【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、前記従来の技術を考慮し生分解性マグネシウム合金を提供すること、その製造方法およびインプラントの使用であるが、ここでインプラントは、そのマグネシウムマトリックスが微細粒子および優れた耐腐食性を有し、保護層なしに必要なサポート期間、電気化学的に安定状態を維持でき、電気化学的にマグネシウムマトリックスよりも貴である金属間相の形成を活用でき、しかも引張強度や耐力などの機械的性質が改善され並びにインプラントの分解速度を調整するために機械的非対称性を減らすことができるものである。
【0022】
かかる目的は、請求項1の特徴を有するマグネシウム合金、請求項11の特徴を有する方法および請求項21および23の特徴に従う使用により達成される。
【0023】
従属項に列挙された特徴は、本発明によるマグネシウム合金、本発明によるその製造方法および本発明によるその使用の有利な改良を可能にする。
【0024】
本発明による解決方法は、インプラントが破壊またはひび割れなしに多軸永久荷重を吸収することができ、また生理学的液体により引き起こされる分解のための手段としてマグネシウムマトリックスが利用できるためには、インプラントのマグネシウムマトリックスの耐腐食性および変形能がサポート期間中ずっと保証されなければならないという理解に基づいている。
【0025】
これは、以下を含むマグネシウム合金により達成される。
3重量%から7重量%までのZn、0.001重量%から0.5重量%までのCa、残りは全不純物を含むマグネシウムであり、前記不純物は、電気化学的電位差および/または金属間相の形成を促進し、合計0.0048重量%以下であり、好ましくは0.0045重量%以下であり、更に好ましくは0.0036重量%以下であり、ここで全不純物は以下を含む。
‐Fe、Si、Mn、Co、Ni、Cu、Al、ZrおよびPの群から選択される個々の不純物、および
‐序数21、39、57−71および89−103のレアアースの群から選択される、0.001重量%以下の合金元素。
【0026】
本発明のマグネシウム合金は並外れて高い耐腐食性を有しており、それは、マグネシウムマトリックス中の個々の不純物の量およびその組み合わせを大幅に減らすことにより、更には析出および完全な固溶体には存在しなければならない固溶体硬化元素を加えることにより、達成される。得られたミクロ構造体は、形成プロセスおよび加熱処理プロセス後、個々のマトリクス相の間に電気化学的電位差が存在しないので、かかる電位差が生理学的媒体中の腐食を加速させることはあり得ない。
【0027】
3重量%から5重量%までのZnおよび0.2重量%から0.4重量%までのCaを有する合金マトリックスは、金属間相であるCa
2Mg
6Zn
3よりも貴の電気化学的ポテンシャルを有しており、一方加熱処理により析出可能なMgZn相は、合金マトリックスと比較してかなり貴であるので、標的加熱処理により合金マトリックスの格子から析出し得るし、合金マトリックスのためのカソードとしても機能し得ることを、驚くべきことに、本出願人は見出した。これは、合金マトリックスの分解速度に意図的に影響を与える選択肢を提供するものである。
【0028】
別の驚くべき結果であるが、Zrの存在とは無関係に、あるいはZrの量が従来の技術に記載された量よりもかなり少ないにも拘わらず、微粒化効果が達成でき、しかもそれは金属間相であるCa
2Mg
6Zn
3の存在に帰することができるが、この金属間相は結晶粒界の移動を妨げ、再結晶中に粒度を制限することにより好ましくない粒子の成長を妨げ、更には耐力および引張強度の値も増大させる。
前述の機械的性質の意味内において、本発明のマグネシウム合金は、Zrの含有量が0.0003重量%未満、好ましくは0.0001重量%未満が有利である。
【0029】
全不純物内の個々の不純物に関して以前に知られていた許容限界は、製造されたマグネシウム合金がしばしば熱機械処理に付されること、より具体的には準平衡構造体を形成する長期の焼きなましプロセスに付されることを考慮に入れていない。金属元素は拡散により結合し、金属間相として知られるものを形成し、かかる金属間相はマグネシウムマトリックスとは異なる電気化学ポテンシャル、しかも明らかにかなり高いポテンシャルを有しており、従ってカソードとして行動し、電解腐食プロセスを引き起こし得る。
【0030】
かかる金属間相の形成は、全不純物内の個々の不純物の以下のような許容限界に従うならば確実に防げることを、本出願人は見出した。
Fe、Si、Mn、Co、Ni、Cuは各0.0005重量%未満、Zr、Alは各0.0003重量%未満、およびPは0.0002重量%未満である。
【0031】
本実施形態において、全不純物は序数21、57−71および89−103のレアアースの群から選択される個々の不純物を追加的に含んでおり、その量は合計0.001重量未満、好ましくは0.0005重量%以下、更に好ましくは0.0003重量%以下であることに注意されたい。
【0032】
腐食安定合金マトリックスは、好ましくは、全不純物を合計で0.0036重量%以下含み、Fe、Si、Mn、Co、Ni、Al、ZrおよびPの群から選択される個々の不純物を合計0.0026重量%以下含み、それは個々の不純物の許容限界が重量%で以下の場合に達成できる。
Fe、Si、Mnが各0.0005未満、Co、Ni、Cuが各0.0002未満、Zrが0.0003未満、およびP、Alが各0.0001未満。
加えて、全不純物は、序数21、57−71および89−103のレアアースを好ましい量含有する。
【0033】
特に好ましい腐食安定合金マトリックスは、全不純物を合計で0.00215重量%以下含み、Fe、Si、Mn、Co、Ni、Al、ZrおよびPの群から選択される個々の不純物を合計0.00115重量%以下含み、該合計量は、個々の不純物の許容限界が重量%で以下の場合に達成できる。
Fe、Si、Mnが各0.0002未満、Co、Ni、Cu、Zr、Pが各0.0001未満、およびAlが0.00005未満。
加えて、全不純物は、序数21、57−71および89−103のレアアースを好ましい量含有する。
【0034】
個々の不純物を組み合わせると、合金マトリックスよりも貴である金属間相の形成が抑えられるが、それは、Fe、Si、Mn、Co、Ni、CuおよびAlからなる個々の不純物の合計が0.0033重量%以下、好ましくは0.0022重量%以下、更に好ましくは0.00095重量%以下、Alの含有量が0.0003重量%以下、好ましくは0.0001重量%以下、特に好ましくは0.00005重量%以下、Zrの含有量が0.0003重量%以下、好ましくは0.0001重量%以下の場合である。
前述の個々の不純物が素材の耐腐食性を損なう行動メカニズムは様々である。
Feの含有量が高くてFeの小粒子が合金中に形成された場合、かかる粒子は腐食のためのカソードとして行動する。同じことがNiおよびCuについても言える。
更に、特にFeおよびNiとZr、あるいはFe、NiおよびCuとZrは溶解物中で金属間粒子として析出し得る。かかる粒子はマトリックスの腐食にとって非常に効果的なカソードとして行動する。
マトリックスと比較して極めて高い電位差を有し、更に極めて高い形成傾向を有する金属間粒子はFeおよびSi並びにFe、MnおよびSiの相を含むが、これが、かかる元素を含む汚染物を最小限に抑えなければならない理由である。
Pの含有量はできる限り最小限に抑えるべきであるが、これは微小量のPが存在する場合でもリン化マグネシウムが形成され、構造体の機械的性質を劇的に損なうからである。
【0035】
従って、かかる低濃度は、マトリックスよりもポジティブな電気化学的ポテンシャルを有する金属間相をもはや含んでいないことを保証する。
【0036】
本発明のマグネシウム合金では、レアアースおよびスカンジウム(序数21、57−71および89−103)元素の含有量の合計は、0.001重量%未満、好ましくは0.0005重量%未満、更に好ましくは0.0003未満である。
【0037】
かかる追加により、マグネシウムマトリックスの引張強度が増大し、該マトリックスの電気化学的ポテンシャルが上がり、その結果、特に生理学的媒体に関して、耐腐食性作用が上昇する。析出物のサイズは好ましくは5μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、析出物は結晶粒界および粒子内部に位置しているので、加熱処理中の結晶粒界の移動並びに変形中の転位が減損し、マグネシウム合金の強度が増大する。
【0038】
本発明の対象であるマグネシウム合金は、275MPa超、好ましくは300MPa超の引張強度、200MPa超、好ましくは225MPa超の降伏点、0.8未満、好ましくは0.75未満の降伏比を達成し、その場合、引張強度と降伏点の差は50MPa超、好ましくは100MPa超、機械的非対称性は1.25未満である。
かかる新規のマグネシウム合金の大幅に改善された機械的性質は、インプラント例えば心血管ステントが、腐食によりマグネシウムマトリックスの分解が始まっているにも拘らず、全サポート期間に亘って移植状態の多軸永久荷重に耐えられることを、保証するものである。
機械的非対称性を最小限にするため、5μm以下の粒度を有する特に微細なミクロ構造を有することが、マグネシウム合金にとって特に重要である。
【0039】
更に、本発明の目的は、改善された機械的性質および電気化学的性質を有するマグネシウム合金の製造方法により達成される。かかる方法は以下の工程:
a)真空蒸留による高純度マグネシウムの生成工程;
b)工程a)に従った前記マグネシウムと高純度のZnおよびCa(組成は3重量%から7重量%のZn、0.001重量%から0.5重量%までのCa)との合成による合金ビレットの生成工程であって、残りは不純物を含むマグネシウムであり、前記不純物は、電気化学的電位差および/または金属間相の形成を促進し、量は0.0048重量(%)、好ましくは0.0045重量%、更に好ましくは0.0036重量%であり、全不純物が、Fe、Si、Mn、Co、Ni、Cu、Al、ZrおよびPの群から選択される個々の不純物を0.0038重量%以下含んでおり、合金元素は、序数21、39、57−71および89−103のレアアース群から選択され、合計0.001重量%以下である、生成工程;
c)4時間から40時間の放置期間を伴う150℃と450℃の間の温度による焼きなましによる前記合金の均質化工程;
c)250℃と350℃の間の範囲の温度による前記均質化合金の、少なくとも一回の形成工程;および
d)任意に、1分から3時間までの放置時間を有する100℃と300℃の間の範囲の温度による前記形成合金の加熱処理工程、を含む。
【0040】
好ましくは3重量%から5重量%までのZnの含有量および0.2重量%から0.4重量%までのCaの含有量により、体積含有率2%までの金属間相および析出可能なMgZn相がそれぞれマトリックス格子に確実に生成される。前記二つの相の電気化学的ポテンシャルは有意に異なっており、MgZn相はマトリックスよりも貴であり、Ca
2Mg
6Zn
3相はマトリックスよりも卑である。加熱処理により、MgZn相の析出は、予め選択された温度および放置時間により、好ましい程度にまで促進でき、それにより、合金マトリックスの分解速度が調整可能である。
【0041】
金属間Ca
2Mg
6Zn
3相は、耐腐食性作用に加え、形成プロセスによって微粒子化を達成するという驚くべき効果も発揮し、その結果、引張強度および耐力が大幅に増大する。従って、合金元素としてのZrは必要でなくなり、再結晶温度も下げることができる。
【0042】
必要な閾値を有する高純度のマグネシウム/亜鉛/カルシウム合金の出発原料を製造するのに、真空蒸留が好ましく使用される。
不純物の合計並びに析出および固溶体硬化を引き起こしマトリックスポテンシャルを上昇させる追加元素の含有量は選択的に調整でき、重量%で以下の通りである。
a)個々の不純物に関して、
Fe、Si、Mn、Co、Ni、Cuは各0.0005重量%未満、
Al、Zrは各0.0003重量%未満、および
Pは0.0002重量%未満である。
本実施形態において、全不純物は、序数21、57−71および89−103のレアアースの群から選択される個々の不純物を合計0.001重量%未満、追加的に含んでいることに注意されたい。
aa)不純物の好ましい量である0.0026重量%における個々の不純物に関して、
Fe、Si、Mnは各0.0005未満、
Co、Ni、Cuは各0.0002未満、
Zrは0.0003未満、
Al、Pは各0.0001未満である。
好ましい本実施形態において、個々の不純物と、序数21、57−71および89−103のレアアースの群から選択される不純物との合計は0.0036重量%未満である。
ab)不純物の特に好ましい量である0.00115重量%における個々の不純物に関して、
Fe、Si、Mnは各0.0002未満、
Co、Ni、Cu、Zr、Pは各0.0001未満、および
Alは0.0001未満である。
好ましい本実施形態において、個々の不純物と、序数21、57−71および89−103のレアアースの群から選択される不純物との合計は0.00215重量%未満である。
b)個々の不純物の組み合わせの合計に関して、
Fe、Si、Mn、Co、Ni、CuおよびAlは0.0033重量%以下、好ましくは0.0022重量%以下、更に好ましくは0.00095重量%以下であり、Alの含有量は0.0003以下、好ましくは0.0001重量%以下、特に好ましくは0.00005重量%以下であり、Zrの含有量は0.0003重量%以下、好ましくは0.0001重量%以下である。
c)全不純物に含まれる追加元素に関して、
レアアースは合計で0.001重量%以下、好ましくは0.0005重量%以下である。
【0043】
本発明による方法が少数の形成工程しか要求しないのは、特に有利なことである。従って、押し出し法、剪断押し出し法および/または複数鍛造が好ましく活用でき、それにより実質的に均質な10μm未満の微細粒の達成が保証される。
加熱処理の故に、粒度7.5μm未満を好ましくは有する微細粒構造体中の、粒度1nmないし50nmのMgZn析出物は、結晶粒界および粒子内部に分散状態で分配され、それにより当該合金の引張強度が275MPa超、好ましくは300MPa超に達するが、これは従来の技術よりもかなり高い値である。
【0044】
本発明の第三の概念は、医療技術において本発明に従って製造される、前述の有利な組成と構造を有するマグネシウム合金の使用であって、特に組織インプラントおよび組織移植片を固定および仮付けするためのインプラント、例えばステントなどの血管内インプラント、補綴および歯科インプラント並びに神経インプラントを製造するための使用に関するものである。