【文献】
Catalysis Today,2011年,VOL.175,p.264-270,DOI:10.1016/j.cattod.2011.02.053
【文献】
INOMATA,H. et al.,Selective reduction of NO with CO in the presence of O2 with Ir/WO3 catalysts:Infuluence of preparat,Applied Catalysis B: Environmental,2008年,vol.84,p.783-789
【文献】
野島 繁 ほか,活性化処理を行った担持Ir触媒上での炭化水素によるNOx選択還元反応機構,日本化学会誌,2000年,NO.6,p.389-396
【文献】
TAYLOR, Kathleen C. et. al,Selective Reduction of Nitric Oxide over Noble Metals,Journal of Catalysis,1980年,vol.63,p.53-71
【文献】
Applied Catalysis. A:General,2006年,vol.304,p.78 -85, DOI:10.1016/j.apcata.2006.02.022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る脱硝触媒、脱硝触媒の製造方法及び脱硝システムの実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されない。
【0015】
1.脱硝触媒
本発明に係る脱硝触媒の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る脱硝触媒は、製鉄所の焼結炉により燃焼して生じた排ガス(以下、焼結炉排ガスともいう。)中のCOを還元剤かつ加熱用燃料として用いて脱硝するための脱硝触媒であり、担体と、活性金属としてイリジウム(Ir)を含む。
【0016】
脱硝触媒の脱硝の対象である焼結炉排ガス中には、還元性ガスであるCOが4000〜20000ppmの高濃度で含まれている。したがって、焼結炉排ガス中のCOを脱硝反応の還元剤として利用しつつ、かつ脱硝反応に寄与しないCOは酸化燃焼させる。これにより、燃焼炉排ガスの加熱にCOを利用する脱硝方法が可能となり、還元剤及び燃料コストを大幅に低減することができる。焼結炉排ガス中のCO濃度としては、6000ppm以上が好ましい。6000ppm以上であれば、燃焼炉排ガス中のCOを効率よく活用して、NO転化率を向上することができる。
【0017】
脱硝触媒の担体は、金属イリジウムを活性金属として担持でき、その比表面積が100m
2/g以下の担体原料であればよい。担体原料としては、金属酸化物又は金属硫酸化物が挙げられる。金属酸化物としては、チタン(Ti)、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)及びセリウム(Ce)からなる群より選択される1種以上の金属の酸化物又は複合酸化物が好ましく、二酸化チタン(TiO
2)又は二酸化珪素(SiO
2)がさらに好ましい。金属硫酸化物としては、硫酸バリウム(BaSO
4)、硫酸カルシウム(CaSO
4)又は硫酸ストロンチウム(SrSO
4)が好ましい。
【0018】
脱硝触媒の比表面積は、金属イリジウムを担持できる面積であればよい。より具体的には、脱硝触媒の比表面積は、その下限値を0.5m
2/g以上とすることができ、12m
2/g以上が好ましい。脱硝触媒の比表面積が0.5m
2/g未満であると、著しく脱硝性能が低下する虞がある。また、脱硝触媒の比表面積は、その上限値を100m
2/g以下であることが好ましく、90m
2/g以下がより好ましく、20m
2/g以下が更に好ましい。脱硝触媒の比表面積は、例えばBET法により計算したBET比表面積である。
【0019】
脱硝触媒中の金属イリジウムの結晶子径は、その下限値が10nm以上であることが好ましい。また、触媒中の金属イリジウムの結晶子径は、その上限値が30nm以下であることが好ましく、25nm以下がより好ましく、23nm以下が更に好ましい。また、触媒中の金属イリジウムの結晶子径は、12nm以上23nm以下であることが特に好ましい。金属イリジウムの結晶子径が30nmを超えると、脱硝反応自体の反応性が低下する虞がある。担体の金属イリジウムの担持量は、金属イリジウムの結晶子径が前記範囲内であればよく、例えば、担体に対して0.25〜2質量%とすることができる。
【0020】
以上のように、脱硝触媒の比表面積を所定の範囲内とし、かつ脱硝触媒中の金属イリジウムの結晶子径を所定の範囲内とすることにより、COを還元剤に用いて脱硝する際に、CO酸化反応の進行を抑制して脱硝反応の選択性を向上し、NO転化率を60%以上とすることができる。
【0021】
2.脱硝触媒の製造方法
以上の構成を有する脱硝触媒の製造方法の実施の形態について、説明する。
図1に、本実施の形態に係る脱硝触媒の製造方法をフロー図で示す。
図1に示すように、脱硝触媒の製造方法は、含浸担持工程と、焼成工程(第1及び第2焼成工程)と、活性化工程とを少なくとも含む。
【0022】
先ず、含浸担持工程として、所定の比表面積を有する担体に、イリジウム元素を少なくとも含有するイリジウム水溶液を含浸することにより、担体の表面にイリジウム化合物を含浸担持する(S1)。担体の比表面積は、例えばBET法により計算したBET比表面積である。
【0023】
含浸担持工程では、担体の比表面積の上限値は、担体がイリジウムを含浸担持できる範囲であればよく、100m
2/g以下が好ましく、80m
2/g以下がより好ましく、22m
2/g以下がさらに好ましい。また、担体の比表面積の下限値は、担体がイリジウムを含浸担持できる範囲であればよく、0.5m
2/g以上とすることができ、12m
2/g以上であることが好ましく、14m
2/g以上がより好ましい。担体の比表面積が0.5m
2/g未満であると、著しく脱硝性能が低下する虞がある。担体の比表面積が上記範囲内であれば、イリジウムの結晶子径を好適に成長させて、COを還元剤に用いて脱硝する際のNO転化率を向上することができる。
【0024】
次に、担体を所定の温度と時間で処理して、担体中の水分を蒸発し、乾固する(S2)。蒸発乾固した担体を空気中にて所定の温度及び時間で乾燥し(S3)、イリジウム化合物を担持した触媒を得る。担体を蒸発乾固する際の温度及び時間は、担体を乾固できる温度及び時間であればよく、例えば140℃で3時間とすることができる。また、乾固した担体を乾燥する温度及び時間は、担体を十分に乾燥できる温度及び時間であればよく、例えば110℃で12時間とすることができる。
【0025】
含浸担持工程で用いるイリジウム水溶液は、浸漬により担体にイリジウムを含浸担持できる水溶液であればよく、例えば、塩化イリジウム(III)溶液(H
3IrCl
6)、塩化イリジウム(II)溶液(H
2IrCl
6)、塩化イリジウム(III)酸ナトリウム溶液(Na
3IrCl
6)、塩化イリジウム(II)酸ナトリウム溶液(Na
2IrCl
6)、ヘキサブロモイリジウム(III)ナトリウム溶液(Na
2IrBr
6)、ヘキサアンミンイリジウム(III)クロライド溶液(Ir(NH
3)
6Cl
3)、ヘキサアンミンイリジウム(III)水酸塩溶液(Ir(NH
3)
6(OH)
3)、ヘキサアンミンイリジウム(III)硝酸塩溶液(Ir(NH
3)
6(NO
3)
3)等が挙げられる。これらのうち、実用的には、塩化イリジウム(II)溶液が好ましい。
【0026】
含浸担持工程で用いる触媒の担体は、前述した本実施の形態に係る脱硝触媒の担体を好適に採用することができる。
【0027】
第1焼成工程では、乾燥した担体を所定の温度と時間で加熱することによって、担体の表面上のイリジウム塩を分解して酸化し、酸化イリジウムを活性金属として担持した粉末状の触媒を得る(S4)。
【0028】
第1焼成工程での焼成温度は、例えば、400℃以上1000℃以下とすることができ、500℃以上800℃以下が好ましい。また、焼成工程での焼成時間は、3時間以上8時間以下が好ましい。また、第1焼成工程での昇温速度は、焼成時間と焼成温度によっても変化するが、例えば100℃/hとすることができる。第1焼成工程での温度、時間及び/又は昇温速度が上記範囲内であれば、脱硝触媒中のイリジウムの結晶子径を好適に成長させて、COを還元剤に用いて脱硝する際のNO転化率を向上することができる。
【0029】
次に、湿式ボールミル容器内で粉末の触媒に水(H
2O)を添加し、所定の条件で粉砕し、ウォッシュコート用のスラリを得る(S5)。湿式ボールミルによる粉砕条件は、例えば、室温で8時間、100rpmの回転数とすることができる。
【0030】
次に、スラリを攪拌器が付設してある別の容器に移し、ハニカム形状のモノリス基材をスラリに浸漬してウォッシュコートし、必要に応じて余分なスラリを吹き払った後、所定の温度と時間にて乾燥する(S6)。モノリス基材としては、コージュライト等のセラミックス製、酸化チタン製等のモノリス基材が挙げられる。コート量は、例えば基材の表面積に対して100g/m
2以下とすることができる。乾燥工程での温度及び時間は、担体が十分に乾燥できる温度及び時間であればよく、例えば、120℃の温度で2時間とすることができる。
【0031】
第2焼成工程では、ハニカム形状の触媒を所定の温度と時間で加熱して焼成する(S7)。第2焼成工程での焼成温度は、例えば、400℃以上1000℃以下とすることができ、500℃以上800℃以下が好ましい。焼成工程での焼成時間は、3時間以上8時間以下が好ましい。また、第2焼成工程での昇温速度は、焼成時間と焼成温度によっても変化するが、例えば100℃/hとすることができる。
【0032】
活性化工程では、イリジウムを担持した触媒を還元性ガスで所定の温度及び時間加熱することにより、触媒中の酸化イリジウムを還元して金属のイリジウムとし、イリジウムの結晶子径を所定の範囲とした触媒を得る(S8)。
【0033】
活性化工程の温度は、例えば、400℃以上1000℃以下とすることができ、500℃以上800℃以下が好ましい。また、活性化工程の時間は、例えば、0.5時間以上50時間以下とすることができる。活性化工程での温度及び/又は時間が上記の範囲であれば、脱硝触媒中のイリジウムの結晶子を好適に成長させて、COを還元剤に用いて脱硝する際のNO転化率を向上することができる。
【0034】
活性化工程で用いる還元性ガスとしては、水素(H
2)、一酸化炭素(CO)、それらの混合ガス、炭化水素類等のガスが挙げられる。これらのうち、還元性ガスとしては、還元性の強さの観点から、水素、一酸化炭素又はそれらの混合ガスが好ましい。活性化工程での還元性ガスの濃度は、例えば、還元性ガスを水素とする場合、還元性ガスの濃度は4体積%以下であり、還元性ガスを一酸化炭素とする場合、還元性ガスの濃度は12.5体積%以下である。また、還元性ガスを水素と一酸化炭素との混合ガスとする場合は、混合割合に応じてルシャトリエの法則に従い、工業的に更に安全率を掛けた濃度以下である。例えば、下記式に表されるように、混合ガスの濃度L(体積%)の上限値は、水素の体積%nと、一酸化炭素の体積%mと、安全率k(0.2〜0.8)の値から算出する。また、還元ガス中の上記以外の成分としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性成分が挙げられる。
【0036】
イリジウムの結晶子径は、X線回折法、XPS法、EXAFS法、TEM法等で測定することができる。例えば、イリジウムの結晶子径は、X線回折法により得られた回折ピークにおける半価幅からSherrerの式を用いて算出することができる。
【0037】
3.脱硝システム
以上の製造方法により製造した脱硝触媒を適用した脱硝システムの実施の形態について、
図2を用いて説明する。本実施の形態に係る脱硝システムは、焼結炉排ガス中のCOを還元剤かつ加熱用燃料として用いて脱硝するシステムである。本実施の形態に係る脱硝システムについても、前述した本実施の形態に係る脱硝触媒と同様の焼結炉排ガスを脱硝の対象として好適に採用できる。なお、本明細書中、燃焼炉排ガスを、排ガスとも呼称する。また、各構成の位置について、システム内の排ガスの流通方向を基準として、「前流」、「後流」を用いて表現する。
【0038】
図2に示すように、本実施の形態に係る脱硝システムは、加熱及び熱回収装置10と、加熱装置20と、脱硝装置30とを少なくとも備える。
【0039】
加熱及び熱回収装置10は、加熱装置20の前流かつ脱硝装置30の後流に設けられたGGH(ガスガスヒータ)である。加熱及び熱回収装置10は、少なくとも1つの熱交換器とその内部を循環する水等の熱媒体とを備え、焼結炉からの排ガスを熱媒体と熱交換することにより加熱すると共に、脱硝装置30を通過した排ガスから熱媒体により熱回収するように構成されている。また、加熱及び熱回収装置10は、熱回収した排ガスを煙突等の後流の設備へ送るように構成されている。
【0040】
加熱及び熱回収装置10の前流には、図示しない集塵器及び/又は脱硫装置を設けることができる。集塵器は、既設のプラントに設置した電気集塵器(EP:Electrostatic Precipitator)又はバグフィルタである。集塵器は、電気集塵機又はバグフィルタにより排ガス中のばいじんを捕集するように構成されている。また、脱硫装置は、好適には集塵器の後流に設けられ、既設のプラントに設置した排煙脱硫装置(FGD:Flue−Gas Desulfurization)である。排煙脱硫装置は、乾式又は湿式の脱硫装置である。乾式の脱硫装置であれば、脱硫装置は、バグフィルタにて捕集する前に、脱硫剤として消石灰(Ca(OH)
2)や重曹(NaHCO
3)を排ガスに対して噴霧して、バグフィルタの表面堆積層にてSO
2を吸収して脱硫するように構成されている。湿式の脱硫装置であれば、脱硫装置は、排ガス中に残存又は還元したSO
2を、石灰石(CaCO
3)を水に懸濁させて形成した石灰スラリと接触させることにより吸収除去するように構成されている。また、SO
2を吸収した石灰スラリを、図示しない空気供給ラインより供給した空気により酸化処理して石膏スラリ(CaSO
4・2H
2O)とし、石膏の形で捕獲除去するように構成されている。集塵器及び/又は脱硫装置を経た排ガスの温度は、加熱及び熱回収装置10の前流にて例えば160℃程度である。
【0041】
加熱装置20は、加熱及び熱回収装置10の後流、かつ脱硝装置30の前流に設けられた、例えばダクトバーナである。加熱装置20は、同じ製鉄所から排出されたCOG(Cokes Oven Gas)を燃料として、排ガスを、その排ガス中のCOを加熱用の燃料かつ還元剤として用いて好適に脱硝できる200〜270℃まで加熱し、脱硝装置30に送るように構成されている。
【0042】
脱硝装置30は、加熱装置20の後流、かつ加熱及び熱回収装置10の前流に設けられている。脱硝装置30は、固定床式、移動床式、流動床式等の脱硝装置である。脱硝装置30は、その内部に本発明に係る脱硝触媒を備え、排ガス中のCOを還元剤として排ガスを脱硝するように構成されている。
【0043】
本実施の形態に係る脱硝触媒、脱硝触媒の製造方法及び脱硝システムによれば、排ガスの脱硝処理の際に、かつCO酸化反応を抑制することにより、CO脱硝反応の選択性を向上させてCO脱硝反応を促進し、NO転化率を向上することができる。
【0044】
さらに、上述した効果を得られる根拠について推測されるメカニズムを
図3(a)〜
図4(b)を用いて説明する。先ず、
図3(a)に示すように、COを還元剤として排ガスを脱硝する際には、主反応として、NOが脱硝触媒の担体40のIrの表面に吸着して、NとOに解離する(下記式iii)。Nは、N
2となって脱離し、Oは、Irの表面を被覆する(下記式iv)。また、Irの表面のOと気相中のCOが反応してCO
2として脱離する(下記式v)。その結果、前述のCO脱硝反応(下記式i)が生じる。一方、副反応として、
図3(b)に示すように、担体40中のOが逆スピルオーバーしてIrの表面に移動する(下記式vi)。また、Irの表面のOと気相中のCOとが反応して、CO
2として脱離する(下記式vii)。その結果、CO酸化反応が生じることとなる(下記式ii)。
【0047】
また、選択的に生じる主反応と副反応のうち、副反応を抑制して主反応の選択性に高めるためには、比表面積の低い担体を適用することが有効と考えられる。
図4(a)に、Irを担持した比表面積の高い担体41の反応モデルを示すと、担体41の比表面積が高いため、気相中のCO42と、担体の表面の酸素43とが相対的に多く反応する。これによって、酸素43とCO42との副反応を抑制することができない。一方、
図4(b)に、Irを担持した比表面積の低い担体44の反応モデルを示すと、担体44の比表面積が低いため、担体44の表面の酸素43の絶対数が低減し、気相中のCO42と担体表面の酸素43とが相対的に少なく反応する。これによって、酸素43とCO42との副反応を抑制できる。
【0048】
以上のように、副反応であるCO酸化反応を抑制することにより、主反応であるCO脱硝反応の選択性を向上することができ、その結果、NO転化率が向上できると推測される。このような効果は、低比表面積を有する担体を適用することが有効であり、そのような有効な比表面積からさらに有効な結晶子径を見出されたことによって、達成されたと推測できる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明に係る脱硝触媒、脱硝触媒の製造方法及び脱硝システムは、以下の実施例によって限定されない。
【0050】
1.脱硝触媒の調製I
[
参考実施例1]
参考実施例1
(以下、実施例1ともいう。)では、その比表面積が80m
2/gの二酸化珪素(SiO
2)を脱硝触媒の担体として用いた。含浸担持工程として、この担体99.5gを濃度8.6×10
-2質量%の塩化イリジウム(II)溶液5.8gに含浸し、140℃で3時間蒸発乾固した後、空気中にて110℃で一晩乾燥した。
【0051】
次に、第1焼成工程として、乾燥した触媒を焼成炉内にて800℃で5時間焼成し、粉末を得た。得られた粉末20質量%に対して、水80質量%に加え、湿式ボールミルにて100rpmで8時間粉砕してウォッシュコート用スラリを調製した。このスラリに酸化チタン(TiO
2)製のハニカム形状のモノリス基材(7.4mmピッチ、壁厚1.15mm)を浸漬してウォッシュコートし、120℃で乾燥した。コート量は、基材の表面積1m
2当たり100gとした。
【0052】
次に、第2焼成工程として、乾燥後の触媒を焼成炉内にて500℃で5時間焼成した。
【0053】
次に、活性化工程として、焼成した触媒を、還元性ガスとして3体積%の濃度の水素(H
2)を用い、600℃で1時間、酸化イリジウムを還元して活性化した。活性化後の触媒を実施例1の脱硝触媒として用いた。
【0054】
[比較例1]
比較例1では、その比表面積が300m
2/gの二酸化珪素を担体として用いた以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。
【0055】
2.脱硝性能の測定I
ラボスケールにて、実施例1及び比較例1の脱硝性能を測定した。実施例1と比較例1の脱硝性能は、管式流通反応試験装置を用いて下記表1に示す性状のガスで測定した。
図5に、試験装置の触媒層入口温度に対する実施例1のCO酸化率及びNO転化率を示し、
図6に、試験装置の触媒層入口温度に対する比較例1のCO酸化率及びNO転化率を示す。NO転化率(%)は、(入口のNO濃度−出口のNO濃度)/出口のNO濃度から算出した。表中、NO、CO、SO
2、O
2、CO
2の値は、ドライベース(by Volume Dry)とした。なお、表中、AVは面積速度(ガス流量/脱硝触媒での全接触面積)を示し、AVの単位は、Nm
3/m
2・hである。
【0056】
【表1】
【0057】
図5に示すように、実施例1のNO転化率は、入口温度が250℃付近までは触媒層入口温度の増加と共に増加し、360℃までは減少した。これは、NO転化率が最大となる触媒層入口温度(
図5では、250℃付近)までは、脱硝反応が優先して進むものの、それ以上の触媒層入口温度ではCO酸化反応が優先して進むため、結果としてNOの最大転化率(最大NO転化率)が低下すると推測できる。実施例1の最大NO転化率は、入口温度が250℃とした場合であり、60%以上であった。
【0058】
図6に示すように、比較例1のNO転化率は、入口温度が270℃付近までは触媒層入口温度の増加と共に増加し、360℃までは減少した。これは、NO転化率が最大となる入口温度(
図6では、270℃付近)までは、脱硝反応が優先して進むものの、それ以上の入口温度ではCO酸化反応が優先して進むため、結果として最大NO転化率が低下すると推測できる。比較例1の最大のNO転化率は、入口温度が270℃とした場合であり、50%以下であった。
【0059】
結果より、比表面積が80m
2/gの担体を用いた実施例1は、比表面積が300m
2/gの担体を用いた比較例1よりも、最大NO転化率を10%以上向上することができた。
【0060】
3.脱硝触媒の調製II
[実施例2〜
6及び参考実施例7、8]
実施例2では、その比表面積が21.3m
2/gの二酸化チタン(TiO
2)を担体として用いた以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。実施例3では、その比表面積が14.2m
2/gの二酸化チタンを担体として用い、活性化工程の温度を500℃とした以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。実施例4では、実施例3の担体を用いた以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。実施例5では、実施例3の担体を用い、活性化工程の時間を20時間とした以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。実施例6では、実施例3の担体を用い、活性化工程の時間を50時間とした以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。
参考実施例7
(以下、実施例7ともいう。)では、実施例3の担体を用い、活性化工程の温度及び時間を800℃で20時間とした以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。
参考実施例8
(以下、実施例8ともいう。)では、その比表面積が100m
2/gの二酸化チタンを担体として用いた以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。
【0061】
[比較例2]
比較例2では、実施例8と同様の担体を用いて、活性化工程の温度及び時間を800℃で50時間とした以外は、実施例1と同様に調製した脱硝触媒を用いた。
【0062】
4.脱硝性能の測定II
続いて、実施例2〜8及び比較例2の脱硝触媒の脱硝性能について、実施例1及び比較例1と同様に測定した。実施例2〜8及び比較例2について、NO転化率が最大となる触媒層入口温度は、実施例1及び比較例1と同様に、250〜270℃の範囲であった。
【0063】
5.結晶子径の測定
続いて、実施例1〜8及び比較例1〜2について、触媒中の金属イリジウムの結晶子径を、粉末X線回折装置を用いたX線回折法(X線源:Cu K
α1)にて[111]面の回折ピークの回折角と半値幅から、下記式に示すSherrerの式を用いて算出した。下記式にて、Dは結晶子径を示し、Kは定数(0.9)、λはX線源の波長(Cuの場合、1.5405Å)、βは回折ピーク半価幅(ラジアン)、θは回折角を表す。
【0064】
【数2】
【0065】
下記表2に、実施例1〜8及び比較例1〜2について、担体の組成、含浸担持工程での担体の比表面積、触媒化後の脱硝触媒の比表面積、活性化工程の条件、金属イリジウムの結晶子径及び最大NO転化率を示す。
図7に、実施例1〜8及び比較例1〜2について、脱硝触媒中の金属イリジウムの結晶子径に対する最大NO転化率との関係を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示すように、実施例1〜8及び比較例1〜2の触媒について、触媒の比表面積が88.6m
2/gであり、触媒の結晶子径が11.0nmである実施例1では、最大NO転化率が64%であった。触媒の比表面積が19.4m
2/gであり、触媒の結晶子径が13.5nmである実施例2では、最大NO転化率が71%であった。触媒の比表面積が12.7m
2/gであり、触媒の結晶子径がそれぞれ12.0nm、17.3nm、22.8nm、21.6nm及び23.1nmである実施例3〜7では、最大NO転化率がそれぞれ70%、65%、65%、68%及び62%であった。また、触媒の比表面積が68.3m
2/gであり、触媒の結晶子径が24.6nmである実施例8では、最大NO転化率が60%であった。一方、触媒の比表面積が280m
2/gであり、触媒の結晶子径が5.5nmである比較例1では、最大NO転化率が49%であった。また、触媒の比表面積が68.3m
2/gであり、触媒の結晶子径が27.0nmである比較例2では、最大NO転化率が51%であった。
【0068】
結果より、最大NO転化率を60%以上とするためには、触媒の比表面積の上限値が100m
2/g以下とすることが確定した。また、実施例1の結果より、触媒の比表面積の上限値を90m
2/g以下とすることが好適であることを確定した。更に、実施例2〜7と比較例2の結果より、触媒の比表面積の上限値が68m
2/g以下であれば、最大NO転化率を62%以上にできることを確認した。また、実施例3〜7の結果より、触媒の比表面積の下限値は、12m
2/g以上が好適であることを確認した。
【0069】
結果より、最大NO転化率を60%以上とするためには、触媒の結晶子径が10nm以上25nm以下とすることが確定した。また、実施例1〜6の結果より、触媒の結晶子径が23nm以下とすることにより、最大NO転化率を64%以上にできることを確認した。さらに、実施例2〜6の結果より、触媒の結晶子径を12nm以上23nm以下とすることにより、最大NO転化率を65%以上にできることを確認した。
【0070】
また、表2に示すように、実施例1〜8及び比較例1〜2の製造方法について、含浸担持工程での担体の比表面積を80m
2/gとした実施例1では、最大NO転化率が64%であった。担体の比表面積を21.3m
2/gとした実施例2では、最大NO転化率が71%であった。担体の比表面積を14.2m
2/gとした実施例3〜7では、最大NO転化率が62〜70%であった。また、担体の比表面積を100m
2/gとした実施例8では、最大NO転化率が60%であった。一方、担体の比表面積を300m
2/gとした比較例1では、最大NO転化率が49%であった。また、担体の比表面積を100m
2/gとした比較例2では、最大NO転化率が51%であった。また、触媒化による効果として、担体の比表面積は、触媒化すると低下する傾向があった。
【0071】
結果より、最大NO転化率を60%以上とするために、含浸担持工程での担体の比表面積の上限値は、100m
2/g以下とすることが確定した。また、実施例1〜7の結果より、含浸担持工程での担体の比表面積の上限値は80m
2/g以下とすることにより、最大NO転化率を62%以上にできることを確認した。また、含浸担持工程での担体の比表面積の下限値は、実施例3〜7の結果より14m
2/g以上が好適であることを確認した。
【0072】
また、結果より、活性化工程の条件としては、活性化温度が500℃以上800℃以下であり、活性化時間が1時間以上50時間以下であることが好適であることを確認した。また、含浸担持工程での担体としては、TiO
2及び/又はSiO
2を好適に採用できることを確認した。