特許第6816035号(P6816035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816035
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】自己注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20210107BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   A61M5/31 520
   A61M5/20 510
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-563228(P2017-563228)
(86)(22)【出願日】2016年6月2日
(65)【公表番号】特表2018-516695(P2018-516695A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】FR2016051314
(87)【国際公開番号】WO2016193624
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2019年5月17日
(31)【優先権主張番号】1555163
(32)【優先日】2015年6月5日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502343252
【氏名又は名称】アプター フランス エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒス オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】ソーセー アントニー
【審査官】 伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0141929(US,A1)
【文献】 特表2013−519475(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/101380(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/178512(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己注射器であって、
第1の流体を収容しピストン(P)を有する貯蔵器(S)を収容する本体(1)と、
前記貯蔵器(S)の前記ピストン(P)と協働するピストンロッド(5)と、
前記自己注射器を注射部位から離してもよいことをユーザーに通知するための視覚、聴
覚、及び/又は触覚を通じた通知装置とを備え、
前記ピストンロッド(5)は、注射バネ(8)によって、準備位置と、前記第1の流体を注射部位内へと注射するために前記ピストンロッド(5)が前記貯蔵器(S)の前記ピストン(P)を移動させる注射位置との間を移動可能であり、
前記自己注射器は、前記視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の駆動を注射の
終了に対して遅延させるための遅延システムを有し、
前記遅延システムは、
第2の流体を収容するダッシュポット(16)と、
前記ダッシュポット(16)内に配されたピストン(19)とを備え、
前記ダッシュポット(16)は、前記遅延システムの駆動中に前記本体(1)に対して静止し、前記ピストン(19)は、前記遅延システムの駆動中に前記本体(1)内を並進移動可能であり、
前記ピストン(19)の前記ダッシュポット(16)に対する前記並進移動は、前記第2の流体が前記ダッシュポット(16)から、少なくとも1つの流路(161;195)を通じて移送されることによって制動され、
前記遅延システムは、
前記第2の流体を収容する前記ダッシュポット(16)と、
前記ピストン(19)と、
前記ピストン(19)と、前記本体(1)とに固定された、前記注射バネ(8)とは異なる遅延バネ(18)と、
係止キー(20)と、
前記ピストンロッド(5)とを備え、
前記係止キー(20)は、
ヘッド(21)と、
長尺状のロッド(22)と、
終端部(23)とを備え、
前記遅延システムの始動前に、前記係止キー(20)の前記ヘッド(21)は遮断位置にあり、
前記遮断位置において、前記ヘッド(21)と前記ピストン(19)の凹部(190)は、前記ピストン(19)の並進移動が係止キー(20)によって妨げられるように協働し、
前記ピストンロッド(5)が注射終了位置に至ると、前記ピストンロッド(5)と前記終端部(23)は、前記ピストンロッド(5)が、前記係止キー(20)を前記遮断位置から軸方向下向きに引くように協働し、前記ピストン(19)はもはや並進移動を前記係止キー(20)によって妨げられない
ことを特徴とする自己注射器。
【請求項2】
前記遅延システムの駆動中、前記ダッシュポット(16)は、前記ダッシュポット(16)の少なくとも1つの可撓性タブ(168)と協働する本体(1)の第2円錐台状壁部又は傾斜壁部(108)によって並進移動を妨げられ、
前記遅延システムの駆動中、前記ピストン(19)は前記可撓性タブ(168)の径方向内向きへの変形を妨げる
請求項1に記載の自己注射器。
【請求項3】
前記遅延システムの駆動後、前記ピストン(19)は前記ダッシュポット(16)の前記少なくとも1つの可撓性タブ(168)に対して軸方向に移動し、前記可撓性タブ(168)はもはや径方向内向きへの変形を妨げられなくなり、前記ダッシュポット(16)はもはや前記本体(1)内での並進移動を妨げられない
請求項2に記載の自己注射器。
【請求項4】
前記少なくとも1つの流路(161)は、前記ダッシュポット(16)内の軸方向溝によって形成される
請求項1から請求項3までの何れかに記載の自己注射器。
【請求項5】
前記少なくとも1つの流路(195)は、前記ピストン(19)内の中央孔によって形成される
請求項1から請求項3までの何れかに記載の自己注射器。
【請求項6】
前記ピストン(19)は、可撓性タブ(199)を備え、
前記可撓性タブ(199)は、前記遅延システムの駆動前に、前記本体(1)の第1円錐台状壁又は傾斜壁(109)、及び前記係止キー(20)の前記ヘッド(21)と、前記ヘッド(21)の遮断位置において協働することによって径方向内向きへの変形を妨げられる
請求項1から請求項5までの何れかに記載の自己注射器。
【請求項7】
前記自己注射器は、ユーザーの体と接触する接触端部(101)を有するアクチュエータースリーブ(10)をさらに有し、
前記アクチュエータースリーブ(10)は、少なくとも一部が前記本体(1)内に延び、前記本体(1)に対し、前記アクチュエータースリーブ(10)の少なくとも一部が前記本体(1)から突出する複数の突出位置と、前記アクチュエータースリーブ(10)が前記本体(1)内へと軸方向に移動する駆動位置との間を移動可能であり、
前記アクチュエータースリーブ(10)は、前記自己注射器の駆動前には第1突出位置にあり、前記自己注射器の駆動後には第2突出位置にある
請求項1から請求項6までの何れかに記載の自己注射器。
【請求項8】
前記貯蔵器(S)は注射針(A)を備え、前記注射針(A)を通じて注射部位内に前記
第1の流体が注射される
請求項1から請求項7までの何れかに記載の自己注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
自己注射器は従来技術においてよく知られている。そうした注射器の目的は主に、シリンジの内容物を自動的に患者の体内に注射することである。患者の体内への注射針の穿刺及びシリンジに収容された流体の注射を自動的に行うための様々なシステムが存在している。自己注射器は比較的複雑な装置であり、信頼性を持つためには一定数の制約要件を満たさなければならない。注射器の頑強性、取扱い性、及びユーザビリティもまた重要な要素である。加えて、ほとんどの自己注射器が1回使用型であるため、製造及び組立にかかるコストも考慮に入れなければならない要素である。
【0003】
市場にはおびただしい数の自己注射器が存在しているが、それらはある一定数の欠点を有する。
【0004】
そのため、特に、流体の体積が比較的大きい場合、及び/又は注射される流体の粘度が比較的高い場合、注射後数秒の間流体を注射部位から拡散させるのが望ましい。ユーザーが注射の終了直後に自己注射器を体から離すと、流体がわずかにユーザーの体から漏出することがあるため、治療の有効性が減少する。したがって、注射終了後も数秒間はユーザーが自己注射器を体に押し当て続けるように規定を設けるのが望ましい。これは、既存の自己注射器では、ユーザーが一定の秒数を静かに数えてから装置を体から離すことを要求した取扱説明書を運用することで解決されるのが一般的である。この解決手法はユーザーに依存するが、ユーザーは注射の直後に状況次第で体調に変調をきたしたり衰弱したりすることもあるため、信頼性が低く不十分である。
【0005】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4は、先行技術に係る自己注射器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/178512号
【特許文献2】国際公開第2015/073740号
【特許文献3】国際公開第2011/101380号
【特許文献4】米国特許出願公開第2013/218093号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の欠点を持たず、自己注射器の安全性及び信頼性の高い使用に関する様々な主要な要件及び制約を満たすことを可能とする自己注射器を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、使用上の信頼性が高く、使用後に自己注射器を体から離さなければならないタイミング、又は体から離してもよいタイミングをユーザーが特定することを可能とし、安全であらゆる負傷のリスクを回避し、製造及び組立が容易且つ安価に行える自己注射器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって本発明は、自己注射器であって、第1の流体を収容しピストンを有する事前充填型シリンジなどである貯蔵器を収容する本体と、前記貯蔵器の前記ピストンと協働するのに適したピストンロッドと、前記自己注射器を注射部位から離してもよいことをユーザーに通知するための視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置とを備え、前記ピストンロッドは、注射バネによって、準備位置と、前記第1の流体を注射部位内へと注射するために前記ピストンロッドが前記貯蔵器の前記ピストンを移動させる注射位置との間を移動可能であり、前記自己注射器は、前記視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の駆動を注射の終了に対して遅延させるための遅延システムを有し、前記遅延システムは、第2の流体を収容する前記ダッシュポットと、前記ダッシュポット内に配されたピストンとを備え、前記ダッシュポットと前記ピストンのうち一方は前記遅延システムの駆動中に前記本体内を並進移動可能であり、前記ダッシュポットと前記ピストンのうち他方は前記遅延システムの駆動中に前記本体に対して静止し、前記一方の前記他方に対する前記並進移動は、前記第2の流体が前記ダッシュポットから、少なくとも1つの流路を通じて移送されることによって制動され、前記遅延システムは、前記第2の流体を収容する前記ダッシュポットと、前記ピストンと、第1に前記ピストン、第2に前記本体に固定された遅延バネと、係止キーと、前記ピストンロッドとを備える自己注射器を提供する。
【0010】
望ましい構成としては、前記遅延システムの駆動中、前記ピストンは前記本体内を並進移動可能であり、前記ダッシュポットは静止している。
【0011】
望ましい構成としては、前記遅延システムの駆動中、前記ダッシュポットは、前記ダッシュポットの少なくとも1つの可撓性タブと協働する本体の第2円錐台状壁部又は傾斜壁部によって並進移動を妨げられ、前記遅延システムの駆動中、前記ピストンは前記可撓性タブの径方向内向きへの変形を妨げる。
【0012】
望ましい構成としては、前記遅延システムの駆動後、前記ピストンは前記ダッシュポットの前記少なくとも1つの可撓性タブに対して軸方向に移動し、前記可撓性タブはもはや径方向内向きへの変形を妨げられなくなり、前記ダッシュポットはもはや前記本体内での並進移動を妨げられない。
【0013】
望ましい構成としては、前記少なくとも1つの流路は、前記ダッシュポット内の軸方向溝によって形成される。
【0014】
望ましい構成としては、前記少なくとも1つの流路は、前記ピストン内の中央孔によって形成される。
【0015】
望ましい構成としては、前記係止キーは、ヘッドと、長尺状のロッドと、前記ピストンロッドと協働する終端部とを備え、前記遅延システムの始動前に、前記係止キーの前記ヘッドは遮断位置にあり、前記遮断位置において、前記ヘッドは前記ピストンの凹部と協働する。
【0016】
望ましい構成としては、前記ピストンロッドが注射終了位置に至ると、前記ピストンロッドが前記係止キーの前記終端部と協働して前記係止キーを前記遮断位置から軸方向下向きに引くため、前記ピストンはもはや並進移動を前記係止キーによって妨げられない。
【0017】
望ましい構成としては、前記ピストンは、可撓性タブを備え、前記可撓性タブは、前記遅延システムの駆動前に、前記本体の第1円錐台状壁又は傾斜壁、及び前記係止キーの前記ヘッドと、前記ヘッドの遮断位置において協働することによって径方向内向きへの変形を妨げられる。
【0018】
望ましい構成としては、前記自己注射器は、ユーザーの体と接触する接触端部を有するアクチュエータースリーブをさらに有し、前記アクチュエータースリーブは、少なくとも一部が前記本体内に延び、前記本体に対し、前記アクチュエータースリーブの少なくとも一部が前記本体から突出する複数の突出位置と、前記アクチュエータースリーブが前記本体内へと軸方向に移動する駆動位置との間を移動可能であり、前記アクチュエータースリーブは、前記自己注射器の駆動前には第1突出位置にあり、前記自己注射器の駆動後には第2突出位置にある。
【0019】
望ましい構成としては、前記貯蔵器は注射針を備え、前記注射針を通じて注射部位内に前記第1の流体が注射される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の特徴や利点等は、非限定的な例に基づき以下に示す詳細な説明及び添付図面を参照することにより、さらに明確となる。
図1】(a)は、望ましい実施形態を構成する自己注射器の、穿刺前の休止位置における模式側面図であり、(b)及び(c)は(a)に類似した図であり、それぞれ2つの異なる断面における断面図である。
図2】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ、図1(a)、図1(b)、及び図1(c)に類似した図であり、穿刺後であって注射開始前の位置における様子を示す。
図3】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ、図2(a)、図2(b)、及び図2(c)に類似した図であり、注射終了直前の位置であって遅延システムが始動する時点における様子を示す。
図4】(a)及び(b)はそれぞれ、図3(a)及び図3(c)に類似した図であり、遅延システムの駆動開始時における様子を示す。
図5】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ、図3(a)、図3(b)、及び図3(c)に類似した図であり、遅延システムの駆動終了時における様子を示す。
図6】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ図3(a)、図3(b)、及び図3(c)に類似した図であり、通知装置の駆動終了時であって自己注射器が注射部位から離される前における様子を示す。
図7図6(a)に類似した図であり、使用終了位置であって自己注射器が注射部位から離された後における様子を示す。
図8図1図7の実施形態における遅延システムの分解斜視図である。
図9図8の遅延システムの断面における部分斜視図であり、流体ダッシュポットとピストンによって形成されるユニットの、遅延システムの駆動前における様子を示す。
図10図8の遅延システムの断面における部分斜視図であり、流体ダッシュポットとピストンによって形成されるユニットの、遅延システムの駆動中における様子を示す。
図11】遅延システムの駆動後の、流体ダッシュポットとピストンによって形成されるユニットの詳細斜視図であり、ダッシュポットの変形可能タブの変形前における様子を示す。
図12】遅延システムの駆動後の、流体ダッシュポットとピストンによって形成されるユニットの詳細斜視図であり、ダッシュポットの変形可能タブの変形後における様子を示す。
図13図11に類似した詳細断面図であり、ダッシュポットの変形可能タブの変形前における様子を示す。
図14図12に類似した詳細断面図であり、ダッシュポットの変形可能タブの変形後における様子を示す。
図15図14の断面A−Aにおける模式的な水平断面図である。
図16図8の遅延システムの詳細を示す切欠斜視図であり、遅延システムの駆動前における様子を示す。
図17図8の遅延システムの詳細を示す切欠斜視図であり、遅延システムの駆動後における様子を示す。
図18図8の遅延システムの詳細を示す切欠斜視図であり、遅延システムの駆動終了時における様子を示す。
図19図16図17、及び図18に類似した図であり、通知装置の駆動終了時における様子を示す。
図20】(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の望ましい実施形態を構成する自己注射器の、穿刺前の休止位置における模式側面図及び模式断面図である。
図21】(a)及び(b)はそれぞれ、図20(a)及び図20(b)に類似した図であり、穿刺後であって注射開始前の位置における様子を示す。
図22】(a)及び(b)はそれぞれ、図21(a)及び図21(b)に類似した図であり、注射終了直前の位置であって遅延システムが始動する時点における様子を示す。
図23】(a)及び(b)はそれぞれ、図22(a)及び図22(b)に類似した図であり、遅延システムの駆動開始時における様子を示す。
図24】(a)及び(b)はそれぞれ、図23(a)及び図23(b)に類似した図であり、遅延システムの駆動終了時における様子を示し、(c)は(b)に類似した、異なる断面における図である。
図25】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ図24(a)、図24(b)、及び図24(c)に類似した図であり、通知装置の駆動終了時であって自己注射器が注射部位から離される前における様子を示す。
図26図25(a)に類似した図であり、使用終了位置であって自己注射器が注射部位から離された後における様子を示す。
図27図20図26の実施形態における遅延システムの分解斜視図である。
図28図27の遅延システムの断面における部分斜視図であり、流体ダッシュポット、ピストン、係止キー、及びバネによって形成される部分組立品の、遅延システムの駆動開始時における様子を示す。
図29図27の遅延システムの断面における部分斜視図であり、流体ダッシュポット、ピストン、係止キー、及びバネによって形成される部分組立品の、遅延システムの駆動中における様子を示す。
図30図27の遅延システムの断面における部分斜視図であり、流体ダッシュポット、ピストン、係止キー、及びバネによって形成される部分組立品の、遅延システムの駆動終了時における様子を示す。
図31図27の遅延システムの詳細を示す切欠斜視図であり、遅延システムの駆動前における様子を示す。
図32図27の遅延システムの詳細を示す切欠斜視図であり、遅延システムの駆動後における様子を示す。
図33図27の遅延システムの詳細を示す切欠斜視図であり、遅延システムの駆動終了時における様子を示す。
図34図31図32、及び図33に類似した図であり、通知装置の駆動終了時における様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明においては、「上部」、「下部」、「高」、及び「低」という用語は図1(a)〜図7図17図18、及び図20(a)〜図26に示された位置を示す。「軸方向」及び「径方向」という用語は、具体的には図1(a)及び図20(a)に示された、注射針の長手方向軸に対応する長手方向中心軸Xに対する方向を示す。
【0022】
以下、自己注射器について2つの望ましい実施の形態を参照しながら説明する。ただし、自己注射器は複雑な装置であり、複数の機能を実行するための複数のモジュールを含む。そうした様々なモジュールは分離され、また互いに独立して用いられてもよく、必ずしも互いに組み合わせて用いなければならないわけではない。具体的には、そうした様々なモジュールは図示された形状とは異なる形状を有する自己注射器において用いることができる。さらに、図面は模式図であり、分かりやすさのために、自己注射器の構成要素の正確な形状が反映されているとは限らず、また正確な寸法通りとは限らない。加えて、図面は自己注射器の構成要素全てを必ずしも図示しておらず、本発明の動作に必要な構成要素だけを示している。したがって、図示された自己注射器に様々な追加的な、及び/又は補足的な構成要素及びモジュールを組み合わせることができる。
【0023】
図に示された自己注射器は本体1を有し、アクチュエータースリーブ10が本体1内を軸方向に摺動する。アクチュエータースリーブ10は、患者の体の注射領域の周りに接触する下端部101を有する。図1図19に示された実施形態においては、自己注射器は下部本体1a及び上部本体1cを含み、それらは組み立てられることで自己注射器の本体1を形成する。図20図34に示された実施形態においては、自己注射器は下部本体1a、中間本体1b、及び上部本体1cを含み、それらは組み立てられることで自己注射器の本体1を形成する。以下では、「本体」という用語及び参照番号「1」は下部本体1aを中間本体1b及び/又は上部本体1cと組み合わせて形成された単一の当該本体を指すために用いられる。本体1はいくつの本体部分からなってもよく、図示された2つ又は3つの本体部分からなる実施形態は限定的なものではない。
【0024】
自己注射器の本体1には貯蔵器Sが挿入されてもよく、貯蔵器Sは本体1内で静止しているのが望ましい。貯蔵器Sは流体を収容しており、ピストンP及び注射針Aを含む。ピストンPは注射針Aを介して流体を注射するために貯蔵器S内を移動する。任意に、本発明を注射針を備えない貯蔵器、具体的には注射針を備えない注射器に適用することも可能である。
【0025】
本明細書はあらゆるシリンジSに言及している。さらに一般化すると、本明細書における「シリンジ」という用語は注射針と組み合わされたあらゆる貯蔵器を包含すると理解される。貯蔵器Sは事前充填型シリンジであるのが望ましい。
【0026】
自己注射器の駆動前には、シリンジSの注射針Aはガード部材(不図示)によって保護されていてもよい。また、自己注射器は駆動前にユーザーが取り外すことのできるキャップ(不図示)を含んでいてもよい。キャップを取り外すことによって、ガード部材も取り除かれるのが望ましい。
【0027】
図1(a)及び図1(b)、さらに図20(a)及び図20(b)に示されているように、駆動前にはアクチュエータースリーブ10は第1突出位置にあり、注射針Aを覆っている。駆動中には、アクチュエータースリーブ10は本体1内を駆動位置に向かって摺動し注射針Aを露出させて、穿刺、次いで流体の注射を可能にする。
【0028】
注射後、ユーザーが注射部位から自己注射器を離すと、アクチュエータースリーブ10は注射針による負傷のリスクを回避するために、図6及び図26に示されているように注射針Aの周りに再び配される使用後の第2突出位置へと復帰する。
【0029】
アクチュエータースリーブ10は、弾性部材又はバネ190によって上述の突出位置に向かって付勢されるのが望ましい。弾性部材又はバネ190は、どのような種類のものであってもよい。使用後の位置においては、アクチュエータースリーブ10はロックされ、本体1内へと軸方向に移動できなくなっているのが望ましい。一例として、こうしたロックは、本体1又は貯蔵器Sに固定され、さらにアクチュエータースリーブ10が第2突出位置に到達するとアクチュエータースリーブ10の複数の開口部(不図示)と協働する複数のタブ(不図示)によってなされてもよい。こうしたロックは本発明の動作に必要不可欠なものではないため、以下ではさらに詳しく説明されることはない。上述の具体的な実施の形態とは異なる方法でこうしたロックを行ってもよい。具体的には、国際公開第2013/175140号又は国際公開第2013/175142号の教示に従って行ってもよい。
【0030】
自己注射器はまた自動注射システムを含む。具体的には、注射針Aを介して流体を投与するためにピストンPと協働して貯蔵器S内を移動するピストンロッド5を含む。従来技術においては、ピストンロッド5は注射バネ8によって投与位置に向かって付勢され、駆動前には、適切な注射ロック機構によって休止位置に保持される。
【0031】
望ましい注射ロック機構は、具体的には国際公開第2015/155484号に開示されている。
【0032】
注射ロック機構は、少なくとも1つの遮断要素7を含んでもよい。遮断要素7は遮断リング230によって遮断位置に保持されており、遮断リング230は支持部材6上に固定、具体的にはスナップ留めされ、支持部材6には注射バネ8が突き当たる。注射ロック機構を始動させることで注射手段が駆動され、流体が注射針を介して注射される。注射ロック機構は本体1内に位置する制御スリーブ4をさらに含んでもよい。制御スリーブ4はピストンロッド5及び注射バネ8を収容しており、ピストンロッド5は遮断位置と遮断解除位置との間を移動可能な少なくとも1つの遮断要素7を収容する径方向凹部を含む。この少なくとも1つの遮断要素7は略球状、例えばボール状であるのが望ましい。ボールはピストンロッド5によって径方向外向きに付勢され、遮断リング230によって遮断位置に保持されているのが望ましい。遮断リング230はロック位置とロック解除位置との間をピストンロッド5及び支持部材6に対して軸方向に移動可能である。ロック位置では、遮断リング230はボールを遮断位置で保持する。ロック解除位置では、遮断リング230はボールが外れるようにすることで注射ロック機構のロックを解除し、注射バネ8がピストンロッド5を注射位置に向かって移動させることが可能となるようにする。具体的には、遮断リング230は制御スリーブ4によってロック解除位置へと移動する。
【0033】
シリンジSの注射針Aがユーザーの体に穿刺されたとき、遮断リング230が軸方向上向きに移動することによって、ボール7は遮断位置から解放され、その後径方向外向きに移動する。すると、ピストンロッド5はもはやボールによって固定されないため、軸方向下向きに移動して流体を注射する。
【0034】
自己注射器は、自動注射器を注射部位から離してもよいことを、具体的には可聴音、振動、及び/又は視覚及び/又は触覚を通じてユーザーに通知する視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置を含む。この視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置は、注射部位から離れた、本体1の後端に配されているのが望ましい。具体的には、ここで示される2つの実施形態においては、通知装置は、適切な表示部160によって本体1の1つ以上の窓11越しに視覚を通じた通知を行う通知要素を備える。望ましくは、以下でより詳しく説明されるように、聴覚及び/又は触覚を通じた通知も行われてもよい。
【0035】
ユーザーが注射終了直後に自己注射器を注射部位から離してしまうのを防止するために、自己注射器は通知装置の駆動を注射の終了よりも遅延させる遅延システムを含む。
【0036】
図8図19は、1つの望ましい実施形態の遅延システムを示し、図27図34は、本発明の別の望ましい実施形態の遅延システムを示す。
【0037】
遅延システムの主な目的は、流体の体内への注射の終了後に、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知の開始を遅延させることである。特に、注射後の数秒間に流体を拡散させることが可能となる。こうした遅延システムによって、ユーザーは、注射の後に例えば10数える必要がなくなるといった恩恵を得られる。このように数を数える際にかかる時間は、ユーザーごとに大きく異なることがあり得るからである。遅延システムがあれば、自己注射器の使用手順は簡易なものとなる。
【0038】
このように、機械的な遅延システムによって、使用終了通知の開始を注射の終了よりも数秒遅延させることが可能となる。この遅延の期間は、あらかじめ設定しておくことが可能である。
【0039】
本発明は、遅延の発生に流体移送現象を利用しており、ダッシュポット16、ダッシュポット16内を軸方向に摺動するピストン19、及びダッシュポット16内に配された流体という構成要素を用いる。この流体は、ピストン19がダッシュポット16内を移動する際に、ピストン19によって移送される。
【0040】
ここで示される2つの実施形態においては、遅延システムの駆動中、ダッシュポット16は本体1に対して静止しており、ピストン19はダッシュポット16に対して軸方向に移動可能である。しかしながら、逆の構成も考慮に入れることができる。
【0041】
流体は、ダッシュポット16内のピストン19の軸方向上方に配されており、ピストン19がダッシュポット16内で移動する際にダッシュポット16から流出する。この流出する流体は、ダッシュポットの別のチャンバに流れ込んでもよいし、単にダッシュポットから流出してもよい。流体は、1つ以上の流路を通って流れてもよい。当該流路は、ダッシュポット16内でのピストン19の移動を制動する寸法で形成されている。
【0042】
ダッシュポット16に収容される流体の粘度、及び/又はダッシュポット16、ピストン19、及び/又は流路の形状と寸法に応じて、制動を非常に正確に調整することが可能である。そして、遅延システムの駆動開始から終了までの時間を調整することが可能となる。遅延システムの駆動終了時、ダッシュポット16は本体1内を軸方向に移動して通知を行ってもよい。具体的には、通知装置の窓11越しに自己注射器を注射部位から離してもよい旨を通知する。視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の駆動はこのように注射の終了に対して遅延されるため、注射された流体がこの遅延期間内に注射部位に拡散することが可能となる。
【0043】
図8は、望ましい実施形態の遅延システムの模式的な分解斜視図である。遅延システムは、上部本体1c、適切な流体を収容したダッシュポット16、ダッシュポット16内を軸方向に摺動するピストン19、プッシャー要素17、係止キー20、ピストンロッド5、支持部材6、及び注射バネ8を有する。プッシャー要素17は、注射ロック機構の支持部材6上に固定、具体的にはスナップ留めされるのが望ましい。
【0044】
本実施形態においては、本体1は下部本体1a及び上部本体1cの2つの部分のみからなる。即ち、本実施形態は、中間本体を有さない。
【0045】
ここで示される実施形態においては、ダッシュポット16は、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素をも形成する。望ましくは、ダッシュポット16は、本体1、具体的には上部本体1cの1つ以上の窓11越しに自己注射器の使用終了を通知するための適切な突起160を有してもよい。図1図19に示される実施形態においては、本体1は1つの窓11を有する。
【0046】
プッシャー要素17は本体1内を軸方向に移動可能であり、ピストン19と協働する。ピストン19が軸方向に移動する間、ダッシュポット16はあらゆる軸方向への移動を妨げられる。したがって、プッシャー要素17の軸方向への移動によって、ピストン19がダッシュポット16内を軸方向に移動する。変形例においては、逆の構成、即ち、静止しているピストンに対してプッシャー要素17が、移動可能なダッシュポットを移動させる構成も考慮に入れることができる。
【0047】
係止キー20は、遅延システムと協働するヘッド21、長尺状のロッド22、及びピストンロッド5と協働する終端部23を有する。
【0048】
遅延システムが始動する前の位置においては、係止キー20のヘッド21は遮断位置にある。この遮断位置においては、ヘッド21はプッシャー要素17の軸方向凹部170と協働し、プッシャー要素17の並進移動が係止キー20によって妨げられる。ピストンロッド5が注射終了位置に至ると、ピストンロッド5は係止キー20の終端部23と協働し、係止キー20を軸方向下向きへと引く。その結果、係止キー20のヘッド21は凹部170から軸方向に移動し、プッシャー要素17はもはや並進移動を係止キー20によって妨げられない。
【0049】
注射バネ8は、プッシャー要素17が上部本体1cの後部に向かって軸方向に並進移動するよう付勢する。プッシャー要素17が係止キー20によって遮断されている間は、遅延システムも遮断されている。
【0050】
ここで示される実施形態においては、遅延システムの駆動前には、上部本体1cの第1円錐台状壁又は傾斜壁109によって、プッシャー要素17は軸方向上向きへのあらゆる移動を妨げられている。この壁109は、プッシャー要素17の可撓性タブ179と協働する。ここで示される実施形態は、直径上で対向する2つの可撓性タブ179を有する。しかしながら、異なる数の第1可撓性タブを有する構成、例えばタブが1つの構成や2つを超える構成も考慮に入れることができる。特に図16に示されるように、遮断位置においては、係止キー20のヘッド21はプッシャー要素17の可撓性タブ179が径方向内向きへと変形するのを妨げる。ヘッド21がもはや遮断位置になくなると、プッシャー要素17を軸方向上向きへと押し上げる注射バネ8の作用、及び可撓性タブ179と本体1の第1傾斜壁109との協働により、可撓性タブ179は径方向内向きへと変形可能となる。
【0051】
注射の終了時に係止キー20がプッシャー要素17を開放すると、プッシャー要素17は注射バネ8によって軸方向に移動する。すると遅延システムが始動し、プッシャー要素17がピストン19と協働して、ピストン19はダッシュポット16内を軸方向に移動する。これによって、流体がダッシュポット16内から適切な流路161を通じて移送される。ここで示される実施形態においては、特に図15からわかるように、流路はダッシュポット16内に形成された軸方向溝によって形成される。図10の矢印Fは、流体の移送を示す。したがって、プッシャー要素17の軸方向への移動速度は、ダッシュポット16内からの流路161を通じた流体の移送により制動されるピストン19の軸方向への移動速度に応じたものとなる。
【0052】
図13からわかるように、ピストン19がダッシュポット16内を移動している間、本体1の第2傾斜壁108と協働するダッシュポット16の可撓性タブ168によって、ダッシュポット16はあらゆる軸方向への移動を妨げられる。ここで示される実施形態は、直径上で対向する2つの可撓性タブ168を有する。しかしながら、異なる数の可撓性タブを有する構成、例えばタブが1つの構成や2つを超える構成も考慮に入れることができる。特に図16及び図17からわかるように、ピストン19がダッシュポット16内での軸方向への移動を終えていないうちは、ピストン19はダッシュポット16の可撓性タブ168が径方向内向きへと変形するのを妨げる。ピストン19がダッシュポット16内での軸方向への移動を終えると、もはや可撓性タブ168を遮断しない。そのため、プッシャー要素17、ピストン19、及びダッシュポット16によって形成されたユニットを軸方向上向きへと押し上げる注射バネ8の作用、及び可撓性タブ168と本体1の第2傾斜壁108との協働により、可撓性タブ168は径方向内向きへと変形可能となる。これは、特に図14に示されている。
【0053】
図19に示されるように、ピストン19がダッシュポット16内での軸方向への移動を終えると、ダッシュポット16は遮断から解放され、プッシャー要素17、ピストン19、及びダッシュポット16によって形成されたユニットは、注射バネ8によって突出し、上部本体1cの終端壁に突き当たる。ダッシュポット16の表示部160は、こうして本体1の通知窓11に対向配置される。このユニットの非制動移動あるいは突出によって、ダッシュポット16、ピストン19、及び/又はプッシャー要素17と本体1を接触させ、聴覚を通じた通知をも行うことが可能となる。この聴覚を通じた通知は、表示部160、又は本体1の適切な部位と協働するプッシャー要素17、ピストン19、及びダッシュポット16によって形成されたユニットの他の部分によって生成されてもよい。聴覚を通じた通知を生成する衝撃によって自己注射器をユーザーの手の中で振動させ、触覚を通じた通知をも生成してもよい。これは、聴覚に障害を持つユーザーにとって特に有用である。
【0054】
図27は、本発明の望ましい実施形態の遅延システムの模式的な分解斜視図である。遅延システムは、上部本体1c、適切な流体を収容したダッシュポット16、ダッシュポット16内に配されたピストン19、遅延バネ18、係止キー20、ピストンロッド5、及び中間本体1bを有する。
【0055】
ここで示される実施形態においては、ダッシュポット16は、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素をも形成する。望ましくは、ダッシュポット16は、本体1、具体的には上部本体1cの1つ以上の窓11越しに自己注射器の使用終了を通知するための適切な突起160を有してもよい。図20図34に示される実施形態においては、本体1は1つの窓11を有する。
【0056】
特に図31図34に示されるように、バネ18は第1に中間本体1b、第2にピストン19に突き当たる。変形例においては、バネはダッシュポットと協働してもよい。
【0057】
係止キー20は、遅延システムと協働するヘッド21、長尺状のロッド22、及びピストンロッド5と協働する終端部23を有する。
【0058】
遅延システムが始動する前の位置においては、係止キー20のヘッド21は遮断位置にある。この遮断位置においては、ヘッド21はピストン19の軸方向凹部190と協働し、ピストン19の並進移動が係止キー20によって妨げられる。ピストンロッド5が注射終了位置に至ると、ピストンロッド5は係止キー20の終端部23と協働し、係止キー20を軸方向下向きへと引く。その結果、係止キー20のヘッド21は凹部190から軸方向に移動するため、ピストン19はもはや並進移動を係止キー20によって妨げられない。
【0059】
バネ18は、ピストン19が上部本体1cの後部に向かって軸方向に並進移動するよう付勢する。ピストン19が係止キー20によって遮断されている間は、遅延システムも遮断されている。
【0060】
ここで示される実施形態においては、遅延システムの駆動前には、上部本体1cの第1円錐台状壁又は傾斜壁109によって、ピストン19は軸方向上向きへのあらゆる移動を妨げられている。この壁109は、ピストン19の可撓性タブ199と協働する。ここで示される実施形態は、直径上で対向する2つの可撓性タブ199を有する。しかしながら、異なる数の第1可撓性タブを有する構成、例えばタブ199が1つの構成や2つを超える構成も考慮に入れることができる。特に図31に示されるように、遮断位置においては、係止キー20のヘッド21はピストン19の可撓性タブ199の径方向内向きへの変形を妨げる。ヘッド21がもはや遮断位置になくなると、ピストン19を軸方向上向きへと押し上げるバネ18の作用、及び可撓性タブ199と本体1の第1傾斜壁109との協働により、可撓性タブ199は径方向内向きへと変形可能となる。
【0061】
注射の終了時に係止キー20がピストン19を開放すると、ピストン19はバネ18によって軸方向に移動する。すると遅延システムが始動し、ピストン19がダッシュポット16内で軸方向に移動する。これによって、流体がダッシュポット16内から1つ以上の適切な流路195を通じて移送される。ここで示される実施形態においては、特に図31図33からわかるように、流路はピストン19内の中央孔によって形成される。中央孔は、ピストン19の凹部190を軸方向に延長したものである。遅延システムの駆動前には、中央孔は係止キー20のヘッド21によって閉鎖され、ダッシュポット16の封止を可能としているのが望ましい。したがって、ピストン19の軸方向への移動速度は、ダッシュポット16内からの流路195を通じた流体の移送により制動される。
【0062】
図31及び図32からわかるように、ピストン19がダッシュポット16内を移動している間、本体1の第2傾斜壁108と協働するダッシュポット16の可撓性タブ168によって、ダッシュポット16はあらゆる軸方向への移動を妨げられる。ここで示される実施形態は、直径上で対向する2つの可撓性タブ168を有する。しかしながら、異なる数の可撓性タブを有する構成、例えばタブ168が1つの構成や2つを超える構成も考慮に入れることができる。ピストン19がダッシュポット16内での軸方向への移動を終えていないうちは、ピストン19はダッシュポット16の可撓性タブ168の径方向内向きへの変形を妨げる。ピストン19がダッシュポット16内での軸方向への移動を終えると、もはや可撓性タブ168を遮断しない。そのため、ピストン19とダッシュポット16によって形成されたユニットを軸方向上向きへと押し上げるバネ18の作用、及び可撓性タブ168と本体1の第2傾斜壁108との協働により、可撓性タブ168は径方向内向きへと変形可能となる。これは、特に図34に示されている。
【0063】
図34に示されるように、ピストン19がダッシュポット16内での軸方向への移動を終えると、ダッシュポット16は遮断から解放され、ピストン19とダッシュポット16によって形成されたユニットは、バネ18によって突出し上部本体1cの終端壁に突き当たる。ダッシュポット16の表示部160は、こうして本体1の通知窓11に対向配置される。このユニットの非制動移動あるいは突出によって、ダッシュポット16及び/又はピストン19と本体1を接触させ、聴覚を通じた通知をも行うことが可能となる。この聴覚を通じた通知は、表示部160、又は本体1の適切な部位と協働するピストン19とダッシュポット16によって形成されたユニットの他の部分によって生成されてもよい。聴覚を通じた通知を生成する衝撃によって自己注射器をユーザーの手の中で振動させ、触覚を通じた通知をも生成してもよい。これは、聴覚に障害を持つユーザーにとって特に有用である。
【0064】
上記のいずれの実施形態においても、遅延システムにおいて用いられる流体には、例えばグリースなど、あらゆる適切な種類のものを用いることができる。粘弾性を有する流体を用いるのが望ましい。
【0065】
遅延装置によって、注射段階が終了した時点から既定の時間、通知装置が使用終了を通知する時点をずらすことが可能となる。
【0066】
自己注射器の駆動段階全体を以下で説明する。
【0067】
ユーザーが自己注射器を使用したいときには、装置の、例えば本体1を手に取り、注射が行われる体の一部に、休止状態においては第1突出位置で下部本体1aから突出するアクチュエータースリーブ10を押し当てる。ユーザーがアクチュエータースリーブ10に加えた押圧力によってアクチュエータースリーブ10が本体1内を摺動することで、注射針が露出し、ユーザーが自己注射器に加えた押圧力によってユーザーを穿刺するのが、図1(a)、図1(b)、図2(a)、及び図2(b)、そして図20(a)、図20(b)、図21(a)、及び図21(b)から分かる。
【0068】
アクチュエータースリーブ10が本体1内の終端位置にあたる駆動位置に到達すると、このアクチュエータースリーブ10の到達が注射段階を始動させる。この様子は、図3(a)、図3(b)、図4(a)、及び図4(b)、そして図22(a)、図22(b)、図23(a)、及び図23(b)に示されている。ピストンロッド5がシリンジA内を摺動し、注射バネ8の作用によってシリンジAのピストンPを押す。こうして、流体が投与される。
【0069】
注射が終了すると、遅延システムが、既定の遅延時間が経過後に通知装置が駆動されるように始動する。
【0070】
使用終了通知が行われ、ユーザーが注射部位から自己注射器を離すと、アクチュエータースリーブ10は本体1内から再び移動し、アクチュエータースリーブ10のバネの作用によって、第2突出位置である使用終了位置へと向かう。この位置において、アクチュエータースリーブ10がロックされることによって、ユーザーの安全が絶対的に保証され、装置使用終了後に注射針によって負傷するあらゆるリスクを回避することができる。
【0071】
ここで示される実施形態においては、アクチュエータースリーブ10の第1突出位置と第2突出位置は異なる位置であるが、これらを任意に同一の位置としてもよい。
【0072】
本発明は、特に、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病などの、自己免疫疾患の治療、癌の治療、肝炎などの抗ウイルス療法による治療、糖尿病の治療、貧血の治療、及びアナフィラキシーショックなどのアレルギー性の発作の治療に用いられる装置に適用される。
【0073】
以上、本発明を望ましい実施の形態を参照しながら説明したが、当然のことながら本発明はこの実施の形態に限られない。具体的には、アクチュエータースリーブ及び/又は注射ロック機構及び/又は遅延システム及び/又は聴覚及び/又は触覚を通じた通知装置は異なる方法で形成されてもよい。注射針による穿刺及び/又は注射後の注射針の退避を、1つ以上のボタンで制御してもよい。また、添付の請求項によって規定された本発明の範囲を超えない限り、当業者による他の様々な変形も可能である。
図1
図2
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