(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記縫い目の連続性が断たれる動作は、刺繍模様を構成する複数の模様ブロックのうちの縫製する模様ブロックを変更するジャンプ動作、又は異なる糸色の糸に掛け替える色替え動作であること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のミシン。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るミシンの各実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
(全体構成)
図1に示すミシン1は、布や皮等の縫製対象物に刺繍を施す家庭用、職業用又は工業用の装置である。このミシン1は、ベッド部11の平面上方に張り拡げられた縫製対象物100に対して針12を挿脱し、上糸200と下糸300とを交絡させて縫製対象物100に縫い目を形成する。
【0029】
このミシン1には枠駆動装置2が備えられている。枠駆動装置2は、縫製対象物100を張り広げた刺繍枠26をベッド部11の上方で水平移動させる。枠駆動装置2を備えるミシン1は、刺繍枠26を水平移動させることで、縫製対象物100上の縫い目形成位置を変化させ、縫い目の集合である刺繍模様を形成する。
【0030】
刺繍模様は複数色により構成可能である。ミシン1は、
図4に示す糸切機構17を備えている。糸切機構17は、糸色変更のために上糸200と下糸300を切断する。上糸200と下糸300が切断されると、ユーザは次の色の糸をミシン1に掛け替え、ミシン1の動作を再開させる。
【0031】
(ミシン本体)
図2に示すように、ミシン1は、針棒13と釜14を有する。針棒13は、ベッド部11の平面に対して垂直に延び、軸方向に往復運動する。この針棒13は、ベッド部11側の先端で、上糸200を保持する針12を支持している。釜14は、一平面が開口した内部中空のドラム形状を有し、水平又は垂直に取り付けられ、円周方向に回転可能となっている。本実施形態では、釜14は水平に取り付けられている。この釜14は、下糸300を巻いたボビンを内部に収容する。
【0032】
このミシン1において、針棒13の上下動によって、針12が上糸200を伴って縫製対象物100を貫通し、針3の上昇時に縫製対象物100と上糸200との摩擦に起因した上糸ループが形成される。そして、回転する釜14によって上糸ループが捕捉され、下糸300を繰り出したボビンが釜14の回転に伴って上糸ループをくぐることによって、上糸200と下糸300とが交絡し、縫い目が形成される。
【0033】
針棒13と釜14は、共通のミシンモータ15を動力源として、各々の伝達機構を介して駆動する。針棒13には、水平に延びた上軸161がクランク機構162を介して連結されている。上軸161の回転をクランク機構162が直線運動に変換して針棒13に伝達することで、針棒13は上下動する。釜14には、水平に延びた下軸163が歯車機構164を介して連結されている。釜14が水平に設置されている場合、歯車機構164は、例えば軸角を90度とする円筒ウォームギアである。下軸163の回転を歯車機構164が90度変換して釜14に伝えることで、釜14は水平回転する。
【0034】
上軸161には、所定の歯数を有するプーリ165が設けられている。また、下軸163には、上軸161のプーリ165と同数の歯数を有するプーリ166が設けられている。両プーリ165,166は、歯付きベルト167によって連結されている。ミシンモータ15の回転に伴って上軸161が回転すると、プーリ165と歯付きベルト167を介して下軸163が回転する。これによって、針棒13と釜14は同期して作動する。
【0035】
(枠駆動装置)
図3に示すように、枠駆動装置2は、ミシン1に取り付け可能に付属し、又はミシン1に内蔵される。枠駆動装置2は、刺繍枠26をX軸方向に移動させるXリニアスライダ21、刺繍枠26をY軸方向に移動させるYリニアスライダ22を備える。X軸方向は、ベッド部11の長さ方向であり、一般的にはユーザの左右方向、Y軸方向は、ベッド部11の幅方向であり、一般的にはユーザの前後方向である。
【0036】
Xリニアスライダ21は、X軸方向に延設されたレール上にYリニアスライダ22を摺設し、X軸方向に走行する無端ベルトにYリニアスライダ22を直交させて固定してなり、無端ベルトをX軸モータ23で走行させ、Yリニアスライダ22をX軸に沿って移動させる。Yリニアスライダ22は、Y軸方向に延設されたレール上に刺繍枠アーム25を摺設し、Y軸方向に走行する無端ベルトに刺繍枠アーム25を固定してなり、無端ベルトをY軸モータ24で走行させ、刺繍枠アーム25をY軸に沿って移動させる。
【0037】
刺繍枠アーム25は、刺繍枠26の支持体であり、Yリニアスライダ22を基端として先端に刺繍枠26が取り付けられる。刺繍枠26は、内枠及び外枠からなり、縫製対象物100が載置された内枠に外枠を嵌め込むことで、縫製対象物100を内枠と外枠で狭持し、縫製対象物100を固定する。縫製対象物100は、枠駆動装置7によって固定平面方向に沿って水平移動可能にベッド部11の平面上に位置する。
【0038】
(糸切機構)
図4に示すように、糸切機構17は、ベッド部11の内部であって釜14の直上に収容されており、可動メス171と固定メス172を備えている。可動メス171と固定メス172は、上糸200と下糸300の経路を挟んで対向している。可動メス171は固定メス172に対して接離する。可動メス171が固定メス172に接近すると、上糸200と下糸300は挟み切られる。
【0039】
(制御装置)
図5に示すように、ミシン1は、ミシン1と枠駆動装置2と糸切機構17を制御する制御装置3を備える。制御装置3は、所謂コンピュータと周辺コントローラにより構成される。この制御装置3は、CPU等のプロセッサ311、RAM等のワークメモリ312、FROM等の不揮発性メモリ313、ROM314、及びI/Oポート等の外部入出力装置315を備え、これらをバス316で接続する。また、制御装置3は、画面表示装置321、タッチパネル322、スイッチ323、時計IC324、USBホストコントローラ325、糸切コントローラ326、ミシンモータコントローラ327、及び枠駆動モータコントローラ328を、外部入出力装置315を介して接続して備えている。
【0040】
ROM314には、刺繍を実行するためのプログラム317と所要時間テーブル61が予め記憶されている。このROM314は、プロセッサ311の要求に応じてプログラム317と所要時間テーブル61をワークメモリ312にロードする。USBホストコントローラ325は、USBメモリが接続可能なポートを有する。このUSBホストコントローラ325は、プロセッサ311の要求に応じてUSBメモリを制御し、USBメモリから刺繍データ51をワークメモリ312にロードする。
【0041】
刺繍データ51を保持する記憶媒体は、SDカードやネットワーク上のサーバであってもよい。ミシン1は、SDカードを読み込み可能なSDカードスロット、又は無線若しくは有線でLAN等のネットワークに接続可能なネットワークアダプタを備える。SDカードから刺繍データ51が読み込まれ、又はサーバから刺繍データ51がダウンロードされ、ワークメモリ312にロードされてもよい。
【0042】
プロセッサ311は、刺繍データ51と所要時間テーブル61を適宜参照しながら、ワークメモリ312に展開されたプログラム317を適宜実行する。そして、プロセッサ311は、プログラム317の実行結果に応じて、外部入出力装置315を通じて制御信号を出力し、またバス316を介して不揮発性メモリ313とデータをやり取りする。また、プロセッサ311には、タッチパネル322やスイッチ323等への要求や割り込みにより、ユーザ操作信号が入力される。
【0043】
画面表示装置321は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイといったマンマシンインターフェースである。この画面表示装置321は、プロセッサ311が送信した表示データを文字や図形等のユーザが視認により理解可能な形式にレイアウトして表示する。タッチパネル322は、ユーザのタッチ操作に応じた信号をプロセッサ311に送信する感圧式又は静電式の入力装置である。スイッチ323は、ユーザのボタン操作に応じた信号をプロセッサ311に送信する物理的な入力装置であり、縫製開始を指示する開始ボタン323aを有する。
【0044】
時計IC324は、現在時刻を計時する集積回路であり、プロセッサ311に現在時刻情報を送信する。糸切コントローラ326は、糸切り機構17と信号線で接続されている。この糸切コントローラ326は、プロセッサ311の制御信号に応答して糸切機構17を駆動させる。
【0045】
ミシンモータコントローラ327は、ミシンモータ15と信号線で接続されている。このミシンモータコントローラ327は、プロセッサ311の制御信号に応答して、ミシンモータ15を制御信号が示す速度で回転させ、またはミシンモータ15を停止させる。枠駆動モータコントローラ328は、枠駆動装置2のX軸モータ23及びY軸モータ24と信号線で接続されている。この枠駆動モータコントローラ328は、プロセッサ311の制御信号に応答して、X軸モータ23及びY軸モータ24を制御信号が示す移動量分だけ駆動させる。
【0046】
図6は、プログラム317の実行により実現される制御装置3の内容を示すブロック図である。
図6に示すように、制御装置3は、残時間設定部4と、刺繍データ記憶部5と、所要時間テーブル記憶部6と、中断タイミング選出部7と、中断制御部8を備えている。残時間設定部4は、主にタッチパネル322とプロセッサ311と画面表示装置321により構成される。刺繍データ記憶部5と所要時間テーブル記憶部6は、主にワークメモリ312により構成される。中断タイミング選出部7は主にプロセッサ311と画面表示装置321により構成される。中断制御部8は主にプロセッサ311とミシンモータコントローラ327と枠駆動モータコントローラ328と糸切コントローラ326と画面表示装置321により構成される。
【0047】
(残時間設定部)
残時間設定部4は残時間Trを設定する。残時間Trは、ユーザが望む刺繍の中断予定タイミングを刺繍中断までの時間で表したものである。中断予定タイミングは、刺繍模様の進捗に関わらず不動であり、刺繍模様の進捗が遅れても早まっても変わらない。中断予定タイミングは、ユーザによるタッチパネルの操作で入力される。
【0048】
ユーザによるタッチパネル322の操作によって、ユーザが望む刺繍中断の時刻が中断予定タイミングとして制御装置3に入力される。中断時刻の入力に対して、残時間設定部4は、中断時刻から現在時刻を差し引くことで、中断時刻で表された中断予定タイミングを残時間Trに換算する。現在時刻は、残時刻の計算時に時計IC324から受信してもよいし、ミシン1の起動時に時計IC324から受信した起動時刻とCPUクロックとから計算してもよい。尚、ユーザによるタッチパネル322の操作により、残時間Trそのものが入力されるようにしてもよい。
【0049】
(刺繍データ記憶部)
刺繍データ記憶部5は、刺繍データ51がロードされる。
図7は、刺繍データ51の模式図である。刺繍データ51は、各種ステートメント52を並べたデータ列であり、刺繍模様を形成する動作手順を記している。即ち、各ステートメント52は、制御装置3による制御内容を指示する。ステートメント52は、枠移動量情報54、ジャンプコマンド55又はカラーチェンジコマンド56である。各ステートメント52には縫い番号53が対になっている。縫い番号53は動作順を示す。
【0050】
枠移動量情報54は、刺繍枠26の移動量を示す。この枠移動量情報54は、刺繍枠26を移動させるX軸方向移動量とY軸方向移動量で表されている。X軸方向移動量とY軸方向移動量で表されることにより、刺繍枠26の移動であることが明示できるため、コマンドは省略されている。プロセッサ311は、枠移動量情報54を実行するとき、X軸方向移動量とY軸方向移動量を示す制御信号を枠駆動モータコントローラ328に送信する。枠駆動モータコントローラ328は、X軸方向移動量を満たすようにX軸モータ23を駆動させ、Y軸方向移動量を満たすようにY軸モータ24を駆動させ、刺繍枠26をX軸方向にX軸方向移動量、Y軸方向にY軸方向移動量だけ変位させる。
【0051】
ジャンプコマンド55は、針落ち点を次の模様ブロックの刺繍開始点に移す動作の制御命令である。刺繍模様は、複数の模様ブロックの結合により成り、ミシン1は、一つの模様ブロックの縫製を完遂させてから次の模様ブロックの縫製に移る。このとき、一つの模様ブロックの縫い終わりに位置する縫い目と次の模様ブロックの縫い始めに位置する縫い目は、非連続となり、距離をもって断絶する。
【0052】
例えば、ハートマークの下方にABCという文字列を横一列に並べた刺繍模様は、ハートマークの模様ブロックと各アルファベットの各模様ブロックにより成る。ハートマークの縫製が完遂すると、ハートマークの縫い終わりから文字Aの縫い始めの位置まで縫い目で繋ぐことなく、針落ち点を相対移動させ、文字Aから刺繍模様の縫製が自動再開される。
【0053】
カラーチェンジコマンド56は、刺繍が複数色から成る場合、糸色を変える色替え動作の制御命令である。
図5に示すように、プロセッサ311は、カラーチェンジコマンド56を実行するとき、ミシンモータ15を停止させる制御信号をミシンモータコントローラ327に出力し、ユーザによる開始ボタン323aの押下を示す信号がスイッチ323から入力されるのを待ち、開始ボタン323aの押下を示す信号が入力されるとミシンモータ15の駆動を示す制御信号をミシンモータコントローラ327に出力する。ミシンモータ15の停止中は、糸切機構17が現在の糸を切断し、ユーザにより次の色の糸に掛け替えられる。糸が変えられるため、糸で繋がる縫い目は当然断絶する。
【0054】
例えば、ピンクのハートマークの下方に黒のABCという文字列を横一列に並べた刺繍模様は、ハートマークを縫製した後、ピンクの糸が切られ、黒の糸に掛け変えられ、文字Aから刺繍模様の縫製が再開される。ピンクの糸と黒の糸に繋がりはなく、ピンクで形成された縫い目と黒で形成された縫い目は断絶する。
【0055】
(所要時間テーブル記憶部)
所要時間テーブル記憶部6は、所要時間テーブル61がロードされる。
図8は所要時間テーブル61を示す模式図である。所要時間テーブル61には、刺繍枠26の各種移動量情報62に対する所要時間情報63とミシンモータ15の回転速度情報64が記録されている。また、ジャンプコマンド65とカラーチェンジコマンド66に対する各所要時間情報63とミシンモータ15の回転速度情報64が記録されている。
【0056】
所要時間テーブル61に記録されている移動量情報62は、刺繍枠26のX軸方向移動量とY軸方向移動量のうちの大きいほうである。X軸モータ23とY軸モータ24は同時同速度で駆動するため、X軸方向及びY軸方向の移動量のうちの大きい方に刺繍枠26を移動させる所要時間が律速されるからである。プロセッサ311は、刺繍データ51内の枠移動量情報54に含まれるX軸方向移動量とY軸方向移動量のうちの大きい方を検索キーとして、所要時間テーブル61から所要時間を導く。
【0057】
また、ジャンプコマンド65に対する所要時間情報63は、次の模様ブロックに移すまでの刺繍枠の移動を挟んで、ミシンモータの停止から再駆動までに必要な時間を示す。例えば、ジャンプコマンド65に対する所要時間情報63は、0.7秒〜0.8秒である。カラーチェンジコマンド66に対する所要時間情報63は、ユーザが糸色の異なる糸を掛け替える推定時間を加味して、ミシンモータ15の停止から開始ボタン323aの押下までの色換え終了までに必要な推定時間である。例えば、カラーチェンジコマンド66の所要時間は、デフォルトで例えば2分である。回転速度情報64は、ミシンモータ15の回転速度を示す。
【0058】
(中断タイミング選出部)
中断タイミング選出部7は、残時間Trと刺繍データ51と所要時間テーブル61を参照し、時系列上、残時間Trが経過する中断予定タイミングの近くにある中断に適したミシン1の特定動作を検出し、検出された中断に適した特定動作から条件に適合した特定動作を1つ選出する。中断に適した特定動作は、縫い目の連続性が断たれる動作(以下、断動作という)が望ましく、断動作としては、ジャンプコマンド55に対する模様ブロックのジャンプ動作及びカラーチェンジコマンド56に対する色替え動作が挙げられる。
【0059】
この中断タイミング選出部7は、縫製開始から断動作までの各動作の所要時間を累積することで、断動作のタイミングを算出し、中断予定タイミングの近くにあるか判定する。そして、中断タイミング選出部7は、中断予定タイミングの近くに時系列に並ぶ断動作のうち、中断予定タイミングに最近傍の断動作を選定する。この場合、条件とは最近傍である。
【0060】
尚、所要時間の累積において、刺繍枠26の移動量に関わらず、各縫い目形成動作が定時間の場合は、断動作までの縫い目形成数に定時間を乗じれば、断動作のタイミングが経過時間の形で得られる。また、連続する所定数の動作のうちの最長移動量の動作に当該所定数の動作におけるミシンモータ15の回転速度を律速させる場合がある。この場合、所定数の動作のうちの最も時間を要する動作の所要時間を、動作数で乗じれば、断動作のタイミングが経過時間の形で得られる。例えば、先読みした複数の動作に4処理分の縫い目形成と1処理分の色替えが含まれる場合、色替え時のミシンモータ15の回転数に対応する所要時間を所要時間テーブル61から導き、この所要時間を先読みした5処理分の動作数で乗算する。
【0061】
図9乃至12は、このような中断タイミング選出部7の動作例を示すフローチャートである。
図9に示すように、中断タイミング選出部7は、読み出し順番G=1、累積時間Ti=0に初期化する(ステップS01)。初期化の後、中断タイミング選出部7は、最初の処理順からG番目グループのN処理分のステートメント52を刺繍データ51から読み出す(ステップS02)。Nは処理数であり、例えば5処理分のステートメント52を刺繍データ51から読み出す。5×G−4番目の縫い番号53から5×G番目の縫い番号53までのステートメント52が読み出されることになる。
【0062】
中断タイミング選出部7は、読み出したステートメント52群にジャンプコマンド55及びカラーチェンジコマンド56が含有するか検索する(ステップS03及びステップS04)。ジャンプコマンド55及びカラーチェンジコマンド56は、縫い目の断絶を伴う断動作を制御内容とするコマンドの例である。
【0063】
読み出したステートメント52群に、ジャンプコマンド55及びカラーチェンジコマンド56が含有しない場合(ステップS03,No及びステップS04,No)、中断タイミング選出部7は、読み出したN処理分の枠移動量情報54の全X軸方向移動量と全Y軸方向移動量から、最大値を検索する(ステップS05)。
【0064】
該当の最大値を確定すると、中断タイミング選出部7は、この最大値が属する移動量情報62に関連付けられた所要時間情報63の値を所要時間テーブル61から求める(ステップS06)。そして、読み出した枠移動量情報54の数と一致する値Nを所要時間情報63の値に乗算し(ステップS07)、乗算結果を累積時間Tiに加算する(ステップS08)。
【0065】
そして読み出し順番Gを1インクリメントして(ステップS09)、刺繍データ51からのステートメント52の読み出し(ステップS02)に戻る。
【0066】
尚、N処理分のステートメント52を読み出すのは、ミシン1は、N処理分のステートメント52を実行する際のミシンモータ15の回転速度を、N処理分の動作のうちの刺繍枠26を最大長移動させる動作、ジャンプ動作又は色替え動作に律速させるからである。即ち、Nはミシン1の仕様に合わせて1以上の整数であればよい。例えば、1つの処理ごとにミシン1の動作速度を変更する場合には、N=1である。
【0067】
読み出したステートメント52群にジャンプコマンド55が含有する場合(ステップS03,Yes)、
図10に示すように、所要時間テーブル61からジャンプコマンド65に関連付けられた回転速度情報64を求め(ステップS10)、求めた回転速度情報64に関連付けられた所要時間情報63を所要時間テーブル61から求める(ステップS11)。そして、読み出したステートメント52の数から1を減じた値N−1と所要時間情報63の値を乗算し(ステップS12)、またジャンプコマンド65に関連付けられた所要時間情報63の値を所要時間テーブル61から求めて(ステップS13)、両値を累積時間Tiに各々加算する(ステップS14)。
【0068】
読み出したステートメント52群にカラーチェンジコマンド56が含有する場合(ステップS04,Yes)、
図11に示すように、所要時間テーブル61からカラーチェンジコマンド66に関連付けられた回転速度情報64を求め(ステップS15)、求めた回転速度情報64に関連付けられた所要時間情報63を所要時間テーブル61から求める(ステップS16)。そして、読み出したステートメント52の数から1を減じた値N−1と所要時間情報63の値を乗算し(ステップS17)、またカラーチェンジコマンド66に関連付けられた所要時間情報63の値を所要時間テーブル61から求めて(ステップS18)、両値を累積時間Tiに各々加算する(ステップS19)。
【0069】
ジャンプコマンド55又はカラーチェンジコマンド56が含まれていた場合(ステップS03,Yes、又はステップS04,Yes)、累積時間Tiの更新処理後(ステップS14,ステップS19)、
図12に示すように、累積時間Tiと残時間Trを比較する(ステップS20)。この累積時間Tiは、断動作のタイミングであり、中断タイミングである。残時間Trは、刺繍模様の縫製開始を基準とした中断予定タイミングである。
【0070】
累積時間Tiが残時間Trに対して30分以内である場合(ステップS20,Yes)、読み出したジャンプコマンド55又はカラーチェンジコマンド56の種別と縫い番号と累積時間Tiを組みにして、中断候補として登録しておく(ステップS21)。即ち、中断予定タイミングの近くの断動作を検出したことになり、その実行タイミングとともに、検出した断動作の種別と、検出した断動作の縫い目番号53とを関連付けてワークメモリ312に確保した中断候補エリアに記憶させておく。
【0071】
そして、読み出し順番Gを1インクリメントして(ステップS09)、刺繍データ51からのステートメント52の読み出し(ステップS02)に戻る。また、累積時間Tiが残時間Trに対して30分以上の差を有し(ステップS20,No)、累積時間Tiが残時間Trに対して30分超過に満たない場合も(ステップS22,No)、読み出し順番Gを1インクリメントして(ステップS09)、刺繍データ51からのステートメント52の読み出し(ステップS02)に戻る。この処理は、中断予定タイミングの前後30分以内の断動作でなければ、中断予定タイミングから遠過ぎ、中断タイミングにはしないものである。30分は一例であり、これに限定されない。
【0072】
一方、累積時間Tiが残時間Trに対して30分以上の差を有し(ステップS20,No)、累積時間Tiが残時間Trに対して30分超過している場合(ステップS22,Yes)、候補に登録された各累積時間Tiと残時間Trの差を計算する(ステップS23)。そして、残時間Trとの差が最も小さい累積時間Tiと関連付けていた縫い番号53を中断タイミング変数に格納する(ステップS24)。
【0073】
即ち、中断予定タイミングから30分以降は、中断タイミングに当たらないために断動作の探索を終了し、検出された断動作の中から、中断タイミングが最も中断予定タイミングに近くなる断動作を選出し、その断動作の実行タイミングを中断タイミングとして確定する。中断タイミング変数は中断タイミングとして決定した断動作を示す情報である。
【0074】
(中断制御部)
中断制御部8は、選定した断動作に処理順番が到達すると、選定した断動作を完了させた後に中断処理を行う。中断処理は、ミシンモータ15と枠駆動装置2の停止、ユーザへの中断タイミング到達の報知、不揮発性メモリ313への刺繍データ51と次回の縫い番号53の退避、及びスイッチ323の開始ボタン323aの押下待ちである。
【0075】
ユーザへの中断タイミング到達の報知は、例えば、画面表示装置321に中断タイミング到達を示す文字列を表示させ、スピーカを備える場合には中断タイミング到達を示す音声を発生させ、またLANやインターネットに接続可能な通信インターフェースを有する場合にはユーザが所有するスマートフォン等の携帯端末に中断タイミング到達を示す文字列を表示させる。
【0076】
また、中断制御部8は、刺繍再開のレジューム処理を行う。即ち、中断制御部8は、開始ボタン323aの押下に応答して、不揮発性メモリ313からワークメモリ312へ刺繍データ51と次回の縫い番号53をロードする。ミシン1は、ロードされた縫い番号53から刺繍データ51を参照しながら刺繍を再開する。
【0077】
図13は、中断制御部8の中断動作を示すフローチャートである。
図13に示すように、制御装置3は、縫い番号S=1に初期化し(ステップS31)、スイッチ323の開始ボタン323aが押下されると(ステップS32)、刺繍データ51のうちのS番目の縫い番号のステートメント52を実行する(ステップS33)。
【0078】
枠移動量情報54を実行する際、制御装置3は、X軸モータ23を駆動して刺繍枠26を移動量情報54に含まれるX軸方向移動量だけ移動させ、Y軸モータ24を駆動して刺繍枠26を移動量情報54に含まれるY軸方向移動量だけ移動させる。また、この枠移動量情報54と所要時間テーブル6を参照してミシンモータ15の回転速度を変化させる。
【0079】
制御装置3は、ジャンプコマンド55に対しては、ミシンモータ15を停止させ、X軸モータ23とY軸モータ24を駆動し、次の刺繍ブロックに針が位置するように刺繍枠を移動させる。制御装置3は、カラーチェンジコマンド56に対しては、ミシンモータ15を停止させ、糸切機構17を駆動して糸を切断し、糸が替えられてスイッチ323の開始ボタン323aが押下されるまで待機する。
【0080】
中断制御部8は、刺繍データ51内のS番目の縫い番号53と中断タイミング変数に格納された縫い番号53とを比較する(ステップS34)。比較の結果、刺繍データ51のS番目の縫い番号53と中断タイミング変数に格納された縫い番号53とが一致しなければ(ステップS34,No)、縫い番号Sを1インクリメントし(ステップS35)、ステップS33のステートメント実行に戻る。
【0081】
一方、比較の結果、刺繍データ51内のS番目の縫い番号53と中断タイミング変数に格納された縫い番号53とが一致すると(ステップS34,Yes)、中断制御部8は、ミシンモータ15と枠駆動装置2を停止させる(ステップS36)。更に、中断制御部8は、中断タイミングの到達をユーザに報知する(ステップS37)。
【0082】
タッチパネル322を通じて続行指示を受け取ると(ステップS38,Yes)、縫い番号Sを1インクリメントし(ステップS39)、刺繍データ51のうちのS番目の縫い番号53のステートメント52から刺繍を続行する(ステップS33)。このとき、更にスイッチ323の開始ボタン323aの押下を強制するようにしてもよい。以降、中断制御部8は終了し、中断タイミングの監視の無い刺繍模様の縫製を行う。
【0083】
また、タッチパネル322を通じて中断指示を受け取ると(ステップS40)、中断制御部8は、刺繍データ51とS+1番目の縫い番号53を不揮発性メモリ313に退避させておく(ステップS41)。即ち、レジューム可能な状態にしておく。この後、ユーザによってミシン1の電源が落とされてもよい。
【0084】
図14は、中断制御部8の再開動作を示すフローチャートである。ミシン1が起動されると(ステップS51)、中断制御部8は、刺繍データ51と次回の縫い番号53が記憶されているか確認する(ステップS52)。典型的には、刺繍データ51と次回の縫い番号53が格納されたアドレスを不揮発性メモリ313に要求し、受け取ったデータが刺繍データ51と縫い番号53であるか確認する。
【0085】
不揮発性メモリ313に刺繍データ51と縫い番号53が記憶されていると(ステップS52,Yes)、ユーザの操作によるレジュームの指示があれば(ステップS53,Yes)、刺繍データ51をワークメモリ312にロードし(ステップS54)、縫い番号Sを不揮発性メモリ313に退避させた値に初期化する(ステップS55)。
【0086】
この後、中断制御部8の動作は終了し、制御装置3は、スイッチ323の開始ボタン323aが押下されると(ステップS56)、刺繍データ51のうちのS番目の縫い番号53のステートメント52から刺繍が再開する(ステップS57)。また、刺繍データと次の縫い目番号を記憶していない場合(ステップS52,No)、及びレジューム指示が無い場合(ステップS53,No)についても、中断制御部8の動作は終了する。
【0087】
(作用)
このようなミシン1の実際の例を説明する。残時間設定部4は、残時間の入力を受け付ける中断予定タイミング設定画面41を生成し、画面表示装置321に表示させる。
図15は、中断予定タイミング設定画面41を示す模式図である。
図15に示すように、中断予定タイミング設定画面41には、時分を入力する中断時刻入力エリア411と、数字キーが配列されたダイヤルエリア412と、確定又はキャンセルを選択する確定入力エリア413がレイアウトされている。
【0088】
ユーザがダイヤルエリア412の数字キーをタッチすると、残時間設定部4は、中断時刻入力エリア411に数字キーに応じた中断時刻を表示する。ユーザが確定入力エリア413で確定キーをタッチすると、残時間設定部4は、表示した中断時刻と現在時刻から残時間Trを計算する。例えば、現在時刻が午後2時であり、中断時刻が午後5時である場合、残時間Trとして3時間が得られ、残時間設定部4は、残時間変数に3時間をセットする。これにより、中断予定タイミングは3時間後若しくは午後5時に定まる。
【0089】
図16に示すように、中断タイミング選出部7は、例えば縫い番号a〜a+4までの5処理分の枠移動量情報54から最も大きい値である「2.1mm」を抽出し、所要時間テーブル61から「2.1mm」が属する移動量情報62と組み合わせられている「0.11秒」の所要時間情報63を求め、「0.11秒」の所要時間の5倍値を累積時間Tiに加算する。中断タイミング選出部7は、累積時間Tiの計算と同時に、中断候補を探索している。縫い番号a+1〜a+4には、断動作がない。
【0090】
図17に示すように、中断タイミング選出部7は、例えば縫い番号b〜b+4までの5処理分のステートメント52からジャンプコマンド55を見つける。所要時間テーブル61からジャンプコマンド65と組み合わせられている「80rmp」の回転速度情報64を求め、「80rpm」の回転速度情報64と組み合わせられている「0.75秒」の所要時間情報63を求め、「0.75秒」の所要時間の4倍値を累積時間Tiに加算する。また、所要時間テーブル61からジャンプコマンド65と組み合わせられている「0.80秒」の所要時間情報63を求め、「0.80秒」の所要時間を累積時間Tiに加算する。
【0091】
中断タイミング選出部7は、断動作を指示するジャンプコマンド55を見つけたので、累積時間Tiと「3時間」である残時間Trとを比較する。このジャンプコマンド55を実行するタイミングを表す累積時間Tiが残時間Trである「3時間」に対して30分差以内であれば、即ち、累積時間Tiが2時間30分以上3時間30分以内であれば、このジャンプコマンド55の実行タイミングを中断タイミングの候補とする。差が30分超であれば、ユーザが所望する中断予定タイミングと違い過ぎるため、その断動作の実行タイミングは中断タイミングの候補から外される。
【0092】
図18に示すように、刺繍模様の形成スケジュールにおいて、ジャンプ動作と色替え動作のタイミングが残時間Trの経過タイミングである「午後5時」の前後に並んでいる。午後4時30分前と午後5時30分超の時間帯に位置するジャンプ動作(縫い目番号A、縫い目番号B)と色替え動作(縫い目番号C)の実行タイミングは、中断タイミングの候補とはならない。
【0093】
一方、「午後4時30分以降、午後5時30分以内」に位置するジャンプ動作(縫い目番号D、縫い目番号E)と色替え動作(縫い目番号F)の実行タイミングは、中断タイミングの候補となる。この中断タイミングの候補のうち、午後4時55分に予定されるジャンプ動作は、累積時間Tiが2時間55分であり、残時間Trの3時間との差が5分であり、午後5時に最も近い。
【0094】
従って、この午後4時55分に予定されるジャンプ動作の実行タイミングを中断タイミングに確定し、刺繍模様の縫製中、このジャンプ動作の順番になると、ミシンモータ15は停止する。そして、中断制御部8は、中断タイミングに達したことを報知する。
【0095】
図19は、中断タイミング報知画面の模式図である。中断制御部8は、画面表示装置321に中断タイミング報知画面81を表示させることで、ユーザに中断タイミング到達を報知する。中断タイミング報知画面81には、報知エリア811と操作エリア812がレイアウトされている。報知エリア811には、指定された午後5時の5分前であり、中断に適したタイミングであることが文字列で表示される。操作エリア812には、中断ボタン813と続行ボタン814が表示される。
【0096】
中断ボタン813が押下されると、縫製を中断して刺繍データ51と次の縫い番号53を不揮発性メモリ313に退避させて、ミシン1の電源を落とす。縫製続行ボタン814が押下されると、中断タイミングの監視を終了して、刺繍模様の縫製を続行する。
【0097】
ユーザは、中断したいタイミングをミシン1に入力した後は、切りの良いタイミングを気にすることなく、中断タイミングが到達するまで縫製に没入すればよい。即ち、午後5時に近づいた時点で、刺繍模様の出来具合と完成時に予想される刺繍模様とを頭の中で比較しながら、午後5時近くに訪れる切りの良いタイミングを経験と勘に基づいて予測する必要はない。また、模様の出来栄えを悪化させてしまうことを覚悟して午後5時に切りの悪い状態で縫製を中断させることもない。
【0098】
(効果)
このように、本実施形態に係るミシン1は、タッチパネル322等の入力部と、制御装置3により成る刺繍データ記憶部5、中断タイミング選出部7及び中断制御部8を備えるようにした。入力部は、縫製の進捗に関わらず不動の中断予定タイミング、縫製の中断指示、及び縫製の続行指示の入力を受け付けるようにした。刺繍データ記憶部5には、刺繍模様を形成する動作手順が記された刺繍データ51が記憶されるようにした。
【0099】
そして、中断タイミング選出部7は、刺繍データ51の中から、入力部が受け付けた中断予定タイミングの前後所定範囲にある、縫い目の連続性が断たれる断動作を一つ選定するようにした。中断制御部8は、刺繍模様の縫製中、中断タイミング選出部7が選定した断動作に到達すると、中断指示又は続行指示の入力があるまで、ミシンモータ15の停止を維持させるようにした。
【0100】
これにより、ユーザが自由に設定したタイミング近傍で、切り良く刺繍模様の縫製を中断できる。そのため、刺繍模様の進展と、刺繍模様の完成までのミシン1の動作予測にユーザが気を配ることなく、良い品質の作品を完成させることができる。
【0101】
また、このミシン1は、画面表示装置321のような報知部を備えるようにした。この報知部は、刺繍模様の縫製中、中断タイミング選出部7が選出した断動作への到達を報知するようにした。これにより、中断タイミングの到達をユーザに教えることができ、縫製作業に没入しているユーザが時間超過を気づかずに作業を続けてしまうことを抑制できる。
【0102】
また、刺繍模様を構成する複数の模様ブロックのうちの縫製する模様ブロックを変更するジャンプ動作、又は異なる糸色の糸に掛け替えるカラーチェンジ動作を、中断タイミングとする断動作の候補とした。これに限らず、縫製中断に切りの良いタイミング、即ち途中で糸を切っても作品の見栄えが悪くならないタイミングであれば、候補とすることができる。
【0103】
中断タイミングの検出は、刺繍データ51に基づいて断動作までの所要時間を累積し、断動作までの累積時間と中断予定タイミングに到達する時間との差を算出し、差の算出結果に基づき、中断予定タイミングの近傍の断動作を選出するようにした。典型的には、所要時間テーブル記憶部6に、刺繍枠26の移動に要する所要時間情報63、及び断動作の所要時間情報63を記したテーブルを記憶させておく。中断タイミング選出部7は、この所要時間テーブル61と刺繍データ51に基づいて断動作までの所要時間を累積するようにした。
【0104】
但し、中断に切りの良いタイミングを、中断予定タイミングの近傍から探索することができれば、ミシン1の仕様及び刺繍データの仕様に合わせればよい。
【0105】
例えば、最初の縫い番号53から各動作の所要時間を累積していき、中断予定タイミングに該当する動作の縫い番号53を特定する。刺繍データ51内において、この縫い番号53前で最も近い断動作を示すコマンドを検索し、またこの縫い番号53後で最も近い断動作を示すコマンドを検索する。そして、中断予定タイミングから両コマンドまでの時間差を所要時間の累積により求め、時間差が小さい方の断動作の実行タイミングを中断タイミングとする。
【0106】
また、刺繍データ51内に並ぶ第P番目のステートメント52をミシン1が実行する際、ミシンモータ6の回転速度を、P+N番目までの各ステートメント52のうちの最も遅いミシンモータ6の回転速度に律速するようにしてもよい。例えば、P番目からP+N番目までの各ステートメント52が示す移動量情報62のうち、最も移動距離が長い移動量情報62が8.5mmとなる場合、
図8に示すように、P番目のステートメント52を実行する際には、250rpmでミシンモータ6を回転させる。P+N+1番目のステートメント52が示す移動量情報62が10.3mmとなる場合、P+1番目のステートメント52を実行する際には、150rpmでミシンモータ6を回転させる。
【0107】
この場合、所要時間を累積時間Tiの計算において、P番目の処理の所要時間を、P+N番目までの各所要時間のうち最も時間のかかる処理の所要時間とし、P+1番目の処理の所要時間を、P+N+1番目のうち最も時間のかかる処理の所要時間とし、P+2番目の所要時間を、P+N+2番目のうち最も時間のかかる処理の所要時間とし、それら所要時間を累積時間Tiに順次加算するようにすればよい。
【0108】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るミシン1について図面を参照しつつ詳細に説明する。第1の実施形態と同一構成及び同一機能は同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0109】
このミシン1が備える中断タイミング選出部7は、自動的に再駆動させないミシンモータ15の停止に対する手動再開の際に、中断予定タイミング近傍の断動作を再選出し、条件に適合した断動作が変われば、中断タイミングも変更する。
【0110】
手動再開は、スイッチ323の開始ボタン323aの押下に応答してミシンモータ15を駆動させる制御であり、ミシンモータ15の停止から再開までの時間が不確定である。手動再開を要する事象としては、色替え動作、スイッチ323が備える停止スイッチが操作されることによるユーザの意思による縫製中断、又は停電や電源プラグの外れ等の電力遮断が挙げられる。尚、ジャンプ動作は、ミシンモータ15が一旦停止するが、刺繍枠26を移動させた後、ミシンモータ15は制御装置3側で自動再駆動させる。
【0111】
この中断タイミング選出部7は、縫製時間Teが差し引かれた残時間Trと、手動再開を起点とする断動作までの累積時間Tiとの比較によって、中断タイミングとする断動作を更新する。中断制御部8は、中断タイミング選出部7が更新した断動作に到達すると、中断処理を実行する。
【0112】
尚、縫製時間Teは、刺繍模様の縫製開始から手動再開までの経過時間である。中断タイミング選出部7は、刺繍模様の縫製開始からCPUクロックを用いて縫製時間を計時してもよいし、刺繍模様の縫製開始時と手動再開時の両時刻を時計IC324から取得して差分値を求めるようにしてもよい。
【0113】
図20は、この中断タイミング選出部7の再選出動作を示すフローチャートである。刺繍模様の縫製が開始され(ステップS61)、手動再開を要する事象が発生すると(ステップS62)、中断タイミング選出部7は、読み出し順番G=1、累積時間Ti=0に初期化しておく(ステップS63)。電力遮断等のように突発的に手動再開を要する事象が発生する場合、中断タイミング選出部7は、最後に実行した動作の時刻と電源復旧時の時刻とを比較することで、電力遮断による手動再開を要する事象の発生を検知できる。
【0114】
ミシン1は、手動再開を要する事象の発生後、スイッチ323の開始ボタン323aが押下されるまで待機する(ステップS64)。開始ボタン323aが押下されると(ステップS64,Yes)、ステップS61の刺繍模様の縫製開始から開始ボタン323aが押下されるまでの縫製時間Teを算出し(ステップS65)、残時間設定部4が設定した元々の残時間Trから縫製時間Teを差し引いた値に残時間Trを更新する。
【0115】
そして、中断タイミング選出部7は、手動再開後の処理順から
図9乃至
図12に示したステップS02〜ステップS24を実行し、中断予定タイミングの前後所定範囲にある断動作を検出し、検出された断動作の中から中断予定タイミングに最近傍である等の条件に適合する断動作を1つ選出し、選出された断動作の縫い番号53に中断タイミング変数の値を変更する。
【0116】
(作用)
図21の(a)に示すように、刺繍模様の形成スケジュールにおいて、刺繍模様の縫製開始時点では、3時間後の午後5時ちょうどに中断予定タイミングが設定されたため、午後4時55分に発生するはずであったジャンプ動作が中断タイミングとして選出されていた。この中断タイミングは、午後3時30分に発生する色替え動作の所要時間を2分として計算して導き出されたものである。
【0117】
しかしながら、
図21の(b)に示すように、午後3時30分に発生した色替え動作でユーザが買い物等の他の行動を起こしていたため、糸色の変更が速やかになされず、この色替え動作に45分の時間を要した。これにより、午後4時55分に発生するはずであったジャンプ動作は、現時点で午後5時40分に発生することとなり、中断タイミングとしては不適となる。
【0118】
一方、刺繍模様の縫製開始時点では、午後4時5分に発生するはずであったジャンプ動作は、午後4時50分に発生することになる。そうすると、2分の予定であった色替え動作が45分に遅延したことで、午後4時50分に発生時間が変わったジャンプ動作が中断予定タイミングである午後5時ちょうどに最も近傍となる。
【0119】
中断タイミング選出部7は、午後3時30分に発生した色替え動作が終了して次の縫い目形成を開始した午後4時15分に、中断タイミングの再選出を行う。3時間に設定された残時間Trは、縫製時間Teである2時間15分を差し引いて45分に変更される。午後4時50分に発生時間が変わったジャンプ動作は、色替え動作の次の縫い目形成から累積を開始して35分となった累積時間Tiを伴って検出される。そして、中断タイミング選出部は、45分の残時間Trとの差が最短である10分となる35分の累積時間Trを伴った当該ジャンプ動作を、午後5時ちょうどに最も近傍の中断タイミングであると判断して、このジャンプ動作の縫い番号で中断タイミング変数を更新する。
【0120】
図22は、中断タイミング予告画面を示す模式図である。中断タイミング選出部7は、中断タイミングを選出すると、中断タイミング予告画面71を作成して、画面表示装置321に表示させる。中断タイミング予告画面71には、中断タイミングを明示する文字列がレイアウトされる。例えば、「刺繍模様の縫製は、午後4時50分のジャンプ動作で切り良く中断できます。」という文字列が表示される。
【0121】
尚、この中断タイミング予告画面71は、刺繍模様の縫製開始時、及び手動再開時に表示できる。手動再開時に、中断タイミングが変われば、「中断タイミングが変わりました。刺繍模様の縫製は、午後4時50分のジャンプ動作で切り良く中断できます。」などと、中断タイミングが変わったことを報知してもよい。
【0122】
また、3時間後の午後5時ちょうどに中断予定タイミングが設定されたが、中断予定タイミング前後の所定範囲、例えば30分以内に中断タイミングとなり得るジャンプ動作も色替え動作もなかった。このように、中断予定タイミングの前後所定範囲内に断動作が無かった場合、中断タイミング予告画面71には、「刺繍模様の縫製を中断できるタイミングは、午後5時00分近辺にありません。」という文字列を表示するようにしてもよい。
【0123】
しかし、午後3時30分に発生した色替え動作でユーザが買い物等の他の行動を起こしていたため、糸色の変更が速やかになされず、2分を予定していた色替え動作に45分の時間を要した。そのため、3時間を意味する残時間Trと30分以上の差を有していた午後4時5分のジャンプ動作は、残時間Trと30分以内の午後4時50分にずれ込む。
【0124】
そうすると、中断タイミング選出部7は、再選出処理により午後4時50分にずれ込んだジャンプ動作を選出し、このジャンプ動作の縫い番号を中断タイミング変数に格納する。そして、中断タイミング予告画面71には、「午後4時50分のジャンプ動作で刺繍模様の縫製を中断できるようになりました。」といった、中断予定タイミング近傍の中断タイミングの出現を文字列で表示すればよい。
【0125】
(効果)
このように、このミシン1は、スイッチ323の開始ボタン323a等の入力部によって、自動再駆動させないミシンモータの停止に対するユーザによる縫製再開操作を受け付ける。中断タイミング選出部7は、縫製再開操作の入力の度に、刺繍データ71の中から、中断予定タイミングの前後所定範囲にある、断動作を一つ再選定するようにした。中断制御部8は、刺繍模様の縫製中、中断タイミング選出部7が再選定した断動作に到達すると、中断指示又は続行指示の入力があるまで、ミシンモータ15の停止を維持させるようにした。
【0126】
手動再開までに要した時間によっては、刺繍模様の縫製スケジュールが早まったり遅延したりする。一方、中断予定タイミングは不動である。そのため、中断予定タイミングの近傍に位置する断動作は変わり得る。また、当初、中断予定タイミングの前後所定範囲になかったが、手動再開までに要した時間によって、中断予定タイミングの前後所定範囲に新たに断動作が出現し得る。また、当初、中断予定タイミングの前後所定範囲にあったが、断動作が消失し得る。
【0127】
このミシン1では、刺繍模様の縫製スケジュールが乱れても、中断タイミングを変更して、ユーザが自由に設定したタイミング近傍で、切り良く刺繍模様の縫製を中断できる。そのため、刺繍模様の進展と、刺繍模様の完成までのミシン1の動作予測にユーザが気を配ることなく、良い品質の作品を完成させることができる。
【0128】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係るミシン1について図面を参照しつつ詳細に説明する。第1又は第2の実施形態と同一構成及び同一機能は同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0129】
図23に示すように、ミシン1の制御装置3は、所要時間テーブル生成部91と実績値記憶部92を備えている。所要時間テーブル生成部9は、主にプロセッサ311とROM314を含み構成される。実績値記憶部92はROM314を含み構成されている。この所要時間テーブル生成部9は、ユーザの再開操作があるまでミシンモータ15の停止を維持させる動作に対して予定される所要時間を過去実績に基づいて変更する。この動作は、例えば色替え動作である。
【0130】
所要時間テーブル生成部91は、色替え動作のためにミシンモータ15を停止させてから、ユーザがスイッチ323の開始ボタン323aを押下するまでの時間を計時し、この動作に要した実際の所要時間を全て又は所定数分だけを実績値記憶部92に記憶させておく。そして、所要時間テーブル生成部91は、実績値記憶部92に記憶させた実際の所要時間から所要時間テーブル61に書き込む所要時間情報63の値を計算し、所要時間テーブル61内において、この動作を指示するコマンドに関連付けられた所要時間情報63を更新する。計算方法は、公知の何れでもよいが、例えば平均である。
【0131】
例えば、
図24に示すように、カラーチェンジコマンド66に関連付けられてデフォルトで2分を示す所要時間情報63が記録されているものとする。実際には、過去5回の色替え動作の実際の所要時間が2分、3分、3分、20分、及び4分であったものとする。所要時間テーブル生成部9は、極端値である20分を除いた4つの所要時間を平均し、3分の結果を得て、カラーチェンジコマンド66に関連付けられた所要時間情報63の値を3分に更新する。
【0132】
このように、このミシン1では、手動再開を要する特定動作から次の動作手順に移るまでの過去実際にかかった所要時間に基づき、所要時間テーブル61内でこの特定動作に関連付けられた所要時間情報63を更新するようにした。
【0133】
これにより、手動再開を要する動作の所要時間を実際の所要時間に近づけることができるので、ユーザが自由に設定したタイミング近傍で、より信頼性高く、切り良く刺繍模様の縫製を中断させることができる。即ち、中断タイミング選出部7が選出した中断タイミングの信頼性が向上する。
【0134】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係るミシン1について図面を参照しつつ詳細に説明する。第1乃至第3の実施形態と同一構成及び同一機能は同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0135】
このミシン1では、中断タイミング選出部7は、中断予定タイミングの近傍にある全ての断動作を画面表示装置321に表示させ、ユーザが選択した中断タイミングの縫い番号を中断タイミング変数に格納する。
【0136】
図25は、このような中断タイミング選出部7の動作を示すフローチャートである。
図25に示すように、中断タイミング選出部7は、
図9乃至
図12に示したステップS01〜ステップS22を実行することで、中断予定タイミングの前後所定範囲に時系列に並ぶ断動作を、断動作の種別と縫い番号と累積時間Tiとを組にして中断候補に登録しておく。
【0137】
そして、中断タイミング選出部7は、中断候補に登録した断動作の種別及び実行タイミングを画面表示装置321に表示させる(ステップS71)。実行タイミングは、累積時間Tiそのもの又は累積時間Tiが経過する時刻で表される。ユーザがタッチ等により特定の断動作を選択すると(ステップS72)、選択された断動作の縫い番号53を中断タイミング変数に格納する(ステップS73)。
【0138】
図26は、中断タイミング選出部7が画面表示装置321に表示させる中断タイミング選択画面72を示す模式図である。中断タイミング選択画面72には、中断予定タイミングの前後所定範囲内にある中断タイミングの候補が一覧721にして並べられて表示される。表示される中断タイミングの候補は、中断タイミングで実行される断動作の種別、例えば色替え動作又はジャンプ動作を示す名称情報722と、中断タイミングを示す時刻情報723を対にして成る。中断タイミング選出部は、この中断タイミング選択画面72でタッチされた中断タイミングの縫い番号53を、中断タイミング変数に格納する。
【0139】
表示される中断タイミングは、累積時間Tiであっても、時刻であってもよい。時刻とする場合、現在時刻に累積時間Tiを加算して得られる時刻を表示させる。表示順は、中断予定タイミングに近い順であってもよいし、特定動作の種類別であってもよい。特定動作の種類別でソートする場合、色替え動作を上位にすることが望ましい。色替え動作は、中断に最も適切だからである。
【0140】
このように、このミシン1において、中断タイミング選出部7は、中断予定タイミングの前後の所定範囲にある、断動作を複数検出し、画面表示装置321に、検出した断動作の区別と当該断動作の実行タイミングを一覧表示させるようにした。そして、タッチパネル322等の入力部は、画面表示装置321に表示された一覧からの選択を受け付け、中断制御部8は、入力部を用いて画面から選択された、断動作に到達すると、ミシンモータ15の停止を継続させるようにした。
【0141】
これにより、ユーザは、刺繍模様の縫製に没入したい欲求と他の行動の重要度のバランスを計りながら、中断タイミングの候補を見てスケジュールを決定することができる。
【0142】
また、このミシン1において、中断タイミング選出部7は、画面表示装置321に、検出した断動作を種類別に並べて表示させるようにした。これにより、作品の品質を重要視して中断タイミングを決定したり、手間暇を考えて中断タイミングを決定したりでき、ユーザの利便性が向上する。例えば、色替えは手間を要するため、ユーザは中断するタイミングを色替え時にしたいと考える場合もあり、この場合、断動作別に候補が並べられると便利である。
【0143】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係るミシン1について図面を参照しつつ詳細に説明する。第1乃至第4の実施形態と同一構成及び同一機能は同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0144】
中断制御部8は、中断タイミングが到達してもユーザが縫製を中断させずに続行している間、断動作が実行される度に、ユーザの操作に応じて中断するか、更に続行するか判定する。
図27は、中断制御部8が画面表示装置321に表示させる中断タイミング報知画面81の他の例を示す模式図である。
図27に示すように、中断制御部8は、次の断動作の実行タイミングを報知エリア811に表示し、中断ボタン813と続行ボタン814とを表示する。
【0145】
中断制御部8は、刺繍データ51内で、実行した最後の縫い番号53から後の動作を順番に確認し、最初の断動作を示すコマンドを見つける。同時に、実行した最後の縫い番号53から所要時間を累算していくことで、次の中断タイミングが算出される。
【0146】
このように、このミシン1では、選定された断動作への到達以降、ユーザが続行を指示する限り、新たな断動作に到達する度に、中断タイミング報知画面81を表示させ、次の断動作で中断するか、続行するか確認させるようにした。これにより、中断予定タイミングを過ぎても縫製に時間を割くことのできるユーザは、更に縫製に没入することができる。
【0147】
(他の実施形態)
以上のように本発明の実施形態を説明したが、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。