【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0020】
図1は、本発明の一実施例であるはすば歯車装置10を説明する概略正面図で、噛み合い部E1、E2の拡大図を併せて示した図である。このはすば歯車装置10は、車両用動力伝達装置等に用いられるもので、第1軸線C1まわりに回転可能に配設された第1はすば歯車12と、第1軸線C1と平行な第2軸線C2まわりに回転可能に配設された第2はすば歯車14と、第1軸線C1と平行な第3軸線C3まわりに回転可能に配設された第3はすば歯車16とを備えており、第2はすば歯車14は第1はすば歯車12および第3はすば歯車16の両方と噛み合わされている。これ等のはすば歯車12、14、16は、何れも軸線まわりに捩じれた噛み合い歯18、20、22を外周部に備えている外歯のはすば歯車で、それ等の噛み合い歯18、20、22が互いに噛み合わされて回転を伝達する。また、第1軸線C1〜第3軸線C3は、例えばケース等によって一定の位置に定められるが、ダブルピニオン型の遊星歯車装置のように第1軸線C1がサンギヤの中心軸線で、その第1軸線C1まわりに回転可能に配設されるキャリアに第2軸線C2および第3軸線C3が設定されても良い。すなわち、第1はすば歯車12がサンギヤで、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16が、それぞれキャリアに配設された第1ピニオンおよび第2ピニオンであっても良い。
【0021】
第1はすば歯車12は、第1軸線C1と同軸に配設された入力軸24にスプライン等を介して相対回転不能に連結されており、入力軸24を介して回転動力が伝達されて、入力軸24と一体的に第1軸線C1まわりに回転駆動される。第3はすば歯車16は、第3軸線C3と同軸に配設された出力軸26にスプライン等を介して相対回転不能に連結されており、出力軸26と一体的に第3軸線C3まわりに回転させられて、その出力軸26を介して回転動力を出力する。すなわち、入力軸24から第1はすば歯車12に伝達された回転は、第2はすば歯車14を介して第3はすば歯車16に伝達され、更に第3はすば歯車16から出力軸26に出力される。例えば第1はすば歯車12が矢印Aで示すように右まわりに回転駆動されると、第2はすば歯車14は矢印Bで示すように左まわりに回転させられ、第3はすば歯車16は矢印Cで示すように右まわりに回転させられる。
【0022】
第2はすば歯車14の回転中心には挿通孔30が設けられており、第2はすば歯車14は、挿通孔30内を挿通させられた支持軸32により転がり軸受34を介して第2軸線C2まわりに回転自在に支持されている。
図2は第2はすば歯車14の側面図で、第1はすば歯車12および第3はすば歯車16の噛み合い歯18、22の断面を併せて示した図であり、
図3は
図2の第2はすば歯車14の軸線方向の断面図である。これ等の図において、支持軸32には、第2はすば歯車14の軸方向に隣接して第4はすば歯車38が一体的に固設されており、それ等の第2はすば歯車14と第4はすば歯車38との間には、両者の相対回転抵抗を低減するためにスラストワッシャ36が介在させられている。第4はすば歯車38は第2はすば歯車14よりも小径であり、スラストワッシャ36の外径は、第4はすば歯車38の外径よりも僅かに大きい寸法で第2はすば歯車14の外径よりも十分に小さい。
【0023】
第2はすば歯車14は、外周部に噛み合い歯20を有する円板部40と、円板部40の内周側に回転中心(第2軸線C2と同じ)と同心に一体に設けられた円筒部42とを備えており、その円筒部42の内周面が挿通孔30で、その挿通孔30と支持軸32の外周面との間の環状空間に転がり軸受34が配設されている。円筒部42の外径は前記スラストワッシャ36の外径と略同じで、円筒部42の内径すなわち挿通孔30の径寸法は、第4はすば歯車38の外径と略同じである。転がり軸受34は、円筒状の内輪44、多数のころ46、および保持器48等を備えており、内輪44は支持軸32に嵌合されている。この転がり軸受34は、例えばころ46として針状ころが用いられる針状ころ軸受(ニードル軸受)で、径方向に所定のクリアランス(遊び)を有する。
【0024】
ここで、前記第1軸線C1、第2軸線C2、および第3軸線C3の位置関係は、
図1に示す軸線方向から見た正面視において、第1軸線C1と第2軸線C2とを結ぶ直線である第1中心線Lc1と、第2軸線C2と第3軸線C3とを結ぶ直線である第2中心線Lc2とが、第2軸線C2を頂点として60°〜150°の範囲内(実施例では約90°)の角度で折れ曲がり、且つ第2軸線C2を頂点とする内角側(
図1における左側の角度範囲)において第2はすば歯車14の回転方向の下流側に第3軸線C3が位置するように定められている。この場合、第1はすば歯車12から第2はすば歯車14を介して第3はすば歯車16へ動力が伝達される動力伝達時には、第3はすば歯車16の回転抵抗に基づいて、第1はすば歯車12と第2はすば歯車14との噛み合い部E1では、第1はすば歯車12から第2はすば歯車14に対して噛み合い荷重F1が加えられ、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との噛み合い部E2では、第3はすば歯車16から第2はすば歯車14に対して噛み合い反力F2が加えられる。これ等の噛み合い荷重F1および噛み合い反力F2により、第2はすば歯車14には、それ等の合力である芯ずれ力Faが作用し、その芯ずれ力Faに基づいて第2はすば歯車14は転がり軸受34の径方向クリアランス分だけ第3はすば歯車16に対して接近させられる可能性がある。なお、これ等の噛み合い荷重F1および噛み合い反力F2により、第2はすば歯車14には
図2における右まわり方向のモーメントが作用するが、転がり軸受34により受け止められて転がり性能が適切に維持されるとともに、軸方向成分は互いに相殺されてスラストワッシャ36に過大なスラスト荷重が加えられる恐れはない。
【0025】
一方、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との噛み合い部E2では、
図4に示すように、第2はすば歯車14のピッチ円P2および第3はすば歯車16のピッチ円P3が互いに接する基準噛み合い状態において、所定の頂げきd1を有する。
図4には、第2はすば歯車14の歯先と第3はすば歯車16の歯底との間の頂げきd1が示されているが、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16の噛み合い歯20、22の断面形状は同じであり、第2はすば歯車14の歯底と第3はすば歯車16の歯先との間の頂げきも同じ大きさである。そして、この頂げきd1は、基準噛み合い状態におけるバックラッシ50の径方向隙間d2よりも小さい寸法に定められている。バックラッシ50のの径方向隙間d2は、
図4に示す基準噛み合い状態から、
図5に示すようにバックラッシ50が0になるまで両はすば歯車14、16を第2中心線Lc2に沿って接近させた場合の接近距離で、その時のピッチ円P2、P3の重なり寸法と一致する。
図5は、第2はすば歯車14の歯先と第3はすば歯車16の歯底との干渉を無視して、バックラッシ50が0になるまで両者を接近させたと仮定した場合の図である。このように頂げきd1がバックラッシ50の径方向隙間d2よりも小さくされると、前記芯ずれ力Faに従って第2はすば歯車14が第3はすば歯車16に接近させられても、
図6に示すようにバックラッシ50が0になる前に頂げきd1が0になり、それ以上の接近が阻止されてバックラッシ50が0になる噛み合い干渉が防止される。
【0026】
すなわち、噛み合い干渉が発生すると、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16の噛み合い歯20、22の歯面の接触(食い込み)による摺動抵抗やこじりによって回転抵抗が大きくなり、伝達効率が著しく損なわれる。また、噛み合い反力F2が小さくなるため、第1はすば歯車12との噛み合い荷重F1の軸方向成分により第2はすば歯車14に偏荷重が作用して耐久性が損なわれる恐れがある。
図9および
図10は、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との間の頂げきd1がバックラッシ50の径方向隙間d2よりも大きい従来のはすば歯車装置100に関するもので、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との噛み合い干渉により噛み合い反力F2が略0になると、その噛み合い干渉部位を支点として第1はすば歯車12との噛み合い部E1に噛み合い荷重F1が作用することにより、その噛み合い荷重F1の軸方向成分F1sが、第2はすば歯車14の軸方向に隣接して配設されたスラストワッシャ36との径寸法の差に応じて倍力されて、そのスラストワッシャ36に過大なスラスト荷重F1s*が加えられ、早期に摩耗したり損傷したりする恐れがある。特に、第2はすば歯車14の円筒部42の外径およびスラストワッシャ36の外径が第4はすば歯車38の外径よりも大きく、第4はすば歯車38から外周側へ突き出しているとともに、円筒部42の内径が第4はすば歯車38の外径と略同じである場合、過大なスラスト荷重F1s*によってスラストワッシャ36が変形する可能性がある。
【0027】
また、第2はすば歯車14は、噛み合い荷重F1および噛み合い反力F2によるモーメントにより、転がり軸受34の径方向クリアランスの範囲で
図7に矢印Dで示すように回転し、第2軸線C2に対して傾斜する可能性がある。このように第2はすば歯車14が傾斜すると、第2はすば歯車14の歯溝(または噛み合い歯20)に対して第3はすば歯車16の噛み合い歯22(または歯溝)が傾斜させられ、バックラッシ50が0になる噛み合い干渉が生じ易くなる。第3はすば歯車16の歯幅が第2はすば歯車14の歯幅よりも小さい本実施例では、噛み合い歯22の両端のエッジ22a、22bが第2はすば歯車14の噛み合い歯20の歯面に食い込み易くなる。第2はすば歯車14の歯幅が第3はすば歯車16の歯幅よりも小さい場合は、第2はすば歯車14の噛み合い歯20の両端のエッジが第3はすば歯車16の噛み合い歯22の歯面に食い込み易くなる。前記
図9の従来のはすば歯車装置100において、第2はすば歯車14が傾斜した状態で第3はすば歯車16との間で噛み合い干渉が生じると、エッジ22a、22bが第2はすば歯車14の噛み合い歯20の歯面に食い込むことにより第2はすば歯車14の軸方向の逃げが阻止され、過大なスラスト荷重F1s*がスラストワッシャ36に一層確実に加えられる。これに対し、本実施例では、前記頂げきd1が、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16とが接近させられて頂げきd1が0となり、且つ
図7に示すように転がり軸受34の径方向クリアランスに起因して第2はすば歯車14が第2軸線C2に対して傾斜させられた状態でも、バックラッシ50が0になる噛み合い干渉が発生しないように定められており、第2はすば歯車14の芯ずれや傾斜に拘らず噛み合い干渉が適切に防止される。
【0028】
このように本実施例のはすば歯車装置10においては、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16の基準噛み合い状態における頂げきd1が、基準噛み合い状態におけるバックラッシ50の径方向隙間d2よりも小さいため、第2はすば歯車14と支持軸32との間の遊び(転がり軸受34の径方向クリアランス)による第2はすば歯車14の芯ずれに拘らず、頂げきd1が0になることでバックラッシ50が0になる噛み合い干渉が抑制される。これにより、噛み合い干渉を抑制しつつバックラッシ50を小さくできるとともに、その噛み合い干渉に起因する伝達効率の悪化や、第1はすば歯車12との間の噛み合い荷重F1の軸方向成分F1sによって生じる偏荷重による摩耗等の耐久性の低下が抑制される。すなわち、
図9、
図10に示すd1>d2の従来のはすば歯車装置100において、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との間で噛み合い干渉が生じると、第2はすば歯車14の軸方向に隣接して配設されたスラストワッシャ36との径寸法の差に応じて、噛み合い荷重F1の軸方向成分F1sが倍力されて過大なスラスト荷重F1s*がスラストワッシャ36に加えられるとともに、第2はすば歯車14の円筒部42の外径が第4はすば歯車38の外径よりも大きく、且つ円筒部42の内径が第4はすば歯車38の外径と略同じであるため、過大なスラスト荷重F1s*によってスラストワッシャ36が損傷したり早期に摩耗したりする恐れがあるが、d1<d2とされて噛み合い干渉が抑制されることにより損傷や摩耗が適切に抑制される。
【0029】
また、頂げきd1が0となり且つ転がり軸受34の径方向クリアランスに起因して第2はすば歯車14が傾斜した状態でも噛み合い干渉が発生しないように、頂げきd1の大きさが設定されるため、第2はすば歯車14の芯ずれだけでなく第2軸線C2に対して傾斜した場合でも、第3はすば歯車16との噛み合い干渉が適切に防止されて伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【0030】
また、第1はすば歯車12、第2はすば歯車14、および第3はすば歯車16が何れも外歯のはすば歯車で、第1軸線C1〜第3軸線C3の位置関係が、軸線方向から見た正面視において、第2軸線C2を頂点として60°〜150°の範囲内の角度で折れ曲がり、且つ第2はすば歯車14の回転方向の下流側に第3軸線C3が位置するように定められているため、第1はすば歯車12から第2はすば歯車14に加えられる噛み合い荷重F1と、第3はすば歯車16から第2はすば歯車14に加えられる噛み合い反力F2とにより、その第2はすば歯車14には第3はすば歯車16に対して接近する方向成分を有する芯ずれ力Faが作用し、第2はすば歯車14が第3はすば歯車16に対して接近する方向の芯ずれが生じ易くなるが、その芯ずれに拘らず頂げきd1が0になることで噛み合い干渉が防止され、伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【0031】
なお、上記実施例では第2はすば歯車14が転がり軸受34を介して支持軸32により第2軸線C2まわりに回転可能に支持されているが、
図8に示すように、第2はすば歯車14がスプライン嵌合部60を介して相対回転不能に支持軸32に連結され、支持軸32と共に第2軸線C2まわりに回転可能に支持されるようになっていても良い。すなわち、スプライン嵌合部60が、径方向に所定の遊びを有する状態で第2はすば歯車14と支持軸32とを連結している場合には、本発明が同様に適用され得る。
【0032】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。