特許第6816258号(P6816258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6816258アルデヒド除去用吸着剤及び脱臭材並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816258
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】アルデヒド除去用吸着剤及び脱臭材並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20210107BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20210107BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20210107BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   A61L9/01 K
   A61L9/014
   B01J20/22 A
   B01J20/32 Z
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-507423(P2019-507423)
(86)(22)【出願日】2018年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2018004420
(87)【国際公開番号】WO2018173534
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2017-54817(P2017-54817)
(32)【優先日】2017年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇記
(72)【発明者】
【氏名】谷 信幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 康弘
(72)【発明者】
【氏名】吉村 里恵
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−133220(JP,A)
【文献】 特開2006−075312(JP,A)
【文献】 特開2008−212448(JP,A)
【文献】 特開平09−056800(JP,A)
【文献】 特開平06−346088(JP,A)
【文献】 特開2006−088100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00− 9/22
B01J 20/00−20/28、
20/30−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体と、
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を含んだアルデヒド除去用吸着剤であって
溶媒と前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを含有した処理液に、前記多孔質担体を接触させる工程と、
前記多孔質担体から前記溶媒を除去する工程と
を含む方法により得られ、
前記多孔質担体は活性炭であり、
前記不揮発性強酸は硫酸であり、
前記アルデヒド除去用吸着剤は硫黄を0.2質量%乃至1.4質量%の割合で含み、
前記処理液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有するアルデヒド除去用吸着剤。
【請求項2】
前記1つ以上の薬剤の少なくとも1つは、下記の一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
【化1】
(ここで、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、又は、水素以外の原子の数が1乃至7の範囲内にある置換基を示し、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、又は、水素以外の原子の数が1乃至4の範囲内にある置換基を示す。)
【請求項3】
前記1つ以上の薬剤の少なくとも1つは、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールからなる群より選ばれる請求項1又は2に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
【請求項4】
請求項1乃至の何れか1項に記載のアルデヒド除去用吸着剤と、前記アルデヒド除去用吸着剤を担持した基材とを含んだ脱臭材。
【請求項5】
基材と、
前記基材に担持された多孔質担体と、
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を含む脱臭材であって
前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤と前記多孔質担体と分散媒とを含んだ分散液を、前記基材へ供給することと、
前記分散液を供給した前記基材を乾燥させることと
を含む方法により得られ、
前記多孔質担体は活性炭であり、
前記不揮発性強酸は硫酸であり、
前記脱臭材は、前記多孔質担体と前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤との合計に対して硫黄を0.2質量%乃至1.4質量%の割合で含み、
前記分散液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有する脱臭材。
【請求項6】
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を多孔質担体に担持させる工程
を含み、
前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを前記多孔質担体に担持させる工程は、
溶媒と前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを含有した処理液に、前記多孔質担体を接触させることと、
前記多孔質担体から前記溶媒を除去することと
を含み、
前記多孔質担体は活性炭であり、
前記不揮発性強酸は硫酸であり、
前記処理液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記不揮発性強酸を0.6質量部乃至7質量部の範囲内で含有し、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有するアルデヒド除去用吸着剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか1項に記載のアルデヒド除去用吸着剤を基材に担持させることを含んだ脱臭材の製造方法。
【請求項8】
不揮発性強酸と1つ以上の薬剤と多孔質担体と分散媒とを含んだ分散液であって、前記1つ以上の薬剤の各々は、1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している分散液を、基材へ供給することと、
前記分散液を供給した前記基材を乾燥させることと
を含み、
前記多孔質担体は活性炭であり、
前記不揮発性強酸は硫酸であり、
前記分散液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記不揮発性強酸を0.6質量部乃至7質量部の範囲内で含有し、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有する脱臭材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド除去用吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内及び車内環境には、臭気及び埃が少ないことが求められている。例えば、車内環境については、樹脂部品、エンジンからの排気ガス、燃料、煙草及び人体等に由来した臭気の除去が望まれている。
【0003】
特開2006−75312号公報には、トリアゾール類を添着させた無機多孔質体からなる消臭性組成物が記載されている。この消臭性組成物は、ホルムアルデヒド等の低級アルデヒド類を常温で効率よく消臭する。
【0004】
特開2011−72603号公報には、繊維状活性炭とp−アミノ安息香酸と硫酸とを含んだ繊維状脱臭剤が記載されている。この繊維状脱臭剤は、悪臭成分、例えばアンモニア及びアルデヒド類等の揮発性有機化合物を、高い効率で除去可能とし且つ優れた貯蔵安定性を有する。
【0005】
他にもアルデヒド類を含む臭気を除去する消臭剤として、種々の消臭剤が知られている(特開2005−137601号公報、特開平11−004879号公報、特開2000−152979号公報、特開2001−149456号公報、特開平05−023588号公報、及び特開2000−186212号公報)。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、従来の消臭性組成物及び繊維状脱臭剤には、アルデヒド類、例えば、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの除去性能ならびに貯蔵安定性に関して改善の余地があることを見出している。
【0007】
そこで、本発明の目的は、アルデヒド類を高い効率で除去可能であり且つ優れた貯蔵安定性を有するアルデヒド除去用吸着剤を提供することにある。
【0008】
本発明の第1側面によると、多孔質担体と、不揮発性強酸と、1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤とを含んだアルデヒド除去用吸着剤であって、溶媒と前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを含有した処理液に、前記多孔質担体を接触させる工程と、前記多孔質担体から前記溶媒を除去する工程とを含む方法により得られ、前記多孔質担体は活性炭であり、前記不揮発性強酸は硫酸であり、前記アルデヒド除去用吸着剤は硫黄を0.2質量%乃至1.4質量%の割合で含み、前記処理液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有するアルデヒド除去用吸着剤が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、第1側面に係るアルデヒド除去用吸着剤と、前記アルデヒド除去用吸着剤を担持した基材とを含んだ脱臭材が提供される。
【0010】
本発明の第3側面によると、基材と、前記基材に担持された多孔質担体と、不揮発性強酸と、1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤とを含む脱臭材であって、前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤と前記多孔質担体と分散媒とを含んだ分散液を、前記基材へ供給することと、前記分散液を供給した前記基材を乾燥させることとを含む方法により得られ、前記多孔質担体は活性炭であり、前記不揮発性強酸は硫酸であり、前記脱臭材は、前記多孔質担体と前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤との合計に対して硫黄を0.2質量%乃至1.4質量%の割合で含み、前記分散液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有する脱臭材が提供される。
【0011】
本発明の第4側面によると、不揮発性強酸と、1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤とを多孔質担体に担持させる工程を含み、前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを前記多孔質担体に担持させる工程は、溶媒と前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを含有した処理液に、前記多孔質担体を接触させることと、前記多孔質担体から前記溶媒を除去することとを含み、前記多孔質担体は活性炭であり、前記不揮発性強酸は硫酸であり、前記処理液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記不揮発性強酸を0.6質量部乃至7質量部の範囲内で含有し、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有するアルデヒド除去用吸着剤の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第5側面によると、第1側面に係るアルデヒド除去用吸着剤を基材に担持させることを含んだ脱臭材の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第6側面によると、不揮発性強酸と1つ以上の薬剤と多孔質担体と分散媒とを含んだ分散液であって、前記1つ以上の薬剤の各々は、1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している分散液を、基材へ供給することと、前記分散液を供給した前記基材を乾燥させることとを含み、前記多孔質担体は活性炭であり、前記不揮発性強酸は硫酸であり、前記分散液は、前記多孔質担体100質量部に対して前記不揮発性強酸を0.6質量部乃至7質量部の範囲内で含有し、前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を合計で3質量部乃至30質量部の範囲内で含有する脱臭材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一態様に係る脱臭材の一例を概略的に示す図。
図2】各種薬剤を用いたアルデヒド除去用吸着剤のアルデヒド除去率を示すグラフ。
図3】硫酸の量がアルデヒド除去率に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
図4】薬剤の量がアルデヒド除去率に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
図5】酸及び薬剤の種類が貯蔵安定性に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
図6】pHがアルデヒド除去率に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の態様について説明する。
本発明の一態様に係るアルデヒド除去用吸着剤は、多孔質担体と、不揮発性強酸と、1つ以上の薬剤とを含んでいる。
【0016】
多孔質担体は、例えば、活性炭、活性白土、タルク、クレー、モレキュラーシーブ、シリカゲル、ベントナイト、アルミナ、パーライト、ゼオライト又はセピオライトである。多孔質担体の種類は、除去する臭気の種類に応じて適宜選択することができる。
【0017】
好ましくは、多孔質担体は活性炭である。活性炭は、その比表面積が大きいことから、より効率的に臭気を除去することができる。活性炭の原料は、例えば、ヤシ殻、石炭又は木炭である。
【0018】
多孔質担体の形状は、例えば、粒状、粉末状、破砕状、繊維状、球状、シート状又はハニカム状である。
【0019】
不揮発性強酸は、例えば、硫酸である。
不揮発性の酸は、揮発に起因した量の減少が生じ難い。即ち、不揮発性の酸を用いた場合、揮発性の酸を用いた場合と比較して、アルデヒド除去用吸着剤の貯蔵安定性が良好である。
【0020】
弱酸を使用した場合、強酸に比べて多量に酸を使用しなければならない。多量の酸を使用すると、多孔質担体の細孔の閉塞が生じる。これに対し、強酸は、少量でアルデヒド除去用吸着剤のアルデヒド類除去性を向上させることができる。そのため、強酸を使用すると多孔質担体の細孔の閉塞を最小限に抑制できる。それ故、強酸を使用した場合、弱酸を使用した場合と比較して、アルデヒドとの反応をより効率的に生じさせることができる。
【0021】
薬剤の各々は、1,2,4−トリアゾール骨格と、その4位のN原子に結合した電子供与性基とを含み、電子供与性基のうち4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している化合物である。
【0022】
電子供与性基のうち4位のN原子に結合している原子は、例えば、N原子、O原子、又はS原子である。
【0023】
電子供与性基は、その立体障害によって電子供与性基へのアルデヒドの接近を妨げないものであることが好ましい。電子供与性基が含んでいる水素以外の原子の数は、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0024】
電子供与性基は、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、チオール基、又はヒドラジノ基である。
【0025】
各薬剤は、1,2,4−トリアゾール骨格の3位のC原子及び5位のC原子の少なくとも一方に置換基を有していてもよい。3位のC原子に結合している置換基と、5位のC原子に結合している置換基とは、互いに結合して、1,2,4−トリアゾール骨格とともに環を形成してもよい。また、これら置換基の各々は、水素以外の原子の数が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。これら置換基としては、例えば、ヒドラジノ基、メルカプト基、アミノ基、ヒドロキシ基、及びメトキシ基が挙げられる。
【0026】
薬剤の少なくとも1つは、好ましくは、下記の一般式(1)で表される化合物である。より好ましくは、薬剤の全ては、下記の一般式(1)で表される化合物である。
【0027】
【化1】
【0028】
ここで、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、又は、水素以外の原子の数が1乃至7の範囲内に、好ましくは、1乃至4の範囲内にある置換基を示している。そのような置換基としては、例えば、アルキル基、アルキルアミノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、及びチオール基が挙げられる。
【0029】
また、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、又は、水素以外の原子の数が1乃至5の範囲内に、好ましくは、1乃至3の範囲内にある置換基を示している。そのような置換基としては、例えば、アルキル基、アルキルアミノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、及びチオール基が挙げられる。
【0030】
薬剤の少なくとも1つは、好ましくは、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールからなる群より選ばれる。より好ましくは、薬剤の全ては、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールからなる群より選ばれる。
【0031】
このアルデヒド除去用吸着剤は、1つ以上の薬剤と、不揮発性強酸とを多孔質担体に担持させることにより製造する。
不揮発性強酸および薬剤の多孔質担体への担持は、例えば、以下の方法により行う。
まず、薬剤と、不揮発性強酸とを溶媒に溶解させて処理液を調製する。
【0032】
薬剤および不揮発性強酸の双方を含んだ処理液を調製する代わりに、薬剤を含んだ処理液と不揮発性強酸を含んだ処理液とを調製してもよい。
薬剤および不揮発性強酸をまとめて1つの溶媒に溶解させて処理液を調製する場合、処理液は、薬剤および不揮発性強酸を任意の順で溶媒に添加し、撹拌することにより調製することができる。溶媒としては、例えば、水を用いることができる。薬剤を溶媒に溶解させるために、不揮発性強酸の水溶液を、例えば0乃至100℃の範囲内の温度に加熱又は冷却してもよい。この処理液は、加熱された状態で使用してもよく、冷却した後に使用してもよい。また、薬剤は、水で十分に希釈した不揮発性強酸の水溶液中に溶解させてもよく、不揮発性強酸を比較的高い濃度で含んだ水溶液中に溶解させた後にこれを水で希釈してもよい。なお、処理液中の薬剤及び不揮発性強酸の量については、後で説明する。
【0033】
次に、多孔質担体を処理液に接触させる。
多孔質担体に処理液を接触させる工程は、例えば、多孔質担体を処理液に浸漬させるか、又は、処理液を多孔質担体に噴霧することにより行うことができる。
多孔質担体を処理液に浸漬させる場合は、例えば、多孔質担体を処理液中に均一に分散させる。
【0034】
次いで、処理液に接触させた多孔質担体から溶媒を除去する。
溶媒の除去は、例えば、多孔質担体を乾燥させることにより行う。この乾燥には、例えば、自然乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、マイクロ波加熱乾燥又は間接加熱乾燥を利用する。
【0035】
この乾燥は、多孔質担体の温度が、薬剤に影響を与えない温度、例えば200℃以下に、典型的には150℃以下に維持されるように行う。
以上のようにして、アルデヒド除去用吸着剤を得る。なお、薬剤を含んだ処理液と不揮発性強酸を含んだ処理液とを調製する場合、これらの処理液は、任意の順で多孔質担体に接触させることができる。
【0036】
上記処理液は、多孔質担体100質量部に対して、1つ以上の薬剤を、合計で、好ましくは、2質量部乃至30質量部の範囲内、より好ましくは、3質量部乃至30質量部の範囲内、更に好ましくは、3質量部乃至10質量部の範囲内で含有する。この比を小さくすると、アルデヒド除去用吸着剤の初期性能が低下する。
【0037】
また、この処理液は、多孔質担体100質量部に対して、不揮発性強酸を、好ましくは、0.5質量部乃至12質量部の範囲内、より好ましくは、0.6質量部乃至7質量部の範囲内、更に好ましくは、0.8質量部乃至5質量部の範囲内、最も好ましくは、0.8質量部乃至4質量部の範囲内で含有する。薬剤とアルデヒドとの反応は強酸性の環境下で活性化し易いため、この比を大きくすると、悪臭成分をより高い効率で除去することができる。但し、この比を過剰に大きくすると、アルデヒド除去用吸着剤の初期性能が低下する。
【0038】
上述の方法により得られるアルデヒド除去用吸着剤は、JIS K1474:2014に従って得られるpHが、例えば、1.5乃至4.5の範囲内にあり、好ましくは、1.9乃至4.1の範囲内にある。
【0039】
また、不揮発性強酸として硫酸を用いた場合、上述の方法により得られるアルデヒド除去用吸着剤は、硫黄を、例えば、0.1質量%乃至2質量%、好ましくは、0.2質量%乃至1.4質量%、より好ましくは、0.2質量%乃至1質量%の割合で含む。なお、アルデヒド除去用吸着剤に含まれる硫黄の量は、蛍光X線分析装置を用いて、真空雰囲気中でUniQuant測定方法による測定を行うことにより得られる値である。
【0040】
上述の方法により得られるアルデヒド除去用吸着剤は、悪臭成分、例えばアンモニア及びアルデヒド類などの揮発性有機化合物を、高い効率で気相から除去することが可能である。加えて、このアルデヒド除去用吸着剤は、貯蔵安定性に優れている。即ち、このアルデヒド除去用吸着剤は、製造を完了してから使用を開始するまでの時間に拘らず、優れた性能を発揮する。本発明者らは、この理由は以下の通りであると考えている。
【0041】
酸の存在下では、アルデヒドのカルボニル基の酸素原子にHが結合して、アルデヒドは、カルボニル基の炭素原子がプラスに帯電した状態と、カルボニル基の酸素原子がプラスに帯電した状態との間で可逆的に変化する。その結果、アルデヒドは、カルボニル炭素が活性化して薬剤との反応性が増大する。
【0042】
アルデヒドとの反応には、薬剤の電子供与性基が有する非共有電子対が寄与する。この非共有電子対は、酸の存在下ではHと結合して失活しやすい。しかしながら、上記の薬剤は、以下に説明するメカニズムにより、酸存在下でも、アルデヒドとの反応に寄与する電子を安定に保持することができ、それ故、アルデヒドとの反応性を維持することができると考えられる。
【0043】
また、ここで使用する薬剤は、1,2,4−トリアゾール骨格の共鳴により、例えば、以下に示すように、少なくとも3つの状態をとることができる。
【0044】
【化2】
【0045】
ここで、上記の状態(A)乃至(C)は、上記の一般式(1)で表される化合物のうち、R、R、R、及びRの全てが水素原子であるものがとり得る状態である。この薬剤の電子供与性基は、非共有電子対を有する原子、ここではN原子を含んでいる。
【0046】
状態(A)では、この原子へのHの結合を生じやすい。そして、この結合が生じると、薬剤のアルデヒドとの反応性が低下する。
【0047】
状態(B)及び(C)では、状態(A)と比較して、Hと、電子供与性基の非共有電子対を有する原子、ここではN原子との結合が弱い。それ故、状態(A)から状態(B)又は(C)への変化が生じると、Hと上記原子(N原子)との結合が切断され得る。
【0048】
状態(B)及び(C)の安定性が低い場合には、状態(A)から状態(B)又は(C)への変化の頻度が低く、上述した結合が切断される頻度も低い。しかしながら、この薬剤では、電子供与性基が1,2,4−トリアゾール骨格の4位のN原子に結合しているため、4位のN原子における電子密度が低い状態(B)及び(C)を安定化させる。即ち、この薬剤では、状態(B)及び(C)の安定性が高い。このため、この薬剤は、状態(A)から状態(B)又は(C)への変化の頻度が高く、上述した結合が切断される頻度も高い。
【0049】
従って、この薬剤は、電子供与性基の非共有電子対を有する原子へのHの結合を生じたとしても、この結合は速やかに切断され、高い活性を示す。
【0050】
このようにして、薬剤は、酸の存在下においても、アルデヒドとの反応性を維持する。また、上記の通り、アルデヒドは酸の存在下では、薬剤と高い反応性を示す。従って、全体として、酸の存在下で薬剤とアルデヒドとの反応が促進される。
【0051】
また、強酸の代わりに弱酸を使用した場合、強酸を使用した場合に比べて多量に酸を使用しなければならない。多量の酸を使用すると、多孔質担体の細孔の閉塞が生じる。これに対し、強酸は、少量でアルデヒド除去用吸着剤のアルデヒド類除去性を向上させることができる。そのため、強酸を使用すると多孔質担体の細孔の閉塞を最小限に抑制できる。それ故、強酸を使用した場合、弱酸を使用した場合と比較して、薬剤とアルデヒドとの反応をより効率的に生じさせることができる。
【0052】
更に、不揮発性の酸は、揮発に起因した量の減少が生じ難い。即ち、不揮発性の酸を用いた場合、揮発性の酸を用いた場合と比較して、アルデヒド除去用吸着剤の貯蔵安定性が良好である。
【0053】
従って、上記のアルデヒド除去用吸着剤は、アルデヒド類を高い効率で除去可能であり且つ優れた貯蔵安定性を有する。
【0054】
上述したアルデヒド除去用吸着剤は、例えば、脱臭材において使用することができる。
【0055】
図1に、本発明の一態様に係る脱臭材の一例を概略的に示す。
図1に示す脱臭材1は、アルデヒド除去用吸着剤2と,基材3とを含んでいる。基材3はアルデヒド除去用吸着剤2を担持している。基材3はここでは不織布である。なお、図1において、参照符号4は不織布の繊維を示している。
【0056】
基材3は、不織布でなくてもよい。基材3は、例えば、発泡体、多孔性ポリウレタン、カーテン、カーペット、自動車シートファブリックなどの織物、紙、コルゲート紙又は各種繊維状の材料であってもよい。
【0057】
この脱臭材は、アルデヒド除去用吸着剤を基材に担持させることによって得られる。例えば、この脱臭材は、アルデヒド除去用吸着剤と分散媒とを含んだ分散液を、基材に噴霧するか、塗布するか、又は、含浸させ、これを乾燥させることにより得られる。分散媒としては、例えば、水、エタノール、アセトン等の極性溶媒、又はこれらの混合液を使用することができる。
【0058】
この脱臭材は、上述したアルデヒド除去用吸着剤を含んでいるので、悪臭成分、例えばアンモニア及びアルデヒド類などの揮発性有機化合物を、高い効率で気相から除去することが可能である。加えて、この脱臭材は、アルデヒド除去用吸着剤の劣化を生じ難いので、貯蔵安定性に優れている。即ち、この脱臭材は、製造を完了してから使用を開始するまでの時間に拘らず、優れた性能を発揮する。
【0059】
なお、脱臭材は、以下の方法でも得られる。まず、アルデヒド除去用吸着剤について上述した成分、すなわち、不揮発性強酸と1つ以上の薬剤と多孔質担体と分散媒とを含んだ分散液を調製する。次に、この分散液を基材へ供給する。例えば、この分散液を、基材に噴霧するか、塗布するか、又は、含浸させる。その後、これを乾燥させる。
【0060】
この方法で得られる脱臭材では、多孔質担体は基材に担持される。また、不揮発性強酸及び1つ以上の薬剤は、基材及び多孔質担体の少なくとも一方に担持される。例えば、アルデヒド除去用吸着剤のうち多孔質担体以外の成分は、一部が多孔質担体に担持され、残りは基材に担持される。このような脱臭材も、製造を完了してから使用を開始するまでの時間に拘らず、優れた性能を発揮する。
【0061】
この脱臭材において好適に使用される成分は、アルデヒド除去用吸着剤について上述したものと同様である。また、この脱臭材における各成分の好適な量は、アルデヒド除去用吸着剤について上述したものと同様である。
【0062】
なお、アルデヒド除去用吸着剤については、特定成分、例えば硫黄の好適な量を、アルデヒド除去用吸着剤の量に占める割合で記載している。この脱臭材では、多孔質担体と不揮発性強酸と1つ以上の薬剤との合計に占める上記特定成分の割合は、好ましくは、アルデヒド除去用吸着剤に占める上記特定成分の割合として上述した好適な範囲内にある。
【0063】
また、この脱臭材は、JIS K1474:2014において規定された方法を利用してpHが、好ましくは、アルデヒド除去用吸着剤について上述した範囲内にある。なお、JIS K1474:2014では、粉末試料又は粒状試料についてpHの測定法が規定されている。脱臭材についてpHを測定するには、脱臭材を不織布以外の固形分の量が3gとなるように、すなわち、多孔質担体と不揮発性強酸と1つ以上の薬剤との合計量が3gとなるように切断したものを試料として用いる。
【0064】
また、この脱臭材の製造において使用する分散液において好適に使用される成分は、アルデヒド除去用吸着剤について上述した処理液において好適に使用される成分と同様である。そして、この分散液における各成分の好適な量は、上述した処理液について上述したものと同様である。
【0065】
以下、本発明の例について説明する。
<薬剤の種類がアルデヒド除去率に及ぼす影響>
(例1)
以下の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
50質量部の水に、75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液および3質量部の4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを加えた。この溶液を撹拌して、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを水溶液に完全に溶解させて処理液を調製した。
【0066】
次に、100質量部の活性炭を準備した。活性炭としては、1000m/gのBET比表面積を有するヤシ殻活性炭を使用した。
続いて、この活性炭へ処理液を噴霧して、活性炭に処理液を均一に付着させた。
その後、この活性炭を、乾燥機を用いて80℃で10時間に亘って加熱して、乾燥させた。
以上のようにして、アルデヒド除去用吸着剤を得た。
【0067】
(例2)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールを用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0068】
(比較例1)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を製造した。
【0069】
(比較例2)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに1,2,4−トリアゾールを用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を製造した。
【0070】
(比較例3)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりにp−アミノ安息香酸を用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を製造した。
【0071】
(比較例4)
3質量部の4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに5質量部のアジピン酸ジヒドラジドを用い、75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液の代わりに4質量部の塩化カルシウムを用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を製造した。
【0072】
(比較例5)
3質量部の4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりに5質量部のアジピン酸ジヒドラジドを用い、75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液の代わりに5質量部の酢酸ナトリウムを用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を製造した。
【0073】
(性能評価)
例1及び例2並びに比較例1乃至比較例5で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々について、以下の方法に従ってアルデヒド除去性能を評価した。
【0074】
まず、2.94mLのアルデヒド除去用吸着剤を、直径30mmのカラムに充填した。次に、アルデヒド除去用吸着剤を充填したカラムを、23±5℃の温度及び60±10%RHの湿度に調節し、これに、10ppmの濃度でアセトアルデヒドを含んだガスを、2.35L/minの流量及び48000/hの空間速度で60分間流通させた。60分経過後にカラム入口及び出口におけるアセトアルデヒドの濃度を測定した。カラム入口における測定値とカラム出口における測定値との差と、カラム入口における測定値との比を百分率で表した値を初期アセトアルデヒド除去率とした。
【0075】
(pH測定)
例1及び例2並びに比較例1乃至比較例5で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々について、JIS K1474:2014に従ってpHを測定した。即ち、3gのアルデヒド除去用吸着剤に100mlの水を加えて煮沸し、冷却した後、pH計でpHを測定した。
これらの結果を以下の表1及び図2に纏める。
【0076】
【表1】
【0077】
図2は、各種薬剤を用いたアルデヒド除去用吸着剤のアルデヒド除去率を示すグラフである。このグラフの横軸は、例及び比較例の番号を示し、縦軸は、初期アセトアルデヒド除去率を示している。
【0078】
表1及び図2に示すように、例1及び例2は、比較例1乃至比較例3と比較して優れた初期アセトアルデヒド除去率を達成した。即ち、硫酸と併用する薬剤として、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール又は4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールを使用した場合、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、又はp−アミノ安息香酸を使用した場合と比較して優れた初期アセトアルデヒド除去率を達成できた。また、例1及び例2は比較例4及び比較例5と比較して優れた初期アセトアルデヒド除去率を達成した。即ち、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール又は4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールを硫酸と併用した場合、アジピン酸ジヒドラジドを塩化カルシウム又は酢酸ナトリウムと併用した場合と比較して優れた初期アセトアルデヒド除去率を達成できた。
【0079】
<薬剤及び酸の量がアルデヒド除去率に及ぼす影響>
(例3)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液の量を、5質量部から1質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0080】
(例4)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液の量を、5質量部から2質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0081】
(例5)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液の量を、5質量部から9質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0082】
(例6)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を、3質量部から5質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0083】
(例7)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を、3質量部から10質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0084】
(例8)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を、3質量部から20質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0085】
(例9)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を、3質量部から30質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0086】
(例10)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液の量を、5質量部から0.75質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0087】
(例11)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液の量を、5質量部から12質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0088】
(例12)
75質量%の濃度で硫酸を含有した硫酸水溶液の量を、5質量部から15質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0089】
(例13)
4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を、3質量部から2質量部に変更したこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0090】
(比較例6)
硫酸水溶液を使用しなかったこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0091】
(性能評価)
例3乃至例13及び比較例6で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々について、上で説明したのと同様の方法により、初期アセトアルデヒド除去率を求めた。
【0092】
(pH測定)
例3乃至例13及び比較例6で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々について、上で説明したのと同様の方法により、pHを測定した。
【0093】
(硫黄量の測定)
例1及び例3乃至例13で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々について、蛍光X線分析装置であるPANalytical社製のAxios(登録商標)を用いて、真空雰囲気中でUniQuant測定方法により硫黄量を測定した。
これらの結果を以下の表2並びに図3及び図4に纏める。
【0094】
【表2】
【0095】
図3は、アルデヒド除去用吸着剤に含まれる硫酸の量がアルデヒド除去率に及ぼす影響の一例を示すグラフである。このグラフの横軸は、アルデヒド除去用吸着剤に含まれる硫黄の割合を示し、縦軸は、初期アセトアルデヒド除去率を示している。なお、この図には、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を3質量部とした場合に得られたデータを示している。
【0096】
図4は、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量がアルデヒド除去用吸着剤のアルデヒド除去率に及ぼす影響の一例を示すグラフである。このグラフの横軸は、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を示し、縦軸は、初期アセトアルデヒド除去率を示している。なお、この図には、75質量%硫酸水溶液の量を5質量部とした場合に得られたデータを示している。
【0097】
表2及び図3に示すように、例1、例3乃至例5及び例10乃至12は、比較例6と比較して優れた初期性能を達成した。即ち、アルデヒド除去用吸着剤は4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを硫酸と共に含む場合、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを単独で含む場合と比較して優れた初期性能を達成した。また、例1、例3乃至例5及び例10は、例11及び例12と比較してより優れた初期性能を達成した。即ち、アルデヒド除去用吸着剤に含まれる硫酸の量が十分に少ない場合、硫酸の量が多い場合と比較して優れた初期性能を達成できた。
【0098】
表2及び図4に示すように、例1及び例6乃至例9は、例13と比較して優れた初期性能を達成した。即ち、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量が十分に多い場合、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量が少ない場合と比較して優れた初期性能を達成できた。
【0099】
<薬剤及び酸の種類が貯蔵安定性に及ぼす影響>
(比較例7)
75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液の代わりに35質量%の濃度で塩化水素を含有した9質量部の塩酸を用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0100】
(比較例8)
75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液の代わりに10質量部の酢酸を用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0101】
(比較例9)
75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液の代わりに7質量部の塩化鉄四水和物を用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0102】
(比較例10)
75質量%の濃度で硫酸を含有した5質量部の硫酸水溶液の代わりに7質量部の硫化鉄七水和物を用いたこと以外は例1について説明したのと同様の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
【0103】
(pH測定)
比較例7乃至比較例10で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々について、上で説明したのと同様の方法により、pHを測定した。
【0104】
(貯蔵安定性の評価)
例1及び例4並びに比較例3及び比較例6乃至10で得られたアルデヒド除去用吸着剤の各々を、以下に説明する貯蔵安定性加速試験に供した。
【0105】
まず、50gのアルデヒド除去用吸着剤を200mlビーカーに入れ、70℃の恒温槽で7日間及び14日間静置した。7日経過後及び14日経過後のアルデヒド除去用吸着剤の各々についても、初期アセトアルデヒド除去率について説明したのと同様の方法により、アセトアルデヒド除去率を求めた。
【0106】
貯蔵安定性加速試験後のアルデヒド除去率と初期アセトアルデヒド除去率との比を百分率で表した値を、「貯蔵安定性」とした。
これらの結果を以下の表3及び図5に纏める。
【0107】
【表3】
【0108】
図5は、酸及び薬剤の種類がアルデヒド除去用吸着剤の貯蔵安定性に及ぼす影響の一例を示すグラフである。このグラフの横軸は、アルデヒド除去用吸着剤を加速試験に供してからの経過日数を示し、縦軸は、アセトアルデヒド除去率を示している。なお、この図には、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を3質量部とした場合に得られたデータを示している。
【0109】
表3及び図5に示すように、例1及び例4は、比較例6と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールは硫酸と併用した場合、硫酸と併用しない場合と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。また、例1及び例4は、比較例3と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、硫酸と併用する薬剤として4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを使用した場合、p−アミノ安息香酸を使用した場合と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。また、例1及び例4は、比較例7と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、酸として硫酸を使用した場合、塩酸を使用した場合と比較して優れた貯蔵安定性を達成できた。また、例1及び例4は、比較例8と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、酸として硫酸を使用した場合、酢酸を使用した場合と比較して優れた初期性能及び優れた貯蔵安定性を達成できた。また、例1及び例4は、比較例9と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、酸として硫酸を使用した場合、塩化鉄を使用した場合と比較して優れた貯蔵安定性を達成できた。また、例1及び例4は、比較例10と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、酸として硫酸を使用した場合、硫化鉄を使用した場合と比較して優れた貯蔵安定性を達成できた。
【0110】
<アルデヒド除去用吸着剤のpHがアルデヒド除去率に及ぼす影響>
図6は、アルデヒド除去用吸着剤のpHがアルデヒド除去率に及ぼす影響の一例を示すグラフである。このグラフの横軸は、アルデヒド除去用吸着剤のpH値を示し、縦軸は、初期アセトアルデヒド除去率を示している。なお、この図には、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量を3質量部とした場合に得られたデータを示している。
【0111】
図6に示すように、例1、例3乃至例5及び例10乃至例12は、比較例6と比較して優れた初期アセトアルデヒド除去率を達成した。それらの中でも、例1及び例3乃至例5は、特に優れた初期性能を達成した。
【0112】
<脱臭材の製造及び評価>
(例14)
まず、以下の方法により、アルデヒド除去用吸着剤を調製した。
250gの水に、75質量%の濃度で硫酸を含有した1.3gの硫酸水溶液および8gの4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを加えた。この溶液を撹拌し、4−アミノ−1,2,4−トリアゾールを水溶液に完全に溶解させて、処理液を調製した。
【0113】
次に、この処理液に、100gの活性炭を加えた。活性炭としては、BET比表面積が1000m/gであり、メジアン径(D50)が25μmであるヤシ殻活性炭を使用した。
この分散液を十分に撹拌し、これに、2gのヒドロキシエチルセルロースと、61gのアクリルバインダとを添加した。この分散液を更に攪拌することにより、スラリーを調製した。
【0114】
続いて、このスラリーを、目付量が95g/mの不織布に塗布した。スラリーの塗布は、スラリーに含まれる固形分の目付量が260g/mとなるように行った。
【0115】
その後、これを、100℃で1時間に亘って加熱して、乾燥させた。
以上のようにして、脱臭材を得た。
【0116】
(比較例11)
硫酸水溶液を使用しなかったこと以外は、例14ついて説明したのと同様の方法により、脱臭材を製造した。
【0117】
(pH測定)
例14及び比較例11で得られた脱臭材の各々について、JIS K1474:2014において規定された方法を利用してpHを測定した。即ち、脱臭材を不織布以外の固形分の量が3gとなるように切断し、これに100mlの水を加えて煮沸した。これを冷却した後、pH計でpHを測定した。結果を、以下の表4に示す。
【0118】
(性能評価)
例14及び比較例11で得られた脱臭材の各々について、以下の方法に従ってアルデヒド除去性能を評価した。
【0119】
まず、各脱臭材を、大きさが互いに異なる5つの断片へと切り出した。これら断片を、別々の袋に封入した。ここでは、容量が5Lの袋を使用した。
【0120】
次いで、各バッグに、アセトアルデヒドを1000ppmの濃度になるように注入し、これを、25℃、50%RHの条件下で、アセトアルデヒドの濃度が飽和に達するまで放置した。また、脱臭材の断片を封入することなしに、上記と同量のアルデヒドを注入したバッグを準備し、このバッグにおけるアセトアルデヒド濃度を測定した。そして、このアセトアルデヒド濃度と、上記のアセトアルデヒドの飽和濃度との差を求め、この差とバッグ内のガスの体積とから、上記断片が吸着した脱臭材の質量を算出した。この質量を上記断片の面積で除することにより、単位面積当たりの脱臭材のアセトアルデヒド吸着量を求めた。
【0121】
次に、アセトアルデヒドの飽和濃度と単位面積当たりの脱臭材のアセトアルデヒド吸着量との関係式を求めた。そして、この関係式から、飽和濃度が300μg/mであるときの、単位面積当たりの脱臭材のアセトアルデヒド吸着量、即ち、初期アセトアルデヒド吸着量を求めた。結果を、以下の表4に示す。
【0122】
(貯蔵安定性の評価)
例14及び比較例11で得られた脱臭材の各々を、以下に説明する貯蔵安定性加速試験に供した。
【0123】
まず、各脱臭材を、大きさが互いに異なる5つの断片へと切り出した。次いで、これら断片を、70℃の恒温槽で7日間及び14日間静置した。7日経過後及び14日経過後の断片を用いて、初期アセトアルデヒド吸着量について説明したのと同様の方法により、アセトアルデヒド吸着量を求めた。
【0124】
そして、14日経過後の断片を用いて得られたアセトアルデヒド吸着量と初期アセトアルデヒド吸着量との比を百分率で表した値を、「貯蔵安定性」とした。
【0125】
【表4】
【0126】
表4に示すように、例14は、比較例11と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。即ち、硫酸を4−アミノ−1,2,4−トリアゾールと併用した場合、硫酸を使用しない場合と比較して優れた貯蔵安定性を達成した。
以下に、当初の請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
多孔質担体と、
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を含んだアルデヒド除去用吸着剤。
[2]
前記1つ以上の薬剤の少なくとも1つは、下記の一般式(1)で表される化合物である項1に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
【化3】
(ここで、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、又は、水素以外の原子の数が1乃至7の範囲内にある置換基を示し、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、又は、水素以外の原子の数が1乃至4の範囲内にある置換基を示す。)
[3]
前記1つ以上の薬剤の少なくとも1つは、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールからなる群より選ばれる項1又は2に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
[4]
前記アルデヒド除去用吸着剤は、
溶媒と、
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤とを含有した処理液に、多孔質担体を接触させる工程と、
前記多孔質担体から前記溶媒を除去する工程と
を含む方法により得られ、
前記処理液は前記多孔質担体100質量部に対して前記1つ以上の薬剤を2質量部乃至30質量部の範囲内で含有する項1乃至3の何れか1項に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
[5]
前記処理液は前記多孔質担体100質量部に対して前記不揮発性強酸を0.5質量部乃至12質量部の範囲内で含有する項4に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
[6]
前記不揮発性強酸は硫酸である項4に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
[7]
前記アルデヒド除去用吸着剤は硫黄を0.1質量%乃至2質量%の割合で含む項6に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
[8]
前記アルデヒド除去用吸着剤は、
溶媒と、
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を含有した処理液に、多孔質担体を接触させる工程と、
前記多孔質担体から前記溶媒を除去する工程と
を含む方法により得られ、
前記処理液は前記多孔質担体100質量部に対して前記不揮発性強酸を0.5質量部乃至12質量部の範囲内で含有する項1乃至3の何れか1項に記載のアルデヒド除去用吸着剤。
[9]
項1乃至8の何れか1項に記載のアルデヒド除去用吸着剤と、前記アルデヒド除去用吸着剤を担持した基材とを含んだ脱臭材。
[10]
基材と、
前記基材に担持された多孔質担体と、
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を含んだ脱臭材。
[11]
不揮発性強酸と、
1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を各々が含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している1つ以上の薬剤と
を多孔質担体に担持させる工程
を含むアルデヒド除去用吸着剤の製造方法。
[12]
前記不揮発性強酸と前記1つ以上の薬剤とを前記多孔質担体に担持させる工程は、
溶媒と、
前記不揮発性強酸と、
前記1つ以上の薬剤と
を含有した処理液に、前記多孔質担体を接触させることと、
前記多孔質担体から前記溶媒を除去することと
を含む項11に記載の方法。
[13]
項1乃至8の何れか1項に記載のアルデヒド除去用吸着剤を基材に担持させることを含んだ脱臭材の製造方法。
[14]
不揮発性強酸と1つ以上の薬剤と多孔質担体と分散媒とを含んだ分散液であって、前記1つ以上の薬剤の各々は、1,2,4−トリアゾール骨格及びその4位のN原子に結合した電子供与性基を含み、前記電子供与性基のうち前記4位のN原子に結合している原子は非共有電子対を有している分散液を、基材へ供給することと、
前記分散液を供給した前記基材を乾燥させることと
を含んだ脱臭材の製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6