特許第6815740号(P6815740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815740
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】マスキングシート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/24 20180101AFI20210107BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20210107BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210107BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20210107BHJP
   C09J 121/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   C09J7/24
   C09J7/25
   B32B27/00 M
   B32B27/36
   C09J121/00
【請求項の数】10
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-66516(P2016-66516)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-179069(P2017-179069A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】樋田 貴文
(72)【発明者】
【氏名】盛田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】北山 和寛
【審査官】 小出 輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−272849(JP,A)
【文献】 特開昭62−152561(JP,A)
【文献】 特開2004−202348(JP,A)
【文献】 特開2014−136746(JP,A)
【文献】 特開2007−260665(JP,A)
【文献】 実開平03−054764(JP,U)
【文献】 特開2000−140724(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/056467(WO,A1)
【文献】 特開2007−231340(JP,A)
【文献】 特開2015−120337(JP,A)
【文献】 特開2015−091924(JP,A)
【文献】 特開2015−212361(JP,A)
【文献】 特開平11−228924(JP,A)
【文献】 特開2001−115111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/24
B32B 27/00
B32B 27/36
C09J 7/25
C09J 121/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象部材の非処理対象部分に貼り付けられた状態で該処理対象部材の薬液処理に使用された後、引き続き上記処理対象部材に貼り付けられた状態で該処理対象部材の塗装処理に使用される薬液処理用マスキングシートであって、
第一面および第二面を有する基材と、
前記基材の前記第一面側に配置された粘着剤層とを含み、
前記基材は非金属基材であり、
前記基材は、前記マスキングシートの背面を構成する背面層と、該背面層を支持する樹脂フィルムとを含み、
前記背面層は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、天然ゴム、イソプレンゴムおよびクロロプレンゴムからなる群より選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含み、
前記マスキングシートの弾性率Et’と前記基材の厚さHsとの関係が、以下の関係式:
0.7N・mm<Et’×Hs
を満たし、かつ
前記マスキングシートは、下記の方法で測定される自背面摩擦力が2.5N以上である、マスキングシート。
[自背面摩擦力測定方法]
50mm×50mmの正方形の底面を有する重量2kgの錘の底面に、第1のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第1サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを使用する。第1サンプルのサイズは50mm×50mmの正方形状とする。
幅100mm、長さ300mmの長方形状のステンレス鋼表面を有する測定台の表面に、第2のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第2サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを使用する。第2サンプルのサイズは、幅70mm、長さ200mmの長方形状とする。
測定台に固定された第2サンプルの上に、底面に第1サンプルが固定された錘を置くことにより、第1サンプルの背面と第2サンプルの背面とを接触させる。上記錘に固定したワイヤーを、測定台の表面と平行な方向に、引張試験機を用いて300mm/分の速度で引っ張る。当該引張りに要する応力を測定し、錘を30mm移動させる間の平均値を自背面摩擦力とする。
【請求項2】
以下の条件:
前記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂フィルムである;および、
前記マスキングシートへの薬液浸入を該マスキングシートの背面側から視認可能に構成されている;
の少なくとも一方を満たす、請求項1に記載のマスキングシート。
【請求項3】
処理対象部材の非処理対象部分に貼り付けられた状態で該処理対象部材の薬液処理に使用された後、引き続き上記処理対象部材に貼り付けられた状態で該処理対象部材の塗装処理に使用される薬液処理用マスキングシートであって、
第一面および第二面を有する基材と、
前記基材の前記第一面側に配置された粘着剤層と、を含み、
前記基材は非金属基材であり、
前記基材は、前記マスキングシートの背面を構成する背面層と、該背面層を支持する樹脂フィルムとを含み、
前記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂フィルムであり、
前記背面層は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、天然ゴム、イソプレンゴムおよびクロロプレンゴムからなる群より選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含み、
前記マスキングシートは、下記の方法で測定される自背面摩擦力が2.5N以上であ、マスキングシート。
[自背面摩擦力測定方法]
50mm×50mmの正方形の底面を有する重量2kgの錘の底面に、第1のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第1サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを使用する。第1サンプルのサイズは50mm×50mmの正方形状とする。
幅100mm、長さ300mmの長方形状のステンレス鋼表面を有する測定台の表面に、第2のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第2サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを使用する。第2サンプルのサイズは、幅70mm、長さ200mmの長方形状とする。
測定台に固定された第2サンプルの上に、底面に第1サンプルが固定された錘を置くことにより、第1サンプルの背面と第2サンプルの背面とを接触させる。上記錘に固定したワイヤーを、測定台の表面と平行な方向に、引張試験機を用いて300mm/分の速度で引っ張る。当該引張りに要する応力を測定し、錘を30mm移動させる間の平均値を自背面摩擦力とする。
【請求項4】
処理対象部材の非処理対象部分に貼り付けられた状態で該処理対象部材の薬液処理に使用された後、引き続き上記処理対象部材に貼り付けられた状態で該処理対象部材の塗装処理に使用される薬液処理用マスキングシートであって、
第一面および第二面を有する基材と、
前記基材の前記第一面側に配置された粘着剤層と、を含み、
前記基材は非金属基材であり、
前記基材は、前記マスキングシートの背面を構成する背面層と、該背面層を支持する樹脂フィルムとを含み、
前記背面層は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、天然ゴム、イソプレンゴムおよびクロロプレンゴムからなる群より選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含み、
前記マスキングシートは、下記の方法で測定される自背面摩擦力が2.5N以上であり、
前記マスキングシートへの薬液浸入を該マスキングシートの背面側から視認可能に構成されている、マスキングシート。
[自背面摩擦力測定方法]
50mm×50mmの正方形の底面を有する重量2kgの錘の底面に、第1のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第1サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを使用する。第1サンプルのサイズは50mm×50mmの正方形状とする。
幅100mm、長さ300mmの長方形状のステンレス鋼表面を有する測定台の表面に、第2のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第2サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを使用する。第2サンプルのサイズは、幅70mm、長さ200mmの長方形状とする。
測定台に固定された第2サンプルの上に、底面に第1サンプルが固定された錘を置くことにより、第1サンプルの背面と第2サンプルの背面とを接触させる。上記錘に固定したワイヤーを、測定台の表面と平行な方向に、引張試験機を用いて300mm/分の速度で引っ張る。当該引張りに要する応力を測定し、錘を30mm移動させる間の平均値を自背面摩擦力とする。
【請求項5】
前記マスキングシートの背面の構成材料は、アミド基、アミノ基、イソシアナト基、カルボキシル基、ビニル基および複素環構造から選択される少なくとも一種の特性基を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のマスキングシート。
【請求項6】
前記薬液処理はアノダイズ処理を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のマスキングシート。
【請求項7】
前記粘着剤層を構成する粘着剤はゴム系粘着剤である、請求項1からのいずれか一項に記載のマスキングシート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のマスキングシートと、
前記マスキングシートの粘着面を保護する剥離ライナーと
を含む、粘着製品。
【請求項9】
前記剥離ライナーは、前記粘着面に対向する表面に剥離処理層を有し、
前記剥離処理層は非シリコーン系剥離剤を含む、請求項に記載の粘着製品。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載のマスキングシートが処理対象物品の非処理対象部分に貼り付けられた状態で該処理対象物品の薬液処理を行う薬液処理工程と、
前記薬液処理後の前記処理対象物品を、引き続き前記マスキングシートが貼り付けられた状態のまま塗装処理工程と、
前記塗装処理後の前記処理対象物品から前記マスキングシートを剥離する工程と、
を含む、薬液処理および塗装処理が施された物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液処理に用いられるマスキングシートに関し、詳しくは、塗装マスキング用途との兼用に適した薬液処理用マスキングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
物品を薬液で処理する際に、該物品(以下「処理対象物品」ともいう。)の非処理対象部分を薬液から保護するために、該非処理対象部分に粘着シートを貼り付けてマスキングする技術が知られている。このように薬液処理時のマスキングに用いられる粘着シートは、典型的には、フィルム状の粘着剤(粘着剤層)と、該粘着剤を支持する基材とを含んで構成される。特許文献1には、金属箔からなる基材を備え、マスキング用途に好ましく使用され得る粘着テープが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−139299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬液処理用マスキングシートが貼り付けられた処理対象物品を薬液処理した後、該マスキングシートは、通常、その使用目的を終えたものとして上記処理対象物品から剥がされる。本発明者は、薬液処理の際に使用されるマスキングシートを、薬液処理後の処理対象物品に対してさらに行われる処理(以下「後続処理」ともいう。)、例えば塗装処理においても利用することを検討した。
【0005】
マスキングシートを塗装マスキング用途(すなわち、塗装処理時に非塗装対象部分をマスキングする用途)に使用すると、該マスキングシートの背面にも塗膜が形成され得る。このように背面に硬化塗膜(乾燥や架橋により硬化した塗料;以下、単に「塗膜」と表記することもある。)が付着したマスキングシートを処理対象物品から剥離する際、非金属基材(例えば樹脂フィルム)を備える構成のマスキングシートでは、上記塗膜が割れ、上記背面から剥がれて飛散しがちである。飛散した塗膜は、例えば処理対象物品の塗装部分に付着して該塗装部分の外観を悪くする等の不都合を生じ得る。
【0006】
そこで本発明は、非金属基材を用いた構成において、塗装マスキング用途との兼用に適した薬液処理用マスキングシートを提供することを目的とする。関連する他の目的は、このようなマスキングシートを構成要素として含む粘着製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書により提供される薬液処理用マスキングシート(以下、単に「マスキングシート」と表記することがある。)は、第一面および第二面を有する基材と、上記基材の上記第一面側に配置された粘着剤層とを含む。ここで、上記基材は非金属基材である。上記マスキングシートの自背面摩擦力は、好ましくは2.5N以上である。
【0008】
上記自背面摩擦力を有する薬液処理用マスキングシートは、処理対象物品に貼り付けられた状態で背面(処理対象物品に貼り付けられる面とは反対側の表面)に塗膜が形成されても、該マスキングシートを上記処理対象物品から剥離する際に上記塗膜が上記背面から剥落(脱落)しにくい。したがって、剥落した塗膜が飛散して作業環境や処理対象物品を汚染する事象を防止することができる。ここに開示される薬液処理用マスキングシートは、このように良好な塗膜剥落防止性を有することから、薬液処理および塗装処理に兼用されるマスキングシートとして好適である。また、上記マスキングシートは非金属基材を用いて構成されているので、金属箔からなる基材を用いたマスキングシートに比べて加工性や取扱い性(例えば、シワの生じにくさ)等の点で有利である。
【0009】
ここに開示されるマスキングシートの好ましい一態様において、上記基材は、上記マスキングシートの背面を構成する背面層と、該背面層を支持する樹脂フィルムとを含む。このように背面層を有する構成の基材によると、背面層の特性および基材全体の特性を、それぞれ好適に調節することができる。このことによって、より高性能なマスキングシートが実現され得る。
【0010】
好ましい一態様に係るマスキングシートは、上記背面の構成材料が、アミド基、アミノ基、イソシアナト基、カルボキシル基、ビニル基および複素環構造から選択される少なくとも一種の特性基(構造部分)を含む。このような特性基を背面に有するマスキングシートによると、該背面からの塗膜の剥落が効果的に防止される傾向にある。
【0011】
ここに開示されるマスキングシートを好ましく適用し得る薬液処理の一例として、処理対象部材のアノダイズ処理(陽極酸化処理)が挙げられる。上記マスキングシートは、例えば、アルミニウム部材などの軽金属部材をアノダイズ処理する際に、該軽金属部材の一部領域をアノダイズ処理用薬液から保護するためのマスキングシートとして好適である。かかるアノダイズ処理に用いられたマスキングシートは、引き続き処理対象部材に貼り付けられた状態で、塗装用のマスキングシートとして好適に利用され得る。
【0012】
ここに開示されるマスキングシートは、該マスキングシートの弾性率Et’と上記基材の厚さHsとの関係が、以下の関係式:
0.7N・mm<Et’×Hs
を満たすことが好ましい。このような関係を満たすマスキングシートによると、非金属基材を用いた構成において、薬液処理時の薬液浸入を効果的に防止し得る。上記薬液処理がアノダイズ処理を含む場合には、上記関係を満たすことが特に有意義である。
【0013】
好ましい一態様に係るマスキングシートは、上記粘着剤層を構成する粘着剤がゴム系粘着剤である。ゴム系粘着剤層を備えるマスキングシートは、処理対象物品からマスキングシートを剥がす際に、該処理対象物品の表面に粘着剤が残留する事象が生じにくい傾向にある。すなわち、処理対象物品に対する非糊残り性に優れる傾向にあるので好ましい。
【0014】
上記基材としては、ポリエステル系樹脂フィルムを含む構成のものを好ましく採用し得る。ポリエステル系樹脂は耐薬品性が高く、基材の構成材料として好適である。また、ポリエステル系樹脂フィルムを含む基材を用いることにより、上記関係式を満たすマスキングシートが実現されやすくなる。ポリエステル系樹脂フィルムを含む基材を備え、かつ2.5N以上の自背面摩擦力を示すマスキングシートは、薬液処理および塗装処理に兼用される使用態様において優れた性能を発揮するものとなり得る。
【0015】
ここに開示されるマスキングシートは、該マスキングシートへの薬液浸入を該マスキングシートの背面(外面)側から視認可能に構成することができる。このように構成されたマスキングシートは、処理対象物品に貼り付けられたマスキングシートを剥がすことなく、該マスキングシートへの薬液浸入状況を容易に把握することができる。このことは、薬液処理後に引き続き塗装用のマスキングシートとして用いる使用態様において好都合である。例えば、薬液処理工程において許容できないレベルの薬液浸入が生じたマスキングシートのみを新たなマスキングシートに貼り替えて塗装工程を行うことにより、薬液処理および塗装処理が施された高品質の物品を効率よく製造することができる。
【0016】
この明細書によると、また、ここに開示されるいずれかのマスキングシートと、該マスキングシートの粘着面(粘着剤層の表面)を保護する剥離ライナーと、を含む粘着製品が提供される。このように粘着面が剥離ライナーで保護された形態の粘着製品は、使用前(被着体への貼付け前)のマスキングシートをマスキング範囲の形状に応じた形状に加工しやすいので使い勝手がよい。
【0017】
上記剥離ライナーとしては、軽剥離性の観点から、上記粘着面に対向する表面に剥離処理層を有する構成のものを好ましく採用し得る。好ましい一態様において、上記剥離処理層は、非シリコーン系剥離剤を含む。このような組成の剥離処理層を用いることにより、該剥離処理層に由来するシリコーン成分(未反応のシリコーン系剥離剤等)が処理対象物品に付着する事象を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係るマスキングシートの構成を模式的に示す断面図である。
図2】他の実施形態に係るマスキングシートの構成を模式的に示す断面図である。
図3】一実施形態に係る粘着製品を模式的に示す斜視図である。
図4図3のIV−IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0020】
ここに開示されるマスキングシートは、第一面および第二面を有する基材と、該基材の第一面側に設けられた粘着剤層とを備える。ここで、上記基材は非金属基材である。
一実施形態に係るマスキングシートの典型的な構成例を図1に模式的に示す。このマスキングシート10は、第一面1Aおよび第二面1Bを有するシート状の基材1と、その第一面1A側に設けられた粘着剤層2とを備える。基材1は、その第二面1B(マスキングシート10の背面10Bを兼ねる。)を構成する背面層12と、背面層12を支持する樹脂フィルム14とを含む。この実施形態において、基材1は、その第一面1Aを構成する下塗り層16をさらに含む。下塗り層16の表面に粘着剤層2が設けられている。
【0021】
マスキングシート10は、処理対象物品の非処理対象部分(マスキング対象部分)に貼り付けて使用される。非処理対象部分にマスキングシート10が貼り付けられた状態で薬液処理を行うことにより、該非処理対象部分が薬液から保護される。
【0022】
一態様において、使用前(すなわち、処理対象物品への貼付け前)のマスキングシート10は、図1に示すように、粘着剤層2の表面(粘着面)2Aが、少なくとも粘着剤層2に対向する側の表面3Aが剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された形態であり得る。このような形態のマスキングシート10は、該マスキングシート10とその粘着面2Aを保護する剥離ライナー3とを含む粘着製品100としても把握され得る。剥離ライナー3としては、樹脂フィルムや紙等のライナー基材32の表面に剥離処理層34を有する構成のものを好ましく使用し得る。
【0023】
また、使用前のマスキングシート10は、図2に示すように、基材1の第二面1B(第一面1Aとは反対側の面であって、マスキングシート10の背面10Bを兼ねる。)が剥離面となっており、マスキングシート10がロール状に巻回されることにより第二面1Bに粘着剤層2が当接してその表面(粘着面)2Aが保護された形態であってもよい。
【0024】
薬液処理後の処理対象物品は、引き続きマスキングシート10が貼り付けられた状態のまま、塗装処理に供され得る。かかる塗装処理において、マスキングシート10が貼り付けられた部分(すなわち、塗装処理の非処理対象部分)に供給された塗料は、マスキングシート10の背面10Bに付着し、この背面10B上に塗膜を形成する。塗装処理後、処理対象物品からマスキングシート10を剥離して、薬液処理および塗装処理が施された物品を得る。マスキングシート10を剥がす際、背面10B上に形成された塗膜は、マスキングシート10の変形、伸張、振動、衝撃等の負荷により割れや剥がれを生じ、背面10Bから剥落し得る。剥落した塗膜は、細かく割れて飛散することで作業環境や処理対象物品を汚染する原因となり得る。ここに開示されるマスキングシート10は、このような塗膜の剥落を抑制し得るように構成されている。
【0025】
ここに開示される技術(マスキングシートに係る技術の他、該マスキングシートを含む粘着製品、上記マスキングシートを用いて部材を処理する方法、かかる処理方法を含む部材製造方法等に係る技術を包含する。以下同じ。)の好ましい一態様において、マスキングシートの自背面摩擦力は2.5N以上である。このようなマスキングシートは、良好な塗膜剥落防止性を有することから、薬液処理および塗装処理に兼用されるマスキングシートとして好適である。
【0026】
マスキングシートの自背面摩擦力は、以下の方法により測定される。
[自背面摩擦力測定方法]
50mm×50mmの正方形の底面を有する重量2kgの錘を用意する。この錘の底面に第1のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第1サンプルのサイズは、縦横がいずれも10mm〜100mm(典型的には10mm〜50mm)の範囲にある長方形状または正方形状とし、望ましくは50mm×50mmの正方形状とする。
幅100mm、長さ300mmの長方形状のステンレス鋼表面を有する測定台を用意する。この測定台の表面に第2のサンプルを、該サンプルの背面が外側になるようにして固定する。第2サンプルのサイズは、幅70mm、長さ200mmの長方形状とする。
測定台に固定された第2サンプルの上に、底面に第1サンプルが固定された錘を置くことにより、第1サンプルの背面と第2サンプルの背面とを接触させる。上記錘に固定したワイヤーを、測定台の表面と平行な方向に、引張試験機を用いて300mm/分の速度で引っ張る。当該引張りに要する応力を測定し、錘を30mm移動させる間の平均値を自背面摩擦力とする。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
【0027】
なお、第1サンプルおよび第2サンプルの固定は、必要に応じて両面粘着テープ(例えば、日東電工株式会社製の製品名「TR−5310」;ポリエステルフィルムの両面に粘着剤層を有する厚さ10μmの両面粘着テープ)を用いて行うことができる。
また、第1サンプルおよび第2サンプルとしては、測定対象のマスキングシートを用いることが望ましいが、代替として、上記第1サンプルおよび上記第2サンプルの一方または両方において粘着剤を有しない基材を用いてもよい。
【0028】
理論により拘束されることを望むものではないが、上記自背面摩擦力を示すマスキングシートにより良好な塗膜剥落防止性が得られる理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、マスキングシートの背面の摩擦力が高いほど該背面に物質が付着する力は強くなり、上述のようにマスキングシートの背面相互間で測定される自背面摩擦力には該マスキングシート背面への物質付着性の違いがより顕著に表れる傾向にある。このため、自背面摩擦力を指標とすることにより、マスキングシート背面からの塗膜の剥落しやすさを適切に反映することができ、したがって所定値以上の自背面摩擦力を示すマスキングシートによると良好な塗膜剥落防止性が実現されるものと考えられる。
【0029】
ここに開示される技術において、マスキングシートの自背面摩擦力は、好ましくは2.5N以上(例えば3.0N以上)、より好ましくは3.5N以上、さらに好ましくは4.0N以上である。自背面摩擦力が高くなるにつれて、より良好な塗膜剥落防止性が得られる傾向にある。自背面摩擦力の上限は特に制限されない。マスキングシートの取扱い性(例えば貼付け作業性)等の観点から、一態様において、マスキングシートの自背面摩擦力は、20.0N以下とすることができ、15.0N以下であってもよく、さらには10.0N以下(例えば8.0N以下)であってもよい。
【0030】
自背面摩擦力は、マスキングシートの背面を構成する材料の選択(例えば、背面層を有する態様では背面層の組成等)や該背面の表面処理方法等によって調節することができる。これらの自背面摩擦力調節手段は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて適用することができる。上記表面処理の例としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理等が挙げられる。基材全体としての特性および背面の特性の設計自由度が高いことから、背面層を有する態様において、該背面層の組成により自背面摩擦力を調節する方法を好ましく採用し得る。背面層の形成およびその組成による調節と、該背面層の表面処理による調節とを組み合わせてもよい。
【0031】
ここに開示される技術の一態様において、マスキングシートの背面の水接触角は、85°以下であることが好ましく、80°以下であることがより好ましい。このようなマスキングシートによると、より良好な塗膜剥落防止性が得られる傾向にある。上記水接触角の下限は特に制限されない。上記水接触角は、例えば50°以上であってよく、60°以上(例えば65°以上)であってもよい。水接触角は、マスキングシートの背面を構成する材料の選択や背面処理方法等によって調節することができる。これらの水接触角調節手段は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて適用することができる。
【0032】
上記水接触角は、市販の接触角測定装置を用いて、JIS R 3257:1999に準拠して測定すればよい。例えば、下記の条件で測定することができる。
[水接触角測定条件]
測定装置: 接触角測定器 FACE CA−X型(協和界面化学社製)
測定雰囲気:23℃、50%RH
測定面: マスキングシート背面
測定液体: 蒸留水
測定時間: 着滴1500ms後
後述の実施例についても同様の方法が採用される。
【0033】
ここに開示される技術の一態様において、マスキングシートの背面は、該背面に対するアクリル系粘着テープ(日東電工社製、品番「No.31B」、基材厚25μm)の180°引きはがし粘着力が6.5N/19mm以上であることが好ましい。このようなマスキングシートによると、より良好な塗膜剥落防止性が得られる傾向にある。以下、上記アクリル系粘着テープの180°引きはがし粘着力を「No.31B粘着力」ともいう。背面に対するNo.31B粘着力が7.0N/19mm以上(例えば7.5N/19mm以上)であるマスキングシートによると、より優れた塗膜剥落防止性が実現され得る。上記No.31B粘着力の上限は特に制限されない。No.31B粘着力は、例えば20N/19mm以下であってよく、15N/19mm以下であってもよい。
【0034】
マスキングシート背面に対するNo.31B粘着力は、以下の方法により測定される。
[No.31B粘着力測定方法]
測定対象のマスキングシートを、ステンレス鋼板の表面に、該マスキングシートの背面が外側になるようにして固定することにより、被着体を作製する。23℃、50%の環境下にて、上記被着体(マスキングシートの背面)にアクリル系粘着テープ(日東電工社製、品番「No.31B」、基材厚25μm、幅19mm)を、2kgのローラを1往復させて圧着する。これを23℃、50%RHの環境下に30分間放置した後、JIS Z 0237に準じて、引張試験機を用いて上記アクリル系粘着テープを180度方向に300mm/分の引張速度で引きはがすことにより、該アクリル系粘着テープの180度引きはがし粘着力[N/19mm]を測定する。
【0035】
なお、上記被着体の作製において、ステンレス鋼板へのマスキングシートの固定は、必要に応じて両面粘着テープ(例えば、日東電工株式会社製の製品名「TR−5310」;PETフィルムの両面に粘着剤層を有する厚さ10μmの両面粘着テープ)を用いて行うことができる。
また、被着体の作製には、測定対象のマスキングシートを用いることが望ましいが、代替として、粘着剤を有しない基材をステンレス鋼板に固定して被着体を作製してもよい。
【0036】
<基材>
ここに開示される技術において、マスキングシートを構成する非金属基材とは、主構成材料が非金属材料である基材を意味し、典型的には概ね50重量%以上または概ね50体積%以上が非金属材料である基材をいう。ここで非金属材料とは、金属材料以外の材料全般を指し、有機材料および無機非金属材料を包含する概念である。上記非金属基材は、1層により構成された単層構造の基材であってもよく、全領域または一部の領域において2層以上の積層構造を有する基材であってもよい。このような積層構造を構成する各層は、互いに組成または構成の異なる層であってもよく、組成および構成が同一の層であってもよい。上記非金属基材は、有機材料および無機非金属材料から選択されるいずれかにより形成された層や、2種以上の材料のブレンド物または複合物(複合材料)により形成された層を含み得る。また、上記非金属基材は、主構成材料が非金属材料である限りにおいて、金属材料からなる層や、有機材料または無機非金属材料と金属材料とのブレンド物や複合物からなる層を含み得る。
【0037】
有機材料の非限定的な例には、合成有機材料、天然有機材料、半合成有機材料、再生有機材料等が含まれる。有機材料は、1種を単独でまたは2種以上のブレンド物として、例えばフィルムの形態、他の材料を分散させるマトリックスの形態、他の材料に含浸した形態、繊維状の形態、粉末状の形態等で利用され得る。無機非金属材料の非限定的な例には、各種のガラスおよびセラミックスが含まれる。マスキングシートの柔軟性等の観点から、無機非金属材料は、典型的には繊維状または粉末状の形態で、有機材料とのブレンド物または複合物として利用され得る。あるいは、他の層の表面に無機非金属材料の薄膜が、例えば蒸着等の手法によって、全面にまたは部分的に形成されていてもよい。金属材料は、典型的には繊維状または粉末状の形態で、有機材料とのブレンド物または複合物として好ましく利用され得る。あるいは、他の層の表面に金属材料の薄膜が、例えば蒸着やめっき等の手法によって、全面にまたは部分的に形成されていてもよい。
【0038】
ここに開示されるマスキングシートの基材としては、各種のフィルム状基材を好ましく用いることができる。上記フィルム状基材としては、ベースフィルムとして樹脂フィルムを含むものを好ましく用いることができる。ここで「樹脂フィルム」とは、非多孔質の構造であって、典型的には実質的に気泡を含まない(ボイドレスの)樹脂フィルムを意味する。したがって、上記樹脂フィルムは、発泡体フィルムや不織布とは区別される概念である。上記樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、二層以上の多層構造(例えば三層構造)であってもよい。
【0039】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリウレタン樹脂(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、アクリル樹脂、等を用いることができる。上記樹脂フィルムは、このような樹脂の1種を単独で含む樹脂材料を用いて形成されたものであってもよく、2種以上がブレンドされた樹脂材料を用いて形成されたものであってもよい。上記樹脂フィルムは、無延伸であってもよく、延伸(例えば一軸延伸または二軸延伸)されたものであってもよい。
【0040】
耐薬品性等の観点から好ましい樹脂材料として、ポリエステル系樹脂、PPS樹脂およびポリオレフィン系樹脂が例示される。ここで、ポリエステル系樹脂とは、ポリエステルを50重量%を超える割合で含有する樹脂のことをいう。同様に、PPS樹脂とは、PPSを50重量%を超える割合で含有する樹脂、ポリオレフィン系樹脂とはポリオレフィンを50重量%を超える割合で含有する樹脂のことをいう。
【0041】
ポリエステル系樹脂としては、典型的には、ジカルボン酸とジオールを重縮合して得られるポリエステルを主成分として含むポリエステル系樹脂が用いられる。
【0042】
上記ポリエステルを構成するジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸;これらの誘導体(例えば、テレフタル酸等の上記ジカルボン酸の低級アルキルエステル等);等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。後述する好ましい弾性率Es’を示す基材が得られやすいこと等から、芳香族ジカルボン酸が好ましい。なかでも好ましいジカルボン酸として、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。例えば、上記ポリエステルを構成するジカルボン酸のうち50重量%以上(例えば80重量%以上、典型的には95重量%以上)が、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸またはこれらの併用であることが好ましい。上記ジカルボン酸は、実質的にテレフタル酸のみ、実質的に2,6−ナフタレンジカルボン酸のみ、または実質的にテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸のみから構成されていてもよい。
【0043】
上記ポリエステルを構成するジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、透明性等の観点から脂肪族ジオールが好ましく、基材の弾性率Es’の観点からエチレングリコールが特に好ましい。上記ポリエステルを構成するジオールに占める脂肪族ジオール(好ましくはエチレングリコール)の割合は、50重量%以上(例えば80重量%以上、典型的には95重量%以上)であることが好ましい。上記ジオールは、実質的にエチレングリコールのみから構成されていてもよい。
【0044】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0045】
ポリオレフィン樹脂としては、1種のポリオレフィンを単独で、または2種以上のポリオレフィンを組み合わせて用いることができる。該ポリオレフィンは、例えばα−オレフィンのホモポリマー、2種以上のα−オレフィンの共重合体、1種または2種以上のα−オレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体等であり得る。具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等のエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、等が挙げられる。低密度(LD)ポリオレフィンおよび高密度(HD)ポリオレフィンのいずれも使用可能である。上記ポリオレフィン樹脂としてオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いてもよい。ポリオレフィン樹脂フィルムの例としては、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、中密度ポリエチレン(MDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム、2種以上のポリエチレン(PE)をブレンドしたポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)をブレンドしたPP/PEブレンドフィルム、TPOフィルム等が挙げられる。
【0046】
ここに開示されるマスキングシートの基材に好ましく利用し得る樹脂フィルムの具体例として、PETフィルム、PENフィルム、PPSフィルム、PEEKフィルム、CPPフィルムおよびOPPフィルムが挙げられる。より薄い基材において好適なEt’×Hsを得る観点から好ましい例として、PETフィルム、PENフィルム、PPSフィルムおよびPEEKフィルムが挙げられる。基材の入手容易性等の観点からPETフィルムおよびPPSフィルムが特に好ましく、なかでもPETフィルムが好ましい。
【0047】
樹脂フィルムには、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料等)、充填材、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を、必要に応じて配合することができる。添加剤の配合量は特に限定されず、マスキングシートの用途等に応じて適宜設定することができる。
【0048】
樹脂フィルムの製造方法は特に限定されない。例えば、押出成形、インフレーション成形、Tダイキャスト成形、カレンダーロール成形等の、従来公知の一般的な樹脂フィルム成形方法を適宜採用することができる。上記で例示したような成形方法により未延伸フィルムを成形した後、ロール延伸やテンター延伸等を行ってもよい。
【0049】
マスキングシートの背面の構成材料(背面層の構成材料であり得る。)は、特に限定されない。上記背面の構成材料は、例えば、ウレタン(ポリイソシアネート)系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂(例えば、塩素化オレフィン系樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、各種ゴム類(例えば、イソプレンゴム、クロロプレンゴム)等から選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含み得る。
【0050】
ここに開示される技術の一態様において、上記背面の構成材料は、アミド基(ウレタン結合を構成するアミド基であり得る。)、アミノ基、イソシアナト基、カルボキシル基、ビニル基、複素環構造およびC−Cl構造(すなわち、炭素と塩素とが結合した構造)から選択される一種または二種以上の特性基を含むことが好ましい。このような特性基がマスキングシートの背面に存在することにより、塗料との親和性が高くなり、塗膜剥落防止性が向上する傾向にある。上記複素環としては、環構成原子として窒素原子および酸素原子の一方または両方を少なくとも一つ有するものが好ましい。かかる複素環の非限定的な例として、オキサゾリン環、トリアジン環およびグルコース環が挙げられる。
【0051】
(背面層)
好ましい一態様において、マスキングシートを構成する基材は、該マスキングシートの背面を構成する背面層と、該背面層を支持する樹脂フィルムとを含む。このような構成の基材によると、背面層の特性(例えば、上記自背面摩擦力)および基材全体の特性(例えば、後述するEt’×Hsの値)をそれぞれ好適に調節することができる。このことによって、より高性能なマスキングシートが実現され得る。
【0052】
背面層の構成材料としては、マスキングシートの背面の構成材料として上記で例示した材料から選択される1種または2種以上を用いることができる。また、上述した特性基(すなわち、アミド基、アミノ基、イソシアナト基、カルボキシル基、ビニル基、複素環構造およびC−Cl構造)の1種または2種以上を含む背面層によると、塗膜剥落防止性のよい背面が好適に実現され得る。背面層における上記2種以上の特性基の組合せの具体例として、トリアジン環とアミノ基との組合せ、トリアジン環とオキサゾリン環との組合せ、アミド基とイソシアナト基との組合せ等が挙げられる。ここに開示されるマスキングシートの基材としては、このような特性基を有する背面層を第二面に有する樹脂フィルム(例えばポリエステル系樹脂フィルム)を好ましく採用し得る。
【0053】
特に限定するものではないが、このような背面層は、例えばメラミン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩素化オレフィン系樹脂、クロロプレンゴム、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤から選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含む背面層形成材料を用いて形成され得る。上記背面層形成材料は、成膜性や樹脂フィルムに対する密着性の向上等を目的として、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム等のバインダ成分をさらに含んでいてもよい。
【0054】
背面層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。
背面層形成方法の一例として、あらかじめ製造された樹脂フィルムに背面層形成材料を被覆する方法が挙げられる。例えば、適当な溶媒中に背面層形成材料が溶解または分散した液状組成物を塗布して乾燥させる方法、熱溶融状態の背面層形成材料を塗布して冷却固化させる方法、背面層形成材料の前駆体を樹脂フィルムに塗布した後、反応により硬化させる方法、等を用いることができる。これらの方法と、熱、光、酸素、湿気等による架橋反応とを組み合わせて背面層を形成してもよい。
【0055】
背面層形成方法の他の一例として、樹脂フィルムの製造プロセスの途中で該樹脂フィルムに背面層形成材料を積層する方法が挙げられる。例えば、樹脂フィルム形成材料をフィルム状に成形し、塗布等により背面層形成材料を被覆した後に延伸する方法を採用することができる。背面層形成材料の被覆は、樹脂フィルムの延伸が完了する前に行えばよく、例えば、樹脂フィルムが未延伸の段階、二軸延伸フィルムの製造において一軸方向への延伸が完了した段階、一軸方向への延伸を開始した後であって延伸完了前の段階、等のタイミングで行うことができる。この方法は、例えば、上記樹脂フィルムがポリエステル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルム等である態様において好ましく採用することができ、なかでも上記樹脂フィルムがポリエステル系樹脂フィルム(例えばPETフィルム)であることが好ましい。
【0056】
背面層の厚さは特に制限されない。背面層の厚さは、通常、凡そ0.005μm以上とすることが適当であり、凡そ0.01μm以上(例えば凡そ0.05μm以上)とすることが好ましい。背面層が薄すぎると、十分な効果が発揮され難くなったり、場所によって塗膜剥落防止性にムラが生じたりすることがあり得る。また、背面層の厚さは、通常、凡そ5μm以下とすることが適当であり、凡そ1μm以下(例えば凡そ0.5μm以下)とすることが好ましい。
【0057】
背面層形成材料が被覆される前の樹脂フィルム表面には、必要に応じて、あらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、火炎処理等の、公知の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、樹脂フィルムと背面層との密着性を向上させるための処理であり得る。
【0058】
(下塗り層)
基材の第一面(上述のような樹脂フィルムの第一面であり得る。)には、必要に応じて、下塗り層(プライマー層)が形成されていてもよく、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、火炎処理、帯電防止処理等の従来公知の表面処理が施されていてもよい。このような下塗り層の形成や表面処理は、基材と粘着剤層との密着性、言い換えると粘着剤層の基材への投錨性を向上させるための処理であり得る。投錨性の向上により、処理対象物品表面への糊残りをよりよく防止することができる。樹脂フィルム(例えば、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム等)を含む構成の基材では、基材の第一面に上記表面処理を行うことが特に有効である。
【0059】
下塗り層の組成は特に限定されない。下塗り層は、例えば、ウレタン(ポリイソシアネート)系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂(例えば、塩素化オレフィン系樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、各種ゴム類(例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタンジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム)等から選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含み得る。一好適例として、天然ゴム、イソプレンゴム、SBR、ポリ塩化ビニル系樹脂およびポリエステル系樹脂から選択される1種または2種以上を含む下塗り層が挙げられる。下塗り層の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0060】
下塗り層の厚さは特に制限されない。下塗り層の厚さは、通常、凡そ0.01μm以上(例えば凡そ0.1μm以上)とすることが適当である。また、下塗り層の厚さは、通常、凡そ5μm以下(例えば凡そ2μm以下)とすることが適当である。下塗り層が薄すぎると、十分な効果が発揮されないことがあり得る。下塗り層が厚すぎると、ベースフィルムと下塗り層の界面での剥離または下塗り層の内部での破壊により、糊残りを防止する効果が低下傾向となることがあり得る。
【0061】
上述のような背面層や下塗り層には、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料等)、充填材、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を、必要に応じて配合することができる。添加剤の配合量は特に限定されず、マスキングシートの用途等に応じて適宜設定することができる。
【0062】
上記樹脂フィルムは、必要に応じて、上述のような背面層や下塗り層以外の層を有していてもよい。そのような任意の層の例としては、視認性調整層(例えば着色層)や帯電防止層等が挙げられる。
【0063】
好ましい一態様に係るマスキングシートは、該マスキングシートの弾性率Et’[N/mm]と、上記マスキングシートを構成する基材の厚さHs[mm]との関係が、次式:0.7[N・mm]<Et’×Hs;を満たすように構成され得る。このEt’×Hsの値は、マスキングシートの曲げ剛性に比例する。非金属基材を備えるマスキングシートにおいて、該マスキングシートの曲げ剛性がある程度以上に大きくなるように、具体的にはEt’×Hsが0.7N・mmより大きくなるように構成することにより、薬液処理時(特に、アノダイズ処理時)におけるマスキングシートへの薬液浸入が好適に抑制され得る。
【0064】
上記薬液処理がアノダイズ処理を含む場合には、0.7N・mm<Et’×Hsを満たすようにマスキングシートを構成することが特に有意義である。非金属基材を備えたマスキングシートにおいて、該マスキングシートが上記関係式を満たすように構成することにより、アノダイズ処理時の薬液浸入が顕著に抑制され得る。理論に拘束されることを望むものではないが、上記の効果が発揮される理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、非金属基材(典型的には絶縁体)を用いたマスキングシートでは、アノダイズ処理時(通電時)において、該マスキングシートが貼り付けられていることによる電界の歪が大きくなりがちである。電界の歪みは電流の集中を招き得るため、非金属基材を用いたマスキングシートの外縁付近ではガス(主に電気分解により生じるガス、すなわち電解ガス)の発生が促進される傾向にある。マスキングシートの外縁付近で発生する電解ガスは、該電解ガスがマスキングシートを処理対象物品の表面から押し上げようとすることでマスキングシートの密着性を低下させ、マスキングシートの外縁からの薬液浸入を進行させる要因となり得る。マスキングシートの曲げ剛性を大きくして変形しにくくすることにより、アノダイズ処理時においても、上記電解ガスがマスキングシートを押し上げようとする力に抗して(すなわち、電解ガスを押さえ込んで)マスキングシートが処理対象物品の表面に密着した状態を維持しやすくなる。このことによってアノダイズ処理時における薬液浸入防止性が向上するものと考えられる。
【0065】
ここに開示されるマスキングシートのEt’×Hsは、典型的には0.8N・mm超、好ましくは1.0N・mm超、より好ましくは1.5N・mm超、さらに好ましくは2.0N・mm超(例えば2.2N・mm超)であり得る。Et’×Hsの値が大きくなると、薬液浸入がよりよく抑制される傾向にある。Et’×Hsの上限は特に限定されない。マスキングシートの厚さHtが過度に大きくなることを避ける観点や、基材の入手容易性または製造容易性の観点から、Et’×Hsは、通常、凡そ10×10N・mm以下が適当であり、凡そ1×10N・mm以下(例えば凡そ0.5×10N・mm以下)が好ましい。
【0066】
マスキングシートの弾性率Et’は、市販の動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。具体的には、測定対象のサンプル(マスキングシート)を長さ30mm、幅5mmの短冊状にカットして試験片を作製する。この試験片を、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、RSA−III)を用いて、引張測定モードにて、チャック間距離23mm、昇温速度10℃/分、周波数1Hz、ひずみ0.05%の条件で、0℃〜100℃の温度域における引張貯蔵弾性率を、基材の断面積当たりの値として求める。その結果から、25℃における基材の断面積当たりの引張貯蔵弾性率を求めることができる。この値をマスキングシートの弾性率Et’とする。
【0067】
ここで、マスキングシートの弾性率Et’を「基材の断面積当たり」の値として求めるのは、通常、粘着剤の弾性率は基材の弾性率に比べて無視し得る程度に小さいため(典型的には基材の弾性率の1%未満)、引張貯蔵弾性率の算出に用いる断面積に粘着剤層の断面積を含めると、本願の目的に適うマスキングシートの特性の把握が却って困難となるためである。また、このように粘着剤の弾性率が基材の弾性率に比べて極めて小さいことから、本発明の課題解決の観点からは、マスキングシートをサンプルとして上記方法により求められる弾性率(すなわち、基材の断面積当たりの引張貯蔵弾性率Et’)と、基材の弾性率Es’(このEs’は、長さ30mm、幅5mmの短冊状にカットした基材をサンプルに用いる他は、Et’と同様にして測定される。)とを概ね同視し得る。したがって、ここに開示される技術では、マスキングシートの弾性率Et’の代替値または少なくとも実用上十分な近似値として、基材の弾性率Es’の値を用いることができる。また、本明細書中のEt’とEs’とは、特記しない場合、相互に読み替えることができる。例えば、Et’×HsとEs’×Hsとを相互に読み替えることができる。
【0068】
マスキングシートの弾性率Et’は、特に限定されない。具体的には、Et’は、例えば0.3GPa以上(典型的には0.5GPa以上)であり得る。より薄いマスキングシートにおいても良好な薬液浸入防止性を発揮し得るという観点から、Et’は、1.0GPa(すなわち、1.0×10N/mm)以上であることが有利であり、1.5GPa以上が好ましく、2.0GPa以上がより好ましい。Et’の上限は特に限定されない。基材の入手容易性または製造容易性の観点から、通常は30GPa以下が適当であり、20GPa以下が好ましく、10GPa以下(例えば6.0GPa以下)がより好ましい。Et’は、基材の構成や使用材料、それらの組合せ等により調節することができる。
【0069】
マスキングシートの厚さHtは、特に限定されない。ここに開示される技術は、例えば、Htが7mm以下(典型的には5mm以下、例えば1mm以下)である態様で実施され得る。好ましい一態様において、Htは、0.50mm以下とすることができ、0.30mm以下が好ましく、0.25mm以下(例えば0.20mm以下)がより好ましく、0.15mm以下(典型的には0.15mm未満)がさらに好ましい。マスキングシートの厚さHtを小さくすることにより、該マスキングシートを用いた塗装処理において、マスキングシートの端面における塗料溜まりが低減し、塗装後の被着体からマスキングシートを剥がす際の塗装欠けを抑制することができる。Htの下限は特に制限されないが、通常は0.04mm以上が適当であり、0.06mm以上が好ましい。ここに開示されるマスキングシートは、Htが0.08mm超(典型的には0.09mm以上、例えば0.10mm以上)である態様で好ましく実施され得る。
【0070】
なお、マスキングシートの厚さHtとは、被着体(処理対象物品)に貼り付けられる部分の厚さをいう。例えば図1に示す構成のマスキングシート10では、マスキングシート10の粘着面(処理対象物品への貼付け面)2Aから背面10B(典型的には、基材1の第二面1Bを兼ねる。)までの厚さを指し、剥離ライナー3の厚さは含まない。
【0071】
基材の厚さHsは、特に限定されない。ここに開示されるマスキングシートは、例えば、Hsが5mm以下(典型的には3mm以下)である態様で実施され得る。マスキングシートの取扱い性や加工性の観点から、通常、Hsとしては1mm以下(例えば0.50mm以下)が適当である。好ましい一態様において、Hsは、0.30mm以下とすることができ、0.20mm以下が好ましく、0.15mm以下(例えば0.12mm以下)がより好ましい。Hsが小さい基材を用いることにより、マスキングシートの厚さHtを低減しやすくなる。Hsの下限は特に制限されないが、通常は0.03mm以上が適当であり、0.05mm以上(典型的には0.05mm超)が好ましい。入手容易あるいは製造容易な基材においてより高いEt’×Hsを実現する観点から、Hsは、0.07mm以上であってもよく、0.08mm以上(例えば0.10mm以上)であってもよい。
【0072】
基材の弾性率Es’は、特に限定されない。具体的には、Es’は、例えば0.3GPa以上(典型的には0.5GPa以上)であり得る。より薄い基材を用いても良好な薬液浸入防止性を示すマスキングシートが構築されやすいという観点から、Es’は、1.0GPa以上であることが有利であり、1.5GPa以上が好ましく、2.0GPa以上がより好ましい。Es’の上限は特に限定されない。基材の入手容易性または製造容易性の観点から、通常は30GPa以下が適当であり、20GPa以下が好ましく、10GPa以下(例えば6.0GPa以下)がより好ましい。Es’は、基材の構成や使用材料、それらの組合せ等により調節することができる。
【0073】
<粘着剤層>
ここに開示される技術における粘着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(粘着剤)から構成された層をいう。ここでいう粘着剤は、「C. A. Dahlquist, “Adhesion : Fundamental and Practice”, McLaren & Sons, (1966) P. 143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E(1Hz)<10dyne/cmを満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)であり得る。
【0074】
ここに開示される技術における粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物、水溶性粘着剤組成物、溶剤型粘着剤組成物、ホットメルト型粘着剤組成物、活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物等の、各種の形態の粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり得る。耐薬液浸入性等の観点から、溶剤型粘着剤組成物を好ましく使用し得る。
【0075】
粘着剤の組成は特に限定されない。上記粘着剤は、粘着剤の分野において公知のゴム系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等、室温域においてゴム弾性を示す各種のポリマーの1種または2種以上をベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、すなわち50重量%超を占める成分)として含むものであり得る。薬液に対する耐性等の観点から好ましい粘着剤として、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤およびシリコーン系粘着剤が例示される。ここで、ゴム系粘着剤とは、該粘着剤のベースポリマーが1種または2種以上のゴム系ポリマーである粘着剤をいう。アクリル系粘着剤およびシリコーン系粘着剤についても同様である。また、アクリル系ポリマーとは、アクリル系モノマーに由来するモノマー単位をポリマー構造中に含む重合物をいい、典型的にはアクリル系モノマーに由来するモノマー単位を50重量%を超える割合で含む重合物をいう。ここでアクリル系モノマーとは、1分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。なお、上記(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。
【0076】
ここに開示されるマスキングシートの粘着剤層としては、ゴム系粘着剤を主成分とする粘着剤層(ゴム系粘着剤層)を好ましく採用し得る。上記ゴム系粘着剤は、天然ゴムおよび合成ゴムから選択される1種または2種以上のゴム系ポリマーを含むものであり得る。なお、本明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分をいう。
【0077】
天然ゴムとしては、特に限定されず、例えばStandard Malaysian Rubber(SMR)、Standard Vietnamese Rubber(SVR)、リブドスモークドシート(RSS)、ペールクレープ等を用いることができる。
【0078】
天然ゴムのムーニー粘度は特に限定されない。例えば、上記天然ゴムのMS(1+4)100℃の測定条件におけるムーニー粘度(ムーニー粘度MS1+4(100℃))は、凡そ10以上(典型的には30以上、好ましくは50以上、より好ましくは65以上)であり得る。また、上記天然ゴムのムーニー粘度MS1+4(100℃)は、典型的には150以下であり、通常は120以下(例えば100以下)であり得る。一態様において、ムーニー粘度MS1+4(100℃)が10〜100程度(例えば30〜95程度)の天然ゴムを用いることができる。他の一態様において、ムーニー粘度MS1+4(100℃)が50〜90程度(例えば65〜85程度)の天然ゴムを用いることができ、例えば、ムーニー粘度MS1+4(100℃)が70超(典型的には70より大きく90以下、例えば72〜85程度)の天然ゴムを好ましく用いることができる。ムーニー粘度は、素練り等の一般的な方法で調整することができる。また、しゃく解剤を配合して素練りを行うことより、素練り時間の短縮を図ることができる。
【0079】
天然ゴムを含むゴム系粘着剤の好ましい一態様において、該天然ゴムは、素練りを行わないか、または素練りの程度が少ない形態で用いられ得る。このような天然ゴムを含むゴム系粘着剤は、該天然ゴムの分子量が比較的高い(すなわち分子鎖が長い)ことから、良好な耐薬品性を示す傾向にある。特に限定するものではないが、一態様において、ムーニー粘度MS1+4(100℃)が70超(典型的には70を超えて100以下)、より好ましくは75以上(典型的には75〜100)、例えば80以上(典型的には80〜100であり、85以上、例えば85〜120または85〜100でもよい。)の天然ゴムが好ましく用いられ得る。このように比較的ムーニー粘度MS1+4(100℃)の高い天然ゴムは、例えば、後述するような非架橋タイプのゴム系粘着剤層において特に好ましく採用され得る。
【0080】
ゴム系粘着剤に用いられ得る合成ゴムの具体例としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン系ブロック共重合体等が挙げられる。合成ゴムの他の例として、エチレンプロピレンゴム、プロピレンブテンゴム、エチレンプロピレンブテンゴムが挙げられる。合成ゴムのさらに他の例として、天然ゴムに他のモノマーをグラフトさせたグラフト変性天然ゴムが挙げられる。上記他のモノマーは、アクリル系モノマー、スチレン、無水マレイン酸等の、天然ゴムにグラフトさせ得るモノマーの1種または2種以上であり得る。これらの合成ゴムは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
上記スチレン系ブロック共重合体の具体例としては、スチレンイソプレンブロック共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体、これらの水素添加物等が挙げられる。ここで、スチレンイソプレンブロック共重合体とは、スチレンブロックとイソプレンブロックとをそれぞれ少なくとも一つ有する共重合体をいう。スチレンブタジエン共重合体についても同様である。上記スチレンブロックとは、スチレンを主モノマー(50重量%を超える共重合成分をいう。以下同じ。)とするセグメントをいう。実質的にスチレンのみからなるセグメントは、ここでいうスチレンブロックの典型例である。イソプレンブロックおよびブタジエンブロックについても同様である。
【0082】
特に限定するものではないが、スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン含有量が5〜50重量%、好ましくは10〜45重量%、より好ましくは12〜35重量%(例えば15〜30重量%)のものを使用することができる。上記スチレン含有量とは、当該ブロック共重合体の全体重量に占めるスチレン成分の重量割合をいい、NMR(核磁気共鳴スペクトル法)により測定することができる。
上記スチレン系ブロック共重合体は、ジブロック共重合体やトリブロック共重合体等の直鎖構造のポリマーを主成分とするものであってもよく、放射状(radial)構造のポリマーを主成分とするものであってもよい。
【0083】
好ましいゴム系粘着剤の一例として、ゴム系ポリマーとして天然ゴムと合成ゴムとを含む粘着剤が挙げられる。天然ゴムと組み合わせて使用する合成ゴムとしては、例えば、上述した各種合成ゴムの1種または2種以上を採用することができる。なかでも、スチレン系ブロック共重合体やSBRなどの、スチレン成分が共重合された組成の合成ゴムを好ましく使用し得る。
SBRとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン含有量が10重量%以上、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上のものを使用することができる。また、上記SBRのスチレン含有量は、例えば50重量%以下、好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下であり得る。
スチレン系ブロック共重合体(例えば、スチレンイソプレンブロック共重合体)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン含有量が5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは12重量%以上(例えば15重量%以上)のものを使用することができる。上記スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は、例えば、50重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは35重量%以下(例えば30重量%以下)であり得る。一態様において、放射状構造のポリマーを主成分とするスチレンイソプレンブロック共重合体を好ましく使用し得る。かかるスチレンイソプレンブロック共重合体の市販品として、例えば、製品名「クインタック3460C」(日本ゼオン株式会社製)が挙げられる。
【0084】
天然ゴムと合成ゴムとを含む粘着剤において、それらの含有量の比は特に限定されない。一態様において、天然ゴム:合成ゴムの重量比は、例えば10:90以上、好ましくは25:75以上、より好ましくは35:65以上であり得る。また、天然ゴム:合成ゴムの重量比は、例えば90:10以下、好ましくは80:20以下、例えば75:25以下であり得る。
特に限定するものではないが、天然ゴムと合成ゴムとの合計重量が粘着剤層全体の重量に占める割合は、通常、30重量%以上とすることが適当であり、好ましくは40重量%以上、より好ましくは45重量%以上であり、50重量%以上であってもよい。また、上記割合は、通常、90重量%以下とすることが適当であり、好ましくは85重量%以下、より好ましくは75重量%以下であり、例えば70重量%以下であってもよい。好ましい一態様において、天然ゴムと合成ゴムとの合計重量が粘着剤層全体の重量に占める割合を30〜85重量%(より好ましくは40〜75重量%)とすることができる。
【0085】
好ましいゴム系粘着剤の他の一例として、該粘着剤に含まれるゴム系ポリマーが実質的に天然ゴムからなる粘着剤、すなわち上記ゴム系ポリマーの95重量%以上(典型的には98重量%以上、例えば99重量%以上)が天然ゴムからなる粘着剤が挙げられる。好ましいゴム系粘着剤のさらに他の一例として、ゴム系ポリマーが実質的に合成ゴムからなる粘着剤、すなわち上記ゴム系ポリマーの95重量%以上(典型的には98重量%以上、例えば99重量%以上)が合成ゴムからなる粘着剤が挙げられる。
【0086】
ここに開示される技術の一態様において、上記粘着剤層は、非架橋タイプの粘着剤からなる粘着剤層であり得る。ここで、「非架橋タイプの粘着剤からなる粘着剤層」とは、該粘着剤層を形成する際に、ベースポリマー間に化学結合を形成するための意図的な処理(すなわち架橋処理、例えば架橋剤の配合等)が行われていない粘着剤層をいう。このような粘着剤層は、柔軟性に優れる傾向にあるため、被着体の表面に存在し得る凹凸に対する追従性がよく、該被着体表面に対して良好な密着性を発揮し得る。また、粘着剤層内に歪を蓄積しにくい(一時的に歪みが生じたとしても容易に解消し得る)ので、貼付け後に物理的応力や温度変化等に曝されても内部歪に起因する剥がれが生じにくい。したがって被着体表面に対する良好な密着状態を維持しやすい傾向にある。このように被着体表面に対する密着性に優れることは、薬液の浸入防止に対して有利に寄与し得る。フライス加工が施された部材(表面に加工跡の凹凸を有し得る。例えば、最大20μm程度の凹凸を有し得る。)に適用されるマスキングシートや、該マスキングシートの貼り付け前または貼付け後にショットピーニング処理が施される部材に適用されるマスキングシートでは、非架橋タイプの粘着剤からなる粘着剤層を備えることが特に有意義である。
ここに開示される技術は、例えば、非架橋タイプのゴム系粘着剤層を備え、該ゴム系粘着剤層に含まれるゴム系ポリマーが天然ゴムを含み、その天然ゴムのムーニー粘度MS1+4(100℃)が70超、より好ましくは80以上、例えば90以上である態様で好ましく実施され得る。上記天然ゴムのムーニー粘度MS1+4(100℃)は、通常、150以下であり、例えば120以下であり得る。
【0087】
ここに開示される技術における粘着剤層は、ベースポリマーの他に粘着付与剤を含み得る。粘着剤層に粘着付与剤を含有させることにより、被着体(処理対象物品)に対する粘着力を向上させ、マスキング性能またはその信頼性(安定性)を高めることができる。粘着付与剤としては、公知のロジン系樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂等を用いることができる。
【0088】
ロジン系樹脂の例としては、不均化ロジン、水添ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等のロジン誘導体や、フェノール変性ロジン、ロジンエステル等が挙げられる。フェノール変性ロジンとしては、例えば、天然ロジンやロジン誘導体にフェノール類を付加反応させて得られたものや、レゾール型フェノール樹脂と天然ロジンやロジン誘導体とを反応させて得られるフェノール変性ロジン等が挙げられる。フェノール変性ロジンは金属塩として用いることができる。ロジンエステルとしては、例えば、上記ロジン系樹脂と多価アルコールとを反応させたエステル化物等が挙げられる。なお、ロジンフェノール樹脂をエステル化物とすることもできる。
【0089】
石油系樹脂の例としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)石油樹脂、これらの水素添加物(例えば、芳香族系石油樹脂に水素添加して得られる脂環族系石油樹脂)、これらの各種変性物(例えば、無水マレイン酸変性物)等が挙げられる。
【0090】
テルペン系樹脂の例には、テルペン樹脂および変性テルペン樹脂が含まれる。
テルペン樹脂の例としては、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネン、l−リモネン、ジペンテン等のテルペン類(典型的にはモノテルペン類)の重合体が含まれる。上記テルペン樹脂は、1種のテルペン類の単独重合体であってもよく、2種以上のテルペン類の共重合体であってもよい。1種のテルペン類の単独重合体としては、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体等が挙げられる。
変性テルペン樹脂の例としては、上述のようなテルペン樹脂を変性(フェノール変性やスチレン変性等の芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性等)したものが挙げられる。具体的には、テルペンフェノール樹脂、スチレン変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が例示される。ここで「テルペンフェノール樹脂」とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペンとフェノール化合物との共重合体(テルペン−フェノール共重合体樹脂)と、テルペンの単独重合体または共重合体(テルペン樹脂、典型的には未変性テルペン樹脂)をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。
【0091】
フェノール系樹脂の例としては、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、アルキルフェノール(例えばp−アルキルフェノール)、レゾルシン等の各種フェノール類と、ホルムアルデヒドとの縮合物が挙げられる。例えば、上記フェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒下で付加反応させて得られるレゾールや、上記フェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒下で縮合反応させて得られるノボラック等が挙げられる。
一態様において、メチロール基を有するフェノール樹脂(例えば、レゾール型フェノール樹脂)を好ましく用いることができる。このようなメチロール基含有フェノール樹脂は、加熱により粘着剤(例えば、ゴム系粘着剤)を架橋することもでき、これによりマスキング時の耐熱性向上やマスキング後の再剥離性(非糊残り性)向上に有利に貢献し得る。メチロール基含有フェノール樹脂の好適例として、メチロール基含有アルキルフェノール樹脂が挙げられる。
【0092】
特に限定するものではないが、好ましく使用し得る粘着付与剤の市販品として、製品名「エスコレッツ1202」(脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点98.5℃、東燃化学合同会社)、製品名「クイントンD−200」(無水マレイン酸変性C5/C9系石油樹脂、軟化点約100℃、日本ゼオン株式会社)、製品名「スミライトPR12603N」(フェノール変性ロジン、軟化点約130℃、住友ベークライト株式会社)、製品名「YSレジンPX1150」(テルペン樹脂、軟化点約115℃、ヤスハラケミカル株式会社)、粘着剤の架橋にも利用し得る粘着付与剤として製品名「レヂトップPS−4609」(アルキルフェノール樹脂、軟化点90℃、群栄化学工業株式会社)等を例示することができる。
【0093】
粘着付与剤の含有量は特に限定されず、目的や用途に応じて適切な粘着性能が発揮されるように設定することができる。ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の含有量(2種以上の粘着付与剤を含む場合には、それらの合計量)は、例えば5〜300重量部程度とすることができる。
好ましい一態様において、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の含有量は、例えば5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは20重量部以上、さらに好ましくは30重量部以上である。ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の含有量は、例えば150重量部以下、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。一態様において、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の含有量は、80重量以下であってもよく、60重量部以下(例えば50重量部以下)であってもよい。
【0094】
特に限定するものではないが、ここに開示されるマスキングシートは、粘着剤層に占める粘着付与剤の割合が例えば10重量%以上85重量%以下である態様で実施することができる。粘着付与剤の使用効果をよりよく発揮する観点から、粘着剤層に占める粘着付与剤の割合は、通常、15重量%以上とすることが好ましく、20重量%以上がより好ましく、25重量%以上(例えば30重量%以上)がさらに好ましい。かかる粘着付与剤の割合は、例えば、ゴム系粘着剤(典型的には、天然ゴムと合成ゴムとを組み合わせて含む粘着剤)に好ましく適用され得る。また、被着体(処理対象物品)からの剥離作業性等の観点から、粘着剤層に占める粘着付与剤の割合は、通常、75重量%以下とすることが適当であり、70重量%以下とすることが好ましい。好ましい一態様において、粘着剤層に占める粘着付与剤の割合は、60重量%以下としてもよく、さらには50重量%以下(例えば40重量%以下)としてもよい。
【0095】
ここに開示される技術では、上記粘着付与剤として、軟化点(軟化温度)が凡そ60℃以上であるものを好ましく使用し得る。上述した下限値以上の軟化点をもつ粘着付与剤によると、非糊残り性に優れた粘着剤層が形成されやすい。軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ200℃以下(典型的には180℃以下)であり得る。なお、粘着付与剤の軟化点は、JIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定することができる。
【0096】
ここに開示される技術の一態様において、上記粘着付与剤は、軟化点120℃未満の粘着付与剤を含む態様で好ましく用いられ得る。軟化点120℃未満の粘着付与剤のみを使用してもよく、軟化点120℃以上の粘着付与剤と軟化点120℃未満の粘着付与剤とを組み合わせて使用してもよい。後者の場合、使用する粘着付与剤に占める軟化点120℃未満の粘着付与剤の割合は、例えば30重量%以上とすることができ、通常は50重量%以上とすることが適当であり、70重量%以上とすることが好ましい。軟化点120℃未満の粘着付与剤の割合が95重量%以上であってもよく、100重量%であってもよい。上記軟化点120℃未満の粘着付与剤としては、例えば、軟化点120℃未満(典型的には80℃以上120℃未満)のテルペン系樹脂を好ましく使用し得る。
【0097】
ここに開示される技術の一態様において、上記粘着付与剤は、軟化点120℃以上の粘着付与剤を含む態様で好ましく用いられ得る。軟化点120℃以上の粘着付与剤のみを使用してもよく、軟化点120℃以上の粘着付与剤と軟化点120℃未満の粘着付与剤とを組み合わせて使用してもよい。後者の場合、使用する粘着付与剤に占める軟化点120℃以上の粘着付与剤の割合は、通常、5重量%以上とすることが適当であり、10重量%以上(例えば15重量%以上)とすることが好ましい。軟化点120℃以上の粘着付与剤の割合の上限は、例えば95重量%以下とすることができ、通常は70重量%以下(例えば50重量%未満)とすることが適当である。
【0098】
粘着付与剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、ここに開示される技術の一態様において、粘着付与剤として石油系樹脂とロジン系樹脂との組合せを好ましく採用し得る。石油系樹脂とロジン系樹脂とを組み合わせて使用する場合、それらの使用量の関係は特に限定されない。好ましい一態様において、ロジン系樹脂1重量部に対する石油系樹脂の使用量は、例えば0.1〜20重量部とすることができ、通常は0.7〜15重量部が適当であり、1.0〜10重量部(典型的には、1.0重量部を超えて10重量部以下)が好ましい。ロジン系樹脂1重量部に対する石油系樹脂の使用量を1.5〜8重量部とすることにより、より好適な結果が実現され得る。また、好ましい他の一態様において、石油系樹脂100重量部に対するロジン系樹脂の使用量は、例えば10〜200重量部とすることができ、通常は20〜120重量部とすることが適当であり、30〜80重量部とすることが好ましい。
【0099】
ここに開示される技術の他の一態様において、粘着付与剤としてテルペン系樹脂を好ましく採用し得る。ここに開示される技術は、粘着付与剤の50重量%超(より好ましくは70重量%以上、典型的には85重量%以上、例えば95重量%以上)がテルペン系樹脂(典型的にはテルペン樹脂)である態様で好ましく実施され得る。
【0100】
ここに開示される技術の一態様において、上記粘着剤層は、架橋剤を含む粘着剤組成物から形成されたものであり得る。架橋剤の使用により、マスキングシートの非糊残り性が向上する傾向にある。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、シリコーン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、シラン系架橋剤、アルキルエーテル化メラミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等の、粘着剤の分野において公知または慣用の架橋剤を使用することができる。ゴム系粘着剤における架橋剤としては、例えばイソシアネート系架橋剤を用いることができ、また、加硫剤や加硫促進剤(例えば、硫黄、チウラム、キノイド、過酸化物、フェノール樹脂等、公知または慣用の加硫剤や加硫促進剤)を架橋剤として用いてもよい。イソシアネート系架橋剤を用いる場合は、必要に応じて、反応促進のために架橋触媒(例えば有機金属系触媒)をさらに配合してもよい。架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に限定するものではないが、架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.1〜30重量部程度とすることができ、通常は0.5〜20重量部程度とすることが適当である。あるいは、架橋剤を実質的に使用しなくてもよい。
【0101】
その他、ここに開示される技術における粘着剤層は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、レベリング剤、架橋助剤、可塑剤、軟化剤、着色剤(染料、顔料等)、充填剤、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、粘着剤に使用され得る公知の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。老化防止剤としては、例えば、フェノール系老化防止剤を好ましく使用し得る。老化防止剤の配合量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部とすることができる。このような老化防止剤の市販品としては、例えば製品名「ノクラックNS−6」(大内新興化学工業社製)が挙げられる。
【0102】
ここに開示されるマスキングシートは、従来公知の方法によって形成することができる。例えば、上述のような基材に粘着剤組成物を直接付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を採用することができる。また、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。これらの方法を組み合わせてもよい。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された基材背面等を利用し得る。
【0103】
粘着剤組成物の塗布は、グラビアロールコーター、ダイコーター、バーコーター等の、従来公知のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進や生産性向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40〜150℃程度とすることができ、通常は60〜130℃程度とすることが好ましい。
【0104】
粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜調整することができる。粘着剤層の厚さは、例えば1μm〜100μm程度であり得る。被着体表面との密着性の観点から好適な厚さは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。ショットピーニング面に貼り付けられる用途では、粘着剤層の厚さは、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上である。
また、粘着剤層の端面からの薬液の浸み込み(粘着剤の膨潤による薬液浸入)を抑制する観点から、粘着剤層の厚さは、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。ここに開示されるマスキングシートの一好適例において、粘着剤層の厚さを20μm以上40μm以下(例えば25μm以上35μm以下)とすることができる。
【0105】
<薬液処理>
ここに開示されるマスキングシートは、該マスキングシートに薬液が浸入し得る態様で行われる各種の薬液処理、例えばアノダイズ処理、エッチング処理、めっき処理等に広く適用することができる。使用する薬液の種類は特に制限されず、例えば酸性薬液、アルカリ性薬液、酸化性薬液、還元性薬液等であり得る。
【0106】
薬液処理される物品(被着体)の材質や形状等は特に制限されない。ここに開示されるマスキングシートは、金属部材、ガラス部材、セラミック部材、樹脂部材等の種々の部材の薬液処理に使用され得る。例えば、金属部材の薬液処理用のマスキングシートとして好ましく用いることができる。なかでも軽金属部材(例えば、アルミニウム部材)の薬液処理に用いられるマスキングシートとして好適である。特に、軽金属部材のアノダイズ処理(陽極酸化処理)用のマスキングシートとして好ましく使用され得る。ここで「軽金属部材」とは、アルミニウム、マグネシウム、チタン等の軽金属の単体または該軽金属を主成分とする合金(軽合金)により構成された表面を有する金属部材をいう。また、「アルミニウム部材」とは、アルミニウムまたはアルミニウム合金(アルミニウムを主成分とする合金)により構成された表面を有する金属部材をいう。上記アルミニウム合金の例としては、2000系合金、3000系合金、4000系合金、5000系合金、6000系合金および7000系合金が挙げられる。ここに開示されるマスキングシートの好ましい適用対象として、アルミニウム(典型的には1000系アルミニウム)または2000系合金(例えば、ジュラルミンA2024、ジュラルミンA2017等)により構成された表面を有するアルミニウム部材が挙げられる。
【0107】
ここに開示されるマスキングシートを用いて行われる薬液処理がアノダイズ処理を含む場合、該アノダイズ処理の態様は特に限定されず、一般的なクロム酸アノダイズ処理、リン酸アノダイズ処理、ホウ酸アノダイズ処理、硫酸アノダイズ処理、硫酸−ホウ酸アノダイズ処理等であり得る。アノダイズ処理される物品(処理対象物品)の材質や形状は、特に制限されない。上記処理対象物品は、典型的には軽金属部材である。
【0108】
薬液処理される物品の好適例として、輸送機器の外装部品その他の構造部材として用いられる金属部材が挙げられる。上記輸送機器の具体例としては、自動車(乗用車、トラック、バス、オート三輪、トラクター、雪上車、ブルドーザー、水陸両用車等を包含する。)、鉄道車両(新幹線等の電車、ディーゼル車、リニアモーターカー、ケーブルカー、モノレール、トロリーバス等を包含する。)、航空機(飛行機、ヘリコプター、エアクッション艇等を包含する。)、船舶(大型船舶、小型船舶、水上スクーター等を包含する。)等が挙げられる。一好適例として、航空機の外装パネル用のアルミニウム部材(典型的にはジュラルミン部材)が挙げられる。
【0109】
薬液処理に供する金属部材の表面には、あらかじめショットピーニング処理が施されていてもよい。また、上記金属部材は、厚み調整等の目的でフライス加工が施されたものであってもよい。あるいは、必要に応じて、上記金属部材に対して慣用の洗浄、脱脂、乾燥、エッチング、エージング等の処理を任意の時期に行ってもよい。例えば、ショットピーニング処理と薬液処理との間にエッチング工程を設けてもよい。エッチング工程用のマスキングシートは、エッチング工程後に引き続き薬液処理用マスキングシートとして用いられてもよく、エッチング工程後にエッチング工程用のマスキングシートを剥がして、新たに薬液処理用のマスキングシートを貼り付けてもよい。
【0110】
特に限定するものではないが、ここに開示されるマスキングシートは、ジュラルミンA2024からなる平板を被着体として測定される90度剥離強度(対ジュラルミン90度剥離強度)が、例えば凡そ0.5N/20mm以上である態様で実施することができる。処理対象物品に対する密着性等の観点から、上記対ジュラルミン90度剥離強度は、通常、1.0N/20mm以上であることが有利であり、1.5N/20mm以上(例えば2.0N/20mm以上)であることが好ましい。処理対象物品に対する密着性をよりよく維持する観点から、対ジュラルミン90度剥離強度は、3.0N/20mm以上であることが好ましく、例えば4.5N/20mm以上であってもよい。対ジュラルミン90度剥離強度の上限は特に制限されないが、剥離作業性や非糊残り性の観点から、通常は25N/20mm以下が適当であり、20N/20mm以下(典型的には15N/20mm以下、例えば10N/20mm以下)が好ましい。
対ジュラルミン90度剥離強度は、JIS Z0237に準じて、測定温度23℃においてマスキングシートをジュラルミン板(ジュラルミンA2024平板)に貼り付けてから30分後に、該ジュラルミン板の表面から90度方向に300mm/分の引張速度で引き剥がすことにより測定することができる。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
対ジュラルミン90度剥離強度は、例えば、マスキングシートを構成する粘着剤層の組成や該粘着剤層の厚さ等により調節することができる。
【0111】
特に限定するものではないが、ここに開示されるマスキングシートは、処理対象物品(被着体)に対する非糊残り性が良好であることが好ましい。例えば、上記対ジュラルミン90度剥離強度測定において、被着体としてのジュラルミン板への糊残りを生じないことが好ましい。
【0112】
特に限定するものではないが、ここに開示されるマスキングシートは、後述する実施例に記載の薬液浸入防止性評価において、薬液の浸入距離(対ジュラルミン平板)が5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1mm以下(例えば0.5mm以下)であることがさらに好ましい。このように薬液浸入防止性に優れたマスキングシートは、薬液処理(例えばアノダイズ処理)の後、引き続き被着体に貼り付けられた状態で後続処理工程を行う態様で好ましく使用され得る。
【0113】
<塗装処理>
ここに開示されるマスキングシートは、上述のように良好な塗膜剥落防止性を示す背面を有することから、薬液処理および塗装処理に兼用されるマスキングシートとして好適である。例えば、薬液処理工程より後に行われる塗装工程において、塗装対象外の部分(非処理対象部分)をマスクする用途に好ましく使用され得る。上記塗装工程において使用されるマスキングシートは、薬液処理工程から引き続き使用されるマスキングシートであってもよく、薬液処理工程後に新たに貼り付けられるマスキングシートであってもよい。
【0114】
好ましい一態様において、上記塗装工程は、薬液処理時に処理対象物品に貼り付けられていたマスキングシートが引き続き(継続して)貼り付けられている処理対象物品に塗装処理を施す工程であり得る。このように薬液処理工程で用いたマスキングシートを下流の塗装工程まで継続して利用することにより、マスキングシートを貼り換える作業(一般に、薬液処理工程に用いたマスキングシートを処理対象物品から剥離する作業、剥離後の処理対象物品表面を清掃する作業および新しいマスキングシートを貼り付ける作業を少なくとも含む。)に要する手間を省き、薬液処理および塗装処理が施された金属製品の生産性を向上させることができる。また、マスキングシートの使用量を減らすことができるので、資源の節約の観点からも好ましい。
【0115】
ここでいう塗料とは、いわゆる下塗り塗料(プライマーと称されることもある。)、中塗り塗料、仕上げ塗料(トップコートと称されることもある。)等を包含する概念である。上記塗装工程に使用する塗料の形態は特に限定されず、水系塗料、溶剤系塗料、紛体塗料等の形態であり得る。
【0116】
塗料の材質は特に制限されず、例えば、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料、アクリル系塗料、ポリエステル系塗料、アルキド系塗料(例えば、アミノアルキド樹脂塗料)、メラミン系塗料、ニトロセルロース系塗料、あるいはこれらの複合系(例えば、アルキドメラミン系塗料、アクリルメラミン系塗料、アクリルウレタン系塗料、ポリエステルメラミン系塗料)等であり得る。
例えば、エポキシ系塗料等のように比較的硬質の塗膜を形成する塗料を用いた塗装処理では、マスキングシートの背面に形成された塗膜が、該マスキングシートの剥離時に細かく割れて剥落しやすい傾向にある。したがって、ここに開示される技術を適用して塗膜の剥落を防止することが特に有意義である。
また、例えば、比較的厚い塗膜(例えば、厚さ80μm以上の塗膜)を形成する塗装処理では、マスキングシートの背面に形成される塗装も厚くなりがちであるため、該マスキングシートの剥離時に塗膜が剥落しやすい。したがって、ここに開示される技術を適用して塗膜の剥落を防止することが特に有意義である。
【0117】
塗装工程においてマスキングシートの端面(すなわち、マスキングシートの外縁と処理対象物品との段差部分)に塗料が溜まると、塗料を構成する溶媒の組成や粘着剤層の組成によっては、上記端面に溜まった塗料中に該粘着剤層を構成する粘着剤が溶け出すことがあり得る。その後、上記端面に溜まっていた塗料を乾燥させると、粘着剤層から溶け出した粘着剤が、典型的にはマスキングシートから外方に広がる薄膜を形成する。この薄膜は、マスキングシートを剥がす際に、処理対象物品上に残留(糊残り)しやすい。したがって、非糊残り性向上の観点から、マスキングシートの端面における塗料溜まり(特に、溶剤系塗料による塗料溜まり)は低減することが望ましい。塗料溜まりを低減するためには、マスキングシートの厚さHtは小さいほうが有利である。薬液処理工程(特に、アノダイズ工程)における良好な薬液浸入防止性と、塗装工程における塗料溜まり低減とを好適に両立する観点から、マスキングシートの厚さHtは、0.06mm以上0.30mm以下であることが好ましく、0.08mm以上0.25mm以下(例えば、0.08mmを超えて0.20mm以下)とすることがより好ましく、0.09mm以上0.15mm以下(例えば、0.09mmを超えて0.15mm未満)とすることがさらに好ましい。
【0118】
ここに開示されるマスキングシートは、塗装処理以外の後続処理(すなわち、薬液処理の後の処理対象物品に対してさらに行われる処理であって、塗装処理以外の処理)におけるマスキングシートとしても利用され得る。かかる後続処理の例としては、特に限定されないが、洗浄処理、脱脂処理、デスマット処理、デオキシダイズ処理、および、上記薬液処理がアノダイズ処理を含む場合において該アノダイズ処理により形成された陽極酸化皮膜を封孔する処理、等が含まれる。
【0119】
<薬液浸入を視認可能なマスキングシート>
ここに開示されるマスキングシートは、好ましい一態様において、該マスキングシートへの薬液浸入を、該マスキングシートの背面側から視認可能に構成することができる。ここで、マスキングシートの背面(外面)とは、粘着面とは反対側の表面を指す。通常は、基材の第二面が該マスキングシートの背面を兼ねる。
【0120】
本明細書において、マスキングシートへの薬液浸入とは、被着体に貼り付けられたマスキングシートを背面側からみて、当該マスキングシートの外周線よりも内側(中央側)であってかつ該マスキングシートの背面よりも内側(粘着面側)に薬液が入り込むことをいう。したがって、本明細書において、マスキングシートへの薬液浸入とは、マスキングシートの粘着面と被着体表面との界面から該マスキングシートの貼付け範囲内(マスキング領域内)に薬液が入り込む事象と、マスキングシート自体に薬液が浸み込む事象とを包含する概念である。
【0121】
本明細書において、マスキングシートへの薬液浸入を「視認可能」であるとは、人の視覚によって上記薬液浸入を検知し得ることをいう。典型的には、薬液が浸入した領域と浸入していない領域との外観の相違を人の視覚により識別することで、マスキングシートへの薬液浸入が視認される。上記外観の相違は、薬液の浸入に伴って生じる変化であって視覚を通じて認識することのできる様々な変化であり得る。例えば、色の変化(変色)、光透過性の変化、均一性の変化(例えば、外観のムラや斑点の発生)、屈折率の変化、蛍光強度の変化等のうち1または2以上の変化であり得る。上記色の変化は、色度、彩度、明度のうち1または2以上の変化であり得る。
【0122】
ここに開示されるマスキングシートは、被着体に貼り付けられたままの状態で(すなわち、被着体から剥がすことなく)、該マスキングシートへの薬液浸入を視覚により検知できるものであり得る。上記マスキングシートは、視認操作の簡便性の観点から、肉眼で薬液浸入を視認し得るように構成されていることが好ましい。もっとも、実際に視認作業を行う際に、薬液浸入の程度が基準レベル以下かどうかの判断の容易化や正確化、作業者の負荷軽減等の目的で、拡大鏡や遠隔観察用スコープ等の器具を使用することは妨げられない。
【0123】
上記マスキングシートは、背面側からみたときに、全体として薬液浸入を視認可能であればよい。例えば、マスキングシートの背面を仮想的な複数の領域に区分した場合において、少なくとも一部の領域が薬液浸入を視認可能であればよく、個々の領域のすべてが単独で薬液浸入を視認可能であることは必要とされない。もちろん、すべての領域が単独で薬液浸入を視認可能であってもよい。
【0124】
ここに開示されるマスキングシートは、典型的には、該マスキングシートの背面視における少なくとも一部の領域が光透過性を示すように構成される。マスキングシートの光透過性が高くなると、薬液浸入の視認可能性(視認性)が高くなる傾向にある。また、光透過性(透明性)を示すマスキングシートは、被着体への貼付け状態を該マスキングシートの背面側から目視等により確認しやすい。これにより、例えば粘着剤層の表面が被着体の表面に適切に密着していないことや、粘着剤層の表面が被着体の表面に浮きなく圧着していることを確かめながら貼付け作業を行うことができるという利点が得られる。
【0125】
マスキングシートの光透過性の程度は、例えばヘイズ値により評価することができる。ここで「ヘイズ値」とは、測定対象に可視光を照射したときの、全透過光に対する拡散透過光の割合をいう。くもり価ともいう。ヘイズ値は、以下の式で表すことができる。ここで、Thはヘイズ値(%)であり、Tdは散乱光透過率、Ttは全光透過率である。
Th(%)=Td/Tt×100
ヘイズ値は、マスキングシートを構成する基材や粘着剤層の組成、厚さ、表面状態等の選択により調節することができる。ヘイズ値の測定は、後述する実施例に記載の方法に従って行うことができる。
【0126】
好ましい一態様に係るマスキングシートは、少なくとも一部にヘイズ値が90%以下の領域を有する。より高い視認性を得る観点から、マスキングシートは、ヘイズ値が70%以下の領域を有することが好ましく、50%以下の領域を有することがより好ましく、35%以下の領域を有することがさらに好ましい。ヘイズ値の下限は特に限定されず、例えば5%以上(典型的には10%以上)であり得る。
後述するように高視認性領域と低視認性領域とを有するマスキングシートでは、少なくとも高視認性領域のヘイズ値が上記範囲にあることが好ましい。高視認性領域のヘイズ値および低視認性領域のヘイズ値がいずれも上記範囲にあってもよい。
【0127】
なお、マスキングシートの色は特に制限されず、有色であっても無色であってもよい。ここで「有色」とは、黒色や金属色を含む意味である。また、「無色」とは、白色を含む意味である。例えば、無色のマスキングシートが好ましい。
【0128】
マスキングシートは、該マスキングシート自体が適度な可視性を有するように構成されていることが好ましい。マスキングシートの可視性が高くなると、該マスキングシートの位置や形状を視覚により把握しやすくなる傾向にある。このことは、マスキングシートの位置ズレ、シワの発生、剥落などの不具合や、マスキングシートの貼り忘れなどの不備を、目視により検出する上で有利である。しかし、通常、マスキングシートの可視性を高くすると、該マスキングシートへの薬液浸入の視認性は低下する傾向にある。
ここに開示されるマスキングシートは、該マスキングシートの背面側からみて、薬液浸入の視認性が相対的に高い領域(高視認性領域)と相対的に低い領域(低視認性領域)とが存在するように構成することができる。このような構成によると、低視認性領域が存在することにより、マスキングシートの可視性を高めることができる。したがって、上記構成のマスキングシートによると、薬液浸入の視認性と、マスキングシートの可視性とを好適に両立させることができる。
【0129】
高視認性領域と低視認性領域とは、それらの領域の間で薬液浸入の視認性が不連続的に変化するように構成することができる。あるいは、高視認性領域と低視認性領域との間で薬液浸入の視認性が連続的に(徐々に)変化するように構成してもよい。
【0130】
高視認性領域および低視認性領域の形状や配置は特に制限されない。好ましい一態様において、高視認性領域と低視認性領域とは、マスキングシートの背面からみて混在するように配置することができる。例えば、マスキングシートの全体にわたって高視認性領域と低視認性領域とが概ね均等に混在(分散)していることが好ましい。例えば、高視認性領域のなかに低視認性領域が、例えば線状(ストライプ状、波状等)、点状(円形、多角形、不定形等)の形状で概ね均等に配置された形態とすることができる。このように構成されたマスキングシートは、任意の形状に切り取っても同等の性能を発揮することができるので使い勝手がよい。
【0131】
上記低視認性領域は、上記高視認性領域に比べて相対的にヘイズ値の高い領域であり得る。低視認性領域のヘイズ値は、高視認性領域のヘイズ値よりも高ければよく、特に制限されない。低視認性領域のヘイズ値は、例えば95%以上であってもよく、実質的に100%であってもよい。特に限定するものではないが、高視認性領域と低視認性領域とのヘイズ値の差は、典型的には15%以上、例えば30%以上とすることができる。高視認性領域と低視認性領域とを設けることによる効果をよりよく発揮する観点から、上記ヘイズ値の差を50%以上とすることが好ましく、70%以上とすることがより好ましい。
【0132】
高視認性領域と低視認性領域とを有するマスキングシートは、例えば、低視認性領域の形状および配置に対応する視認性調整層が形成された基材を用いることにより得ることができる。特に限定するものではないが、上記視認性調整層は、例えば、適当な着色剤(顔料、染料)を含むインクを基材に印刷して形成された着色層であり得る。また、上記視認性調整層は、基材に金属を蒸着して形成された金属蒸着層であってもよい。視認性調整層が薬液の影響を受けることを避ける観点からは、基材の第一面に視認性調整層を形成することが有利である。低視認性領域を形成する他の方法として、基材の第一面または第二面の一部領域を粗面化して当該領域の光透過性を低下させる方法を例示することができる。上記粗面化は、薬液処理等の化学的方法や、擦過傷の形成等の物理的方法を適宜採用して行うことができる。
【0133】
ここに開示されるマスキングシートは、薬液の浸入により該薬液浸入部分の色が変わるように構成することができる。かかる態様によると、マスキングシートの変色を検出することにより、薬液浸入を容易に視認することができる。上記変色を生じる箇所は特に制限されず、該変色をマスキングシートの背面側から視認できる箇所であればよい。例えば基材の変色であってもよく、粘着剤層の変色であってもよく、基材および粘着剤層の変色であってもよい。マスキングシートには、変色を促進する成分を含有させることができる。このことによって、薬液浸入の視認性を高めることができる。例えば、酸性薬液による薬液処理に使用されるマスキングシートにおいて、酸性条件下で発色または変色する指示薬を粘着剤層に含有させることができる。上記指示薬は、全体に均一に配合されてもよく、局所的に配置されてもよい。例えば、マスキングシートの外周部のみに配置する態様、上記目印に対応する位置に配置する態様等とすることができる。
【0134】
特に限定するものではないが、視認性を有するマスキングシートにおける基材の厚さは、例えば0.50mm以下とすることができ、好ましくは0.30mm以下、より好ましくは0.20mm以下、さらに好ましくは0.15mm以下(例えば0.12mm以下)である。基材の厚さを小さくすることにより、マスキングシートのヘイズ値が低くなり、薬液浸入の視認性が向上する傾向にある。好ましい一態様において、基材の厚さを0.10mm以下としてもよく、さらに0.09mm以下としてもよい。
【0135】
<粘着製品>
処理対象物品に貼り付けられる前のマスキングシートは、該処理対象物品の非処理対象部分をマスクするためのマスキング用粘着製品として把握され得る。このような粘着製品は、例えば、ここに開示されるいずれかのマスキングシートと、該マスキングシートの粘着面を保護する剥離ライナーと、を含む剥離ライナー付きマスキングシートとして構成され得る。
【0136】
剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば、樹脂フィルムや紙(ポリエチレン等の樹脂がラミネートされた紙であり得る。)等のライナー基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)のような低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。
【0137】
ライナー基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナーにおいて、該ライナー基材として使用し得る樹脂フィルムとしては、マスキングシートの基材に用いられ得る樹脂フィルムと同様のものが挙げられる。なかでも好ましい樹脂フィルムとして、ポリエステル系樹脂フィルム(例えば、PETフィルム)およびポリオレフィン系樹脂フィルム(例えば、OPPフィルム)が挙げられる。
【0138】
上記剥離処理層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、オレフィン系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤により上記ライナー基材を表面処理して形成されたものであり得る。ここに開示される技術の一態様において、非シリコーン系の剥離剤を用いて形成された剥離処理層を採用することができる。かかる組成の剥離処理層によると、剥離処理層に由来するシリコーン成分(未反応のシリコーン系剥離剤等)が処理対象物品に付着する事象を予防することができる。このことは、シリコーン成分の付着による塗装ムラの発生が懸念される使用態様(マスキングシートを用いた塗装処理の後、該マスキングシートを剥がしてさらに塗装を行う使用態様等)において特に有意義である。非シリコーン系剥離剤の具体例には、長鎖アルキル系剥離剤、オレフィン系剥離剤およびフッ素系剥離剤が含まれる。好ましい非シリコーン系剥離剤として、長鎖アルキル系剥離剤およびオレフィン系剥離剤が例示される。なかでも長鎖アルキル系剥離剤が好ましい。
【0139】
剥離ライナーの厚さは特に限定されないが、取扱い性等の観点から、通常、10μm以上が適当であり、好ましくは25μm以上、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。後述するようにハーフカットされた形態の粘着製品においては、製造容易性や取扱い性の観点から、厚さ50μm以上(例えば70μm以上)の剥離ライナーを用いることが特に好ましい。また、剥離ライナーの厚さは、通常、250μm以下が適当であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0140】
このように剥離ライナーを備える粘着製品の好ましい一形態として、例えば図3に示すように、剥離ライナー付きマスキングシート(粘着製品)100を構成するマスキングシート10が、連続する(ひとつながりの)剥離ライナー3上において、隣接する第1粘着片10aと第2粘着片10bとに分割されている形態が挙げられる。例えば図3に示す例では、円形の第1粘着片10aの外周と、この第1粘着片10aを囲む第2粘着片10bの内周とが隣接している。このような粘着製品100は、例えば図4に示すように、剥離ライナー3上に保持されたマスキングシート10を、基材1の第二面1B側から、剥離ライナー3の粘着剤層側表面3Aに至りかつ剥離ライナー3の背面(粘着剤層側表面とは反対の表面)3Bに到達しない深さ(すなわち、剥離ライナー3を少なくとも完全には分割しない深さ)で切断することにより得ることができる。以下、このようにマスキングシートを分割しかつ剥離ライナーを分割しない切断態様や、このような切断態様により形成された切断状態を、「ハーフカット」ということがある。
【0141】
ハーフカットされた形態の粘着製品100は、典型的には、粘着剤層2bを有する第2粘着片10bを剥離ライナー3上に残して、粘着剤層2aを有する第1粘着片10aを第2粘着片10bおよび剥離ライナー3から分離し、その分離した第1粘着片10aを処理対象物品のマスキング対象部分に貼り付ける態様で用いられる。このように、貼付け前の第1粘着片10aをハーフカットされた粘着製品100として扱うことにより、第1粘着片10aのサイズや外形を問わず同様の取扱いをすることができる。このことは、第1粘着片10aが比較的複雑な形状である場合や、第1粘着片10aのサイズが比較的小さい場合には特に有意義である。また、剥離ライナー3の少なくとも一部が第1粘着片10aからはみ出しているので、剥離ライナー3から第1粘着片10aを剥がす際の操作性(ピックアップ性)の点でも有利である。
【0142】
この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1) 薬液処理用のマスキングシートであって、
第一面および第二面を有する基材と、
上記基材の上記第一面側に配置された粘着剤層とを含み、
上記基材は非金属基材であり、かつ
上記マスキングシートの自背面摩擦力が2.5N以上である、マスキングシート。
(2) 上記マスキングシートの背面の構成材料は、アミド基、アミノ基、イソシアナト基、カルボキシル基、ビニル基、複素環(例えば、オキサゾリン環、トリアジン環、グルコース環)構造およびC−Cl構造から選択される少なくとも一種の特性基を有する、上記(1)に記載のマスキングシート。
(3) 上記基材は、上記マスキングシートの背面を構成する背面層と、該背面層を支持する樹脂フィルムとを含む、上記(1)または(2)に記載のマスキングシート。
(4) 上記背面層の厚さは、凡そ0.01μm以上(例えば凡そ0.05μm以上)、凡そ1μm以下(例えば凡そ0.5μm以下)である、上記(3)に記載のマスキングシート。
(5) 上記背面層は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂および各種ゴム類(例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム)から選択される1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含む、上記(3)または(4)に記載のマスキングシート。
(6) 上記基材は、該基材の第一面を構成する下塗り層を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のマスキングシート。
(7) 上記樹脂フィルムが単層である、上記(3)〜(6)のいずれかに記載のマスキングシート。
(8) 上記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムである、上記(3)〜(7)のいずれかに記載のマスキングシート。
(9) 上記樹脂フィルムは、厚さ0.06mm以上0.200mm以下のポリエステル系樹脂フィルムまたはポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムである、上記(3)〜(8)のいずれかに記載のマスキングシート。
【0143】
(10) 上記薬液処理はアノダイズ処理を含む、上記(1)〜(9)のいずれかに記載のマスキングシート。
(11) 上記マスキングシートの弾性率Et’と上記基材の厚さHsとの関係が、以下の関係式:
0.7N・mm<Et’×Hs
を満たす、上記(1)〜(10)のいずれかに記載のマスキングシート。
(12) 上記基材の弾性率Es’が1.0GPa以上である、上記(1)〜(11)のいずれかに記載のマスキングシート。
(13) 上記マスキングシートの厚さが0.08mmを超えて0.30mm以下である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載のマスキングシート。
(14) 上記粘着剤層の厚さは15μm以上50μm以下である、上記(1)〜(13)のいずれかに記載のマスキングシート。
【0144】
(15) 上記粘着剤層を構成する粘着剤はゴム系粘着剤である、上記(1)〜(14)のいずれかに記載のマスキングシート。
(16) 上記ゴム系粘着剤は、該粘着剤に含まれるゴム系ポリマー100重量部に対して20重量部以上100重量部以下(好ましくは30重量部以上70重量部以下)の粘着付与樹脂を含む、上記(15)に記載のマスキングシート。
(17) 上記粘着剤層を構成する粘着剤は、粘着付与樹脂を含み、該粘着付与樹脂の70重量%以上はテルペン系樹脂である、上記(1)〜(16)のいずれかに記載のマスキングシート。
(18) 上記粘着剤層を構成する粘着剤は、天然ゴムおよび合成ゴムを含む、上記(1)〜(17)のいずれかに記載のマスキングシート。
【0145】
(19) 上記マスキングシートへの薬液浸入を該マスキングシートの背面側から視認可能に構成されている、上記(1)〜(18)のいずれかに記載のマスキングシート。
(20) 処理対象部材の非処理対象部分に貼り付けられた状態で該処理対象部材の薬液処理に使用された後、引き続き上記処理対象部材に貼り付けられた状態で該処理対象部材の塗装処理に使用される、上記(1)〜(19)のいずれかに記載のマスキングシート。
【0146】
(20) 上記(1)〜(19)のいずれかに記載のマスキングシートと、
上記マスキングシートの粘着面を保護する剥離ライナーと
を含む、粘着製品。
(21) 上記剥離ライナーは、上記粘着面に対向する表面に剥離処理層を有し、
上記剥離処理層は非シリコーン系剥離剤を含む、上記(20)に記載の粘着製品。
(22) 上記粘着シートは、連続する上記剥離ライナー上において、隣接する第1粘着片と第2粘着片とに分割されている、上記(20)または(22)に記載の粘着製品。
【実施例】
【0147】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0148】
<粘着剤組成物の調製>
(粘着剤組成物Aの調製)
天然ゴム(SMR)70部、スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製、製品名「ニッポール1502」)30部、石油樹脂(東燃化学合同会社製、脂肪族系炭化水素樹脂、製品名「エスコレッツ1202」)50部、反応性アルキルフェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、製品名「レヂトップPS−4609」)10部およびフェノール系老化防止剤(大内新興化学工業社製、製品名「ノクラックNS−6」)3部をトルエンに溶解して、粘着剤組成物Aを調製した。
【0149】
(下塗り剤Uの調製)
天然ゴム(SMR)100部およびイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、製品名「コロネートL」)50部(固形分基準)をトルエンに溶解して、下塗り剤Uを調製した。
【0150】
<マスキングシートの作製>
(例1)
メチルエチルケトンとトルエンとの混合溶媒(体積比1:1)中に、ポリエステル系樹脂(東洋紡社製、製品名「バイロン200」)とイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、製品名「コロネートL」)との混合物を1%の濃度で含む表面処理剤S1を調製した。上記混合物における上記飽和ポリエステル樹脂と上記イソシアネート系架橋剤との重量比は、固形分基準で70:30である。
厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の第二面に上記表面処理剤S1を塗布し、100℃で乾燥させた後、150℃で1分間の加熱処理を行って、厚さ0.2μmの背面層を形成した。このPETフィルムの第一面に上記下塗り剤Uを塗布し、100℃で乾燥させることにより、厚さ1μmの下塗り層Uを形成した。このようにして、ベース層としてのPETフィルムの第一面に下塗り層Uを有し、表面処理剤S1から形成された背面層を第二面に有する基材B1を作製した。
【0151】
厚さ75μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の片面が長鎖アルキル系剥離剤で処理された剥離面となっている剥離ライナーを用意した。この剥離ライナーの剥離面に粘着剤組成物Aを塗布し、100℃で3分間乾燥させて、厚さ30μmの粘着剤層Aを形成した。基材B1の第一面(下塗り層の表面)を上記剥離ライナー上の粘着剤層に貼り合わせて、例1に係るマスキングシートを得た。上記剥離ライナーはそのまま粘着剤層上に残し、マスキングシートの粘着面の保護に使用した。
【0152】
(例2)
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に、水50部および過硫酸カリウム0.2部を仕込み、窒素気流下で1時間攪拌した。ここに、メチルメタクリレート(MMA)50部、エチルアクリレート(EA)37部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5部、N−メチロールアクリルアミド(N−MAM)3部、メタクリル酸(MAA)5部、水100部および乳化剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル2部を混合して乳化することにより調製した水性エマルション(モノマーエマルション)を、70℃で3時間かけて滴下した。上記モノマーエマルションの滴下終了後、70℃で4時間攪拌を継続してエージングを行った。その後、系を室温まで冷却し、10%のアンモニア水で中和して、上記組成に対応するアクリル系ポリマーを含む表面処理剤S2を調製した。
表面処理剤S1に代えて表面処理剤S2を用いた他は基材B1の作製と同様にして、PETフィルムの第一面に下塗り層Uを有し、表面処理剤S2から形成された背面層を第二面に有する基材B2を作製した。この基材B2の第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0153】
(例3)
下塗り剤Uを表面処理剤S3として使用して、基材B3を作製した。すなわち、厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の第二面に表面処理剤S3を塗布し、100℃で乾燥させて、厚さ0.2μmの背面層を形成した。その他の点は基材B1の作製と同様にして、PETフィルムの第一面に下塗り層Uを有し、下塗り剤U(表面処理時S3)から形成された背面層を第二面に有する基材B3を作製した。この基材B3の第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0154】
(例4)
イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、製品名「コロネートL」)とウレタン系樹脂(東ソー社製、製品名「ニッポラン2304」)とを、イソシアネート系架橋剤:ウレタン系樹脂の重量比が固形分基準で90:10となるように混合して、表面処理剤S4を調製した。これを厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の第二面に塗布し、100℃で乾燥させて、厚さ0.2μmの背面層を形成した。その他の点は基材B1の作製と同様にして、PETフィルムの第一面に下塗り層Uを有し、第二面に表面処理剤S4から形成された背面層を有する基材B4を得た。この基材B4の第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0155】
(例5)
メチルエチルケトンとトルエンとの混合溶媒(体積比1:1)中にセルロース系樹脂(株式会社ダイセル社製の酢酸セルロース樹脂)とポリエステル系樹脂(東洋紡社製、製品名「バイロン200」)とを70:30の重量比で含む表面処理剤S5を調製した。これを厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の第二面に塗布し、100℃で乾燥させて、厚さ0.2μmの背面層を形成した。その他の点は基材B1の作製と同様にして、PETフィルムの第一面に下塗り層Uを有し、第二面に表面処理剤S5から形成された背面層を有する基材B5を得た。この基材B5の第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0156】
(例6)
厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の第一面に、基材B1の作製と同様にして下塗り層Uを形成することにより、該PETフィルムの第一面に下塗り層Uを有する基材B6を作製した。この基材B6の第二面は、未処理のPETフィルム表面により構成されている。基材B6の第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0157】
(例7)
基材B6の第二面にコロナ放電処理を施すことにより基材B7を作製し、その第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0158】
(例8)
長鎖アルキル系剥離剤(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、製品名「ピーロイル1010」)をトルエンで希釈して表面処理剤S8を調製した。これを厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、製品名「ルミラー」)の第二面に塗布し、100℃で乾燥させて、厚さ0.2μmの背面層を形成した。その他の点は基材B1の作製と同様にして、PETフィルムの第一面に下塗り層Uを有し、第二面に表面処理剤S8から形成された背面層を有する基材B8を得た。この基材B8の第一面に粘着剤層Aを貼り合わせて、本例に係るマスキングシートを得た。
【0159】
<背面特性評価>
(自背面摩擦力)
上述した自背面摩擦力測定方法に従って、各例に係るマスキングシートの自背面摩擦力を測定した。第1のサンプルのサイズおよび形状は、50mm×50mmの正方形状とした。測定結果を表1に示した。
【0160】
(水接触角)
JIS R 3257:1999に準拠して、上述した水接触角測定条件により、各例に係るマスキングシートの背面の水接触角を測定した。測定結果を表1に示した。
【0161】
(No.31B粘着力)
上述したNo.31B粘着力測定方法に従って、各例に係るマスキングシートの背面を被着体としてNo.31B粘着力を測定した。測定結果を表1に示した。
【0162】
<対ジュラルミン90度剥離強度測定>
各例に係るマスキングシートについて、上述した方法で対ジュラルミン90度剥離強度を測定したところ、いずれも1.0N/20mm以上(より詳しくは、3.0N/20mm以上25N/20mm以下)であることが確認された。また、例1〜8のいずれのマスキングシートにおいてもジュラルミン板への糊残りは認められなかった。
【0163】
<薬液浸入防止性評価>
(アノダイズ処理)
各例に係るマスキングシートを、粘着面を保護する剥離ライナーごと、直径25mmの円形に打ち抜いた。23℃、65%RHの標準環境下において、打ち抜かれたマスキングシート(試験片)から剥離ライナーを除去し、これにより露出した粘着面を被着体に、2kgのローラーを1往復させて圧着した。被着体としては、あらかじめ脱脂した縦200mm、横100mm、厚さ1mmのジュラルミン板(ジュラルミンA2024からなる平板)を使用した。このようにして試験片を貼り付けたサンプルを上記標準環境下に30分放置した後、クロム酸アノダイズ液に浸漬し、液温40℃、電圧20Vの条件で、35分間のアノダイズ処理を行った。各例に係るマスキングシートにつき、それぞれ5つのサンプルを作製して上記アノダイズ処理を行った(すなわちN=5)。
【0164】
(薬液浸入距離測定)
アノダイズ処理後のサンプルにマスキングシート(試験片)が貼り付けられた状態のまま、薬液の浸入状況をマスキングシートの背面側から目視で確認した。薬液の浸入が認められた場合には、試験片の外縁からの薬液浸入距離を径方向に測定し、各サンプルにおける最も長い浸入距離を当該サンプルについての薬液浸入距離とした。各例に係るマスキングシートについて、5つのサンプルに係る薬液浸入距離の平均値を算出した。
【0165】
その結果、例1〜8に係るマスキングシートは、いずれも、薬液浸入距離が1mm以下(より詳しくは、0.5mm以下)であり、良好な薬液浸入防止性を示すことが確認された。また、例1〜8のマスキングシートは、いずれも、アノダイズ処理後において薬液の浸入範囲をマスキングシートの背面側から明確に視認することができた。また、各例に係るマスキングシートにつき、ジュラルミン平板を被着体として、通電を行わない点を除いては上記アノダイズ処理と同様の条件で薬液処理を行ったところ、いずれのマスキングシートにおいても薬液の浸入は認められなかった。
【0166】
<塗装試験>
各例に係るアノダイズ処理後のサンプル(直径25mmのマスキングシート(試験片)が貼り付けられたジュラルミン板)を静かに水洗し、室温で自然乾燥させた。
上記自然乾燥後のサンプルの試験片貼付け側の面に、該試験片の背面を含む全範囲にエポキシ系塗料(日本特殊塗料社製の溶剤系塗料、製品名「エポラ#3000S」)を塗布し、80℃で1時間加熱して乾燥させることにより、厚さ40μmのエポキシ塗膜を形成した。
また、上記自然乾燥後のサンプルの試験片貼付け側の面に、該試験片の背面を含む全範囲にウレタン系塗料(エスケー化研社製の溶剤型ウレタン樹脂塗料、製品名「ウレタンカラー」、略号「2−UE」)を塗布し、80℃で1時間加熱して乾燥させることにより、厚さ100μmのウレタン塗膜を形成した。
各塗料の乾燥および硬化が十分に進行した後、試験担当者がジュラルミン板から試験片を手で引き剥がした。この引き剥がしは、該ジュラルミン板の表面から90度の方向に、約0.3m/分の引張速度で行った。そして、上記引き剥がしの際に試験片の背面から塗膜が剥落したか否かを目視で判定し、剥落が認められない場合には「○」(塗膜剥落防止性良好)、試験片のほぼ全範囲で剥落が認められた場合には「×」(塗膜剥落防止性に乏しい)と評価した。結果を表1に示した。
なお、試験片を剥離した後のジュラルミン板表面を目視で観察したところ、いずれも糊残りは認められなかった。
【0167】
【表1】
【0168】
表1に示されるように、背面が未処理のPETフィルム表面である例6のマスキングシートに比べて、自背面摩擦力が2.5N以上である例1〜5のマスキングシートによると塗膜剥落防止性が顕著に改善された。これに対して、自背面摩擦力の低い例7,8のマスキングシートは塗膜剥落防止性に劣ることが確認された。
【0169】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0170】
1 基材
1A 第一面
1B 第二面
2 粘着剤層
2a 第1粘着片の粘着剤層
2b 第2粘着片の粘着剤層
2A 表面(粘着面)
3 剥離ライナー
3A 表面
3B 背面
10 マスキングシート
12 背面層
14 樹脂フィルム
16 下塗り層
10a 第1粘着片
10b 第2粘着片
10B 背面
32 ライナー基材
34 剥離処理層
100 剥離ライナー付き粘着シート(粘着製品)
図1
図2
図3
図4