特許第6815788号(P6815788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815788
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】共焦点型ビームプロファイラー
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/70 20140101AFI20210107BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20210107BHJP
【FI】
   B23K26/70
   B23K26/00 M
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-159781(P2016-159781)
(22)【出願日】2016年8月17日
(65)【公開番号】特開2018-27551(P2018-27551A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】315005037
【氏名又は名称】株式会社フォーサイトテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100180013
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 一範
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 健人
(72)【発明者】
【氏名】倉田 昌実
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−228671(JP,A)
【文献】 特開2005−262220(JP,A)
【文献】 特開平09−182985(JP,A)
【文献】 特開2004−106048(JP,A)
【文献】 特開2011−110591(JP,A)
【文献】 特開平07−124764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/70
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、マスク、ミラー及び対物レンズをこの順にて含む縮小結像光学系と、被加工対象物を載置するステージとを含むレーザ加工装置に搭載され、縮小投影された結像点におけるレーザビームの横モード分布及びその結像状態をモニターする撮像機器と、撮像された画像データを解析する解析装置から成るビームプロファイラーであって、
前記ミラーは、レーザビームの一部を透過する非全反射ミラーであり、
前記撮像機器は、前記マスク上に描画されたパターンが前記対物レンズにより縮小投影され結像する位置と共役な位置に撮像面を持ち、
当該撮像面は、前記非全反射ミラーを透過した前記被加工対象物からの反射光を受光する、
ことを特徴とするビームプロファイラー。
【請求項2】
前記解析装置は、レーザビーム強度の横モード分布に対するクロスセクション解析により、前記被加工対象物の被照射面における結像状態をモニターすることを特徴とする、請求項1に記載のビームプロファイラー。
【請求項3】
前記撮像機器の撮像素子は、そのピクセルサイズの各辺が、縮小結像光学系の縮小率と要求される加工分解能との積の数値以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のビームプロファイラー。
【請求項4】
前記ビームプロファイラーは、さらに被加工対象物と切り替え可能な調整用光学部材を前記ステージ上に並置し、
当該調整用光学部材は、前記レーザビームの一部を反射し、その他を透過する材質であり、且つ
当該調整用光学部材の前記レーザビームによる被照射面の高さは、前記被加工対象物の被照射面と同一の高さである、請求項1乃至3のいずれかに記載のビームプロファイラー。
【請求項5】
前記調整用光学部材は、その裏面がその表面に対し角度を持つウェッジ板である、請求項4に記載されたビームプロファイラー。
【請求項6】
前記縮小結像光学系は像側又は両側テレセントリック光学系であり、
前記調整用光学部材は平行平面板であり、
当該平行平面板の表裏各面からの2つの反射光は共に前記撮像機器にて撮像され、
前記解析装置は、撮像された当該2つの反射光の画像を解析することにより前記テレセントリック光学系の像側におけるテレセントリシティーを確認することができる請求項又は5に記載されたビームプロファイラー。
【請求項7】
前記非全反射ミラーと前記撮像面との間に共焦点位置補正板を有し、
当該共焦点位置補正板は、前記非全反射ミラーと同一の材質且つ厚みを有し、さらにその法線は当該非全反射ミラーの法線と光軸周りに90°回転した状態である請求項1乃至6のいずれかに記載されたビームプロファイラー。
【請求項8】
前記撮像面と前記非全反射ミラーとの間にレーザ光の波長のみを透過するバンドパスフィルタを有する請求項1乃至7のいずれかに記載されたビームプロファイラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置において、被加工対象物の被照射面上におけるレーザビームの結像状態をモニターする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サブミクロンの加工精度が要求される縮小結像型のレーザ加工装置において、被加工対象物の被照射面上に縮小投影されたレーザビーム形状のモニター及び縮小結像光学系の焦点距離の制御は極めて重要である。そこで、これを目的としてビームプロファイラーが使用される。
【0003】
従来のビームプロファイラーとしては、被加工対象物の被照射面に向けて伝搬するレーザビームの一部を被照射面の手前でビームスプリッター等により分岐し、これをCCDカメラ等の撮像機器に疑似投影することで被照射面上のビーム形状等を推測するものや、被照射面と同じ焦点位置に置かれた蛍光板等をオフアクシスにてモニターするものがある。
【0004】
特許文献1には、被加工対象物の被照射面と同一の高さとなる位置に置かれた調整用の蛍光板にレーザ光を照射し、その蛍光をオフアクシスにてモニター・解析することで、実際の加工において被加工対象物の被照射面に照射されるレーザビームの形状を推測し、これに基づいて光学系を事前調整する技術が開示されている。しかし、この技術においては、被加工対象物の被照射面上に実際照射されているレーザビームの形状をリアルタイム且つ加工精度と同等の精度によりモニターすることはできない。
【0005】
特許文献2には、被加工対象物の被照射面に照射されるレーザビーム形状を推測するため、又はその事前の調整のために設置されたモニター用基板の測定基準面において、結像光学系による結像状態及び照射されるエネルギーを、当該測定基準面を透過した加工用レーザ光を用いてモニターする技術が開示されている。
【0006】
さらに、加工用レーザ光とは別に、測定用レーザ光を前記結像光学系の最終段に位置する加工用対物レンズを通して、加工用レーザ光と同軸にて被加工対象物の被照射面に照射しその反射光を測定することで、被照射面の位置や状態の変動、ひいては加工用対物レンズ等の光学素子の温度変化に起因する結像状態の変動をリアルタイムにモニターし、その結果を用いて加工を最適化するための自動制御を行う技術が開示されている。
【0007】
しかし、いずれの技術においても、被加工対象物の被照射面に縮小結像されている実際の加工に用いられるレーザ光の状態を、リアルタイム且つ縮小結像光学系の加工精度と同等の精度でモニターすることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−284281号
【特許文献2】特開2008−119716号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術が抱える問題に鑑みてなされたものであり、高分解能が要求される縮小結像型レーザ加工装置において、被加工対象物の被照射面上に縮小結像されるレーザビーム形状を、リアルタイム且つ高分解能にてモニターできるビームプロファイラーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、少なくとも、マスク、ミラー及び対物レンズをこの順にて含む縮小結像光学系と、被加工対象物を載置するステージとを含むレーザ加工装置に搭載され、縮小投影された結像点におけるレーザビームの横モード分布及びその結像状態をモニターする撮像機器と、撮像された画像データを解析する解析装置から成るビームプロファイラーであって、前記ミラーは、レーザビームの一部を透過する非全反射ミラーであり、前記撮像機器は、前記マスク上に描画されたパターンが前記対物レンズにより縮小投影され結像する位置と共役な位置に撮像面を持ち、当該撮像面は、前記非全反射ミラーを透過した前記被加工対象物からの戻り光である反射光を受光することを特徴とするビームプロファイラーである。
【0011】
ここで、撮像機器とは、CCD、CMOS等の撮像素子からなる撮像機器をいい、これらに限定されない。また、撮像された画像データを解析する解析装置とは、撮像素子により取り込まれたデータを解析するための操作画面はもちろん、2次元・3次元表示(可視化)、クロスセクション表示、強度分布等表示、時間統計表示等を行うことができるものである。
【0012】
縮小結像光学系に含まれる全反射ミラーの枚数は、その光路配置の設計に依存するため制限はない。そして、縮小結像光学系における非全反射ミラーの位置は、前述の共焦点の関係が維持できる位置であれば、対物レンズの直前(レーザ光源側)である必要はない。
【0013】
また、その非全反射ミラーの反射率は、加工に用いるレーザ光が被加工対象物上の被照射面により反射される前記反射光の強度と、当該反射光が撮像素子に入射する際の当該撮像素子における損傷閾値によって決定される設計事項である。一例として、波長が248nmのレーザ光が45°で入射した場合、その99%を反射し、残り1%を透過する反射率特性である。そして、前記反射光の1%はさらに当該非全反射ミラーにおいて透過する。なお、そのミラーの仕様値によっては、多くの場合、全反射ミラーとして市販されているものを使用することが可能である。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、前記解析装置がレーザビーム強度の横モード分布に対するクロスセクション解析により、前記被加工対象物の被照射面における結像状態をモニターすることを特徴とするビームプロファイラーである。
【0015】
具体的な解析の様子は、図1図2及び図3に示す。図1は、正しく結像されている位置から光軸方向でマイナス40μmの位置に、被加工対象物の被照射面があるときのレーザビームの二次元プロファイルである。図2は、図1中に示されたクロスバーうち、横のバーの位置における強度分布(クロスセクション)を示したものである。その強度が急激に変化する部分がレーザビームの横モード分布におけるエッジ部に相当する。
【0016】
図3は、被照射面の光軸方向の位置を結像位置から−40μmから+40μmまで10μmピッチにて順次計測した際の、クロスセクション解析から得られる前記エッジ形状の推移、すなわちその立ち上がりの鋭さの推移を示す。ここで、その立ち上がりの鋭さ、勾配量は、エッジ部におけるレーザビームの強度がその最大値の10%から90%変化するのに要する分布の幅(エッジ幅)として示している。結像状態が良好な場合、当該エッジ幅は狭く、デフォーカス状態においては、当該エッジ幅は広い。なお、上記の各パラメータは、解析装置において自由に設定可能である。
【0017】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記撮像機器を構成する撮像素子のピクセルサイズの各辺が、縮小結像光学系の縮小率と要求される加工分解能との積の数値以下であることを特徴とするビームプロファイラーである。
【0018】
例えば、要求されるラインアンドスペースによる分離可能限界として定義される加工分解能の要求値が1μmであり、縮小結像光学系の倍率が5倍である場合、撮像素子として用いるCCDカメラのピクセルサイズは、その各辺が5μm以下のものを採用する。
【0019】
第4の発明は、第1乃至第3の発明において、前記ビームプロファイラーが、さらに被加工対象物と切り替え可能な調整用光学部材を前記ステージ上に並置し、当該調整用光学部材は、前記レーザビームの一部を反射し、その他を透過する材質であり、且つ当該調整用光学部材の前記レーザビームによる被照射面の高さは、前記被加工対象物の被照射面と同一の高さであることを特徴とするビームプロファイラーである。
【0020】
例えば、レーザ光源がエキシマレーザの場合は調整用光学部材として石英板を、COレーザの場合はジンクセレナイドを好適に用いることができる。
【0021】
第5の発明は、第4の発明において、前記調整用光学部材の裏面がその表面に対し角度を持つウェッジ板であることを特徴とするビームプロファイラーである。
【0022】
ここで、前記調整用光学部材の表面は、その反射光が光軸上を戻り前記撮像面に照射されるため光軸に対し垂直であるのに対し、その裏面は垂直ではなく、仮に当該裏面においてレーザビームが反射したとしても、その反射光が光軸上を戻ることのない構造である。
【0023】
第6の発明は、第4又は5の発明において、前記縮小結像光学系が像側又は両側テレセントリック光学系であり、前記調整用光学部材が平行平面板であり、当該平行平面板の表裏各面からの2つの反射光が共に前記撮像機器にて撮像され、前記解析装置が撮像された当該2つの反射光の画像を解析することにより前記テレセントリック光学系の像側におけるテレセントリシティーを確認することができるビームプロファイラーである。
【0024】
この第6発明においては、裏面からの戻り光による二重の撮像を回避するために調整用光学部材をウェッジ板とした第5の発明とは異なり、むしろその戻り光を積極的に利用するものである。表裏それぞれからの反射光の横モード分布の様子から、縮小結像光学系の縮小率が結像位置に依らず一定であり、少なくとも前記平行平面板の厚みの2倍の距離にわたり像側におけるテレセントリシティーが確保されているか否かを確認できる。
【0025】
なお、縮小結像光学系がテレセントリック光学系でない場合であっても、裏面からの戻り光との二重の撮像により、光学系の軸ズレをモニターすることが可能である。
【0026】
第7の発明は、第1乃至第6の発明において、前記非全反射ミラーと前記撮像面との間に共焦点位置補正板を有し、当該共焦点位置補正板が、前記非全反射ミラーと同一の材質且つ厚みを有し、さらにその法線は当該非全反射ミラーの法線と光軸周りに90°回転した状態であることを特徴とするビームプロファイラーである。
【0027】
図4及び図5は、前記非全反射ミラー2と前記共焦点位置補正版71の位置関係を示す。この図においては、非全反射ミラー2から被加工対象物41に打ち下ろされるレーザビームの軸をZ軸とし、この軸を法線とする平面をXY軸平面とした。
【0028】
この第7の発明の特徴は、図5中に記載したXYZ軸の座標系を用いて説明するならば、非全反射ミラー2の法線21の方向は(−X,0,−Z)方向であり、共焦点位置補正板71の法線711の方向は、これをZ軸周りに90°回転した(0,−Y,−Z)方向となる位置関係を有しているということである。なお、図4及び図5からも明らかなとおり、共焦点位置補正板71が補正する共焦点位置とは、撮像機器61の撮像面における反射光に対するものである。非全反射ミラー2は光軸に対し角度をもっており、これにより生じる撮像面における像のにじみを補正する。
【0029】
第8の発明は、第1乃至第7の発明において、前記撮像面と前記非全反射ミラー2との間にレーザ光の波長のみを透過するバンドパスフィルタを有することを特徴とするビームプロファイラーである。
【0030】
図4及び図5において示すバンドパスフィルタ72は、レーザ光の中心波長に対しFWHMにて20nm程度の透過性能を有するものでよく、レーザビームの照射を受けた被加工対象物41や調整用光学部材42が、その材質によって発する蛍光を遮断できるものであればよい。多くの場合市販品にて対応可能である。これにより、撮像機器61の撮像面に入射する光は、被加工対象物41や調整用光学部材42からの反射光のみとなり、ノイズとなる他の波長のエネルギー成分を排除できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るビームプロファイラーは、高分解能が要求される縮小結像型レーザ加工装置において、被加工対象物の被照射面上に縮小結像されるレーザビーム形状を、当該レーザビームを用いて、リアルタイム且つ高分解能にてモニターすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】被加工対象物の被照射面に照射されたレーザビームの二次元プロファイルを示す。
図2】二次元プロファイルの任意の一軸におけるクロスセクション(強度分布)を示す。
図3図1及び図2を−40μmから+40μmまで10μmピッチで計測した際のエッジ幅の推移を示す。
図4】各光学素子の配置を表す。
図5図4を立体的に示す。
図6】レーザ加工装置の概略構成を示す。
図7】縮小結像光学系による焦点位置の調整用に用いる十字パターンと加工パターンが共に描画されたマスクを示す。
図8A】共焦点位置補正板未挿入時の十字パターンのうちX軸が結像している様子を示す。
図8B図8Aの十字パターン部分の拡大画像を示す。
図8C】共焦点位置補正板未挿入時の十字パターンのうちY軸が結像している様子を示す。
図8D図8Cの十字パターン部分の拡大画像を示す。
図9】共焦点位置補正板挿入時の十字パターンの結像の様子を示す。
図10A】テレセントリシティーが維持できている状態における、調整用光学部材の表面と裏面からの反射光をモニターした様子を模示す。
図10B】テレセントリシティーが維持できていない状態における、調整用光学部材の表面と裏面からの反射光をモニターした様子を示す。
図11A】ビームプロファイラーの解析画面を示す。
図11B図11Aの一部(枠線内)を拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明に係るビームプロファイラーの利用態様を詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
はじめに、本発明の実施に係るビームプロファイラーを用いた微細加工装置の概略構成を図6に示す。本実施例においては、レーザ光源としてパルス発振する波長が248nmのエキシマレーザ8を用いた。パルスレーザ光源としては、このほかにNd:YAGレーザの3倍派、4倍派などの高分解能の加工を可能とする短波長レーザ等を用いることもできるが、被加工対象物41の材質により適切な選定を必要とする。さらに、スキャン加工など、加工の態様によっては、連続波やこれをシャッター操作等によりパルス化したレーザ、モードロックレーザを用いることもできる。
【0035】
エキシマレーザ8から出射したビームは、ビーム整形用の光学系を介しマスク1に入射する。マスク1には被加工対象物41に縮小投影するパターン及び調整用光学部材42に縮小投影する焦点位置調整用のパターンが描画されている。本実施例においては、合成石英板にアルミメッキを施したものを用いた。また、マスク1はその位置調整のため、及び前記2パターンの切り替え用として、図6中に示すXYZ軸及びθ軸(YZ平面)に沿って移動するマスク用ステージの上に設置した。
【0036】
縮小結像光学系の各光学部材の位置決定は、一般的な手法であるところの、被加工対象物に対しその位置(Z軸)を段階的に変えて行うフォーカルスキャン加工により行った。そこでは、実際の加工形状を顕微鏡下において観察し、本実施例における縮小結像光学系の設計値である縮小倍率(5倍)、分解能(1μm)及び像側テレセントリック等の仕様を満たすよう各光学部材の位置調整を行った。そして、この一連の加工、観察及び光学系調整を繰り返すことでその最適化を図った。
【0037】
縮小結像光学系のフォーカルスキャン加工による各種調整のあとは、その各光学部材の位置関係を維持した上で、本発明に係る共焦点ビームプロファイラー用の各光学部材及び撮像機器61を設置し、その撮像面の位置を調整し、決定した。以下、その詳細を「(1)共焦点位置調整段階」及び「(2)テレセントリシティーの記録段階」に分けて説明し、その後「(3)実加工段階」として実際の加工への利用態様を説明する。
【0038】
なお、以降、マスク1を透過したレーザビームのパルスエネルギーを便宜上「1」として説明する。
【0039】
(1)共焦点位置調整段階
共焦点位置調整段階において用いるマスクパターンは図7の左下に示す調整用十字パターン12であり、これはアルミメッキが施されていない、すなわちレーザビームが通過する領域のパターンである。その線幅はいずれの箇所においても10μmであり、十字線の各長さは250μmである。本実施例において用いる後述の対物レンズ3による縮小投影サイズは、それぞれ、2μm、50μmとなる。
【0040】
マスク1の調整用十字パターン12を通過したレーザビームは、非全反射ミラー2により反射され対物レンズ3に入射する。ここで非全反射ミラー2は、波長248nmのレーザ光が45°で入射した場合、そのパルスエネルギーの99%を反射し、残り1%を透過する反射特性を持つ。すなわち、対物レンズ3へ反射されるパルスエネルギーは0.99である。
【0041】
対物レンズ3は、倍率を5倍、NAを0.13とする248nm用の反射防止膜付き対物レンズ(コヒレント社製P−lens 5x/18−248)である。前記非全反射ミラー2からの入射光を調整用光学部材42へ縮小投影する。また、対物レンズ3は光軸上(Z軸)上の位置を微調整するために対物レンズ用ステージ上に設置されている。その透過率は90%であり、これを透過したパルスエネルギーは、0.89である。
【0042】
調整用光学部材42の表面位置(Z軸)は、前述のフォーカルスキャン等により、被加工対象物41の被照射面の位置(Z軸)と同一となるよう予め調整済みである。なお、本実施例における調整用光学部材42には、厚さが2mmの平行平面板であり材質は合成石英のものを用いた。
【0043】
なお、この調整用光学部材42においては、その最初の被照射面(第一反射面)に照射されたエネルギーのうち約5%をZ軸方向に反射し、その底面(第二反射面)においても同様の5%を反射する。すなわち、第一反射面で反射されるエネルギーは0.045、第二反射面で反射され対物レンズ3に戻るエネルギーは、0.040である。
【0044】
調整用光学部材42における第一反射面からの反射光(第一反射光)と第二反射面からの反射光(第二反射光)は、共に対物レンズ3をZ軸方向に伝搬し、再び非全反射ミラー2に到達する。前述の透過特性(反射特性)により1%が非全反射ミラー2を透過し、さらに共焦点位置補正板71(透過率95%)及びバンドパスフィルタ72(透過率95%)を介して撮像機器61の撮像面に入射する。そのパルスエネルギーは、第一反射光が0.00036、第二反射光が0.00033である。
【0045】
共焦点位置補正板71には、前記非全反射ミラー2と同一の厚さ、同一の材質である合成石英の平行平面板を用いた。なお、この共焦点位置補正板72を用いない場合、マスク1の十字パターン12のうち、図5におけるX軸方向の線の結像状態により焦点であると認識できるZ位置(図8A及び8B参照。)と、同じくY軸方向の線の結像状態により焦点であると認識できるZ位置(図8C及び8D参照)とに差異が生じる。なお、これら図8A〜8Dは、調整用光学部材42として、光軸上に戻る第二反射光を生じないウェッジ板を用い、第二反射面からの反射光による二重撮像を回避した場合のものである。
【0046】
これら図8A〜8Dから明らかなとおり、十字パターンの像におけるX軸方向の線の強度及びシャープネスが最大となるように撮像機器61の撮像面位置を調整すると、Y軸方向の線の強度は下がり、そのシャープネスも損なわれた画像となってしまう。逆にY軸方向の線の強度及びシャープネスが最大となるように調整すると、X軸方向の線の強度は下がり、そのシャープネスも損なわれる結果となる。この場合、正しい結像位置を特定するにあたり、X軸の画像で調整すべきかY軸の画像で調整すべきか、にわかには判断できない。
【0047】
そこで、共焦点位置補正板71を非全反射ミラー2に対しXY平面上90度回転した状態で挿入することで図9に示すとおり十字パターン12のXYいずれの軸線においても等しい強度とシャープネスをもって観察され、撮像機器61の撮像面の位置を、被加工対象物41(調整用光学部材42)の結像面と共役となる位置に正しく調整可能となる。

【0048】
また、非全反射ミラー2、調整用光学部材42及び被加工対象物41に紫外光である波長248nmのレーザビームが照射された場合、これに励起され蛍光を発する場合がある。特に、非全反射ミラー2において発生した蛍光成分はその強度は高く、且つ撮像面に近い面において発光した蛍光強度が遠い面のそれと比べて強い。そうすると、撮像面に入射される強度がX軸方向において分布をもつ。
【0049】
さらに、調整用光学部材42や被加工対象物41からの蛍光成分については、そのほとんどが非全反射ミラー2を透過するため、当該蛍光成分に強度分布がある場合、その影響を無視できない場合がある。これを防止するために、本実施例においては248nmを中心波長とするバンドパスフィルタ72を撮像機器61の直前に設置した。バンドパスのFWHMは20nmのものを用いた。
【0050】
以上により、調整用光学部材42の被照射面(表面)に対し1/5に縮小投影された調整用十字パターン12のマスクイメージを、本発明に係る共焦点ビームプロファイラーにより、同時に、共焦点にて観察できるよう各光学部材を配置し、その位置を調整した。
【0051】
(2)テレセントリシティーの記録段階
既に、前述のフォーカルスキャン加工による縮小結像光学系の調整段階において、被加工対象物41に形成した加工形状の顕微鏡観察を通し、テレセントリシティーを考慮した調整は済んでいる。そこで、今後、実際の加工において、又は光学系の経時的変化等により、縮小結像光学系の持つテレセントリシティーが乱れた場合に備え、その調整された状態を本発明に係る共焦点ビームプロファイラーにより記録しておく。具体的には、テレセントリシティーの調整された前記縮小結像光学系において、平行平面板である調整用光学部材42の表面からの第一反射光の像と裏面からの第二反射光の像を同時に二重撮像し、これを参照画像として記録する。
【0052】
なお、本実施例において用いた対物レンズ3の焦点深度(20μm)が、調整用光学部材42の厚みと比べ極めて短いことから、第一反射光と第二反射光を同じシャープネスで撮像することはできない。しかし、前記参照画像と対比することにより、実加工段階等におけるテレセントリシティーの確認として寄与することになる。
【0053】
本段階において記録されるべき二重撮像の様子を、模擬的ではあるが図10Aに示す。ここでは、調整用光学部材42の表面からの反射光による像を第一反射光の像13と、同じく裏面からの反射光による像を第二反射光の像14とした。
【0054】
また、仮にテレセントリシティーが乱れているとしたら観察されるであろう画像の例を図10Bに示す。この図に示すように、第一反射光の像13と第二反射光の像14とを焦点深度による違いを考慮してもなお十字パターンの像の大きさが異なるときは、テレンセントリシティーの調整が不十分又はこれが乱れたことを意味する。
【0055】
さらに、十字パターン像の中心にずれが生じている場合、そのズレを示すシグマ(σ)は、縮小結像光学系の光軸、ひいてはビームプロファイラーへ入射する反射光の光軸の調整が不十分、又はこれが乱れたことを意味する。
【0056】
(3)実加工段階
次に、マスク1を移動又は切り替え、調整用十字パターン12から実際の加工用マスクパターン11を用いた縮小結像光学系に変更する。そして、所定の加工プログラムにより被加工対象物41への1ショットスキャン加工を行った。
【0057】
本実施例に係る共焦点ビームプロファイラーは、1ショットごとに被加工対象物上の被照射面からの反射光をリアルタイムにモニターする。なお、他の実施例として、例えば数ショットずつのスキャン加工の場合、各ショットにより加工深度が対物レンズ3の焦点深度を超えて増加し(被照射面のZ軸位置がマイナス側へ変動し)、また、その加工面が粗面化することも想定されるため、リアルタイムモニターに用いる反射光は、被加工対象物41に照射される最初のショットによる反射光とすることが望ましい。
【0058】
さて、加工時間が増加するにつれて、マスク1や対物レンズ3その他の光学部品が蓄熱しその光学特性が変化する場合がある。これにより、前述の段階(1)及び(2)において確認した焦点位置が、被加工対象物41の被照射面において維持されない状態になることがある。また、被加工対象物41のZ軸方向の厚みの分布異常や加工ステージの非直進性に起因し、同様の焦点位置異常が生じる場合がある。
【0059】
そこで、本実施例に係る共焦点ビームプロファイラーにより、これらの焦点位置異常を画像解析によりリアルタイムにてモニターし、予め定めた許容範囲からその結像位置が逸脱した場合、対物レンズ3用のZ軸ステージ又は被加工対象物41を載置するZ軸ステージにフィードバックをかけ、結像状態を前記許容範囲に戻す。
【0060】
具体的には、図11Aに示すように、被加工対象物41からの反射光を撮像機器61の撮像面で受光し、その横モード分布の境界におけるエッジ(立ち上がり:Ascent、立ち下がり:Descent)の鋭さを解析する。本実施例においては、その鋭さを、当該エッジ部におけるレーザビームのクロスセクションがその最大値に対し30%から65%に変化するのに要するエッジ幅(Asc−Length又はDesc−Length)により確認した。
【0061】
図11Bに詳細を示すとおり、立ち下りにおけるエッジ幅は0.004mmである。そしてこのエッジ幅が0.008mm未満にあるものを前記許容範囲(上限)として設定し、加工の最中にエッジ幅がこの範囲から外れた場合には(上限値を超えた場合には)、次の被加工対象物41の加工に移る前に、焦点位置の再調整を行うこととした。再調整は、Z軸ステージの移動量とエッジ幅の変化量との関係を予め導き、これに従って行った。
【0062】
また、一の被加工対象物41の加工の最中において、例えば、その厚み分布異常に起因して上記の許容範囲を逸脱した場合、進行中の加工プロセスを一旦中止し、焦点位置の調整を行うようプログラミングすることも可能である。
【実施例2】
【0063】
前述の実施例1においては、被加工対象物41に縮小投影されるレーザビーム形状のリアルタイムによるモニターのために、レーザビームにより加工され粗面化する前の段階の被照射面からの反射光を、すなわち被照射面へ照射される最初のショットによる照射光をモニターした。
【0064】
これと異なる実施態様として、本実施例においては、実施例1において便宜上「1」としたマスク1を透過したレーザビームのパルスエネルギーを、その1/4である0.25とし、縮小投影されるそのレーザビームにより被加工対象物41が加工されない状況を作り出した。
【0065】
具体的には、被加工対象物41にポリイミドを用いた本実施例においては、その被照射面における実際のエネルギー密度を50mJ/cmとし、ショット数に拘わらず被照射面がレーザビームによって加工されない条件設定とした。このようなエネルギー密度による照射にすることで、実際には加工できない疑似的な加工状態ではあるものの、被加工対象物41に照射されるレーザショット数に拘わらず実際の加工に近い環境下にて、縮小投影されるレーザビーム形状をリアルタイムにモニターすることができる。
【0066】
但し、この場合、各種光学部材がレーザビームを吸収し、これを蓄熱することで生じる光学特性の変化については、レーザビームのパルスエネルギーが低く蓄熱量が少ないため、現実の加工の際とは異なるモニター結果となる点に留意する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
縮小結像光学系を搭載した高分解能レーザ加工装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 マスク
11 加工用マスクパターン
12 調整用十字パターン
13 第一反射光の像
14 第二反射光の像
2 非全反射ミラー
21 非全反射ミラーの法線
3 対物レンズ
41 非加工対象物
42 調整用光学部材
5 加工ステージ
61 撮像機器
62 解析装置
71 共焦点位置補正板
711 共焦点位置補正板の法線
72 バンドパスフィルタ
8 エキシマレーザ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図11A
図11B