(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
還元剤を用いて液中で銅イオンを還元する湿式の銅粉の製造方法に関する従来の技術が種々知られている。例えば特許文献1には、アミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、ケトン類、アミノ酸類、アルカノールアミン類又はそれらの塩等から選ばれる錯化剤、及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させる方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、錯化剤及びタンパク質系保護剤の存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させる工程を有する金属銅微粒子の製造方法が記載されている。錯化剤としては、窒素、酸素、硫黄をドナー原子とする化合物が用いられている。その具体例としてはアミノポリカルボン酸類が挙げられている。
【0004】
特許文献3には、分散剤としてポリエチレンイミンを添加して、銅の酸化物、水酸化物又は塩をポリエチレングリコール又はエチレングリコール溶液中で加熱還元し、銅微粒子を生成させる金属銅微粒子の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献4には、分散剤としてポリビニルピロリドンを添加して、金属塩を還元性の有機溶媒中に溶解あるいは分散してなる溶液に、マイクロ波を照射するこ
とによって、金属微粒子を生成させる金属超微粒子の製造方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の製造方法は、湿式で、すなわち水性液中で銅粒子を得る。銅粒子の銅源として本発明においては銅錯体を用いている。この銅錯体は、中心金属元素としての銅イオンに配位子が配位した構造を有している。この銅イオンとしては一般に正二価の電荷を有するものが用いられる。
【0013】
銅イオンに配位して銅錯体を形成するために用いられる配位子として、本発明においては−(C=O)O−部位を複数有する化合物を用いている。そのような化合物としてはアミノポリカルボン酸類を用いることが好ましい。アミノポリカルボン酸類としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミン四酢酸(GEDA)などが挙げられる。これらのアミノポリカルボン酸類のうち、微粒で、且つ焼結温度の低い銅粒子が容易に得られる観点から、−(C=O)O−部位を3個又は4個有する化合物を配位子として用いることが好ましく、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)やニトリロ三酢酸(NTA)を用いることが好ましく、とりわけニトリロ三酢酸(NTA)を用いることが好ましい。すなわち銅錯体として、銅−ニトリロ三酢酸錯体を用いることが好ましい。この銅錯体においては一般に正二価の銅イオン1個に対して1個のニトリロ三酢酸が配位している。銅イオンに配位しているニトリロ三酢酸の状態は、該銅錯体が溶解している水溶液のpHに依存する。
【0014】
銅錯体として銅−ニトリロ三酢酸錯体を用いる場合、この銅錯体は好適には以下に述べる手順によって調製することができる。すなわち、水溶性のニトリロ三酢酸塩、例えばニトリロ三酢酸二ナトリウムを準備し、これを水に溶解させてニトリロ三酢酸の水溶液を調製する。この水溶液に銅源化合物を添加する。銅源化合物としては、例えば二価の銅化合物を用いることができる。その具体例としては、水酸化銅(II)、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)などが挙げられる。銅源化合物が水溶性である場合には、該銅源化合物を前記の水溶液に添加することで、該水溶液中に銅−ニトリロ三酢酸錯体が生成する。銅源化合物が水不溶性である場合には、水溶液のpHを調整して該銅源化合物を水に溶解させる。例えば水不溶性の化合物である水酸化銅(II)を銅源化合物として用いる場合、ニトリロ三酢酸の水溶液に水酸化銅(II)を添加した後、該水溶液に塩基性化合物を適量添加する。塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることが好適である。塩基性化合物の添加量は、水酸化銅(II)が水に溶解するpHとなるような量とする。それによって水溶液中に銅−ニトリロ三酢酸錯体が生成する。銅−ニトリロ三酢酸錯体が生成後の水溶液中に未反応の固形分が残存している場合には、濾過等の分離手段を用いて該固形分を除去する。水溶液中の銅錯体の濃度は、銅イオンに基づき0.001mol/L以上1mol/L以下とすることが好ましく、0.1mol/L以上0.5mol/L以下とすることが更に好ましい。
【0015】
このようにして得られた銅錯体の水溶液に還元剤を添加して、該還元剤を該銅錯体に作用させ、該銅錯体中の銅イオンを金属銅に還元する。本製造方法において還元剤の添加方法は特に制限されるものではなく、還元剤の全量を一括添加してもよく、あるいは所定の時間にわたり連続滴下してもよい。これらの方法のうち、連続滴下を採用することで、還元反応による発泡を抑えることができるという利点がある。還元剤を作用させるのに際しては、銅錯体の水溶液中に、粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための剤を存在させないことが重要である。かかる剤が銅錯体の水溶液中に存在した状態で該銅錯体中の銅イオンを還元させると、還元によって生成した銅粒子の表面に該剤が付着してしまう。該剤が表面に付着した銅粒子は、該剤の存在に起因して焼結が生じにくくなるので、焼結開始温度が高くなる傾向にあるという不都合を該銅粒子は有している。
【0016】
本明細書において粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための剤とは、銅粒子の表面に付着して、該銅粒子間の凝集を抑制する機能、及び/又は該銅粒子の酸化を抑制する機能を有する化合物を広く包含する。その意味で、以下に説明においては、この剤のことを便宜的に「保護剤」と称する。保護剤としては、例えば天然高分子や合成高分子などの有機高分子化合物が挙げられる。天然高分子としては、例えばゼラチン等のタンパク質、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダなどが挙げられる。合成高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びエチルセルロース等のセルロース系化合物、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドン等のポリビニル系化合物、ポリアクリル酸ソーダ及びポリアクリル酸アンモニウム等のポリアクリル酸系化合物、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。その他、保護剤としては、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩、ステアリン酸、ラウリン酸及びオレイン酸といった鎖状脂肪酸などが挙げられる。また、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウム等の半金属又は金属を含有する各種のカップリング剤も挙げられる。
【0017】
本発明においては、銅錯体に還元剤を作用させるのに際しては、系内に保護剤が全く存在しないことが最も好ましいが、本発明の効果を損なわない限りにおいて不可避的に微量の保護剤が混入することは許容される。したがって本発明における「粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための剤の不存在下」とは、そのような意味に解釈されるべきものである。
【0018】
銅錯体に還元剤を作用させるのに際して、系内のpHは8.0以上14.0以下に設定することが好ましく、8.6以上13.0以下に設定することが更に好ましく、8.9以上12.9以下に設定することが一層好ましい。特に、還元剤としてヒドラジンを用いる場合、系内のpHは12.4以上に設定することが、粒子の凝集を効果的に防ぐ観点から特に好ましい。このpHの範囲内の水溶液に還元剤を添加することで、微粒で、且つ焼結温度の低い銅粒子が容易に得られる。pHの調整には各種の酸や塩基性物質を用いることができる。例えば水酸化ナトリウムやアンモニアを用いることができる。
【0019】
銅錯体に作用させる還元剤としては、該銅錯体における銅イオンを金属銅にまで還元し得る還元能を有する化合物を特に制限なく用いることができる。そのような還元剤としては、例えばヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン及び抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの還元剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ヒドラジンを初めとするヒドラジン系化合物は還元力が強いので好適に用いられ、とりわけヒドラジンは還元後に不純物の発生が少ないので特に好適に用いられる。還元剤の使用量は、銅錯体から銅粒子を生成できる量であれば特に制限はなく、適宜設定することができる。一般に銅1モルに対して0.5モル以上50モル以下の範囲で還元剤を使用することが好ましい。この範囲内で還元剤を使用することで、還元を過度に進行させることなく、微粒の銅粒子を十分に生成させることができる。この観点から、更に好ましい還元剤の使用量は、銅1モルに対して1モル以上5モル以下の範囲である。
【0020】
銅錯体を含む水溶液に還元剤を添加したら、液の撹拌を所定時間継続してエージングを行う。還元剤を添加するときの水溶液の温度、及びエージング時の水溶液の温度は、本製造方法において臨界的なものではなく、一般に20℃以上25℃以下の室温で行うことができる。このようにして、目的とする銅粒子を得ることができる。このようにして得られた銅粒子は、粒子間での凝集を抑制するための剤からなる層を粒子表面に有していないものとなる。また、このようにして得られた銅粒子は、一般に球状のものとなる。球状の銅粒子は、その分散性を高めやすい観点から好ましい。なお、本発明は、本発明の意義が損なわれない程度において、得られた銅粒子が他の元素を不可避的に含むことや、銅粒子表面が酸化されることを排除するものではない。
【0021】
本製造方法においては、上述の工程における還元剤を作用させるときのpHを適切に設定することで、得られる銅粒子の粒径を調整することができる。例えば一次粒子の平均粒径Dが0.01μm以上0.3μm以下という微粒の銅粒子を得ることができる。銅粒子の平均粒径Dを0.3μm以下に設定することによって、銅粒子を用いて膜を形成するときに、銅粒子が低温で焼結しやすくなる。また、粒子間に空隙が生じにくく、膜の比抵抗を低下させることができる。一方、銅粒子の平均粒径Dを0.01μm以上に設定することによって、銅粒子を焼成するときの粒子の収縮を防止することができる。これらの観点から、前記の平均粒径Dは、0.02μm以上0.21μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.10μm以下であることが更に好ましい。本発明において、銅粒子の一次粒子の平均粒径Dは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡による観察像を用いて測定した複数の粒子のHeywood径の算術平均粒径である。
【0022】
このようにして得られた銅粒子は、純水リパルプ洗浄やデカンテーション法等による洗浄後、水やアルコール等の有機溶剤等に分散させてスラリーとしてもよい。また銅粒子を乾燥させて乾燥粉としてもよい。更に、得られた銅粒子を、後述するように溶剤や樹脂等を添加して、インクやペースト等の組成物としてもよい。この組成物は、導電性又は熱伝導性組成物として好適に用いることができる。
【0023】
従来、保護剤の層を有さず、且つ微粒の銅粒子は、乾燥させると凝集してしまうため、乾燥粉として取り出すことは難しかった。このため、従来、このような銅粉を保管・搬送する際には、銅粒子に水や有機溶媒、樹脂等を添加して、水性スラリーやペーストの形態としていた。これに対し、本発明の製造方法で得られた銅粒子は、保護剤の層を有していないにも関わらず、乾燥させても凝集しにくいので、乾燥粉として保管・搬送できる。このことは、銅粒子の保管スペースを削減でき、搬送しやすい等の点で有利である。
【0024】
先に述べたとおり、本発明の製造方法で得られた銅粒子は、粒子間での凝集を抑制するための剤からなる層を粒子表面に有していないものとなる。この理由によって、該銅粒子は低温焼結性が良好なものとなる。この低温焼結性を一層良好にする観点から、該銅粒子は、保護剤の層を形成する元素の含有量が極力少ないことが好ましい。具体的には、従来、保護剤の層の成分として銅粉に存在していた炭素の含有量が、銅粒子全体に対して1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることが更に好ましく、0.7質量%以下であることが更に一層好ましい。保護剤の層の成分として銅粉に存在していた炭素の含有量について、銅粉の比表面積を基準として考えた場合、銅粉における炭素含有割合をPc(質量%)とし、銅粉の比表面積をSSA(m
2/g)としたとき、PcとSSAとの比であるPc/SSAの値を0.1以下に設定することが好ましく、0.09以下に設定することが更に好ましく、0.08以下に設定することが一層好ましく、0.07以下に設定することが更に一層好ましい。Pc/SSAの値は低い方が好ましいが、典型的な下限値は0.005程度である。
【0025】
本発明の製造方法で得られた銅粒子の焼結性に関しては、焼結開始温度が低い方が好ましく、具体的に好ましい焼結開始温度としては240℃以下であり、更に好ましくは225℃以下であり、更に一層好ましくは210℃以下である。現実的な下限としては170℃程度である。焼結開始温度が前記の範囲であると、ポリイミドからなるフレキシブル基板の配線材料として本発明の製造方法で得られた銅粒子を好適に用いることができる。この理由は、一般にフレキシブル基板に用いるポリイミドのガラス転移点が240℃超であることによる。
【0026】
上述した焼結開始温度は、3体積%H
2−N
2雰囲気の炉の中に銅粒子を静置し、炉の温度を次第に上昇させることによって測定することができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。焼結が開始したか否かは、炉から取り出した銅粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子間に面会合が起きているか否かによって判断する。面会合とは、一つの粒子の面と他の粒子の面とが連続するように粒子同士が一体化した状態をいう。
【0027】
以上のとおり、本発明によれば、銅粒子生成のための原料化合物として銅錯体を用いることで、銅粒子を合成する系内に保護剤が存在していなくても、凝集が起こりづらい銅粒子が得られる。これに対して、従来技術、例えば特許文献2に記載の技術では、銅粒子生成のための原料化合物として銅の酸化物を用い、これを、ニトリロ三酢酸等の錯化剤を含む水溶液内で還元しているところ、この方法では、銅粒子の合成過程において十分な銅錯体が形成されない。このことに起因して、従来技術では、たとえニトリロ三酢酸等の錯化剤を用いたとしても、凝集が抑制された銅粒子を得るためには、保護剤を共存させることが必須のものとなる。
【0028】
本発明の製造方法で得られた銅粒子は、該銅粉及び有機溶媒を少なくとも含んで構成される組成物の形態で用いることができる。有機溶媒としては、金属粉を含む組成物の技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを特に制限なく用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えばモノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
前記の組成物に、有機ビヒクルやガラスフリットを更に含有させることもできる。有機ビヒクルは、樹脂成分と溶剤とを含む。樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。溶剤としては、ターピネオール及びジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤や、エチルカルビトール及びブチルカルビトール等のエーテル系溶剤が挙げられる。ガラスフリットとしては、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス等が挙げられる。更に、前記の組成物には、該組成物の各種の性能を一層高めることを目的として、必要に応じて、本発明の製造方法で得られた銅粒子に加えて、他の銅粒子を適宜配合してもよい。
【0030】
前記の組成物における銅粒子及び有機溶媒の配合量は、該組成物の具体的な用途や該組成物の塗布方法に応じて広い範囲で調整することができる。塗布方法としては、例えばインクジェット法、ディスペンサ法、マイクロディスペンサ法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー塗布法、バーコーティング法、ロールコーティング法などを用いることができる。
【0031】
前記の組成物は、これを基板上に塗布して塗膜とし、この塗膜を焼成することによって膜を形成することができる。この膜は、例えばプリント配線板の回路形成や、セラミックコンデンサの外部電極の電気的導通確保のための導体膜として好適に用いられる。基板としては、銅粒子が用いられる電子回路の種類に応じて、ガラスエポキシ樹脂等からなるプリント基板や、ポリイミド等からなるフレキシブルプリント基板が挙げられる。また、前記の組成物を、半導体デバイスのダイと支持体(例えば配線体)とを接合するためのダイボンディング用の接合材料として用いることもできる。あるいは、半導体上に設置するヒートスプレッダなどの放熱金属部材と該半導体とを接合する接合材料としても用いることができる。これらの場合、前記の組成物から得られる膜は熱伝導体として機能する。また、前記の組成物をビアに充填した後に加熱することで、熱伝導体として機能させることもできる。
【0032】
前記の組成物から形成された塗膜の焼成温度は、前述した銅粒子の焼結開始温度以上であればよい。塗膜の焼成温度は例えば、170℃以上240℃以下とすることができる。なお、前記の組成物中に還元力を有する成分が含まれている場合は、塗膜の焼成温度を更に下げることも可能である。焼成の雰囲気は例えば非酸化性雰囲気下で行うことができる。非酸化性雰囲気としては、例えば水素や一酸化炭素等の還元性雰囲気、水素−窒素混合雰囲気等の弱還元性雰囲気、アルゴン、ネオン、ヘリウム及び窒素等の不活性雰囲気が挙げられる。還元雰囲気、弱還元雰囲気及び不活性雰囲気のいずれの場合であっても、加熱に先立ち加熱炉内を一旦真空吸引して酸素を除去した後に、それぞれの雰囲気とすることが好ましい。水素−窒素混合雰囲気下に焼成を行う場合、水素の濃度は爆発限界濃度以下の濃度とすることが好ましい。具体的には水素の濃度は1体積%以上4体積%以下程度であることが好ましい。いずれの雰囲気を用いる場合であっても、焼成時間は10分以上3時間以下、特に30分以上2時間以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0034】
〔実施例1〕
(1)銅錯体水溶液の調製
260gのニトリロ三酢酸二ナトリウムを1000gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液に53gの水酸化銅(II)を添加して液中に分散させた。この分散状態下に、445gの5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌を行った。次いで濾過によって水不溶物を除去することで、銅−ニトリロ三酢酸錯体を含む水溶液を得た。この水溶液における銅−ニトリロ三酢酸錯体の濃度は、銅基準で0.3mol/Lであった。水溶液のpHは12.9であった。
【0035】
(2)還元剤水溶液の調製
72gのヒドラジン一水和物を228gの水に溶解させてヒドラジン水溶液を得た。この水溶液におけるヒドラジンの濃度は4.8mol/Lであった。
【0036】
(3)銅粒子の合成
前記の(1)で得られた銅錯体水溶液を800g用い、室温下、(2)で得られた還元剤水溶液を200g撹拌下に添加した。還元剤の量は、銅1モルに対して約4モルであった。混合液の撹拌を1時間継続してエージングを行った。次いで純水によるリパルプ洗浄を行い、更にエタノールで溶媒置換を行った。その後、固液分離及び固形分の真空乾燥をこの順で行い、目的とする銅粒子を得た。
【0037】
〔実施例2〕
(1)銅錯体水溶液の調製
51gのニトリロ三酢酸二ナトリウムを205gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液に10gの水酸化銅(II)を添加して液中に分散させた。この分散状態下に、84gの5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌を行った。次いで濾過によって水不溶物を除去することで、銅−ニトリロ三酢酸錯体を含む水溶液を得た。この水溶液における銅−ニトリロ三酢酸錯体の濃度は、銅基準で0.3mol/Lであった。水溶液のpHは12.4であった。
【0038】
(2)還元剤水溶液の調製
25gのヒドラジン一水和物を75gの水に溶解させてヒドラジン水溶液を得た。この水溶液におけるヒドラジンの濃度は4.8mol/Lであった。
【0039】
(3)銅粒子の合成
前記の(1)で得られた銅錯体水溶液を320g用い、室温下、(2)で得られた還元剤水溶液80gを撹拌下に添加した。還元剤の量は、銅1モルに対して4モルであった。混合液の撹拌を1時間継続してエージングを行った。次いで純水によるリパルプ洗浄を行い、更にエタノールで溶媒置換を行った。その後、固液分離及び固形分の真空乾燥をこの順で行い、目的とする銅粒子を得た。
【0040】
〔実施例3〕
(1)銅錯体水溶液の調製
50gのニトリロ三酢酸二ナトリウムを254gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液に10gの水酸化銅(II)を添加して液中に分散させた。この分散状態下に、36gの25%アンモニア水を添加して撹拌を行った。次いで濾過によって水不溶物を除去することで、銅−ニトリロ三酢酸錯体を含む水溶液を得た。この水溶液における銅−ニトリロ三酢酸錯体の濃度は、銅基準で0.3mol/Lであった。水溶液のpHは11.4であった。
【0041】
(2)還元剤水溶液の調製
5gのテトラヒドロほう素ナトリウムを95gの水に溶解させてテトラヒドロほう素ナトリウム水溶液を得た。この水溶液におけるテトラヒドロほう素ナトリウムの濃度は1.2mol/Lであった。
【0042】
(3)銅粒子の合成
還元剤の量を、銅1モルに対して1モルとした以外は、実施例2の(3)と同様の工程を行い、目的とする銅粒子を得た。
【0043】
〔実施例4〕
(1)銅錯体水溶液の調製
50gのニトリロ三酢酸二ナトリウムを290gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液に10gの水酸化銅(II)を添加して液中に分散させた。次いで濾過によって水不溶物を除去することで、銅−ニトリロ三酢酸錯体を含む水溶液を得た。この水溶液における銅−ニトリロ三酢酸錯体の濃度は、銅基準で0.3mol/Lであった。水溶液のpHは9.7であった。
【0044】
(2)還元剤水溶液の調製
7gのテトラヒドロほう素ナトリウムを93gの水に溶解させてテトラヒドロほう素ナトリウム水溶液を得た。この水溶液におけるテトラヒドロほう素ナトリウムの濃度は1.8mol/Lであった。
【0045】
(3)銅粒子の合成
還元剤の量を、銅1モルに対して1.5モルとした以外は、実施例2の(3)と同様の工程を行い、目的とする銅粒子を得た。
〔実施例5〕
(1)銅錯体水溶液の調製
40gのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを300gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液に10gの水酸化銅(II)を添加して液中に分散させた。次いで濾過によって水不溶物を除去することで、銅−エチレンジアミン四酢酸錯体を含む水溶液を得た。この水溶液における銅−エチレンジアミン四酢酸錯体の濃度は、銅基準で0.3mol/Lであった。水溶液のpHは8.9であった。
【0046】
(2)還元剤水溶液の調製
5gのテトラヒドロほう素ナトリウムを95gの水に溶解させてテトラヒドロほう素ナトリウム水溶液を得た。この水溶液におけるテトラヒドロほう素ナトリウムの濃度は1.2mol/Lであった。
【0047】
(3)銅粒子の合成
還元剤の量を、銅1モルに対して1モルとした以外は、実施例2の(3)と同様の工程を行い、目的とする銅粒子を得た。
【0048】
〔比較例1〕
(1)有機高分子保護剤水溶液の調製
6gのゼラチンを78gの水に溶解し、室温で1時間静置してゼラチンを膨潤させた。次いで撹拌下に40℃まで加熱し、その温度を1時間維持しつつ撹拌を継続した。次いで8gの5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌を継続することで、ゼラチン水溶液を得た。この水溶液におけるゼラチンの濃度は6.4%であった。
【0049】
(2)酸化第二銅の合成
1000gの水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)と1000gの硝酸銅水溶液(1mol/L)とを混合し、撹拌下に40℃まで加熱し、その温度を6時間維持しつつ撹拌を継続した。この水溶液をオートクレーブに充填し、100℃で96時間水熱合成を行った。得られた生成物を純水で洗浄し、引き続き凍結乾燥することで、酸化第二銅を得た。
【0050】
(3)還元剤水溶液の調製
5gのヒドラジン一水和物を90gの水に溶解させた。次いで5gのピロカテコールを添加して、目的とする水溶液を得た。この水溶液におけるヒドラジンの濃度は1mol/Lであった。ピロカテコールの濃度は0.2mol/Lであった。
【0051】
(4)銅粒子の合成
前記の(1)で得られた有機高分子保護剤水溶液を92g用い、室温下、これに前記の(2)で得られた酸化第二銅を8g添加した。液を撹拌しつつ、前記の(3)で得られた還元剤水溶液を100g添加した。撹拌を継続して5時間エージングを行った。次いで液中にタンパク質分解酵素(アクチナーゼE)を0.02g添加して、35℃の環境下、24時間にわたって酵素洗浄を行った。その後、遠心洗浄を行い、次いで凍結乾燥を行って、銅粒子を得た。
【0052】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銅粒子について、一次粒子の平均粒径D、比表面積(SSA)、炭素の含有割合、及び焼結開始温度を以下の方法で測定した。更に、銅粒子を用いて調製した組成物から形成された膜の比抵抗を以下の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0053】
〔一次粒子の平均粒径D〕
走査型電子顕微鏡(日本エフイー・アイ(株)製XL30SFEG)を用い、SEM像を撮影した。但し、粒径の小さい実施例3と5は走査透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM−ARM200F)を用いてTEM像を撮影した。倍率は粒子の粒径に応じて決定し、5000倍から150000倍の範囲で撮影を行った。画像解析ソフトMac−View(マウンテック製)を用いてSEM像又はTEM像を解析し、1サンプルあたり100個以上の粒子についてHeywood径を求めた。Heywood径の算術平均値を一次粒子の平均粒径Dとした。
【0054】
〔比表面積(SSA)〕
比表面積(SSA)については、一次粒子の平均粒径Dを用いて下記式を用いて算出した。
SSA=6/(ρ*D)
式中、SSAは比表面積〔m
2/g〕、ρは銅の密度〔g/m
3〕、Dは一次粒子の平均粒径〔m〕を表す。
【0055】
〔炭素の含有割合Pc〕
ガス分析装置((株)堀場製作所製EMIA−920V)を用いて測定した。
【0056】
〔焼結開始温度〕
0.003gの銅粒子に6gのプロピレングリコールを添加し、超音波ホモジナイザーで超音波を30秒間にわたって照射して分散処理を行った。得られた分散体を大気下に10分間にわたって160℃の設定温度で加熱した。その後、前記の走査型電子顕微鏡を用いて倍率50,000倍で銅粒子を観察し、面会合の有無を調べた。面会合が観察されない場合、設定温度を、前記の設定温度から10℃高い温度に設定し直し、新たな設定温度において面会合の有無を前記と同様にして調べた。この操作を繰り返し、面会合が観察された設定温度を、焼結開始温度(℃)とした。
【0057】
〔膜の比抵抗〕
実施例及び比較例で得られた銅粒子と、トリエタノールアミンとを混合しスラリーとした。実施例1のスラリーにおける銅粒子の濃度は78%、トリエタノールアミンの濃度は22%とした。実施例2のスラリーにおける銅粒子の濃度は75%、トリエタノールアミンの濃度は25%とした。実施例3のスラリーにおける銅粒子の濃度は62%、トリエタノールアミンの濃度は38%とした。実施例4のスラリーにおける銅粒子の濃度は70%、トリエタノールアミンの濃度は30%とした。実施例5のスラリー中の銅粒子の濃度は70%、トリエタノールアミンの濃度は30%とした。比較例1のスラリーにおける銅粒子の濃度は75%、トリエタノールアミンの濃度は25%とした。得られたスラリーを、ガラス基板上にアプリケータを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、窒素雰囲気下、260℃で10分間(実施例1〜5)、又は、300℃で1時間(比較例1)にわたって熱処理して膜を得た。得られた膜について、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ロレスタMCP−T600)を用いて表面抵抗測定を行った後、膜厚を換算して比抵抗を算出した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例1ないし5で得られた銅粒子は、比較例1で得られた銅粒子に比べ炭素の含有割合が低く、しかも低温で焼結するものであることが判る。更に、膜の比抵抗が低いものであった。比較例1で得られた銅粒子は、210℃において粒子間の面会合が観察されず、同温度では膜が形成されなかった。