(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816242
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】骨盤臓器脱の予防器具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/37 20060101AFI20210107BHJP
A61B 17/42 20060101ALI20210107BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
A61F5/37 A
A61B17/42
A61F5/01 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-212035(P2019-212035)
(22)【出願日】2019年11月25日
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3221167号
【原出願日】2019年2月19日
(65)【公開番号】特開2020-131016(P2020-131016A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2019年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】517109074
【氏名又は名称】クスヤマ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】楠山 弘之
【審査官】
野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/081336(WO,A1)
【文献】
=PANPAC=PANPAC MEDICAL CORP. CATALOG,Panpac Medical Corp.,2018年10月 1日,URL,https://www.medica.de/vis-content/event-medcom2019.MEDICA/exh-medcom2019.2642866/MEDICA-2019-Panpac-Medical-Corp.-Paper-medcom2019.2642866-HRcfZCWBTa27YZGlab4PyA.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/00− 6/04
A61F17/42−17/48
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膣内に挿入して内部で拡開して固定する骨盤臓器脱の予防器具であって、
柔軟な素材で一体に形成され、
体内挿入時に中央に開口を備えた円板状の基部と、
前記基部の外周縁に形成された周縁部と、
前記周縁部のうち前記開口を挟んだ一方側から立上がり形成され、尿道確保用凹部を備えた尿道側立上壁部と、
前記周縁部のうち前記開口を挟んだ他方側から立上がり形成され、直腸確保用平面部を備えた直腸側立上壁部とを備え、
前記尿道側立上壁部と前記直腸側立上壁部とは、前記周縁部に沿って立設された接続壁で接続され、前記接続壁は、前記周縁部の上側に前記周縁部と連続して設けられて前記尿道側立上壁部と前記直腸側立上壁部とを接続し、前記尿道側立上壁部と前記直腸側立上壁部との間にアーチ状の縁部を備え、
前記尿道側立上壁部には尿道確保用凹部が設けられると共に、前記直腸側立上壁部には直腸確保用平面部が設けられていることを特徴とする骨盤臓器脱の予防器具。
【請求項2】
前記尿道側立上壁部の先端部に指掛環部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の骨盤臓器脱の予防器具。
【請求項3】
シリコーン樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の骨盤臓器脱の予防器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨盤臓器脱及び腹圧性尿失禁を予防する器具に関する。
【背景技術】
【0002】
骨盤臓器脱は加齢や出産により、骨盤の底を支える筋肉や靱帯が緩み、内部の臓器である子宮、膀胱、大腸等が脱出する症状を有する疾患である。骨盤臓器脱に対しては、薬物による治療ができず、手術により修復をするか、避妊具であるリングペッサリー等の膣内装具を装着して脱を元の位置にもどすことが行われる(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2には、子宮下部を支持して子宮脱又は子宮下垂を抑制するための子宮脱又は子宮下垂治療用リングペッサリーであって、前記リングペッサリーは樹脂リングを含み、前記樹脂リングの外直径が5〜9cmで、前記外直径を2cmまで圧縮するのに必要な荷重が2〜10Nであり、除荷後30秒における前記樹脂リングの外寸法が、前記樹脂リングの前記外直径の70%以上であることを特徴とするリングペッサリーが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、子宮頸部の部分を覆う子宮頸部キャップにおいて、ドーム部,リム部及び開口端部と、前記ドーム部及び前記リム部間に配置され、かつ前記開口端部に隣接した前記キャップの内面の周囲に沿って延設された隆起セクションとから構成され、前記隆起セクションは前記内面から内側に向かって突出している少なくとも第1及び第2の隆起部を有し、前記隆起セクションは前記キャップが子宮頸部の部分上に配置されたときに子宮頸部の外面をつかむように適合されていることを特徴とする子宮頸部キャップが記載されている。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の、手術は患者の負担が大きいし、膣内装具は、数か月に一度医療機関で入れ替える必要がある。また、外側に器具を装着するタイプのものは、下着をつけなければ使用できず、入浴時例えば温泉等の公衆浴場を利用できない。さらに、このような症状が現れる患者は腹圧性尿失禁を発症することもあり、同時に腹圧性尿失禁を予防することも望まれる。
【0006】
また、特許文献2及び特許文献3に記載のものは、装着時において尿道や直腸を圧迫してしまうという問題があった。
【0007】
出願人は上記観点から、新たな骨盤臓器脱の予防器具を提案している(特許文献4参照)。この骨盤臓器脱の予防器具は、患者自身により容易に着脱が可能ありさらに腹圧性尿失禁を予防することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009―513215公報
【特許文献2】WO2015/041353公報
【特許文献3】特表平3−500611号公報
【特許文献4】実登3218010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載のものは質量が大きいため装着時に落下するおそれがある他、形状が複雑であるため、製造に手間と費用がかかるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、軽量であり、単純な構造を備えて製造が容易である骨盤臓器脱の予防器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する請求項1に記載の発明は、膣内に挿入して内部で拡開して固定する骨盤臓器脱の予防器具であって、柔軟な素材で一体に形成され、体内挿入時に中央に開口を備えた円板状の基部と、前記基部の外周縁に形成された周縁部と、前記周縁部のうち前記開口を挟んだ一方側から立上がり形成され、尿道確保用凹部を備えた尿道側立上壁部と、前記周縁部のうち前記開口を挟んだ他方側から立上がり形成され、直腸確保用平面部を備えた直腸側立上壁部とを備え、
前記尿道側立上壁部と前記直腸側立上壁部とは、前記周縁部に沿って立設された接続壁で接続され、前記接続壁は、前記周縁部の上側に前記周縁部と連続して設けられて前記尿道側立上壁部と前記直腸側立上壁部とを接続し、前記尿道側立上壁部と前記直腸側立上壁部との間にアーチ状の縁部を備え、前記尿道側立上壁部には尿道確保用凹部が設けられると共に、前記直腸側立上壁部には直腸確保用平面部が設けられていることを特徴とする骨盤臓器脱の予防器具。
【0012】
同じく請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の骨盤臓器脱の予防器具前記尿道確保用凹部の先端部に指掛環部を形成したことを特徴とする。
【0013】
同じく請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の骨盤臓器脱の予防器具において、シリコーン樹脂で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る骨盤臓器脱の予防器具によれば、膣に折り曲げた状態で挿入し、所定の形状で保持して膣内に固定し骨盤臓器の逸脱や腹圧性尿失禁を予防することができ、予防器具の着脱は自己により簡単に行え、尿道や直腸を圧迫せず、しかも予防器具を装着した状態では予防器具は外部に露出等しないので公衆浴場等においても使用可能であるとともに、軽量であるため安定して装着することができる他、形状が単純であるため製造に手間や費用がかからない。
【0015】
すなわち、請求項1に記載の骨盤臓器脱の予防器具によれば、折り曲げた状態で膣内に挿入した予防器具を体内で拡開して、予防器具を膣内に固定できる。これにより、患者自身の操作で予防器具を膣内に挿入して固定でき、骨盤臓器の膣からの脱落を予防できるとともに、膀胱を保持して腹圧性尿失禁を予防できる。
【0016】
さらに、膣からの分泌物は基部に形成された開口を経て排出され、膣内に分泌物が蓄留するのを防止できる。
そして、請求項1に記載の骨盤臓器脱の予防器具によれば、予防器具を使用するとき、骨盤臓器脱の予防器具の縁部がアーチ状であるので、予防器具を小さな力で折り曲げることができ内部で元の形に復帰する。
【0017】
また、請求項2に記載の骨盤臓器脱の予防器具によれば、挿入した骨盤臓器脱の予防器具を指かけ環部に手指をかけて簡単に取り外すことができる。
【0018】
さらに、請求項3に記載の骨盤臓器脱の予防器具によれば、骨盤臓器脱の予防器具は人体に無害で、安定した性状のシリコーン樹脂で形成されているので、人体に悪影響を及ぼすことがなく、安全に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る骨盤臓器脱の予防器具を示すものであり、(a)は予防器具の平面図、(b)は予防器具の側面図、(c)は(a)中のC−C線に相当する断面図、(d)は(a)中のD−D線に相当する断面図である。
【
図2】同骨盤臓器脱の予防器具を示す斜視図である。
【
図3】同骨盤臓器脱の予防器具の装着状態を示す人体の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態に係る骨盤臓器脱の予防器具について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る骨盤臓器脱の予防器具を示すものであり、(a)は予防器具の平面図、(b)は予防器具の側面図、(c)は(a)中のC−C線に相当する断面図、(d)は(a)中のD−D線に相当する断面図、
図2は同骨盤臓器脱の予防器具を示す斜視図、
図3は同骨盤臓器脱の予防器具の装着状態を示す人体の断面模式図である。
【0021】
本実施形態に係る骨盤臓器脱の予防器具10は、
図3に示すように、折り曲げて縮小した状態で膣31内に挿入して、膣31の内部で拡開して固定可能な所定の形状に復元させる。これにより、膣31内に骨盤臓器脱の予防器具10を固定して子宮32、膀胱33、直腸34等の骨盤臓器が脱落するのを防止するとともに、腹圧性尿失禁を防止する。なお、以下「骨盤臓器脱の予防器具10」を単に「予防器具10」という場合がある。
【0022】
図1に示すように、予防器具10は、柔軟な素材、好ましくはシリコーン樹脂で一体に構成された部材である。予防器具10は、基部11と、基部11の外周縁に形成された周縁部12と、周縁部12のうち前記開口を挟んだ一方側から立上がり形成された尿道側立上壁部14と、周縁部12のうち開口13を挟んだ他方側から立上がり形成された直腸側立上壁部17とを備える。
【0023】
基部11は、
図1(b)、(c)、(d)に示すように、薄板状、例えば数ミリメートルの厚さに形成され、中央に円形の開口13が形成されている。
【0024】
周縁部12は、
図1(b)、(c)、(d)に示すように、尿道側立上壁部14及び直腸側立上壁部17の形成された部分以外は断面が円形に形成されている。
【0025】
尿道側立上壁部14は、周縁部12のうち開口13を挟む一方側、すなわち装着時において膀胱側に立設されている。また、尿道側立上壁部14の外側面には、内側に向けて凹設された弧状の尿道確保用凹部15が尿道側立上壁部14の立設方向に沿って形成されている。
【0026】
また、尿道側立上壁部14の先端、すなわち、装着時における手前側(外側)の端部には指掛環部18が形成されている尿道側立上壁部14の先端部に指掛環部18が形成されている。
【0027】
直腸側立上壁部17は、周縁部12のうち開口13を挟む他方側、すなわち装着時において直腸側に立設されている。また、直腸側立上壁部17の外側面には、直腸確保用平面部16が形成されている。
【0028】
そして、尿道側立上壁部14と直腸側立上壁部17とは、周縁部12に沿って立設された接続壁19で接続されている。
図2(b)及び
図3に示すように、接続壁19は、周縁部12の上側に周縁部12と連続して設けられ、尿道側立上壁部14と直腸側立上壁部17とを接続する。接続壁19は、尿道側立上壁部14と直腸側立上壁部17との間にアーチ状の縁部19aを備え、両者の中央部において周縁部12と同位置になり、尿道側立上壁部14と直腸側立上壁部17とを連結する。
【0029】
予防器具10は、シリコーン樹脂を用いて一体成型されている。シリコーン樹脂は、人体に無害で、安定した性状であるので、人体に悪影響を及ぼすことがなく、予防器具10を安全に使用できる。また、予防器具10の変形や折り曲げを容易にして、膣内への挿入を容易なものとできる。また、予防器具10の表面は継ぎ目なしで滑らかに形成され、凹凸、突起、線条が形成されていない。
【0030】
予防器具10において、尿道側立上壁部14に尿道確保用凹部15を設けることにより尿道の圧迫を防止する。また、直腸側立上壁部17に直腸確保用平面部16を設けることにより直腸の圧迫を防止する。
【0031】
さらに、本実施形態に係る予防器具10では、指掛環部18を備えることにより、挿入した予防器具10を指掛環部18に手指をかけて引くことで、簡単に取り外すことができる。
【0032】
本実施形態に係る予防器具10は、シリコーン樹脂の型整形により、継ぎ目のなしに一体形状として構成されている。このため、予防器具10は滑らかな表面を備えるため汚物が溜まったりすることがなく、洗浄や消毒を良好に行うことができる。このため、予防器具10を清潔に保つことができる。
【0033】
予防器具10は、例えば、基部11の外径d1を約90mm、開口13の直径d2を約10mm、全体の高さhを約50mmとすることができる。なお、各寸法は適宜変更することができる。全体の高さh、基部11の外径d1等が異なる複数のもの、例えば0.5cmずつ異なるものを準備しておくと、患者に適合するものを選択できる。
【0034】
予防器具10を使用するには、
図3に示すように、尿道側立上壁部14と直腸側立上壁部17とを近接するように折り曲げた予防器具10を膣31内に挿入し、復元して固定する。このとき、縁部19aがアーチ状であるので、予防器具10を小さな力で折り曲げることができ、予防器具10は内部で元の形に復帰する。予防器具10を膣31に固定した状態において、予防器具10が膀胱33の下部に位置し、予防器具10による膀胱33の収縮を防止できる。
【0035】
また、予防器具10を膣31内に固定したとき、尿道側立上壁部14の尿道確保用凹部15が尿道の位置に配置される。これにより、尿道が予防器具10で圧迫されるのを防止することができる。
【0036】
同様に、予防器具10を膣31内に固定したとき、直腸側立上壁部17の直腸確保用平面部16が直腸34の位置に配置される。これにより、直腸34が予防器具10で圧迫されるのを予防することができる。
【0037】
本実施形態に係る予防器具10を膣31に装着するには、
図3に示すように、予防器具10を折り曲げる。そして、この状態の予防器具10を所定の方向で膣31に挿入して所定の位置に配置する。なお、予防器具10の装着には円筒状の装着補助具(アプリケータ)等を使用することができる。
【0038】
そして、挿入した予防器具10は自らの弾力で拡開した状態となり、この状態で予防器具10は、膣31内に固定される。
【0039】
これにより、膣31内に予防器具10を固定保持して骨盤臓器の逸脱や腹圧性尿失禁を予防することができる。また、予防器具10の着脱は患者自己により簡単に行え、しかも予防器具を装着した状態では予防器具は外部に露出したり、下着等他の装具を使用したりする必要がない。このため、予防器具10を着装した状態で公衆浴場等を利用できる。
【0040】
また、予防器具10は、軽量であるため安定して装着することができる他、形状が単純であるため製造に手間や費用がかからない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る骨盤臓器脱の予防器具は、膣に縮小した状態で挿入し、
自らの弾力で所定形状を保持して膣内に固定し骨盤臓器の逸脱や腹圧性尿失禁を予防することができ、予防器具の着脱は自己により簡単に行え、しかも予防器具を装着した状態では予防器具は外部に露出等しないので公衆浴場等においても使用可能であり、かつ軽量で製造がし易いため産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0042】
10:予防器具
11:基部
12:周縁部
13:開口
14:尿道側立上壁部
15:尿道確保用凹部
16:直腸確保用平面部
17:直腸側立上壁部
18:指掛環部
19:接続壁
19a:凹部
31:膣
32:子宮
33:膀胱
34:直腸