特許第6815911号(P6815911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815911
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】熱エネルギー回収装置
(51)【国際特許分類】
   F01C 21/04 20060101AFI20210107BHJP
   F01C 21/18 20060101ALI20210107BHJP
   F01C 1/16 20060101ALI20210107BHJP
   F01K 23/06 20060101ALI20210107BHJP
   F01K 25/10 20060101ALI20210107BHJP
   F02G 5/00 20060101ALI20210107BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   F01C21/04 Z
   F01C21/18
   F01C1/16 E
   F01K23/06 P
   F01K25/10 C
   F02G5/00 B
   F01P3/20 G
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-55378(P2017-55378)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-159279(P2018-159279A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】壷井 昇
(72)【発明者】
【氏名】足立 成人
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−222139(JP,A)
【文献】 特開2001−263837(JP,A)
【文献】 特開2014−114785(JP,A)
【文献】 特開2014−234719(JP,A)
【文献】 特開2011−122568(JP,A)
【文献】 特開2016−056689(JP,A)
【文献】 特開2013−177838(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0034684(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0345274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01C 21/04
F01C 1/16
F01C 21/18
F01K 23/06
F01K 25/10
F01P 3/20
F02G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器と膨張機と凝縮器とポンプとが設けられた循環流路と、
前記ポンプの回転数の制御を行う制御器と、を備え、
前記蒸発器で蒸発した作動媒体と油との混合媒体が前記膨張機に導入されて、前記膨張機が駆動される熱エネルギー回収装置であって、
前記制御器は、前記蒸発器の熱負荷に応じて前記ポンプの回転数を制御する熱負荷制御と、前記熱負荷制御による前記ポンプの回転数よりも高められた回転数で前記ポンプを駆動する油戻し制御とを実行可能であり、
前記油戻し制御は、前記蒸発器で蒸発した作動媒体から分離した油の溜まり具合に関する予め設定された油溜まり条件又は前記蒸発器における所定以下の低負荷に関する予め設定された低負荷条件が成立したときに実行される、熱エネルギー回収装置。
【請求項2】
前記油溜まり条件において用いられる前記油の溜まり具合は、接続空間における油溜まり具合であり、
前記接続空間は、前記蒸発器の熱交換部よりも下流側に設けられた蒸発器内の下流空間と、前記膨張機の供給ポートの上流側に位置する流入路と、前記下流空間及び前記流入路に連通するように前記蒸発器及び前記膨張機を接続する主管路と、を含む、請求項1に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項3】
前記接続空間は、前記膨張機内において前記主管路の接続口及び前記流入路に連通すると共に、前記流入路よりも下方に位置する油溜りを有している、請求項2に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項4】
前記流入路が、前記膨張機における前記主管路の接続口から前記供給ポートに向かって前記膨張機の軸方向に沿って設けられており、
前記接続空間は、前記膨張内において前記主管路の接続口及び前記流入路に連通すると共に、前記流入路よりも下方に位置する油溜りを有している、請求項2に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項5】
前記接続空間において油の溜り具合を検知する油検知器を備え、
前記制御器は、前記油検知器の検知結果に基づいて前記油溜まり条件が成立した場合に、前記熱負荷制御を前記油戻し制御に切り替えるように構成されている、請求項2から4の何れか1項に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項6】
前記油溜まりに溜まった油を検知する油検知器を備え、
前記制御器は、前記油検知器が、前記油溜まりに溜まった油の量が所定のレベル以下であることを検知したことに基づいて、前記熱負荷制御を前記油戻し制御に切り替えるように構成されている、請求項3又は4に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項7】
前記蒸発器の熱負荷の状態を直接的または間接的に検知する熱負荷状態検知手段と、
前記熱負荷状態検知手段によって検出された熱負荷が所定値以下の部分負荷となっている時間をカウントする計時手段と、を備え、
前記制御器は、前記計時手段がカウントした時間が所定時間以上になると前記低負荷条件が成立したとして、前記熱負荷制御を前記油戻し制御に切り替えるように構成されている、請求項1に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項8】
前記膨張機内における給油箇所が、前記膨張機の供給ポートに連通すると共に前記膨張機の排出ポートに連通しており、
前記給油箇所での圧力が、前記膨張機の供給ポートでの圧力と前記膨張機の排出ポートでの圧力との間の圧力となっている、請求項1又は7に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項9】
前記膨張機は、スクリュロータと、前記スクリュロータの軸を回転自在に支持する軸受とを備えており、
前記給油箇所が前記軸受である、請求項8に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項10】
前記蒸発器は、熱交換部と、前記熱交換部よりも下流側に位置する下流空間とを有し、
前記循環流路は、前記蒸発器及び前記膨張機を接続する主管路を有し、
前記蒸発器の前記下流空間における前記主管路の接続部よりも下側に接続された一端と、前記膨張機に接続された他端とを有する油戻し管路が設けられている、請求項1に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項11】
前記油戻し管路は、前記主管路よりも細い管路となっている、請求項10に記載の熱エネルギー回収装置。
【請求項12】
前記蒸発器の熱交換部の一次側流路が、エンジン付き車両におけるエンジン冷却用の冷却水が流れる冷却水流路に接続されている、請求項1から11の何れか1項に記載の熱エネルギー回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギー回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1及び2に開示されているように、排熱を回収して動力を得る熱エネルギー回収装置が知られている。特許文献1及び2に開示された熱エネルギー回収装置は、蒸発器、膨張機、凝縮器及びポンプを有する循環流路を備える。熱エネルギー回収装置では、蒸発器において作動媒体(冷媒)を外部からの排熱により蒸発させて、この作動媒体の蒸気により膨張機のロータを回転駆動させる。膨張機のロータが回転することによって、発電機が駆動される。
【0003】
膨張機には、ロータを回転自在時に支持する軸受の潤滑や、膨張機内の各部位のシールのために油が用いられる。油は液状の作動媒体に溶けて循環流路を流れ、或いはガス状の作動媒体に随伴して循環流路を流れる。蒸発器においては、作動媒体が蒸発することから、作動媒体に溶け込んでいた油は作動媒体から分離する。作動媒体から分離された油は、作動媒体に随伴されて潤滑流路を流れ、膨張機に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−114785号公報
【特許文献2】特開2014−234719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示された熱エネルギー回収装置のように、例えば車両の排ガスの熱を熱源とする場合等には、蒸発器における熱負荷が変動する。作動媒体を循環させるためのポンプは、例えば蒸発器での過熱度が目標値になるように回転数が制御され得る。このため、蒸発器に流入する熱源ガス量が低下した場合には、蒸発器に送られる作動媒体量が低下するため、蒸発した作動媒体から分離した油が作動媒体に随伴され難くなる。この結果、油が例えば蒸発器の上部に滞留してしまって、膨張機に戻り難くなる。そのために、膨張機内での給油箇所への給油不足が生じる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、蒸発器での熱負荷が低下した場合であっても油が膨張機に戻りやすくするようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、蒸発器と膨張機と凝縮器とポンプとが設けられた循環流路と、前記ポンプの回転数の制御を行う制御器と、を備え、前記蒸発器で蒸発した作動媒体と油との混合媒体が前記膨張機に導入されて、前記膨張機が駆動される熱エネルギー回収装置である。前記制御器は、前記蒸発器の熱負荷に応じて前記ポンプの回転数を制御する熱負荷制御と、前記熱負荷制御による前記ポンプの回転数よりも高められた回転数で前記ポンプを駆動する油戻し制御とを実行可能であり、前記油戻し制御は、前記蒸発器で蒸発した作動媒体から分離した油の溜まり具合に関する予め設定された油溜まり条件又は前記蒸発器における所定以下の低負荷に関する予め設定された低負荷条件が成立したときに実行される。
【0008】
本発明では、予め定められた油溜まり条件又は低負荷条件が成立すると、熱負荷制御から油戻し制御に移行される。すなわち、熱負荷の大きな変動に伴って膨張機の膨張室よりも上流側において油が滞留する場合、熱負荷の変動に拘わらず膨張機の膨張室よりも上流側において油が滞留するような場合、又は蒸発器の熱負荷が小さい状態が続くような場合には、熱負荷制御に優先させて油戻し制御が実行される。これにより、ポンプの回転数が、蒸発器の熱負荷に応じて設定された回転数よりも増速される。この結果、蒸発器内での作動媒体の流速が高くなるため、蒸発した作動媒体から分離した油が作動媒体に随伴され易くなる。したがって、膨張機よりも上流側から膨張機内に油が戻り易くなり、膨張機内での給油箇所への給油不足が生じることを抑制することができる。
【0009】
前記油溜まり条件において用いられる前記油の溜まり具合は、接続空間における油溜まり具合であってもよい。前記接続空間は、前記蒸発器の熱交換部よりも下流側に設けられた蒸発器内の下流空間と、前記膨張機の供給ポートの上流側に位置する流入路と、前記下流空間及び前記流入路に連通するように前記蒸発器及び前記膨張機を接続する主管路と、を含んでもよい。
【0010】
この態様では、蒸発器の熱負荷が部分負荷となっている場合において油が蒸発器内の下流空間に溜まることがある。制御器が油戻し制御を実行すると、下流空間内の油は、主管路を通じて膨張機側へ戻される。すなわち、熱エネルギー回収装置が複雑化することが回避される。
【0011】
前記接続空間は、前記膨張機内において前記主管路の接続口及び前記流入路に連通すると共に、前記流入路よりも下方に位置する油溜りを有してもよい。
【0012】
この態様では、膨張機内において主管路の接続口及び流入路に連通し且つ流入路よりも下側に位置する油溜りが設けられているので、部分負荷運転となってから膨張機の給油箇所が給油不足となるまでの時間を延ばすことができる。
【0013】
前記流入路が、前記膨張機における前記主管路の接続口から前記供給ポートに向かって前記膨張機の軸方向に沿って設けられてもよい。この場合、前記接続空間は、前記膨張内において前記主管路の接続口及び前記流入路に連通すると共に、前記流入路よりも下方に位置する油溜りを有してもよい。
【0014】
この態様では、主管路の接続口から膨張機の供給ポートへ向かう作動媒体の流れに対して、油溜りの油を随伴させやすくすることができる。
【0015】
前記熱エネルギー回収装置は、前記接続空間において油の溜り具合を検知する油検知器を備えてもよい。この場合、前記制御器は、前記油検知器の検知結果に基づいて前記油溜まり条件が成立した場合に、前記熱負荷制御を前記油戻し制御に切り替えるように構成されてもよい。
【0016】
この態様では、膨張機における膨張室よりも上流側における油の溜まり具合を油検知器によって直接的に検知することができる。このため、例えば蒸発器における熱負荷が低い場合等において、ポンプの回転数を上げる期間を必要最小限に抑えることができる。
【0017】
前記熱エネルギー回収装置は、前記油溜まりに溜まった油を検知する油検知器を備えてもよい。この場合、前記制御器は、前記油検知器が、前記油溜まりに溜まった油の量が所定のレベル以下であることを検知したことに基づいて、前記熱負荷制御を前記油戻し制御に切り替えるように構成されてもよい。
【0018】
この態様では、膨張機の供給ポートの上流側に位置する流入路に連通する油溜りにおける油の溜まり具合に基づいて油戻し制御を行うので、膨張機内における給油箇所への給油不足をより確実に防ぐことができる。
【0019】
前記熱エネルギー回収装置は、前記蒸発器の熱負荷の状態を直接的または間接的に検知する熱負荷状態検知手段と、前記熱負荷状態検知手段によって検出された熱負荷が所定値以下の部分負荷となっている時間をカウントする計時手段と、を備えてもよい。この場合、前記制御器は、前記計時手段がカウントした時間が所定時間以上になると前記低負荷条件が成立したとして、前記熱負荷制御を前記油戻し制御に切り替えるように構成されてもよい。
【0020】
この態様では、油の溜り具合を検知しなくても、熱負荷制御から油戻し制御に切り替えることができる。すなわち、油の溜まる個所において油面が大きく波打つことがある場合でも、比較的シンプルな構成(検知器とソフトウェア)で確実に油戻し制御に切り換えることができる。
【0021】
前記膨張機内における給油箇所が、前記膨張機の供給ポートに連通すると共に前記膨張機の排出ポートに連通していてもよい。この場合、前記給油箇所での圧力が、前記膨張機の供給ポートでの圧力と前記膨張機の排出ポートでの圧力との間の圧力となっていてもよい。
【0022】
この態様では、供給ポートに連通する給油箇所が排出ポートにも連通しており、しかも、給油箇所の圧力は、供給ポートでの圧力と排出ポートでの圧力との間の圧力となっている。このため、供給ポートを通過した油が圧力差によって給油箇所に流れる。すなわち、給油箇所に油を供給する内部給油経路が膨張機内部に形成される。このため、給油箇所が供給ポートよりも下流側に位置する場合において、油溜りに溜まっている油を当該油溜りから(外部へ)抜き出して膨張機の給油箇所に給油するための(外部)給油配管を備えていなくても、当該給油個所に給油することができる。したがって、膨張機内において配管接続部の数を減らすことができ、油漏れに対する信頼性を向上することができる。
【0023】
前記膨張機は、スクリュロータと、前記スクリュロータの軸を回転自在に支持する軸受とを備えてもよい。この場合、前記給油箇所が前記軸受であってもよい。
【0024】
この態様では、軸受への給油不足を防ぐことができるので、膨張機の信頼性を向上することができる。
【0025】
また、油戻し制御を行うことにより、油が膨張機へ戻らない状況を抑制することができる。このため、軸受潤滑後の油の流れる流路が油封されなくなってその流路を通じて蒸気のショートパス(バイパス)が生じることを防ぐことができる。したがって、熱エネルギー回収効率が低下することを抑制することができる。
【0026】
前記蒸発器は、熱交換部と、前記熱交換部よりも下流側に位置する下流空間とを有してもよく、前記循環流路は、前記蒸発器及び前記膨張機を接続する主管路を有してもよい。この場合、前記蒸発器の前記下流空間における前記主管路の接続部よりも下側に接続された一端と、前記膨張機に接続された他端とを有する油戻し管路が設けられていてもよい。
【0027】
この態様では、下流空間に溜まった油を油戻し管路を通して膨張機に効果的に戻すことができる。
【0028】
前記油戻し管路は、前記主管路よりも細い管路となっていてもよい。
【0029】
この態様では、油戻し管路内における混合媒体の流速が上がるため、作動媒体の流れに対して、油を随伴させやすくすることができる。
【0030】
前記蒸発器の熱交換部の一次側流路が、エンジン付き車両におけるエンジン冷却用の冷却水が流れる冷却水流路に接続されていてもよい。
【0031】
エンジン付き車両におけるエンジン負荷が変動することによって、蒸発器の熱交換部における一次側流路に流入する冷却水の温度及び流量の少なくとも一方が変動することによって、蒸発器における熱負荷が変動する。この場合において、蒸発器における熱負荷が低下して油が膨張機に戻らないような状態が起こり得る。しかしながら、制御器は、油溜まり条件又は低負荷条件が成立すると油戻し制御を行うため、膨張機内での給油箇所への給油不足が生じることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、蒸発器での熱負荷が低下した場合であっても油が膨張機に戻りやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の第1実施形態に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
図2】前記熱エネルギー回収装置に設けられた蒸発器の構成を説明するための図である。
図3】第1実施形態の変形例に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
図4】第1実施形態の変形例に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
図5】第1実施形態の変形例に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
図6】第1実施形態の変形例に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
図8】前記熱エネルギー回収装置の制御動作を説明するフロー図である。
図9】第2実施形態の変形例に係る熱エネルギー回収装置の全体構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
(第1実施形態)
第1実施形態による熱エネルギー回収装置1は、エンジン付き車両で発生する熱エネルギーを回収して発電を行う発電システムとして構成されている。熱エネルギー回収装置1は、図1に示すように、ポンプ8と、蒸発器10と、膨張機14と、発電機16と、凝縮器6と、制御器18と、を備えている。ポンプ8、蒸発器10、膨張機14及び凝縮器6は、この順で循環流路4に設けられている。循環流路4には作動媒体及び油が封入されている。作動媒体としては、例えばR245fa(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン)等の沸点の低い冷媒が用いられる。したがって、本発電システムは、比較的低温のエンジン排熱から動力を回収するバイナリー発電方式となっている。そして、ポンプ8と蒸発器10と膨張機14と凝縮器6とが設けられた循環流路4は、ランキンサイクルを構成している。油は、膨張機14内の後述する軸受の潤滑のため、あるいは膨張機14内の各部位のシールのために用いられる。
【0036】
ポンプ8は、循環流路4における凝縮器6の下流側(蒸発器10と凝縮器6との間)に設けられており、循環流路4内で作動媒体(すなわち油の混ざった混合媒体)の循環駆動力を発生させるためのものである。ポンプ8は、凝縮器6で凝縮された液状の作動媒体(すなわち油の混ざった混合媒体)を所定の圧力まで加圧して蒸発器10に送り出す。ポンプ8として、インペラをロータとして備える遠心ポンプや、ロータが一対のギアからなるギアポンプ等が用いられる。
【0037】
蒸発器10は、循環流路4におけるポンプ8の下流側(ポンプ8と膨張機14との間)に設けられている。蒸発器10は、図2に示すように、上流側ヘッダ10aと熱交換部10bと下流側ヘッダ10cとを有する。
【0038】
上流側ヘッダ10aは、蒸発器10における下端に設けられている。上流側ヘッダ10aは、ポンプ8から送り出された液状の作動媒体及び油の混ざった混合媒体が流入する上流空間10dを有する。
【0039】
熱交換部10bは、加熱媒体である冷却水が流れる一次側流路10b1と、混合媒体が流れる二次側流路10b2と、を有し、上流側ヘッダ10aの上に配置されている。一次側流路10b1は加熱媒体流路(冷却水流路)20に接続されている。加熱媒体流路20には、加熱媒体を循環させる加熱媒体ポンプ21が設けられている。加熱媒体流路20を流れる加熱媒体は、エンジン冷却用のラジエータ22を流れて昇温した冷却水である。ラジエータ22は、エンジン23との間でクーラントが循環することにより、エンジン23を冷却する。二次側流路10b2を流れる作動媒体は、一次側流路10b1を流れる加熱媒体と熱交換して蒸発する。
【0040】
なお、加熱媒体としては、ラジエータ22を流れる冷却水に限られるものではなく、エンジン23を直接冷却する冷却水又はクーラントであってもよい。また、車両に搭載される車載用のシステムとして構成されるものに限られず、例えば、船に搭載されて、船のエンジンの排気ガスを加熱媒体とする構成であってもよく、あるいは、工場等で用いられている水蒸気を加熱媒体とする構成であってもよい。
【0041】
下流側ヘッダ10cは、熱交換部10bの上側に設けられている。下流側ヘッダ10cは、二次側流路10b2で蒸発した作動媒体及び油が流入する下流空間10eを有する。下流空間10eには、ガス状の作動媒体が分離した油が溜まり得る。
【0042】
膨張機14と発電機16は、発電装置2として一体的に構成されている。発電装置2は、膨張機14においてガス状の作動媒体(油も混ざっている)を膨張させることにより、発電機16を駆動する力を取り出す。なお、発電装置2の詳細については後述する。
【0043】
凝縮器6には、膨張機14から排出されたガス状の作動媒体(すなわち油も混ざった混合媒体)が導入される。凝縮器6は、混合媒体が流れる一次側流路6aと、冷却媒体が流れる二次側流路6bとを有している。二次側流路6bは、冷却媒体が流れる外部の媒体流路26と接続されている。一次側流路6aを流れるガス状の作動媒体は、二次側流路6bを流れる冷却媒体と熱交換することにより凝縮する。
【0044】
以上の構成により、本実施形態による発電システムでは、作動媒体が循環流路4を通じて蒸発器10、発電装置2、凝縮器6及びポンプ8を順に流れるという循環回路が構成されている。
【0045】
循環流路4を構成する管路のうち、蒸発器10と膨張機14とを流体的に接続する主管路4aには、作動媒体の温度を検出する温度検出器28と、作動媒体の圧力を検出する圧力検出器29とが設けられている。
【0046】
次に、発電装置2の構成について詳細に説明する。
【0047】
発電装置2は、膨張機14と発電機16を収容するケーシング25を備えている。ケーシング25は、膨張機14を収容する第1ケース部材30と、第1ケース部材30に締結され、発電機16を収容する第2ケース部材31とを有する。
【0048】
第1ケース部材30は、第2ケース部材31に締結され、膨張機14の後述するスクリュロータ32を保持するロータ保持部33と、ロータ保持部33に対して第2ケース部材31と反対側に配置されてロータ保持部33に締結された蓋部34と、を有する。
【0049】
蓋部34は、底部34aと、底部34aの外周部からスクリュロータ32の軸方向の延びる筒状の胴部34bとを有し、有底の略円筒状を呈している。ケーシング25は、底部34aが鉛直になり、スクリュロータ32及びお胴部34bの軸が水平になるように設置される。
【0050】
胴部34bの端部にロータ保持部33が結合されている。これにより、蓋部34とロータ保持部33とによって密閉された第1空間S1が形成されている。第1空間S1は、膨張室内よりも高圧の作動媒体及び油が存在する高圧側空間となる。
【0051】
蓋部34(第1ケース部材30)には、蓋部34をその厚み方向に貫通する流入口34cが設けられている。流入口34cには、循環流路4のうち蒸発器10と膨張機14を流体的に接続する配管によって構成される主管路4aの一端が接続されている。つまり、流入口34cは、主管路4aの接続口である。蒸発器10で生成された作動媒体の蒸気及び油が混ざった混合媒体は、主管路4aから流入口34cを通じて第1空間S1内に流入する。
【0052】
ロータ保持部33には、軸方向において蓋部34とは反対側に第2ケース部材31が結合されている。これにより、ロータ保持部33と第2ケース部材31とによって密閉された第2空間S2が形成されている。第2空間S2は、後述するように、膨張室内よりも低圧の作動媒体及び油が通過する低圧側空間となる。
【0053】
ロータ保持部33には、スクリュロータ32が配置された貫通孔33aと、第1空間S1に連通し、膨張室が第1空間S1側に位置するときに当該膨張室に連通する供給ポート33bと、膨張室が第2空間S2側に位置するときに当該膨張室に連通する排出ポート33cと、排出ポート33cに連通しロータ保持部33の外面に開口する排出孔33dと、排出孔33dと第2空間S2とを連通する連通孔33eと、が設けられている。
【0054】
貫通孔33aは、スクリュロータ32の軸方向にロータ保持部33を貫通している。貫通孔33aの一端部は、ロータ保持部33における第1空間S1側の面に開口し、貫通孔33aの他端部は、ロータ保持部33における第2空間S2側の面に開口している。供給ポート33bは、第1空間S1内の作動媒体と油の混合媒体を膨張室内に供給させる。排出ポート33cは、膨張室から作動媒体と油の混合媒体を排出させる。排出孔33dは、排出ポート33cから下方に延びている。
【0055】
膨張室で膨張したガス状の作動媒体と油の混合媒体は、排出ポート33c及び排出孔33dを通して循環流路4へ排出される。また、油の一部は膨張室から後述するように第2軸受53側に流れる。第2軸受53を潤滑した後の油は、第2空間S2に流れ、その後、連通孔33eを通じて排出孔33d内に流入する。
【0056】
膨張機14は、互いに噛み合った一対のスクリュロータ32を有している。各スクリュロータ32の軸は、スクリュロータ32から軸方向の一方側に延びる第1回転軸32aと、スクリュロータ32から軸方向の他方側に延びる第2回転軸32bと、を有する。第1回転軸32aは供給ポート33b側の軸であり、第2回転軸32bは、排出ポート33c側の軸である。第1回転軸32aは、後述する第1軸受保持部42内に延在している。第2回転軸32bは、貫通孔33a内から第2空間S2内に向けて延びている。
【0057】
各スクリュロータ32は、それぞれ螺旋形の歯を有している。貫通孔33a内において両スクリュロータ32の歯が噛み合うことによってそれらの間に膨張室が形成される。両スクリュロータ32の歯が噛み合った状態でスクリュロータ32が回転すると、膨張室は、供給ポート33bに連通する位置からスクリュロータ32の軸方向に順次移動する。このとき、膨張室内の体積は順次大きくなる。そして、膨張室は、スクリュロータ32の回転によって、排出ポート33cに連通する位置まで移動する。
【0058】
発電機16は、一方のスクリュロータ32の第2回転軸32bに連結された発電機ロータ38と、発電機ロータ38の周りに配置されたステータ40とを有している。ステータ40は、第2ケース部材31の内側に固定されている。発電機ロータ38及びステータ40は第2空間S2内に配置されている。発電機ロータ38は、前記一方のスクリュロータ32と同軸となるようにスクリュロータ32と連結されている。発電機ロータ38は、スクリュロータ32と一体的に回転する。発電機ロータ38が回転することにより、発電機16は発電を行う。
【0059】
ロータ保持部33には、第1回転軸32aに取り付けられた第1軸受48を保持するための第1軸受保持部42が結合されている。第1軸受保持部42は、スクリュロータ32の軸方向において、ロータ保持部33に対して蓋部34と同じ側に配置されている。第1軸受保持部42は、ロータ保持部33のうち蓋部34が結合された部位の内側において、ロータ保持部33に結合され、スクリュロータ32の軸方向に延びるように形成されている。
【0060】
第1軸受保持部42は、幅方向において蓋部34よりも小さい形状であり、蓋部34の内面から内側に離隔している。このため、蓋部34の底部34a及び胴部34bの内面と第1軸受保持部42の外面との間の空間が、作動媒体及び油の混合媒体が流入する第1空間S1となっている。
【0061】
蓋部34に形成された流入口34cは、第1軸受保持部42の上端よりも少し上側に位置している。そして、流入口34cを通して第1空間S1内に導入された混合媒体は、流入口34cから供給ポート33bに向かってスクリュロータ32の軸方向にほぼ真っ直ぐに流れる。すなわち、膨張機14の第1空間S1内には、膨張機14における流入口34cから供給ポート33bに向かって膨張機14の軸方向に沿って延びる流入路44が形成されている。また、第1空間S1において、流入路44よりも下側の空間部には油が溜まる。したがって、この部分は、油溜り46として機能する。なお、流入口34cは、第1軸受保持部42の上端よりも少し下側に位置していてもよい。
【0062】
第1軸受保持部42内には、第1空間S1から区画された第1軸受室47が形成されている。第1軸受室47は、供給ポート33bに直接或いは供給ポート33b側の膨張室を介して連通している。第1軸受室47には、それぞれの回転軸32aに対応して配置された第1軸受48が収容されている。これらの第1軸受48の一方は、一方のスクリュロータ32の第1回転軸32aを支持する。他方の第1軸受48は、もう一方のスクリュロータ32の第1回転軸32aを支持する。言い換えると、第1回転軸32aは第1軸受48によって回転自在に軸支されている。
【0063】
ロータ保持部33には、第2空間S2に連通する第2軸受室50を構成する第2軸受保持部51が結合している。第2軸受保持部51は、スクリュロータ32の軸方向において、ロータ保持部33に対して第2ケース部材31と同じ側に配置されている。なお、本実施形態では、第2軸受保持部51とロータ保持部33とが一体的に形成されているが、これら保持部51,33が別体に形成されるとともに互いに締結された構成としてもよい。
【0064】
第2軸受室50は、貫通孔33a又は膨張室に連通している。第2軸受室50には、それぞれの回転軸32bに対応して配置された第2軸受53が収容されている。これらの第2軸受53の一方は、一方のスクリュロータ32の第2回転軸32bを支持する。他方の第2軸受53は、もう一方のスクリュロータ32の第2回転軸32bを支持する。言い換えると、第2回転軸32bは第2軸受53によって回転自在に軸支されている。
【0065】
ケーシング25内には、油流通路55が設けられている。油流通路55は、第1軸受室47内と、貫通孔33aにおける排出ポート33c近傍の部位とを連通している。この排出ポート33c近傍の部位とは、具体的には、スクリュロータ32において排出ポート33cに接する部分よりもスクリュロータ32の約1歯分だけ第1軸受保持部42側にずれた部位である。油流通路55の一端は、第1軸受保持部42の内部空間(第1軸受室47)のうち第1軸受48に対してスクリュロータ32と反対側に位置する箇所に接続されている。油流通路55の他端は、排出ポート33c近傍の貫通孔33a(膨張室)に連通するようにロータ保持部33に接続されている。なお、本実施形態の構成に限らず、油流通路55の他端は、排出孔33dに連通するようにロータ保持部33に接続された構成としてもよい。
【0066】
本実施形態では、第1軸受室47内の油は、油流通路55を通して膨張室内へと流れる。そして、膨張室内の油の一部は、貫通孔33aから第2軸受室50内に流れる。この油の流れは、供給ポート33bでの圧力と、第1軸受室47内の圧力と、膨張室内の圧力と、第2空間S2の圧力と、排出ポート33cでの圧力との大小関係によって生じる。
【0067】
すなわち、膨張室内で作動媒体の膨張が進むにつれて、膨張室内の圧力は、供給ポート33b側から排出ポート33c側へ向かって次第に低下する、第1軸受室47は、供給ポート33b側の膨張室に隣接するとともに、排出ポート33c近傍の膨張室と連通する。このため、第1軸受室47内の圧力は、供給ポート33bでの圧力よりも低圧で、且つ排出ポート33cよりも高圧となる。一方、第2軸受室50は、第2空間S2及び連通孔33eを通して排出孔33dに連通しているため、第2軸受室50内の圧力は、排出ポート33c側の膨張室内の圧力よりも低圧となる。このため、第1軸受室47内の油は、油流通路55を通して膨張室内へと流れる。そして、膨張室内の油の一部は、第2軸受室50内に流れる。言い換えると、第1軸受室47及び第2軸受室50での圧力が、供給ポート33bでの圧力と排出ポート33cでの圧力との間の圧力(中間圧力)となっている。この圧力関係により、第1空間S1内の混合媒体に含まれる油は、第1軸受48及び第2軸受53に供給される。第1軸受48及び第2軸受53には油が供給されるので、第1軸受48及び第2軸受53は、膨張機14内における給油箇所となっている。軸受48,53に油が供給されることにより、軸受48,53が潤滑される効果が発揮されるとともに、軸受48,53の保持部からの作動媒体の漏れを抑制するシール効果が発揮される。
【0068】
熱エネルギー回収装置1には、蒸発器10における下流空間10eから膨張機14における供給ポート33bまでの接続空間内における油の溜り具合を検知する油検知器57(図2参照)が設けられている。具体的には、第1実施形態において、油検知器57は、蒸発器10の下流側ヘッダ10cに配置され、蒸発器10の下流空間10e内での油の溜まり具合を検知する。
【0069】
油検知器57は、下流空間10eに所定量の油が溜まったか否かを検知する構成であってもよく、溜まった油の量を検知する構成であってもよい。図例の油検知器57は、2つの検知端を有し、油面の上限値及び下限値を検知可能な構成となっている。なお、油検知器57は、油面の下限値を検知する検知端のみを有する構成であってもよい。この場合、後述する油戻し制御は、予め設定された所定時間だけ行うようにすればよい。
【0070】
油検知器57は、検知結果に応じた信号を出力する。油検知器57から出力された信号は、制御器18に入力される。また、温度検出器28及び圧力検出器29から出力された信号も制御器18に入力される。
【0071】
制御器18は、記憶部、一時記憶部、演算部等を有し、記憶部に格納された制御プログラムを実行することによって、所定の機能を発揮する。この機能には、過熱度を導出する過熱度演算部18aと、ポンプ8の回転数を制御する駆動制御部18bとが含まれている。
【0072】
過熱度演算部18aは、記憶部に記憶された、飽和蒸気圧と温度とを関連付ける情報を使用し、温度検出器28及び圧力検出器29からの信号に基づいて、主管路4aを流れる作動媒体の過熱度を導出する。
【0073】
駆動制御部18bは、蒸発器10の熱負荷に応じてポンプ8の回転数を制御する熱負荷制御と、熱負荷制御によるポンプ8の回転数よりも増速された回転数でポンプ8を駆動する油戻し制御とを実行可能である。熱負荷制御では、過熱度演算部18aによって導出された過熱度が目標範囲に収まるように、ポンプ8の回転数(すなわち蒸発器に送られる作動媒体の流量)が調整される。すなわち、蒸発器10の熱交換部10bに流入する加熱媒体の流量が変動した場合、加熱媒体から作動媒体に与えられる熱量が変動するため、熱交換部10bでの作動媒体の蒸発量が変動する。このため、熱負荷制御においては、膨張機14での熱回収効率が下がらないように、蒸発器10での熱負荷に応じた作動媒体が蒸発器10に導入されるように、ポンプ8の回転数が調整される。
【0074】
エンジン23が部分負荷運転を行い、蒸発器10での熱負荷が低減されている状態が継続した場合には、蒸発器10から膨張機14に油が戻り難くなるため、そのような場合に油戻し制御が行われる。油戻し制御は、蒸発器10で蒸発した作動媒体から分離した油の溜まり具合に関する予め設定された油溜まり条件が成立したときに実行される。すなわち、制御器18は、油検知器57の検知結果に基づいて油溜まり条件が成立した場合に、熱負荷制御から油戻し制御に切り替えるように構成されている。
【0075】
第1実施形態では、油溜まり条件として、油検知器57により、油面が上限値に達したことが検出されたことが設定されている。したがって、油戻し制御は、下流空間10eに溜まった油の油面が上限値に達すると、熱負荷制御に優先して実行される。油戻し制御では、熱負荷制御のときのポンプ8の回転数に対して予め設定された回転数だけ、ポンプ8の回転数が大きくなる。これにより、ポンプ8から蒸発器10に送られる混合媒体の流量が増えるととともに混合媒体の流速が速くなる。これにより、蒸発器10の下流側における作動媒体の過熱度は下がるが、下流空間10eに溜まった油が、増速された作動媒体に随伴されて主管路4aを流れる。したがって、下流空間10eの油を膨張機14内に戻すことができる。なお、一部の作動媒体が液状のまま膨張機14内に流入してもよい。そのような場合の膨張機は、容積型膨張機が好ましく、液体に対する耐性の高いスクリュ膨張機が特に好ましい。
【0076】
制御器18は、油検知器57により油面が下限値に達したことが検出されると油戻し制御から熱負荷制御に戻すように構成されている。
【0077】
ここで、本実施形態による熱エネルギー回収装置1の運転動作について説明する。ポンプ8が駆動されると、ポンプ8から送出された液状の作動媒体及び油の混合媒体は、蒸発器10の上流側ヘッダ10aを通して二次側流路10b2に流入する。作動媒体は、一次側流路10b1を流れる加熱媒体によって加熱されて蒸発する。作動媒体が蒸発すると、混合媒体に含まれる油が作動媒体から分離する。作動媒体から分離された油の一部は、下流空間10e内に溜まることがある。蒸発器10で蒸発したガス状の作動媒体及び油の混合媒体は、下流空間10eを通して主管路4aを流れる。混合媒体は、膨張機14の流入口34cを通して第1空間S1内に導入される。第1空間S1内においては、混合媒体は主として流入路44を流れる。このとき、第1軸受保持部42が浸かるくらいの油が油溜り46に溜まっていれば、油溜り46に溜まっていた油の一部は混合媒体に随伴されて供給ポート33bに流入する。
【0078】
第1空間S1内の混合媒体は、供給ポート33bを通して膨張室に入る。これによりスクリュロータ32が回転し、発電機16の発電機ロータ38が回転して発電が行われる。スクリュロータ32の回転に伴い、膨張室は、スクリュロータ32の軸方向に移動しつつ作動媒体を漸次膨張させる。これにより、膨張室内の作動媒体の圧力は漸次低下する。そして、作動媒体は、排出ポート33c及び排出孔33dを通して循環流路4に排出される。このガス状の作動媒体及び油の混合媒体は、凝縮器6の一次側流路6aに導入される。凝縮器6においては、作動媒体は、二次側流路6bを流れる冷却媒体によって冷却されて凝縮する。この液状の作動媒体及び油は、循環流路4を流れてポンプ8に吸入される。循環流路4では、このような循環が繰り返されて発電装置2において発電が行われる。
【0079】
第1空間S1内の混合媒体に含まれる油の一部は、供給ポート33b又は供給ポート33b側に位置する貫通孔33aの一端部(膨張室の供給ポート側)から第1軸受室47に流れる。第1軸受室47に供給された油の一部は、油流通路55を通して排出ポート33c近傍の膨張室に流れる。膨張室内の油は、膨張した作動媒体とともに、排出ポート33cを通して排出孔33dに流れる。
【0080】
また、第1空間S1内の混合媒体に含まれる油の一部は、排出ポート33c側に位置する貫通孔33aの他端部(膨張室の排出ポート33c側)から第2軸受室50に流れる。第2軸受室50に供給された油の一部は、第2空間S2及び連通孔33eを通して排出孔33dに流れる。
【0081】
通常、制御器18は、熱負荷制御を実行する。このため、ポンプ8の回転数は、過熱度演算部18aによって導出された過熱度が目標範囲に収まるように調整されている。この運転中、油検知器57により、下流空間10e内に溜まった油の油面が上限値に達したことが検出されると、油戻し制御が実行される。これにより、ポンプ8が増速されるため、下流空間内に溜まった油が作動媒体に随伴されやすくなり、膨張機14に戻りやすくなる。
【0082】
以上説明したように、本第1実施形態では、予め定められた油溜まり条件が成立すると、熱負荷制御から油戻し制御に移行される。すなわち、熱負荷の大きな変動に伴って膨張機14の膨張室よりも上流側において油が滞留する場合、熱負荷の変動に拘わらず膨張機14の膨張室よりも上流側において油が滞留するような場合、又は蒸発器10の熱負荷が小さい状態が続くような場合には、熱負荷制御に優先させて油戻し制御が実行される。これにより、ポンプ8の回転数が、蒸発器10の熱負荷に応じて設定された回転数よりも上げられる。この結果、蒸発器10を通過する作動媒体の流速が高くなるため、蒸発した作動媒体から分離した油が作動媒体に随伴され易くなる。したがって、膨張機14よりも上流側から膨張機14内に油が戻り易くなり、膨張機14内での給油箇所への給油不足が生じることを抑制することができる。
【0083】
また第1実施形態では、蒸発器10の下流空間10eに溜まった油の量が設定された範囲以上に増えると、油戻し制御が行われるため、下流空間10e内の油は、主管路4aを通して膨張機14内に作動媒体とともに流れる。したがって、熱エネルギー回収装置が複雑化することが回避される。
【0084】
また第1実施形態では、膨張機14内において、主管路4aの接続口である流入口34c及び流入路44に連通し且つ流入路44よりも下側に位置する油溜り46が設けられている。このため、部分負荷運転となってから膨張機14の給油箇所が給油不足となるまでの時間を延ばすことができる。
【0085】
また第1実施形態では、膨張機14内の流入路44が、流入口34cから供給ポート33bに向かって膨張機14の軸方向に沿って設けられている。このため、流入口34cから供給ポート33bへ向かう作動媒体の流れに対して、油溜り46に溜まった油を随伴させやすくすることができる。
【0086】
また第1実施形態では、膨張機14における供給ポート33bよりも上流側における油の溜まり具合を油検知器57によって直接的に検知することができる。このため、例えば蒸発器10における熱負荷が低い場合等において、ポンプ8の回転数を上げる期間を必要最小限に抑えることができる。
【0087】
また第1実施形態では、供給ポート33bに連通する給油箇所が排出ポート33cにも連通しており、しかも、給油箇所の圧力は、供給ポート33bでの圧力と排出ポート33cでの圧力との間の圧力(中間圧力)となっている。このため、供給ポート33bを通過した油が圧力差によって給油箇所に流れる。すなわち、給油箇所に油を供給する内部給油経路が膨張機14内部に形成される。このため、給油箇所が供給ポート33bよりも下流側に位置する場合において、油溜り46に溜まっている油を当該油溜り46から外部へ抜き出して膨張機14の給油箇所に給油するための外部給油配管を備えていなくても、当該給油個所に給油することができる。したがって、膨張機14内において配管接続部の数を減らすことができ、油漏れに対する信頼性を向上することができる。
【0088】
また第1実施形態では、給油箇所としての軸受48,53が設けられていて、圧力差によって供給ポート33bから軸受48,53に油が流れる構成となっている。したがって、軸受48,53への給油不足を防ぐことができるので、膨張機14の信頼性を向上することができる。
【0089】
また、油戻し制御を行うことにより、油が膨張機14へ戻らない状況を抑制することができるため、軸受潤滑後の油の流れる油流通路55が油封されなくなる状況を抑制できる。この結果、油流通路55を通じて作動媒体のショートパス(バイパス)が生じることを防ぐことができる。したがって、熱エネルギー回収効率が低下することを抑制することができる。
【0090】
エンジン付き車両におけるエンジン負荷が変動することによって、蒸発器10の熱交換部10bにおける一次側流路10b1に流入する冷却水の温度及び流量の少なくとも一方が変動することによって、蒸発器10における熱負荷が変動する。この場合において、蒸発器10における熱負荷が低下して、油が膨張機14に戻らないような状態が起こり得る。しかしながら、第1実施形態では、制御器18は、油溜まり条件が成立すると油戻し制御を行うため、膨張機14内での給油箇所への給油不足が生じることを抑制することができる。
【0091】
なお、第1実施形態では、油検知器57が、蒸発器10の上部における油の溜まり具合を検知する構成であるが、この構成に限られない。油検知器57は、接続空間内での油溜まり具合を検知可能であれば、下流空間10eに配置されていなくてもよい。ここで、接続空間とは、蒸発器10の熱交換部10bよりも下流側に設けられた蒸発器10内の下流空間10eと、膨張機14の供給ポート33bの上流側に位置する流入路44と、下流空間10e及び流入路44に連通するように蒸発器10及び膨張機14を接続する主管路4aと、膨張機14内において主管路4aの接続口(流入口34c)及び流入路44に連通すると共に、流入路44よりも下方に位置する油溜り46と、を含む空間をいう。したがって、油検知器57は、下流空間10eに配置されるのではなく、図3に示すように、第1空間S1の下部である油溜り46での油の溜まり具合を検知する構成であってもよい。油検知器57は、油面の下限値として設定された位置に配置された検知端と、それよりも上側に配置された検知端とを有する。この場合、油溜まり条件として、油検知器57により油面が下限値に達したことが検出されたことが設定されている。このため、油検知器57によって油面の下限値が検知されると油戻し制御が実行される。そして、上側の検知端によって油面が検知されると、油戻し制御から熱負荷制御に切り換えられる。この構成では、膨張機14内の油溜り46における油の溜まり具合に基づいて油戻し制御を行うので、膨張機14内における給油箇所への給油不足をより確実に防ぐことができる。なお、油検知器57は、油面の下限値を検知する検知端のみを備え、油戻し制御は、予め設定された所定時間だけ行うようにしてもよい。
【0092】
また、図4に示すように、油検知器57は、下流空間10eではなく、主管路4aに配置されていてもよい。熱エネルギー回収装置1の設置環境によっては、循環流路4を構成する配管を単純な環状の構成にすることができない場合もある。例えば、蒸発器10と膨張機14とを接続する主管路4aが、蒸発器の上部から上方に延びる立ち上がり部4bと、立ち上がり部4bの上端から下方に曲がるとともにU字状に折れ曲がったU字状部4cと、U字状部4cの一方の上端と膨張機14とを接続する接続部4dとを有する場合もあり得る。この場合、U字状部4cにおける曲がり部に油が溜まることがあり得るため、U字状部4cに油検知器57が設けられる。油検知器57がU字状部4cに溜まった油を検知すると、油戻し制御が実行される。
【0093】
第1実施形態では、膨張機14内において流入路44の下方に油溜り46が形成された構成となっているが、図5に示すように、油溜り46は形成されていなくてもよい。この場合、ケーシング25の蓋部34は、ロータ保持部33及び第1軸受保持部42を結合する構成となる。蓋部34は、下端部が第1軸受保持部42の上部に結合された底部34aと、底部34a上端及び側端からスクリュロータ32の軸方向に延び、ロータ保持部33に結合された胴部34bと、を有する。そして、蓋部34と軸受保持部42の上部との間には、流入路44が形成されている。流入路44は、スクリュロータ32の軸方向に延びるように形成されてもよい。流入口34cは、蓋部34の底部34aに形成されている。
【0094】
油流通路55は、第1軸受保持部42及びロータ保持部33の中を通り抜けるように第1軸受保持部42からロータ保持部33に亘って設けられている。
【0095】
第1実施形態では、下流空間10e内に溜まった油が主管路4aを流れる作動媒体によって運ばれる構成である。これに追加して、図6に示す形態では、油戻し管路58が設けられている。
【0096】
油戻し管路58は、下流空間10eにおける主管路4aの接続部よりも下側に接続された第1端部と、膨張機14の流入路44に接続された第2端部とを有する。油戻し管路58は、主管路4aよりも細い管路で構成されている。油戻し管路58の第1端部は、下流側ヘッダ10cと主管路4aとの接続部よりも下側において下流側ヘッダ10cと接続されている。油面が第1端部よりも上側になるように下流空間10e内に油が溜まっている場合、下流空間10e内に溜まった油を、油戻し管路58を通して膨張機14の第1空間S1内に戻すことができる。油戻し管路58は主管路4aよりも細い管路となっているため、主管路4a内の作動媒体の流速よりも油戻し管路58内の作動媒体の流速の方が大きい。したがって、油戻し管路58内では油が作動媒体に随伴されやすい。
【0097】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態を示す。尚、ここでは第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0098】
図1図5に示す形態では、油検知器57(図1図5には図示せず)が設けられている。これに対し、第2実施形態に係る熱エネルギー回収装置1は、油の溜まり具合を検知する油検知器57を有するのではなく、蒸発器10の熱負荷状態を検知する検知手段を備えている。そして、油戻し制御は、油溜まり条件の成立を基準とするのではなく、蒸発器10における所定以下の低負荷に関する予め設定された低負荷条件の成立を条件とする。この低負荷条件は、蒸発器10において加熱媒体から与えられる熱負荷が低下した状態(部分負荷の状態)がある程度の時間継続した場合に蒸発器10から膨張機14に油が戻り難くなることを想定して設定された条件である。
【0099】
第2実施形態では、蒸発器10の熱負荷を直接的に検知する熱負荷状態検知手段としての温度検知器60が、加熱媒体流路20に設けられている。そして、この温度検知器60によって検知された加熱媒体の温度が予め設定された閾値よりも低い状態が、予め設定された時間以上継続した場合に、低負荷条件が成立する。
【0100】
すなわち、制御器18は、図8に示すように、温度検知器60による検知温度Tが基準温度Ts以下であるかどうかを判断する(ステップST1)。検知温度Tが基準温度Tsよりも高い場合、ステップST1を繰り返す。基準温度Tsは、通常運転時に、加熱媒体流路20を流れる加熱媒体の温度が変わる範囲における上限値よりも低い温度である。加熱媒体の温度が基準温度Ts以下のときに、油が溜まりやすくなることを予め確認しておくことによって、基準温度Tsを決めることができる。
【0101】
検知温度Tが基準温度Ts以下になると、ステップST2に進む。ステップST2において、制御器18内の計時手段としてのタイマーが計時を開始する。そして、タイマーによるカウントが所定時間経過するまでは(ステップST3)、ステップST4に移り、温度検知器60による検知温度Tが基準温度Ts以下であるかどうかを判断する。検知温度Tが基準温度Tsよりも高くなれば、リターンしてステップST1に戻り、検知温度Tが基準温度Ts以下の状態が継続していれば、タイマーによるカウントを継続する。そして、タイマーによる計時が所定時間継続すると、ステップST5に移り、制御器18は、熱負荷制御を油戻し制御に切り替える。
【0102】
このように、蒸発器10の熱負荷を検知する構成とすれば、油の溜り具合を検知しなくても、熱負荷制御から油戻し制御に切り替えることができる。このため、油の溜まる個所において油面が大きく波打つことがある場合でも、比較的シンプルな構成(検知器とソフトウェア)で確実に油戻し制御に切り換えることができる。
【0103】
なお、熱負荷状態検知手段は、加熱媒体の温度を検知する温度検知器60に限られるものではなく、加熱媒体の流量を検知する図略の流量検知器によって構成されていてもよい。この場合、流量検知器によって検知された加熱媒体の流量が予め設定された基準流量よりも低い状態が予め設定された時間以上経過したときに、低負荷条件が成立する。
【0104】
また、熱負荷状態検知手段は、蒸発器10の熱負荷を直接的に検知する検知器に限られるものではなく、蒸発器10の熱負荷を間接的に検知する検知器によって構成されていてもよい。例えば、図9に示すように、ポンプ8の回転数を検知する回転数検知器62が熱負荷状態検知手段として設けられていてもよい。この場合、回転数検知器62によって検知されたポンプ回転数が予め設定された基準回転数よりも低い状態が予め設定された時間以上経過したときに、低負荷条件が成立する。
【0105】
第2実施形態の場合でも、図5に示す膨張機14のように、油溜り46のない膨張機14が用いられてもよく、あるいは、図6に示す油戻し管路58が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0106】
4 循環流路
4a 主管路
6 凝縮器
8 ポンプ
10 蒸発器
10a 上流側ヘッダ
10b 熱交換部
10b1 一次側流路
10b2 二次側流路
10c 下流側ヘッダ
10d 上流空間
10e 下流空間
14 膨張機
18 制御器
32 スクリュロータ
32a 第1回転軸
32b 第2回転軸
33b 供給ポート
33c 排出ポート
44 流入路
46 油溜り
48 第1軸受
53 第2軸受
57 油検知器
58 油戻し管路
60 温度検知器(熱負荷状態検知手段の一例)
62 回転数検知器(熱負荷状態検知手段の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9