特許第6815936号(P6815936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815936
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】はすば歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/08 20060101AFI20210107BHJP
   F16H 55/18 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   F16H1/08
   F16H55/18
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-112015(P2017-112015)
(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公開番号】特開2018-204730(P2018-204730A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】頼田 浩
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 岳嗣
(72)【発明者】
【氏名】塚本 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】荒川 一哉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−13055(JP,A)
【文献】 特開2008−162352(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/026643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/08
F16H 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線まわりに回転駆動される第1はすば歯車と、
前記第1軸線と平行な第3軸線まわりに回転可能に配設された第3はすば歯車と、
前記第1はすば歯車および前記第3はすば歯車の両方と噛み合わされるとともに、回転中心に挿通孔が設けられた第2はすば歯車と、
前記第1軸線と平行な第2軸線と同軸に配設されて、前記挿通孔内を径方向に所定の遊びを有する状態で挿通させられ、前記第2はすば歯車を該第2軸線まわりに回転可能に支持する支持軸と、
を有し、前記第1はすば歯車から前記第2はすば歯車を介して前記第3はすば歯車に回転を伝達するはすば歯車装置において、
前記第2はすば歯車および前記第3はすば歯車は、両者のピッチ円が互いに接する基準噛み合い状態で所定の頂げきを有するとともに、該頂げきは、該基準噛み合い状態におけるバックラッシの径方向隙間よりも小さい
ことを特徴とするはすば歯車装置。
【請求項2】
前記支持軸と前記挿通孔との間には転がり軸受が配設されており、前記第2はすば歯車は該転がり軸受を介して径方向に所定の遊びを有する状態で前記支持軸によって前記第2軸線まわりに回転自在に支持されている
ことを特徴とする請求項1に記載のはすば歯車装置。
【請求項3】
前記頂げきは、前記第2はすば歯車および前記第3はすば歯車が接近させられて該頂げきが0となり、且つ前記遊びに起因して該第2はすば歯車が前記第2軸線に対して傾斜した状態でも、該第2はすば歯車および該第3はすば歯車のバックラッシが0になる噛み合い干渉が発生しないように設定される
ことを特徴とする請求項1または2に記載のはすば歯車装置。
【請求項4】
前記第1はすば歯車、前記第2はすば歯車、および前記第3はすば歯車は何れも外歯のはすば歯車であり、
前記第1軸線、前記第2軸線、および前記第3軸線の位置関係は、軸線方向から見た正面視において、それ等の軸線を結ぶ中心線が該第2軸線を頂点として60°〜150°の範囲内の角度で折れ曲がり、且つ該第2軸線を頂点とする内角側において前記第2はすば歯車の回転方向の下流側に該第3軸線が位置するように定められている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のはすば歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明ははすば歯車装置に係り、特に、3つの第1はすば歯車、第2はすば歯車、および第3はすば歯車が直列に連結されたはすば歯車装置の耐久性や伝達効率を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 第1軸線まわりに回転駆動される第1はすば歯車と、(b) 前記第1軸線と平行な第3軸線まわりに回転可能に配設された第3はすば歯車と、(c) 前記第1はすば歯車および前記第3はすば歯車の両方と噛み合わされるとともに、回転中心に挿通孔が設けられた第2はすば歯車と、(d) 前記第1軸線と平行な第2軸線と同軸に配設されて前記挿通孔内を挿通させられ、前記第2はすば歯車をその第2軸線まわりに回転可能に支持する支持軸と、を有し、(e) 前記第1はすば歯車から前記第2はすば歯車を介して前記第3はすば歯車に回転を伝達するはすば歯車装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、遊星歯車装置46の第2ピニオンギヤ56が第1はすば歯車、第1ピニオンギヤ52が第2はすば歯車、サンギヤ48が第3はすば歯車に相当し、第2はすば歯車に相当する第1ピニオンギヤ52は支持軸である第1ピニオン軸62によりニードル軸受66を介して回転自在に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−13055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなはすば歯車装置においては、ニードル軸受の径方向のクリアランス(遊び)等によって第2はすば歯車が芯ずれし、第3はすば歯車に接近してバックラッシが0になる噛み合い干渉が生じる可能性があった。歯打ち音を抑えるためにバックラッシを小さく設定すると、噛み合い干渉が発生する可能性が高くなる。このように第3はすば歯車との間で噛み合い干渉が生じると、伝達効率が著しく悪化するとともに、第1はすば歯車との間の噛み合い荷重の軸方向成分により第2はすば歯車に偏荷重が作用し、摩耗等により各部の耐久性が損なわれる恐れがある。例えば、第2はすば歯車の軸方向に隣接して小径のスラストワッシャが設けられる場合、その径寸法の差に応じて噛み合い荷重の軸方向成分が倍力(増力)され、過大なスラスト荷重がスラストワッシャに加えられて早期に摩耗したり損傷したりする可能性がある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、第2はすば歯車の芯ずれによって第3はすば歯車との間で噛み合い干渉が発生し、伝達効率が悪化したり耐久性が損なわれたりすることを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 第1軸線まわりに回転駆動される第1はすば歯車と、(b) 前記第1軸線と平行な第3軸線まわりに回転可能に配設された第3はすば歯車と、(c) 前記第1はすば歯車および前記第3はすば歯車の両方と噛み合わされるとともに、回転中心に挿通孔が設けられた第2はすば歯車と、(d) 前記第1軸線と平行な第2軸線と同軸に配設されて、前記挿通孔内を径方向に所定の遊びを有する状態で挿通させられ、前記第2はすば歯車をその第2軸線まわりに回転可能に支持する支持軸と、を有し、(e) 前記第1はすば歯車から前記第2はすば歯車を介して前記第3はすば歯車に回転を伝達するはすば歯車装置において、(f) 前記第2はすば歯車および前記第3はすば歯車は、両者のピッチ円が互いに接する基準噛み合い状態で所定の頂げきを有するとともに、その頂げきは、基準噛み合い状態におけるバックラッシの径方向隙間よりも小さいことを特徴とする。
【0007】
上記頂げきは、第2はすば歯車および第3はすば歯車の一方の歯先曲面と他方の歯底曲面との間の中心線(line of centres ;第2軸線と第3軸線とを結ぶ直線)上の距離で、通常は一方および他方が反対でも同じ大きさである。両はすば歯車の歯たけが相違する場合は頂げきも相違するが、その場合は小さい方の頂げきを意味する。また、基準噛み合い状態におけるバックラッシの径方向隙間とは、基準噛み合い状態からバックラッシが0になるまで両はすば歯車を中心線に沿って接近させた場合の接近距離で、その時のピッチ円の重なり寸法と一致する。
【0008】
第2発明は、第1発明のはすば歯車装置において、前記支持軸と前記挿通孔との間には転がり軸受が配設されており、前記第2はすば歯車はその転がり軸受を介して径方向に所定の遊びを有する状態で前記支持軸によって前記第2軸線まわりに回転自在に支持されていることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明または第2発明のはすば歯車装置において、前記頂げきは、前記第2はすば歯車および前記第3はすば歯車が接近させられて頂げきが0となり、且つ前記遊びに起因して第2はすば歯車が前記第2軸線に対して傾斜した状態でも、第2はすば歯車および第3はすば歯車のバックラッシが0になる噛み合い干渉が発生しないように設定されることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかのはすば歯車装置において、(a) 前記第1はすば歯車、前記第2はすば歯車、および前記第3はすば歯車は何れも外歯のはすば歯車であり、(b) 前記第1軸線、前記第2軸線、および前記第3軸線の位置関係は、軸線方向から見た正面視において、それ等の軸線を結ぶ中心線が第2軸線を頂点として60°〜150°の範囲内の角度で折れ曲がり、且つ第2軸線を頂点とする内角側(角度が小さい側)において前記第2はすば歯車の回転方向の下流側に第3軸線が位置するように定められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このようなはすば歯車装置においては、第2はすば歯車および第3はすば歯車の基準噛み合い状態における頂げきが、基準噛み合い状態におけるバックラッシの径方向隙間よりも小さいため、第2はすば歯車と支持軸との間の遊びによる第2はすば歯車の芯ずれに拘らず、頂げきが0になることで両はすば歯車のバックラッシが0になる噛み合い干渉が抑制される。これにより、噛み合い干渉を抑制しつつバックラッシを小さくできるとともに、噛み合い干渉に起因する伝達効率の悪化や、第1はすば歯車との噛み合い荷重の軸方向成分によって生じる偏荷重による摩耗等の耐久性の低下が抑制される。
【0012】
第2発明は、支持軸と挿通孔との間に転がり軸受が配設されている場合で、その転がり軸受の径方向のクリアランスによって第2はすば歯車は支持軸に対して所定の遊びを有するが、頂げきがバックラッシの径方向隙間よりも小さくされることにより噛み合い干渉が抑制され、伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【0013】
第3発明では、頂げきが0となり且つ遊びに起因して第2はすば歯車が傾斜した状態でも噛み合い干渉が発生しないように、頂げきの大きさが設定されるため、第2はすば歯車の芯ずれだけでなく第2軸線に対して傾斜した場合でも、第3はすば歯車との噛み合い干渉が適切に防止されて伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【0014】
第4発明は、第1はすば歯車、第2はすば歯車、および第3はすば歯車が何れも外歯のはすば歯車で、第1軸線〜第3軸線の位置関係が、軸線方向から見た正面視において、第2軸線を頂点として60°〜150°の範囲内の角度で折れ曲がり、且つ第2はすば歯車の回転方向の下流側に第3軸線が位置するように定められているため、第1はすば歯車から第2はすば歯車に加えられる噛み合い荷重と、第3はすば歯車から第2はすば歯車に加えられる噛み合い反力とにより、その第2はすば歯車には第3はすば歯車に対して接近する方向成分を有する芯ずれ力が作用する。これにより、第2はすば歯車が第3はすば歯車に対して接近する方向の芯ずれが生じ易くなるが、その芯ずれに拘らず頂げきが0になることで噛み合い干渉が抑制され、伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例であるはすば歯車装置を説明する概略正面図で、噛み合い部E1、E2の拡大図を併せて示した図である。
図2図1の第2はすば歯車の側面図で、第1はすば歯車および第3はすば歯車の噛み合い歯(断面)を併せて示した図である。
図3図2の第2はすば歯車の軸線方向の断面図である。
図4図1のはすば歯車装置の第2はすば歯車と第3はすば歯車との噛み合い部E2の拡大図で、頂げきd1およびバックラッシの径方向隙間d2を説明する図である。
図5図4のバックラッシの径方向隙間d2を、ピッチ円P2、P3の重なり寸法として示した図である。
図6図4において、噛み合い回転時に第2はすば歯車の芯ずれで第3はすば歯車との間の頂げきd1が0となった状態を示した図である。
図7図2に対応する第2はすば歯車の側面図で、第2はすば歯車が遊びに起因して支持軸に対して傾斜させられた状態を説明する図である。
図8】第2はすば歯車が支持軸にスプライン嵌合されている場合を説明する正面図である。
図9】従来のはすば歯車装置の図2に対応する第2はすば歯車の側面図で、第3はすば歯車との間で噛み合い干渉が発生した場合を説明する図である。
図10図9に対応する軸線方向の断面図で、第1はすば歯車との間の噛み合い荷重の軸方向成分F1sが倍力されてスラストワッシャに加えられることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1はすば歯車は例えば入力軸と一体的に第1軸線まわりに回転させられ、第3はすば歯車は例えば出力軸と一体的に第3軸線まわりに回転させられるように、それ等の入力軸や出力軸にスプライン等を介して相対回転不能に連結されるが、更に別のはすば歯車と噛み合わされて回転が伝達され、或いは回転を伝達する場合でも良い。第2はすば歯車は、例えば転がり軸受を介して支持軸により第2軸線まわりに回転自在に支持されるが、軸受メタル等の滑り軸受を介して支持することもできるし、スプライン嵌合を介して相対回転不能に支持軸に連結し、支持軸と共に第2軸線まわりに回転可能に支持することもできるなど、径方向に所定の遊びを有する状態で支持する種々の支持態様が可能である。転がり軸受としては、例えば針状ころ軸受(ニードル軸受)やころ軸受が用いられるが、ボールベアリング等を用いることも可能である。
【0017】
第2はすば歯車と第3はすば歯車との間の頂げきは、その頂げきが0となり且つ第2はすば歯車が第2軸線に対して傾斜した状態でも、第2はすば歯車および第3はすば歯車のバックラッシが0になる噛み合い干渉が発生しないように設定することが望ましいが、少なくとも第2はすば歯車が第2軸線と平行な基準噛み合い状態においてバックラッシの径方向隙間よりも小さい寸法であれば良い。第1はすば歯車、第2はすば歯車、および第3はすば歯車が何れも外歯のはすば歯車である場合、第1軸線〜第3軸線の位置関係は、軸線方向から見た正面視において、それ等の軸線を結ぶ中心線が第2軸線を頂点として60°〜150°の範囲内の角度で折れ曲がり、且つ第2軸線を頂点とする内角側において第2はすば歯車の回転方向の下流側に第3軸線が位置するように定めることが望ましい。すなわち、第2軸線を頂点とする角度が60°未満になると第2はすば歯車に作用する芯ずれ力が小さくなり、第2軸線を頂点とする角度が150°を超えると芯ずれ力の方向が第3軸線に向かう方向から大きくずれるが、60°未満や150°超の場合でも第2はすば歯車が第3はすば歯車に対して接近する方向へ芯ずれする可能性があるため、本発明が同様に適用され得る。なお、第2はすば歯車の回転方向の下流側に第3軸線が位置する動力伝達状態が可能であれば、逆方向へ回転する動力伝達状態があっても差し支えない。
【0018】
第1はすば歯車、第2はすば歯車、および第3はすば歯車は、例えば何れも外歯のはすば歯車にて構成されるが、第1はすば歯車および第3はすば歯車の何れか一方が内歯のリングギヤであっても良い。また、第1軸線〜第3軸線は、例えばケース等によって一定の位置に定められるが、ダブルピニオン型の遊星歯車装置のように第1軸線がサンギヤ或いはリングギヤの中心軸線で、その第1軸線まわりに回転可能に配設されるキャリアに第2軸線および第3軸線が設定されても良い。同様に、第3軸線がサンギヤ或いはリングギヤの中心軸線で、その第3軸線まわりに回転可能に配設されるキャリアに第1軸線および第2軸線が設定されても良い。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0020】
図1は、本発明の一実施例であるはすば歯車装置10を説明する概略正面図で、噛み合い部E1、E2の拡大図を併せて示した図である。このはすば歯車装置10は、車両用動力伝達装置等に用いられるもので、第1軸線C1まわりに回転可能に配設された第1はすば歯車12と、第1軸線C1と平行な第2軸線C2まわりに回転可能に配設された第2はすば歯車14と、第1軸線C1と平行な第3軸線C3まわりに回転可能に配設された第3はすば歯車16とを備えており、第2はすば歯車14は第1はすば歯車12および第3はすば歯車16の両方と噛み合わされている。これ等のはすば歯車12、14、16は、何れも軸線まわりに捩じれた噛み合い歯18、20、22を外周部に備えている外歯のはすば歯車で、それ等の噛み合い歯18、20、22が互いに噛み合わされて回転を伝達する。また、第1軸線C1〜第3軸線C3は、例えばケース等によって一定の位置に定められるが、ダブルピニオン型の遊星歯車装置のように第1軸線C1がサンギヤの中心軸線で、その第1軸線C1まわりに回転可能に配設されるキャリアに第2軸線C2および第3軸線C3が設定されても良い。すなわち、第1はすば歯車12がサンギヤで、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16が、それぞれキャリアに配設された第1ピニオンおよび第2ピニオンであっても良い。
【0021】
第1はすば歯車12は、第1軸線C1と同軸に配設された入力軸24にスプライン等を介して相対回転不能に連結されており、入力軸24を介して回転動力が伝達されて、入力軸24と一体的に第1軸線C1まわりに回転駆動される。第3はすば歯車16は、第3軸線C3と同軸に配設された出力軸26にスプライン等を介して相対回転不能に連結されており、出力軸26と一体的に第3軸線C3まわりに回転させられて、その出力軸26を介して回転動力を出力する。すなわち、入力軸24から第1はすば歯車12に伝達された回転は、第2はすば歯車14を介して第3はすば歯車16に伝達され、更に第3はすば歯車16から出力軸26に出力される。例えば第1はすば歯車12が矢印Aで示すように右まわりに回転駆動されると、第2はすば歯車14は矢印Bで示すように左まわりに回転させられ、第3はすば歯車16は矢印Cで示すように右まわりに回転させられる。
【0022】
第2はすば歯車14の回転中心には挿通孔30が設けられており、第2はすば歯車14は、挿通孔30内を挿通させられた支持軸32により転がり軸受34を介して第2軸線C2まわりに回転自在に支持されている。図2は第2はすば歯車14の側面図で、第1はすば歯車12および第3はすば歯車16の噛み合い歯18、22の断面を併せて示した図であり、図3図2の第2はすば歯車14の軸線方向の断面図である。これ等の図において、支持軸32には、第2はすば歯車14の軸方向に隣接して第4はすば歯車38が一体的に固設されており、それ等の第2はすば歯車14と第4はすば歯車38との間には、両者の相対回転抵抗を低減するためにスラストワッシャ36が介在させられている。第4はすば歯車38は第2はすば歯車14よりも小径であり、スラストワッシャ36の外径は、第4はすば歯車38の外径よりも僅かに大きい寸法で第2はすば歯車14の外径よりも十分に小さい。
【0023】
第2はすば歯車14は、外周部に噛み合い歯20を有する円板部40と、円板部40の内周側に回転中心(第2軸線C2と同じ)と同心に一体に設けられた円筒部42とを備えており、その円筒部42の内周面が挿通孔30で、その挿通孔30と支持軸32の外周面との間の環状空間に転がり軸受34が配設されている。円筒部42の外径は前記スラストワッシャ36の外径と略同じで、円筒部42の内径すなわち挿通孔30の径寸法は、第4はすば歯車38の外径と略同じである。転がり軸受34は、円筒状の内輪44、多数のころ46、および保持器48等を備えており、内輪44は支持軸32に嵌合されている。この転がり軸受34は、例えばころ46として針状ころが用いられる針状ころ軸受(ニードル軸受)で、径方向に所定のクリアランス(遊び)を有する。
【0024】
ここで、前記第1軸線C1、第2軸線C2、および第3軸線C3の位置関係は、図1に示す軸線方向から見た正面視において、第1軸線C1と第2軸線C2とを結ぶ直線である第1中心線Lc1と、第2軸線C2と第3軸線C3とを結ぶ直線である第2中心線Lc2とが、第2軸線C2を頂点として60°〜150°の範囲内(実施例では約90°)の角度で折れ曲がり、且つ第2軸線C2を頂点とする内角側(図1における左側の角度範囲)において第2はすば歯車14の回転方向の下流側に第3軸線C3が位置するように定められている。この場合、第1はすば歯車12から第2はすば歯車14を介して第3はすば歯車16へ動力が伝達される動力伝達時には、第3はすば歯車16の回転抵抗に基づいて、第1はすば歯車12と第2はすば歯車14との噛み合い部E1では、第1はすば歯車12から第2はすば歯車14に対して噛み合い荷重F1が加えられ、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との噛み合い部E2では、第3はすば歯車16から第2はすば歯車14に対して噛み合い反力F2が加えられる。これ等の噛み合い荷重F1および噛み合い反力F2により、第2はすば歯車14には、それ等の合力である芯ずれ力Faが作用し、その芯ずれ力Faに基づいて第2はすば歯車14は転がり軸受34の径方向クリアランス分だけ第3はすば歯車16に対して接近させられる可能性がある。なお、これ等の噛み合い荷重F1および噛み合い反力F2により、第2はすば歯車14には図2における右まわり方向のモーメントが作用するが、転がり軸受34により受け止められて転がり性能が適切に維持されるとともに、軸方向成分は互いに相殺されてスラストワッシャ36に過大なスラスト荷重が加えられる恐れはない。
【0025】
一方、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との噛み合い部E2では、図4に示すように、第2はすば歯車14のピッチ円P2および第3はすば歯車16のピッチ円P3が互いに接する基準噛み合い状態において、所定の頂げきd1を有する。図4には、第2はすば歯車14の歯先と第3はすば歯車16の歯底との間の頂げきd1が示されているが、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16の噛み合い歯20、22の断面形状は同じであり、第2はすば歯車14の歯底と第3はすば歯車16の歯先との間の頂げきも同じ大きさである。そして、この頂げきd1は、基準噛み合い状態におけるバックラッシ50の径方向隙間d2よりも小さい寸法に定められている。バックラッシ50のの径方向隙間d2は、図4に示す基準噛み合い状態から、図5に示すようにバックラッシ50が0になるまで両はすば歯車14、16を第2中心線Lc2に沿って接近させた場合の接近距離で、その時のピッチ円P2、P3の重なり寸法と一致する。図5は、第2はすば歯車14の歯先と第3はすば歯車16の歯底との干渉を無視して、バックラッシ50が0になるまで両者を接近させたと仮定した場合の図である。このように頂げきd1がバックラッシ50の径方向隙間d2よりも小さくされると、前記芯ずれ力Faに従って第2はすば歯車14が第3はすば歯車16に接近させられても、図6に示すようにバックラッシ50が0になる前に頂げきd1が0になり、それ以上の接近が阻止されてバックラッシ50が0になる噛み合い干渉が防止される。
【0026】
すなわち、噛み合い干渉が発生すると、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16の噛み合い歯20、22の歯面の接触(食い込み)による摺動抵抗やこじりによって回転抵抗が大きくなり、伝達効率が著しく損なわれる。また、噛み合い反力F2が小さくなるため、第1はすば歯車12との噛み合い荷重F1の軸方向成分により第2はすば歯車14に偏荷重が作用して耐久性が損なわれる恐れがある。図9および図10は、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との間の頂げきd1がバックラッシ50の径方向隙間d2よりも大きい従来のはすば歯車装置100に関するもので、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との噛み合い干渉により噛み合い反力F2が略0になると、その噛み合い干渉部位を支点として第1はすば歯車12との噛み合い部E1に噛み合い荷重F1が作用することにより、その噛み合い荷重F1の軸方向成分F1sが、第2はすば歯車14の軸方向に隣接して配設されたスラストワッシャ36との径寸法の差に応じて倍力されて、そのスラストワッシャ36に過大なスラスト荷重F1s*が加えられ、早期に摩耗したり損傷したりする恐れがある。特に、第2はすば歯車14の円筒部42の外径およびスラストワッシャ36の外径が第4はすば歯車38の外径よりも大きく、第4はすば歯車38から外周側へ突き出しているとともに、円筒部42の内径が第4はすば歯車38の外径と略同じである場合、過大なスラスト荷重F1s*によってスラストワッシャ36が変形する可能性がある。
【0027】
また、第2はすば歯車14は、噛み合い荷重F1および噛み合い反力F2によるモーメントにより、転がり軸受34の径方向クリアランスの範囲で図7に矢印Dで示すように回転し、第2軸線C2に対して傾斜する可能性がある。このように第2はすば歯車14が傾斜すると、第2はすば歯車14の歯溝(または噛み合い歯20)に対して第3はすば歯車16の噛み合い歯22(または歯溝)が傾斜させられ、バックラッシ50が0になる噛み合い干渉が生じ易くなる。第3はすば歯車16の歯幅が第2はすば歯車14の歯幅よりも小さい本実施例では、噛み合い歯22の両端のエッジ22a、22bが第2はすば歯車14の噛み合い歯20の歯面に食い込み易くなる。第2はすば歯車14の歯幅が第3はすば歯車16の歯幅よりも小さい場合は、第2はすば歯車14の噛み合い歯20の両端のエッジが第3はすば歯車16の噛み合い歯22の歯面に食い込み易くなる。前記図9の従来のはすば歯車装置100において、第2はすば歯車14が傾斜した状態で第3はすば歯車16との間で噛み合い干渉が生じると、エッジ22a、22bが第2はすば歯車14の噛み合い歯20の歯面に食い込むことにより第2はすば歯車14の軸方向の逃げが阻止され、過大なスラスト荷重F1s*がスラストワッシャ36に一層確実に加えられる。これに対し、本実施例では、前記頂げきd1が、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16とが接近させられて頂げきd1が0となり、且つ図7に示すように転がり軸受34の径方向クリアランスに起因して第2はすば歯車14が第2軸線C2に対して傾斜させられた状態でも、バックラッシ50が0になる噛み合い干渉が発生しないように定められており、第2はすば歯車14の芯ずれや傾斜に拘らず噛み合い干渉が適切に防止される。
【0028】
このように本実施例のはすば歯車装置10においては、第2はすば歯車14および第3はすば歯車16の基準噛み合い状態における頂げきd1が、基準噛み合い状態におけるバックラッシ50の径方向隙間d2よりも小さいため、第2はすば歯車14と支持軸32との間の遊び(転がり軸受34の径方向クリアランス)による第2はすば歯車14の芯ずれに拘らず、頂げきd1が0になることでバックラッシ50が0になる噛み合い干渉が抑制される。これにより、噛み合い干渉を抑制しつつバックラッシ50を小さくできるとともに、その噛み合い干渉に起因する伝達効率の悪化や、第1はすば歯車12との間の噛み合い荷重F1の軸方向成分F1sによって生じる偏荷重による摩耗等の耐久性の低下が抑制される。すなわち、図9図10に示すd1>d2の従来のはすば歯車装置100において、第2はすば歯車14と第3はすば歯車16との間で噛み合い干渉が生じると、第2はすば歯車14の軸方向に隣接して配設されたスラストワッシャ36との径寸法の差に応じて、噛み合い荷重F1の軸方向成分F1sが倍力されて過大なスラスト荷重F1s*がスラストワッシャ36に加えられるとともに、第2はすば歯車14の円筒部42の外径が第4はすば歯車38の外径よりも大きく、且つ円筒部42の内径が第4はすば歯車38の外径と略同じであるため、過大なスラスト荷重F1s*によってスラストワッシャ36が損傷したり早期に摩耗したりする恐れがあるが、d1<d2とされて噛み合い干渉が抑制されることにより損傷や摩耗が適切に抑制される。
【0029】
また、頂げきd1が0となり且つ転がり軸受34の径方向クリアランスに起因して第2はすば歯車14が傾斜した状態でも噛み合い干渉が発生しないように、頂げきd1の大きさが設定されるため、第2はすば歯車14の芯ずれだけでなく第2軸線C2に対して傾斜した場合でも、第3はすば歯車16との噛み合い干渉が適切に防止されて伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【0030】
また、第1はすば歯車12、第2はすば歯車14、および第3はすば歯車16が何れも外歯のはすば歯車で、第1軸線C1〜第3軸線C3の位置関係が、軸線方向から見た正面視において、第2軸線C2を頂点として60°〜150°の範囲内の角度で折れ曲がり、且つ第2はすば歯車14の回転方向の下流側に第3軸線C3が位置するように定められているため、第1はすば歯車12から第2はすば歯車14に加えられる噛み合い荷重F1と、第3はすば歯車16から第2はすば歯車14に加えられる噛み合い反力F2とにより、その第2はすば歯車14には第3はすば歯車16に対して接近する方向成分を有する芯ずれ力Faが作用し、第2はすば歯車14が第3はすば歯車16に対して接近する方向の芯ずれが生じ易くなるが、その芯ずれに拘らず頂げきd1が0になることで噛み合い干渉が防止され、伝達効率の悪化や耐久性の低下が抑制される。
【0031】
なお、上記実施例では第2はすば歯車14が転がり軸受34を介して支持軸32により第2軸線C2まわりに回転可能に支持されているが、図8に示すように、第2はすば歯車14がスプライン嵌合部60を介して相対回転不能に支持軸32に連結され、支持軸32と共に第2軸線C2まわりに回転可能に支持されるようになっていても良い。すなわち、スプライン嵌合部60が、径方向に所定の遊びを有する状態で第2はすば歯車14と支持軸32とを連結している場合には、本発明が同様に適用され得る。
【0032】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0033】
10:はすば歯車装置 12:第1はすば歯車 14:第2はすば歯車 16:第3はすば歯車 30:挿通孔 32:支持軸 34:転がり軸受 50:バックラッシ C1:第1軸線 C2:第2軸線 C3:第3軸線 Lc1:第1中心線 Lc2:第2中心線 P2:第2はすば歯車のピッチ円 P3:第3はすば歯車のピッチ円 d1:頂げき d2:バックラッシの径方向隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10