適切に上清液及び沈殿液をそれぞれ独立して分離槽から流出させることができる。また、分離槽から培養槽へ沈殿液を戻す際には、分離槽に残っている全ての培養液を戻すこともできる。従って、全ての細胞を培養槽に戻して再利用することができ、培養効率を高くすることができる。また、この方法によれば、培養液を静置して上清液と沈殿液とに分離するので、分離膜など、交換の必要な部材の利用が低減され、部材コストが削減されると共にメンテナンスの機会も減少する。このように、本方法によれば、メンテナンス性に優れ、低コストで効率良く細胞を分離することのできる培養方法を実現することができる。
【0031】
培養システム及び培養方法のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】培養システムの一例を模式的に示すブロック図
図2】培養システムの他の例を模式的に示すブロック図
図3】分離槽及び分離槽内の回収路の構成を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、培養システム及び培養方法の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、培養システムの一例を模式的に示すブロック図であり、図3は、分離槽及び分離槽内の回収路の構成を模式的に示す図である。図1及び図2に示すように、培養システム100は、灌流培養によって細胞を培養し、細胞による産生物を回収する。灌流培養は、細胞及び培地を含む培養液を、培養槽の外部で循環させ、その途中で細胞による産生物等を抜き出し、細胞を培養槽に戻す培養方法である。抜き出される対象となるのは、例えば病原体に対する抗体(利用対象の産生物)、細胞の活動による老廃物(廃棄対象の産生物)、死亡した細胞などである。図1及び図2に示すように、培養システム100は、培地貯留槽5と、培養槽3と、分離槽4と、処理装置6と、制御部7とを備えている。
【0034】
上述したように、灌流培養では、細胞及び培地を含む培養液を培養槽の外部で循環させ、その途中で細胞による産生物等を抜き出し、細胞を培養槽に戻している。例えば、図1に例示する培養システム100(図2と区別する場合は第1培養システム101)では、培養槽3、第1接続路1A、分離槽4、第2接続路1B、培養槽3の経路で培養液30が循環する。また、産生物等は、当該経路の途中、ここでは分離槽4から回収路2を介して抜き出される。また、図2に例示する培養システム100(図1と区別する場合は第2培養システム102)では、培養槽3、接続路1、分離槽4、接続路1、培養槽3の経路で培養液30が循環する。産生物等は、第1培養システム101と同様に、当該経路の途中の分離槽4から回収路2を介して抜き出される。
【0035】
培養槽3は、培養対象の細胞、及び当該細胞の培養に必要な栄養分を有する培地50を含む培養液30を収容して、当該細胞を培養する。実験室や検査室等で用いるような小型の培養システムでは、培養槽3として例えばフラスコや培養バッグ、バイオリアクターなどを用いることもできる。分離槽4は、培養液30を静置して重力沈降によって、上清液41と、細胞を含む沈殿液42とに培養液30を分離する。尚、液中に含まれる細胞の密度の観点では、上清液41は、液中に含まれる細胞の密度が相対的に低い培養液30であり、沈殿液42は、液中に含まれる細胞の密度が相対的に高い培養液30である。従って、上清液41に細胞が全く含まれていないとは限らず、上清液41に細胞が含まれていても良い。
【0036】
ここで、重力沈降の原理について説明する。例えば、生きている細胞に対して死亡した細胞は、破裂して破片(細胞デブリ)として存在している。また、細胞の産生物(抗体や老廃物など)は母体である細胞よりも小さい。そして、液体中における物質の沈降速度は、物体が球体状の粒子の場合、その径が大きいほど早くなる傾向がある。つまり、培養槽3に戻して再利用するべき生きている細胞は、培養液30中において、死亡した細胞の細胞デブリや産生物に比べて速い沈降速度で沈降する。従って、分離槽4における培養液30の静置時間を適切に管理することによって、生きている細胞を多く含む沈殿液42と、死亡した細胞の細胞デブリや産生物を多く含み且つ生きている細胞が少ない上清液41とに、培養液30を分離することができる。重力沈降とは、このように、物質によって異なる沈降速度を利用して流体中の物質を分離する方式をいう。
【0037】
第1培養システム101では、培養槽3と分離槽4とが、第1接続路1A及び第2接続路1Bにより接続されている。第2培養システム102では、培養槽3と分離槽4とが、接続路1により接続されている。第1培養システム101及び第2培養システム102に共通して、分離槽4には、上清液41を回収する回収路2が接続されている。回収路2は、処理装置6に接続され、培養槽3は、流体ポンプ15を介して培地貯留槽5に接続されている。
【0038】
処理装置6は、培養液30から抜き出された上清液41から、例えば病原体に対する抗体などの利用対象の産生物を取り出す処理装置である。細胞の活動による老廃物や死亡した細胞などは廃棄される。培地貯留槽5は、新鮮な培地50を貯留している。培養槽3中の培養液30に含まれる培地50は細胞に栄養分を与えることによって消耗する。このため、新鮮な培地50が培地貯留槽5から補充され、培養槽3中の培養液30の液量と細胞の培養に必要な栄養分とが維持される。尚、処理装置6は、単純に上清液41を貯蔵する容器であってもよい。
【0039】
培地50を供給するための流体ポンプ15としては、例えば、ローラーによってチューブを蠕動させることによって流体を送る蠕動型のポンプ(ペリスタルティックポンプ、チューブポンプ、ローラポンプ)を利用することができる。或いは、流体ポンプ15として、ポンプのインペラを密閉ケース内に収容し、当該密閉ケースの外部から磁気を作用させて非接触でインペラを回転させる磁気浮上型のポンプ(マグネットポンプ)を用いることも好適である。
【0040】
制御部7は、例えば、マイクロコンピュータなどを中核として構成され、培養液30、上清液41、沈殿液42、培地50の流れを制御する。制御部7は、マイクロコンピュータなどのハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現される。以下、第1培養システム101と第2培養システム102とのそれぞれについて詳細に説明する。
【0041】
はじめに、第1培養システム101について説明する。上述したように、第1培養システム101では、培養槽3と分離槽4とは、第1接続路1A及び第2接続路1Bにより接続されている。制御部7は、培養槽3から第1接続路1Aを通って分離槽4に培養液30を流入させ、培養液30の静置後、分離槽4から回収路2を通って上清液41を流出させ、その後、沈殿液42を分離槽4から第2接続路1Bを通って培養槽3に戻すように制御する。即ち、第1培養システム101では、主に以下の4つの工程(第1工程#1〜第4工程#4)が実施される。第1工程#1は、培養槽3から第1接続路1Aを通って分離槽4に培養液30を流入させる工程である。第2工程#2は、第1工程#1に続き、分離槽4において培養液30を所定時間(例えば30分〜120分)静置する工程である。第3工程#3は、第2工程#2に続き、分離槽4から回収路2を通って上清液41を流出させる工程である。第4工程#4は、第3工程#3に続き、沈殿液42を分離槽4から第2接続路1Bを通って培養槽3に戻す工程である。この他、第4工程#4に続き、培地貯留槽5から培養槽3に培地50を補充する第5工程#5が実施されてもよい。
【0042】
図1に示すように、第1培養システム101は、気体流路8を介して分離槽4と接続され、分離槽4の内圧を調整する気圧ポンプ18と、分離槽4と第1接続路1Aとの接続状態を切り替える第1弁11と、分離槽4と回収路2との接続状態を切り替える第2弁12と、分離槽4と第2接続路1Bとの接続状態を切り替える第3弁13とを備えている。制御部7は、気圧ポンプ18、第1弁11、第2弁12、第3弁13を制御することで、培養液30、上清液41、沈殿液42の流れを制御する。
【0043】
具体的には、制御部7は、第1工程#1において、第1弁11を開放すると共に第2弁12及び第3弁13を閉塞した状態で、気圧ポンプ18により分離槽4の内圧を低下させて培養槽3から分離槽4に培養液30を流入させる。第2工程#2では、1つの態様として、第1弁11、第2弁12、第3弁13を閉塞した状態で、気圧ポンプ18も停止させ、分離槽4内で培養液30を静置する(後述するように、気圧ポンプ18が停止しているため、必ずしも3つ全ての弁が閉塞状態でなくてもよい。)。第3工程#3では、第1弁11及び第3弁13を閉塞すると共に第2弁12を開放した状態で、気圧ポンプ18により分離槽4の内圧を上昇させて分離槽4から回収路2に上清液41を流出させる。第4工程#4では、第3弁13を開放すると共に第1弁11及び第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18により分離槽4の内圧を上昇させて分離槽4から培養槽3に沈殿液42を流出させる。
【0044】
このように分離槽4に接続された3つの流路の内、何れか1つのみを培養液30が流通可能な状態で、分離槽4の内圧を制御することで、適切に当該1つの流路を介して培養液30を流通させることができる。つまり、簡単な制御によって適切に培養液30を流通させることができる。
【0045】
第1培養システム101の上述した形態では、第1弁11、第2弁12、第3弁13は、同時に2つ以上が開放状態となることはなく、何れか1つが開放されて他の2つが閉塞された状態、或いは、全てが閉塞された状態に制御されている。従って、例えば、第1弁11、第2弁12、第3弁13は、何れか2つが閉塞状態となり、他の1つが開放状態となる共通の第1切替え弁10A(切替え弁10)とすることができる。好適には、当該第1切替え弁10Aは、全てが閉塞された状態も採り得るとよい。但し、何れか1つの弁が開放状態であっても、気圧ポンプ18が作動せず、分離槽4の内圧が維持されていれば、培養液30は何れの流路も流通しないので、当該第1切替え弁10Aは、必ずしも全てが閉塞された状態を採り得るものである必要はない。
【0046】
第2工程#2も、3つの弁の全てが閉塞されない状態で実施することができる。具体的には、第1弁11、第2弁12、第3弁13の内の少なくとも1つを閉塞した状態で、気圧ポンプ18も停止させ、分離槽4内で培養液30を静置してもよい。例えば、培養槽3と分離槽4とを接続する第1弁11及び第3弁13を閉塞し、分離槽4と回収路2とを接続する第2弁12が開放されていてもよい。第2工程では、気圧ポンプ18が停止しているため、第2弁12が開放されていても、分離槽4から回収路2へ培養液30(上清液41)は流出しない。第1弁11及び第3弁13が閉塞され、第2弁12が開放されている状態は、第3工程#3における弁の状態であるから、第2工程#2から第3工程#3へ遷移する際の制御が簡略化できる。また、第2工程#2における弁の状態は、培養システム100の構造に応じて設定されてもよい。例えば、第1弁11及び第3弁13が分離槽4の下方に設けられ、回収路2が分離槽4の上方に設けられているような場合、重力によって培養液30が移動し易い第1弁11及び第3弁13が閉塞され、重力により培養液30が移動し難い第2弁12が開放されるような形態であってもよい。
【0047】
次に、第2培養システム102について説明する。上述したように、第2培養システム102では、培養槽3と分離槽4とは、1つの接続路1により接続されている。制御部7は、培養槽3から接続路1を通って分離槽4に培養液30を流入させ、培養液30の静置後、分離槽4から回収路2を通って上清液41を流出させ、その後、沈殿液42を分離槽4から接続路1を通って培養槽3に戻すように制御する。即ち、第2培養システム102では、主に以下の4つの工程(第1工程#1〜第4工程#4)が実施される。尚、工程の名称及び符号については、第1培養システム101と同様としている。
【0048】
第1工程#1は、培養槽3から接続路1を通って分離槽4に培養液30を流入させる工程である。第2工程#2は、第1工程#1に続き、分離槽4において培養液30を所定時間(例えば30分〜120分)静置する工程である。第3工程#3は、第2工程#2に続き、分離槽4から回収路2を通って上清液41を流出させる工程である。第4工程#4は、第3工程#3に続き、沈殿液42を分離槽4から接続路1を通って培養槽3に戻す工程である。この他、第4工程#4に続き、培地貯留槽5から培養槽3に培地50を補充する第5工程#5が実施されてもよい。
【0049】
図2に示すように、第2培養システム102は、気体流路8を介して分離槽4と接続され、分離槽4の内圧を調整する気圧ポンプ18と、分離槽4と接続路1との接続状態を切り替える第1弁11と、分離槽4と回収路2との接続状態を切り替える第2弁12とを備えている。制御部7は、気圧ポンプ18、第1弁11、第2弁12を制御することで、培養液30、上清液41、沈殿液42の流れを制御する。
【0050】
尚、単純に流路を閉塞するか開放するかの制御を行う機能を有する場合には、第1培養システム101の第1弁11と、第2培養システムの第1弁11とは、同じものであってよい。但し、逆止弁のように通流方向を規制する機能を有する場合などでは、第1培養システム101の第1弁11と、第2培養システムの第1弁11とが異なるものであってよい。そのような場合には、第1培養システム101の第1弁11については、第1培養システム第1弁11Aと称し、第2培養システム102の第1弁11については、第2培養システム第1弁11Bと称する。この場合、第2培養システム第1弁11Bは、第1培養システム第1弁11Aと、第3弁13とを兼ね備えたものである。第2弁12については、何れの場合であっても、第1培養システム101と第2培養システム102とで、同一の弁を使用してよい。
【0051】
即ち、第1培養システム101と第2培養システム102とは、構成上は、培養槽3と分離槽4とが、2つの流路(第1接続路1A及び第2接続路1B)により接続されているか、1つの流路(接続路1)により接続されているかという点で相違している。つまり、第2培養システム102では、第1培養システム101における第1接続路1A及び第2接続路1Bが、共通の1つの接続路1となっている。また、このため、第1培養システム101が3つの弁(第1弁11、第2弁12、第3弁13)を備えるのに対して、第2培養システム102は2つの弁(第1弁11、第2弁12)のみを備える。従って、第1培養システム101に比べて、第2培養システム102は、システム構成が小規模となる。
【0052】
制御部7は、第1工程#1において、第1弁11を開放すると共に第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18により分離槽4の内圧を低下させて培養槽3から接続路1を通って分離槽4に培養液を流入させる。第2工程#2では、1つの態様として、第1弁11及び第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18も停止させ、分離槽4内で培養液30を静置する(後述するように、気圧ポンプ18が停止しているため、必ずしも2つの弁が共に閉塞状態でなくてもよい。)。第3工程#3では、第1弁11を閉塞すると共に第2弁12を開放した状態で、気圧ポンプ18により分離槽4の内圧を上昇させて分離槽4から回収路2に上清液41を流出させる。第4工程#4では、第1弁11を開放すると共に第2弁12を閉塞した状態で、気圧ポンプ18により分離槽4の内圧を上昇させて分離槽4から接続路1を通って培養槽3に沈殿液42を流出させる。
【0053】
このように分離槽4に接続された2つの流路の内、何れか一方のみを培養液30が流通可能な状態で、分離槽4の内圧を制御することで、適切に何れか一方の流路を介して培養液30を流通させることができる。つまり、簡単な制御によって適切に培養液30を流通させることができる。
【0054】
第2培養システム102の上述した形態では、第1弁11、第2弁12は、同時に2つ以上が開放状態となることはなく、何れか一方が開放されて他方が閉塞された状態、或いは、双方が閉塞された状態に制御されている。従って、例えば、第1弁11、第2弁12は、何れか一方が閉塞状態となり、他方が開放状態となる共通の第2切替え弁10B(切替え弁10)、即ち、相補的に閉塞状態及び開放状態となる共通の第2切替え弁10Bとすることができる。好適には、当該第2切替え弁10Bは、双方が閉塞された状態も採り得るとよい。但し、一方の弁が開放状態であっても、気圧ポンプ18が作動せず、分離槽4の内圧が維持されていれば、培養液30は何れの流路も流通しないので、当該第2切替え弁10Bは、必ずしも双方が閉塞された状態を採り得るものである必要はない。
【0055】
第2工程#2も、2つの弁が共に閉塞されない状態で実施することができる。具体的には、第1弁11及び第2弁12の内の少なくとも一方を閉塞した状態で、気圧ポンプ18も停止させ、分離槽4内で培養液30を静置してもよい。例えば、培養槽3と分離槽4とを接続する第1弁11を閉塞し、分離槽4と回収路2とを接続する第2弁12が開放されていてもよい。第2工程では、気圧ポンプ18が停止しているため、第2弁12が開放されていても、分離槽4から回収路2へ培養液30(上清液41)は流出しない。第1弁11が閉塞され、第2弁12が開放されている状態は、第3工程#3における弁の状態であるから、第2工程#2から第3工程#3へ遷移する際の制御が簡略化できる。また、第2工程#2における弁の状態は、培養システム100の構造に応じて設定されてもよい。例えば、第1弁11が分離槽4の下方に設けられ、回収路2が分離槽4の上方に設けられているような場合、重力によって培養液30が移動し易い第1弁11が閉塞され、重力により培養液30が移動し難い第2弁12が開放されるような形態であってもよい。
【0056】
尚、第1培養システム101及び第2培養システム102に共通して、気圧ポンプ18を用いて分離槽4の内圧を制御する上では、分離槽4は、密閉された気密容器であると好適である。例えば、図3に示すように、分離槽4の上部が封止部材9により封止されていると好適である。尚、密閉(気密)とは、分離槽4の内圧或いは外圧が所定値以内であれば、分離槽4の中と外との間で空気が流通しないように維持される状態をいう。また、この際の所定値は、流路を介して培養液30を流通させることが可能な圧力であると好適である。
【0057】
ところで、図1及び図2に示すように、第1培養システム101及び第2培養システム102に共通して、回収路2は、分離槽4の中に、本管部2aと、本管部2aから屈曲した屈曲部2bと、屈曲部の先端に設けられた開口部2cとを有すると好適である。そして、図3に示すように、この開口部2cは、水平方向Xよりも鉛直方向Yの上方に向けて開口していると好適である。当然ながら、回収路2がこのように屈曲していない構成を妨げるものではなく、また、回収路2の分離槽4内における開口部2cが鉛直方向Yの下方に向けて開口している構成を妨げるものでもない。また、図3においては、回収路2が分離槽4の上方から下方へと延びるように配置されている形態を例示しているが、この形態に限らず、回収路2が分離槽4の側面や下部に設けられる形態を妨げるものではない。
【0058】
例えば、開口部2cが鉛直方向Yの下方に向けて開口していると、分離槽4内において培養液30が回収路2へ流入する過程で、最終的に下方から上方へ向かう方向に沿う培養液30の流れが部分的に生じる。このため、分離槽4の下方に位置する沈殿液42が当該流れに沿って上方に流れ、分離された上清液41と沈殿液42との一部が混ざり合う可能性がある。そして、沈殿液42の一部が、回収路2から流出する可能性がある。これに対して、開口部2cが上方に向けて開口していると、分離槽4内において上方から下方へ向かう方向に沿って流れる培養液30の一部が、そのまま回収路2へと流入する。従って、沈殿液42が混じることなく上清液41を回収路2から流出させることができる。また、開口部2cが、回収路2の本管部2aから屈曲した屈曲部2bの先端に設けられていると、回収路2の先からの吸引力、又は分離槽4からの押圧力が作用しなければ、上清液41は回収路2を流通しにくい。従って、培養液30を充分に静置した上で、適切に上清液41を分離槽から流出させることができる。
【0059】
また、図1から図3に示すように、回収路2の屈曲部2bは、鉤状に形成されていると好適である。ここで、鉤状とは、分離槽4の内部における本管部2aの延伸方向と、開口部2cの開口方向とが、概ね180°(90°より大きく270°未満の間)となるように屈曲している形状である。また、屈曲部2bの形状は、図1図2の模式的なブロック図に示すような角ばって屈曲する形状に限らず、図3に示すように円弧を伴って屈曲している形状も含む。このように、屈曲部2bが鉤状に形成されていると、上述したように、回収路2の先からの吸引力、又は分離槽からの押圧力が作用しなければ、上清液41は回収路2を流通しにくい。従って、培養液30を充分に静置した上で、適切に上清液41を分離槽4から流出させることができる。
【0060】
尚、開口部2cの鉛直方向Yにおける位置は、培養液30が静置される際の液面から分離槽4の底までの鉛直方向Yに沿った長さの10〜60%分、好ましくは20〜50%分、液面から低い位置であると好適である。上清液41は、開口部2cが位置する高さが液面となるまで回収路2を介して流出させることができる。従って、上述した第2工程#2により充分に上清液41と沈殿液42とが分離できていると考えられる境界位置に、開口部2cが設定されると好適である。
【0061】
また、図3に示すように、分離槽4は、鉛直方向Yに対して傾斜するように設置されると好適である。この際の傾斜角θ(水平方向Xに対する角度)は、例えば、45°から60°である。分離槽4がこのように傾斜していると、細胞は、鉛直方向Yに沿って傾斜面4aに向かって沈降すると共に、傾斜面4aに沿って鉛直方向Yの下方に移動し易い。従って、より短時間で細胞を沈降させて効率的に沈殿液42と上清液41とに培養液30を分離することができる。また、第2培養システム102において培養槽3と分離槽4とを接続する接続路1、及び、第1培養システム101において培養槽3と分離槽4とを接続する流路の内、少なくとも分離槽4から培養槽3へ沈殿液42を流通させる第2接続路1Bは、分離槽4の下部(好ましくは最下部)に接続されていると好適である。細胞が沈降した沈殿液42を適切に培養槽3へ流通させることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 :接続路
1A :第1接続路
1B :第2接続路
2 :回収路
2a :本管部
2b :屈曲部
2c :開口部
3 :培養槽
4 :分離槽
7 :制御部
10 :切替え弁
10A :第1切替え弁(切替え弁)
10B :第2切替え弁(切替え弁)
11 :第1弁
11A :第1培養システム第1弁(第1弁)
11B :第2培養システム第1弁(第1弁)
12 :第2弁
13 :第3弁
18 :気圧ポンプ
30 :培養液
41 :上清液
42 :沈殿液
50 :培地
100 :培養システム
101 :第1培養システム(培養システム)
102 :第2培養システム(培養システム)
X :水平方向
Y :鉛直方向
【要約】
培養システム(100)は、細胞を培養する培養槽(3)と、重力沈降によって上清液(41)と細胞を含む沈殿液(42)とに培養液(30)を分離させる分離槽(4)と、培養槽(3)と分離槽(4)とを接続する第1接続路(1A)及び第2接続路(1B)と、分離槽(4)に接続されて上清液(41)を回収する回収路(2)と、培養液(30)、上清液(41)、沈殿液(42)の流れを制御する制御部(7)とを備える。制御部(7)は、培養槽(3)から第1接続路(1A)を通って分離槽(4)に培養液(30)を流入させ、培養液(30)の静置後、分離槽(4)から回収路(2)を通って上清液(41)を流出させ、その後、沈殿液(42)を分離槽(4)から第2接続路(1B)を通って培養槽(3)に戻す。
図1
図2
図3