【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリビニルアセタール、光ラジカル重合開始剤、及び、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを含有するポリビニルアセタール樹脂組成物である。以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリビニルアセタール、光ラジカル重合開始剤、及び、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを含有するポリビニルアセタール樹脂組成物は、押し出し成形時の高温によっても反応せず、ゲル化しない一方、成形後に光を照射することにより架橋して、高温下でも高い貯蔵弾性率を発揮できることを見出し、本発明を完成した。
光ラジカル重合開始剤(とりわけ水素引抜型光ラジカル重合開始剤)は、高温下でも安定性が高く、ポリビニルアセタールの通常の押し出し成形温度(100〜220℃程度)では活性化しない。しかしながら、光ラジカル重合開始剤に光を照射すると活性化してラジカルを生じ、該ラジカルがポリビニルアセタール中のC−Hの水素を引き、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを介して架橋するため、高温下でも高い貯蔵安定性を発揮できるものと考えられた。
【0008】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物は、ポリビニルアセタール、光ラジカル重合開始剤、及び、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを含有する。
上記ポリビニルアセタールは、例えば、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られたポリビニルアルコールを、触媒存在下でアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
【0009】
上記ポリビニルアルコールの鹸化度は特に限定されないが、一般に70〜99.9モル%の範囲内にあり、鹸化度70〜99.8モル%が好ましく、80〜99.8モル%がより好ましい。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は特に限定されないが、より優れた性能を発揮する観点からは分子量の大きなポリビニルアセタールが好適であるため、平均重合度の高いポリビニルアルコールを用いることが好ましい。上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は4000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度がこの範囲内であると、ポリビニルアルコールをアセタール化する際の反応が容易であり、かつ、得られるポリビニルアセタールは高い機械的強度を発揮することができる。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合に、携帯情報端末が破損したときに破片の飛散を抑制することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は600、より好ましい上限は3800であり、更に好ましい下限は800、更に好ましい上限は3600である。
なお、本明細書においてポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726:1994年に基づき求められる粘度平均重合度をいう。ポリビニルアルコール樹脂として2種以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して用いる場合は、混合後のポリビニルアルコール樹脂全体の見掛け上の粘度平均重合度をいう。
【0010】
上記ポリビニルアルコールを触媒存在下でアルデヒドによりアセタール化する際には、上記ポリビニルアルコールを含む溶液を用いてもよい。上記ポリビニルアルコールを含む溶液に用いられる溶媒として、例えば、水等が挙げられる。
【0011】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般的には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。
上記炭素数が1〜10のアルデヒドは特に限定されず、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。
即ち、上記ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラール(上記アルデヒドがn−ブチルアルデヒドである場合、上記ポリビニルアセタールをポリビニルブチラールという)であることが好ましい。上記ポリビニルブチラールは、ガラス等に対する接着力が適切に発現し、耐光性、耐候性等にも優れる。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタールを併用してもよい。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合には、段差追従性及び脱泡性に優れることから、上記ポリビニルアセタールは、光照射して架橋させる前においては、分子間架橋が少ないことが好ましい。上記ポリビニルアセタールの分子間架橋が少なければ、上記ポリビニルアセタールの分子量、アセチル基量、アセタール化度等が同じであっても、より段差追従性に優れたタッチパネル用層間充填材料を得ることができる。更に上記ポリビニルアセタールの分子量が大きければ、より優れた飛散防止性を得ることができる。
このような分子間架橋の少ないポリビニルアセタールを得る方法として、例えば、隣接するポリビニルアルコールの主鎖を架橋させないように、上記アルデヒドによるアセタール化反応の前又は途中で上記アルデヒドを過剰に投入しないようにする方法が好ましい。アセタール化に必要な量を超えて上記アルデヒドを投入すると、架橋の度合いが高くなる。
【0013】
上記ポリビニルアセタールは、水酸基の含有率(水酸基量)の好ましい下限が16モル%、好ましい上限が45モル%である。上記ポリビニルアセタールの水酸基量がこの範囲内であると、ガラス等に対する接着力が優れ、後述する可塑剤との相溶性にも優れ、高い柔軟性を発揮して取扱い性が向上する。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合に、タッチパネル用層間充填材料のガラスに対する接着力が向上し、かつ、タッチパネル用層間充填材料の段差追従性も向上する。
上記ポリビニルアセタールの水酸基量のより好ましい下限は18モル%、より好ましい上限は40モル%であり、更に好ましい下限は20モル%、更に好ましい上限は38モル%である。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合には、上記水酸基量のより好ましい下限は18モル%、更に好ましい下限は20モル%、特に好ましい下限は22モル%であり、より好ましい上限は40モル%、更に好ましい上限は38モル%、更により好ましい上限は36モル%、特に好ましい上限は35モル%である。
なお、ポリビニルアセタールの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により求めることができる。
【0014】
上記ポリビニルアセタールは、アセチル化度(アセチル基量)の好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が30モル%である。上記ポリビニルアセタールのアセチル基量がこの範囲内であると、耐湿性に優れ、可塑剤との相溶性にも優れ、高い柔軟性を発揮して取扱い性が向上する。また、上記ポリビニルアセタールを製造する際の反応効率も高いものとすることができる。更に、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合に、タッチパネル用層間充填材料のガラスに対する接着力が向上し、かつ、タッチパネル用層間充填材料の段差追従性も向上する。
上記ポリビニルアセタールのアセチル基量のより好ましい下限は0.2モル%、より好ましい上限は24モル%であり、更に好ましい下限は0.3モル%、更に好ましい上限は20モル%であり、特に好ましい上限は19.5モル%、最も好ましい上限は15モル%である。
なお、ポリビニルアセタールのアセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。アセタール基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0015】
上記ポリビニルアセタールのアセチル化度を上記範囲内に調整する方法として、例えば、上記ポリビニルアルコールの鹸化度を調整する方法が挙げられる。即ち、上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は、上記ポリビニルアルコールの鹸化度に依存するものであり、鹸化度が低いポリビニルアルコールを用いれば上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は大きくなり、鹸化度が高いポリビニルアルコールを用いれば上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は小さくなる。
【0016】
上記ポリビニルアセタールは、アセタール化度の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が85モル%である。上記ポリビニルアセタールのアセタール化度がこの範囲内であると、ポリビニルアセタールを製造するために必要な反応時間を短縮でき、可塑剤との相溶性にも優れ、高い柔軟性を発揮して取扱い性が向上する。上記アセタール化度のより好ましい下限は54モル%、より好ましい上限は82モル%であり、更に好ましい下限は58モル%、更に好ましい上限は79モル%であり、特に好ましい上限は77モル%である。
なお、ポリビニルアセタールのアセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。アセタール化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、アセチル基量とビニルアルコール量(水酸基の含有率)とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出し、次いで、100モル%からアセチル基量とビニルアルコール量とを差し引くことにより算出されうる。
【0017】
上記ポリビニルアセタールのアセタール化度を上記範囲内に調整する方法として、例えば、上記アルデヒドの添加量を調整する方法が挙げられる。上記アルデヒドの添加量を少なくすれば上記ポリビニルアセタールのアセタール化度は低くなり、上記アルデヒドの添加量を多くすれば上記ポリビニルアセタールのアセタール化度は高くなる。
【0018】
上記光ラジカル重合開始剤は、光を照射することにより活性化して、活性ラジカルを生じるものであり、分子内開裂型、水素引抜型、電子移動型等が挙げられる。なかでも、高温下での安定性が高く、ポリビニルアセタールの通常の押し出し成形温度(130〜220℃程度)では活性化せず、ポリビニルアセタール樹脂組成物を押し出し法によって容易に成形できることから、水素引抜型光ラジカル重合開始剤が好ましい。
上記水素引抜型光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、チオキサントン、ミヒラーズケトン等が挙げられる。これらの光ラジカル重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、光照射時の活性に優れるとともに、高温下での安定性に特に優れ、ポリビニルアセタールの押し出し温度ではほとんど活性化しないことから、ベンゾフェノンが好適である。
【0019】
上記光ラジカル重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が5.0重量部である。上記光ラジカル重合開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、光を照射しても充分に架橋せずに、高温下で高い貯蔵弾性率を発揮できないことがあり、5.0重量部を超えると、耐候性が悪化し黄変が生じることがある。上記光ラジカル重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は3.0重量部であり、更に好ましい下限は0.4重量部、更に好ましい上限は1.5重量部であり、特に好ましい下限は0.5重量部、特に好ましい上限は1.0重量部である。
【0020】
上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、紫外線を照射時にポリビニルアセタール間を架橋する橋の役割を果たすものである。なかでも、高い架橋密度が得られることから、分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有する多官能モノマー又はオリゴマーが好適である。
【0021】
上記多官能モノマー又はオリゴマーとしては、アクリレート類、メタクリレート類等が挙げられる。具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート又は上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。その他、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。これらの多官能モノマー又はオリゴマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、分子量が1万以下であるものが好ましい。分子量が1万以下のラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを用いれば、光の照射により三次元網状化が効率よくなされる。上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの分子量は5000以下であることがより好ましい。
【0023】
上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が40重量部である。上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量がこの範囲内であると、光を照射することにより充分に架橋して、高温下で高い貯蔵弾性率を発揮することができ、また、粒状の局所架橋により視認歪みが発生することもない。上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は25重量部であり、更に好ましい下限は1重量部、更に好ましい上限は15重量部であり、特に好ましい上限は8重量部である。
【0024】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤を含有することにより可塑化されて、ポリビニルアセタール樹脂組成物の柔軟性を向上させることができる。とりわけ本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合には、可塑剤を配合することにより特に高い段差追従性等を発揮することができる。
【0025】
上記可塑剤は特に限定されず、従来公知の可塑剤を用いることができる。具体的には例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機酸エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、有機酸エステル可塑剤が好適である。また、上記可塑剤は、液状可塑剤であることが好ましい。
【0026】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されず、例えば、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸と、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールとの反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されず、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとの反応によって得られたエステル化合物等が挙げられる。
【0027】
上記有機酸エステル可塑剤は、下記式(1)で表されるジエステル可塑剤であることが好ましい。上記ジエステル可塑剤を用いることにより、成形性が向上する。
R
1−CO−(−R
3−O−)
p−CO−R
2 (1)
式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ炭素数5〜10(好ましくは炭素数6〜10)の有機基を表し、R
3はエチレン基、イソプロピレン基又はn−プロピレン基を表し、pは3〜10の整数を表す。
【0028】
上記有機酸エステル可塑剤は、具体的には例えば、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,3−プロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,4−ブチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルペンタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、ジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、炭素数4〜9のアルキルアルコール及び炭素数4〜9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル等が挙げられる。
【0029】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0030】
上記可塑剤のなかでも、ジヘキシルアジペート(DHA)、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート(4GH)、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート(4G7)及びトリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート(3G7)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート(3G7)、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)がより好ましく、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートが更に好ましい。
【0031】
上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限は1重量部、好ましい上限は75重量部である。上記含有量がこの範囲内であれば、高い強靭性や無機物への密着性を発揮することができる。また、可塑剤がブリードアウトするのを防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は2重量部、より好ましい上限は60重量部であり、更に好ましい下限は3重量部、更に好ましい上限は50重量部であり、特に好ましい下限は4重量部、特に好ましい上限は40重量部であり、最も好ましい下限は5重量部、最も好ましい上限は30重量部である。
また、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合には、上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限は5重量部、好ましい上限は75重量部である。上記含有量が上記範囲であれば、携帯情報端末が破損した場合に破片の飛散を充分に抑制することと、層間の充填時(貼合時)に段差に気泡が残存することを抑制することとを両立しやすくなる。上記含有量が5重量部未満であると、タッチパネル用層間充填材料の成形性が低下することがある。上記含有量が75重量部を超えると、タッチパネル用層間充填材料の透明性が低下したり、上記可塑剤がブリードアウトしたりすることがある。上記可塑剤のより好ましい下限は10重量部、更に好ましい下限は15重量部、特に好ましい下限は20重量部であり、より好ましい上限は65重量部、更に好ましい上限は55重量部、特に好ましい上限は45重量部である。
【0032】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合、上記ポリビニルアセタールによって凝集力を発生させているため、上記可塑剤の含有量は少ないほうが好ましい。即ち、上記ポリビニルアセタールと上記可塑剤との相溶性を高めて、上記可塑剤の含有量を低下させることが好ましい。これにより、飛散防止性を向上させることができる。
上記ポリビニルアセタールと上記可塑剤との相溶性を高める方法として、例えば、上記ポリビニルアセタールのアセタール化度を大きくする方法、アセチル基量を高くする方法が好ましい。また、上記ポリビニルアセタールの水酸基のブロック性を落とす方法も好ましい。水酸基のブロック化を抑制する方法として、熟成温度を下げる方法が好ましい。
【0033】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物を後述するタッチパネル用層間充填材料に用いる場合、タッチパネル用層間充填材料中、上記ポリビニルアセタールと可塑剤との合計の含有量は50重量%以上であることが好ましい。上記含有量が50重量%未満であると、携帯情報端末が破損した場合に破片の飛散を充分に抑制できなかったり、層間の充填時(貼合時)に段差に気泡が残存したりすることがある。上記含有量のより好ましい下限は60重量%、更に好ましい下限は70重量%、更により好ましい下限は80重量%、特に好ましい下限は90重量%である。
【0034】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物は、更に必要に応じて、接着力調整剤、粘着付与樹脂、可塑剤、乳化剤、軟化剤、微粒子、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0035】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物は、液状(分散液状、エマルション状)のほか、シート状にして用いることができる。とりわけシート状に成形することで、接着シートとして使用することができる。
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物からなる接着シートもまた、本発明の1つである。
【0036】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物又は接着シートは、従来公知の方法、例えば押し出し法、途工法、キャスティング法、カレンダー法、プレス法等により成形することができる。なかでも、押し出し法は、生産効率に優れることから好適である。本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物は、押し出し時の高温によっても反応してゲルを生じたりすることがない。
【0037】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物又は接着シートは、光を照射することにより架橋して、高温下でも高い貯蔵弾性率を発揮することができる。具体的には例えば、200℃における貯蔵弾性率G’が5×103Pa以上、好ましくは1×104Pa以上とすることができる。なお、上記200℃における貯蔵弾性率G’は、例えばARES−G2(TAINSTRUMENTS社製)、DVA−200(アイティー計測制御社製)等の動的粘弾性測定装置により、降温速度3℃/分、周波数1Hz、歪1%の条件にて測定することができる。
【0038】
上記光照射の方法としては特に限定されず、例えば、超高圧水銀灯等の紫外線照射装置を用いて、成形後の本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物、本発明の接着シートに照射する方法が挙げられる。
上記光照射時の光の波長や照度は、上記光ラジカル重合開始剤の種類等により適宜設定すればよい。例えば、上記光ラジカル重合開始剤として水素引抜型光ラジカル重合開始剤であるベンゾフェノンを用いる場合には、250〜400nmの波長の光を、10mW/cm
2の照度で10秒間〜30分間照射することが好ましい。
【0039】
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物の用途は特に限定されないが、塗料、ウォッシュプライマー、セラミックス用バインダー、合わせガラス用中間膜や、タッチパネル用層間充填材料等の用途に用いることができる。なかでも、タッチパネル用層間充填材料として極めて有用である。
【0040】
タッチパネルは様々な分野で用いられており、例えば、スマートフォン、タブレット等の携帯情報端末においては、ガラス等からなる表面保護パネルの下にタッチパネルが配置されており、続いて、偏光フィルム、ディスプレイがこの順で設けられている。
このような携帯情報端末においては、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、及び、タッチパネルと偏光フィルムとの層間を、空気と比較してこれらの部材との屈折率差が小さい充填材料で埋めることにより、表示画面の透明性、輝度、コントラスト等を改善し、視認性を向上させることが行われている。
【0041】
このようなタッチパネル用層間充填材料としては、透明性、粘着性、塗工性等の観点から、アクリル系粘着剤又は粘着テープが多用されている。しかしながら、充填材料としてアクリル系粘着剤又は粘着テープを貼合した場合、貼合時に気泡の巻き込みが発生し、表面保護パネルと充填材料との間に気泡が残存することがあり、視認性又は耐久性を低下させる問題がある。また、表面保護パネルの裏側にはマスキング等を目的として周縁部に印刷部が形成されており、このような印刷部により形成された段差、又は、タッチパネルに形成されている配線の段差の境界部に気泡が残存し、視認性又は耐久性を低下させることが問題となっている。特に、近年、携帯情報端末の小型化、薄型化又は軽量化に伴って薄い充填材料が望まれており、従来のアクリル系粘着剤又は粘着テープでは、薄さと、段差に充分に追従して気泡を残存させない性質(段差追従性)とを両立することは難しかった。
また、万一落下等の衝撃により携帯情報端末が破損した場合、従来のアクリル系粘着剤又は粘着テープでは、凝集破壊が起こり、ガラス等の破片の飛散を充分に抑制することは難しかった。飛散防止フィルムを別途設けることも検討されているが、コスト及び携帯情報端末の薄型化の観点からは、飛散防止フィルムを使用せずに飛散を抑制することが望まれていた。
【0042】
タッチパネル用層間充填材料として、従来多用されてきたアクリル系粘着剤に代わる材料として、可塑化ポリビニルアセタールを用いたシート状のタッチパネル用層間充填材料も検討された。可塑化ポリビニルアセタールは、常温ではタック性が低いことから、常温での打ち抜き加工時には打ち抜き刃に対する糊残りが少ない。一方、加熱しながら圧着することより、加飾印刷部段差や配線段差にも充分に追従することができる。更に、万一落下等の衝撃により携帯情報端末が破損した場合、ガラス等の破片の飛散を抑制する効果も期待できる。
しかしながら、可塑化ポリビニルアセタールを用いたタッチパネル用層間充填材料を用いたタッチパネルを高温高湿下(例えば、温度85℃、湿度85%)に晒すと、発泡が生じてしまうことがあるという問題があった。このような問題はアクリル系粘着剤を用いた場合にも生じるが、可塑化ポリビニルアセタールを用いた場合により顕著となった。
【0043】
本発明者らは、可塑化ポリビニルアセタールを含有するタッチパネル用層間充填材料を用いたタッチパネルを高温高湿下に晒したときに発泡が生ずる原因について検討した。その結果、被着体の表面に付着した数〜数十μm程度の大きさの微細な異物が原因となっていることを見出した。このような微細な異物が付着した状態でタッチパネル用層間充填材料を貼合すると、たとえ加熱しながら圧着しても完全には追従することができず、微細な異物の周辺にごく微小な気泡が残存する。このような微小な気泡は、通常は肉眼ではほとんど認識できないが、高温高湿下に晒したときには、肉眼で認識できるほどの気泡に成長してしまうものと考えられた。気泡は、高温高湿下でポリカーボネート板、アクリル板、偏光フィルム等の被着体からアウトガスが発生して、該アウトガスが微小な気泡部分に集中したときに、その応力によってタッチパネル用層間充填材料の一部が変形してしまうことにより成長するものと思われた。
【0044】
これに対して、本発明者らは、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物をタッチパネル用層間充填材料として用いることにより、高温高湿下に晒された場合にでも発泡が生じないようにすることができることを見出した。
本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物からなるタッチパネル用層間充填材料は、高い熱安定性を有し、例えば押し出し法によっても容易に成形できる。しかしながら、いったん光を照射すると、光ラジカル重合開始剤が活性化してラジカルを生じ、該ラジカルがポリビニルアセタール中のC−Hの水素を引き、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを介してポリビニルアセタールが架橋される。
このようなタッチパネル用層間充填材料を用い、層間の充填時(貼合時)に、未架橋のタッチパネル用層間充填材料を加熱(85℃付近)すれば、貯蔵弾性率及び損失弾性率が大きく低下し、たとえ薄い充填材料であっても加飾印刷部段差又は配線段差に充分に追従して、段差の境界部に残存する気泡を除去できることができる。一方、充填後(貼合後)に光を照射すれば、タッチパネル用層間充填材料を架橋することができる。架橋されたタッチパネル用層間充填材料は、高温高湿下に晒されたときにでも高い貯蔵弾性率を発揮できる。従って、たとえ貼合後に微細な異物の周辺にごく微小な気泡が残存し、高温高湿下で該気泡が成長しようとしても、高い貯蔵弾性率を有するタッチパネル用層間充填材料がその応力によっては変形したりすることなく、気泡の成長を抑えることができる。
タッチパネルと他の部材との層間又は上記タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられるタッチパネル用層間充填材料であって、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物、又は、接着シートからなるタッチパネル用層間充填材料もまた、本発明の1つである。
【0045】
本発明のタッチパネル用層間充填材料がシート状である場合の厚みは特に限定されず、用途によって設定されるが、好ましい下限が5μm、好ましい上限が800μmである。上記厚みが5μm未満であると、層間の充填時(貼合時)に段差に気泡が残存しやすくなることがある。上記厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は400μmであり、更に好ましい下限は50μm、更に好ましい上限は300μmであり、更により好ましい下限は100μm、更により好ましい上限は200μmである。
【0046】
本発明のタッチパネル用層間充填材料の製造方法は特に限定されず、例えばシート状である場合には、上記ポリビニルアセタール、光ラジカル重合開始剤、及び、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーと、必要に応じて配合される可塑剤等の添加剤とを含有する組成物を、押し出し法、塗工法、キャスティング法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜する方法が挙げられる。なかでも、押し出し法は、生産効率に優れることから好適である。本発明のタッチパネル用層間充填材料は、押し出し時の高温によっても架橋してしまうことなく、容易に成形することができる。
【0047】
本発明のタッチパネル用層間充填材料のより具体的な用途は特に限定されないが、例えば、携帯情報端末(例えば、スマートフォン、タブレット)、LCD、EL、PDP等の画像表示パネルを用いた平面型又はフレキシブル画像表示装置(例えば、電子ペーパー、PDA、TV、ゲーム機)等において、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間に用いられることが好ましい。
本発明のタッチパネル用層間充填材料は、たとえ薄い充填材料であっても加飾印刷部段差や配線段差に充分に追従して、段差の境界部に残存する気泡を除去することができる。
【0048】
図1は、本発明のタッチパネル用層間充填材料の使用方法の一例を模式的に示す断面図である。
図1においては、表面保護パネル3とタッチパネル2との層間、及び、タッチパネル2と偏光フィルム4との層間が、本発明のタッチパネル用層間充填材料1で充填されている。
図1においては、表面保護パネル3の裏側にはマスキング等を目的として周縁部に加飾印刷部5が形成されているが、本発明のタッチパネル用層間充填材料1は、このような加飾印刷部5により形成された段差にも、タッチパネル2に形成されている配線の段差(図示しない)にも充分に追従して、層間の充填時(貼合時)に段差の境界部に残存する気泡を除去することができる。
【0049】
表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間が、本発明のタッチパネル用層間充填材料で充填されている積層体もまた、本発明の1つである。
上記表面保護パネルは特に限定されず、例えば、ガラス板、ポリカーボネート板、アクリル板等の、携帯情報端末、平面型又はフレキシブル画像表示装置等に通常使用されるものを用いることができる。
上記タッチパネルは特に限定されず、例えば、ITO膜等の複数の層を有するタッチパネル等の、携帯情報端末、平面型又はフレキシブル画像表示装置等に通常使用されるものを用いることができる。上記タッチパネルの構成は特に限定されず、例えば、アウトセル型、インセル型、オンセル型、カバーガラス一体型、カバーシート一体型等が挙げられる。上記タッチパネルの方式も特に限定されず、例えば、抵抗膜式、静電容量式、光学式、超音波式等が挙げられる。
上記偏光フィルムとしても特に限定されず、携帯情報端末、平面型又はフレキシブル画像表示装置等に通常使用されるものを用いることができる。
【0050】
本発明のタッチパネル用層間充填材料を用いて、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間を充填して積層体を製造する方法は特に限定されず、例えば、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間に本発明のタッチパネル用層間充填材料を挟み、70℃付近で予備加熱圧着する方法が挙げられる。また、予備加熱圧着を、真空ラミネータを用いて、例えば1気圧、70℃、30分間の条件で行ってもよい。予備加熱圧着後、オートクレーブ処理(例えば、85℃、0.5MPa以上で30分間)等により本圧着を行った後、光を照射してポリビニルアセタールを架橋することにより、本発明の積層体が得られる。
【0051】
上記光照射の方法としては特に限定されず、例えば、超高圧水銀灯等の紫外線照射装置を用いて、本圧着後の積層体に光を照射する方法が挙げられる。
上記光照射時の光の波長や照度は、上記水素引抜型光開始剤の種類等により適宜設定すればよい。例えば、上記水素引抜型光開始剤としてベンゾフェノンを用いる場合には、250〜400nmの波長の光を、10mW/cm
2の照度で10秒間〜30分間照射することが好ましい。