(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816126
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】解放可能な送達システム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/966 20130101AFI20210107BHJP
A61F 2/844 20130101ALI20210107BHJP
A61F 2/88 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
A61F2/966
A61F2/844
A61F2/88
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-514324(P2018-514324)
(86)(22)【出願日】2016年9月19日
(65)【公表番号】特表2018-531664(P2018-531664A)
(43)【公表日】2018年11月1日
(86)【国際出願番号】US2016052539
(87)【国際公開番号】WO2017049312
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】62/220,910
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517416374
【氏名又は名称】マイクロベンション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MICROVENTION, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】パァング,ポナカ
(72)【発明者】
【氏名】ティウ,タイ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ソルタニアン,ロス
(72)【発明者】
【氏名】グエン,ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】グエン,オアン
(72)【発明者】
【氏名】ゴー,ブリトニー
【審査官】
田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−513931(JP,A)
【文献】
特表2006−522668(JP,A)
【文献】
特表2014−533190(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0264191(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/966
A61F 2/844
A61F 2/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シース(132)と、
該シース内に配置される長尺状の押圧器(134)と、
該押圧器(134)から遠位方向に延びている複数のワイヤ(224、225)と、
該複数のワイヤによって前記押圧器から径方向外方の位置で支持される複数のマーカバンド(228)と、
複数のマーカコイル(106)を有し前記複数のワイヤを覆って放射状に配置されるステントとを含む脈管補綴体送達装置であって、
前記複数のマーカバンド(228)は前記シース(132)内で前記複数のマーカコイル(106)の遠位に位置し、該マーカコイル(106)が該マーカバンド(228)と接触し続けられるように前記ステントの近位端が圧縮されたままであると、長尺状の前記押圧器(134)の後退に起因して、前記マーカバンド(228)の近位端が前記マーカコイル(106)の遠位端と接触し、これによって、前記シース(132)内で前記ステントが近位方向に牽引されることを特徴とする脈管補綴体送達装置。
【請求項2】
前記複数のワイヤ(224、225)は前記押圧器から離れてしなる請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項3】
前記複数のワイヤ(224、225)は弧形に形成されている請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項4】
該脈管補綴体送達装置はさらに、前記押圧器(134)の遠位端にX線不透過性マーカバンド(222)を含む請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項5】
前記押圧器から遠位方向に延びている複数のワイヤ(224、225)は、2ないし8本のワイヤを含む請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項6】
該脈管補綴体送達装置はさらに、前記押圧器を通り抜けて前記押圧器の遠位に延びているコアワイヤ(222)を含む請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項7】
前記複数のワイヤは、近位では前記押圧器に接続され、遠位では前記コアワイヤ(222)を覆う遠位接着位置(226)に接続される請求項6に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項8】
前記遠位接着位置(226)はマーカバンドまたは接合部である請求項7に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項9】
前記マーカバンド(228)は、補綴体のマーカコイル(106)と接触して前記補綴体が送達シース内に収納されているときには前記補綴体を動かすように構成されている請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項10】
前記マーカコイル(228)は、前記補綴体の近位ループ(104)から放射状に突出している請求項9に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項11】
前記マーカバンドは、前記複数のワイヤの遠位端と面一である請求項1に記載の脈管補綴体送達装置。
【請求項12】
請求項1に記載の脈管補綴体送達装置と、
前記押圧器によって押圧される補綴体とを含み、該補綴体は放射状に突出しているマーカコイル(106)を有し、
前記複数のワイヤのマーカバンド(228)は、前記補綴体のマーカコイル(106)の遠位にある脈管補綴体送達システム。
【請求項13】
前記押圧器(134)を後退させると前記マーカバンド(228)は前記マーカコイル(106)と接触して、これによって前記補綴体を後退させる請求項12に記載の脈管補綴体送達システム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2015年9月18日付出願の米国仮出願第62/220,910号、発明の名称「解放可能なインプラント送達システム」)に対する優先権を主張するものであり、その開示全体を参照により本願に取り込む。
【0002】
ステントまたはステントグラフトなどの医療用インプラントは、血管を広げて血小板の蓄積を低減し、塞栓性物質を動脈瘤内に保持するスキャフォルドとして、血流を所定の領域に限定する分流器として、または他の理由のため用いられるものである。
【0003】
ステントまたは他のインプラントの送達は、シースまたはカテーテル、およびカテーテル内の長尺状押圧器を含む送達装置を用いて行われることが多い。シースの遠位端を所望の位置に配置した後、シースを後退させるかまたは押圧器を用いてステントをシースから押し出す。しかしながら、ステントは医師が意図し得る高精度の位置で常に展開されるわけでないため、ステントをシース内に一旦後退させた後に最終的な展開を行うことが望ましい場合がある。
【発明の概要】
【0004】
インプラント送達システムについて述べる。インプラント送達システムは、ステント、ステントグラフト、コイル、プラグ、オクルーダまたはその他のインプラントに使用可能である。
【0005】
一実施形態は、ステントの1つ以上の近位ループと係合する1つ以上の支柱を含む押圧器を有する送達システムに関する。これらの支柱を近位方向に引くと、ステントを送達シース内に回収することができ、その後ステントの完全な展開が行われる。
【0006】
本発明の別の実施形態は、複数の溝を有する遠位管状体を含む押圧器を有する送達システムに関する。溝は、ステントの近位ループの周りに配置されるため、ステントを送達シース内へ引き返すことができる。一実施形態において、非拘束位置にある送達シースから前進させる際、管状体の遠位端をヒートセットさせて、径方向に拡張させる。この拡張により、溝幅が増大して、ステントの近位ループが解放される。
【0007】
別の実施形態において、ステントは、ステントの近位端から延びる複数のアーム部材を含む。アーム部材は、押圧器の遠位端にある複数の溝と係合し得る拡大近位端を有する。一実施形態において、溝は、長手方向に相互にずれていてもよい。別の実施形態において、押圧器の遠位端は、送達シースによって拘束されていないときにヒートセットされて径方向に拡張され、これにより、アーム部材の拡大近位端を解放することができる。
【0008】
別の実施形態において、送達システムは、押圧器の心線から離れて配置された複数のワイヤ付きの押圧器を含む。複数のワイヤは、1つ以上のマーカバンドを含む。これらのマーカバンドは、押圧器が近位方向に後退した際にステントのループ上に配置されたマーカコイルと接触するように配置される。
【0009】
別の実施形態において、単一の三角ループをステント遠位端に有するステントが開示される。三角ループは、本発明の係合機構のうち1つに取り付けられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の実施形態により実現可能な、上述ならびにその他の態様、特徴および利点は、添付図面を参照した以下に示す本発明の実施形態の説明から明らかであり解明される。
【
図2】本発明の係合機構と共に用いられ得る編組ステントの2つの実施形態を示す。
【
図4】本発明の概略的な係合システムの側面断面図を示す。
【
図6】本発明に係る支柱を用いた係合システムの実施形態の側面図を示す。
【
図7】本発明に係る支柱を用いた係合システムの実施形態の側面図を示す。
【
図9】本発明に係る長尺状ブロック部材を用いた係合システムの実施形態の側面図を示す。
【
図15】本発明に係る溝を用いた係合システムの実施形態の多様な図を示す。
【
図16】本発明に係る長尺状近位アームを有するステントの実施形態の側面図を示す。
【
図17】本発明に係る
図16のステントと係合する溝を用いた係合システムの実施形態の図を示す。
【
図19】本発明に係る
図16のステントと係合する溝を用いた係合システムの実施形態の図を示す。
【
図21】本発明に係る
図16のステントと係合する溝を用いた係合システムの実施形態の図を示す。
【
図22】本発明に係る保持ワイヤを用いた係合システムの実施形態の図を示す。
【
図23】本発明に係る径方向にずらして設けられたマーカバンドを用いた係合システムの実施形態の図を示す。
【
図24】本発明に係る径方向にずらして設けられたマーカバンドを用いた係合システムの実施形態の図を示す。
【
図26】本発明に係る係合システムと接続する単一の近位ループを有するステントの図を示す。
【0011】
ここでは、本発明の具体的な実施例について、添付の図面を参照して述べる。ただし、本発明を多くの異なる形態で具体化してもよく、本明細書に記載している実施例に制限されるものと解釈すべきではない。それどころか、これらの実施例を提供することにより、本開示を詳細かつ完全なものにし、当業者に本発明の範囲を十分に伝えることができよう。添付図面に示す実施例の詳細な説明において用いられる用語は、本発明を限定することを意図するものではない。各図において、同一の番号は同一の要素を表している。
【0012】
ステントの送達は、シースまたはカテーテル、および当該カテーテル内の長尺状押圧器を含む送達装置を用いて行われることが多い。シースの遠位端を所望の位置に配置した後、シースを後退させるかまたは押圧器を用いてステントをシースから押し出す。しかしながら、ステントは医師が意図し得る高精度の位置で常に展開されるわけでないため、ステントをシース内に一旦後退させた後に完全な展開を行うことが望ましい場合がある。本発明の実施形態の対象となるインプラント送達装置は、インプラントと係合し、インプラントを後退させた後にインプラントの最終的な送達および拡張を行うことにより、インプラントを必要に応じて再配置することができる。
【0013】
全体として、本明細書では、近位ループまたは同様の係合構成部を有するステントについての送達および係合機構について論じる。これらの機構との使用のために他のインプラントも企図される(例えば、ステントグラフト、マイクロコイル、プラグ、オクルーダまたは同様のデバイス)と理解すべきである。ステントグラフト、マイクロコイル、プラグ、オクルーダまたは同様の装置など、他のインプラントをこれらの機構とともに使用することも企図されると理解すべきである。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態は、ステント端部、特にステント近位端においてループを有するステントと係合する。例えば、
図1に示すステント100は、複数のより大きなフレアループ104およびより小さなマイナーループ107を有するように、1本以上のワイヤ102から織られる。これらのフレアループ104はコイル106も有していてよく、ステント100の長さに沿って延びるX線不透過性ワイヤ105に接続され得る。別の例において、
図2に示す二重層ステント120は、
図1と同様の外層100、およびワイヤ102よりも相対的に小さな直径のワイヤ124から織られた内層122を有する。これらの層100および122は、近位端またはステント120の長さに沿った位置のいずれかにおいてコネクタ部材126を介して相互に接続される。このようなステント100または120のさらなる詳細について、米国特許出願公開第2012/0259404号および第2013/0245745号に記載があり、その開示全体を参照により本願に取り込む。
【0015】
図3および
図4は、送達システム130の基本的断面図であり、本明細書中に開示されるステント係合および保持機構の基本的動作を示す。ステント係合および保持機構136は、送達シース132内の押圧器134の遠位端上に配置される。押圧器134をシース132内において前進させる(または、シース132を後退させる)と、ステント100が露出され、ステント100を患者の血管内において拡張させることができる。ステント係合機構136は、ステント100のループ106(または、ステント100の他の構成部)と係合するため、ステント100の完全な展開を行う前に(すなわち、ステント100をシース132から完全に出して、径方向に完全に拡張させる前に)押圧器134およびステント100を後退させることができる。
【0016】
図5および
図6は、ステント係合機構136の1つの例示的実施形態を対象にする。ステント係合機構136は、4つの突出している支柱142を含む。突出している支柱142はステント100のループ104を通り抜けて配置され、突出している支柱142を用いてステント100の完全な展開前にループ104を遠位方向に牽引することができる。この点について、ループ104が支柱142の周囲に留まっている限り、ステント100をシース132内に回収することができる。
【0017】
支柱142は、管状中心部144の径方向に等距離の位置から延びていてもよく、拡張押圧部140から遠位方向に間隔を空けて配置される。一例において、支柱は概して円筒形の形状であり、先端部は曲線形状をしている。しかしながら、支柱142は矩形状、正方形状、角錐状または同様の形状であってもよい。機構136は、例えば1本、2本、3本、4本、5本、6本、7本および8本のように、任意の数の支柱142を含んでいてもよい。これらの支柱は単一の径位置に沿って配置されたものとして開示しているが、支柱142を互い違いの距離にして相互にずらしてもよく、または、支柱142は複数列の支柱142(例えば、2列、3列または4列)を含んでもよい。ずらした支柱を、例えば、いくつかの支柱がステントのより大きなフレアループを保持しかつ他の支柱がステントのより小さなマイナーループを保持するシステムにおいて用いることができる。
【0018】
支柱142、管状中心部144および拡張押圧部140を全体的に単一の一体部材(例えば、単一部品として全体成型されたもの)としてもよいし、あるいは、各要素を相互に接続または固定してもよい。押圧器134および/または押圧器134の心線を、部位140および144の内部通路146内に固定することができるため、押圧器134により要素をシース132内において軸方向に移動させることが可能になる。
【0019】
動作時において、シース132の遠位端は、血管内の所望の展開位置またはその近隣に配置される。押圧器134をシース132内において遠位方向に前進させると、拡張押圧部140はループ104の近位端と接触し、ステント100をシース132から遠位方向に押し出す。支柱142がシース132の遠位端から抜ける直前に、押圧器134を近位方向に後退させると、支柱142は、ループ104の内側近位部位と接触して牽引し、これによりステント100を再度シース132内に引き戻して、その後の展開に備える。
【0020】
図7に示すステント係合機構137の別の例示的実施形態は、上述した機構136と概ね同様であるが、遠位方向に角度付けされた支柱143(すなわち、支柱143の遠位方向に角度付けされた端部)を含む。このような支柱143により、最終展開時においてステント100のループ104をより容易に摺動させて機構137から係合解除させることが可能になる。一例において、支柱143は、管状中心部144の表面に対して約90度ないし約45度で角度付けされ得る。別の例示的実施形態において、支柱143のうち1つ以上は、異なる角度で角度付けされ得る(例えば、いくつかの支柱が45度で角度付けされ、他の支柱は60度で角度付けされる)。別の例示的実施形態において、支柱143は、上述の角度と同様の角度において近位方向に角度付けされ得るため、後退時においてステント100のループ104をより良好に保持することができる。
【0021】
図8および
図9に示すステント係合機構150の別の例示的実施形態は、保持ブロック154を含む。保持ブロック154は、ステント100のループ104と係合する寸法をとり軸方向に長尺状である複数の矩形形状物154Aを有する。例えば、
図9の保持ブロック154は、4つの矩形形状物154Aを含むが、1〜20個(またはそれ以上の)の形状物154Aであってもよい。保持ブロック154は好適には円筒形押圧ブロック152から離隔して遠位方向に固定され、ともに押圧器の心線156と接続される。押圧ブロック152も、好適には視覚的に区別できるマーカバンドとして働くようにX線不透過性材料によって構成される。動作時において、保持ブロック154および押圧ブロック152は先述した実施形態と同様に機能し、それぞれシース132内を通ってステント100のループ104を牽引および押圧する。
【0022】
矩形形状物154Aは、縁部を有する切り立った近位端部および遠位端部を備えているものとして図示される。しかし、これらの形状物154Aの端部(特に、ループ104と接触する遠位端)を、曲線形状または鈍角形状にしてもよい。
【0023】
図10〜
図15は、さらに別のステント係合機構161を対象とする。ステント係合機構161は、押圧器134に固定して、ステント100を完全に展開する前にシース132内に回収すべく用いられ得る。詳細には、ステント保持機構161は、押圧具134の端部に固定される管状体160を含み、シース132内にあるときには閉じていて、シース132外部にあるときには開くことによって、ステント100のループ104と係合および係合解除することができる。管状体160の遠位端は、複数の長尺状溝160Bを含む。長尺状溝160Bは、近位方向に延びた後、拡張溝部160Cへ広がる。これらの溝160Bおよび160Cは、軸方向に長尺状の遠位指状部160Aを管状体160から実際的に形成する。一例において、管状体160は、4つの対称的で径方向に等距離の溝160Bおよび160Cを含む。これらの溝160Bおよび160Cは、ステント100のループ104のうち少なくとも一部の位置に対応する。しかしながら、ステント100のループ104に対応するように、追加の溝を形成してもよい(例えば、6個または8個)。
【0024】
一実施形態において、指状部160Aは、
図14および
図15に示すように、非拘束時においてヒートセットされて径方向に拡張する。他の実施形態においては、ステント100の径方向に拡張可能な力が指状部160Aに対して広がり、指状部160Aを径方向に拡張させるように、指状部は接合されるかまたは曲げ可能となる。拡張溝部160Cがより近位に配置されると、拡張が低速になる可能性があり、ステント100が遠位方向に外方に押圧された際にステント100の展開が発生し得る点に留意されたい。加えて、さらに近位に配置されると、機構161の保持強度が増加し得る。
【0025】
係合機構161の圧縮形状においては、ステント100のループ104の近位端または屈曲部は拡張溝部160C内に配置され、ループ104の比較的直線状の隣接する部分は、溝部160Bの上方および下方で遠位方向に延びている。拡張溝部160Cの幅は、ステント100のループ104の近位端部を収容できる程に充分大きいが、より狭い長尺状溝部160Bの幅は、機構の圧縮形状時においてはループ104の幅に対して狭すぎる。そため、
図12および
図13に示すように、ループ104ひいてはステント100は、シース132内において圧縮されているときには、管状体160と係合した状態のままである。
【0026】
機構161は、径方向に拡張可能な指状部を形成すべく、多様な方法で製造され得る。一実施形態においては、機構の直径と同等の直径を有する材料が機構内に配置される。その後、徐々により大きな直径の材料を機構内に取り込み、機構を経時的にヒートセットさせる。このようにして、形状記憶物を機構の指状部内に構築することにより、指状部がシースまたはカテーテルによって拘束されていないときに指状部が拡張するようにする。
【0027】
押圧器134がシース132を通って遠位方向に前進し、ステント100がシース132の遠位端から押し出されると、管状体160の指状部160Aは、径方向に圧縮された形状に留まるため、ステント100が保持される。しかしながら、管状体160の遠位端ひいては指状部160Aがシース132の遠位端から延びると、
図14および
図15に示すように、指状部160Aは径方向に拡張するため、長尺状溝160Bの幅が増大する。これによって、ループ104は溝160Bを遠位方向に通過して解放される。そのため、指状部160Aがシース132の遠位端を通り越すまでに、ステント100を回収してシース132内に引き戻し、その後の展開に備えることができる。
【0028】
米国特許出願公開第2010/0268204号および第2015/0289879号は、前述の係合機構161と(または、本明細書中の他の実施形態のいずれとも)共に用いることもできる熱分離システムを詳述しているが、その開示全体を参照により本願に取り込む。一実施形態において、フィラメント(ポリマもしくは金属製)または縫合糸を管状体160における溝160Cの間に巻いて、ステントループ104と同様に解放させてもよい。
【0029】
あるいは、ステント100の一部分を溝160Cの上方に配置し、フィラメントまたは縫合糸を用いてステント100を溝の上方に保持してもよい。フィラメントおよび/または縫合糸から与えられる張力により、管状体160は壊れるまでは閉じた形状に保持される。管状体160が壊れると、指状部が拡張して、事前設定された拡張形状になる。分離システム(例えば、機械的システムまたは上述のように取り込まれた熱分離システム)を用いてフィラメントや縫合糸、またはメッシュ用の保持機構を破壊して保持力を無くしてもよく、指状部160Aを拡張させることができる。このような形状は、展開中における制御を強めたい立場の利用者にとって望ましい場合がある。
【0030】
前述のステント係合機構はステント100のループ104と解放可能に連結し得るが、他の係合機構はステント100の近位端上にある保持アームと連結し得る。例えば、
図16に示すステント170は、ループ104に固定された長尺状アーム162A、162Bを有する。長尺状アーム162A、162Bは近位方向に延び、拡張領域または曲線状部164を伴って終端している。これらの近位方向に延びるアーム162A、162Bおよび曲線状部164により、係合機構はステント170の本体から間隔を空けて配置された近位領域と係合する。これによって、ステント170を押圧器134から解放することなく、ほぼ完全に拡張させることが可能になる。
【0031】
図17に示すこのようなステント係合機構の1つは、押圧器134の遠位端に固定することが可能な管状体180を含む。先述の実施形態と同様に、管状体180は、複数の溝を有する遠位端を含む。溝は好適には、より幅狭の遠位部180B、および溝を終端させる相対的に幅広の近位部180Cを含む。溝180Cのより幅広の近位部は、曲線状部164が内部に進入できるような寸法である一方で、より幅狭の溝部180Bは、シース132内に収納されている間にアーム162A、162Bのうち少なくともいくつかを収容することができる。溝によって形成される指状部180Aは、好適には円筒形支持部およびX線不透過性マーカ部材182に接続され、これらを通り抜けるように押圧器132の心線または誘導ワイヤが配置される。
【0032】
先述の実施形態と同様に、指状部180Aおよび幅広溝部180Cがシース132内に留まる限り、ステント170を血管内においてほぼ展開させた後にもシース132内に引き戻すことができる。しかしながら、押圧器134が前進してシース132の遠位端から出た後は、アーム162Aおよび162Bは径方向に外方に拡張して、曲線状部164を管状体180の幅広近位部180Cから引き出して、ステント100を完全に解放させる。
【0033】
図18および
図19に示す管状部材184は、既述した管状部材180と機能および動作において概ね同様である。しかしながら、管状部材184は、管状部材184の遠位端により近い複数のより幅広の溝部184B、および溝部184Bよりも近位方向に配置された複数のより幅広の溝部184Cを含む。その点、ステント170は、近位溝部184C内にはめ込まれかつ係合するように複数のループ104から延びている相対的に長尺のアーム162Aと、遠位溝部184B内にはめ込まれかつ係合するように他のループ104から延びている相対的に短尺のアーム162Bを含んでいてもよい。溝部184Bおよび184Cをずらすことにより、さらなる円状空間を別に設けることができ、より多数の溝を使用できるようになる。
【0034】
一例において、アーム162A、162Bの長さは、より短尺のアーム162Bとより長尺のアーム162Aの間で円周方向に交互に並んでいてもよく、遠位溝部および近位溝部184B、184Cも同様に交互に並んでいてもよい。一実施形態において、遠位溝部184Bは管状部材184の相互に向き合う側に配置され、近位溝部184Cも同様に管状部材184の相互に向き合う側に配置され、これらの溝はすべて、等しい距離を空けて径方向に相互に離れている。先述の実施形態と同様に、指状部184Aは遠位支持シリンダ182に接続され、遠位支持シリンダ182は、押圧部材134の心線の通路となり、さらにX線不透過性マーカとしても働き得る。
【0035】
図20および
図21に示す管状部材200の別の実施形態は、既述した管状部材184と同様であり、幅広の近位溝部200Cおよび幅広の遠位溝部部200Bを有する。しかしながら、遠位支持シリンダ182が存在しないため、指状部200Aの遠位端が自由に動くようにすることができる。
【0036】
一実施形態において、指状部200Aは、シース132の遠位端から出る際に放射状の位置に留まるため、遠位溝200Bおよび近位溝200Cの寸法が維持される。別の実施形態においては、指状部200Aは、径方向に拡張するようにヒートセットされるため、シース132内に配置されているときには径方向に圧縮されたままであり、シース132の外に動いたときには径方向に開口、すなわち「開花」する。径方向に開口した後、遠位溝200Bおよび近位溝200Cも寸法が大きくなるため、曲線状部164をより容易に解放させることができる。
【0037】
管状部材を有する先述の実施形態と同様に、シース134の心線206は、管状部材200を通り抜け、さらに遠位ではステント100の遠位端に配置される。このような配置にすることにより、ステント100を心線206の先で圧縮することができ、ステント100を牽引してシース134から出す動作を支援するさらなる摩擦を与えることができる。
【0038】
図22に示すステント係合機構210の別の実施形態において、保持ワイヤ214は、ステント100のループ104のうち少なくとも一部を通過し、押圧器234の遠位部212に解放可能に接続される。保持ワイヤ214の一端は、押圧器234の遠位部212にある位置217に沿って接合または接着される。保持ワイヤ214の反対側の端部に設けられた拡張された曲線状部216は、遠位部212にある開口部または切欠き212A内に嵌められる。
【0039】
シース132内にある間、曲線状部位216は切欠き212A内に留まるため、保持ワイヤ214はステントループ104を通り抜ける閉ループ内に維持される。この点について、ステント100をシース132から完全にまたはほぼ完全に展開させた後、シース132内に後退させて、その後の再展開に備えることができる。ステント100を所望の位置に置いた後、押圧器134をさらに遠位方向に前進させると、遠位部212および切欠き213Aがシース132の外部に露出する。このような配置によれば、曲線状部216を切欠き212Aから取り外し、保持ワイヤ214によって形成されたループを開くことができる。押圧器134を近位方向に引くと、保持ワイヤ214が牽引されてシース132内へ戻る。
【0040】
1本の保持ワイヤ214および切欠き216のみを
図22に図示しているが、複数の保持ワイヤ214を設けてもよい(例えば、2〜6本)。これらの複数の保持ワイヤ214は、別々のループ104または完全に同一のループ104を通り抜けるものでもよい。保持ワイヤ214は、ニチノールなどの金属製であってもよく、直線状にヒートセットするか、または曲げに耐え非拘束時には略直線状となる剛性を有していてもよい。
【0041】
図23に示すステント係合機構220のさらに別の実施形態は、複数の押圧マーカバンド228を有する。押圧マーカバンド228を用いると、ステントループ104上のマーカコイル106との接触およびマーカコイル106の牽引が可能になる。これによって、ステント100はシース132内に引き戻される。押圧マーカバンド228は、近位マーカバンド221および遠位接着位置226(例えば、マーカバンドまたは接合)で接続されたワイヤ224に接して固定可能となり、押圧器134の心線222から離れて曲がるか、またはしなる。マーカバンド228は、心線222(または、代替的に誘導ワイヤ)に対して「浮遊」するため、(心線222と直接接着された静的固定具とは対照的に)マーカバンド228は比較的より自由な移動が可能になり得る。よって、ステントループ104のマーカコイル106との係合性が向上する。
【0042】
図23には2本のワイヤ224が図示されているが、マーカコイル106に対応する任意の数のワイヤ224が利用可能である(例えば、1〜8本)。各ワイヤ224は、任意の数のマーカバンド228、例えば、1〜4本のバンドを含んでいてもよい。近位マーカバンド221は、管、巻コイルまたは同様の構造から形成されてもよく、押圧器134が遠位方向に前進すると、ループ104の近位端を押圧して、ステント100をシース132の外に出す。
【0043】
先の実施形態と同様に、ステント100をシース132からほぼ完全に展開することや、シース132内に引き戻すことができる。詳細には、マーカコイル106がマーカバンド228と接触し続けられるようにステント100の近位端が圧縮されたままであると、押圧器134の後退に起因して、マーカバンド228の近位端がマーカコイル106の遠位端と接触する。これによって、シース138内でステント100が近位方向に牽引され、後の再展開に備えることができる。
【0044】
図24に示すステント係合機構230は、前述した機構220とほぼ同様である。しかしながら、近位位置および遠位位置で接続された弓形のワイヤ224を用いるのではなく、ワイヤ225は、近位マーカバンド221のみと接続され、径方向外方に延びる。マーカバンド228は、ワイヤ225の遠位端またはその近隣に配置されるため、コアワイヤ222から径方向に間隔を空けて配置される。この点について、マーカバンド228は、押圧器134を近位方向に後退した際にステント100のマーカコイル106との接触が可能になるように、
図23の実施形態と同様の位置に配置される。ここでも、2本のワイヤ225のみが
図24では示されているが、複数本のワイヤを設けることが可能である(例えば、2〜8本のワイヤ)。
【0045】
図25および
図26に示す編みステント230は、相対的に大きな単一の近位ループ232を有するように織られているため、ステント230をシース132から完全に展開させた後、シース132内へ引き戻すことができる。好適には、ステント230の端ワイヤは、対称的に曲線状である2本のワイヤ234Aおよび234bに接合され、「V」字型のループ232内において近位方向に終端する角度付きの近位端を形成する。2本のワイヤ234Aおよび234Bは好適には、ステントの端部における反対側の端部の近隣ではなく、ステント230の最近位端部のみにおいて相互に接合されるため、ワイヤ234A、234Bによって形成されたループをシース134内でより容易に壊すことが可能になる。このような近位ループステント230により、間隙が空いている近位ループ232が得られる。近位ループ232は、本明細書中で既述したステント係合機構のうちの多く、例えば、機構210に接続されてもよい。
【0046】
2本のワイヤ234A、234Bは、ステント230を構成するその他のワイヤよりも大きな直径であってもよいため、これらのワイヤを共に接合することがより容易になる。2本のワイヤ234A、234Bは、ステント本体内で編まれたワイヤとは分離していて別個のものであってもよく、または、ステント230の長さに沿ってその他のワイヤと共に編まれていてもよい。好適には、ステント本体を構成するその他のワイヤは、ワイヤ234A、234Bの内側で接合される。
【0047】
一般的に、他に明記無き限り、既述した実施形態の構成要素は、ニチノールなどの形状記憶合金および/またはポリマで構成される構成要素を有していてもよい。
【0048】
ここまで、インプラント送達システム材料について説明した。いくつかの実施形態において、インプラント送達システムは、共に固定された複数の管または複数の要素を含む。これらの実施形態において、送達システムのいくつかの部分の材料は、他の部分の材料と異なっていてもよい。よって、例えば、インプラント送達システムのより近位の部分に高強度材料を用いて押圧強度を高めてもよく、その一方で、インプラント送達システムのより遠位の部分に高形状記憶材を用いて、
図14に示す径方向に拡張可能な「開花」効果を増強させてもよい。
【0049】
上述した送達システムの実施形態は、多様なステントの寸法やカテーテルの寸法に適応できるように、多様な直径を有し得る。一例において、送達システムの直径は、約0.005インチ〜約0.05インチであってもよい。
【0050】
本明細書のインプラント送達システムは、多様なインプラント、例えば、多様なオクルーダ、塞栓性コイルまたは他のインプラントの送達に用いられ得るが、「ステント」という用語は、本明細書全体において便宜的に用いられるものである。
【0051】
本明細書中、カテーテルまたはシースという用語を、インプラント送達システムが使用時に通り抜ける構造体を説明するために用いることがあるが、送達システムは多様な送達装置、例えば、ハイポチューブまたは他の送達装置に用いることができる点に留意されたい。よって、インプラント送達システムを、任意の種類の送達装置を通じてのインプラントの送達に用いることができる。
【0052】
掲載した各図は、単に理解の補助のための表示および/または例示として図示したものであり、明示的に図示されたものに限定されない。同様に、すべての寸法は、単に理解の補助のための説明的例示であり、制限的なものではない。
【0053】
本発明を特定の実施例および用途について述べてきたが、当業者であれば、本教示を考慮して特許請求の範囲に記載された発明の意図および範囲から逸脱することなく、他の実施例および変形例を創出することが可能である。したがって、図面および本明細書内の説明は、本発明の理解を容易にすることを目的として、一例として提示されるものであり、発明の範囲を制限するものと解釈すべきではないと理解すべきである。