(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816157
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】ジェット混合ツールを伴う液体ターゲットX線源
(51)【国際特許分類】
H01J 35/08 20060101AFI20210107BHJP
H01J 35/16 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
H01J35/08 B
H01J35/08 Z
H01J35/16
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-545177(P2018-545177)
(86)(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公表番号】特表2019-507479(P2019-507479A)
(43)【公表日】2019年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2017054752
(87)【国際公開番号】WO2017149006
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2020年1月28日
(31)【優先権主張番号】16158038.6
(32)【優先日】2016年3月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】317016811
【氏名又は名称】エクシルム・エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】トゥオヒマー、トミ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン、ゲーラン
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004-505421(JP,A)
【文献】
特開2006-86110(JP,A)
【文献】
特表2006-527469(JP,A)
【文献】
特表2012-516002(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0179388(US,A1)
【文献】
M. Otendal et al.,Stability and debris in high-brightness liquid-metal-jet-anode microfocus x-ray sources,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2017年 1月17日,vol.101, #026102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H05G 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源(100)であって、
相互作用領域(I)を伝播する液体ジェット(112)を形成するように構成されたターゲット生成器(110)と、
X線放射線(124)を発生させるために、電子ビームが前記液体ジェットと相互作用するように前記相互作用領域に向けられた前記電子ビーム(122)を提供するように構成された電子源(120)と、
相互作用領域の下流における液体ジェットの最大表面温度(Tmax)が閾値温度未満になるように、相互作用領域の下流の所定の距離の位置において液体ジェットの混合を引き起こすように構成された混合ツール(130)とを具備するX線源(100)。
【請求項2】
前記閾値温度は、前記液体ジェットの蒸気圧が前記液体ジェットにかかる圧力に等しいときの温度に対応することを特徴とする、請求項1に記載のX線源。
【請求項3】
前記相互作用領域の下流に配置されたシールド(140)をさらに備え、前記シールドは開口(142)を具備し、前記開口を前記液体ジェットが通過するように構成された、請求項1又は請求項2に記載のX線源。
【請求項4】
前記開口は、前記相互作用領域から前記所定の距離の範囲内に配置されることを特徴とする、請求項3に記載のX線源。
【請求項5】
前記シールドは、前記液体ジェットを収集する収集容器(150)上に配置されることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載のX線源。
【請求項6】
前記収集容器と前記ターゲット生成器との間に配置され、前記液体ジェットの前記収集された液体を前記ターゲット生成器に循環させるよう構成された閉ループ循環システム(160)をさらに備える、請求項5に記載のX線源。
【請求項7】
前記相互作用領域から外方を向く前記シールドの側に、前記液体に由来する汚染物質を検出するためのセンサをさらに備える、請求項3から請求項6のうちのいずれか一項に記載のX線源。
【請求項8】
前記混合ツールは、前記液体ジェットと交差するように配置された表面から形成されることを特徴とする、請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載のX線源。
【請求項9】
前記混合ツールは、前記液体ジェットに追加の液体(132)を供給するように構成された液体源であることを特徴とする、請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載のX線源。
【請求項10】
前記液体源は、前記追加の液体のプールによって形成されることを特徴とする、請求項9に記載のX線源。
【請求項11】
請求項9に記載のX線源であって、
前記プールの前記追加の液体のレベルを測定するためのセンサと、
前記センサからの出力に基づいて前記レベルを制御するレベル制御装置とを具備するX線源。
【請求項12】
前記液体源は、追加のジェットの形態で前記追加の液体を供給するように構成されることを特徴とする、請求項9に記載のX線源。
【請求項13】
前記追加ジェットの速度は、前記液体ジェットの進行方向に対して非負成分を含むことを特徴とする、請求項12に記載のX線源。
【請求項14】
前記液体源は、前記液体ジェットと交差する液体カーテンの形態で前記追加の液体を供給するように構成されていることを特徴とする、請求項9に記載のX線源。
【請求項15】
前記液体源は、前記液体ジェットと交差するように配置された斜面上に前記追加の液体を供給するように構成されていることを特徴とする、請求項9に記載のX線源。
【請求項16】
前記液体ジェットは、液体金属ジェットであることを特徴とする、請求項1から請求項15のうちのいずれか一項に記載のX線源。
【請求項17】
前記追加の液体は、液体金属であることを特徴とする、請求項9から請求項16のうちのいずれか一項に記載のX線源。
【請求項18】
X線放射線を発生させる方法であって、
相互作用領域を伝播する液体ジェットを形成すること(710)と、
X線放射線を発生するために、電子ビームが相互作用領域において前記液体ジェットと相互作用するように前記液体ジェットに向けて前記電子ビームを指向すること(720)と、
前記相互作用領域の下流の前記液体ジェットの最大表面温度が閾値温度未満になるように、前記相互作用領域の下流の所定の距離の位置で、混合ツールによって、液体ジェットの混合を引き起こすこと(730)と、を含む方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記混合を引き起こすことは、前記所定の距離を、
−前記液体ジェット中への前記電子ビームの浸透深さ(δ)と、
−前記ジェットの速度(vj)と、
−前記液体ジェット内の電子速度(ve)と、
−前記液体ジェットの沸点と、
−前記液体ジェットの蒸気圧と、
−前記液体ジェットの熱拡散率(α)とのうち少なくとも一つに基づいて決定することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、一般的に、電子衝撃X線源に関する。特に、本発明は、ターゲットとしての液体ジェットと、温度制御のためのジェット混合ツール利用したX線源に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ターゲットを照射してX線を発生させるシステムは、本出願人の国際出願PCT/EP2012/061352及びPCT/EP2009/000481に記載されている。これらのシステムでは、高電圧陰極を含む電子銃が、液体ジェットに衝突する電子ビームを生成するために利用される。ターゲットは、好ましくは、真空チャンバ内に設けられた、インジウム、スズ、ガリウム鉛、ビスマス、又はそれらの合金等の低融点液体金属によって形成される。液体ジェットを提供する手段は、ヒータ及び/又はクーラ、加圧手段(機械的ポンプ又は化学不活性高圧ガス供給源等)、ノズル、及びジェットの端部で液体を収集するための貯蔵槽を含み得る。動作中に、電子ビームによって衝突される液体ジェットの部分である空間上の位置は、相互作用領域または相互作用ポイントと称される。電子ビームと液体ジェットとの相互作用により発生するX線放射線は、真空チャンバを周囲環境から隔てる窓を介して真空チャンバから射出することができる。
X線源の動作中、液体ジェットからのデブリ(debris)及び蒸気を含む自由粒子は、窓及び陰極上に堆積する傾向がある。このため、堆積したデブリが窓を覆い、陰極の効率を低下させると、システムの性能の漸進的低下を引き起こす。PCT/EP2012/061352において、陰極は、陰極に向かって移動する荷電粒子を偏向させるように構成された電界によって保護される。PCT/EP2009/000481において、窓に堆積した汚染物質を蒸発させるため、熱源が用いられる。
【0003】
このような技術は、真空チャンバ内の汚染物質によって引き起こされる問題を低減することができるが、耐用年数を延ばし、メンテナンス間隔を延ばすように改良されたX線源が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、上記問題点の少なくとも一部に対処するX線源を提供することを目的とする。特に、メンテナンスの必要性を減らし、耐用年数が長いX線源を提供することを目的とする。
【0005】
開示された技術のこの目的及び他の目的は、独立請求項に規定された特徴を有するX線源及び方法によって達成される。有利な実施形態は従属請求項に規定されている。
【0006】
従って、本発明の第1の態様によれば、ターゲット生成器と、電子源と、混合ツールとを備えるX線源が提供される。ターゲット生成器は、相互作用領域を通して伝搬する液体ジェットを形成するように構成され、電子源は、電子ビームが液体ジェットと相互作用し、X線放射線を発生させるように、相互作用領域に向けて電子ビームを供給するように構成される。本態様では、混合ツールは、相互作用領域の下流の液体ジェットの最大表面温度が閾値温度未満になるように、相互作用領域の下流の所定の距離の位置において液体ジェットの混合を引き起こすように構成される。
【0007】
第2の態様によれば、対応するX線放射線発生方法が提供される。この方法は、相互作用領域を通して伝搬する液体ジェットを形成するステップと、相互作用領域において電子ビームが液体ジェットと相互作用し、X線放射線を発生させるように、電子ビームを相互作用領域に指向するステップと、混合ツールによって液体ジェットの混合を引き起こすステップとを含む。混合は、相互作用領域の下流の液体ジェットの最大表面温度が閾値温度未満になるように、相互作用領域の下流の所定の距離の位置において誘起される。
【0008】
混合ツールは、相互作用領域の下流の所定の距離の位置において液体ジェットを妨害又は相互作用するように構成されたエッジ又は表面によって実現されてもよい。従って、液体ジェットは、最大表面温度が閾値未満に保たれるように、内部で、即ちジェット内で混合されてもよい。代替的に、又は追加的に、混合ツールは、前記所定の距離の位置において液体ジェットに追加の液体を供給又は追加するように構成された液体源によって実現されてもよい。追加の液体の供給により、液体と電子ビームとの間の相互作用によって加熱されたジェットの一部が、ジェットの他の、低加熱化された、若しくは低温部分によって、及び/又は追加の液体によって冷却され得るように、ジェットの液体の混合又は攪拌を引き起こすことができる。言い換えれば、ジェット内の局所的な温度勾配は、相互作用領域の下流における液体ジェットの最大表面温度が閾値温度未満に保たれるように、ジェット内で混合することによって、変更することができる。さらに、追加の液体は、いくつかの例では、表面温度を低下させるか、又は少なくとも閾値温度未満に保たれるように、液体ジェットの少なくとも一部を封入するカバー又はコーティングを形成することができる。他の例では、追加の液体は、ジェットの液体が埋め込まれ、浸漬され又は混合される貯蔵器を提供することでき、それによりジェットの液体の温度が閾値温度未満に保たれる。「追加の液体」という用語は、相互作用領域でジェットの一部を形成しない液体、即ち相互作用領域の下流においてジェットに追加される液体と理解されるべきである。
【0009】
本発明は、驚くほど高い割合の汚染物質、特に液体ジェットからの蒸気に由来するものが、相互作用領域の下流において液体ジェットの表面から発生するという認識に基づいている。本発明者らは、液体の気化の程度が、とりわけ液体ジェットの表面温度に依存し、表面の最高温度が相互作用領域の下流の所定の距離に位置することを見出した。この所定の距離においては、表面からの気化が最大となると考えられる。従って、相互作用領域の下流における表面温度を制御することにより、気化、ひいては汚染物質の量が低減され得る。特に、最大表面温度は、液体ジェットの表面からの蒸気の形成を抑制するように閾値未満に保たれてもよい。
本態様において、液体ジェットの混合は、相互作用領域の下流における最大表面温度を制御又は低減するために利用される。温度制御又は低減は、相互作用領域での電子ビームと液体との相互作用によって誘起される熱の少なくとも一部を吸収するため、相互作用領域の下流においてジェットに液体を追加することにより、又は、ジェットの低加熱部分への誘起された熱の対流を促進するため、ジェットの液体を内部的に混合又は攪拌することにより実現することができる。
【0010】
特定の物理的モデルに従わずとも、相互作用領域とジェットの最大表面温度の位置との間の距離は、液体ジェットへの電子ビームの浸透深さ、液体中の電子速度、液体ジェットの速度、及び液体の熱拡散率等のパラメータに依存すると考えられる。電子が相互作用領域で液体に衝突すると、それらはジェット内の所定の深さまで浸透し、それによりジェット内部の温度を上昇させる。誘起された熱は、その速度によってジェットが下流方向に伝播するにつれて、ジェットの表面に向かって拡散する傾向がある。その結果、ジェットの表面温度は、最大表面温度に達するまで相互作用領域からの距離に従って増加し得る。熱が表面に消散するのに要する時間は、ジェットの速度とともに、相互作用領域と最大表面温度の位置との間の下流の距離に影響する。
【0011】
気化は、本出願の文脈において、液相から蒸気への液体の相転移として理解されるべきである。このような転移の2つの例は、蒸発及び沸騰である。沸騰は、液体の沸騰温度以上で生じ得るが、蒸発は、所与の圧力に対して沸騰温度より低い温度で起こり得る。蒸発は、液体の蒸気の分圧が平衡蒸気圧よりも低いときに起こることがあり、特にジェットの表面で起こり得る。
これらの定義を考慮して、閾値温度は、例えば、ジェットの液体の実際の沸騰温度、蒸気の分圧、又は真空チャンバ内の平衡蒸気圧に基づいて決定することができる。代替的に、又は追加的に、閾値は、性能基準、X線源の動作モード、所望のメンテナンス間隔、又は特定のシステムに対する許容蒸発レベルの経験的研究に基づいて決定されてもよい。一例では、閾値は、熱衝撃電子ビームによって生成され得る潜在的な最高温度に対応してもよい。一般に、気化の程度は表面温度とともに増加するため、表面温度を制御することによって制御することができる。
【0012】
1つの観点からは、表面温度が閾値温度に到達し、表面放出蒸気を最小にするか、又は少なくとも減少させるために十分な時間を与えないようにするために可能な限り相互作用領域に近づけて、追加の液体を追加する(及び/又はジェットの液体を混合させる)ことが望ましい。別の観点からは、相互作用領域に対し影響を及ぼす又は妨害するリスクを低減するために、可能な限り相互作用ポイントから離れた位置に追加の液体を追加する(及び/又はジェットを混合する)ことが望ましい。上記の点にかかわらず、液体が追加される(及び/又は液体ジェットが混合される)位置は表面への熱の拡散によって引き起こされる最大潜在表面温度が、前記位置と相互作用領域との間で生じないように選択されることが好ましい。
【0013】
ジェット用の液体は、例えばインジウム、スズ、ガリウム、鉛若しくはビスマス、又はそれらの合金のような液体金属であってもよい。液体のさらなる例には、例えば、水及びメタノールが含まれる。
【0014】
「液体ジェット」又は「ターゲット」という用語は、本出願の文脈において、例えばノズルを通り、真空チャンバの内部を通って伝播する液体のストリーム又はフロー(流れ)を指すことができる。ジェットは、一般に、実質的に連続的な液体のフロー又はストリームで形成され得るが、ジェットは、追加的又は代替的に、複数の液滴(droplets)を含み、又は複数の液滴から形成され得る。特に、液滴は、電子ビームとの相互作用により生成され得る。そのような液滴の群又はクラスターの例は、「液体ジェット」又は「ターゲット」という用語によって包含されてもよい。
【0015】
従属請求項によって定義される本発明の有利な実施形態をここで簡単に説明する。第1のグループの実施形態は、液体ジェットと相互作用するエッジ又は表面によって混合ツールが形成されるX線源に関する。第2のグループの実施形態は、追加の液体のプールを含む液体源によって実現される混合ツールに関する。プールは、液体ジェットが衝突するプールの表面が、最大表面温度が閾値温度未満に保たれるような相互作用領域の下流の所定の距離に位置するように配置されてもよい。実施形態の第3のグループは、追加の液体ジェットが、最大表面温度が閾値温度に達し、通過するのを妨げる所定の下流の距離の位置で、液体ジェットターゲットと混合される、混合ツールを利用する。
【0016】
一実施形態によれば、混合ツールは、液体ジェットと交差するように配置された表面を含んでもよい。言い換えれば、液体ジェットは、動作中に、液体ジェットに対する傾斜面であり得る表面に衝突し得る。液体ジェットが相互作用領域の下流の上記所定の距離の位置において表面に衝突するように、表面を配置することにより、最大表面温度を閾値温度未満に保つように液体ジェットの混合を引き起こすことができる。
一実施形態によれば、混合ツールは、液体ジェットに追加の液体を供給するように構成された液体源である。追加の液体は、液体ジェットと同じタイプの液体であってもよく、又は異なるタイプであってもよい。好適な追加の液体は、例えば、液体金属、水及びメタノールを含み得る。追加の液体の温度は、相互作用領域の上流の液体ジェットの温度以下であることが有効である。追加の液体の温度がジェットを形成する液体と同様である場合、両者は少なくとも部分的に両者に共通のシステムによってポンプ輸送されるか、又は処理され得る。従って、システムの複雑さ及びコストを低減することができる。相互作用領域の上流の液体ジェットの温度よりも低い温度の追加の液体を使用することは、冷却効率を高めることができる点で有利である。冷却効率を高めることにより、所望の温度制御効果を達成するのに必要な追加の液体の量又はフロー(流れ)をさらに減少させることができる。
【0017】
一実施形態によれば、液体源は、追加の液体のプールによって形成される。追加のジェットと比較すると、プールは、多量の追加の液体を液体ジェットに多かれ少なかれ直ちに供給することができる。これにより、液体ジェットのより迅速な冷却を可能にし、ひいては蒸気量を減少することができる。
一実施形態によれば、X線源は、プールの追加の液体のレベルを測定するためのセンサと、センサからの出力に基づいてレベルを制御するためのレベル制御装置とを備えてもよい。従って、プール内の追加物が液体ジェットに供給されるか又は液体ジェットと混合される位置と、相互作用領域との間の距離の制御及び精度を改善するように、レベル制御が達成され得る。センサは、プールの液体レベルの直接的な測定、又は例えばプールからの流れ(フロー)に基づく間接的な観察を利用することができる。レベル制御装置は、センサからの信号に応答して動作することができ、例えば、プールから排出される液体の量若しくは速度を増加又は減少させることによって実現することができる。
【0018】
一実施形態によれば、液体源は、追加のジェットの形態で追加の液体を供給するように構成されてもよい。追加のジェットは、相互作用ポイントの下流の所望の距離の位置で液体ジェットターゲットと交差するように指向されてもよい。衝突時に、ジェットは互いに混合して、下流方向に伝播する単一のジェットを形成することができる。
【0019】
液体源は、冷却効率を高め、ターゲット上に位置決めし、衝突時に発生する飛沫及びデブリのリスクを低減するように、追加のジェットをターゲットと位置合わせするよう構成されてもよい。
【0020】
一実施形態によれば、追加ジェットの速度は、液体ジェットターゲットとの混合を容易にし、飛沫及びデブリのリスクをさらに低減するように、液体ジェットの移動方向に対して非負成分を含んでもよい。このような衝突斜角によっても、追加のジェットが相互作用領域に影響を与えるリスクを低減することができる。
【0021】
一実施形態によれば、液体源は、追加の液体を液体カーテンの形態で液体ジェットに供給するように構成されてもよい。これは、例えば、追加の液体をシート又はフィルム、即ち、液体ジェットが交差又は衝突する実質的に二次元の広がりをもった物体に形成することによって実現されてもよい。液体ジェットと液体カーテンとの間の相互作用により、液体ジェットがカーテンと合体するか、又は少なくとも部分的にカーテンを通過することができる。追加の液体は、例えば重力を一次加速力として利用して垂直方向に、又は垂直方向と交差する方向に伝搬することができる。追加の液体を液体カーテンの形態で提供することにより、可能な衝突領域が増加し、液体ジェットによる衝突がより容易になる。さらに、液体カーテンは、カーテンを通る汚染物質の移動を制限するか、又はさらには妨げるシールドとしての役割を果たすことができる。従って、液体カーテンは、例えば、X線源で発生した飛沫及びデブリを保持するために使用することができる。
一実施形態によれば、X線源は、相互作用領域の下流に配置されたシールドをさらに備えてもよい。シールドは、液体ジェットが通過できるように配置された開口を備えることができる。シールドは、例えば、ジェットを収集する貯蔵槽から、シールドの下流で発生した飛沫及びデブリを保持するために設けられてもよい。真空チャンバ内に拡散し、電子源に堆積し、相互作用領域を妨害し、窓に堆積する代わりに、飛沫やデブリは、シールドの下側、即ち、シールドの下流側に堆積してもよい。
【0022】
シールド及び開口は、液体ジェットとの関係で、相互作用領域内のジェットの速度が重力方向に対して垂直な成分を有するように配置されてもよい。このようにして、シールドの下流で生成された液体の飛沫及びデブリを相互作用領域から遠ざけることができ、真空チャンバ及びその中に設けられる様々な構成要素を汚染するリスクをさらに低減することができる。例えば、重力方向に対してある角度を有する方向にターゲット液体ジェットを設けることによって、このような配置を行う場合、X線発生効率を最大にするか、又は少なくとも増加させるように衝突時における液体ジェットの表面に対して実質的に垂直になるように電子ビームを配置することが効果的である。
一実施形態によれば、開口は、相互作用領域と追加の液体が液体ジェットに供給される液体ジェットの位置との間に配置され、それにより、衝突ジェットによって生成された飛沫又はデブリが相互作用領域に影響を及ぼし、及び/又は、真空チャンバ内で拡散するのを妨げる。
【0023】
一実施形態によれば、X線源は、相互作用領域の反対側に面するシールド側で、ジェットの液体に由来する汚染物質を検出するためのセンサを含んでもよい。センサは、開口の目詰まりの検出を可能にする。
【0024】
一実施形態によれば、シールドは、液体ジェットを収集するための収集容器上に配置されてもよい。
一実施形態によれば、追加のジェットは、電子ビームの方向において相互作用領域と電荷収集センサとの間の視線(line of sight)を妨害しないように配置されてもよい。電荷収集センサは、電子ビームがジェット上を走査するときのターゲット液体ジェットの位置又は方向を検出し、電子がセンサに到達したとき及び、ビームがジェットによってブロックされたときを検出するために使用され得る。このようにして、電子ビームの集束、ひいては、相互作用領域のサイズを正確に調整することが可能である。
【0025】
一実施形態によれば、X線源は、閉ループ循環システムを含むシステムをさらに備えるか、又はそのシステムに配置され得る。循環システムは、収集容器とターゲット生成器との間に配置されてもよく、液体ジェットの収集された液体及び/又は追加の液体をターゲット生成器に循環させるように構成されてもよい。閉ループ循環システムは、液体を再利用することができるので、X線源の連続的な動作を可能にする。閉ループ循環システムは、以下の例に従って操作することができる。
・閉ループ循環システムの第1の部分に含まれる液体の圧力は、高圧ポンプを用いて、少なくとも10バール、好ましくは、少なくとも50バール以上に上昇される。
・加圧された液体はノズルに導かれる。導管を通るいずれの導通も状況によっては無視できる程度の圧力損失を伴うが、加圧された液体は10バールを超える圧力、好ましくは50バールを超える圧力でノズルに到達する。
・液体は、液体ジェットを生成するために、相互作用領域が位置する真空チャンバ内にノズルから排出される。
・排出された液体は、相互作用領域を通過した後、収集容器内に収集される。
・収集された液体の圧力は、流れ方向における収集容器と高圧ポンプとの間に位置する閉ループ循環システムの第2の部分において、高圧ポンプの吸入側圧力(入口圧力)まで上昇する(即ち、システムの通常の動作中、液体は収集容器から高圧ポンプに向かって流れる)。高圧ポンプの信頼性が高く、安定した動作を提供するために、高圧ポンプの入口圧力は少なくとも0.1バール、好ましくは少なくとも0.2バールである。
これらのステップは典型的には連続的に繰り返される。即ち、入口圧力の液体は再び高圧ポンプに供給され、少なくとも10バール等まで再び加圧される。これにより、液体ジェットの相互作用領域への供給は連続的な閉ループ方式で行われる。
【0026】
上記システム及び方法は、追加の液体を例えば追加のジェットの形態で提供するために、少なくとも部分的に利用されてもよい。このシステム及び方法は、追加のジェットが追加のノズルから排出される場合、ノズルからの噴出まで同じであってもよい。しかしながら、両方のノズルは、システムの構造的に共通する部分に一体化されていてもよく、それにより、それらの相対的な位置合わせを容易にすることができる。
【0027】
より一般的には、温度制御を適用することができる。システム内の損傷を受けやすい部品の腐食及び過熱を避けるために電子衝撃によって生成された過剰な熱を除去することとは別に、システムの他の部分で液体を加熱する必要があり得る。液体が高い融点を有する金属であり、電子ビームによって供給される熱電力が、システム全体にわたって金属の液体状態を維持するのに十分でない場合、加熱が必要とされ得る。特に不都合なことに、温度が臨界レベルを下回ると、収集容器の内壁の液体金属の衝突部分の飛沫が固化し、システムの液体循環ループから失われ得る。例えば、システムの一部のセクションを断熱することが困難であることが判明した場合等、運転中に大きな外向きの熱流が発生する場合は、加熱が必要な場合もある。また、使用される液体が典型的な周囲温度において液体でない場合、始動のための加熱が必要とされることもある。従って、システムは、リサイクルされた液体の温度を調節するための加熱手段及び冷却手段の両方を備えてもよい。追加の液体は、いくつかの例では、別個の温度制御を施されてもよい。例えば追加の液体が相互作用領域の上流の液体ジェットの温度よりも低い温度に保たれるようにしてもよい。
【0028】
いくつかの実施においては、X線源は、液体がシステム内での循環中に1つ又は複数のフィルタを通過し得るシステム内に配置されてもよい。例えば、通常の流れ方向において、収集容器と高圧ポンプとの間に比較的粗いフィルタを配置し、通常の流れ方向において、高圧ポンプとノズルとの間に比較的細かいフィルタを配置してもよい。粗いフィルタと細かいフィルタは、別々に、又は組み合わせて使用することができる。液体のフィルタリングを含む実施形態は、固体汚染物質が、システムの他の部分に損傷を与える前に捕捉され、循環から除去され得る限り有効である。
【0029】
開示された技術は、X線源に上記の方法を実行させるようにプログラム可能なコンピュータを制御するためのコンピュータ可読命令として実施することができる。そのような命令は、命令を格納する不揮発性のコンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品の形態で分配することができる。
【0030】
上記の第1の態様によるX線源について上述した実施形態の特徴のいずれかを、本発明の第2の態様による方法と組み合わせることができる。
【0031】
本発明のさらなる目的、特徴及び利点は、以下の詳細な開示、図面及び添付の特許請求の範囲を参酌することで明らかになるであろう。当業者であれば、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に説明する実施形態以外の実施形態を創作できることを理解できるであろう。
本発明の上記及び追加の目的、特徴及び利点は、以下の例示的及び非限定的な本発明の実施形態の詳細な説明により一層理解されるであろう。以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明のいくつかの実施形態によるシステムの側面断面図を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明のいくつかの実施形態によるシステムの側面断面図を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明のいくつかの実施形態によるシステムの側面断面図を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、一実施形態による液体ジェットの一部における相互作用領域を示す図である。
【
図5】
図5は、衝突電子のエネルギーの関数として相互作用領域と最大表面温度の位置との間の距離を示す図である。
【
図6A-6D】
図6A−6Dは、一実施形態による、相互作用領域において誘起された熱の伝搬を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態による方法のフローチャートである。
【0033】
すべての図面は、模式的であり、必ずしも縮尺通りではなく、一般に、本発明を説明するために必要な部分のみを示しており、他の部分は省略されているか又は単に示唆されている。
【0034】
次に、
図1を参照して、本発明の一実施形態によるX線源100を含むシステムについて説明する。
図1に示すように、真空チャンバ170は、囲い175と、真空チャンバ170を周囲環境から隔てるX線透過窓180とによって規定され得る。X線124は、電子ビーム122からの電子が液体ジェット112のターゲットと相互作用する相互作用領域Iから生成することができる。
【0035】
電子ビーム122は、相互作用領域Iに向けられた、高電圧陰極を含む電子銃120等の電子源によって生成することができる。
ターゲット生成器110によって生成され得る液体ジェット112が相互作用領域Iを交差してもよい。ターゲット生成器110は、例えば液体金属のような液体が噴出されて、相互作用領域Iに向けて及び相互作用領域Iを通して伝播するジェット112を形成するノズルを備えてもよい。
【0036】
開口142を有するシールド140は、液体金属ジェット122が開口142を通過できるように、相互作用領域Iの下流に配置されてもよい。いくつかの実施形態では、シールド140は、液体金属ジェット122の端部に、好ましくは収集容器150と連携して配置されてもよい。シールド140の下流において液体金属から生成されたデブリ、飛沫及び他の粒子は、シールド上に堆積されることによって、真空チャンバ170の汚染することを防止できる。
【0037】
システムは、収集容器150とターゲット生成器110との間に配置された閉ループ循環システム160をさらに含んでもよい。閉ループシステム160は、ターゲットジェット112を生成するために、少なくとも10バール、好ましくは少なくとも50バール以上に圧力を上昇させるように構成された高圧ポンプ162によって、収集された液体金属をターゲット生成器110に循環させるように構成されてもよい。
【0038】
さらに、ジェット112の液体金属の混合を引き起こすため、相互作用領域Iの下流の所定の距離の位置において、混合ツールが設けられてもよい。混合ツールは、例えば、前記所定の距離の位置において、液体ジェット112に追加の液体132を供給するための液体金属源130であってもよい。追加の液体132は、ジェット112の液体の混合を引き起こすため、及び/又は相互作用領域Iに衝突する電子によって液体ジェット112に誘起された熱の少なくとも一部を吸収若しくは再分配するために供給されてもよい。前記所定の距離は、好ましくは、液体ジェットから生じる蒸気量を減少するために、相互作用領域Iの下流の液体ジェット112の最大表面温度が閾値温度未満に保たれるように選択される。
【0039】
図1において、追加の液体132は、追加の液体金属ジェット132の形態で供給される。追加のジェット132は、追加のジェット132を、相互作用領域Iの下流の所望の位置で液体金属ジェット112と交差させるように構成された追加のノズル130によって形成することができる。
図1の例示的な実施形態を参照すると、追加のジェット132は、電子ビーム122と干渉しないように(又は生成されたX線ビーム124を遮蔽するように)、電子ビーム122及び液体金属ジェット112と一致する平面と交差するように指向されてもよい。しかしながら、追加の液体132が例えば液体金属ジェット112と交差する液体カーテンの形態で供給される等の他の構成もまた考えられる。液体カーテン(又は液体ベール又はフィルム)は、例えば、実質的に連続する液体金属のカーテン又はシートに組み合わされる追加のジェット132のアレイを生成するスリット形状の追加ノズル130又はノズル130のアレイによって形成されてもよい。
図2は、
図1を参照して説明したものと同様のシステムを開示する。しかし、本実施形態では、液体源130は、液体金属132等の追加の液体のプール130によって実現され、プール130は、最大表面温度を閾値未満に保つため、相互作用領域Iの下流の所望の位置で、プール130の表面が液体金属ジェット112と交差するように配置される。
図2に示すように、プール130は、液体金属ジェット112の端部で液体金属を収集するための収集容器150及びシールド140と組み合わされてもよい。シールド140は、開口142が相互作用領域Iとプール130の表面との間に位置するように配置されてもよい。プール130は、プールの追加の液体金属132のレベルを測定するためのセンサと、センサからの出力に基づいて当該レベルを制御するレベル制御装置(センサ及びレベル制御装置は
図2には示されていない)をさらに備えてもよい。
【0040】
図3は、
図1及び
図2を参照して説明した実施形態と同様に構成することができるシステムのさらなる実施形態を示す。この実施形態によれば、システムは、相互作用領域Iの下流の所定の距離の位置で液体ジェットの混合が誘起されるように液体ジェット112と相互作用又は干渉するように構成された混合ツール130を備えてもよい。所定の距離の位置又は混合ポイントは、
図1及び
図2の実施形態による追加の液体132が液体ジェット112に供給される位置に対応してもよい。混合ツール130は、例えば、伝播する液体ジェット112の少なくとも一部に挿入されるエッジを含んでもよく、又はジェット112の液体内で混合を引き起こすようにジェット112全体又はジェット112の少なくとも一部が衝突する表面によって形成されてもよい。
図1及び
図2に関連して上述したように、混合は、追加の液体金属132の供給によって実現又は誘起されてもよい。
【0041】
上述の実施形態は、
図1を参照して説明したシールド140と組み合わされてもよい。シールド140は、追加の液体金属132が液体金属ジェット112に供給される位置及び/又は混合が誘起される位置の下流に配置されてもよい。しかし、代替の実施形態によれば、シールド140は、開口142が、相互作用領域Iと、追加の液体金属132の供給のための位置及び/又は混合が誘起される位置との間に位置するように配置されてもよい。
【0042】
図4は、前述の実施形態のいずれか1つによる液体ジェット112の一部の断面側面図を示す。この例では、液体ジェット112は速度v
jで相互作用領域Iを通して伝搬する。さらに、電子が速度v
eで液体ジェットに向かって伝播し、相互作用領域Iにおいてジェット112の液体と相互作用する電子ビーム122が示されている。ジェット112への電子の浸透深さは、
図4においてはδで示されている。以下では、ジェットの最大表面温度の位置の推定方法の例を示す。しかしながら、これは、熱拡散プロセスにより、ジェットの最大表面熱が相互作用領域の下流の所定の距離に位置することを説明するための物理的モデルに基づく例に過ぎない。このモデルは、液体ジェット内の温度が液体ジェットの沸点を超える場合には適用できない。相互作用領域Iと最大表面温度を有する位置との間の距離を決定する他の方法も考えられる。
【0043】
液体ジェット112に衝突する電子は、とりわけ衝突電子のエネルギーに依存する特徴的な浸透深さδを有してもよい。電子が液体に浸透するのにかかる時間は、例えば、電子が受ける散乱事象に依存する。入射電子速度v
eを用いて、この時間の控えめな推定(conservative estimate)を得ることができる。推定値は、電子の入射方向に実質的に垂直な散乱量を考慮することによって改善することができる。これは以下の関係により示される。
【0045】
ここで、E
0は入射電子のエネルギー(keV)、ρはターゲット密度(g/cm
3)、δは浸透深さ(μm)である。相互作用ボリュームの幅は、同様の近似で、以下のように示すことができる。
【0047】
ここで、yの単位はμmである。従って、電子は、入射方向からtan
−1(0.077/(2×0.1))の角度を有する円錐内に分布することができる。入射線形運動量がそれに応じて分割される場合、順方向の結果として得られる速度は、この角度と入力速度との乗算の余弦である。従って、衝突方向の速度は、入射電子の速度の93%として推定することができる。加速電圧から電子の速度を計算するためには、相対論的効果を考慮する必要があるかもしれない。特殊相対理論によれば、エネルギーE
0keVを有する電子の速度は、以下のように示すことができる。
【0049】
ここで、cは光の速度(m/s)であり、電子の残りの質量は511keVに設定され、vの単位はm/sである。このすべてをまとめると、電子がジェットに浸透するのに必要な時間が以下のように推定される。
【0051】
ここで
、τ
eの単位は(μs)である。
【0052】
熱がジェットの表面に到達して液体が蒸発するのに要する時間は、以下の熱方程式により求められる。
【0054】
ここで、温度Tは時間及び3つの空間次元(x、y及びz)の関数であり、αは熱拡散率(m
2/s)である。液体ジェットに対し、距離δの点における温度上昇ΔTに対応する初期温度分布が想定される場合、過剰温度は以下のように示すことができる。
【0056】
この関数がジェット表面に対応する空間座標に対する最大値に達する時間を求めることにより、最大蒸発率が生じる時間の推定値を得ることができる。初期の上昇温度が適用された点に最も近いジェット表面上の点において、(x、y、z)=(δ、0、0)となるように座標系を選択することにより、tに関しTを導出し、導関数をゼロとすると、以下が導き出せる。
【0058】
ここで
、τ
Tは、ジェット表面の温度がその最大に達する時間である。
【0059】
従って、最大ジェット表面温度に到達するまでの、相互作用ポイントからの距離は、以下のように示すことができる。
【0063】
は、ジェット表面に垂直な方向におけるジェット内部の電子速度である。これは、上記の浸透深さと電子速度の式を適用することにより、以下のように示すことができる。
【0065】
ここでもまた、ρの単位はg/cm
3であり、E
0の単位はkeVであり、dの単位はμmである。液体ガリウムジェットX線源に現実的な値(ρ= 6g/cm
3、α≒1.2×10
−5m
2/s、E
0=50keV、v
j=100m/s)を代入することにより、約50μmの距離が得られる。電子エネルギーを100keVまで上げることができれば、距離はこの例によれば、ほぼ400μmまで増加し、同じ設定でジェット速度を1000m/sまで上げることができれば、距離は4mmに近づけることができる。
【0066】
ほとんどの実用的な目的のためには、電子がそれらの浸透深さに達するのに要する時間に対応する、上記括弧内の第2項は無視できることが分かる。そこで、簡単のため、距離dを以下のように推定することができる。
【0068】
このモデルによる電子エネルギーと距離dとの関係は、
図5に示されており、
図5は、液体ジェットの2つの異なる速度v
jについて、相互作用領域と最大表面温度T
maxの位置(即ち、追加の液体又は混合が使用されない場合)との間の距離d(mm)を電子エネルギーE
0(keV)の関数として示す。曲線Aは、上記の例示的なシステム、即ちρ=6g/cm
3、α≒1.2×10
−5m
2/s及び液体ジェット速度v
jが100m/sの場合の距離dを表す。示されているように、これにより、50keVの電子エネルギーに対して約50μmの距離d及び100keVの電子エネルギーに対して約0.4mmの距離dが結果として得ることができる。液体ジェットの速度v
jを1000m/sまで増加させると、本モデルによれば、曲線Bで表されるように、50keVの電子エネルギーについて約0.5mmの距離dが得られ、100keVの電子エネルギーについて約3.8mmの距離dが得られるであろう。この関係、又は距離dの他の推定は、最大表面温度が閾値を超えないように、追加の液体を伝搬ジェット上のどこに供給するかを決定するために使用されてもよい。換言すれば、追加の液体は、最大表面温度を低下させるために、相互作用領域と推定距離dとの間の位置に供給されてもよい。適切な距離の例は、50μmから4mmの範囲に含まれてもよい。
【0069】
図6Aから
図6Dは、衝突電子によって相互作用領域Iに誘起される熱の経時的な拡散を示す一連の図である。
図4と同様に、
図6Aから
図6Dは、本発明の一実施形態による液体ジェット112の一部の断面側面図を示す。液体の加熱された部分又は領域Hの膨張及び伝播は、相互作用領域Iの位置に関連して示される。
図6Aは、衝突直後の加熱領域Hを示し、相互作用領域Iに位置する比較的小さい領域Hを示す。時間の経過とともに、加熱された領域は、熱拡散によって膨張し、ジェット112の速度v
jによって下方に伝搬する。これは、
図6B及び
図6Cに示されているように、僅かに増加した領域Hが相互作用領域Iの次第に下流に位置している。最後に、
図6Dでは、加熱領域Hがジェット112の表面まで膨張している。これは、ジェットの下流の距離dの位置で生じ、その表面はその最大温度T
maxに達し、従ってその最大気化に達する。従って、例えば追加の液体を供給することによって、そうしなければ最大温度T
maxとなる位置の上流の位置において、混合を引き起こすことによって、露出表面からの気化を減少させることができる。
【0070】
一例によれば、閾値温度は、真空チャンバ内で使用される特定のタイプの液体の蒸気圧に基づいてもよい。5×10
−7mbarの典型的な真空チャンバ圧力に曝された液体金属ジェットの場合、Gaについては約930K、Snについては1015K、Inについては850K、Biについては660K、Pbについては約680Kの温度となる。従って、5×10
−7mbarのチャンバ圧力に対して、液体金属ジェットの混合は、好ましくは、液体金属の気化を低減するように、液体金属ジェットの最大表面温度が上記温度よりも低く保たれるように実行されてもよい。
【0071】
図7は、本発明の一実施形態によるX線放射線を発生させる方法を示すフローチャートである。この方法は、相互作用領域を通して伝播する液体ジェットを形成するステップ710と、X線放射線を発生させるために、電子ビームが相互作用領域で液体ジェットと相互作用するように液体ジェットに向けて電子ビームを指向するステップ720と、相互作用領域の下流のジェットの最大表面温度が閾値温度より低くなるように、相互作用領域の下流の所定の距離の位置で液体ジェットに追加の液体を供給するステップ730を含んでもよい。
【0072】
当業者は決して上述の例示的な実施形態に限定されない。逆に、添付の特許請求の範囲の範囲内で多くの変更及び変形が可能である。特に、複数の電子ビーム及び/又は液体ジェットを備えたX線源及びシステムは、本発明の概念の範囲内で推考することができる。 加えて、開示された実施形態に対する変形は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の検討から、請求された発明を実施する際、当業者によって理解され、達成され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という単語は他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。